Eクラス航宙重巡洋艦。
彼らはその鬱憤を晴らすかの如く強大な敵艦隊へと突入する。
地球連邦軍の大軍拡に伴い計画された、DクラスとCクラスシリーズ(護衛艦やパトロール艦等)の中間クラスに当たる艦艇である。
全長は200mと金剛型宇宙戦艦に迫る程にまで大型化しているものの、時間断層内のAIや各種シュミレーション、ガ軍艦艇のデータを元に設計されており完成度は極めて高い。
主砲はアンドロメダ級やドレッドノート級等の主砲とは違い、より対空戦闘に主眼を置いた両用砲とでも言うべきもので口径20.5cmと小口径ながらも、エネルギー増幅装置や改良型収束器などの各種装置の搭載によりエネルギー密度や装甲貫通能力は非常に高いものとなっており、戦闘能力は折り紙付きである。
対空戦闘にも対応できるよう戦艦クラスの主砲よりも大仰角をとることが可能で、最大仰角85°と非常に広い射角を持つ。
艦そのものをロールさせながら射撃することにより射界をカバーするという力技も可能ではあるものの、命中率の低下は避けられない問題であり、火力をばら撒くのが主眼であれば命中率の低下はさしたる問題ではないが、艦隊防空をこなそうと言うのであれば看破しえない問題であるので、本主砲塔の開発に繋がった。
この20.5cm砲は極めて高い射撃速度を実現しており、機関砲の様だ、と比喩されるほどの射撃速度を実現している。
ドレッドノート級等の主砲にも搭載されているもの、所謂即応弾のようなものであるが、波動エンジンから直接エネルギーを伝導する経路の他に各砲塔にエネルギーを貯蔵しておくエネルギーコンデンサが搭載されており、このコンデンサ内にエネルギーがある内は毎秒4発、毎分240発という驚異的な射撃速度を実現し、コンデンサ内のエネルギーが切れ波動エンジンからの直接伝導射撃でも毎秒1〜2発の射撃が可能である。
しかし問題も多く発生している。大仰角を実現するため今までのような既存の主砲塔の拡大、縮小設計(他のアンドロメダ級を始めとするガミラス戦役後の艦艇は砲塔の基本設計が同じである)を行うことが出来ず、完全な新規設計となっており、生産までにより長い時間がかかってしまった。その上大仰角を実現するためにコスト高かつ非常に繊細なものとなっている。
艦首には200cmという大口径陽電子衝撃波砲を搭載したタイプと通常の波動砲を搭載した2タイプが比較試験のためが建造されており、どちらも評価が同等であったためEクラスシリーズとして建造された。
艦首の200cm陽電子衝撃波砲は地球連邦軍の艦載砲としては最大口径のものではあるが、エネルギー消費量は波動砲の何千分の1かつ拠点防衛用の要塞砲の設計を流用したという既存設計の転用であるため信頼性は高く、更には連射することも可能という、拡散することが出来ない通常型波動砲よりはよっぽど使いやすい兵器であり、こちらを好む将兵が多い。
これはクラスCシリーズにも言えることで軍内部からは拡散波動砲であるならばともかく、通常型の波動砲、しかも低威力のものという対艦戦闘おいて微妙に扱いづらいものを搭載する意義はあるのかという声も多い。
それもそのはずでこの通常型波動砲は艦隊戦には無用の長物であるばかりか、一撃の威力には目を見張るものがあるものの、その一撃の後に艦内のエネルギーの大部分を失いその後の戦闘に支障が出ることが多かったため、あまり好んで使う者はいなかったという。
それに比べてこの200cm艦首陽電子砲はガミラス軍のゼルグート級の正面装甲を容易に突破することが可能であり、攻撃力も申し分ない。
しかしながら波動砲艦隊の一員として建造されているという側面もあるため、艦首に陽電子衝撃波砲を搭載したものよりもいくらか少数ではあるものの、ほぼ同数程度の艦が建造されている。
その他に大量の対空用パルスレーザー砲、艦首8門艦尾6門の魚雷発射管とVLS、近接戦用対艦グレネードランチャー6門などの地球連邦航宙艦として基本的な装備を搭載している。
対空用パルスレーザー砲は艦橋部に3連装の無砲身タイプのものが2基と通常の砲身があるタイプが2基装備され、両舷に搭載されたバルジに隠蔽式の無砲身連装パルスレーザー砲が20基搭載されており、その対空火力は格段に進歩したFCSや、改良され一門あたり毎秒数万発もの火力投射を行うことが出来るパルスレーザー砲に支えられ凄まじいものがある。
魚雷発射管はこれまでの運用実績をもとにより信頼性を高めた改良型が搭載されており、搭載される魚雷の数が艦体規模の制限によりそこまで多くはないが、高い攻撃力を発揮することが可能である。
また魚雷だけでなくソフトウェアが対応し、発射管との互換性さえあれば大抵のものを射出可能であり、柔軟性にも富んでいる。
ミサイル発射管はこれまでの地球連邦艦とは違い、まさにVLSというべきものに仕上がっている。
というのもヤマトを含む地球艦艇、主にガミラス戦役後の地球艦艇に多いのだが、ミサイル発射管に艦内から再装填することが可能なものが多かった。これは艦体規模の大きい戦艦クラスであれば再装填スペースの搭載も不可能ではなく、ダメージコントロール上のデメリットよりもメリットが多かったのであるが、200mクラスの艦艇ではそれは厳しく、またコストもかかるためより大量生産される中小艦艇には採用しづらいというのが実情であった。
そのため大胆にも艦内での再装填システムを非搭載とし、艦外部からミサイル発射管にミサイルの入った”セル”と呼ばれるものを搭載する、VLSのようなシステムが本艦には採用されている。
これは建造コストの削減に繋がるだけでなく、艦内スペースの確保にも繋がっておりタダでさえ余裕のない設計が多い地球艦艇にしては多少の余裕があるものになっている。
対艦グレネードランチャーは艦首のロケットアンカー搭載部にまとめて装備されている。
これは極めて限られた状況でしか使用されることは無いが、中々に使い勝手の良い兵装であるため好んで使うものも多く、実際に戦果を上げたものいる。
艦載機はコスモシーガルなどの多用途機2機の運用を想定しており、かなり狭いものの格納庫も装備している。発着艦口は艦底部の大型複合アンテナ後方に位置しており、ほかの地球艦艇と大差ない。
本艦級にはそこそこの装甲防御力を持ち、強力な波動防壁が展開可能である。
基本的に波動防壁で耐え抜くという思想で設計されているのでそこまで装甲が厚いわけではないが、特殊な構造で最重要防御区画は固く守られているため、乗員の生存性は高い。
機関は主機に改良された量産型次元波動エンジンを1基、補機に新開発の通常動力型エンジンであるケルビンインパルスエンジンを1基搭載し高い機動性と戦略的機動性を持つ。
最大速力42.3Sknotという地球艦艇随一の高速力を誇り、ガ軍の快速艦艇にも引けを取らない。
艦体各所には大出力スラスターが装備され、細やかな操艦も可能であり、突撃宇宙駆逐艦のような挙動も可能である。
そんな数々の新機軸を搭載し、軍の要求を満足させる性能をたたき出した本艦級ではあるが無論欠点、それも致命的なものが存在する。
軍の要求したもののコンセプトは間違ってはいなかったのであろうが、完成した本艦は中途半端な艦艇であったのだ。
も言うよりも時代にそぐわなかったと言うべきであろうか。もしガトランティスの太陽圏侵攻という大事件が発生しえず、地球連邦が健全な星間国家としての歩みを続けていたのであれば本艦はより必要性の高い艦艇であったかもしれない。
しかしこの時の地球連邦軍が求めていたものは大火力と数でありドレッドノート級シリーズ、アンドロメダ級シリーズ及びCクラスシリーズの大量生産で本艦の居場所はなくなってしまったのだ。
平時の輸送艦隊護衛任務であれば本艦ほど適した艦はいないと言えるほどの完成度ではあるが、より数を揃えることが出来るCクラスのフリゲートタイプでも幾らかは劣るものの艦隊防空等の任務はこなすことができ、かつ太陽圏の内部という極めて限られた範囲内での戦闘であったため、Cクラスの劣悪な居住性などの問題が顕在化せず、とにかく数が必要であったため大量生産がなされ、本艦級は少数の生産にとどまってしまった。
両用砲とでも言うべき性能を持つ主砲と対空に重きを置いた各種兵装、地球連邦航宙艦随一の俊足と長距離航海性能。そして強力な探査能力と情報処理能力。
本艦はあまりに完成しすぎていたのである。
どちらかと言うとこの艦はガトランティス戦役時の地球連邦軍には不必要な性能を盛り込んだ艦艇であり、ガミラスのような巨大で成熟した星間国家にこそ必要な艦艇であったといえる。
そのため本艦級についてガミラス側からの問い合わせが多くあり、ガミラス側の要求性能を満たすよう改良設計されたEクラスが時間断層内にて多数建造されている。
地球連邦勢力圏内
第22任務部隊 スコードロンリーダー E-1600
『艦隊、ワープまで残り5分です』
無機質な機械音声がむき出しの金属に跳ね返り艦橋内に広がった。
僅か数名で運用される本艦、Eクラス航宙重巡洋艦は最低で1名いれば運用が可能という自動化の極度に進んだ艦艇であった。
しかし地球連邦の置かれる現状を鑑みると仕方の無いことでもあった。
幾ら時間断層に資源を突っ込み軍備を増強したところで肝心な人員はすぐには増えないのである。
ならばとる手段はひとつ、徹底した省人化又は無人化である。
幸いにして二十世紀から続く技術の積み上げが比較的容易にこの問題を解決し、鹵獲ガミロイド等の機械化兵技術を応用しての省人化も進めることが出来た。
その結果が艦橋内に一人寂しく座る私という訳だが、嘆いても仕方が無い。
返ってくるのは無機質でマニュアル通りの機械音声だけなのである。
「全艦ワープ準備、ワープアウト後間もなく戦闘宙域に入る。我が艦隊は敵艦隊内もしくは後方へと侵入し、攻撃する任務を預かっている。人様の敷地に土足で上がり込んでくるお客さんを盛大に歓迎しに行くぞ」
艦内放送のマイクに向かいそう告げてから息を吐く。
私のいる本艦を旗艦とし、計18隻で構成された艦隊は地球勢力圏内を航行する。
艦長席に設えられた大型のディスプレイには艦の情報がわかりやすく表示されている。
まるでゲーム画面だ、などと比喩される理由も分かる。
多くの情報をコンピュータが収集し処理してから表示しているのだ。
通常航行程度であれば全く問題は無いが想定外の事態が起こり易い戦闘においては大きな弱点となりうる。
機器が誤作動を起こしたり故障してしまった場合、私一人ではどうすることも出来ないのだ。
『先に彗星帝国内にワープを敢行した第44-BBB戦隊からの通信途絶、撃破された模様です』
「幾ら無人艦とはいえ腐っても戦艦がこうもあっさりとはな……。敵さんの戦力は尋常ではないな」
戦い方にもよるが、かつて太陽圏に侵攻してきたガミラス軍程度であればアンドロメダ級戦艦1個戦隊で十分殲滅できるとのシュミレーションが多く上がっていた。
それ程イスカンダル式波動エンジンによる潤沢な機関出力と波動防壁、ショックカノンが強力であったのである。
にも関わらずその戦力があっさりとやられてしまう程ガトランティスという新たな侵略者は強力であった。
「もしくは、AIが無能だったか流石に敵陣へのワープは無謀であったか……」
『そのコマンドは存在しません』
「……分かってるよ、ただの独り言さ」
以前よりだいぶマシになったとはいえまだ円滑なコミュニケーションが取れるとは言い難いなと思わずにはいられなかった。
『艦隊ワープインまで残り1分』
足元から波動エンジンが唸りを上げているのが聞こえた。
ワープのための加速に入ったのだ。
ワープのシークエンスは高度に自動化され、もう少しするとあとは私の命令だけで空間を跳躍できる。
艦橋の窓からは恒星の輝きが光の筋となって後方にすっ飛んでいく。
外から見ればメインエンジンノズルから伸びる青白い噴流が6本、少し離れたところにも同様のものが見れることだろう。
「全艦、ワープ」
『ワープします』
人為的に作り出されたワームホールに飛び込むと艦橋の窓から眩い光が溢れ出し、思わず目を閉じた次の瞬間には真っ白な氷が窓を覆い、すぐさま剥がれていった。
『ワープ成功、全艦異常なし。敵艦隊の後方にワープしました』
「よろしい。艦隊増速、距離8000から戦隊ごとに突撃し攻撃を開始せよ」
強烈な加速度が体を襲う。
このEクラス航宙重巡洋艦の最大速力は連邦最速かつ、ガミラス、ガトランティスのどの艦艇にも優る高速艦艇なのだ。
過剰なまでの機関出力が艦を押し、凄まじい勢いで敵艦隊に迫る。
「艦首ショックカノン、撃ち方用意!」
『艦首ショックカノン攻撃開始します』
18隻のEクラス航宙重巡洋艦から極太の陽電子の光芒が迸る。
まるで波動砲のような青白いエネルギー流は敵艦隊内部にまで到達し、戦艦、駆逐艦と問わず射線上の全ての敵艦を粉砕して開口部を形成した。
「今だ、全艦艦首ショックカノンを発射しつつ敵艦隊へ突入せよ!」
敵艦の残骸やデブリが波動防壁に衝突し青白く発光する。
敵艦隊から散発的な攻撃が飛んでくるが、彼等の迎撃能力はさほど高くはない。
油断していいものでは無いが、そもそもガトランティス艦艇の後方への火力投射量は他に比べて少なく混乱しているであろう今ならば効果的な迎撃を受ける可能性は低いと考えられる。
とは言っても先程から何十本かに1本の数ではあるものの緑色に輝く光芒が極至近距離を掠めてはいるのだが。
そして18隻は欠けることなく敵艦隊内へ侵入することに成功した。
「全砲門開け! 優先目標から順に攻撃始め!」
『全火器での攻撃を開始します』
敵は異様な密集隊形を敷いていたがその間を縫うようにして奥へ奥へとミサイルやショックカノンをばら撒きながら進んでいく。
主砲は狂ったように陽電子の束を吐き出し、その1発1発が敵艦へと命中し破壊する。
艦首、艦尾の魚雷発射管や両舷、艦底部のVLSから大量のミサイルが打ち出され戦場を明るく照らした。
ダメ押しとばかりにすれ違う敵艦にパルスレーザー砲による掃射がかけられ、轟沈しなかった艦はズタボロになって宇宙空間を漂うゴミと化す。
「AIでもなかなか戦えるものだな……」
そう呟かずにはいられないほど上手く事が進んでいた。
『1604被弾、右舷高射砲及びミサイル発射管破損。損害判定中破』
「そうは問屋が卸さないってか。1604含む損傷艦と第2戦隊はこのまま敵艦隊内を突破、左翼の味方艦隊に合流せよ」
窓からは大量の光芒がすれ違う様子が見える。
こんな密集隊形の中でも敵は友軍誤射を恐れることなく迎撃を行っている。
「……敵さんは頭がおかしいのか、これだけ密集しながら艦砲をぶっぱなしたら味方への損害の方が多いって分かるようなものの」
事実、観測データによるとフレンドリーファイアで沈んでいる敵艦も少なくない。
撃沈破している敵艦の4分の1程度は味方からの攻撃によるもののようだ。
全く理解不能である。
この無意味なまでの密集隊形も。
友軍への誤射も躊躇わずに引き金を引く精神も。
そしてそれを指示する敵の司令官も。
全てが理解の範疇の外であった。
まるで心のない、軍隊アリや機械の集団と戦っているように感じられた。
「いや、俺達も殆ど機械仕掛けの軍隊だったか……」
『並走する敵駆逐艦増加。続いて前方にミサイル戦艦の隊列、およそ500隻』
「相変わらず信じられない物量だな。ミサイル戦艦群は艦首ショックカノンで攻撃、両舷の駆逐艦共は主砲で仕留める」
『宜候』
メインパネルには前方の異形のミサイル戦艦郡、その両サイドのパネルには両舷の駆逐艦がまるでこれから観艦式が始まるかのように見事な隊列を組んでいる様子が映し出された。
ミサイル戦艦はともかく駆逐艦は敵ではない。
もちろん状況によっては脅威足り得るだろうが、本艦の攻撃力、速力、防御力の前には成すすべがない。
現に並走していると報告があったが、ついて来るのもやっとの様子だ。
そこから主砲を撃とうがミサイルを放とうがこちらの波動防壁の前には無力。
そしてショックカノンの猛連射によってズタボロにされる。
『敵駆逐艦と1606衝突。速力大幅低下、波動防壁臨界点に達し船体破断しました。航行不能です』
「なにっ!? 艦そのもので特攻だと……。進路前方の敵艦を優先目標に再設定、衝突しないように航行せよ!」
艦艇の質量にある程度の速度があればそれは立派な兵器と化す。
単純であるが故に直撃してしまえば防ぐのが難しいというのが現実であった。
幸いにしてEクラスは機動性に優れ、各部スラスターも大推力を絞り出すことが可能であるので直撃を免れるのはそう難しいものでは無い。
『並走する敵艦さらに増大。徐々に接近してきます』
「押しつぶすつもりか!? 全艦最大戦速、一気に引き離し敵を撹乱、そのまま友軍ののワープ阻害フィールドエリアに侵入する!」
私の乗るEクラスを含む17隻に徐々に接近し取り囲もうとしていた敵艦ではあるが、あちらの速力は精々30〜32Sknot。
それに比べて遥かに優速なこちらは42.3Sknotである。
命令を発した瞬間に暴力的なまでの加速度が私の体を艦長席に押さえつける。
慣性制御と強化気密服がなければ気絶していたか内臓破裂で死んでいただろう、と思えるほどの強烈な加速であった。
足元の波動エンジンはけたたましい程の咆哮をあげ続け、メインエンジンノズルからはもはや爆発と形容した方がいいような規模の噴流が吹き出し艦を押し出す。
突如速度が上がった私達に敵も驚いたのか元々酷かった敵の砲撃の照準がズレ、はるか後方の空間を通り過ぎて行った。
「くっ、この加速度には慣れないものだな……。艦尾魚雷発射管開け! 目標、後方の敵小型艦!」
命令を下すと艦尾の魚雷発射管の装甲カバーが艦内へと引き込まれ弾頭が顔を覗かせる。
ガミラス戦役時にも当たれば敵艦を葬り去ることが可能だった空間魚雷の改良型である。
1隻辺り6門の発射管から1発づつ放たれた計102発の新型空間魚雷はインプットされた敵艦へと高速で突き進んでゆく。
高い機動力と優秀な誘導装置のお陰もあり大半が命中したようであった。
そして敵小型艦の追尾を振り切ったEクラス17隻は敵艦隊の中枢でもあるミサイル戦艦群の元へと到達した。
「全艦、各自の判断で敵ミサイル戦艦群に一撃を仕掛けここを突破するぞ。
アポロノームの敵討だ」
ディスプレイの横にあるスイッチを操作しながらそう告げるとAIが外部の観測された各種データを統合、処理しより効果的に敵に被害を与えられる攻撃の準備が終了する。
後は私がそれを承認するだけでよい。
承認のやり方は音声によるものでもでも艦長席のコンソールにあるものからでも構わない。
こんな時に考えることではないのかもしれないが、戦闘マシーンという比喩がピッタリだと思うのは私だけなのか。
だからという訳では無いが私はいつも自分の声で命令する。
なんというか、ボタンを押して全自動で攻撃するというのはしょうに合わなかったのだ。
『攻撃準備完了、いつでも攻撃を開始できます』
「承認する。目標敵ミサイル戦艦群、撃ち方始め!」
『攻撃を開始します』
機械音声との味気ないやり取りではあるがボタン越しにやるよりは良いような気がする。
どこか集中出来ていない私と裏腹に機械の操るこの艦は周囲へ破壊を撒き散らす。
主砲塔が右に、左にと忙しく振り向きながら陽電子の束を吐き出し、魚雷発射管からは空間魚雷が、艦首の大口径ショックカノンからは波動砲と見まごうばかりの光芒が連続で放たれ敵艦を何隻も貫いてゆく。
両舷の隠蔽式対空パルスレーザーですら稼働し迫り来るデブリやすれ違う死に損ないを焼き払い、艦体各所の弾が残っているVLSからは噴煙とともに誘導弾が発射される。
『敵ミサイル戦艦にてミサイルの爆発を確認、誘爆していきます』
「ふん、あれだけ密集していればそうもなるだろう。このまま敵艦隊を突破するぞ」
『方位70、仰角40°からカラクルム級戦闘艦急速接近。
速力30Sknot、数112』
「友軍艦隊へ打電、拡散波動砲の統制射撃を要請。
目標は此方に接近してくるカラクルム共だ」
『敵艦群の詳細データを送信、拡散波動砲による火力支援を要請しました』
その頃Eクラス航宙重巡洋艦16隻が引っ掻き回している敵大艦隊から数十光秒離れた位置で敵の進行を食い止めるべく、睨み合いを続けている地・ガ連合艦隊は敵の圧倒的な戦力を前にジリジリと後退を続けていた。
もちろん地・ガ連合艦隊が弱い訳では無い。それどころか戦力比十数倍になる敵艦隊に対し少なくない出血を強いているのは周辺宙域の大量のデブリが証明していた。
そんな中に敵艦隊を撹乱している味方から火力支援が要請される。
火星宙域防衛艦隊 艦隊旗艦アンドロメダ級十五番艦
「あいつらからか……。拡散波動砲搭載艦はあと何隻残っている?」
「ドレッドノート級8隻と無人型アンドロメダ2隻、それと本艦です。
しかし、これまでの波動砲の連射により本艦以外は射撃不可です」
現在の地球連邦艦艇では珍しい人に操られた艦であるアイネイアスでは軍人然とした男とまだ若い士官によって波動砲による支援をどうやって行うかが協議されていた。
やはり艦隊旗艦までも無人化してしまうととっさの事態への対応が有人艦に比べて明らかに劣ってしまうため、戦闘指揮や艦隊運用など柔軟性が問われることが多い旗艦においては未だその多くが有人艦であった。
「旗艦が前に出るというのはあまり褒められたものでは無いが仕方が無い。
第22任務部隊に打電、まもなく波動砲を発射する、至急射線上より退避せよ」
「打電完了」
「艦隊ネットワークのデータをアップデート。友軍艦隊へと共有せよ」
「これより射撃位置への移動を開始する。機関前進半速。戦術長、所定の位置に着き次第波動砲の発射体制に入れ」
「宜候!」
今次の大戦でいつの間にか失われた、こうしたやり取りが艦橋内の無機質な壁に反響する。
地球連邦が誇る15番目の戦女神は護衛のCクラス8隻とEクラス4隻を引き連れ友軍艦隊の中を前進し、最前線で敵の砲撃を耐えている盾とガミラス艦艇の横へと躍り出た。
「波動砲の発射シーケンスを開始します」
同時刻
第22任務部隊 E-1600
『アイネイアス波動砲の発射シーケンスを開始。直ちに射線上からの退避を具申します』
「よし、やっとか! 直ちに射線上から退避し最大戦速のまま友軍艦隊へと合流する」
Eクラス16隻は至る所に傷を覆いながらも未だその多くが健在であり、自慢の俊足を発揮していた。
そして友軍より共有された情報に基づき拡散波動砲の被害半径から逃れるべく針路を変更した。
『E-1611、被弾速力低下していきます。このままでは拡散波動砲の被害半径から脱出できません』
「なんだと!? 牽引ビーム……、いやロケットアンカーを射出し強制牽引せよ!」
『ロケットアンカー射出用意完了しました。……E-1611より入電』
「ッ! メインパネルに出せ!」
叫ぶとほぼ同時に艦橋の天井部分に取り付けられている大型ディスプレイにE-1611艦長の姿が映し出される。
『本艦は機関部に重大な損傷をきたし航行不能である。しかしわざわざ牽引などして貴艦らを危険に晒す訳にはいかない。従って貴艦らはただちに攻撃エリアから脱出し友軍艦隊へと合流せよ。君たちの武運長久を願う』
そう一方的に捲し立てると悲愴な顔をした艦長の顔が掻き消え無機質な金属だけが残った。
そこまで奴と親交があった訳では無いが、見捨てるという選択肢は無かった。
「……牽引ビーム、ロケットアンカーを射出しE-1661を強制牽引する」
『よろしいのですか?』
「構わん、接続後は最大戦速で脱出する」
随分と人間くさい返答が帰ってきたのは意外ではあったが今はそんな事はどうでもいい。
命令と同時に艦首部からロケットアンカーが、艦尾部からはガミラスからの技術供与により実現した牽引ビームが発射され強制接続に成功する。
波動エンジンが唸りを上げ1隻ぶん余計に重くなったの本艦を推進させるが速力は徐々に低下していく。
さらに牽引したE-1611は機関が沈黙したため波動防壁が消失。見るも無残なスクラップへと姿を変えつつあった。
しかし最重要区画や有人区画の防御は異常に強固なため奴が死んだわけではなさそうであった。
その証拠にさっきから本艦へとあの艦から呼びかけが続いている。
『速力15%低下、このままだと脱出不可能です』
あまりよろしくない状況ではあるがEクラス、いや地球連邦の次世代艦には艦艇部に補助推進装置という巨大なタンクのような物がぶら下げられている。
どのような使用を想定して設計、搭載されたのかは分からないがせっかくあるのだから使わなければ勿体ないだろう。
「補助推進装置始動! 主砲のエネルギーもカットして波動エンジンにまわせ! 補機も遊ばせておくなよ!」
『波動エンジン稼働率152%、補助エンジン稼働率150%、まもなく限界。
しかし速力上昇、脱出可能です』
「よし!」
思わず拳を握ってしまった。
艦全体が震えるほどの波動エンジンの咆哮が唸りを上げ、ケルビンインパルスエンジンも膨大な推力を寿命と引換に吐き出していた。
補助推進装置はささやかながらも推力を生み出し、2隻分のEクラスは脅威の40Sknotを発揮し少し隊列から遅れつつも爆進していた。
『波動砲の射線上からの脱出を確認。次元波動の爆縮を検知しました』
まさに間一髪であった。
牽引しているE-1611のエンジンノズルスレスレを波動砲の奔流が通過し、僅かに融解した部分もあった。
そのまま第22任務部隊の後方を通過したホーキング輻射の束は徐々に収束しながら敵艦隊へと迫ると突然拡散し多数の敵艦隊を原子の大きさにまで分解し、その余波も多くの敵艦をスクラップへと変貌させ飛び交うデブリは敵艦隊の陣形内に破壊の嵐を発生させる。
一部では直撃を免れたミサイル戦艦に巨大なデブリが衝突、誘爆している例もあった。
『後方のカラクルム級消滅。追撃してくる敵艦艇はありません』
「機関第2戦速、このまま友軍艦隊へと合流する」
廃艦は確実だと考えられる艦だった物を引っ張りながら友軍艦隊へと合流、艦隊後方へと向かう。
ダメージの少ない艦は即座に艦隊へと組み込まれ敵艦隊の掃討へと向かっていった。
俺達が僅か18隻で掻き回したことにより敵艦隊は混乱、そこへ拡散波動砲の射撃により強力なカラクルム級とミサイル戦艦の大半が消滅したことで敵艦隊の大部分は中小艦艇と鈍重なメダルーサ級となった。
波動砲口に無数の亀裂を走らせた多数のドレッドノート級を中核とした掃討部隊が敵艦へと迫る。
攻守において卓越した能力を持つ地球製艦艇の前に混乱した敵艦隊は敵ではなかったがいかんせん数が多い。
何処から湧いてくるのかはわからないが間も無く混乱から回復した敵艦隊との睨み合いへと戦闘はシフトするのだろう。
幾度となく繰り返したものではあるがもう後がない。
この火星絶対防衛線を突破されるとあとは地球まで一直線なのだ。
だから俺達は負けられないし、手段を選ばずに戦う。
僅か3年でこんな大艦隊を拵えた手品に興味はあるが今はどうでもいい。
波動砲艦隊計画に意義を唱える奴もいるらしいが今は生き残ることが先決だ。
そんな事は生き残った後にじっくりとやればいい。
今はただ敵を打ち破り故郷を守る為に使えるものはなんでも使い、泥臭く足掻くのだ。
俺も今回の件で司令部かどこかに呼び出されるだろう。
1隻を救うために、いや1人を救うために貴重な艦隊を危険に晒したのだ。
だが後悔はない。
奴が通信で俺の行動の無謀さを指摘し、いかに危険だったのかを説いたとしても俺に後悔はない。
自分はあまり真面目な人間でもないしどちらかと言えば狡い人間だとは思うが明日の地球を掴み取るため俺は戦う。
Eクラスを降ろされるかどうかは今のところわからないが俺はこの艦が好きだった。
「なぁ、俺が降ろされたらお前は悲しんでくれるのか?」
『……そのコマンドは存在しません。艦隊司令部より通信です』
「はぁ、そうかい。相変わらずつまらん奴だな……。さてと怒られに行ってきますか」
椅子から立ち上がり、艦隊司令部のお偉いさんを映すメインパネルを見つめた。
出来ればこのままこの艦を離れたくはないなと思いながら今回の経緯を説明した。
どうにかこうにかこのままこの艦にいることは出来そうだが戦況は悪化の一途を辿っていた。
新型艦や増援は湧いてくるように艦隊に加わるが敵の数はそれを嘲笑うかのように増え続ける。
今では塗装の手間すら惜しみ下地を剥き出しにしたままの無人型ドレッドノートやアンドロメダが艦隊に加わりつつある。
せっかく取り戻した我らの地球をまた失ってたまるものか。
戦況は悪い。
しかし俺は諦めない。
クラスE 航宙重巡洋艦
全長200m
最大速力42.3Sknot
搭載兵装
艦首200cm陽電子衝撃波砲(収束型波動砲を搭載したものも存在)
20.5cm3連装陽電子衝撃波砲 3基9門(前部甲板2基/後部甲板1基)
隠蔽式無砲身パルスレーザー 20基
3連装パルスレーザー砲 3基
魚雷発射管 艦首6門 艦尾6門
外部装填式垂直発射装置 40門
艦載機 2機
などなど
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