SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order 作:222+KKK
あの後……魔神がテレポートジェムによりウェルを引き連れ消えた時からしばし。
彼女たち一行は立香がレイシフトした場所に戻ってきていた。
『……それで、これがギャラルホルンゲート……ですか?』
マシュのモニター越しの視線の先に浮かぶのは、一度彼女たちが確認した緑色の光の渦。
それこそが完全聖遺物「ギャラルホルン」のゲートであるらしく、装者たちは一様に頷いた。
「ゲートと言われれば、確かにSFのワープゲートっぽいかもだけど……。でもこれ、石投げたりとか色々やったけどなんも起きなかったよ?」
響たちが言うなら間違いではないんだろうけど、と言いつつ若干懐疑的な視線を送る立香。
石はもとより、それこそ魔術をぶつけたりしたがこの渦は乱れることすらなかったものをゲートだと言われても……と立香が疑うのも無理はなかった。
「仕方有るまい。そもそもこのゲートは基本的に装者以外には反応しない。たとえ聖遺物を単純に所持していようと、錬金術を扱えようともな。藤丸たちのように魔術を扱えたとしてもソレは変わらない、ということだろう」
「その御蔭であたしらアラート鳴ったら出ずっぱりなんだけどな……」
翼の言葉に、げんなりするようにクリスが付け足す。
もともと特異災害たるノイズが出た時にほぼ確定で誰かが出動するものではあるのだが、ギャラルホルンのアラートの際には元の世界と並行世界をそれぞれ防衛しなければならないため、個人単位の負担が増加するのである。そのため、ギャラルホルンが頻繁に起動し始めた最近では、彼女たちは結構なブラック勤務を学校の合間に行っているのが実情だった。
「そうなんだ……どこも大変だね」
立香は同情するようにそう呟く。自分はちょっと前まではブラック勤務だったが、人理焼却を防いでからこっちは前ほどではないからマシだななどと考えていた。傍から見れば最底辺がブラックまで上昇したようなものだが、言わぬが花である。
「しかし……そうなるとどう報告したものか、だな」
翼はギャラルホルンゲートを前に考え込む。そう、彼女たちはこちらの世界の状況が状況だったために、戦力配分について見直すべきではないかと報告しに行こうと考えていた。
そのためにギャラルホルンゲートの前に着いたはいいが、そこで1つの現実にぶち当たった。──立香たちについてどう説明するか、である。
現地の住人であるとか、聖遺物が絡んでどうのこうのなら報告も容易である。S.O.N.G.も状況を推察し、方向性を判断することも出来るだろう。
しかし、魔術だの魔神だの英霊だのというのは装者たちにとっては全く未知のワードである。
もちろん、直接カルデアの説明を受けその力量を目の当たりにした以上、現地で共に戦うに値する人々であるということを翼は理解している。響やクリスとて同様だろう。
戦士である翼にはそれで十分ではあるが、それが組織であるS.O.N.G.となるとまた話は別である。
正直彼女たちの立場は微妙……というより率直に言って怪しいものであり、現地で接した自分達はともかくS.O.N.G.という「組織」がカルデアに信用・信頼を置かせるよう説明するにはなるべく本人たちに説明させたほうが良い、というのはそうなのだが。
「一緒について行ければよかったんだけどね……」
『立香ちゃんだけだとあれだけどね。相手もちゃんとした組織なんだから、本来なら私たちが説明できれば一番なんだけど』
何分、彼女たちはギャラルホルンゲートを通れない。結論として、直接な説明は不可能という結論に、その場の全員がため息を吐く。
事実が発覚した当初はギアで録音でもすればいいかも、と考えたりもした。しかし、やはり常識外れた諸知識については直接議論してもらうほうがいいだろうし、一々録音した内容を連絡するためにゲートを行き来するのは手間が増えるばかりである。
よって、取り敢えず録音は最後の手段とし、それ以外でどうにか出来ないかと全員で額を突き合わせていた。
「モーツァルトさんは音楽で私たちのサポートできたじゃないですか、だったらこう、装者枠のような何かでイケませんかッ!?」
「イケないね。そもそも僕の音楽は君たちの精神面に作用させているのであって、別に魔神のようにフォニックゲインを発してるわけじゃないからね」
「そうですかぁ、イケるかな~って思ったんですけど……」
響がとりあえずと挙手するも、当人が却下する。
「私の連絡用の端末を響とかに持ってもらって、向こうでダ・ヴィンチちゃんが説明する……」
『装者の皆の世界は並行世界で、今立香ちゃんのいる世界じゃないからやるべきではないね。立香ちゃんと響ちゃんたちの世界を同時に観測するのも難しいし、出来たとしても精度が大きく落ちるのは確実だ。無理に観測しようとして立香ちゃんの観測が困難になっても困る……立香ちゃん、意味消失したくないよね?』
「……ダメだね、別なの考えよう!うん!」
立香が続いて素人(なりの)考えを発表するも、カルデアで観測中のダ・ヴィンチが脅し付きで切って捨てる。立香は思わず身震いして即座に言を翻した。
「う~ん、ギャラルホルンはそちらの完全聖遺物……聖遺物って表現には首を傾げるけど、完全聖遺物なんだよね?上手いこと制御して、通信に使用できたりしないのかい?」
「……正直なところ、完全聖遺物は色々と未知なのです。なぜ今ギャラルホルンが起動したのかも不明ですし、どのような原理で通過者を厳選しているのかも不明。下手に手を加えて逆にゲートが閉じようものなら我々は此処に取り残されることになりますので……」
「ああ、それは無理だ。そっか、並行世界を渡れるって色々便利そうだと思ったけど、実質は爆発しても残り続ける不発弾ってことか……いやあ、おっそろしいね!」
ダビデがギャラルホルンについて質問するも、翼の答えにやれやれと首を振る。
超文明の遺産といえば聞こえはいいが、何が原因でどんな反応を示すのか判らず往々にして現行技術で制御が効かない伝説に語られる武装の名を持つ兵器である。当たり前の感性を持っているなら誰もが敬って遠ざけるだろう。
その後もやれルーンはどうか、錬金術はどうだと話が広がるもこれと言って妙案は出ず、徐々に話が煮詰まってきていた。
そしていよいよ録音お手紙作戦(響命名)に手を伸ばさなくてはいけないか、といったところで。ずっと黙っていた子ギルが手を上げた。
「……皆さん、ちょっといいですか?」
「はいギル君!どうぞ!」
立香の指名に子ギルがいそいそと立ち上がり、皆の視線の中央、ギャラルホルンゲートの前で向き直った。
その場の(モニター含めて)10人以上の視線を浴びながら、子ギルはこほんと咳払いをして話し始めた。
「えー、さて。あまりこういう手は使いたくありませんが、これも役割と思いますので……。端的に言って、この状況を解決……つまり、彼女らの並行世界に対してある程度の能動的な対話を可能とする手段がボクにはあります」
「本当ッ!?」
子ギルの言葉に、真っ先に響が食いつく。思わずにじり寄った彼女をやんわり押し留め、子ギルは苦笑を浮かべた。
「近いので離れてくださいね、お姉さん?で、まあ何をするのかと言えばですが……宝具を使います」
「?あれ、でも今『
立香は首を傾げる。
王の財宝、バビロンの宝物庫。子ギル……というより英雄王ギルガメッシュの持つ宝具であり、宝物庫への鍵を開き内容物を射出するというかなり大雑把かつ広範囲・高性能な宝具である。
平時は戦闘に使用するため剣や槍、斧やらの武器を投擲することが多いが、それ以外の場面でも便利グッズよろしく人類の叡智、その原典たる宝物を取り出して対応できるというまさに万能と呼ぶに相応しい宝具といえる。
が、先の戦いの通り現在は使用できない。この世界の宝物庫に接続されているからではないか、と子ギルは言っていたが嘘だったのだろうか?と首を傾げた。
「ああ、それは先程までの『場所』での話です。このギャラルホルンのゲート、どうやら並行世界を繋ぐトンネルであると同時に、今ボクらのいる閉塞世界に唯一空いた綻びでもあるようです。外界からの観測は全てこの穴を通して行われている、ということですね」
「そういやそんなこと言ってたな、さっきの魔神も。ギャラルホルンが観測してるとかどうとか」
クリスがさっきの戦いの中で魔神が零していた言葉に思いを馳せる。
本人(?)の言い分を聞けば、魔神は本来クリスたちの世界に影響を及ぼす気がない……というより、及ぼしている自覚がなかったような反応。
「……もし先の魔神の言っていたことが真なら、ギャラルホルンのゲートを魔神は感知できていなかったということか」
「というよりも、おそらく聖遺物全般だと思いますよ?魔神は見た目はともかく、ボクらの世界における常識、あるいは秩序に属するものですから。
類似する概念である哲学兵装や錬金術はともかく、全く異なる世界法則であるフォニックゲインや聖遺物について完全に把握することは難しいということかな、と。まあ、音楽魔として聖遺物の励起・操作は可能なようですが」
『だねー。というかここから観測しても私たちの機器だと僅かな熱量とかを除いて一切エネルギーを計測できてないし。こっちとある程度融合しているとはいえ、私たちと同じ常識に縛られている魔神が把握することは難しいだろう』
少なくとも今はね、とダ・ヴィンチが締める。
「それで話を戻しますが、ギャラルホルンゲートは世界を穿つ穴であるなら、逆にそれを通じてボクの宝具である『王の財宝』を使えないか、と考えたんです。さっきまで試行中だったので黙ってたんですよ」
「成程、それが先程までの『場所』での話、ということですね。ですが仮に『王の財宝』を使用できたとしても、それと並行世界間の通信が出来ることは関係無いのではないですか?」
それともその宝物庫にはそれすらも可能とする宝具が在るのですか、とベディヴィエールが疑惑半分に問いを投げる。
完全聖遺物ギャラルホルンは、神秘に親しい彼らにとっても魔法と呼べる事象に近しい……どころか、魔法の一端を自動かつ単独で実現させる程の代物である。
それと同様のことが出来る宝具があるならそれに越したことはないが、そうだとすれば今までの旅路の中で使用しててもいいはずだ……と言外に語るベディヴィエール。
「あ、いえそれとこれとは関係ないというか。要するに、王の財宝を使うための目録──通常時ならボクは無意識下で辿るそれが今は辿れない状況なんです。なにせ普段使ってる宝物庫とは全く違う現地の宝物庫に勝手につないでるわけですし」
「っていうか、バビロンで宝物庫って……もしかして、バビロニアの宝物庫のこと?あれは亜空間にあるって了子さんがずっと前に言ってたような……?」
子ギルが話を再開したところで、響が回顧するように独語する。
そういえば、と翼とクリスも気づいたように子ギルに目を向けた。
「……まあ呼び名はそれぞれでしょうが概ねそれでいいです。アッシリアの女王ニトクリスが遺した言葉に沿い、ダレイオス一世が見つけ出したとされるバビロンの宝物庫。
かつて繁栄したウルクの誇る全ての財を収める蔵、それがボクの宝具『
話が遮られたことに若干困ったように眉をひそめた子ギルは響の言葉を肯定する。尚その後ろでは知ってるようで知らない名前が出て混乱している立香にマシュが説明している。
「ギルガメッシュの宝具か。てっきり鎖か斧ではと思っていたが、宝物庫とはな……。だが、使えないという意味はわかった。こちらの宝物庫はかつて起きたフロンティア事変で中のノイズ共諸共に焼け落ちたからな」
「こちらでもその点は一緒か。S.O.N.G.が成立している以上、そうだろうとは思っていたが」
ふむ、と翼が改めて世界の近さを理解したように頷いた。
「って、そうじゃなくて。ねえギル君、結局どういうことなの?」
翼たちの様子を見ながらマシュの講義を受けていた立香は、今更ながらに話が途中だったことに気づいて子ギルに続きを促す。
話が終わるまでのんびり待つ姿勢だったのか子ギルはそこらの瓦礫に何処からか取り出した豪奢な布を敷いて座っており、立香に声をかけられたことでようやく話の主題が戻ってきたのかと腰を上げた。
「あ、話を戻していいですか?えー、結論から言って、ギャラルホルンゲートの付近ではこのように宝物庫を使用することが可能です。
ですが、通常の並行世界や特異点とは異なり、この異世界と呼べる領域から元の宝物庫にある財宝を無意識下で検出するのは平時より手間がかかっているので、やはり戦闘に使用するには工夫が必要なようでして」
そういって布をしまう子ギル。普段みたいに適当に放るのではなく手を肘辺りまで宝物庫に突っ込んでる辺り、もともとあった宝物庫の棚に戻すにも苦労しているようである。
やがてしまい終えた子ギルは宝物庫から手を抜き、全員に顔を向け更に続きを話していく。
「それで、本当に已む無くではありますが、もう1つの宝具を使って『王の財宝』への経路を常態的に把握し、この場所限定で過不足なく使えるようにしたんです」
「もう1つ?宝具っていくつも持ってるものなんですか?」
てっきりダビデの投石、ブリュンヒルデのルーン、ベディヴィエールの銀腕のように、宝具は1人1つだと思っていた響が子ギルに聞く。
『ああ、そういえば言ってなかったね。宝具は英霊の象徴、信仰や生前の逸話等が形になったものだ。逆に言えば、逸話が豊富かつ只のスキルに収まらないような伝説があれば、それに応じて宝具量も増えるということさ』
「実際この中で宝具が1つなのはアマデウスとベディヴィエールだけだしね。僕の場合はゴリアテ討伐の投石以外にも2つ。ブリュンヒルデは今回宝具使ってないけど、槍ともう1つだったっけ?」
「えっ?あのルーンって宝具じゃなかったんですか……?」
ダ・ヴィンチが響の疑問に答えるように解説し、ダビデがそれに補足を加える。その言葉で勘違いに気づいた響は、驚くと同時に地味に肩を落とした。
原初のルーンは実質宝具じゃん、とか思っているの立香はその気持ちがよくわかるのか、ドンマイと響の肩をたたいて慰めていた。
「で、その宝具……『
ですが流石に現状のお荷物な状態もよろしくない、ということで自分の世界の宝物庫を探すために使用していたんですが……その過程で気づいたことがありまして」
「意外とそういうとこ気にするんだな……。で、気づいたことって?」
子ギルが本当に使いたくなさそうにぶつぶつとぼやく姿を見て、クリスが驚き混じりに促す。
「はい。このゲートはどうやら完全に1対1……いえ、雰囲気的には1対多でしょうか?まあこちらから見れば単線で世界間を接続していたので、『
──ですので、この宝具を宝物庫の他宝具でバックアップすることでボク自身を通信用の中継点にしたいと考えているのですが」
その提案に、一瞬場が静まり返った。
装者たちはそれがどういう意味なのかを判りかねているのか沈黙し、カルデアの人々はまさか(子ギルとは言え)ギルガメッシュがそんな提案をするとは思ってなかったのか絶句した。
「……成程。
「ええ。今のボクはこんな成りですがそれでも王。玉座に常に構えることでその責務を全うするとしましょう」
キャロルの念を押すような言葉に冗談交じりに、しかし真摯な瞳で答える。
その言葉で、装者たちは子ギルの言った意味と理由を朧気ながら理解した。つまるところ、表に出さないだけで彼は彼でこの状況に憤りを抱いていたということだろう。
状況が特殊過ぎるとはいえ、己が実力をほぼ削ぎ落とされているも同然であることに我慢が出来ないのか、あるいは自身の財宝から引き離されていること自体に我慢がならないのか。
(……多分、どっちもな気がする)
今まで見てきたギルガメッシュについて想起し、そう結論付ける立香。
何だかんだどの年齢期でもプライドの高いギルガメッシュである。自分が無力に落とされることを良しとするような殊勝さはまず無い。
たとえ戦線を外され、実質電波塔みたいな役目に従事することになるとしても。それでも何もしないでいるよりはマシと思っているようであった。最もこれは比較的まっとうな感性を持つ子ギルだからであり、他のギルガメッシュの場合あるいは高みの見物に洒落込む可能性も無きにしもあらずなのだが。
『まあ、英雄王がそれでいいならいいけどね。それじゃ、観測よろしく……っと、その前にあれだ』
「?」
『いやほら、そもそもそっちがどんな端末なのかわからないからさ。ちょっと響ちゃんたちの通信機を見せてほしいな~って』
その言葉にああ、と納得する響。今更だが彼女らカルデアの人々は並行世界どころか異世界の住人である。今使ってる空間投影モニターも響たちの知るものに比べて随分特殊であり、使われている技術とかが違う可能性も十分にある。
「それじゃ、えーっと……」
「いや、すまんが少し待て立花」
ならば、と見せようとしたところで翼が止める。
「あれ、どうしたんですか翼さん?」
「どうもこうも、これは一応機密事項だぞ。機材周りは本部に了承をとっておくべきだし、序に先んじて意思疎通にしてもカルデアについて知っていてもらうほうがいい。
すまない、ダ・ヴィンチ女史。この通信機はS.O.N.G.のエージェント用の通信機なので我々が今すぐにそちらに開示することは難しい。
先に我々が本部でカルデアについて説明をしてくるから、そこで許可を得てからにしてもらっても構わないだろうか?」
『あ、そりゃそうだ。うん、いいよ。こっちはその間に通信についてギルガメッシュと色々調整しておくよ』
「というわけだ。切羽詰まっているのはそうだが、だからこそ然るべき手順を守るほうが結果的に早く進む。さあ、司令に報告に行くぞ立花。雪音はデモノイズが来たときのためにこちらに待機していてくれ」
そう言って、クリスの返事を待たずにギアを纏い先にゲートを潜る翼。響も慌ててゲートに飛び込んでいく。
「了解……って言う前に行っちまったか。先輩も大分焦ってるってか、急いてるっていうか」
「まあ是非もないよネ!っていうか、正直色々タイムリミットが短そうなのがなあ……」
そういう立香は言葉のテンションとは裏腹に浮かない顔で魔神との戦いを思い出す。
結局、先程魔神を取り逃がしたことで現状の勝機は大きく損なわれた。キャロルの言う通り、エルフナインの肉体に入っていた先ほどが勝機だったということでもある。
時間が経てば、魔神がエルフナインの肉体を強化することで膨大なフォニックゲインをそのまま利用できるようになる可能性が高い。そうなれば、こちらも何らかの策を用意する必要が出てくる。
せめてもう少し後で、それこそこっちの援軍サーヴァントが呼び出されてから魔神が襲来すれば最初から一気に畳み掛けられたのに。そう立香が思ったところで、そういえばとふと思い立ってクリスに顔を向けた。
「ねえキャロル、クリス。さっき聞き忘れてたんだけど、パヴァリア光明結社って何?魔神と戦ってたみたいだけど……」
「パヴァリア光明結社?あたしはうまく説明できねえからパス、錬金術師の集団だってんだからキャロルのがよく知ってんだろ」
間髪入れずにクリスは回答をキャロルに譲る。実際錬金術師の集団であることぐらいしか知らないのだからどうにも言いようがない。
そんなクリスにジトッと視線を向けたキャロルだが、詮無いことと諦め立香と視線を合わせた。
「パヴァリア光明結社、遥かな過去より連綿と続いてきた錬金術師の結社だな。曰く先史の時代からあるのではないかとか、統制局長のアダム・ヴァイスハウプトは一切座を譲らず数千年を生きているとか。
連中はどうにもオレの……いや、正確にはナスターシャ教授のフォトスフィア関連のデータが欲しかったのかオレに協力を持ちかけてきたりしたんだが……肝心要のアンティキティラがバルベルデの何処かにある、位の情報しか出回ってない中でのこの事変だ」
「……だからバルベルデにいたってことか、アイツら。ってことは、魔神のやつはパヴァリア光明結社を全滅させてこっち来たのか?の割には随分弱かった気がするけどな」
いやまあ普通に強かったけどよ、などとのたまうクリスに立香は疑問符を浮かべる。クリスの言葉が正しいなら、パヴァリア光明結社は先の魔神より明確に強いということになる。
さっきの魔神は立香にとってもかなり苦戦したレベルで、少なくとも只の魔神柱より強かったと感じていたにも関わらずである。
『──その、クリスさん。パヴァリア光明結社はそれほどまでに強かったのですか?というか、戦ったことが?』
「ん?ああ、ある。あたしら3人とあと3人の装者でな。っても、あの魔神よりパヴァリアが強いってよりは、あの魔神よりアダムのが強いって感じだな。ツングースカ大爆発だったか、そんくらいのバ火力の一撃を平然とぶっ放してきやがるからな」
消耗状態で戦わなきゃまず勝てなかっただろうな、と激戦を振り返るクリス。
アダムの力を完全に把握してなかったキャロルはそれほどかと驚くに留めたが、聞いていた立香たちはドン引きである。
『ツングースカ……5MJ規模とか、そんな技をブッパするのは流石にヤバイかな。ちょっとその規模の存在相手だと普通の魔神柱は瞬殺だし、それなら魔神が勝てたことが不思議ってなるのも納得だ』
ダ・ヴィンチがそう呟く。彼女たちの経験した中で、水爆規模の術式が使用可能であると確認できているのはごく僅かしかいない。
それこそ神霊が自重しないで魔力行使をするだとか、人類悪の一角であるとかそのレベルの存在でない限りそこまでの術式を使えるものは存在しなかった。
魔神柱とて英霊数騎に比肩する力を持っているが所詮それまで。超級の英霊で単騎でも勝機がある程度の力ではアダム・ヴァイスハウプトには勝てないだろうことは容易に想像できる。
アムドゥシアスはフォニックゲインやデモノイズ、錬金術といった力を持つため、この世界なら通常の魔神柱より余程強いだろうが、先程の戦いぶりではやはり勝てるとは思えないというのがこの場の全員の見解だった。
「……となると、可能性は絞られてくる。1、アダムが何らかの理由でまともに力を発揮できなかったために、魔神に遅れを取った場合」
キャロルがそういって指を折る。
「この場合、魔神はアダムの事情に精通しており、タイミングを計って行動した可能性が高い。同時に、フォニックゲインを纏えないことへの改善策がないから、オレたちが魔都への対抗策を練れない内に早々に始末しに来たということもあるだろう」
「成程!」
エルフナインに精通しているキャロルからすれば、仮にエルフナインに手を加えるにしても、もしくは外部から補助するにしても今すぐ早々に魔神がソレを改善できるとは思えなかった。出来るなら改善してから来るだろうというキャロルの言葉に立香が頷く。
勢いの良い立香の返事、しかしその表情が願望にあふれていることに気づいたキャロルはため息混じりに指を更に折る。
「……そして、2。アダムに対抗できる力があり、それにより撃破した場合。例えばそうだな、それこそ武装なり兵装なりでフォニックゲインを身に纏うことが出来たとすれば無尽蔵の歌でアダムを超えることも可能だろう」
「でも今回使ってこなかったじゃねーか。それともなんだ、振ってあったかい使い捨て聖遺物でも使ったってのかよ?」
キャロルに反論するクリス。
実際、装者やカルデアの人間が来なければ現行のS.O.N.G.がないこの世界で最強格なのはパヴァリア光明結社のアダムであり、それを排除するために切り札たる使い捨て武装があった、というのは考えられないでもない。
神話伝承の中でも破山剣や
「かもしれん。だがそれこそシンフォギアでも作って纏っていたかもしれんだろう?アダムと相討ったことでペンダントのコンバーターが破損したから現在修理中、なんてこともありうるだろう」
「──ッ!出来るもんかよ、フィーネもいないってのにッ!」
クリスはキャロルの言葉を強く否定した。
シンフォギア自体は神域の天才たる櫻井了子が己の理論に則って造り出した物である。
その才智がフィーネに由来するのか、それとも完全に自前のものなのかは判らないものの、少なくとも彼女以外にシンフォギアを新たに作り出せた人間はいない。
聖遺物の権威ナスターシャも、生物学の天才であり聖遺物との適合に詳しいDrウェルも新たに作り出すことは不可能だったのである。
だからこそ、この世界のシンフォギアが新たに生まれる訳がないとクリスは怒声混じりに主張した。
「……まあ、いい。で、魔神をよく知っているカルデアの連中に問いたい。──どれが一番可能性が高い?」
「えー……っと。もし後者の場合はさ、魔神の目的って修理のための時間稼ぎとかかな?」
「それ以外にもあるだろうがな。ウェルのような守護天を呼び出すため、とかな」
「あー、そっかー……そうだよねー……」
質問に対し前提の確認をする立香に、キャロルは淀みなく応える。言った側もそうだろうことは自覚していたのか、僅かに目線をそらしぼやく。
「いいんじゃないか?どうせもう予測できてるだろう、マスター?」
「まあそうだけど……さぁ」
だがそれもわずか。アマデウスの言葉に意を決したのか立香は顔を上げた。
「うん。ほぼ後者だと思う」
「……そうか、そうだろうな」
「……やっぱりかよ。なんとなく気付いちゃいたさ……認めたくはねーけど、な」
キャロルは立香の答えを判っていたというように頷き、クリスは追随するように立香の出した結論を肯定する。
「魔神ってあれでも理知的と言うか、理性的だからね。多分仕込みは全部終わって、余暇でちょっかい序に私たちをどうにかできればいいかなって来たんじゃないかなぁ……。そういうの、今までもあったしね」
「あったのかよ」
目玉だらけの柱、という指揮者デモノイズを想起し、あんなのがちょっかい掛けに来るのかとクリスが身震いする。実際は何か勘違いめいているがまあいっかと立香はスルーした。
ちなみに立香は「仕事の終わりついでに寄った」というだけで邪視によりガチ呪殺されかけている。魔神にとっての片手間は立香たちの致命、何処までも注意が必要な相手だった。
「となると、時間稼ぎというよりはむしろ文字通りちょっかいでしか無かったのだろうな。どうにもオレを嫌っているようだったし、オレを絶望させに来たんだろう……貴様らがいるのは想定外だったようだが」
「ギャラルホルンによる接続を感知できなかったみたいだしね。ギルガメッシュが言う通りなら、僕らやマスターのレイシフトのためのレンズ・シバの観測もギャラルホルンゲートを介している以上、僕らにも気付かなかったと」
キャロルは立香の解説と魔神の態度から相手の考えを推測し、今回の行動がどういう目的だったのかをおよそ把握する。
瀕死のキャロルだけだろうから素の自分でも十分殺せると考えていたところに、カルデアのレイシフトとギャラルホルンによる装者の出現が重なったためにこのような激戦を装備もなしに熟す羽目になったというのが真実ではないか、とキャロルは推測し、そこにアマデウスが補足する。
「……では、今回の魔神は今武装を修理し、かつ肉体を修復中であるということでもあります。相手の拠点が判らないにしろ、多少でも時間が出来たというのは僥倖ですね」
「ああ、少なくとも魔都の守護天攻略に邪魔が入る可能性は下がった。……だが」
ベディヴィエールの幸運に感謝する言葉を半分肯定したキャロルは、そこで言葉を区切る。
今回の魔神の行動理由が先程の推測で合っているのであれば、それは幸運であると同時に1つの事実とつながっていた。
「……次に戦う時。魔神はフォニックゲインを纏うための武装を使ってくるだろう。この空いた時間に、どうにか対策が見つかればいいがな」
非常に重い空気を纏ったその言葉に、否応なしに周囲が沈み込む。
絶望的としか言えない現実を伝えるキャロルの言葉が、辺りに虚しく響いた。