ぐだぐだMoiraアカデミア   作:冥府さん@がんばらない(古)

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運命の始まり - 4

「そういえばイヴェール。お前、あのメイドさんらは?」

 

「…………すまん、なに言ってんだ?」

 

 昼休憩。

 

 世間話(大概が妹自慢)のなか、エレフが唐突に切り出した言葉にイヴェールは首をかしげた。

 

「あれ? お前、去年俺らの中学校の文化祭に来てなかった?」

 

「他校の文化祭には言ってないな……弟が行った可能性はあるけど。……いや、それにしてもメイドってなんだ?」

 

「なんか……水色と紫色の、めっちゃ似た女子二人だよ」

 

「んー……()()()()な」

 

 記憶にあった姿と似ているから、エレフはそう返されて他人の空似かと結論する。

 

 しかし、その髪色───他の者と見まごうことのほうが珍しいような気もするのだが。

 

「そういえば、下の子の名前ってなんだ?」

 

「弟も妹もどっちも()()()だよ。だいぶ前に家出したって聞いてそれきり弟とは会ってない。妹は今も元気に戯曲作ってるかな。……ひょっとしたら、弟はどっかで音楽作ってるかもしれない」

 

「へぇ、創作が得意なんだな。羨ましい才能だ。俺もギターは一応弾けるけどまだまだだからなー……」

 

「ギターは俺も弾ける。中学の頃はそれでモテた」

 

「マジか。……つまり……俺もミーシャの前でギターを披露したら褒められる……!?」

 

「おっ、俺もやるわ」

 

「お二人さんなんの話してんだ?」

 

 会話に混ざってきた人物は、さらっとエレフの隣の椅子に座る。

 

 ローランサンだった。

 

「兄妹の話だ」

 

「へぇ、俺は兄弟いねーからな……二人が羨ましいぜ。あ、エレフセウス。長いしエレフでいいか。俺も本選行ったぜ、当たったらよろしくな」

 

「お、おう。よろしく」

 

「お前は馬鹿だけどそういうとこが羨ましいぜ……よくもさっきまで戦ってたやつと悪意なくやれるもんだ」

 

「お前もそうだろうが」

 

「俺は共闘してたから」

 

「じゃあそれと同じ理屈さ。つーか理屈なんて要らねぇだろ」

 

「そういうもんか?」

 

「そういうもんさ」

 

 ローランサンは頷いた。

 

「ま、お手柔らかにな。……てかこのうどん一体どこのだ? めっちゃいろんな県のうどんの融合って感じがするんだが……」

 

「どういうことだ?」

 

「いや、うどんってさ、県によって感触とかいろいろ違うんだよ。んで、これはそれら全部が融合したるみたいな感覚。てかエレフ、お前弁当なのな」

 

「ミーシャが作ってくれたんだぞ。食堂なんかにうつつを抜かすつもりはない」

 

「それは言葉の使い方間違ってないか?」

 

「いいや、間違ってない。間違ってないはずなんだ」

 

 エレフは告げて水筒の中身を呷った。

 

 口のなかにしゅわしゅわとした味わいが広がる。

 

 金属製の水筒に炭酸ってやばいんじゃなかったっけ。エレフはふと思い出して、拾った記憶を全て投げ捨てた。

 

 ミーシャがやってるからいいじゃない。

 

 

 そして、昼食を終える。

 

 まだ本選までは少し時間がある。エレフは二人と別れ、そして観客席に向かうことにした。

 

 ケータイで相手の居場所を聞き出す。

 

 返信曰く、掲示板にかなり近い位置にいるらしい。だからそこへ向かい、歩いて、到着する。

 

 少し周囲を見回して、目的の人物の影を見 つけた。

 

 自分の兄、レオンティウス。

 

 エレフは座っている彼に背後から近づく。振り向きもせずにレオンティウスは声を放った。

 

「やぁ」

 

「よっ。兄さん。───って、ミーシャもいるじゃねぇか!?」

 

「んふふ。やっほー! エレフ!」

 

「座るかい? ほら、ここにきな」

 

「ありがとう」

 

 レオンティウスが指したスペースに、エレフは座る。

 

 そして第一競技の苦々しい記憶を思い出す。

 

「……兄さん。あれ、どう対応しろって言うんだよ……」

 

「いやー、エレフが一位になれるのかどうか、試そうと思って。結局あの少年……芽隠君かい? 彼が自分を犠牲にして試せなかったんだけどね」

 

「透明化について完全にバレてたよな……」

 

「あれかい? 透明になるだけなら対処のしようはあるよ。あれが完全に気配を空間に馴染ませるレベルの、自然な能力ならまだ気づけなかっただろうね。でもあのくらいなら───足跡が残る」

 

「……あー」

 

 たしかに。

 

 思い返せば、走った時の砂埃や、足跡については全く考えていなかった。

 

 看破しようとしたら、見る者が見れば容易に看破できただろう。

 

「私は全くわからなかったなぁ。あ、でもオリオンは気づいたっぽいよ?」

 

「…………え」

 

 待て。

 

 エレフの嗅覚で、会場にミーシャがいないことに気づけないわけがない。だったら会場にいない間、ミーシャは何をしていたのか?

 

「……午前、何してた?」

 

「んーとね、テレビ中継を電車で見てたかな。オリオンも一緒に来たんだよ。今は飲み物買いに言ってるからいないけど」

 

「……そのテレビ中継、二人で見てた?」

 

「? うん」

 

 よしあいつ殺そう、とエレフは思った。早く戻ってこい。今すぐ戻ってこい。今ならば死すらも視えそうな気がするぞ。

 

『息仔ョ……此方へ来ルノカィ?』

 

(お前は黙ってろ)

 

 と、いうと、こいつは何なのだろうか。

 

 いつか見た夢に出てきた、巨大な男。

 

(そういえば……こいつを夢に見たのは、いつだったか)

 

 覚えている限り一番最初は。

 

 

父と母(かぞく)が死んだ時だ)

 

 

 

 

 

 世界は想像しうる限りの仕打ちを持ってくるものだ。

 

 どれだけせかせか必死に働いたところで、無情なる運命の前には塵に同じ。どれだけ積もって山にしたって、掃いてしまえるほどでしかない。

 

 そう、人は懸命に生きた者ほど報われないようにできている。必ず、いつの時代も得をするのは人を動かす上の者のみ。

 

 だったらもう、懸命に生きることはやめてしまおう。

 

 あるいは、生きることすら諦めてしまおう。

 

 そんなふうに思った時代がなかったとは思わない。少年は、目の前で父親が死んで、母親が自分を庇って死んだ時に、生きる希望というものをほとんど喪失した。

 

 いつ死んだっていい。そう思って生きてきた。気がかりがあるとすれば、自分より幼くて、かわいくて、けれど強くて、されど脆くて、守らなくてはならないような、少女。

 

 それをなくしてしまえば、自分はもう戻れない場所にたどり着いてしまうだろう。あるいは、この時点でそこには行き着く定めだったのか。……それは、運命以外知らない。

 

 いつまで生きていればいいのか、なんども問うた。

 

 必死に生きてきた。

 

 そもそも、エレフセウスという少年が、この日本において異質なのだ。

 

 ヒーローという職業が存在し、外国の人間も多くなったけれど、それでもどこまで流れても差別はある。

 

 だからこそ、生きている意味ももうないのではないか、と思った。世界はどうせ敵だらけだ。背負っている責務を捨てたら、兄という立ち位置を捨てたら、それでいいのではないか、と思った。

 

 そんな時だった。

 

『ヤァ……息仔ョ……ソノ身体……要ラナィノデァレバ、私ガモラオゥ……』

 

 そんな声がした。まるで、咎めるようだった。

 

 なんだ、お前は。そう問おうとした。けれど、それをなんとなく、自分は知っているような気がした。

 

 それはつまり、自分のようでもあった。そもそも自分という存在がどういうものか、というものを鮮烈に教えられているような気がした。

 

 その存在を知った時。エレフセウスは、そう思った。

 

 なんだ、それは。

 

 悲劇は確定していたみたいじゃあないか。

 

 いや、事実、()()()()()()のだろう。

 

 ……そいつに身を差し出せば、運命に抗うことができる。

 

 ……けれど、本当にそれでいいのか?

 

 ……まだ、思い残したことがある。全てを捨てる気にはなれない。

 

 だから、猶予をもらった。次第に死にたいとは思えなくなったから。だから、ただ或る幸せを噛み締めて、抱きしめていたい、と。

 

 少年は思っていた。

 

 

 

 

 ───雄英体育祭、最終種目。

 

 それは一対一のガチバトル。

 

 そしてトーナメント別けが発表された。

 

 

 第一試合、エレフセウス対イヴェール。




 そろそろプロローグを終えれそうです。ぶっちゃけプロローグ終わった段階で書き始めればよかったと思っています。

 プロローグ終わってからは結構カジュアルに人が死ぬかなぁって感じです。まぁサンホラでは人は死ぬものだし……

 あと本編では視点変更がもっと多くなる予定なので、群像劇のタグをつけようかなぁって。
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