神と言われても正直ぴんときたことはない。付喪神とは物に神が宿るもの、らしいが。時が経った「鶴丸」に宿ったのが俺なのか、五条国永が打った「鶴丸」が神格化したのが俺なのか。その名を呼ばれる度にその疑問は湧いては、けれどそんな疑問を抱いたところで誰に口にできるわけでもなく、心の奥に沈めていった。答えを知りたいわけでもないのだから。
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「鶴丸殿ッ!」
目に見えぬ速さで振り抜かれた槍が俺の頬を切ったのだとわかったのは一期一振の叫びで我に返った時だった。じんじんと熱を帯びてゆく頬と紅く染まってゆく無垢な衣装にはどこか遠く、他人事のような感覚に襲われていた。だがそんなことなんて御構い無しに敵の攻撃は止まることがない。なんとか紙一重でかわしつつ、己を構え直した。ただ防衛することしかできない速さの攻撃を不意を打ってなんとか一突きするが、相手の防具を半端に破壊するだけ。嗚呼、俺の力はこんなものか。
他の刀剣男士達の声が騒がしく、けれどこんな相手を振りきれるはずもない。
他の奴らだけでも逃げ切る隙を作らなければ。部隊長のへし切り長谷部は聡明だ。俺がやっていることがどういうことかすぐに理解するだろう。それならばきっと、騒いでる奴らだって本丸に帰れるはずだ。今日の部隊の奴らは兄弟刀が本丸に来てる奴ばかりで、そんな刀剣男士達が壊れてしまえばあの本丸は纏まりなんてなくして崩壊してしまうかもしれない。……唯一の心残りは伽羅坊のことだが、光坊のやつは同じ時代に居たらしく随分と気に掛けていた。だからきっと、あの子も大丈夫だ。もう少しあの三条の刀達と話を交えてみたかったが、そんな欲は言えぬだろう。ああ、それを捨ててしまえば別に、此処に在る意味なんてないじゃねえか。
喧騒が収まって油断してしまったのか、緊張が切れたのか。敵の槍は俺の腹をかっさばいて、俺はその衝撃に耐えられず吹っ飛ばされてしまった。痛くて重くてぐちゃぐちゃで、もう何が何だかわからなくなってしまった。だらだらと綺麗な紅が溢れていって、なんとか己を地面に突き刺して無理やり起き上がる。随分敵さんに好かれたらしく、遠く吹き飛ばしたはずの俺目掛けて走ってくるのがみえた。2体に見えるのは幻覚か、嗚呼、俺の眼がおかしくなったのか。
「は、はハははハははハハハハははハハハは!」
なんだか何か可笑しくてたまらなかった。ただ確信を持って言えることが1つできた。きっと、俺は刀だ。神なんかじゃない。神なんて崇高なものじゃない。俺は人を斬るために、魅せるために打たれた、ただの刀だ。
だからよォ、
はやく、
はやく、
「俺を殺してくれよ、なァ」
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穢れなんて知らないような真っ白だった衣裳はきっと真っ赤だろう、蕃茄を潰したように、白を塗りつぶしたのは果たして鶴であれるのだろうか。
ああでも、無垢なままでいくよりはずっといいか。
「俺はあんたの側に在るべきだよなァ、貞泰」