僕のヒーローアカデミア~Eの暗号~ Phase2   作:エターナルドーパント

36 / 46
「えぇ?出久ヴァンパイアになっちゃったのぉ?もー何処に着地するつもりなの?」
『知らんな。完全に行き当たりばったりで書いてるから。
所でさ、最近すごくジードとベリアルの小説が書きたいのよね』
「シールドもプレデリアンも、このシリーズも片付いてないのにか?」
『そこなんだよなぁ・・・でもさぁ、Zでグリーザ戦見てからさぁ・・・元々ウルトラマンはジード推しだしさぁ・・・』
「竜ちゃんも言うとる。片付くまでは止めとき」
『片付く気がしない・・・』


第36話・少女の視察/Vの特性

(出久サイド)

 

「フシュゥゥゥ・・・ぬぅんッ!!」

土曜日 08:30

雄英敷地内の林中。俺はランニング上がりのオールマイトに見守られながら、ワンフォーオール・アーマードを発動する。そして己の中にある他者の魂に意識を寄せながら、力を込めて右腕を付き出した。

「・・・やっぱり、ダメか」

しかし、期待していた能力は発動しない。

「ウムム・・・お師匠の浮遊も無理だったし、やはり難しいか・・・」

「うーん、漠然と形は見えてきてる筈なんだが・・・あれかな。激情で起爆してやらないといけないタイプかな」

唸るオールマイトに、一応俺の意見を示す。

何か、アレだ。漫画でもよくあるヤツだ。つか俺の場合、既にイグナイトシステムで経験済みなんだよな。

「若しくは、何らかの危機意識が必要なのかもしれないね」

「つまり正面衝突でピンチになれってか?ハードル高くね?俺を真っ向から追い詰められる奴なんざどれぐらいいるよ」

「それは私も思った」

現状、俺はピンチになる要素が加速度的に減っている。

例えば吸血鬼化して獲た強化感覚を攻撃するスタングレネードなんかも、もし喰らおうと気流感知である程度は処可能だ。強過ぎるってのも考えものだな。

「ま、今は取り敢えず保留とするか。別にまだ困ってる訳でもねぇし」

「・・・まぁ、他にどうしようも無いだろうからね」

「じゃ、ちょい休憩っとぉ」

実は、俺は5時から此処に来て訓練・・・にすらなってねぇな。何だこれ。まぁこのイメージトレーニング的な事と、他にも色々やっていた。

例えば、吸血鬼特有の霧化や変身能力、超身体能力具合等。だが結局、霧化と変身能力はどうやっても出来るヴィジョンすら浮かばなかった。恐らく、俺は吸血鬼としてのランクがそこまで高く無いんだろう。

逆に、筋力は有り得ない程に上がっていた。それこそ割り箸を指でへし折るような感覚で、腕より太い木の枝を軽くメキメキッと握り潰せる程度には。素がこれで更にワンフォーオールまで乗ったら、一体どうなるのだろうか・・・

あとは、手の指の靭帯と骨の強度もバカみたいに上がっていた。木の幹に抜手したらスルッと貫通しちまったよ。生半可な近接武器なら持ってない方が強いレベルになっちまった。

「っと、そろそろ練習だな。俺は戻る。オールマイトは?」

「私はもうちょい走るよ。最近は食事制限もほぼ無くなったせいか、ちょっと太っちゃったみたいでね、HAHAHA!」

「フハハハ、そりゃ良かった。せいぜいもっと肉付けな。じゃあな」

軽口を叩き合いながら、俺達はそれぞれその場を後にした。

 

―――

――

 

「ん?何だ、随分と賑やかだな」

ハイツアライアンスに戻ると、入り口周りで何やら人集りが出来ていた。まぁ集ってるのがクラスメイト達だから、問題とかじゃ無さそうだが。

「ィ゙エ゙ア゙ア゙!?」

「危ねっ」

「ア゙ア゙エ゙ィ゙!?」

突如として飛来する砲弾と化した峰田。俺はその軌道を瞬時に見極め、掌底で横に弾き飛ばす。

「おいおい、今のグレープ砲弾は何だ?」

「あ、すいません緑谷さん。そのエロブドウがセクハラしてきたモノですから、つい蹴っ飛ばしてしまいました」

すると、人垣の中から鈴仙が出て来た。後ろにはミリオ先輩とエリちゃんもいる。

「うん、状況は大体分かった。付き添いだな。朝の早くからお疲れさん」

「ハイ!あと、私の個性でエリちゃんの能力の制御も出来ますので!」

「あー、確かに波長操作なら応用利きそうだな。

にしても、流石はドイツ軍人。峰田を蹴っ飛ばすのに躊躇無いな」

「ハイハイ!ドイツの衛生兵長が、『無理矢理セクハラしてくるような奴はライオットシールドでド突け』って言ってましたから」

「そいつザイア信徒の騎士団長だったりするか?」

「ソード・ワールド物のラノベが好きな日本ヲタクですね」

「やっぱりか」

まぁ俺も駄女神ユリスシリーズしか読んだ事ねぇけど。

「そうだ!緑谷君も一緒に案内してくれるかな!」

「と言う事だ。悪ぃが、半日程暇貰うわ」

「それならあたし達も行きたいけど・・・」

「良いかな?」

と、フランと三奈も乗ってきた。当事者だしな。

「別に良いと思うよ。ダンスや楽器も爆豪がちょくちょく教えてくれてるお陰で、ちょっとは余裕あるし」

「フランちゃんのアイディアも、既に図面に起こしてあります。此方も問題ありませんわ!」

「おー、はよ行ってこい」

よし。響香さんと八百万、かっちゃんから承認は貰った。と言う事で、久し振りに休日を楽しむとするか。

 

―――

――

 

「いやぁ、賑やかだよね!」

「たまに聞こえてくるえげつない悲鳴が、これまた良い味出してるよな」

「流石は緑谷さん、着眼点が予想の斜め上に捻れ飛んでる」

「誉め過ぎだぜ」

「誉めてません」

鈴仙に引かれながら、俺達は文化祭準備をしている他クラスの活動を見て回る。いつも以上に活気に溢れ、そこかしこから色々な声が聞こえてくるのが楽しい。

「おっ、通形じゃん」

「えっ、子供!?」

と、3年の先輩方が此方に寄って来た。

因みにミリオ先輩は左手をエリちゃんと繋いでおり、更にエリちゃんの左手は鈴仙が握っている。完全に親子の絵面だ。

「えっ、休学ってもしかしてそういう・・・」

「そんな可愛い嫁さんも貰って・・・!?」

「・・・」

「「何か言えよマジっぽいなぁ!」」

悪巫山戯で黙ってニッコリと微笑むミリオ先輩に、すかさず先輩方が突っ込んだ。

「か、可愛い・・・にへへ、やですよぉそんな~♪」

「鈴仙、トリップすな」

一方鈴仙は、照れて頬を染めクネクネしている。まぁ、気安く可愛いとか言ってくる相手が居なかったんだろうな。軍ではCQC最強角の1人らしいし。

「ま、冗談はさておいてだ。今年の3年I組マジでスゲーから!絶対来いよな!はい、君らも!」

「おー、立派なチラシ」

「じゃあなー!」

先輩方は作業に戻って行った。俺は紫外線カット仕様の伊達眼鏡を着け、案内を再開する。

「にしても、まだ1ヶ月あるのにスゴい熱気だねぇ」

「逆だよ三奈ちゃん。1ヶ月しかないから、皆結構急ピッチで作業してるんだと思う」

フランの言う通り。雄英の生徒は、妥協を微塵も許さない。日々進化を校訓としている故に、去年よりもクオリティを上げようと必死で頑張っているのだ。

 

―ぐわっ―

 

「うおっとぉ?」

少し脇見をしていると、目の前に突然巨大なドラゴンの頭が現れた。反射的に構えてしまうが・・・ドラゴンそのものからは命の気配を感じない為、すぐに力を腕を下ろす。

「あーすンません・・・ってA組の緑谷じゃねーか!」

「おやおやおやァァ?油を売ってて良いのかなァ?余裕だねェェ!」

と、顔を出したのは鉄哲と物間。

あー、B組の出し物なのねコレ。面倒臭いのも居るけど無視だ無視。

「ごめんねエリちゃん、驚いちゃったかな?」

「あ、大丈夫・・・おちてきた人かと思った」

「落ちてきた?・・・あー、ドラゴンモードのリューキュウかな?」

「無視するとは偉くなったじゃないかァァァ!!」

コイツ喧しいなぁ。エリちゃんの精神衛生上、こう言うのは近付けない方が良いか。

「鈴仙、コイツ黙らせてくれ」

「分かりました」

 

―ピキィンッ―

 

「あひっ」

鈴仙の紅い眼光を浴び、物間はビクッと痙攣してそのまま棒立ちになった。

「作業に戻りなさい」

「ハイ、ワカリマシタ」

鈴仙の波長操作によって催眠状態となり、物間はロボット染みた棒読みで答えてドラゴンを担ぎ直す。

「にしても、拳藤居ないんだね。物間とセットってイメージあったけど」

「あー、アイツ今年のミスコンに出るからな」

ミスコン?成る程、そういうのもあるのか・・・

「ん~、出てみよっかな?」

と、フランが首を傾げながら考え込んだ。

「出るなら絶対見に行くわ」

「勿論。寧ろ出久に見て貰いたいから出ようかと思ったんだし」

「恐悦至極」

チラッと三奈の方を窺ってみると、あたしは良いよ~と苦笑いしながら手を払ってきた。残念だ。

「あ、そうだ。聞いたぜ?お前ら、ライヴとかやるらしいじゃんよ。

俺らん所はオリジナル演劇やるけどよ。お前らに負けねぇぐらい、良いもの作るかんな!」

「そいつぁ良い。お互いベストを尽くそうじゃないか。俺達も中々派手にやるからな、それに殺されない出来のを作ってくれよ?」

「あたぼうよ!じゃあな!」

そう言って鉄哲達はドラゴンを担ぎ、何処かへ運んで行ってしまった。

「あ、そうだ!ミスコンと言えば、彼女も出るんだよね!」

「彼女?と言うと・・・」

 

―――

――

 

「わぁ~!エリちゃんだー!ねぇねぇ、何で?何でエリちゃんがいるの?不思議~!」

連れて来られたのは、ミスコンの準備場。かなりヒラヒラしたセクシー且つ美しい衣装を着たねじれ先輩の姿に、俺は直ぐ様グラサンを掛ける。

心に決めた女がいる男にとって、こう言う衣装は少しばかり眼のやり場に困るんだよなぁ。

「先輩も出るんですね~」

「うん。でもスゴい子がいてね~、毎年勝てないの。サポート科の、絢爛崎美々美(けんらんざきびびみ)さんっていうんだけどね?」

これまたスゲェ名前だなぁオイ。美々美て。

「写真あるよ。ハイこれ」

「「「・・・ウッソだろ?」」」

俺も、三奈も、フランも、まず口を突いて出たのはその一言だった。

何だこのクソ長い睫毛は。掌より長いじゃないか。どういう固さしてりゃ此処まで反り返るんだよ。あと上瞼の筋力どうなってんだ?

そして何より、化粧がケバいわ。ケバ過ぎる。口紅は真っ赤でテカテカ、ファンデーションもモリモリ。ナチュラルメイクと言う言葉を知らんのか?この女は。

「因みに優勝した時の写真これね」

「「「ウッソだろ?」」」

またもや全く同じリアクションが寸分違わぬタイミングで飛び出す。

だが仕方無いだろう。だって自分の顔を模した装甲車の上に乗ってんだから。

「うわぁ~ハハハ~・・・どんだけナルシー拗らせてんだろこの人・・・」

「こんな事言いたか無いけど、この人の脳味噌の色見てみたいよ。多分お花畑通り越して斑猫みたいな極彩色だと思うけど」

「何だろうなぁ。特徴と言うかコンセプト自体はリボルギャリーとそう変わらない筈なのに、此方には嫌悪感しか湧かない」

「ボロックソに言ってるね」

先輩の言う通り、俺達はもうボロックソに言いまくっていた。つかこれでねじれ先輩が負けるか?何見て審査してんだ一体・・・

「うーん、何かしらパフォーマンスが必要だよね。仁君に貰ったキバのスーツ着て、ヴァイオリンでも弾こうかな」

「それが良い。黄金色の髪と血色の鎧を白銀の鎖が纏め上げ、2つの小さな緋色月が儚く、然れど妖しく輝く。奏でられるは、魂に触れる魔性の音色・・・あぁ、素晴らしいな」

「何か、やたらキザでポエムっぽいね。どうしたの?」

「偶にはこう言うのも悪く無いかと思ったが、お気に召さなかったかな?」

「そうは言ってないよ。寧ろ嫌いじゃない」

ズラしたサングラスの縁越しに見遣ってみれば、フランは肩を竦めてウィンクで応える。

「フランちゃんも出るんだ~!でもねでもね、絶対負けないよ!だって最後だもん!」

「望むところだよ、センパイ♪」

そう言い、2人はお互いに笑い合った。良いねぇこういうの。

「さて、次は何処に行くかなぁ・・・迷うよね!」

「じゃ、愉快な奴等の所にでも行くかな」

 

―――――

――――

―――

――

 

「ふぃ~、回った回った」

昼。サポート科や経営科なんかも見物し終え、俺達は食堂で昼飯を食っていた。

俺は何時もの激辛な外道麻婆。刺激物の塊なので、エリちゃんからはしっかり距離をとっている。

ミリオ先輩は醤油ラーメン。鈴仙は山かけうどんに温玉トッピング。エリちゃんは甘口のカレーライス。

フランは煮込みハンバーグ定食+納豆で、三奈は鯖味噌定食に此方も+納豆。フランは大の親日家なレミ姉さんの影響で、日本食が大好物なのだ。

因みに紅魔館には、レミ姉さんの好きが高じて納豆蔵や味噌蔵、醤油蔵があったりする。あと台所の隅に糠床も置いてあるんだとか。

「さーてと、どうだったかな?エリちゃん」

「・・・よく、分かんない」

「・・・まぁ、そんなもんだよな」

感情そのものに蓋をしていたんだ。すぐに感情の感じ方を言語化するなんざ、無理ってもんだよな。

「でも、でもね?」

「ん、どうした?」

「あのね、たくさんの人が頑張ってて・・・どんなふうに、なるのかなって・・・」

「ほう・・・!」

未来の可能性に興味を抱いたか。良い兆候だ。

「これ、何て言ったらいいのかな?」

「・・・楽しみとか、ワクワクするとか・・・あぁ、これが良いかな。

《心が踊る》って言うんだよ、そういうの」

「心が、踊る・・・!」

俺の言葉を反芻すると、エリちゃんはスッキリした表情になった。しっくり来たみたいだな。

「有意義だったようだねぇ」

「あ校長。ミッドナイトも」

声を掛けてきたのは、電動歯ブラシみたいな挙動でチーズを貪っている校長だった。隣にはミッドナイトもいる。

「文化祭、私もワクワクするのさ!多くの生徒が最高の催しになるよう励み、楽しみ、楽しませようとする!」

「警察とも色々ありましたもんねぇ」

「それでNEVERから警備員として京水姉さんのT2マスカレイドを50体導入するって条件で何とか押し通したもんなぁ」

「そんな事してたんだ」

「でないと自粛しろってよ。そんなの御免だろ?」

「違い無いね」

そう言って皮肉っぽく笑いながら肩を竦める三奈と視線を交わしながら、俺は外道麻婆を一気に飲み干した。

 

―――――

――――

―――

――

(NOサイド)

 

「よぉ、フラン。良い月だな」

「そうだね、出久」

夜10時。出久とフランは、バルコニーにて何度目かの密会をしていた。別段隠す理由がある訳ではないが、かと言ってクラスメイトに言おうものなら峰田が爆発しかねない。それ故に、現在2人以外にこれを知っているのは三奈と相澤だけである。

「それでさ、今日はどうするの?」

「あぁ。前回までで、吸血鬼としての素のスペックはそこそこコントロール出来るようになったろ?少なくとも、いきなり暴走とか、そういう事は無くなった。

だから今日は、お前の吸血鬼としての能力を伸ばそうと思う」

「フムフム・・・詳しくは現地でだね?」

「そういうこったな」

そう答えつつ、出久はバードメモリで翼を生やす。そしてその翼で風に乗り、何時ものグラウンドまで移動した。もはや慣れたものである。

「さぁてと、まずは吸血鬼伝承のお復習(さらい)からだ。

問題。吸血鬼が苦手とするモノと、その理由は?」

「えっと、嗅覚が鋭いからニンニク等の刺激臭が強いもの、あとは十字架や聖水みたいなホーリーシンボルの類いだけど・・・何でだろう?」

やはり、直接的な理由が分かり難いから知らないよな。

「実はなフラン。そういうホーリーシンボルが苦手な吸血鬼ってのは、生前キリスト教徒だった奴だけなんだ」

「え、そうなの?」

「神様に背いた後ろめたさから来るストレスが、身体にダイレクトに響いてるんだよ。吸血鬼は魂に依存する、ゴースト側に近い存在だからな」

「へぇ~・・・じゃあ、私達は平気だね。仏教徒(ブッディスト)だし」

「そうそう。そもそも神道と習合した日本仏教においては、()()()()()()()()()という概念が殆ど無いんだ。キリスト教との大きな違いだな。

全ては、当人の行いによる自業自得の積み重ねによる結果。つまり因果応報と諸行無常の世界だ。そもそも、日本の神はゴッドと言うよりスピリット寄りだからな。人に悪影響を与えるモノですら、神として崇め畏れる宗教観だ。

だから、人が人外の仮生になろうが、それそのものは悪でも何でもない。故に潜在的な後ろめたさが無いから、ホーリーシンボルへの耐性がある」

「成る程成る程。じゃあ、流水を越えられないっていうのは?」

「あー、それなんだがなぁ・・・」

ちょっと困ったように苦笑いをしながら、出久は頭を掻いた。

「実はその設定、どうにも根底が曖昧なんだよなぁ。もし日本の妖怪だったなら、手を流水で清める文化があるから御穢流(おけがれなが)しで通るんだが・・・西洋じゃ、初出の時代には監察医が死体を捌いた後に着替えも洗浄もせず赤ん坊を取り上げて、細菌感染で母子共に死んでも尚手荒いが普及しなかったらしいし・・・穢れが流水で浄められる、なんて発想が無かっただろうからなぁ。

多分、弱点を作りたいから盛り込まれた、根拠の無い設定だと思うぜ?」

「設定って・・・」

「仕方無いさ。吸血鬼って実は結構近代的な妖怪なんだから。

で、フランは流水が苦手だったりするのか?」

「ん~・・・言われてみれば、全然平気だね」

「フム・・・多分お前の個性は、周囲からの吸血鬼や自分に対するイメージをある程度体現する・・・言わば、ファラの剣殺しと同じ哲学兵装になっているのかもな。

今までフランは飽くまで()()()()()()()()()()()だったから、普通にシャワーや日光を浴びたりしてただろ?その性質のイメージが、周囲に刷り込まれたのかも知れない。

まぁ、まだ仮説でしか無いからガバガバ理論だが」

ピラピラと手を振りながら、出久は持論を展開する。

「と、論点がズレたな。要は、吸血鬼の在り方ってのは、自他の精神に強く影響されるって話だよ。

さて、次だ。今度は逆に、吸血鬼はどんな攻撃が得意だと思う?創作物とかから引っ張ってきても良いぜ?」

「えーっと、まず噛み付きからの吸血鬼はもはや代名詞でしょ~?それと殴る蹴るの肉弾戦とか、魔法攻撃に魅了催眠(チャーム)・・・あとは、血を操って武器にしたり?」

うーんと唸りながら、フランは複数の答えを挙げた。どれもゲームや漫画で良く使われる設定だ。

「そうだ。そしてその内、ステゴロと魔法はある程度使えるよな?なので、今回は血の操作―――操血能力を確かめる」

「おー」

パチパチと拍手するフラン。彼女自身、創作上の吸血鬼の十八番である操血能力には憧れがあった。

「と言っても、俺達は吸血鬼としてはまだまだヒヨッコも良いとこだ。だから、まずお前の能力を引き出す。そしてその感覚を、俺がリミピッドチャンネルで拾って再現する。

良いかフラン。何より大切なのは、出来るというイメージだ。吸血鬼はさっき言った通り、精神に強く引っ張られる。その性質を利用するんだ。まぁ、まずは準備だな。

さぁ、まずは血を吸え。叩き起こす」

「ん、分かった!」

フランは嬉しそうに眼を輝かせながら、何時ものように出久の首筋に牙を突き立てる。出久はもう慣れたもので、痛みに顔すら顰めない。

「はぁ・・・」

出久の血を嚥下し、うっとりと溜め息を吐く。緋色月のような瞳に妖しい光が宿り、瞳孔が猫目のように縦に尖った。

「よし、起きたな。じゃあ、ちょっと指を切るぞ。左右どっちが良い?」

「はい右手」

差し出されたフランの右手を握り、出久はその人差し指をエターナルエッジで浅く切る。傷口から瞬く間に血が滲み出し、指の上に紅い雫を作った。

「これから、お前に簡易的な暗示をする。座って眼を閉じ、リラックスして聞いてくれ」

「ん、分かった」

ペタンと座ったフランの右手をとり直し、出久は後ろからフランを抱え込むように座って耳元に顔を寄せる。

「さて、リラックス・・・は、もう済んでるな。じゃあ、イメージを固めよう。

お前にとって、血液を操るなんてお茶の子さいさいだ。簡単に出来る。息を吸って吐くように、耳で音を聞くように・・・細っこい鉛筆を、指で容易くへし折れるように・・・」

フランの心理に、暗示を優しく刷り込んで行く。フランの脳内からは雑念が消え、静かに澄み渡っていた。

「イメージしよう。血の流れに乗った魔力が、指先から滲み溢れるイメージ・・・それを、自由自在に動かすイメージ」

「魔力を、指から・・・」

 

―ブシュッ―

 

魔力が指に絡まるよう、深くイメージ。すると、傷口から新たな血液が勢い良く噴き出した。しかし、その飛沫は重力に逆らい手元に集まって蔦のように指に巻き付く。

「んっ!?」

「大丈夫、大丈夫。心配無い、しっかり出来てるさ。あぁ、本当に良く出来てる」

自分の血液が指に巻き付いた何とも言えない感触に、フランは一瞬身を強張らせた。その頭を出久が優しく撫で、宥めて落ち着かせる。

「じゃあ次、眼を開けて。しっかりと自分で目視するんだ」

「ん・・・わぁ~・・・」

出久に言われた通り眼を開け、自分の手に巻き付く血液をまじまじと見つめるフラン。そのまま意識を集中して、触手のようにウネウネと動かしてみる。

「何か、すごくしっくり来る。これが、吸血鬼としての本来の感覚?」

「しっくり来るならそうなんだろうな。どんな具合だ?」

「う~ん、と・・・」

 

―ブシュッ ギュルルッ ジャキッ―

 

微かに意思を集中し、血の触手をくねらすフラン。そしてそれを集めて固め、瞬く間に五指を覆う鋭利な鉤爪に変化させた。

 

―ギョルギョルッ ブシュゥッ ギチッ―

 

そしてすぐにそれを解除し、今度は胸から腰まで程の薄い中型盾を形成。更にその表面から無数の針を瞬時に生やす。

「結構融通利くみたい」

「初めてでそれか。いやはや素晴らしいな。もう補助輪暗示は必要無さそうだ。

さて、最後だ。俺がその感覚を、リミチャン越しに掴む。ちょい時間かかるかもだが、付き合ってくれよ?」

「お安いご用だよ♪」

 

―――――

――――

―――

――

 

翌日。出久とフランはライダー組以外のクラスメイトにものの見事にドン引きされた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
我らが化物主人公。
エリちゃんを案内しつつ、文化祭準備を見て回った。絢爛崎先輩は生理的に無理とのこと。
文化祭自粛しろと言う警察とかなり交渉した結果、T2マスカレイドを50体配置する事で開催権をもぎ取った。
その後、無事血液操作も会得・・・って何処が無事だよ。ダメじゃねぇかよ。
もう行き先が見えやしねぇよ。どうするこれ・・・

フランドール・スカーレット
出久の第二夫人。
雄英文化祭にて、ミスコンに出場する事が決定。
吸血鬼の能力を活かす為、日々精進中。クロムウェル解除も少しだけなら使えるようになってきた。
今回、吸血鬼の十八番である操血能力も会得。今後バンバン使っていく予定。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。