SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order   作:222+KKK

18 / 57
第6節 魔都(2)

『つまりね、皆で一個一個制圧してくんじゃ間に合わないのさ。前も言ってただろう、基本的に3ペアで行動するように考えてたって』

 

 急に体育の時間宜しくなペア作ってー宣言に不信感丸出しな彼ら彼女らに、ダ・ヴィンチが改めて説明を始める。

 

『勿論、安全性を考慮すれば全員で各魔都を攻略するのが一番いい。というか本来はそれが最善だけど……』

「……時間が、ないんですね」

 

 響がダ・ヴィンチの言葉と声音から、現状について悟る。

 ダ・ヴィンチのふざけたような言動も、その実いつになるかわからないタイムリミットを危惧してのことなのだろう。響の言葉に神妙にうなずく。

 

『そういう事。本来の生命の樹であれば流れにはちゃんとした順序があるけれど、術式次第では必ずしもそれを守る道理はない。最終的に生命の樹を完成させることで何かを成すことを目的としている可能性がある以上、やはり確実策を取るべきだろう』

 

 そう言って、ダ・ヴィンチはモニター上の3つのセフィラ……勝利、基礎、栄光を指し示す。

 

『つまり、ここだ。この3つさえ止めてしまえば、取り敢えず王国へ繋がる経路は全て遮断できる』

『相手が行動を起こすまでの時間が判れば良かったが、まあ無い物ねだりしても仕様があるまい。この3つの魔都の制圧、そしてフォニックゲインを中継・増幅するために使用されるであろう指揮者デモノイズの撃破を並行して行う必要がある』

 

「だから、チーム分けね。……それはいいとして、どうしてサーヴァントと装者のペアになるのかしら?普段連携慣れしている装者同士、あるいはサーヴァント同士のほうが戦闘で優位に立てるのではないかしら」

 

 ダ・ヴィンチ、そして弦十郎の言葉に納得したのだろう、肩の力を抜いたマリアがそのまま質問を投げかける。

 先程の戦いでは、装者たちとサーヴァント達が一丸となって魔神、及びデモノイズに挑みどうにか勝利を得た。その中ではサーヴァントと装者が連携する場面もあったが、やはり連携しやすいのは互いを知る同士であるのは事実。

 特に装者たちは歌のユニゾンをすることでその戦闘力を大きく引き上げることも可能であるため、本来なら装者同士で組んだほうが勝率が上がるというマリアの言葉は正鵠を射るものだった。

 

「いや、それは困る。主に僕たちサーヴァントが」

「……ダビデ?」

 

 が、マリアの言葉を否定する声が上がる。本音を堂々とぶちまけるその声の主は何を隠そうイスラエル王ダビデその人である。

 ダビデの反応になにか困る事あったかな、と立香が首を傾げる。が、すぐに問題に気付いたのか目を見開いてマリアに向き直った。

 

「って、そもそもサーヴァントじゃノイズを実体化させられないんですよマリアさん!」

「……そうなの?」

 

 立香の言葉に呆気にとられるマリア。次いで、言われてみればそのとおりだと愕然とする。

 今までマリアが戦った中で、装者でなくとも位相差技術を扱いノイズを遠慮なく操っている者達は結構いた。錬金術師が代表されるが、それ以外にも聖遺物やそれこそ錬金術の産物を用いて一般人ですら操ることは出来たし干渉することも出来た。だからこそ、目の前の如何にもデキそうな魔術師集団らしいカルデアの人々だって出来るのではないか、などと思っていたのである……勿論、異世界出身の彼女らにそんなマネは不可能だが。

 

 これはマリアが響からの報告を聞いて直ぐに出立したがために情報共有できていなかったためであり、マリア以外の装者の面々は知っていることではあった。

 しかし先程の戦いで皆で戦い、英霊たちがノイズの分解を恐れず遠慮なく突っ込んでいる姿になんとなく普通にノイズと戦えるんじゃないかなんて思っていたのも事実である。

 その証拠というわけではないが、マリア以外の装者も「ああ、そういえば……」という表情を浮かべている。

 

「まあ、僕らは霊体だからね。生身に見えるかも知れないけど、その実体が魔力で編まれている以上炭素分解というノイズの機能を受けることはないんだけど……」

「……ですが、位相差障壁の突破は、難しいでしょうね。私ならば原初のルーンであるいはといった所でしょうか。……英雄王ならば位相固着の宝具を持っている、かもしれませんが……」

 

 そう言って、ブリュンヒルデがチラリと子ギルの方を見る。視線を受けた子ギルはニッコリとした笑顔を見せた。

 

「当然、僕はここから動けないので意味はないですよ?そもそも常時発動型で位相固着ってなると、大規模な結界系、あるいは領域系の宝具になりますからね。宝具を組み合わせて通信設備を構築している現状で使うのはちょっと、動作保証が出来ないといいますか」

「そうなんですか……」

 

 乖離剣なら纏めて吹き飛ばせるかもですけど、それを雑種……もとい雑音ごときにはちょっと……。などとこの期に及んでプライドを優先させるような発言をする子ギル。

 一応、閉じた世界だの法則が色々入り混じってるだのといった現状があり、世界が不安定な状況で乖離剣を使うことが危険であるという理由もないわけではない。ただそれ以上に、魔神混じりとは言え高々ノイズとやらに丸薬呑んで元の年齢に戻って乖離剣を使うか、となるとノーとしか言えないのがギルガメッシュという英霊だったと言うだけの話だった。

 

 響はそんな彼になんとも言えない表情を見せるが、しかしそんな子ギルに慣れているのかカルデアの面々が何も言わなかったため粛々と引き下がった。

 

「まあ、ギル君がそうだろうことは想定済みだからセーフ!むしろ通信環境作ってくれるだけで超万々歳だからそれは置いておいて……。というわけで、サーヴァントで位相が云々を解決できる人が召喚できてないので頼らせてください!」

「それは勿論構わないわ。むしろ事情を知らず軽々な提案をしたことを謝罪させて頂戴。……しかし、そうすると誰と組むか、という話よね?そうね、共に戦った3人がそれぞれペアを組んで、私はギルガメッシュ王……なのよね?彼とともに此処を防衛する立場に回ったほうがいいと思うのだけど、どう?」

 

 そう言って、マリアが改めてあたりを見回す。彼女は話を聞いただけで、サーヴァントたちの戦いぶりを実際に見てはいない。

 実際に戦った彼女らの方が連携は取れるのではないかという考え方は至極真っ当であり、その提案に装者たち、サーヴァントたちは一理あると頷く。

 

「あ、そうだ。当然というか、僕は戦いには出ないぜ?君らがシンフォギアの通信を常時オンにしてくれればそこから僕の曲を流すことで魔詠対策は取れるしね」

「何……?ああ、いや。それもそうか、よく考えなくとも貴殿は音楽家、別に戦場に立つ戦士ではないのでしたね」

 

 そういえば、と取ってつけたようなアマデウスの言葉に翼は訝しむも、直ぐに彼の能力の方向性を思い出して納得する。

 アマデウスの楽曲による精神安寧効果はあくまで演奏によって発生する技術的なものであり、彼の歌を直接聞かなければ作用しないといった特殊性はない。それを鑑みれば彼が戦場に出向く理由はまずない。

 それどころか戦闘技能で言えばこの場における最底辺一歩手前(尚、最底辺は立香である)の彼が下手に戦場に出れば、むしろ弱点にしかならない。彼の音楽が魔詠に対するウィークポイントであれば尚更だ。

 

「となると、前線に出るのは僕、ベディヴィエール、ブリュンヒルデといったところかな?で、ペアを組むのが響ちゃん、翼ちゃん、クリスちゃんと。いやあ可愛い子揃いで参っちゃうね!」

「……もう此処まで来ると、流石としか言えないわね……」

 

 そんな場面でもなかろうに肝太くウキウキな様子を見せるダビデに思わずマリアがため息を吐く。

 こんなのが世界的な宗教における重要人物である事実を思えば、彼女が額に手を当て空を仰ぎ見たのも已む無しであろう。いっそ彼の態度はこの場の空気を弛緩させるためにわざとやっているのだと言われればその方が納得できる。内心を読ませない表情を伺えばどちらとも取れるあたりに彼の厄介さが表れていた。

 

「………………」

 

 そんないつもの様子なダビデにも反応せず、だんまりを決め込む男が1人。

 

『ベディヴィエールさん?先程から発言なされていないようですが、なにかありましたか?』

 

 ペアが云々の話になって以降だんまりを続けていたベディヴィエールに、通信でブリーフィングを確認していたマシュが何かあったのかと様子をうかがう。

 その沈黙具合はマリアの提案を境にますます深くなっており、彼女の言葉になにか問題があるのだろうかと首を傾げる。

 

「そうですね……。あの、誰と組むかということでこちらから希望を出すことは可能ですか?」

「?別にいいと思うけど……もしかして、なにかこの状況で気付いたことでもあった?」

 

 彼の口にした内容を聞き、ベディヴィエールの様子にピンときた立香が小声で尋ねる。マスターの問いかけに、ベディヴィエールはハッキリと頷いた。

 

 軍略スキルを持つベディヴィエールは、ある意味では他のサーヴァントより広い視野を持つ。勿論スキルとして明示化されていないだけでダビデやギルガメッシュも文字通り技能として習得しているだろうが、サーヴァントとして召喚された際にスキルとして設定されているか否かというのは意外と大きな差がある。霊基自体がその行為を最適に実施できる器となっているのは、そうでない場合とはやはり異なるのだ。

 ましてや、基本一歩後ろで控えつつも適切な助言をするようなタイプ(円卓の騎士がいない場合に限る)のベディヴィエールが他に先んじて希望を出したということは、盤面に対して何らかの……それも、かなり重要度が高い情報を見出したのではないかと立香が考えるのも当然だった。

 

 彼女の期待するような視線を受け、ベディヴィエールがハッキリと口を開く。

 

「気付いた事、というには若干の語弊があります。また、確証はありません。啓示や直感と言った技能を持たない私の言葉を信じていただけるかは解りません。ですが、それでも尚私は組む相手を指定させていただきたいのです」

『そ、そこまで……。うぅん、理由を聞いてもいいかな?』

 

 ベディヴィエールがこうも自身の主張を通そうとすることは珍しいのか、若干面食らったダ・ヴィンチが理由を訊く。

 カルデア勢だけならベディヴィエールに対する信頼もあるのでそのまま通してもいいのだろうが、組む相手は年頃の少女達である。現サーヴァント中最安牌な人格者のベディヴィエールが自ら組む相手を選ぶというのは(装者たちは気にしないかも知れないが)それ相応の理由がいるのだ……などとダ・ヴィンチや立香は内心で考えていた。

 

 そんな2人の内心を知ってか知らずか、ベディヴィエールは落ち着いた様子で、しかし確固たる意志を込めて話し始める。

 

「はい。……こちらの風鳴邸の魔都の守護天であるとされるケルトの神霊。我が腕、そしてマリアさんのシンフォギアに由来する神であり、エリンの守護者たるフィオナ騎士団の長フィン・マックールとも縁が深いとなれば、十中八九でヌァザやその係累たるダーナ神族がいるだろうというのは承知済みでしょう」

 

 ベディヴィエールの語る内容は全く真実であり、その場の全員が軽く頷く。まあ、神話等に詳しくないであろう響は空気に流されているきらいはあるが。

 そう、ここまでは大前提……ほぼ確定している状況である。問題なのは、その中で誰が……ナニが召喚されているのかという点にある。

 

「最悪かつ最も可能性が高いのは銀の腕の真の所有者……ヌァザ=アガートラム、銀腕のヌァザが顕現している状況です。

 かの神は病を癒す力、水を司る力があるとされていますが、何よりヌァザ神は神々を率いて戦う神軍の王にして戦神。もしその顕現形態が疑似サーヴァントであれ、戦闘・戦争を司る神霊を相手取るというのであれば……英霊と装者1名ずつでは明確に不足している」

 

 そう語るベディヴィエールの表情は優れない。自身の力不足を認めてしまわなくてはならないことに不甲斐なさを感じているのか、あるいは敵対者の強大さを予感してのものなのか……恐らく両方だろうというのはその場の誰もが理解していた。

 

 銀腕のヌァザ。ケルト神話に語られる戦の神であり、クー・フーリンの父にして光明の神ルーに王権を禅定するまではダーナ神族の王位に立っていた神でもある。

 その力はケルトの神々の中でも強力な部類であるが、魔術に長けた巨人フォモール族との戦いの中でその生命を失ったと言われている。

 光神ルーに比べれば些か見劣りするといえばそうなのだろう。しかし歴とした主神級の神霊であり、正面から戦って勝利を拾える英霊など数えるほどしかいないだろう。

 

 ベディヴィエールは己が英霊として弱い部類であり、今の力も花の魔術師によって造られたという銀の右腕によってどうにか保てているということは理解している。

 力の不足を晒すのは騎士として気持ちの良いものではないが、だからといってそれを隠して意地を張れると考えるほど彼は現況を楽観視していなかった。

 

『確かにソレは私も懸念してた。……そうするとベディヴィエール卿、キミの希望は……』

「……はい」

 

 ダ・ヴィンチの言葉を途中で受け、その想像通りだと肯定するように頷く。そして、一息の後にベディヴィエールは口を開いた。

 

「私が希望するのはヒビキさんと、加えてマリアさんに行動を供にしていただきたいのです。ヒビキさんのガングニールは軍神の槍にして勝利の魔槍。その矛先が共にあるという事実で以て、戦神の権能に抵抗できる可能性が高い。そしてマリアさんは……」

 

 そこで僅かに言葉を口を閉じ、マリアのギアへと視線を注ぐ。

 

「……マリアさんは私とは異なる、真なるアガートラムを持っている。アガートラームは銀の腕というヌァザ神の象徴であると同時に、無欠という神の完全性の否定の証。何らかの効力を有している可能性は十分にあります。そしてだからこそ、私はお2人とともに向かいたい……どうでしょうか」

 

 真剣な眼差しで2人を見つめ、ベディヴィエールが語る。

 マリアと響はその真摯な眼差しに、思わず息を忘れ言葉を失ったように立ち尽くす。

 

「……って、2人ですかッ!?あ、いや、私はいいんですけどッ!……その、ゲートの護衛はどうすれば……?」

「それは……」

 

 ハッ、と我に返った響が驚いたように叫び、次いでその作戦の問題点を指摘する。

 ベディヴィエールがそれにどう答えたものかと逡巡していると、意外なところから彼に助け舟が来た。

 

『いや、その点は問題ない。調くんと切歌くんがそろそろ派遣に回せるからな。2人がそちらに行った段階で出立すれば、ゲートの防備に際して装者が足りないということにはならんだろう』

「2人が?そう、もう書類(と宿題)が終わったということね」

 

 あの子達にしては意外と早く済んだわね……などと嘯くマリア。驚きと同時に喜んでいるっぽい彼女の雰囲気から、なんとなくその調と切歌という少女たちの立ち位置が想像できる。

 

「いーや、こっちに来る書類が纏まった時点でこれ幸いと投げ捨ててきたって可能性のが高いと思うぜあたしは」

 

 面白がっているような声で話すクリスの様子からも、どうにも可愛がられている感じがひしひしと伝わってくる。

 なんか仲良くなれそうかも……などと立香が勝手に空想を膨らませたところで、弛緩した空気を程よく張り詰めさせるようにパン、という手をたたく音があたりに響く。

 

「……はい。銀腕の騎士、ベディヴィエールがおふたりと組む、というのであれば。私とダビデ王が残るお二方のどちらと組むのか、ですね」

「ブリュンヒルデも組みたい相手がいるの?というか、結局響とマリアさんはベディヴィエールと組むってことでいいのかな?」

 

 声に空想から現実へと立ち返った立香が音源に視線を向ければ、両手を胸の前で合わせて薄い笑顔を浮かべたブリュンヒルデが視界に映る。

 ベディヴィエールもそうだが、あまりこういう場で前に出てくることのないサーヴァントである。そんな彼女が話を進めようとしたことで、立香はブリュンヒルデにもペアの希望があるのか?と首を傾げた。

 

「私は構わないわ」

「私も大丈夫ですッ!……で、そうするとブリュンヒルデさんとダビデさんがそれぞれ翼さんとクリスちゃんのどっちかとペアになるとしたら……」

 

 響は言葉を切り、それぞれに顔を向ける。

 目線で水を向けられ、翼は僅かに沈黙した後に口を開いた。

 

「……私は。……風鳴邸に向かいたいと考えていた。だが、ベディヴィエール殿の言うことは最もというものだ。感情も大事ではあるが、それに終始する訳にはいかない。勝ちの目を大きくすること、それこそが何よりも人々を守る手段たり得るのは至極当然でしかない」

「ツバサさん……」

 

 翼の言葉に、ベディヴィエールは罪悪感を覚える。

 風鳴邸、という名称通り、そこは風鳴翼の生家である。心を許せる家族がおり、幼少の思い出もそこに眠っているため、当然翼はそこをどうにかしたいと思うだろう。

 だが、その心を持っていて尚翼は己の希望ではなく、勝率の高くなる道を選ぶ。人類を守る防人として、少しでも多くの人を、想いを守るために。

 

 そしてだからこそ、ベディヴィエールは己の発言を撤回しない。己が出した提案を彼女が理解し受け入れた以上、不用意な同情は彼女の防人としての在り方に瑕疵を与えてしまうと知っていたから。

 

「1つだけ。風鳴邸を……いいえ、魔都に囚われているであろう人々を、どうかお願いします」

「……はい。騎士王に仕えし円卓の名に於いて誓いましょう。私は必ず、かの魔都を開放してみせると」

 

 翼の真摯な願いを受けたベディヴィエールは、騎士として最上の礼を尽くし誓いを立てた。必ず、目の前の戦士たる少女の大切なものを護り通すという守護の誓約を。

 

 

 

「……先輩、は問題なさそうとして……」

 

 一方。翼とベディヴィエールを伺っていたクリスは、2人の落ち着いた様子に安堵の表情を浮かべ……残るサーヴァントたちに目線を向けどうしたものかと微妙な表情を浮かべていた。

 

「……あたしは、あんまりダビデのオッサンと組みたくないんだが」

「いいじゃないかアビシャグ。その小柄の割に豊かなスタイルも素敵だよ?豊穣を約束しているようだ!」

「そういうとこだよスケベ野郎ッ!」

 

 という、ご覧の有様である。マスターである立香は(知ってはいたものの)ダビデの奔放さに思わず頭を抱えた。

 別にダビデが悪気があるわけではないだろう、彼の基準で褒めちぎっているだけ(性欲的なものがないとは断言できないが)である。

 それが現代人価値観と合わないというのはダビデも知っているだろうが、合理主義のダビデでも譲れぬ一線があるということだろうか。

 

「風鳴邸、ケルトの神の御座以外の2箇所。即ち、炎の英霊が鎮座する深淵の竜宮と、戦乙女の守護する皆神山。……私は、皆神山に向かいたいと考えていますが、お二方はどうでしょうか?」

 

 ダビデの戯言に付き合う気がないのかは不明だが、少なくとも話を続ける気はないブリュンヒルデによりダビデとクリスの会話が打ち切られる。

 同じ目的地に行きたい者同士で組もうと言いたいのだろう、クリスと翼が行きたいのは何処なのかと尋ねる。

 

「……風鳴邸が選べぬと言うならば是非もない。私は皆神山を目指したいと考えているが、雪音はどうだ」

 

 ブリュンヒルデの希望に翼が答える。

 風鳴邸はベディヴィエール、マリア、響が担当する以上翼の入り込む余地はない。深淵の竜宮と皆神山ならどちらがいいのかを考えた時、翼からすればまだしも知識がある皆神山に行きたいと考えるのは自然である。

 ……皆神山の守護天として召喚されているという、ブリュンヒルデ曰く戦乙女。もし彼女が擬似サーヴァントであるなら、あるいは自身の知己に会えるかもしれない、戦うことになるかも知れないということも理由に含まれていたが。

 

「……ちッ、わーったよ。あたしはマリアの代わりにあのイカレぽんちの本性開けっ広げてきてやんよ」

 

 翼の瞳に浮かぶ強い意思を受け、しょうがないとばかりに肩をすくませる。

 皆神山と聞いてクリスが最初に連想した相手はどうにも不在であるらしいし、それなら行きたい人間に譲るべきだろうとクリスは内心でそう思っていた。……勿論、ドクターと関わりたくないしダビデと組みたいわけではないが、誰かが引かねばならない貧乏籤をひいただけだと己に強く言い聞かせることも忘れていない。

 

「本性は知ってるからいいわ。何を考えているのか聞き出せれば聞き出して頂戴な」

「へーへー」

 

 クリスの半ばヤケな意気込みを冗談交じりに受け取り、ついでとばかりにクリスにウェルの真意を聞き出すように頼むマリア。

 元々ウェルの考えていることも調査するつもりだったクリスは彼女の言葉を適当に受け流しつつモニターに向き直った。

 

「ってなわけだ。あたしはスケベ野郎とだ。組み合わせはこれでいいか?」

『君たちがそうすると決めているのなら問題はないとも。それでは翼はブリュンヒルデ……さん?とだな。どうだ翼、問題ないか?』

「はい、問題はありません。護国の刃、人護の防人として存分にこの剣を振るわせていただきましょう」

 

 そういって翼がブリュンヒルデを見れば、目線があったのかブリュンヒルデが薄く微笑む。

 

「そうですか……。それでは、宜しくお願いしますね、剣の貴女」

「こちらこそ。神話に語られる戦乙女の力、存分に頼らせてもらうとしましょう」

 

 翼がそう言って手を差し出せば、ブリュンヒルデはそれに応じて確りと手を握る。

 どうにも掴みどころのない女性ではあるが、立香が隔意なく接しているところを見れば悪人ではないのだろう。一度共闘した中でその実力が確かなことも重々承知している。

 握った手から伝わる不思議な力強さに、彼女という英霊の頼もしさが感じられるようだと翼は思った。

 

 

 

「はあ、スケベ野郎と一緒にウェルん所ってどんな罰ゲームだよ」

 

 一方、盛大に愚痴を漏らしているのはクリスである。

 しょうがないと納得してはいるものの、それでも何だかんだ仲良くなっている他の組と比べて自分の組む相手と戦う相手のアレさに今から頭痛を覚えるほどだ。

 

「ふふ、安心してほしいなアビシャグ。──僕はアビシャグには紳士的だよ」

 

「……今までの言動で信用の置き場をガリガリ削っておいて、よく言えるなこのオッサン」

 

 正気を疑うような眼差しをぶつけるクリス。

 一応ダビデの伝承を考えればアビシャグには紳士的という本人の言に間違いはないが、それも本人を見る前の話。

 当人の目の前で堂々と体型や身長等を論じた上、別人の名前で呼ぶ始末。

 これで紳士的だというのは土台無理ではないかというクリスの思いは、S.O.N.G.職員や装者のみならず、カルデア職員やサーヴァント、そしてマスターである立香を含めて話を聞く全員が抱く思いである。

 

「ま、まあほら。実際に手を出すことはないし……。というかダビデもホント控えてよ?頼むよ?」

「ははは」

 

『……大丈夫、でしょうな?』

『流石にこの状況でアホやれるほどダビデ王はぶっ飛んでないよ。アレは本人にとっちゃ軽いスキンシップみたいなものだろうね。現代基準では褒められた話じゃないけど』

 

 カルデアの面々に(一応)ダビデの行動を保証され、それならと渋々納得する。どちらにせよ組む相手がこれ以上いないためそうせざるを得ないのだが。

 

「……はあ、まあ頼りにしてるぜダビデさんよ。あたしは接近戦苦手だからな、うまいことカバーしてくれると助かる」

「そこは勿論。戦いであれば僕はやるよ、女の子遊びよりもね」

「……本当だな?信じるからな?」

 

 念押しするクリスに問題ないと頷くダビデ。

 クリスは色々と貧乏籤をひいてしまった自覚があったが、しかしダビデ自体は心強い戦力であることは確かである。

 

「それに……そうだね。僕が何を縁にこちらに召喚され得たのかを考えれば、深淵の竜宮にいる……えっと、ウェル?博士だったかな。彼と僕になにかの因縁がある可能性は十分にある。僕は因縁がある相手には負けたことが無いからね、大船に乗ったつもりでいるといい」

 

 堂々と言い切るダビデに、思わずクリスは面食らい、次いで苦笑する。

 先程までの一種軽薄とも呼べそうな態度から一変したその様子は、自然体でありながらも威風のようなものが感じられる古代の王としてのカリスマに溢れていた。

 

「……そうかよ。ま、そこまで言うなら期待してやるさ。巨人退治に頑張って精を出してもら……。ゴライアス、そっちではちゃんと巨人だったんだよな?」

「え?そりゃあ巨人だけど……。え、どういうことだいクリス?こっちでは巨人じゃないのかい?」

 

 クリスの言葉に思わず真顔になるダビデ。呼び名もさっきまでのアビシャグではないあたり、余程驚いたらしい(ちなみにクリスが戦ったゴライアスは完全聖遺物であり、見た目は巨人ではなくメカニカルな直立歩行の怪獣みたいな姿である)。

 

「……ああ、いや気にすんな。こっちの話だ」

 

 妙に慌てていると言うか、あるいは驚いていると言うべきか。その様子がなんだかおかしくて思わず笑いをこぼす。

 

「ま、よろしく頼むぜ」

「ああ、任せてくれ」

 

 腑に落ちないという表情をしつつも、クリスの言葉に人好きのする笑顔で答えるダビデ。

 彼のそんな姿を見て、普段はふざけているだけで案外ちゃんとした奴かもしれないとクリスは今更ながらにそう思った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。