ぐだぐだMoiraアカデミア 作:冥府さん@がんばらない(古)
「そういえばイヴェール。お前、あのメイドさんらは?」
「…………すまん、なに言ってんだ?」
昼休憩。
世間話(大概が妹自慢)のなか、エレフが唐突に切り出した言葉にイヴェールは首をかしげた。
「あれ? お前、去年俺らの中学校の文化祭に来てなかった?」
「他校の文化祭には言ってないな……弟が行った可能性はあるけど。……いや、それにしてもメイドってなんだ?」
「なんか……水色と紫色の、めっちゃ似た女子二人だよ」
「んー……
記憶にあった姿と似ているから、エレフはそう返されて他人の空似かと結論する。
しかし、その髪色───他の者と見まごうことのほうが珍しいような気もするのだが。
「そういえば、下の子の名前ってなんだ?」
「弟も妹もどっちも
「へぇ、創作が得意なんだな。羨ましい才能だ。俺もギターは一応弾けるけどまだまだだからなー……」
「ギターは俺も弾ける。中学の頃はそれでモテた」
「マジか。……つまり……俺もミーシャの前でギターを披露したら褒められる……!?」
「おっ、俺もやるわ」
「お二人さんなんの話してんだ?」
会話に混ざってきた人物は、さらっとエレフの隣の椅子に座る。
ローランサンだった。
「兄妹の話だ」
「へぇ、俺は兄弟いねーからな……二人が羨ましいぜ。あ、エレフセウス。長いしエレフでいいか。俺も本選行ったぜ、当たったらよろしくな」
「お、おう。よろしく」
「お前は馬鹿だけどそういうとこが羨ましいぜ……よくもさっきまで戦ってたやつと悪意なくやれるもんだ」
「お前もそうだろうが」
「俺は共闘してたから」
「じゃあそれと同じ理屈さ。つーか理屈なんて要らねぇだろ」
「そういうもんか?」
「そういうもんさ」
ローランサンは頷いた。
「ま、お手柔らかにな。……てかこのうどん一体どこのだ? めっちゃいろんな県のうどんの融合って感じがするんだが……」
「どういうことだ?」
「いや、うどんってさ、県によって感触とかいろいろ違うんだよ。んで、これはそれら全部が融合したるみたいな感覚。てかエレフ、お前弁当なのな」
「ミーシャが作ってくれたんだぞ。食堂なんかにうつつを抜かすつもりはない」
「それは言葉の使い方間違ってないか?」
「いいや、間違ってない。間違ってないはずなんだ」
エレフは告げて水筒の中身を呷った。
口のなかにしゅわしゅわとした味わいが広がる。
金属製の水筒に炭酸ってやばいんじゃなかったっけ。エレフはふと思い出して、拾った記憶を全て投げ捨てた。
ミーシャがやってるからいいじゃない。
そして、昼食を終える。
まだ本選までは少し時間がある。エレフは二人と別れ、そして観客席に向かうことにした。
ケータイで相手の居場所を聞き出す。
返信曰く、掲示板にかなり近い位置にいるらしい。だからそこへ向かい、歩いて、到着する。
少し周囲を見回して、目的の人物の影を見 つけた。
自分の兄、レオンティウス。
エレフは座っている彼に背後から近づく。振り向きもせずにレオンティウスは声を放った。
「やぁ」
「よっ。兄さん。───って、ミーシャもいるじゃねぇか!?」
「んふふ。やっほー! エレフ!」
「座るかい? ほら、ここにきな」
「ありがとう」
レオンティウスが指したスペースに、エレフは座る。
そして第一競技の苦々しい記憶を思い出す。
「……兄さん。あれ、どう対応しろって言うんだよ……」
「いやー、エレフが一位になれるのかどうか、試そうと思って。結局あの少年……芽隠君かい? 彼が自分を犠牲にして試せなかったんだけどね」
「透明化について完全にバレてたよな……」
「あれかい? 透明になるだけなら対処のしようはあるよ。あれが完全に気配を空間に馴染ませるレベルの、自然な能力ならまだ気づけなかっただろうね。でもあのくらいなら───足跡が残る」
「……あー」
たしかに。
思い返せば、走った時の砂埃や、足跡については全く考えていなかった。
看破しようとしたら、見る者が見れば容易に看破できただろう。
「私は全くわからなかったなぁ。あ、でもオリオンは気づいたっぽいよ?」
「…………え」
待て。
エレフの嗅覚で、会場にミーシャがいないことに気づけないわけがない。だったら会場にいない間、ミーシャは何をしていたのか?
「……午前、何してた?」
「んーとね、テレビ中継を電車で見てたかな。オリオンも一緒に来たんだよ。今は飲み物買いに言ってるからいないけど」
「……そのテレビ中継、二人で見てた?」
「? うん」
よしあいつ殺そう、とエレフは思った。早く戻ってこい。今すぐ戻ってこい。今ならば死すらも視えそうな気がするぞ。
『息仔ョ……此方へ来ルノカィ?』
(お前は黙ってろ)
と、いうと、こいつは何なのだろうか。
いつか見た夢に出てきた、巨大な男。
(そういえば……こいつを夢に見たのは、いつだったか)
覚えている限り一番最初は。
(
世界は想像しうる限りの仕打ちを持ってくるものだ。
どれだけせかせか必死に働いたところで、無情なる運命の前には塵に同じ。どれだけ積もって山にしたって、掃いてしまえるほどでしかない。
そう、人は懸命に生きた者ほど報われないようにできている。必ず、いつの時代も得をするのは人を動かす上の者のみ。
だったらもう、懸命に生きることはやめてしまおう。
あるいは、生きることすら諦めてしまおう。
そんなふうに思った時代がなかったとは思わない。少年は、目の前で父親が死んで、母親が自分を庇って死んだ時に、生きる希望というものをほとんど喪失した。
いつ死んだっていい。そう思って生きてきた。気がかりがあるとすれば、自分より幼くて、かわいくて、けれど強くて、されど脆くて、守らなくてはならないような、少女。
それをなくしてしまえば、自分はもう戻れない場所にたどり着いてしまうだろう。あるいは、この時点でそこには行き着く定めだったのか。……それは、運命以外知らない。
いつまで生きていればいいのか、なんども問うた。
必死に生きてきた。
そもそも、エレフセウスという少年が、この日本において異質なのだ。
ヒーローという職業が存在し、外国の人間も多くなったけれど、それでもどこまで流れても差別はある。
だからこそ、生きている意味ももうないのではないか、と思った。世界はどうせ敵だらけだ。背負っている責務を捨てたら、兄という立ち位置を捨てたら、それでいいのではないか、と思った。
そんな時だった。
『ヤァ……息仔ョ……ソノ身体……要ラナィノデァレバ、私ガモラオゥ……』
そんな声がした。まるで、咎めるようだった。
なんだ、お前は。そう問おうとした。けれど、それをなんとなく、自分は知っているような気がした。
それはつまり、自分のようでもあった。そもそも自分という存在がどういうものか、というものを鮮烈に教えられているような気がした。
その存在を知った時。エレフセウスは、そう思った。
なんだ、それは。
悲劇は確定していたみたいじゃあないか。
いや、事実、
……そいつに身を差し出せば、運命に抗うことができる。
……けれど、本当にそれでいいのか?
……まだ、思い残したことがある。全てを捨てる気にはなれない。
だから、猶予をもらった。次第に死にたいとは思えなくなったから。だから、ただ或る幸せを噛み締めて、抱きしめていたい、と。
少年は思っていた。
───雄英体育祭、最終種目。
それは一対一のガチバトル。
そしてトーナメント別けが発表された。
第一試合、エレフセウス対イヴェール。
そろそろプロローグを終えれそうです。ぶっちゃけプロローグ終わった段階で書き始めればよかったと思っています。
プロローグ終わってからは結構カジュアルに人が死ぬかなぁって感じです。まぁサンホラでは人は死ぬものだし……
あと本編では視点変更がもっと多くなる予定なので、群像劇のタグをつけようかなぁって。