SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order   作:222+KKK

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第5節 魔神攻略に向けて(2)

「で、その未来ってどんな()なの?」

 

 立香がふと響に聞いてみる。響がそこまで会いたいというからには親友なんだろうなーと勝手に当たりを付けていた彼女だが、やはり事前にどんな人なのか知っておきたかった。

 響はよくぞ聞いてくれました!とばかりに満面の笑みで立香に向き直る。

 

「お、聞いちゃう?未来はねー、私にとっての陽だまりなんだ!」

 

 そこから始まる未来の話は、最早惚気話に近い。大事な時は助けてくれるだの、一緒のベッドで寝ているだのとその話の内容は様々であり、総じて未来大好きでベクトルが固定されていた。

 立香は聞くのを早まったかとも思ったが、しかし聞けば聞くほど響と未来は互いを大事にしていることが分かり、それはそれでいい話だなあと立香は受け入れていた。

 

「立花は小日向のことになると相変わらずだな」

「少しは自重しろっつの……」

 

 延々と語る響に慣れているのか、諦めているのか。翼もクリスもあまり強く諌めることはせず、時折相槌を打ったりしていた。

 

「うーん、あれだね。重いなこの娘!」

「聞こえないようにお願いしますよ、アマデウス。それに、愛が深いというのは良いことでしょう……重い女性というのも今更です」

 

 それを聞いてたアマデウスは率直な感想を小声でつぶやき、それをベディヴィエールが同じく小声で嗜める。英霊には彼女たちと同レベルに重い女性が結構いるため、ベディヴィエールの言う今更、というのも強ち間違っていない。

 というより、こっちに来ているブリュンヒルデのほうが常識的に考えれば余程重い──若干精神に異常を来した姿である以上しょうがない側面もあるのだが。

 

 

 そんなこんなで益体もない話をしていると、程なくして大きな建造物が見えてくる。

 他の町並み同様に焦げていたり所々崩れてはいるが、それでも建物の構造自体がしっかりしているためか、原型は残っている。

 

「……これが、響の高校?」

「うん。あれがリディアン……なんだけど……。でも、ここもやっぱりボロボロだ……」

 

 立香の質問に答えつつも、校舎の悲惨な様子に響はがくりと肩を落とす。

 

「……まあ、気を落とすな立花。渦中に福あり、とは言えんが……校庭を見る限り、炭化した形跡はない。授業が終わり帰宅中であったことを踏まえたとしても、犠牲者は少ないはずだ」

 

 意気消沈する響を慰めるように、翼が肩を叩く。

 翼にとっても此処は母校であるため、この現状には思うところはある。が、それでも知人……それも(翼にとってもそうだが)親しい友と呼べる人間が巻き込まれている可能性に晒されている響を思いやろうとする気持ちが勝っていた。

 

「ったく、ほら行くぞ。シェルターはあっちだからな。あいつ、元陸上部だって言ってんだししっかり逃げ切ってるだろ!」

「そ、そうそう!それにさ、他の建物よりはちゃんとしてるし、ちゃんと助かってるって!」

「──、うん!ありがとう、翼さん、クリスちゃん、立香ちゃん!それじゃ、シェルターに行こう!」

 

 クリスが響を元気づけるようにと背を叩き、それに便乗するように立香も校舎を指差しフォローする。

 そんな皆の気遣いで調子を取り戻したのか、響は笑顔を見せ、学校そばのシェルターへと歩き始めた。

 

「やれやれ、世話焼けるな」

「そうは言うが、新リディアンは襲われたことはないからな。この学校は立花にとっても日常の象徴の1つ、衝撃をうけるのは当然だろう」

「ま、そうだな。あたしだってこんなボロったリディアンにはちょっとショックは受けたしな」

 

 そんな彼女を眺めつつ、クリスと翼は小声で会話しつつ響を追いかけていく。

 立香は2人の会話を聞きながら、改めて校舎を見やる。

 

(……、学校かあ。なんか、懐かしいなあ。……って、そう言えば私、いま学年どんな扱いなんだろう……)

 

 立香がカルデアに来てから凡そ2年近く。最初に来た時は女子高生だった彼女だが、よく考えればもう卒業してる年齢ではないだろうか、と自問する。

 それどころか、最初の1年強は人理焼却中で周囲の時が止まっているようなものであることを考えれば、自分だけ1年以上老け込んだということではないか、と(女子的に)怖い想像を膨らませる立香。

 

(……考えないようにしよう)

 

 実はこの面子で一番年上なのは翼ではなく……などと考えそうになったところで頭を振り、立香は現実から目を背けつつ3人を追いかける。

 やがてすぐにシェルターの入り口と思しきシャッターが見えてきた。

 

「あっ、シェルターってあのシャッターで閉じてるヤツ?うはあ、本当に街中にあるんだねー」

 

 立香は感心したような声を上げる。

 事実、学校傍のシェルターというだけありその入口は徒歩でも十分に到着できる範囲にあった。とはいっても、特異災害でもなければ学校自体が避難所になることを考えればその近辺にシェルターがあって当然なのだが。

 

「ああ。勿論此処だけではない、すぐに避難できるようにシェルターは街中にいくつも配置されている。此処はその1つというわけだが……妙に騒がしいな。警備、見張りもいないようだ」

 

 学校から幾らか場所を移したところで、シェルターの入口を塞ぐシャッターが見えてきた。が、近づくに連れどうにも騒がしい声が聞こえてくる。その様子に、何かあったのかと自然と翼の目つきが鋭くなる。

 シャッター自体は壊れている様子はなく、多少焦げてはいるもののしっかり障壁の役割を果たしている。物理的に破られた、というわけではないようではある。

 

「表に炭がねえ、ってことは……」

「まさか、デモノイズが内部に直接出現したのかッ!?皆、急ぐぞ!」

「──ッ!未来ッ!」

 

 翼の指示が飛ぶかどうかというタイミングで、響がギアを纏って一気に駆ける。

 固く閉ざされたシャッターの向こうから聞こえてくるざわつくような声は、響の胸中に嫌な想像を植え付ける。

 少しでも急がなきゃ、そんな思いからか一歩ごとに速度を増し、アスファルトに轍を刻んでいく。そしてそのままシャッターを蹴破らんと足を振り上げ──。

 

「あ、待った。中の声を聴くに、デモノイズではないね」

「え──ッ、と、とっと、うわあ!?」

 

 シャッターにその剛脚を叩き込む寸前、アマデウスがなにかに気付いたのか響を引き止めた。

 急なその言葉に響は慌てて制動をかけるも抑えきれず、脚部ジャッキを展開して無理やり足の挙動にブレーキを掛けたために盛大にひっくり返った。

 

「うわ、すっごい急停止。痛そう……」

「ほっとけ、気持ちは判るけど突っ走りすぎだ。……つっても、デモノイズじゃないにしてもこの距離まで聞こえるったら結構な大声だろ?内容まではわかんねーけど、本当にヤバくねーのか?」

 

 響の心配をする立香をよそに、クリスが尋ねる。

 シェルターの外まで聞こえる騒ぎともなれば、何某かの異常事態が発生していると考えるのが自然である。実際にそう考えたクリスからの問いかけに、アマデウスは少し考え、口を開いた。

 

「うーん、ちょっと待っててくれ。あー、これは……ああ、歌か。何処かの国歌ではないし、僕の時代以前の音楽ではない。そうだね、軍歌という雰囲気ではないから……学校歌、寮歌、応援歌……その辺りかな?聞いている限りだと、数十人が歌っているみたいだ。で、それを聞いている人がざわついている。これらの声が外に漏れている感じだね」

 

「校歌……って、どんな感じですか!?鼻歌とかそういうのでいいので!」

「おっとと、えっとだね……」

 

 聞こえてくる音を詳細に分析していたアマデウスの答えに、先程からやきもきしていた響は一気に詰め寄る。

 少女とは思えない迫力(物理)のある詰め寄り方にも動じず、アマデウスは聞いていた旋律を鼻歌で再現する。

 

「……やはりこの歌だったか。中でこの歌を歌っている人間が多くいるというのは嬉しい情報だな」

「だな。しっかし、シェルター越しに聞いただけでその旋律を鼻歌で全再現って、やっぱすげーな」

 

 アマデウスの鼻歌を聞きそう漏らす翼とクリス。

 その歌は彼女たちにとっては馴染み深く、勇気づけられる日常の歌。戦場に浸る彼女たちにも帰ってくる場所があることを示す灯火。

 それが歌われているということは、彼女たちの日常に属する人々が生きているという事実に他ならなかった。

 余談だが、この歌は彼女たちの世界にしか無いはずの歌であり、単純な歌ではあることを差っ引いてもそれを瞬時に再現するアマデウスの技量にクリスは舌を巻いた。

 

「……って感じだね。いい歌だと思うけど有名な歌なのかな?」

「はい!この歌、さっきあった学校、リディアンの校歌なんです!だから、中にはリディアンの生徒が……えーっと、アマデウスさんが言ってたとおりなら数十人はいるはず!」

「ってことは、響の親友もいるんじゃないかな!?」

 

 喜びを隠す気のないような響の様子に触発されたか、立香もテンションを上げる。

 よく考えれば言っていることが無責任な気もするが、立香はそれでも響には喜んでいてほしいと考えていた。この僅かな間でもそう思えるくらいには、立香は響の笑顔を好んでいた。

 

「よーし、となれば早速……」

 

 響は喜び勇んでシェルターに駆け寄り、接地部分にギアのスーツを纏った指をねじ込み……翼に止められた。

 

「待て立花、このシェルターは手動で開けるものではない。下手にやって壊したら此処に避難している人々に迷惑がかかる」

「あっ。そ、そうですね……。えーっと、あれ?パスコードって何番だっけ……?」

「……やれやれ。待っていろ」

 

 響の言葉に、翼が呆れたような声を出しつつシャッターまで歩み寄り、壁面に取り付けられたパスコード入力端末に自身の記憶する番号を入力していく。

 その様子を見ながら、なんとはなしにクリスが翼に尋ねる。

 

「なあ先輩。こっちの世界のパスコードなんていつ知ったんだよ?」

「ああ、出掛けにキャロルに聞いてきていた。本来なら担当者に開けて貰う予定ではあったが、万が一ということもある」

「ふーん。……さすがソツがないことで」

 

 がさつな言葉とは裏腹に、今度はそこら辺も気をつかおうと考えていることが見て取れるクリスに翼は苦笑する。

 どうにも翼の可愛いこの後輩は何だかんだ更に後輩の響や切歌、調に先輩ぶりたいところがある。頼れる先輩たらんとするためにと色々努力しているのだ。

 

「まあ、精進するといい。立花も慌てているのは判るが、もう少し状況を判断するといい」

「……ふん、わかってらぁ」

「うあー、恥ずかしい……って!あっ、は、はい!」

 

 己の内心に気付かれたことにちょっと恥ずかしがりつつも返事をするクリス。響は響で恥ずかしいと思っていたのか自省していたようで、翼の言葉に慌てて返事をした。

 

「全く……。と、いい加減に行くとしよう」

 

 その様子にどことなく場が緩んだところで、認証が済んだのかロックが解除された事を示すビープ音が鳴りシャッター脇の非常扉が開く。

 翼は扉の開く音を聞いたところで話を切り上げ、非常扉に足を踏み入れた。そしてそれを追うようにして響とクリスが、次いで立香、アマデウス、ベディヴィエールの順で入っていく。

 

「……さて、と。成程、中に入れば歌だということは瞭然か」

「そのようですね。しかし意外と防音性が高いですね、中でこれだけ響いているのに外には殆ど漏れていないとは」

 

 全員が入った事を確認したベディヴィエールが扉を閉めたところで翼がそう呟き、ベディヴィエールが同意しつつもシェルターの性能に感心する。

 実際、せいぜいざわついている程度にしか外に漏れていなかった歌声も、内部は閉鎖空間なだけありそこそこの音量として響いていた。反響している事を差し引いてもやはり音楽系の生徒の合唱と言うだけはあり、その音漏れを防いでいたシェルターもかなりの防音性を持っていた。

 

「ノイズって音で相手を見つけることもありますから……。私も昔そういうのに出会ったことがあったんですけど、いやーあのときは苦労したなあ……」

 

 奥へと進みながら響がそう答える。未熟だった頃、色々と周りとから回っていた頃のほろ苦くも大切な想い出に、言葉とは裏腹に響は知らず微笑んでいた。

 

「だがあの時はノイズにというより、小日向との仲違いで苦心していたろうに」

「あ、あはは……」

 

 翼の容赦のない言葉に顔をそらす響。

 当時から未来と仲が良い響だったが、当然喧嘩するときはある。音を探知するノイズと対峙したときも同様であり、その危機を通じて前以上に仲が良くなった経緯があった。

 翼の言葉はそれを指しているわけだが、一切衣を着せないその言葉は素晴らしい切れ味で響にダメージを与えた。

 

「……どうした雪音?」

「……うっせー。思い出させんなっての……いや、元々忘れちゃいねえけど」

 

 余談だが、翼の言葉の刃は仲違いの理由づくりをしてしまっていたクリスにもぶっ刺さっていた。過去を思い出してしまったクリスは、申し訳無さ溢れる表情でそっぽを向いた。

 

「やっぱりみんな色々あったんだねー……っと、ここかな?」

 

 響たちの話に人に歴史ありと感心していた立香の耳により鮮明な歌声が届き、ある扉の前に着いた立香が立ち止まる。

 

「ああ、この先が主要な避難者の待機所だ。……開けるぞ、いいな?」

 

 校歌も終わり静かになった扉の前、翼の言葉に集まった全員がコクリと頷く。

 翼は扉の開閉スイッチを押し、開いた扉から中に入った。

 

「……結構いっぱい避難してるね」

「それはまあ、そうだろうけども。さて、先程の歌声の主は……と、あそこだね」

 

 アマデウスの言葉が指す方に視線を向ければ、そこには同じ制服……リディアンの指定夏服を纏う少女たち。

 響やクリスにとっては知っている顔もそこそこおり、その中心にはとても良く知る面々もいた。

 

「いやー、どーもどーも。……って、ビッキー!?」

「えっ、嘘!?ちょ、ちょっと通してください!」

 

 どうやら扉を開けたことで向こうもこちらを注視したらしく、響たちの顔見知りである少女たちが人の間をすり抜け駆け寄ってきた。 

 

「ビッキー、無事だったんだ!良かったあ……。ヒナがトンデモなく心配してたからさ、私達も気が気じゃなくて……」

「一気に辺りが変わっちゃって、もうあたしらもどうにもこうにもね……。連絡つけようとしても全然つながらないしさ」

「創世ちゃん、弓美ちゃん!やっぱり、未来はここにいるの!?」

 

 駆け寄ってきた2人……安藤創世と板場弓美の言葉に、響が喜色混じりに確認する。

 

「え?ああ、いるわよ。ってそれよりあんた、一体どこ行ってたの……というより、何があったのよ」

 

 開口一番の響の言葉に相変わらずと呆れていたが、そんな彼女の後ろの見慣れぬ顔ぶれに首を傾げそう尋ねる。

 

「うぇ!?あ、えーっと、話せば長いと言うか、こっちで何があったかはよく判ってないというか……」

「?どういうことよ」

 

「えっとそれは……」

「響ッ!」

 

 響が何と言ったものかと言葉を選ぼうとした時、割って入る様に声が届く。

 焦がれていましたとでも言わんばかりの声に、脇で話を聞いていた立香は何となく声の主が誰かを悟る。

 

「未来ッ!良かったあ、無事だったんだ!」

 

 パアッと表情を輝かせる響。そのまま声のする方へ走っていき、同じく響の方へと向かってきた少女……小日向未来を強く抱きしめる。

 その光景に笑顔を浮かべていたのは、未来を連れてきたのか傍に立っていたブロンドヘアの少女。

 

「ふぅ……。いなくなっていたと思ってた立花さんが居て、小日向さんと再会できたなんてナイスです!」

「あ、テラジ。ヒナを呼びに行ってくれたんだ」

「ええ。あのまま塞ぎ込んでいた小日向さんを思えば、少しでも早く呼んであげようと思いまして」

 

 創世にテラジと呼ばれた少女、寺島詩織はそう言ってうふふと笑う。

 

「よかった……。響が急にいなくなっちゃって、S.O.N.G.にも連絡はつかなくて……。どうなっちゃったのかって心配で……」

「いやその、えっと……」

 

 未来にしがみつかれ、響はどういったものかと口を濁す。

 響からすれば今目の前にいる彼女は自分の知る未来であって未来ではない、なんとも言い難い立場なのだ。この事件の当初に響たちが感じた違和感……一種の記憶に近いそれが、目の前の未来と親友だった事を告げてこそいるものの、結局彼女の親友本人ではないのである。

 勿論目の前の彼女が大切な親友であるのは疑いようもない事実だが、それでも……と言葉に悩んでしまうのは当然と言えた。

 

「そういやあんた、さっきもそうやって口籠ってたけど……。何、やっぱりやばいの?そっちの後ろの派手な人といい、またアニメみたいなことになってるの?」

 

 いまいち要領を得ない響の様子に訝しげな視線を送る板場。

 その視線は後ろの派手な人ことアマデウスほか立香とベディヴィエールにも向けられており、あからさまに表立っての事情じゃないことを察した上であからさまに怪しんでいた。

 

(どうしよう、私が説明すべきかな。でも言っちゃあれだけど怪しいよね私ら……)

(まあね。自分で言うのもあれだが僕の格好が今風じゃないのは言わずもがな、ベディヴィエールだってよく考えなくても金属鎧を纏っているし)

(ここはやはり、彼女たちに対する信頼性に優れるヒビキさん達に依頼したほうが……)

 

 敵意がないこと自体は伝わっているのか特段騒がれはしていないが、どう見ても仮装パーティから抜け出してきたかのような姿の彼らだ。

 下手に口を開いて弁護するにしても、まず響達に説得してもらってからのほうがやりやすいだろう……という意思を込めて、立香は響に視線をチラチラと送る。

 

「えっと、この人達はカルデアってところのですね、えーっと……」

「……立花。私から話そう」

 

 立香達の意図を察した響は自信なさげに口を開き、彼らの説明をしようと言葉を探すも歯切れが悪い。

 どうにも響に説明させると埒が明かなそう(流石に出会って僅かしか経っていないカルデアの事情を含めてちゃんと説明しろという方が無茶振りではあるが)と感じたのか、翼が代りに口を開く。

 

「いろいろと言いたいこともあるだろうが……実は、だな……」

 

 

 

「並行世界……って、本当?それにノイズに、悪魔に……?え、えーっと……?」

 

「過去の英雄が実体化した英霊さんが解決に尽力して下さっている組織……ナイスです!」

 

「……って、アニメじゃないのよッ!?え、マジでそうなの!?並行世界とかって本当にあるのッ!?それに過去の英雄って、本当にアニメみたいじゃん!」

 

 事情を説明するために別室に移動後、翼からの説明及び立香ほかサーヴァントたちの事情を話し終えたところでの創世、詩織、弓美の反応はそれぞれの個性を如実に表していた。

 特にもアニメが好きな板場は如何にもなワードに妙な食いつきを見せており、過去の英雄がどうのこうのという下りに至っては物凄く詰め寄っていた。

 

「……そして、今いる響たちは、私が昨日まで一緒に居た響とは……」

「……うん。厳密には皆と一緒に暮らしてた私達じゃないんだ。この事件も、ギャラルホルンっていう聖遺物のアラートで初めて知ったから、それ以前にどうなってたのかはキャロルちゃんの又聞きで……」

 

 俯いたままの未来の言葉に、気まずそうに答える響。

 この世界のS.O.N.G.がどうなったのかについては未だに答えが出ていない。当事者であるキャロルですら何が起きたかわからない内に消失したS.O.N.G.の職員達の行き先は杳として知れず、手がかりはS.O.N.G.の職員が受けた違和感と魔神の言葉だけ。どうにも捜査を進められていないのが現状だった。

 

「ッ、でもでもこの世界の私だってきっと今頃未来を探して鋭意努力中だったりするから!私が代わり……なんてとても言えないけど、それでも私は私だから!私なら絶対未来を助けるために頑張ってるから、だから……」

 

 どんどんと言葉が尻窄むが、それでもと言葉を紡ぐ。

 響自身、ここの響がどうなっているのかなんて全くわかっていない。それでも、並行世界とは言え自分だから、自分ならそうすると断言したかったのだ。

 そんな響を見て、未来はくすりと笑った。

 

「……大丈夫、わかってるよ響。もしもあなたが私の知ってる響じゃないとしても、響は響だもん。だから……へいき、へっちゃら、でしょ?」

「未来ぅ……」

 

 未来にかけられた温かい言葉に、響は思わず涙ぐむ。そんな響の涙を指で拭いながら、未来は並行世界でも相変わらずさを持つ親友に苦笑した。

 周りの友人達も並行世界云々に関わらずやれやれと肩をすくめつつ、全員笑顔を浮かべていた。

 

 

「ね、響……。私、響の人助けを信じてる。だから絶対、無理しないでね」

 

 響の涙が治まったところで、未来が響の耳元で静かに呟く。

 今までの事件でも、響は無茶や無理を気合と歌と愛と拳で突破してみせた。しかし同時に、響は誰かが諌めなければ無茶しがちになるということも未来はよく知っていた。

 親友を心配しつつも、それでも彼女が戦わないという選択肢はない。自分が何かできればいいのに、という感情を圧し殺した未来の言葉に、響は僅かに目を見開いたあと優しげな表情を浮かべた。

 

「……うんッ!大丈夫、ババーンと世界も、皆も助けてみせるからッ!みんなが居れば大丈夫、へいき、へっちゃらだッ!」

 

 親友の言葉に決意の笑みで豪語する響。

 たとえ世界が違ったとしても、それでも自分はみんなと一緒に戦えるのだと、みんなが居るからこそ自分は歌えるのだと。

 並行世界の友人の肩をしっかりとつかみ、響は堂々と宣言した。

 

 

 

「いやあ、熱い青春の熱情を感じるね。うんうん、やはり青少年少女はこうでなくてはね」

「茶々いれんなよ」

「ははは。茶々なんかじゃないさ、全く正直な感想だとも」

 

 響と未来の様子を後ろから眺めていたアマデウスの言葉に、クリスが小声で突っ込む。

 

「ええ。そしてああいう貴い誓いを守るのも騎士の努めというもの。彼女らが悲しい涙を零さぬように、我々も出来ることをしなくては」

「……そうだね。いや、私が何処まで出来るかはわかんないけど……それでも、やれるだけ頑張ろう」

 

 ベディヴィエールの言葉に立香も頷く。

 彼女達の関係性は、自分とマシュの関係に近くて遠い。立香はその在り方を理解しきれているとは言えないが、それでも彼女達の尊さは守られて然るべきだと。そのために自分のできることをしよう、そう立香は自然と考えていた。

 

 決意を新たにしていた立香は、そこで唐突に肩を叩かれる。

 慌てて振り向けば、いつの間にこちらに来ていたのか、そこにはクリスと翼が立っていた。

 

「肩の力は抜いとけよ?安心しろって、あたしらだって居るし、いっぱい呼んだサーヴァントとかも居るんだろ?」

「そうとも。何、案ずるな藤丸。お前も、立花も、私たちも。決して1人で戦うわけではない。全員が全員人事を尽くせば、天命を引き寄せることとて不可能ではないさ」

「クリス……翼さん……。うん、そうする!私一人じゃへっぽこど三流魔術師だから、無理そうな分は全力で頼らせて下さい!」

 

 クリスと翼のアドバイスに、すっぱり自分の立ち位置を明言する立香。

 自分をへなちょこと言い切り頼らせろというその潔い姿勢に、翼とクリスは瞠目し、次いで破顔した。

 

「へっ、それが言えりゃ十分だろ」

 

 最初は響と似たような人間かと立香のことを認識していたが、意外と強かであったらしい。クリスはそう理解し、無用な心配だったかと思いつつニヤリと笑う。

 

「ふふふ、頼ることには慣れてますから!あ、やれることはやるよ、当然だけどネ!」

「いや、それならば良いんだ。出来ることをやり、出来ないことは頼る。これが意外と難しいものだからな」

 

 どこかおどけた口調の立香に、翼がそう返す。その言葉の裏には過去の己を想起したが故の説得力が多分に含まれており、クリスも同意するようにうんうんとうなずいていた。

 

「ま、うちのマスターは"出来る限り"の見極めについてはプロ級だけど、無茶のしどころで盛大に無茶をするのもそうだから安心しきれないんだけどね」

「アマデウスひどい!サーヴァントの皆にはいつもお世話になってます!……って、うわっと!」

 

 まるでコントのような掛け合いをする立香たち。と、そこでその腰の通信機から音が発せられる。

 急な着信音に恐る恐ると通信ボタンを押すと、そこからは立香の聞き慣れた声が届いた。

 

『あ、繋がった。全く、詐欺じゃないんだから電話してからワンコールで出てくれたまえ……という冗談は置いといて、こっちでも準備が出来たから戻っておいでー』

「ダ・ヴィンチちゃん!了解、今すぐ帰投します」

 

 通信を終えて他の人と顔を合わせれば、響たちも通信を受け取っていたようでそれぞれが通信機を手に表情を変える。

 やがて響が未来へと向き直り、口を開く。

 

 

「それじゃ、名残惜しいけど。……未来、いってきます!」

「うん、響……いってらっしゃい」

 

 

 世界を助けにいってくるという響に、信頼の笑顔で送り出す未来。

 

 並行世界の、並行世界でも親友たる少女の送りの言葉を受け、響は仲間たちとともに駆け出した。

 

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