作:おかぴ1129

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宝石 "いとまき"

五月雨の色。そして、恋を否定する度に表面が溶ける。持ち主は嘘しかつけないようになる。宝石になった理由は、愛した人を幸せにするため。宝石言葉は「ただ愛していた」「最後まで言えなかった」



『嘘』

 昔々あるところに、それはそれは仲睦まじい、魔法使いとエルフの一組の男女がいました。

 

 彼らは大きな街の一角に魔法雑貨屋を営み、街の人々からも好かれ、とても幸せな毎日を送っていました。魔法使いの男性が作る魔法のランタンは、夜の街を真昼のように美しく照らしました。エルフの女性が調合する薬は怪我や病気によく効くと評判で、街の人達を笑顔にしていました。

 

 笑顔に包まれた幸せな日々は、永遠に続く……二人はそう信じていましたが……そんな幸せも、そう長くは続きませんでした。

 

 ある時、エルフの女性はフと不安になり、大声でわんわんと泣き出してしまいました。魔法使いの男性は彼女をなだめ、彼女に理由を問いました。

 

キミはどうして泣いているの?

あなたと離れるのが怖いのです。

僕はキミとずっと一緒だよ?

私とあなたは、いずれ離れ離れになってしまいます。

どうして? 僕はキミをこんなに愛しているのに。

だって、いずれあなたは、私よりも先に死んでしまうではないですか。

 

 そう。とても長い時間を生きるエルフと比べて、人間の一生はとても短いのです。女性はその事に気付いてしまい、男性との別離を恐れたのです。

 

 そのことを言われると、自分が人間である男性は、何も言うことができなくなりました。ただ黙って、泣きわめく彼女を抱きしめ、必死に頭を撫でて彼女をなだめることしか、出来ませんでした。

 

 その次の日、男性が魔法のランタンの材料を仕入れに出かけたその間に、エルフの女性は、男性の仕事場兼書斎へと足を踏み入れました。そこには、古今の魔術の奥義が記された書物が、所狭しと並べてあります。

 

 その中から女性は、人間を宝石へと変える魔法を見つけました。

 

よかった。この魔法を使えば、あの人と永遠に生きることが出来る。

 

 そう思ったエルフの女性は、仕入れを済ませて帰ってきた男性にその魔法を施し、彼を宝石へと変えてしまいました。

 

よかった。これで、私はあなたと添い遂げることが出来ます。

 

 燃え盛る炎のように真っ赤な輝きを放つ宝石と共に、エルフの女性は末永く幸せに暮らしました。

 

 

「これが、この宝石にまつわる物語です」

 

 私の目の前に佇む女性は、そう言うと、手に持った宝石を愛おしそうに見つめた。長い話だったためか、紅茶はすでにぬるくなっていた。

 

 今日、散歩中に偶然見つけた古い雑貨屋に入った私は、この不思議な女性の店主と、青く輝く宝石に出会った。女性は海外の人らしく、白く透き通った肌に見事に輝くストレートの金髪と青い眼差し。宝石は彼女の目よりさらに澄んだ青色で、とても美しく輝いている。

 

 彼女にお願いし、その手の中の宝石をよく見させてもらう。彼女は少し笑顔を曇らせながらも、私にその宝石を手渡してくれた。

 

 ブリリアントカットされた飴細工を炎で炙ったかのように、その宝石はいびつな形をしている。見れば見るほど、不思議な宝石だ。

 

「でも……店主?」

「はい?」

「さきほど、あなたは話の中で、『赤い宝石』と言いました。でもこの宝石は青い」

「はい」

「それはおかしいのでは……?」

「エルフや魔法使いが出てくる話ですよ? 例えば、長い年月を経て、エルフの女性の恋心が落ち着き、それに伴って、燃え上がる恋の炎のように真っ赤だった宝石も、冷え切った深海の水のような青い色に変化してしまったのかも」

 

 彼女はそう言い、フッと柔らかい笑みを浮かべていた。その眼差しは、私ではなく、このいびつな宝石を見つめていた。

 

 私も宝石を見つめた。宝石の温度はひんやりと冷たいが、不思議と、氷のような冷え切った感じはしない。熱を感じる青色といえばいいのだろうか……言葉にはし辛いが、ほんのりとした温かみを感じるような、そんな不思議な輝きだ。

 

 宝石を彼女に返す。彼女の手に戻ったその宝石は、古めかしいランタンの光を受けて、さっきよりほんの少しだけ、キラキラと輝き始めた。

 

「……まぁ、嘘なんですけどね」

 

 そんな青い宝石を愛おしそうに撫でる彼女が、ポツリとつぶやいた。

 

「何がですか?」

「さっきの話です。すべて、嘘なんです」

 

 『そんなことはないだろう』という言葉を、私はグッとこらえた。

 

 なぜなら、『これは嘘です』と言ってまでその話を誰かと共有したかった彼女の気持ちを、その言葉ですべて否定し、拒絶してしまう気がしたからだ。

 

 なぜ、私が彼女に対しそう思ってしまったのか。

 

「また来ていいですか?」

「……いえ。無理して来なくて結構ですよ」

 

 それは、寂しそうな笑顔でそう答える彼女の髪の隙間から、少しだけ尖った耳が、そっと顔を覗かせていたからだった。

 

 終わり。

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