護衛艦「推古」 CIC
「グラ・バルカス帝国の艦隊は、カルトアルパスの北西約600kmを南南東に30ノットで航行中です」
副長が説明する。
「艦隊の構成は?」
「レーダーの艦影からして、空母2、重巡1、軽巡1、駆逐艦4の計8隻と推測されます」
「空母機動部隊か・・・不穏な動きとは?」
「この少し前に、艦隊はマグドラ諸島沖に達していたのですが、そこには国籍不明の艦隊がいました。
両者はしばらくの間対峙していましたが、やがて国籍不明側の艦影はみるみる減っていき、ついには消滅しました」
「マグドラ諸島は神聖ミリシアル帝国の領土だ。
常識的に考えれば、そこにいたのは神聖ミリシアル帝国の艦隊ということになる。
で、彼らはグラ・バルガス帝国艦隊と交戦し、全滅したということか」
「おそらくは」副長は続ける。
「それからもう一つ、先ほどカルトアルパスを出たグレードアトラスターですが、まっすぐ西へ向かっており、このままいくと間もなくグラ・バルガス帝国艦隊の進路と交錯します」
「おそらく合流するのだろうが、その後はどうするつもりか。
まさかマグドラ諸島沖海戦勝利の勢いに任せて、そのままカルトアルパスに侵攻するつもりではないだろうな?」
「いくらなんでもそれは・・・神聖ミリシアル帝国だけならまだしも、我々を含む列強が集結している地に侵攻となれば、世界中に喧嘩を売るも同然。
あまりにも無謀ではないでしょうか」
この時点で、彼らは決定的な事実を知らなかった。
グラ・バルカス帝国の「宣戦布告」は、推古には伝えられていなかったのだ。
もし知っていれば、艦隊の意図を察知して直ちに戦闘準備に入り、場合によっては先制攻撃で片を付けられたかもしれない。
しかし、単に潜在的敵国の艦隊が公海上を航行しているというだけで攻撃するわけにはいかなかった。
(これは通常の艦隊行動ではない。間違いなく何かを企んでいる。問題はそれが何かだが・・・)
考えても結論は出なかった。
「・・・とにかく、監視を続けるしかないな」
小野寺は釈然としない気持ちを抱えつつ呟いた。
◆◆◆
カルトアルパス 帝国文化館
休憩中だった先進11ヵ国会議(グラ・バルカス帝国が退席したので10ヵ国だが)が再開され、参加国の代表が議場に入場し着席した。
会議の冒頭、議場国である神聖ミリシアル帝国の代表が口を開いた。
「皆様、世界の列強が集うこの席でこのような事を申し上げるのは非常に心苦しいのですが、極めて深刻な事態が発生しました」
一体何事か、と議場が静まり返る。
「グラ・バルガス帝国-我ら全てに服従を迫ったあげく一方的に席を立つという狼藉を働いたあの帝国が、大艦隊を率いてこのカルトアルパスに向かっていることが判明しました」
「!!!!!」その場の全員が驚愕し、絶句した。
「艦隊の進路・速度がこのままだとすると、あと3時間ほどでカルトアルパスに着くことになります」
ムーの代表が質問する。
「連中はカルトアルパスを攻撃するとお考えですか?脅しが目的という可能性は?」
「我々への宣戦布告に等しい服従要求、列強を歯牙にもかけない傲岸不遜な態度・・・数々の常軌を逸した振る舞いからして、攻撃の可能性は非常に高いと考えられます」
神聖ミリシアル帝国の代表は、重大な事実を公表しなかった。
精鋭の第零式魔導艦隊が、マグドラ諸島沖でグラ・バルカス帝国艦隊に全滅させられた事実を。
「ですが皆様、どうかご安心頂きたい。
我が神聖ミリシアル帝国は、あのような野蛮人どもの攻撃に屈するような国ではありません!
皆様の身の安全は、我が帝国の総力を挙げてお守りします!」
議場にざわめきが広がる。
確かに世界最強を誇る神聖ミリシアル帝国なら、グラ・バルガス帝国相手でもむざむざ敗れることはないだろう。
しかし、相手は第二文明圏の列強国レイフォルをあっさりと滅ぼし、破竹の勢いで勢力を拡大中の国だ。
何より怖いのは、国自体がヴェールに包まれており強さの底が計れないところだ。
あんな得体の知れない国を敵に回して、果たして我々は大丈夫だろうか・・・
その時、エモール王国の代表が重々しい調子で口を開いた。
「新参者の蛮族どもが・・・列強たる我らをコケにしおって・・・
皆の者、よく聞くがよい。
あの恥知らずな服従要求に従おうなどと考える国は、よもやこの中にはおるまいな?
あのような輩の恫喝に屈したとあっては、まさしく末代までの恥ぞ。
神聖ミリシアル帝国に対しては、色々と含むところがある国も多かろう。
我が国も言いたいことは多々ある。
しかし今はそのような確執は棚上げし、協力すべき時ではないか?
幸い、カルトアルパスには我らの精鋭部隊が一堂に会しておる。
我らが一致団結して戦えば、蛮族の艦隊など恐れるに足りぬ。
身の程知らずの連中を打ち破り、中央世界から叩きだすのだ!」
「そうだ!そうだ!我らも戦うぞ!」
「グラ・バルカス帝国何するものぞ!」
「奴らに列強の実力を思い知らせてやれ!」
議場の雰囲気が一変する。
その様子を見て、神聖ミリシアル帝国の代表は満足げにほくそえんでいた。
「異議あり!」
突然、近藤が起立して叫んだ。
全員の視線が彼に向けられる。
「この度のグラ・バルカス帝国の横暴な振る舞い、我が国とて黙って見過ごすつもりはありません。
しかし、今集結している部隊で迎え撃つという方針には賛成しかねる。
我が国が得た情報によれば、グラ・パルカス帝国の軍事力はこの世界において突出しています。
列強といえど今までこのような敵と対峙したことはなく、共同作戦を遂行する術も持たぬ我々が束になって挑んだところで、個別撃破されるのが関の山。
ここは会議を中断し、各国の代表方はいったん本国に戻った上で対策を講じるべきではないでしょうか」
近藤は、日本が戦いに巻き込まれるのを極度に恐れていた。
パーパルディア皇国戦が終わったばかりで再び戦争など御免被るという気持ちに加え、財政的にも先の戦費が重い負担になっており、新たな戦いを起こせる状況ではなかった。
だが、エモール王国代表はそんな日本の事情を見透かしたかのように切り出した。
「我らは・・・日本とはさほど親しい間柄ではないが・・・パーパルディア皇国を瞬く間に制圧する力を持った国が、はるか東方に現れたと聞き、どれほどの強国かと噂しておったところだ。
だが、相手が少し強いというだけでこの腰の引けよう、所詮は文明圏外の有象無象に過ぎなかったか・・・」
「何ですと?」近藤が気色ばむ。
「逃げ帰るというならそうすればよい。無理強いはせぬ。
ただし、今後中央世界における発言力を全て失うことは覚悟しておくがよい。
臆病者や傍観者は、この世界で名誉ある地位を占めることはできぬ。それがこの世界の掟ぞ」
「ぐっ・・・」
近藤は言葉に窮する。
確かに列強がこぞって戦う中、日本のみが戦いを避け帰国するのは政治的に拙い。
それは理解できる。しかし・・・
(この世界では、理性より蛮勇の方が価値があるのか・・・)
近藤が内心でそう呟いたとき、ムーの代表が挙手して発言を求めた。
「私は、パーパルディア皇国戦における日本の戦いぶりを直接見たわけではありません。
しかし、日本軍に派遣された観戦武官からは、日本の戦いはまさしく異次元、想像を絶するものであったとの報告を受けています。
グラ・バルカス帝国は確かに恐るべき敵ですが、日本もまたこの世界において突出した力を持っている。
その日本が我らと志を同じくするなら、これほど心強いことはありません。
どうか、この地で我らと共に戦ってほしい」
「・・・」
近藤は退路を断たれたことを悟った。
頃合い良しと見て、神聖ミリシアル帝国代表が起立する。
「皆様、先進11ヵ国会議の議長国として申し上げたいことがあります。
我々が力を合わせてグラ・バルカス帝国艦隊と戦い、これを殲滅することを、本会議の総意として宣言するよう提案します」
提案は賛成多数で可決された。
各国の代表は魔信や無線その他の通信手段を用い、カルトアルパスに待機中の部隊と連絡を取り合っていた。
(大変なことになってしまった・・・)
近藤は携帯無線機を取り出し、推古の緊急連絡用回線に接続した。