SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order   作:222+KKK

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第6節 魔都(1)

『さて、それじゃみんな集まったかな?それじゃ、諸々の情報を改めて共有しようか』

 

 空間投影モニターに映るダ・ヴィンチの言葉に、そこに集まった装者、錬金術師、マスターにサーヴァントが頷く。

 まずはじめに口火を切ったのは、当然ながら会議の音頭を取ったダ・ヴィンチである。

 

『えー、それじゃまず我々から、魔都について報告させてもらおうかな。ぶっちゃけ感づいている人もいっぱいいるだろうけど』

『ぶっちゃけ過ぎです、ダ・ヴィンチちゃん。

 魔都についてですが、カルデアのデータベースに同様のものはありませんでした。異世界の要素であるノイズが混じっているため当然ではあるのですが……』

 

 マシュの言葉にそりゃそうだと現場の、特にカルデア勢が頷く。もしノイズやらが使われている魔都がカルデアのデータにあったらそっちのほうが問題だろう。

 

「何かわかったことはあるの?」

 

 単刀直入な立香の問いかけに、モニター上のマシュが頷く。

 次いで、モニターの表示が切り替わり、3次元的に表示された彼女たちのいる世界……亜種特異点の全景が映し出される。

 球体として表示された地球図の幾箇所かが点灯しており、そこには彼女たちの至近である新宿も含まれていた。

 

『おわかりかと思いますが、これが魔都の配置図となります。魔都の個数は10、現在地からの最遠となる魔都は中南米……ええと、バルベルデ?が該当します。

 この10座標の組み合わせ、配置の球体表面における直線性を加味した場合、起点と終点にはバルベルデと新宿のどちらかが該当することになります』

『そして、その二点は3つのラインで結ばれる……つまり経路、パスというやつだ。所謂生命の樹と呼ばれる図表だね。一般的にはカバラの思想として認知されているそれに則れば、この2座標のどちらかが王冠(ケテル)、どちらかが王国(マルクト)となる訳だ』

 

 端的にまとめると言っていたとおり、助手にマシュを据えたダ・ヴィンチの説明は今まで以上に淀みがない。

 

『で、ここからが重要。起点・終点がどちらが該当するかと言えば……』

「ああ、起点がバルベルデだ。アムドゥシアスがオレを打倒した時にそう言っていた。オレが気絶間際の状況だったことを考えれば、ブラフということは無いだろう」

『……うん、そうだねバルベルデだね』

 

 意気揚々と説明していたダ・ヴィンチは、割って入ったキャロルの言葉に露骨にテンションを下げる。

 どんよりとした雰囲気をまとったその姿も様になっているとは言え、なんとなく気まずい沈黙があたりを包む。

 

『そ、そうか。こちらでも起点と終点を絞るまでにはなっていたが、カルデアはそこからどうやって起点と終点を判断したんだ?』

『!ああ、そうだね根拠を説明しよう!確証は得ているとしても裏付ける根拠は大事だぞう!』

「……ダ・ヴィンチちゃん、頑張ってる……」

 

 その微妙な雰囲気を打破するためか、先程微妙に情報共有で蟠っていた弦十郎が思わず助け舟を出す。

 サポートを受けてどうにかやる気を取り戻さんとテンションを無理に上げるダ・ヴィンチの姿に、立香は思わず目の端に涙を浮かべていた。

 

『えーと、そう。起点と終点の問題だけど……。まあ、お察しの通り守護天を置いていないから……というより、守護天に魔神アムドゥシアスを配置しているからと言い換えたほうが良いね』

「……魔神アムドゥシアスは守護天として配置されているのですか?」

 

 ダ・ヴィンチの言葉に翼が疑問を呈する。

 彼女からすればアムドゥシアスは首謀者である。わざわざ自身の行動を制限するような"守護天"としての役割を己に課するとは思えなかったのである。

 

『ああ。まあ配置しているというより、存在しているから配置されているのと同義になっているのが正しいのかな?魔神アムドゥシアスを初め魔神というのは魔術王の守護霊体だ。セフィロトのそれぞれのセフィラに対応している守護天使は一種のみである以上、既に守護霊体たるアムドゥシアスが存在する新宿の魔都には新たに守護天が呼び出せないということさ。

 勿論アムドゥシアスが魔都以外を拠点とすれば話は別だけど……』

「……ホームグラウンドでありデモノイズが跋扈している魔都を離れてまで、守護天を用意する必要はない。そういうことですね、ダ・ヴィンチ女史」

 

 翼の疑問は最もであり、ダ・ヴィンチもその疑問に対する回答を用意していたのだろう。間を置かず返ってきたダ・ヴィンチの言葉に翼は得心の表情を見せた。

 

『そういうこと。魔神の行動は合理性重視だからね。下手に魔力を消費する行為はしないだろう。あの魔神もそこそこ負傷した筈だから尚の事……まあこっちは確証がないけど』

「……?はいっ!よくわかんないですけど、怪我してるんなら安全な場所に逃げたりしないんですか?」

 

 ダ・ヴィンチの言葉に今度は響が疑問の声を上げる。ご丁寧に手を上げてからの響の発言にもダ・ヴィンチは慌てず答える。

 

『ああ、安全な場所には退避しているだろうさ。新宿はデモノイズがいることはいるだろうけど蛻の殻、事を成すまでは別位相、あるいは虚数空間辺りに引きこもってるんだろう』

「はあ?引きこもってる……って、あたしらが新宿の魔都を制圧できねーとでも思ってんのかよッ!?」

「落ち着きなさい。……それで、事を成すと言ったわね?魔神が新宿の魔都を蔑ろにしていい理由……いいえ、そもそも魔神が何をするつもりなのか。判っているのね?」

 

 ダ・ヴィンチの推測を聞きナメられてると思ったのか憤ったクリスを宥めつつ、マリアが確信しているかのようにダ・ヴィンチに問いかける。

 揺るぎないマリアの目線を受けたダ・ヴィンチは、その確信に気押されたのかは不明だが若干自嘲気味に微笑む。

 

『本当に何もかも判ってればよかったんだけどね。だけどまあ、相手が何をするのかはわかったっていうのはその通り』

「ほんと!?」

「さすがモナリザっぽい顔!」

 

「貴様ら……」

 

 さすがダ・ヴィンチちゃん、と今にも小躍りしだしそうなテンションで喜ぶ立香になんかよく判らない称賛を投げかける響。

 ポジティブな内容ということでテンションを上げる脳内単純勢に、キャロルは盛大にため息を吐いた。

 

『何をするのか、か……。生命の樹、ということは、自身の位階を上げる……有り体に言って神になろうとしているのだろうか?』

「神……ってそりゃあれかオッサン。あの……アダムみたいにってことか?」

 

 弦十郎のカバラ的な一般論に基づいた発言にクリスが疑問を浮かべる。

 

 彼らの世界で直近に起きた異変の中、彼らS.O.N.G.は神の力を得て無敵の存在にならんとした敵と戦ったことがあった。

 クリスはその時全員掛かりで戦った相手……色々とキャラの濃いアダム・ヴァイスハウプトのことを思い出したのかげんなりした表情を見せた。

 

『確かにその可能性もあるけど、まだ目的は不明瞭だからなんともだ。ただ、生命の樹を完成させるという前提に立ち返れば相手が当面やるべきこと、やらざるを得ない作業は1つ──経路(パス)を通すことさ。各セフィラ間でね』

 

 クリスのげんなり感が気になったのか地味に興味深そうな表情を浮かべつつも、ダ・ヴィンチは弦十郎に告げる。

 言われてみれば、と弦十郎が納得の表情を見せる。

 

『そうか、そもそもまだ経路が確立していないのか』

『確かに……。以前キャロルが引き起こしたワールド・デストラクターによる世界解剖、パヴァリア光明結社が用いようとした鼓星の神門。どちらも既存の経路……レイラインを用いていました。

 ですが、今回の魔都は生命の樹と同形状になるよう配置を優先した結果としてレイライン上に配置されていない箇所がいくつか存在しますし、そもそも新宿から直線上に出ているレイライン上にある魔都はありません』

 

『そういうこと。まあ相手がどんな手段でパスを通すかはわからないから経路の切断は狙えないから、妨害手段は魔都の制圧になるんだけどね。で、そういう意味で考えれば新宿を放置する理由も自ずと見えてくるのさ』

 

 ダ・ヴィンチの言葉に、その場の全員がむむ、と考え込む。なお、キャロルやサーヴァント達のように神秘にある程度の知識があるものたちはすぐに理解していた。

 やがてこの場の少女達の中でも一番状況把握力が高いであろうマリアが閃いたかのように顔を上げた。

 

「……成程、そういうこと」

「えっ!マリアさんわかったんですか!」

「すごい!」

 

 若干得意げな顔で理解できたことを態度で示すマリアを響と立香がもてはやす。

 尚、モニターのダ・ヴィンチはマスターであるはずの立香がまともに理解できてなかったことに生温い微笑みを浮かべていた。

 

「そうね、私の推論になるけれど……。生命の樹が王冠から王国へと力が流れることを示しているというのなら、逆に言えば終点たる王国の魔都をそこまでキッチリ守る必要は無いってことじゃないかしら」

「……?えっと、つまり……」

 

 判ってなさそうな立香の反応に、マリアがピンと指を立てて詳細を説明する。

 

「中継点となる他の魔都を破壊したり、あるいは起点であるバルベルデを破壊すれば生命の樹の完成に支障が出るのだろうけど、終点である新宿は力が流れ着くだけ。たとえ魔都自体を崩壊させたとしても、新宿魔都跡地に膨大な力が流れ込んでしまえば関係ないと考えれば、新宿が半ば放置気味なのも納得できると思わない?」

『成程な。新宿は最後の受け皿であり、流れる力を受け取れるだけの器さえ残っていればいい……。極端なことを言えば、場所そのものが無くならない限りはあちらもあまり気にしないということか』

 

 弦十郎がマリアの推論にうむむ、と唸った。

 言われてみれば……というわけでもないが、納得できるだけの理屈がマリアの言葉にはあると弦十郎は感じていた。

 ……弦十郎の隣にいたエルフナインはダ・ヴィンチの言葉だけで大体同じことを想定していたが、口に出す前にマリアが弁を振るったためにどうにも居心地悪そうにしていたのであるが。

 

『いやあ、言いたいことを凡そ言われちゃったね!ただそうだね。付け加えるなら王国(マルクト)は"玉座に座る女性"を象徴とする(セフィラ)だということも要点になる可能性はある。アムドゥシアスが取り憑いたエルフナイン、それ自体が魔都を示す中心核になっているかもしれないってことだね。もしそうであれば……有り体に言って、今の新宿をどれだけ荒らしてもアムドゥシアスが健在であれば概念上は王国(マルクト)の座は存在するとして生命の樹の崩壊につながらないということに繋がるのさ』

「……成程、ね。王国(マルクト)とか言いつつ、その本質は知識(ダアト)……隠された神意、ってことね。全く、魔神とかいいつつ趣味が悪いと言うかなんというか」

 

 ダ・ヴィンチの補足した内容を聞いて、マリアは吐き捨てるように呟く。

 結局、ここまでの事実を統括した結果として導き出せたのは、新宿に存在している魔都は(最初はともかく)現状では只のハリボテでしか無いという結論である。

 攻略すべき箇所が減ったことを喜ぶべきか、はたまたどうしても攻略できない箇所が残されてしまうことに嘆くべきか。何にせよこんな考察に時間を取られた当てつけにため息の1つでも吐きたくなるというものだった。

 

「……魔神の合理性を尊ぶという性質を改めて理解させられますね。かつて時間神殿にいた魔神が第6までの特異点を無視していたことと同様に、そもそも手出されてもされなくても構わない場所は最初から注視に値すらしない、と」

「新宿に魔都を作ったのは、恐らく最初に儀式場として作成するために(セフィラ)が必要だったから程度だろう。最初に構築して、体裁さえ整えてしまえばあとはどうにでも出来るということか」

 

 話を立香の背後で聞いていたベディヴィエールの言葉に付け加えるように、ダ・ヴィンチの推論を補強していくキャロル。

 

『要するに、現段階で重要なのは新宿ではないということさ。じゃあ何処が重要なのかと言えば……』

「……力の経路、新宿の魔都の上流である3箇所、ということか」

 

 ダ・ヴィンチの言葉を途中から引き継ぐように、得心が言ったというような表情の翼が呟く。

 そういうこと、とダ・ヴィンチは笑顔で翼の言葉を肯定する。

 

『実際はどの魔都も機能は等しいとは思うけどね。ただ、現在の拠点であるゲート周り、及びそちらの世界のS.O.N.G.本部として使われている潜水艦が日本である以上近辺の魔都から狙うほうが効率がいい』

「う、うーん……な、なるほどぉ。──あ!そういえば気になってたんだけどダ・ヴィンチちゃん、起点?王冠?だかのバルベルデを最初に制圧しちゃえば良いんじゃない!?ほら、そうすればそれ以降の魔都をゆっくり確実に攻略できそうだし!」

 

 どうにかこうにか話を噛み砕いていた立香が、ふと名案だと言わんばかりに手を挙げて発言する。別に手を挙げる必要はないのだが、先程の響に触発されていたようだ。

 どうだ、と立香が周りを見回せば、装者たちやモニターのマシュは「その手があったか!」と言わんばかりの顔をしていたが、逆にキャロルやサーヴァント、モニターに映る。ダ・ヴィンチや弦十郎などは若干渋い表情を浮かべていた。

 

「……あ、あれ?なんか悪いところあった?もしかして何か見落としてた?」

 

 意外と悪くないと思っていただけに、皆の表情に困惑する立香。

 

「……司令?藤丸の言葉には一定の理があると思いましたが、何か懸念が?」

『ああ。確かに立香君の言葉はそのとおりではあるんだが……』

 

 どうにも歯切れの悪い弦十郎に、翼が訝しむような視線を向ける。

 

「ハッキリしねーな。気になることがあるならさっさと言ってくれよオッサン」

『……ええと、ですね。こちらの画面を御覧下さい』

 

 弦十郎の様子が気になったクリスの問いかけに、問われた弦十郎ではなくにエルフナインが答える。

 エルフナインの言葉と同時に、S.O.N.G.のモニターがカルデアのモニターを通して立香たちの見ていた空間投影ディスプレイへと映し出された。

 先程の魔都の配置図に重ね合わせるようにして映し出されたソレは各魔都の何らかの要素を抽出したグラフであるらしく、どの魔都もある程度の差こそあれ似たり寄ったりな数値を可視化していた……新宿とバルベルデを除いて。

 バルベルデのグラフは明らかに他の魔都と比較して突出しており、その1つだけで平均値を大きく押し上げるのではないかと思わせるような表示となっていた。そして逆に新宿はその平均を大きく下げてしまいそうな、そんな値となっている。

 

「……なんですか、これ?」

 

 映し出された図柄に見覚えがない響は首を傾げる。立香たちも同様に疑問符を浮かべており、これが何なのかとモニターの向こうに目で尋ねていた。

 

『これは各魔都から観測されたエネルギーになります。見て分かる通り、守護天がいない新宿の数値は低いという事実が判明しています』

『先程、S.O.N.G.とカルデアで観測した結果を突き合わせたものさ。悪いとは思ったけど、君らに見せる前に先んじて情報共有していてね』

 

 エルフナインとダ・ヴィンチの言葉に、改めて画面のグラフを注視する。エルフナインの言う通り、守護天が存在しない魔都である新宿は他の都市と比べ明らかにエネルギー量が少ない。

 新宿内部に行ったわけでは無いにせよ、響たちも先の戦いからこっち、デモノイズと戦ったこともなければその歌を聞いた記憶もない。ワールド・デストラクターを探索したダビデやキャロルもまた然り。今の新宿は事実上ただの廃墟なのである。

 なるほどそう聞けば、このグラフが各魔都のエネルギーを観測した値という言葉に偽りがないということがその場の誰もが理解できた。

 

「……なるほど、このグラフは……。いいえ、このグラフが示しているのは、バルベルデには他の地域とは比べ物にならない、膨大なエネルギーが犇めいているということ、ですね?」

「ええ、それも他のと比べて桁違いです。下手すれば此処だけで他の魔都全てを相手取るより厳しいかも知れませんね」

 

 ブリュンヒルデがその場の共通認識をはっきりさせるようにと言葉に出す。画面を眺めていた子ギルもそれに同調し、実数値以上の驚異がそこにあることを看破する。

 2人の言葉に、響がうーんと唸る。

 

「つまり……バルベルデの守護天がすっごく強いってこと?」

『必ずしもそうとは言えませんが、その可能性は高いかと思われます。勿論大量のデモノイズが膨大なフォニックゲインを発している可能性もありますが……』

 

 限りなく低いでしょう、と締めくくるエルフナイン。その言葉には確信が満ちており、強力な守護天の存在を疑っていないようであった。

 

「えっとー……。なんでそう言い切れるの?」

 

 エルフナインの言葉が正しい……つまり強力な守護天がいるのであれば、最初にそこを狙う行為が悪手であるということに繋がる要素足り得る。

 逆にもしデモノイズが大勢にいる場合であれば、相手の戦力上限がどれほどかは不明にしろ数で押してくると考えられるため、戦力次第では十分に勝ちの目があるだろう。

 そこまで考えていたかは不明だが、立香はエルフナインが強力な守護天の存在を確信する理由が知りたかった。

 

『はい。といっても理由自体は明快で、これだけのエネルギーを生み出すだけのデモノイズがいれば、そもそも我々への干渉に躍起になる必要がないからです』

「……?私達の行動を妨害する理由って言えば、私達が魔神のやろうとしてることを邪魔しようとしてるからだよね?」

「後は確か、そもそもギャラルホルンが世界を観測することで単独の閉じた世界にならないというのも理由だったな」

 

 イマイチ理解が出来ていないのか、ぼんやり覚えてる理由を口に出す立香。そして立香の口にした理由以外に、魔神が言っていたことを思い出し立香に続く翼。

 その理解は間違いではないが全てでもない。そう考えたエルフナインはどう説明すべきかと考え、最初から説明することに決めた。

 

『ええと、取り敢えず順を追って説明させてもらいますね。今回の魔神の計画について、現段階では生命の樹をモチーフとした何らかの術式を地球規模で展開することだろうと推定しています。

 そして、生命の樹の経路とは第1の(セフィラ)である王冠(ケテル)からの神性の流出、神と呼ばれる存在の持つ何らかが現実世界に出力されるまでの経路を示したものとするのが通説とされています』

「うんうん。うんうん……?えっと、よく判んないけどわかった!」

『先輩どうか頑張ってください!まだ途中です』

 

 エルフナインの説明に頷いてはいるものの、完全に理解できているとはとてもいいがたい立香の反応に、半ば通例のようにマシュが激励する。

 

 そもそも魔術だなんだに年単位で関わってきた立香だが、その過程で身につけたのは魔術ではなく生存の術が大半である。へっぽこド三流魔術師などという自己紹介は決して誇張では無い。

 忍術で変わり身を習得したりレオニダス一世を初めとしたサーヴァントによるブートキャンプで物理的に身体的なスペックを強化している彼女だが、魔術を深く教わったことはなかった。

 一応彼女を弟子扱いする魔術師の英霊はいるが、本気で教え込むと言うよりも魔術師に対する気概を教え込む方に注力している。

 ……魔術に歩を向けたキャスタークラスの英霊だからこそ、一種の巻き込まれとしてこの世界に入ってきてしまった立香が魔術との深い関わりを持つべきではないという考えがそこにはあったのだろうが。

 

 閑話休題。

 

「……生命の樹の経路は、その上位のセフィラから下位のセフィラに向けた流れの道だ。王冠(ケテル)のセフィラを起点と呼んでいたのもそれが理由だが、此処で重要となるのは"何が"流れるのかということだ」

 

「魔力!」

「歌!」

 

「違う……が、ある意味どちらも近い。黙って話を聞け」

 

 面倒だとキャロルがさっさと纏めにかかる。途中で上がった立香と響の言葉をさっくり流す程度には話を進めたいようであった。

 

「アムドゥシアスが用意できるエネルギー源として最も利用しやすいものはフォニックゲインだ。歌の魔神であるという概念がある以上、無制限の出力はなくとも無尽蔵の放出はある。もし王冠のデモノイズの量が他の魔都を大きく凌駕するレベルで存在しているなら、そもそも守護天なんぞ用意しないでさっさと経路にフォニックゲインを流しているだろうよ」

「……た、確かに……」

 

 エルフナインの言葉を引き継いで語られたキャロルの言葉に、ようやく理解が及んだのか立香が戦慄する。

 現在アムドゥシアスの計画は実行できていない。合理の塊である魔神が用いるのはフォニックゲインである以上、十分なフォニックゲインが満ちていない。故に王冠(ケテル)の膨大なエネルギーの正体は守護天である。これが成立し得るために、作戦立案陣は王冠(ケテル)への直接的な奇襲行動を案に挙げていなかったのである。

 

『……というわけで。皆納得してくれたようで重畳、それじゃ話を本筋に戻そうか。あ、ちなみに王冠(ケテル)の守護天の正体はキャロルが心当たりあるらしいけど今は関わらないから置いておくね』

 

 ダ・ヴィンチが軌道修正したことで、全員居住まいを正し話を聞く姿勢を取る。

 

「最初に攻略するのが日本の3つの魔都だったか?場所が確か……」

『はい、風鳴邸、皆神山、深淵の竜宮ですね。現在、カルデアの霊基パターンの検出システムと併用することでそれぞれの守護天の正体を確認していようとしていますが、深淵の竜宮以外は詳細が不明です』

 

 話の流れを思い返しているクリスの言葉を受け、エルフナインが現在判っている情報についての説明をする。

 

『深淵の竜宮に存在する守護天はDr.ウェル……を依代とした疑似サーヴァントと思われるサーヴァント。皆神山は……近似値としてブリュンヒルデさんのパターンにほど近い反応ですがデータベース上の照会はなしとなっています』

「私に、ですか?では、戦乙女がいるのでしょう。……誰が来ているにせよ、私を呼ぶ縁足り得る。そういうことかと思います……」

 

 ブリュンヒルデが皆神山の守護天を推測するその言葉に、立香がむむむと唸る。

 戦乙女、大神の娘たるブリュンヒルデは(格が高いわけではないにせよ)れっきとした神霊である。彼女が英霊として呼び出せている理由はあくまで、主神たるオーディンの怒りに触れ神性を剥奪された為でしかない。

 逆に言えば、零落していない戦乙女は存在としては神霊なのだ。それこそDr.ウェルのように疑似サーヴァントで呼び出されている可能性があるにせよ、油断ならない強敵である可能性は十分にある。

 

「それに、戦乙女は一種人形のようなもの……。召喚されれば、余程ではない限り従うものです……」

『人形……いや、今はいい。成程、アムドゥシアスの命令で魔都を抑え込む可能性は十分にある、そういうことか』

 

 弦十郎はブリュンヒルデの今までの様子で人形と言われてもと思わないでもなかったが、今は重要ではないので置いておいて彼女の情報を吟味する。

 

『風鳴邸は近似パターンはなかったけど、こっちに居残ってる英霊から話を聞いてある程度は絞り込めた。……あくまである程度は、だけどね』

「?それって、風鳴邸の守護天に関わる英霊がいるってこと?」

 

 確かにカルデアには四海の神話に由来する英霊がいるが、霊基パターンを見てそれが自分に関わる英霊であると理解できるだろうかと首を傾げる。というかそれが出来るなら普段からやって欲しいと口に出しかけた。

 が、ダ・ヴィンチもそれが離れ業である自覚があるのか立香に先回りして言葉を塞ぐ。

 

『ああ、これは今回だけ、風鳴邸のサーヴァント限定だよ。……モニターを見ていたフィンが親指をかむかむして一方的に情報投げつけてきたからね!』

「えぇー……。ってことは、ケルト系の英霊?」

 

 ネタばらされた経緯になんとなく力が抜けるも、それはそれとして立香がダ・ヴィンチに確認する。

 フィン・マックールはケルトの英雄、エリンの守護者とも呼ばれるランサーのサーヴァントだ。その親指を噛むと自身の智慧が冴え渡りあらゆる事象を読み解くなどの伝承を持つ大英雄である。

 が、その能力はあくまで自身の知る内容・情報から最適解を見出すものであり、知らないことは知らないとしか言えない。従って、霊基パターンから情報を判読するということは彼が知る霊基、あるいはそれに近しい属性……つまりケルト神話に由来するものではないかと立香は考えた。

 

『いや、詳しい正体は不明だけど……英霊ではなく神霊。ケルトに由来する高位の神霊ということだ。神殺しの伝承を持ち、神の血を引くフィン・マックールの言葉だから間違いはないだろう』

「また神霊!?バーゲンセールじゃん!」

 

 神霊系のサーヴァントは基本は英霊たるサーヴァントの中にあって一段も二段も上位の力を持つことがほとんどである。そんなのしかいないともなれば立香が嘆くのも無理はないと言える。

 

「……では、私が呼び出されたのはそこに縁があった、ということでしょうか」

『恐らくそうだ、ベディヴィエール卿。キミは円卓の騎士だけど、その由来としては土着のケルト系の伝承が多いからね。それこそフィンやクー・フーリンじゃなくて君が行ったことにも何らかの理由はありそうだけど』

「フィン殿が即座に理解できたことを考えれば……恐らくは戦神ヌァザやその係累が関わっている、ということでしょう。銀腕だけなら聖ブリギッドなども考えられますが……それならば、私ではなくマルタ殿等の方が呼び出される可能性が高そうです」

 

 ベディヴィエールはそう言い、己の銀腕を見やる。

 銀の腕、アガートラム。この武装は名前を借りただけではあるが、アガートラムというのはケルト神話の戦神にして嘗ての主神ヌァザの武装である。フィンがヌァザの血を引くことといい、関係がないとはとても思えなかった。

 

「……」

 

 そんな彼の様子に、同じく銀腕(こちらは欠片とは言え本物だが)を抱くマリアは神妙な表情を浮かべる。

 自身と同じ銀腕を持つ異世界の神に合わせ、偽の銀腕を抱く異世界の過去の英雄、そして銀腕の欠片を持つ自分が揃う。縁、と彼は言っていたが、正に奇縁としか呼べないこの状況を受け、マリアも思わず自身の首にかかったアガートラームをちらりと見た。

 

 

 マリアの様子をよそに、そう言えば、とダ・ヴィンチがふと思い出したように口を開く。

 

『言い忘れてたけどこれが生命の樹に基づいた術式であるとすれば、新宿にある王国(マルクト)に繋がる3つの魔都はそれぞれ勝利(ネツァク)基礎(イェソド)栄光(ホド)が割り当てられるだろう。魔都の位置からすれば基礎は風鳴邸で確定として……』

『残りについては、地球表面を表と見た場合に王冠、基礎、王国を繋ぐ均衡の柱の左側、峻厳の柱に存在する深淵の竜宮を栄光、反対側の慈悲の柱に存在する皆神山を勝利として暫定名称とした』

 

 ダ・ヴィンチの説明を引き継ぐように弦十郎が説明を続ける。

 先程からそうだが、どうやら彼らは説明中にも互いに情報共有をしているらしかった。

 

(私達が混乱しないように、指揮側で情報を統一しているのか。司令達にはいつも助けられるな……)

「ふぅん、ウェルの野郎が栄光たあ皮肉が効いてやがる……って、どうしたんだ先輩?」

「……ふっ。いいや、なんでもない」

「?」

 

 何だこいつと不審な目を向けるクリスに、翼は笑みを深めるだけだった。

 尚、響や立香はなるほどぉと頷いていたがあまり深く理解できていないようであり、それを見ていたキャロルがため息を吐いた。

 

『さて、それじゃこの3つの魔都の攻略について。まず最初に君たちに決めてもらうのは……』

 

 と、そこで一呼吸置くダ・ヴィンチ。立香、サーヴァント、そして装者たちはその様子を真剣な表情で伺う。いや、アマデウスやダビデあたりはダ・ヴィンチの様子を把握できていたのか真剣というほど真剣ではないような表情だったが。

 

 

『……チーム分けだ!さあ装者とサーヴァントで2人1組でペアを作ってー!』

 

「…………はい?」

 

 その美人な顔から放たれたどこか抜けた言葉に、そこに居た面々は口を開いたままの呆けた表情でダ・ヴィンチを見つめ続けた。

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