6月のはじめ、女装したり爆破したり逃走したりと波乱万丈の清涼祭が終わって僕らFクラスには日常の風景が戻りつつあった。
「須川が逃げたぞ!!」
「追え!!やつは異端審問会の血の盟約に背いた裏切り者だ!!」
「首置いてけぇ!!」
異端審問会は清涼祭で彼女が誰一人としてできなかった鬱憤ばらしも兼ねて普段よりも精力的に
「貴様ら!!一体何をしているんだ!!」
どうやら鉄人も平常運転みたいだ。僕達は咄嗟に獲物を投げ捨てて逃亡を選択、文字通り蜘蛛の子を散らすように四散する。これで一人あたりの生存率が上がる。今日はなんとか逃げられそうだ。
「吉井!!とまらんかぁぁああ!!」
おかしいよ!?みんなばらばらに逃げたはずだよね!?何で鉄人は真っ先にこっちに来るの!?
「何で僕なんですかぁ!?」
けど、だからといって諦めるわけにはいかない。とにかく鉄人を撒かなければ……。
そう思って曲がり角にさしかかった時だった。十字路の死角から特徴的な赤い髪の毛とゴリラのような肉体をもつ類人猿が飛び出してきた!
お互いに全速力で走っているために減速はできない。そうなれば結末は簡単だ。
「「ぐはぁぁ!?」」
僕と類人猿は出会いがしらに衝突し、クラッシュした。衝撃で跳ね飛ばされた僕はしばし身体の自由を失う。
だけど僕は痛みを訴える身体に鞭打ってなんとか上半身だけ起き上がって類人猿に文句を言った。
「痛いじゃないか雄二!!」
「それはこっちの台詞だ明久!!このバカヤロウ!!」
どうやら類人猿には反省の気持ちは微塵もないみたいだ。
「こっちは鉄人相手に鬼ごっこやってたんだ!優先されるべきは僕のはずでしょ!?」
「うるせぇ!!こっちだって翔子から命からがら逃げてきたんだ!!」
「霧島さんに追われてるだけで贅沢だよ!僕は鉄人に追われてるんだ!」
「おまえは翔子の恐ろしさを知ら「雄二……」あ、翔子、これは……てぎゃぁあぁぁ!?」
雄二は霧島さんによって裁かれている。ざまぁみろ。さて、僕は教室に帰るとしようか。
僕は差し伸べられた手を握って立ち上がる。……あれ、この逞しい腕って……
「さて、吉井。弁解する時間はいらんな」
そして僕が本日の
因みに残りのメンバーも結局全員検挙されて、僕達は被告人である須川君と共に
「……うぅ……今日は散々だった」
今は放課後。もう何も考えなくていい。
「何言ってやがる、明久。俺はお前のせいで翔子に折檻されるわ、
美人に追われて得した分、僕らよりはマシだったと思うけどなぁ。
今日も僕らを苦しめた鉄人も、放課後には滅多なことでは教室に顔を出さない。だから僕達は今日もどうでもいい雑談に興じていた。
「失礼するよ。ああ、ちょうどいい。まだ帰る気はないね、ガキ共?」
そんな和やかな時間を過ごしてきた僕達の前に、何故か突然妖怪ババアが姿を現した。
「何の用件でしょうか、ババァ」
「こら、明久。失礼だぞ……うちのバカがお見苦しいところをお見せしました。ところでババァ長、本日はいったいどのようなご用件でしょうか?」
「あんたらはまだ敬意を払うってことを理解していないみたいだね……」
敬意?何それ美味しいの?
「まぁ、礼儀に関する教育は西村先生に任せるとして……あんたら、放課後は暇そうだね。ちょっと召喚獣の試運転につきあってくんないかい?」
召喚獣の試運転かぁ……でも、いったいどうしてそんなことするんだろ?
「試験召喚システムに不具合でもあったのでしょうか?」
姫路さんが可愛らしく首を捻りながら尋ねた。やっぱり、可愛い子がやると絵になるなぁ。
「召喚獣の仕様についていくつかの企業から提案をもらってね、面白そうだから実装してみたんだよ。しかし、今までとは勝手が違う仕様だからね、不具合がないようにあんたらに確認して欲しいってわけさ」
「ようは、ババァ長の
雄二は不満げな顔をしている。僕も正直、この提案にのりたくはない。なんせ僕らは試験召喚大会の景品の腕輪にあったバグを知っているんだから。今度の仕様とやらにもバグがある可能性は大いにあると踏んでいた。
「坂本、あんたの言いたいことはわかるよ。でもね、不具合が無いかは誰かで確かめなきゃいけないしねぇ。あんたらだったら不具合で被害を受けたってあたしの心は痛まないってのも大きい」
……これが教育者の台詞だろうか。生徒を
「悪いが、俺はパスだ。
「ふざけるな雄二ぃ!ババア長。この身体が頑丈なゴリラならトラブルが起きても傷一つつきません。これなら思う存分実験ができます!」
僕のような健全な少年を犠牲にするぐらいなら幼馴染の美人の彼女がいるゴリラを犠牲にしたほうが世界のためになるはずだ。
「残念だが坂本、そして吉井。あんたらに拒否権は最初からないよ」
「「ふざけんなババア!!」」
僕と雄二は学園長の横暴に異議を唱える。一体僕達が何をしたって言うんだ。
「俺達がそんなことをやる義務はどこにもない。あんたに実験への参加を強制させる権利もないだろ、俺はやらねぇからな」
鞄を持って雄二は立ち上がり、ババアが立ち塞がっていない教室の後方のドアに向かおうとする。けど、そこで学園長が止めに入った。
「教頭室を爆破したり、Bクラスの教室の壁を壊したりと随分と暴れてくれたねぇ。実験に参加してくれたら、弁償は勘弁してやろうかと思ってたんだが……」
「ちょっと待てババァ!?それは両方とも明久の仕業で俺には関係が無いことだ!!」
なっ!?雄二のやつ、僕に全ての責任を押し付けるつもりか!?まずい、僕は実行犯だから言い逃れできない。けど雄二だって共犯だ。なんとかして雄二に共犯者になってもらわないと……
「クラス代表として、バカの手綱を握ってなかった責任の一端が無いとは言わせないよ。それに、教頭室爆撃の一件に関してはあんたも主犯の一人ってことになってるんだ」
「なぁ!?ふ、ふざけんな!!」
ナイスババア長!!これで雄二も僕と道連れだ!!
「……で、俺達は何をすればいいんだ?」
雄二は観念したのか、不貞腐れながらも腰を下ろして学園長に実験について質問した。
「簡単さね。普通に召喚獣を召喚して、操作してくれるだけでいい」
「……本当にそれだけだな?」
「用心深いねぇ……安心しな。本当にしばらく操作して具合を確かめてもらうだけさね」
「分かった……やりゃぁいいんだろ」
「理解がよくて助かるよ。吉井、あんたも分かってるね?」
最初から僕には拒否権がないんだけど。実行犯だから爆撃の言い訳もできないし。
「……まぁ、ただ働きさせるってのもあれだから後で図書券でもバイト代にあげるよ。ただし、手抜きは許さないからね」
学園長が説明を終えたところで姫路さんが控えめに手をあげた。どうやら姫路さんたちもこの実験に乗り気のようだ
「あの……その実験、私達も参加してみていいでしょうか?何か面白そうですし」
「そうね。それに、あいつらだけ参加させたら暴走しそうだし」
「演劇の題材となった本が欲しいところじゃったから、図書券がもらえるのならやってもいいかのう」
「……ハプニングとシャッターチャンスの予感」
「別に構わないよ。むしろ、サンプルは多いほうがいいから大歓迎さ。そんじゃぁ、これから一時間の間学園中に召喚フィールドを展開するから、しっかりテストしてくれよ」
そういい残して学園長はFクラスから去っていった。
学園長がFクラスを後にしてから数分後、校舎全体に召喚フィールドが展開された。準備は万端というわけだ
「……で、誰からやるんだ?」
雄二は見るからの億劫そうでやる気は皆無だ。その時、教室の後部のドアが開き、異端審問会の
「ちょうどよかった。武藤、原田、近藤、ちょっと試験召喚獣を呼び出してくれ」
「なんだよ、坂本?」
「試験召喚戦争でもするのか」
「そういえば、召喚フィールドが展開されているな。お前の腕輪なのか?」
どうやら雄二はこの3人でひとまず実験するみたいだ。確かに何が起こるかわからない以上、試しにやらせてみる価値はありそうだ。
「いや、実は今ババア長が新しい召喚獣の実験をしているところでな。ちょっと召喚を試してほしいんだ」
「なんだよ、メンドクサイ」
「
「そこの
どうやら3人とも気乗り薄のようだ。だけど、何としてもここで彼らに犠牲になってもらわなくてはならない。僕達の未来のために。雄二も同じ意見のようで、即座に秀吉に目でサインを送る。
「あ~、すまんが、頼まれてくれんかのぉ。少し……不安なのじゃ」
「「「任せてください」」」
男くさいこのクラスで二人しかいない清涼剤の秀吉に頼まれたらそりゃぁ断れないよね。
「秀吉!見ててくれ!」
「俺の雄姿をその目に焼き付けてください!」
「男近藤、いきます!」
「「「
異端審問会の3人がそれぞれ無駄に格好つけたポーズで試験召喚獣を召喚する。
「「「…………」」」
そこにいたのはいつもの小さな召喚獣ではなく、人間ほどの大きさをした3体の
どうやら3人とも同じ姿をした召喚獣を召喚したらしい。
「……なんだ、これ」
雄二たちが訝しげに件の物体に近づく。……なんだろう、これ。昔どこかで見た記憶がある。
「恐竜みたいなフォルムじゃのう……じゃが、これではよく分からぬ。3人とも、ちょっと立たせてくれんか」
秀吉のお願いで3人は召喚獣を立たせる。しかし、その瞬間姫路さんと美波は悲鳴をあげながら跳びあがった。
「「きゃぁぁああぁあ!?」」
僕達も一歩後ずさる。なんたってその姿は……
「おいおい、なんだこりゃあ……」
「気色悪いのぉ……」
「……ドラゴン・ゾンビ」
そう、その姿はまるで腐った恐竜のような姿だったのだから。
「ちょっと!!これさっさと消してよ!!気持ち悪い!!出てってよ!!」
「そっそうです!!消してください!!」
美波と姫路さんは教室の隅にまで後ずさりして彼らの召喚獣を拒絶する。女子の心からの嫌悪の篭った叫びを浴びた3人は目から血の涙を流しながら教室を後にした。……須川君を引きずって。
「うう……怖かったですぅ」
彼らが校舎から出たために召喚獣は消えたが、姫路さんはまだ涙目だ。よほど恐ろしかったんだろう。
「……でも、あれなんだったんだろうね?」
「さぁなぁ……おおかた、試験召喚獣をモンスターにする実験でもやってたんじゃないのか?試験召喚システムにはオカルトの要素も入ってるってババァも言っていたしな」
ホントにただのモンスターなのかな?どこかで見覚えがあった気がするんだけど……
「……しかし、召喚する気が無くなったのぉ」
秀吉の言うとおりだ。
「けど、実験やるのは俺達の義務だ。というわけで、明久。召喚しようぜ」
「何で僕なの!?」
この野郎。ここで僕を第二の実験台にしてこれから何が起こるかを予想する気だな……
「雄二だって召喚する義務があるだろ!?何で僕からなのさ!?」
「実行犯はお前だろう。それに、お前はトップバッターが似合う男だ」
「いつも最初に捨て駒にされているだけな気がするけど!?」
雄二もゾンビを召喚しなければ僕だって安心して召喚できない。ここは何としても雄二に貧乏くじを引いてもらわなければ!!
「ぐだぐだしてないで、アキから召喚しなさいよ!!こ……こんなこわいこと、早く終わらせるのよ!」
「あ……明久君、お願いします」
教室の隅で涙目になって震えている二人の女の子の懇願の念が篭った視線が痛い!これでは雄二を生贄にする計画が……
「いいから早く召喚しろ。姫路をこれ以上泣かせる気か?」
「のう、明久。結局は時間の問題じゃ。早く終わったほうが気分がよくなる」
「……早くしろ」
くっ……こちらにも味方がいない!これでは断れない。僕の退路は完全に立たれているみたいだ。
「分かったよ……それじゃあ、いくよ!!」
こうなればやけくそだ!ゾンビでも何でも出て来い!
「
その瞬間、僕の目の前に光が溢れた。やがて光は渦を巻き、一本の柱となっていく。
「な……なんだぁ!?」
雄二たちは先ほどとは全く違う様子を見て目を丸くしている。
「きれい……」
「すごい、綺麗な光ですね!」
目が慣れてくると、光の中に人型のシルエットが見えてきた。次第に柱をなしていた光の渦は弱まり、その中にいた召喚獣の姿がはっきりとしていく。そしてその姿を見た僕達は驚愕した。
「これは……」
「ま、まさか!?」
「……ウルトラマン?」
その姿はよく覚えている。10年以上前、まだ分別もつかない子供の僕が憧れたブラウン管の向こう側のヒーローの姿だったのだから。
「……ウルトラマン……ダイナ」
その姿はまさに子供のころの憧れだった光の巨人の姿そのものだった。普段の召喚獣のような小さな身体ではない。僕とほぼ同じくらいの大きさで現れたウルトラマンの姿を僕は呆然としながら見つめていた。
『ピコンピコンピコンピコン』
『Fクラス 吉井明久
古典 13点』
ウルトラマンダイナを見て思い出した。そうだ。さっき近藤君たちが召喚したドラゴンゾンビ。あれも確か子供のころに特撮番組で見たんだ!名前は確か……
『ピコンピコンピコンピコン』
五月蠅いなぁ……ってあれ、この音、聞き覚えがあるぞ。これはウルトラマンダイナのカラータイマーの点滅音だ。
「おい、明久!?やばいぞ!!」
雄二が慌てだす。いったいどうしたんだろう。
「どうしたのさ、雄二。僕の召喚獣のかっこよ」
「お前の点数を見ろ!」
一体なんだって言うのさ。どうせ僕の古典の点数は底辺さ。地を這っているよ。それが今更……
『Fクラス 吉井明久
古典 5点』
「って減ってる~!?」
僕のウルトラマンダイナも最初からエネルギー切れを知らせるカラータイマーが点滅していて、もう膝をついていた。でも、僕があたふたしている間に僕の点数は削られていく。
『Fクラス 吉井明久
古典 0点』
何もできないうちに僕の点数は尽き、ウルトラマンダイナは光になって消えていった。呆然とする僕に追い討ちをかけるようにFクラスの教室のドアが開かれ、冥府への案内人にして、処刑執行人が姿を現した。
「戦死者は補修!!」
「ちょ……ちょっと待ってください!これは!」
「問答無用!!」
こうして僕は
「うう……酷い目にあった」
高橋先生がババァからの伝言を伝えてくれたおかげで僕は解放されたけど、あの
「明久君、災難でしたね」
姫路さんが慰めてくれる。これだけが救いだ。
「そうだ、みんな。今回の召喚獣の仕様のことなんだけど、何か分かった?」
僕がいなくなった後も実験は続行されたはずだ。それならもうこの実験について色々と分かっているはず。
「それなんだがな、明久。まだあれから誰も召喚はやってない。高橋先生がここに来てな、吉井が戻ってくるまで実験を中断するというお達しを受けた。どうやら校舎に展開された召喚フィールドの教科設定を総合科目に変更するらしい」
なるほど、確かにその方がこっちとしてもありがたい。これで点数が減少しても少しの間は召喚獣を保つことができる。
「後、やることなくて暇だったもんで、今回の仕様変更について色々と調べていた。これを見ろ」
そう言うと雄二はムッツリーニのノートパソコンの画面を見せた。僕はその画面に映し出されていたものを一目見て理解した。
「これって……」
「そうだ。さっき近藤たちが召喚した召喚獣だ」
ゾンビ怪獣シーリザー。僕が子供のころ見たテレビ番組でウルトラマンと戦っていた怪獣だ。
「お前がウルトラマンを召喚したってことであたりはついた。今回の召喚獣だが、おそらく召喚者の性質に応じた特撮の怪獣を召喚するものだと俺は踏んでいる」
なるほど、近藤君たちは性根が腐っているから腐敗した怪獣が呼ばれたということか。
「ということは、僕がウルトラマンを召喚できたのは僕が清らかで健全な正義を愛する好青年だったからなんだね」
「明久、お前にはそのどれも備わっていないぞ」
「雄二!でも僕は現実にヒーローを呼んで」
「……ウルトラマンダイナは役者のネタとか色々あったために、歴代のウルトラマンの中でもおバカとして有名」
「つまりおぬしの本質はウルトラのバカということじゃな」
「僕がなんとなく察していた事実を秀吉に包み隠さず断言された!!僕が必死で目を逸らしていたのに!!」
なんとなくわかっていたさ。でも、黙っているやさしさだって悪くないじゃないか。ムッツリーニと秀吉のダブルパンチで僕の心はボロボロだよ。
「ついでだが、おそらく、お前の召喚獣が実体化を維持するためには1秒につき1点の点数を消費することになってるんだろうな。だからさっきも13秒しか実体化できなかったってわけだ。これでお前は総合科目フィールド以外では3分間も戦えない正真正銘の役立たずになったわけだな」
しかもここで雄二からの追い討ちがきた!僕のライフはもう0だよ……
「さて……文字通り戦力外となった明久はどうでもいいとして、これで少しは不安材料が減ったことだし、実験を再開するか。次は誰が……」
「秀吉!秀吉がやってみてよ!」
「ぬぅ……明久、何でそこまで勧めるのか分からんが……やってみようかの。ワシの本質か……演劇や変装に関係する怪獣かのう?
秀吉の可愛らしい声と共に現れた召喚獣は……極彩色でモフモフしたぬいぐるみのような巨大な蛾だった。この怪獣はメジャーだから僕も知っている。
「モスラだ!!」
「わぁ~、可愛い!!」
「木下君!抱いてみてもいいですか!?」
「姫路、明久以外の召喚獣には実体が無い。そりゃ無理だ」
雄二の指摘を受けて姫路さんはしゅんとする。
「……巨蛾モスラ」
ムッツリーニが手元のパソコンを操作して該当する怪獣のデータを調べている。それによると、武器は毒鱗粉と触角からのビームらしい。でも、数あるモスラのデザインの中からこのファンシーなモスラが出てくるのはやっぱり秀吉らしい。
「やっぱり秀吉の本質は可愛らしさとマスコットらしさだね!」
「いや……明久、ワシの本質は演劇に関係するものだと思うのじゃが……それともワシは傍目からはこのような扱いを受けておるのかのぉ……」
秀吉が何か真剣に悩みだした。でも、その姿も癒されるなぁ……頭にとまったモスラも合わせて一層可愛らしいや。
「別にウルトラしばりってわけでもないんだな……特撮全般でやってるのか?俺も試してみるか、
雄二が続いて召喚獣を召喚する。だけど、あの姿は……なんだ?銀と赤の配色、その乳白色の目とかはウルトラマンっぽいんだけど……
「……ウルトラマン?でしょうか?でも、胸のタイマーもありませんね?」
「どっちかっていうと、中国とかでつくられてるウルトラマンのパクリキャラって感じよね……」
姫路さんも美波も困惑気味だ。でも、ホントにこいつは何者?
「……ムッツリーニ、調べはついたか?」
雄二も微妙な表情を浮かべながらムッツリーニに話しかける。やっぱ正体が気になるみたいだ。
「……ちょっと待て…………あった」
そう言うとムッツリーニはノートパソコンを僕らの方に向けた。え~と、何々……
『レッドマン
自称レッド星雲のレッド星からやってきた平和を愛する戦士
しかしその実態はヒーローとは程遠く、街で暴れたりして人間に害を与えているわけでもない無害な怪獣に一方的に襲い掛かり、残虐な殺戮を繰り返している。
標的に馬乗りになってナイフや槍で滅多刺しにしたり、抵抗する体力も尽きた怪獣を撲殺したり、相手を地面に押し倒して何度も頭を地面に叩きつけた後に頸椎をへし折ったり、命尽きた怪獣を崖から投げ落としたりと残酷極まりない戦闘スタイルをとることでも有名。
しかも怪獣を一方的に殺害したあと、わざわざ死亡を確認する。
相手の殺害後には恍惚な表情を浮かべて立ち去っていく。空が飛べるはずなのに。
通称は「赤い通り魔」』
……うわぁ……これは酷い。これは特撮番組ではなく火曜の夜にやっていたサスペンスドラマに登場するタイプだと思う。
「こ……怖いですぅ……」
「さ……坂本!!その通り魔をさっさとしまいなさい!!」
女子二人はこの怪人の残虐な事件ファイルを知って後ずさりしている。雄二は何も言わずに窓を開けて教室から出て行った。同時に召喚獣も消える。
「……雄二の本性はあれなのかの」
「……たまに見せる残虐性は否定できない」
「何を今更。雄二は幼馴染の美人を誑かす外道じゃないか!あの召喚獣は雄二の本性を」
「黙れウルトラのバカ!!!」
涙目を浮かべている雄二が窓の外から僕の側頭部に跳び蹴りをきめた。
「ぎぃやあぁぁ~!!」
召喚システムにあれが本性なんて判断された心の痛みは察するけど、今の蹴りはそれ以上に痛かったよ!!
「畜生……ババァめ……なんで俺の本性があんな……」
召喚獣は消えたけど、雄二の怒りはいまだ収まらないみたいだ。よっぽどさっきの召喚獣が気に障ったらしい。
「そういえば、土屋の召喚獣は何なのかしらね?ちょっと出して見てよ」
美波がムッツリーニに話を振る。やっぱりさっきのあれを早く忘れたいのかなぁ?
「……
ムッツリーニ呟きと共に傍に現れたのは……コウモリ?
「吸血蝙蝠のような感じじゃのう。ムッツリーニ、その線で調べてみてくれんか」
ムッツリーニは小さく頷いてノートパソコンを操作する。どうやらすぐにこの怪獣の正体はわかりそうだ。
「……吸血宇宙星人ドラキュラス。若い女性の血ばかりを狙った宇宙人」
なるほど、若い女性が好みで血を欲しがっているイメージがあるからムッツリーニにはぴったりだ。
「なるほどのぉ……若い女性と血、まさにお主の本質というわけじゃな」
秀吉も納得したように頷く。ムッツリーニも自分の本質に特に異論は沸かなかったみたいだ。
「……や、やっぱり怖いですね。自分の本質にあった怪獣が出てくるっていっても……」
姫路さんは少しびくびくしている。確かにこれまで出てきた怪獣のうち、半分は女の子にとっては怖い怪獣だったからなぁ。やっぱ自分の本質を映した怪獣も怖いものじゃないか心配なのかもしれない。
「大丈夫だよ、姫路さん。姫路さんなら秀吉のように可愛らしい怪獣がでてくるって」
「……は、はい!やってみます!……
みんなが見つめる中で幾何学模様の陣から現れたのは――――ナイスバディの美女だった。
「ゴファ!?」
「ムッ、ムッツリーニィィ!?」
ムッツリーニが鼻血を噴出して倒れた。よく見ると、その手にはいつのまにかカメラが握られている。
「……写真……撮影は…………成功した……」
「ムッツリーニ!後で言い値で買うよ!!」
「一枚……500……」
バタ
ムッツリーニは倒れた。
「拙い、島田よ!ムッツリーニのバッグから輸血パックを取ってくれ!」
「ムッツリーニ!僕に写真を売るまで死んじゃだめだ!!」
「おい、輸血だ輸血!!」
その後、僕達の迅速な治療のおかげでムッツリーニはなんとか一命を取り留めた。
「でも、なんだろうね、姫路さんの召喚獣」
「明らかに怪獣じゃねぇよなぁ……宇宙人か?」
雄二の言うとおりだ。姫路さんの召喚獣は体型がくっきり出ているセクシーなスーツを着た女性にした見えない。宇宙人ってのもあるかもしれない。
「……違う……それは怪獣」
「ムッツリーニ!気がついたんだね!?」
どうやらムッツリーニはもう大丈夫みたいだ……(ダバダバダバ)前言撤回、まだ大丈夫じゃなさそう。
「……これは宇宙怪獣エレキング」
怪獣?明らかに女性だよね?そんな疑問に答えるようにムッツリーニは話を続けた。
「……の擬人化した姿。公式でフィギュアが販売されている」
なるほど。だけど公式とはいえこれはナシだと思う。ムッツリーニに見せられた怪獣の姿とのギャップが……
「わ、私はこんな破廉恥な姿が本質じゃありません!!」
姫路さんが涙目になって自分の召喚獣を否定する。
「確かに胸も大きいですけど、だからって破廉恥な怪獣に」
「止すんだ姫路さん!それ以上の否定はすぐ近くの人を不幸にって頭が痛いぃぃぃ!?」
「誰が不幸になるのかしらぁ~」
美波のウメボシが炸裂する。まるで拷問だ!僕は美波が傷つかないようにしてあげたのにぃ!!
「なるほどな……姫路の本質はあれほどのボディラインとそれをはっきり見せる大胆さと言うところか」
雄二は冷静に分析してるけど、そんな暇があったら是非とも僕を助けて欲しい。
「まぁまぁ、島田よ。折檻はそのへんでいいじゃろう。最後になるが、お主も召喚したらどうじゃ?案外可愛らしい召喚獣が出てくるかも知れんぞ?」
苦しむ僕に秀吉が助け舟を出してくれた。ありがとう秀吉!君は僕の天使だよ!
「……そうね、私だけ召喚しないわけにもいかないわね。見てなさい、アキ!私の召喚獣はきっと木下みたいに可愛らしいマスコットキャラなんだから!
「…………」
教室が沈黙に包まれた。
どうしよう。僕はこの怪獣を知っている。美波が呼び出した怪獣は棲星怪獣ジャミラ……首が無く頭と肩が一体化していて、真っ白な身体には凹凸が全く無い元人間の怪獣だ。
「ねぇ……アキ……」
「な……何かな?」
「この怪獣ってなんなのかしら?」
美波の目がヤバイ。ここは何とかして誤魔化さなければ僕の命は無い!
というか召喚システム!何故これほどの威圧感と恐怖を感じる美波の召喚獣が宇宙恐竜ゼットンじゃないんだ!!
僕は秀吉にSOSを籠めた視線を送る。しかし秀吉はその視線をスルー。隣のムッツリーニと雄二は僕に背を向けて召喚獣を戦わせている。
く……僕に味方はいないのか!どこか、どこか美波を納得させられる点は……。
「そ、そうだ!ジャミラは怪獣じゃないんだ、人間なんだよ!きっと召喚システムは美波の人間らしさを汲み取ったんだ!」
「へぇ~、アキ。ジャミラはどんな人間だったのかしら?」
よし!掴みはいいぞ!このまま僕の知っているジャミラのストーリーを話せば……
「う、うん。ジャミラってのは元々宇宙開発競争時代に、ロケットの事故で水のない惑星に墜落した男の人で……ってグフォォオ!?」
美波が僕の右腕に関節技を極めた。
「うちのどこが男よぉ!!アキのバカァ!!」
なんかミシミシって音がするよ!?HELP!誰か助けて!!
神は僕の声を聞いてくれたのだろうか。その時、教室のドアが開かれて見慣れた女の子の二人組みが入ってきた。
「やっほ~、ってあれ?なんかおもしろそうなことやってるね~!」
「……雄二、迎えに来た」
雄二の恋人の霧島さんが工藤さんを連れてこのカオスな教室にやってきた。嫌な予感しかしない。
神様、誰かとは思いましたが、この二人は拙いと思います。
チェンジできませんか?
因みに元ネタは
吉井明久――ウルトラマンダイナ(ウルトラマンダイナより)
坂本雄二――レッドマン (おはよう!こどもショー内のレッドマンより)
木下秀吉――モスラ (ゴジラVSモスラより)
土屋康太――ドラキュラス (帰ってきたウルトラマンより)
姫路瑞希――エレキング (ウルトラ怪獣擬人化計画より)
島田美波――ジャミラ (ウルトラマンより)
Fクラスの3人――シーリザー (ウルトラマンティガより)
となっています
そもそもの発想は6巻のぬりかべってジャミラに似てるなぁ……ってところでした。