SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order 作:222+KKK
『おっと、接続はこっちだよー。ほらマシュ、そのケーブル持ってー』
『は、はい!』
「うへー、あんなケーブルとか何処にあったんだろ……」
GOサインを受けたことで、響たちの世界との通信網確立に向けたカルデア側の準備は着々と進んだ。
立香はモニター越しに様子を眺めていたが、マシュが一抱えもあるようなケーブルをよく判らないソケットに繋いだりする姿を見て言葉を漏らす。
そしてその様子を一通り見た後、今度はギャラルホルンゲートに目を向ける。
「……で、こっちはこっちで凄いなあ。ねえギル君、その……えっと、それ何?」
思わずという風に問いかける立香。その瞳には変わり果てたギャラルホルンゲートと、その傍に設置された豪華な玉座に座す子ギルが映っていた。
ゲートの周辺には多くの宝具が呼び出されており、それらが組み合わさった姿は絢爛な神殿か何かに見えてくる。
その異様な光景に、ギルガメッシュの黄金っぷりに慣れていない装者たちは全員思わず引いていた。
「何って、通信設備ですよ?ああ、半分くらいは防衛用ですが」
「……えぇ……」
その異様な領域をさも常識であるかのように語る子ギルに、思わず立香も絶句する。
こういったゴージャス感あふれる所業は子ギルではなく大人のギルガメッシュ、陣地という意味ではカルデアギルガメッシュで最年長(?)であるキャスタークラスのギルガメッシュがやらかすようなものである。
一応同一人物とは言え、基本的に遠慮や道徳を押さえている子ギルが此処まで派手派手しくするとは立香も思っていなかった。
うへー、と眺めているマスターに子ギルは不満そうな表情を浮かべた。
「……マスター。ボクだって別に綺羅びやかぶりを殊更にアピールしているわけではないんですよ?豪華なのは好きですが、これは単に必要な分を揃えているだけです。
通信用としては伝達・通信に纏わる伝承を持つ宝具や異世界・門に纏わる伝承を持つ宝具……の原典を使っています。通信先どうしの観測は『
『で、その宝具による通信を相互に行えるよう、さっき見せてもらったS.O.N.G.の通信システムのデータ形式を宝具通信用の形式に変換、及びカルデアのシステム用のデータに再変換するための変換システムをこっちで作っているということさ。
ちなみに余談だけど、そこの宝具群の中にはそれこそ北欧神話のギャラルホルンの原典とか、鈴鹿御前の顕明連の原典とかあるらしいよ?』
ダ・ヴィンチの言葉に、おおーと立香が驚嘆する。
「……よく判んないけど凄いことはわかった!」
「いやお前はわかっとけよ」
立香のポンコツっぷりに思わずツッコミを入れるクリス。お前のとこの技術じゃないのかよと呆れ顔である。
もっとも、直ぐに自分のところのポンコツひよこ頭を思い浮かべて首を振る。
(いや、一定の知識すら無いポンコツはあたしんところにもいたか……)
「にしても、こんな直ぐに出来るもんなのか?その通信システムって」
考えててもしょうがないとダ・ヴィンチに聞いてみる。
実際作業を手際よくやっているところからすれば出来るのだろうが、如何にオープン感満載の組織だとしても腐っても国連の組織。データを渡したからといって早々簡単に──特にも異世界の人間に解析できるようなシステムなんだろうかと少し不思議に思っていた。
が、ダ・ヴィンチはクリスの言葉を聞いて、やれやれと大仰に肩をすくめた。
『そりゃそうさ。なんたって私は天才なんだぜ?それにカルデアも何だかんだ国連の手が入ってるから世界は違えど通信の暗号化様式は似通ってるってのもあるし、他の技術系の英霊もいるからねー、手伝ってもらってるのさ』
「……なあ、今更だけどなんで中世の天才が現代技術に精通してんだッ!?なんかおかしいだろッ!?」
クリスとて昔の人間が今の技術に精通していることに文句を言いたいのではない。例えばキャロルやパヴァリア光明結社、フィーネのように昔の人間が得てして優れた技術力を持っている、というのはクリスの世界にもままある話ではあった。
しかしそういった例は基本的に現代まで生きているであるとか、知識を引き継いでいるからという理由がある。英霊たちのように死してから現代に蘇ったわけではない。
『おっと、地味にいいところを突くねクリスちゃん。カルデアの英霊召喚システムはかつて行われた聖杯戦争を元に構築されたものでね、召喚時点で時代における一定の教養・常識が頭の中に入ってるのさ』
「あれ?だけどダ・ヴィンチちゃん、それじゃあキャロルちゃんや了子さんみたいに一流の最先端ッ!ってなるのはなんでなんですか?ま、まさかそれも一般常識で全問正解するのが普通英雄とかそういうアレなんですかッ!?」
「待って響、それだと私がそっくりさんにッ!」
まさか自分たちの世界と違って立香たちの世界だとあの程度は一般教養なのだろうかと震える響に、ポンコツ発言をしていた当の立香が慌てる。
誰の何がそっくりさんだよ、とクリスがぼやいているのを尻目に、ダ・ヴィンチはそれこそ常識とばかりにため息を吐いた。
『ふぅ、いいかい響ちゃん。……それは私が天才だからさ』
「──なるほどぉ……」
「……やはり天才とは凄いな」
ダ・ヴィンチのドヤ顔に無邪気に感動する響にボケを重ねる翼。
危機的状況だと言うのに天然無法地帯と化している現状に、キャロルとクリスは重い溜息を吐いた。
キャッキャウフフ……と呼べるかはともかく、少女(例外あり)たちの姦しいという言葉が似合う光景。
それを流し見ながら、立香の召喚したサーヴァントたちは寄り集まって話をしていた。
「……それで、英雄王。通信設備はともかく、迎撃武装を取り出しているということはやはり……」
ベディヴィエールが物々しくなったゲートに使用されている宝具群を見て、子ギルにそう確認を取る。
「あ、子ギルでいいですよ。……まあ、魔神は此処を潰せば勝ちですからね。デモノイズを差し向けてくるでしょうし、防備は十分にしておかないと」
「まあね。それにアムドゥシアスは並行世界や過去・未来の情報の把握に長ける情報室の魔神だ。世界の勝手が違ったとしても、並行世界を渡れるゲートっていう便利なものを使って向こうの世界のギャラルホルンそのものを壊しに来るかもだ」
ベディヴィエールの言葉に端的に答える子ギルと、それを補足するアマデウス。
通信用に構築された玉座の周囲には自動迎撃系の宝具の原典による防衛網、相手が位相差を利用するということで優れた感知能力を持ったセンサー系の宝具による監視網が敷かれている。立香たちは気付いていないが、最早一種の城塞宝具に近いものとなっていた。
だが、それでも相手はノイズと魔神。根本から法則が異なる者同士の融合という異形に対し警戒しすぎるほどはないだろうと子ギルは考えていた。
その光景を眺めていたダビデが、ポツリと呟く。
「あれだね。そもそもS.O.N.G.とかキャロルの技術を使ったほうがノイズ検出の精度がいいんじゃないかな」
「……確かにそうかも知れないですけど。ただ、S.O.N.G.の設備はキャロルさん曰く本部のハコだけで人員ゼロだそうですし、ボクの宝具と連携を取れるように改修できる人員がこちらにいないので」
子ギルの言葉に、あー、と納得するダビデ。盲点だったとばかりに額を抑え空を仰ぐも、相変わらずの曇天模様に首を振る。
ベディヴィエールも子ギルの言葉に成程と頷き、ため息を吐く。
「……エジソン殿やテスラ殿がいれば、そういった改修も可能だったかも知れませんが……。こちらの世界と縁浅いのか、不在なのではどうしようもないということですか」
「はい、そういうことですね。っと、そろそろ準備が出来そうなので、マスターを呼びましょうか」
「んー、ギル君呼んだー?」
マスターという単語は耳ざとく聞き付ける質らしく、立香が話を切り上げ子ギルのもとに向かう。
同時代同世代の少女たちとの話が随分久しぶりだったのもあってか、その顔には楽しげな笑顔が浮かんでいた。
「はい。準備ができたので指示をお願いします、マスター」
「お、できたの……ってうわ、さっきよりゴージャス!でもなんかバランス取れてる気がするし万事良し!ソレじゃ一発……ダ・ヴィンチちゃんお願いします!」
『もちろん!さあ、初めてとなる特異点中継並行世界通信、いってみよー!』
完成した子ギルの通信用玉座をみてテンションを上げた立香は、ノリノリでダ・ヴィンチにぶん投げる。そしてダ・ヴィンチもその流れに乗り、勢いのままにレバーを倒した。
「……あのレバー、いるのか……?」
モニターに映るダ・ヴィンチの様子に、クリスが疲れ切ったようにぼやく。
当然ダ・ヴィンチが面白半分に据え付けただけの代物であり、あんな前時代的とすら言えない変なレバーは元々存在しているわけもない。どころか、実際の操作は空間投影型のキーボード等により信号操作をしていた。
「何言ってるのクリスちゃんッ!あれはそう、ロマンだよロマンッ!刀持った人がしめ縄切るときにキーを同時に回すくらいのロマンだよッ!」
「そうそう、ロマンだよローマだよ!」
ボケの供給過多な女子トークの果てにトンチキユニットを披露され疲労困憊なクリスの言葉に、まだまだ元気いっぱいな響が反論する。そして響のやけに具体的な意味のよく判らない言葉をスルーした立香が取り敢えずロマンでゴリ押す。
そんなテンション高め過ぎての突っ込む気力すら失われてしまっているのか、諦めの境地で首を振るクリス。
「さて、これでうまく行けば──ッ!」
『───、─ちら──N.G.本部、発令所──全員、聞こえるかッ!』
しんどそうにしているクリスをよそに通信の様子を固唾を呑んで見守る翼、その手に握られていたS.O.N.G.の通信機から声が辺りに広がる。
通信機のスピーカーから聞こえてくるのは、翼の叔父にしてS.O.N.G.司令たる風鳴弦十郎の声。
『……成功です。通信波、受信確認です!』
特異点を介したさらなる並行世界への通信、英雄王の財宝すらふんだんに実験が成功した証明たる声に、思わずマシュも興奮した様子を見せる。
ダ・ヴィンチもまさか一発で成功するとは思ってもいなかったのか、逆に絶対に成功するという確信があったのか。奇跡の美貌に浮かぶ笑みをニンマリと深くする。
『……はじめまして、になるかな?こちらは人理継続保証機関カルデアの所長代理……サーヴァント・キャスター、レオナルド・ダ・ヴィンチだ』
『成程、あなたが……。こちらはSquad of Nexus Guardians……S.O.N.G.司令、風鳴弦十郎だ。……まずは、そちらでの我々の作戦行動に支援いただいたこと、深く感謝を申し上げたい』
モニター、そして特異点を介しての通信。2つの組織の邂逅は、そこから始まった。
『しかし、レオナルド・ダ・ヴィンチがモナリザがどうのという報告を受けた時は何事かと思ったものですが、実物を見て確かにそのとおりのだと二度驚かされましたよ』
『いやいや、芸術家たるもの真の美を追求しなくては片手落ちどころか両手落ちというものさ。そういう意味では弦十郎殿もいい肉体をしているじゃないか。私とは別ベクトルだが天賦の才を持っている上、才に胡座をかかずに向上心を持っていると見た』
『かの万能の天才に認められるとは恐縮ですな。何、男の鍛錬というのは飯を食い映画を見て寝る、それで十分というものですよ』
ははは、と談笑する2人。元来性質が善性同士、かつどちらもフランクな人柄であるため、会談開始からそう間を置かずに一気に打ち解けていた。
一通りお互いに褒めあったところで、ところで、と弦十郎が切り出す。
『件の"魔神"について、カルデアの方々が詳しいという話を響くんから伺いましたが……詳細について、お願いできますか?』
『ああ、いいとも。法則の違うそちらで神秘の漏洩も何もあるもんじゃないしね』
ダ・ヴィンチは魔神について説明をする。ソロモン王の使い魔、72の魔神。それぞれがそれぞれの概念を抱く魔術基盤の一角、そして音楽の概念を抱くアムドゥシアスという魔神が黒幕ではないかということ。
……そして、先程まではバタバタしていたために装者やキャロルには話せていなかった秘密──魔神の正体についても。
『アムドゥシアスは一角獣の姿をしているという魔神だが、そもそも我々の世界におけるソロモンの魔神というのは色々複雑でね。既存の信仰を受けた土着神、民間に語られる精霊や悪魔の伝承を元に束ね上げた一種の魔術そのものだ』
『……魔術そのもの、ということはつまり何処かに魔術を行使する者……いわば魔術師とでも呼ばれるものがいるのですか?』
S.O.N.G.発令所の大モニターいっぱいに映るダ・ヴィンチからの言葉に、弦十郎が唸る。
ソロモン王の魔神というからには使役されるものであり、魔術を行使するなり魔神を使役するなりする魔術師がいるという推測は、ダ・ヴィンチの言葉から考えれば決して間違ってはいない。
『いや、いないだろうね。そもそもアムドゥシアスがどうやってこの世界に漂着したのか判らないけど、仮にこの世界で魔神を召喚しようとすれば神霊規模の魔術行使を可能とするだけの魔力と魔法使いばりのトンデモが必要になる』
明確に表舞台に出ている魔神に対し、隠れている魔術師にも対処する必要があるか……と弦十郎が考えたところで、ダ・ヴィンチはそれを否定する。
『かといって、どんな仕組み……というか手管を使っているかについてについては、不確かすぎてなんとも言えない。一応カルデアの指揮官としてではなく万能の天才ダ・ヴィンチちゃんとしての推測はあるけど、ソレで良ければ答えよう』
『……聞かせてくれ』
『OK、立香ちゃんたちも聞くように』
あえて個人による推察と明言し他のスタッフ等に責任が行かないようにする辺り、余程不確かなのだろうと弦十郎は当たりをつける。だがそれでも聞かないよりは聞いていたほうが万倍いいだろうと頷いた。
声をかけられた立香や一緒にいた響たち装者、キャロルやサーヴァントたちも何事かと集まっていく。
『さて、まず前提としてになるかな。魔神は自立稼働する魔術であるから、一度動作を始めてしまっている以上は魔術師を必要とするわけではない。けど同時に、現実への変換器がないと魔神は世界に表出し得ない。
……つまり、召喚者・依代の類がないと魔神は魔神として出現できないわけだ。今回の魔神の受肉体としての依代はノイズであるわけだけど……』
「デモノイズか。だがソレはとっくに知れていることだろう?」
わざわざカルデアとしてではなく個人として、と前置いてまで語ることかとキャロルが首を傾げる。
デモノイズ……それがノイズと魔神アムドゥシアスの融合体であり、音楽に纏わる概念を内包する一種の哲学兵装、あるいは概念武装としてフォニックゲインを扱えるということは戦闘中に既に予測できていたことである。
感動させるために装者たちの心中を捻じ曲げるという傍迷惑な副次効果まであるという厄介な声質を持つため、S.O.N.G.にとって死活問題であるとして既にS.O.N.G.にも伝えられている内容でもある。
『そこはまあキャロルの言う通り。でも、受肉体である魔神柱としての霊基をデモノイズに譲渡したということが問題でね。──魔神は、"魔術師"に召喚・使役されなくてはならない。使い魔として造られた存在としての宿命として、人の下に在ることを強いられているんだ』
「……だが、そこでエルフナイン……ああ、魔神本体が宿る方のエルフナインだが、彼女が魔術師として扱われているということなのではないか?」
ダ・ヴィンチの言葉に困惑する翼。先程の戦いを見ている限り、デモノイズを召喚・操作しているのはエルフナイン(に入っているアムドゥシアス)である。
魔神が魔術師にしか召喚できないということは、エルフナインこそ魔術師であると考えるのが正道だろうと翼は疑問を浮かべた。
が、そこで立香はなにかに気付いたかのように「あ」と声を上げる。
「ねえ、ダ・ヴィンチちゃん。今更だけど……エルフナインって魔術回路、持ってないよね?」
彼女の言葉に、カルデアに属する人や英霊は思わず真顔で固まる。
『そこだよ。エルフナインはこの世界……魔術師、魔術回路という法則を持たない世界常識、秩序のもとに生まれた存在だ。憑依するくらいならいざ知らず、魔術を使わせるなんてことは如何に魔神といえどもかなりの無理筋だ。よっぽど無茶をしないとだろうけど……そんな無茶をするくらいなら、まだしも同じ世界秩序下にあるフォニックゲインへの適性を持たせたほうが手っ取り早い』
『……ですが、実際にはフォニックゲインに対する適正を持っていなかった。効率と理性を重視する魔神の性質から考えれば、フォニックゲインへの適正に優先するカタチで魔術に対する適正を持たされてはいない、ということですね』
全く当然の事実なのだが、今までレイシフトした世界ではそういったことは全く無かった上、主要な人物は得てして魔術回路や神秘に類する力を持っていることがほとんどであったために気付いていなかった。
彼女たちの世界において、魔術を行使するには魔術回路と呼ばれる非物質性の一種の臓器──魔力を生み出し、魔力を通すための疑似神経が必要となる。
それは魔神を召喚するためにも当然必要……というより、魔神を召喚するための術式は魔術師が使用することを前提としている以上、魔術回路のない一般人では魔神の召喚は不可能である。
例外として神代の魔術師・魔術使いなどは魔術の行使に必ずしも回路を必要とするわけではないが、それは彼らが現代とは全く異なる世界に生きていたため。魔術運用に関する肉体構造も術理も魔力の質すら異なっているが故である。根本的に魔術に適正がないエルフナインとは事情が違う。
『だが、貴方の話を聞く限り魔術師の黒幕はいない──つまり、魔神が関わる範囲に魔神化したデモノイズを召喚・使役する存在がいるということになる。エルフナイン君以外にその条件を満たせるものはいない以上、魔術への適性を優先した、ということにはならないか?事実、戦闘では魔術を使っていたんだろう?』
『んー、あれは魔神が行使してた魔術だからなあ。勿論、最低限魔神を召喚・使役できるレベルの改造をしていた可能性はあるけど……ところで聞きたいんだけど、ノイズは人間が異端技術で作った兵器という話だったね?』
ダ・ヴィンチはS.O.N.G.に改めて確認する。
何を確認したいのか、と弦十郎が一瞬詰まったところでエルフナインが代わりに答える。
『──はい。バラルの呪詛により人々が理解を忘れ、互いに疑心暗鬼となった果てに相互に殺し合うために造られたものとされています。……それを聞くということは、やはり……』
一瞬驚いた目を向けるダ・ヴィンチ。ホムンクルスとしてのベースであるキャロルとも酷似した姿は確かに2人の関係性を如実に示すものではあったが、目つきや表情が違うためその印象はだいぶ異なるものであった。
『おっと、君がそちらの世界のエルフナインか。……やはり、というにはなんともだけど──』
そこまで言って、ダ・ヴィンチは一呼吸おく。勿体つけるように僅かな間を空け、そして口を開いた。
『──アムドゥシアスは魔術ではなく、ノイズを制御するための異端技術を使ってデモノイズを召喚・使役している。そして、そのための聖遺物なり錬金術の産物として関わってくるのは……魔術王に由来するものだ』
あくまで現状、それが一番辻褄が合うってことなんだけどね。そう言葉尻に付け加え、誰かの言葉を待つでもなくそこに至った経緯を話す。
『魔神と戦う前に情報共有した時があったけど、その時に装者のみんなやキャロルは魔神とデモノイズの関係にあまり疑問を抱いていなかった。どころか君たち、むしろ納得していただろう?
ノイズが唐突に出現し人を殺す災害である、ってだけならまあ、悪魔みたいな奴らだってことで伝承されたってことも考えたけど、聞けばノイズは対人兵器として造られたと言うじゃないか。
それを使役するための手段は何かと考えると、ノイズ製造時に利用されていた技術たる異端技術によって製造された聖遺物か、異端技術研究によって生まれた錬金術によるものと考えるのが妥当。
で、悪魔の使役に係る伝承上のブツであり、聖遺物としての技術が用いられていそうなものってなるとやっぱりソロモン関係があるんじゃないかってなるだろう?
魔神アムドゥシアスとノイズが好相性なのも、ソロモン関係の器具により操作されるモノという共通点があるなら納得がいくしね』
一気に捲し立てるダ・ヴィンチに、キャロルやエルフナインはやはり判るか、と納得する。
彼女ら及びS.O.N.G.関係者はソロモンの杖に関する情報をカルデアに伝えていない。
別に伝えることがダメということではなく単純に伝えるタイミングがなかっただけだが、ダ・ヴィンチが知らなかったことは事実である。
にも関わらずその品物を想定している辺り、少なくとも僅かな情報を逃さず検討に上げるだけの洞察力がダ・ヴィンチにはある(彼女の伝説から考えれば当然ではあるが)ということをキャロルたちはきっちり理解した。
「え、ええっ!で、でもソロモンは、魔術王は、だって……」
ダ・ヴィンチの推測に立香が慌てたように口を挟む。何が言いたいのか微妙に判らないが、どうやら立香とソロモン王は何らかの関係があるらしい、と朧気に理解する響たち。
英霊だのなんだのとある上、ソロモン王の父たるダビデがこの場にいるのだし、そういうこともあるのかなと思いつつ、それでも結構な取り乱しように余程深い何かがあったのだと納得する。
『違う違う。魔術王というのはまあ便宜上の呼び名さ。ここでいうのは、古代イスラエル王ソロモンの悪魔使いの伝承、その大元になったであろう異端技術によって構築された聖遺物があるんじゃないかってこと。別に魔術王がこの世界に古くから干渉しているとかそういう話じゃないよ』
「あ、なあんだ……。っと、お恥ずかしところを……」
その慌てように言葉が足りないと思ったのか、ダ・ヴィンチが即座にフォローを入れる。その言葉でホッとしたのか、さっきまでの慌てた姿を見られたことに地味に恥ずかしがる立香。
そんな彼女を横目に見つつ、エルフナインはダ・ヴィンチの推察にどう返すか少しだけ悩み、ふと現地にいるキャロルに目を向ける。
『……キャロル、すみませんけどお願いできますか?ボクたちはそちらの
「?ああ、そうか。そちらとは微妙に異なる結末を迎えている可能性もあるのか……。しかし、そうだな……」
エルフナインに振られた内容にキャロルが納得しつつ、ふむ、と僅かに考える。
一から順にか、いやそれとも……と口端から溢れる独り言にどうやら言葉の順序を考えているようだが、すぐに結論が出たのか顔を上げる。
「よし、端的に答えるのが一番いいだろう。確かにこの世界にはノイズを操作する聖遺物として『ソロモンの杖』というものがあった。が、今は宝物庫で焼失した」
キャロルが本人の言葉通り端的にまとめる。あー、やっぱりという表情を浮かべているのはS.O.N.G.関係者である。
『……キャロルが行動を起こすまでの歴史がきっちり等しいと聞いていたから、十中八九そうだろうとは思っていたが』
「その言い分だと、やはりそちらでも焼失したのか」
キャロルが嘆息する。
ソロモンの杖が焼失したのは彼女が事件を起こす前の話。今まで聞いた限りだと、キャロルの世界と弦十郎たちの世界の分岐はキャロル自身の選択のみであり、それ以外は特に分岐する要素はなかったため納得しかないのだが。
「…………」
「いや、うんその……ギル君顔、顔!なんか普段と変わらないけど怖いよ!」
そんな2人の会話になんとも言い難い顔をしているのはカルデア関係者だ。宝物庫が焼けたのと関係があるということで、子ギルに至ってはにこやかな無表情とも言える顔をしていた。
謎の威圧感にこれがカリスマかとビビりながら諌めようとする立香。彼女は彼女で大人の方のギルガメッシュじゃなくてよかったーなどと考えていられる余裕があったようだが。
『そうかぁ……。となると調査は振り出しかな』
現地から齎された情報にがっくりするダ・ヴィンチ。とはいってもその目は全然気力が失われていない辺り流石の探究心である。
そんなダ・ヴィンチに待ったをかけたのはエルフナインである。
『いえ、完全とは言えないにしてもソロモンの杖は残存している可能性は高いと思います』
「はぁッ!?おいおい、宝物庫焼けたときのソロモンの杖は爆心地間際だぞッ!?残ってるわけ無いだろッ!?」
思わずクリスが反論する。宝物庫が焼けた戦い……フロンティア事変では、クリス、そして響と翼、マリアと切歌と調の6人が主として戦っていた。
だからこそ、宝物庫のほぼ全てが焼け落ちるあの爆発の中でソロモンの杖が残っているはずが無いと断言出来るレベルである。
確かに実際に爆発を見てはいないが、その爆発が地表で起きれば地球に住む人間が全部焼死するレベルの大火力であると聞かされればそう考えるのが当然だった。
『はい、普通に考えれば残っている余地は無いです。ですが、ソロモンの杖に類似する聖遺物が存在しないというのも、ボクが魔術回路?を持っていないことも事実となれば、可能性はソロモンの杖にしか無いんです』
「逆説的に杖は残っているしかありえない、と。確かに杖の結末は見届けてはいないが……。だが、よしんば残っていたとしてもそれは焼滓、聖遺物としての体を成すまい」
翼がクリス同様にエルフナインに反論する。
詳細は省くにしても、ソロモンの杖(というより、それを使用する者達)によって散々振り回された挙げ句に世界滅亡一歩手前でどうにか解決した問題である。ある意味元凶であるソロモンの杖が残っている、というのは彼女たちからすれば流石に信じ難いし信じたくないことであった。
『うーん。まあ、可能性は無きにしもあらずってところかな。極端なことを言えば、聖遺物としての機能が残っていようと残っていまいと、"ソロモンの悪魔を支配する器"としての概念から概念武装……いや、非魔術師が使うと考えれば哲学兵装かな?として運用している可能性だってある』
『それに、哲学兵装や聖遺物でもノイズと相性が良ければ融合する事例はありますから。今回は特にも概念が近い者同士ですので、魔神が融合させたにせよ、概念の近似により勝手に融合したにせよ、悪魔使役の哲学兵装で召喚・操作しているというのは十分にありえます』
ダ・ヴィンチの呟くにエルフナインが乗っかるように補足する。
そこまで言われると、概念やらの専門家としての知識は薄い装者たちは反論することができなくなる。
裏側の常識とかに比較的疎い響なんかはそうかな、そうかも……とぼんやり納得し始めているほどである。
『……さて。とにかくだ』
どことなく場の雰囲気が煮詰まってきたところで、ダ・ヴィンチが手を叩き(大きな籠手をはめているため音は鳴らないが)場の空気を一旦リセットする。
『まず魔都の攻略、そして並行して調査といったところかな。そこから始めて行こう。拙速がいつも大事ではないけど、今回は大事だよ。……というわけで、改めて協力お願いするよ、S.O.N.G.の皆さん?』
『それはこちらも同様だ。異世界の組織であるカルデアの力はとても心強いものだからな。……改めて協力の程、よろしく頼む』
画面越しではあるが改めて協力を取り付ける2人の姿に、どこか緩く淀んでいた空気がピンと引き締まる。
2つの組織の協力体制、それぞれの立場から見ても前代未聞たる並行世界をまたいだ異世界間での協力関係が築かれた瞬間だった。