SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order 作:222+KKK
彼女たちが来たのは、各魔都の攻略の組決めが終わり出立の準備をしていたときだった。
「到着、デスッ!いま人類は大いなる一歩を踏み出したのデースッ!って、なんかすっごいキラびやかデースッ!?」
「もう色んな人がここに来てるよ切ちゃん……。でも、確かに綺麗だね……」
楽しげな掛け合いとともに現れた2人の少女。
1人は全体的に緑色系の装いに金色の髪。所々のバツ印の意匠の飾りや特徴的な口調が印象に残る。
もう1人は桜色、あるいは桃色の比率が多い服を着た黒髪、ツインテールのストレートヘアの大人しげな風合いが見て取れた。
ギャラルホルンゲートに造られた豪奢な神殿風通信施設に驚いているその姿について立香やサーヴァントたちは見覚えはなかったが、それでもその2人が誰なのかは見当がついていた。
「切歌ちゃん、調ちゃん!待ってたよ~ッ!」
「あ、やっぱりこの2人がこっちに来るS.O.N.G.の装者の最後のメンバーかぁ。カルデアのマスターの藤丸立香です、よろしくね?」
響の言葉を聞き、己の推察が当たっていたと把握できた立香は2人に声を掛ける。
なんか自身に比べて若干年少っぽいため、なんとなくお姉さんぶってみたくなった立香は若干丁寧さの増した自己紹介をする。
「クッ……ククッ。似合わないよマスター」
「……いいじゃん。たまにはこう、優しくて丁寧なお姉さんキャラみたいなポジションに立ってみたいよ私も」
その言葉遣いがなんというか似合わないと思ったのか後ろの方で笑いを堪えているアマデウスに、立香は不貞腐れたような表情を向ける。
尚、カルデアには母親然としたサーヴァント等は幾らかは居ても、優しくて丁寧なお姉さんキャラみたいなポジションに該当する存在は殆ど居ない。よって「たまには」も何もあったもんではないのだが立香は敢えてそこから目を背けている。
「貴女が、平行世界の魔術師組織の人……。ええと、月読 調です。あっちの子が……」
「おおっと、自己紹介は自分でやるデスよ。はじめまして、アタシは暁 切歌デスッ!今後ともヨロシクデースッ!」
「おっと、うん、よろしくねー」
そんな彼女の微妙な心根を軽く流して自己紹介をする調と切歌。
アマデウスにいじられてやや凹んでたものの直ぐに立ち直った立香は、2人の第一印象として静かな月と明るい太陽を連想した。名は体を表すとはこのことかー、などと自己紹介を受けた立香は勝手に考えていた。
「お、やっと来やがったのか。宿題はちゃんとやってからこっちにきたんだろうな?」
立香がポヤポヤと益体もないことを考えているところに、2人が来たことに気付いたクリスが声を掛ける。
彼女がいの一番に心配するのは彼女らの宿題である。なぜなら2人がサボると学校の座学にとても強いクリスが面倒を見てやる必要が出てくるためだ。
「イヤイヤ、平行世界の大ピンチとあれば宿題の1つや2つに足止めを受けるアタシじゃ無いのデスッ!」
「帰ったら、やりますから。……大丈夫、朝礼前までならイケます……ッ!」
「……まあ、そんなことだろうとは思ってたけどよ」
2人の無駄にキメた台詞を聞いたクリスは溜め息を吐く。要するにすっぽかしてきたのであるが、クリスの溜息からは自分の予想が当たっていたことに対する納得と諦観の感情が透けて見えた。
……ちなみに予想が外れていたマリアはがっくりと肩を落としており、話を聞いていた響はそもそもこの異変は朝礼前に片付くんだろうかと首を傾げていた。
『さて、そちらに調くんと切歌くんが到着したということで、2人には事前に話していた通りギルガメッシュ王とともにギャラルホルンゲートの水際防衛を頼むことになる』
「アイサー!デス!」
「了解です」
彼女たちの悲喜交交とした会話を打ち切るように、弦十郎の声が辺りに通る。
テンション高めだった調と切歌も指示を理解・対応出来る程度には組織人であるため、判っているとばかりにキッチリ返事をする……個性は出ているが。
そんな彼女たちに声を掛ける存在が1人。
「成程、ボクとともに戦うのは君たちということですね。……何処ぞの贋作屋と違って、欠片ではあるけれど此方の真物たるザババの二刃に認められているのであれば合格点だ。ええ、宜しくお願いしますね?」
ゲートを魔改造した黄金の玉座に座りながら声をかけたのは、子ギルこと英雄王ギルガメッシュその人である。
調と切歌は声の聞こえてきた方向へと振り返り、そこに築かれた宝具の山による通信施設をみて眩しそうに目を細めた。
「おおぅ……。アナタがこのゴージャス溢れるお金持ちデスか……。これからよろしくお願いするのデース!」
「すごいよ切ちゃん。もう見た目からお金持ちになるべくして生まれているようなこのオーラ……。あ、宜しくおねがいします」
ゲートを神殿宜しく改造した張本人たる子ギルに対し、お金持ちっぽいという以外に特に物怖じしない2人に、思わず彼は苦笑を溢す。
王だなんだと戦かれたり敬われたりすることはあれど、純粋に財があることだけにここまで驚かれるのはなかなか無い。
「ええ、宜しくお願いしますね」
彼女らの貧乏性と生来の気質によるものだろうが、ただ王気に戦慄するような手合よりはるかに面白い存在だ。そう思った子ギルは、人好きのする笑みで2人に言葉を返した。
『そして、2人が揃ったからには君たちには出立の準備をしてもらうわけだが……』
『……そういえば。先輩は待機ということになるんでしょうか?』
弦十郎の言葉に、そう言えばとマシュが思い返す。
立香は非戦闘要員だが、それでも基本的に戦場に赴いて指示を出すことは多々あった。
ソレは長旅の中で形作られたマスターとしての矜持の産物……と言うより、マスターの仕事であるという彼女自身の理解によるもの。
故に今回も現場に出て指示を出すものかと考えていたのだが。
後輩の純粋な疑問に、居心地が悪そうな笑みを浮かべる立香。
「いやあ、それが……」
と、弁明のために口を開いたところで、そこに別の声が割って入った。
「……幾ら何でも、ノイズとの戦場にそいつを向かわせるつもりはない。カルデアでどのような戦いがあり、どの様にくぐり抜けたかは推し測り難いが、それでも苦難の旅路を踏破してきたのは容易に想像できる。
だが、ノイズは接触した時点で即死する劇物。炭素分解機構を無力化出来ない輩が出向くべきではないだろうよ」
「って、キャロルちゃんがね……」
キャロルの厳しい言葉に苦笑で答える立香。
今までの旅路で立香が攻撃を受ければ即死、という敵に見えたことは何度もある。だが触れただけで抵抗不可で即死するような相手は流石に経験がないのも事実。
まして立香の護衛に割ける戦力に限りがある現状で、むやみに戦場に出すつもりはない……というのがキャロルの出した結論である。
当然カルデアの面々も理解していたようで、ダ・ヴィンチがそりゃそうだと納得の表情を見せる。
『うーん、正論。一応マスターは楔のようなものだからあまりサーヴァントとは離れてほしくはないけど……』
「でもマスターを守るために戦闘が疎かになるのも問題だと思うよ?今回は超級の敵+取り巻きを相手に各組2~3人でたたかう少数精鋭方式だから、1人がマスターを守るだけで戦力ダウンが著しいしね」
『そうなんだよねぇ……』
ダビデがキャロルに同調する意見を出す。
マスターはサーヴァントを現世に留める楔であり、マスターから物理的に距離を置きすぎるのが魔力の供給という観点から問題となるのはダヴィンチの言う通りである。
だがそれ以上にダビデの、ひいてはキャロルの言葉がド正論なのはその場の面々も等しく理解していた。
「そもそもマスターが分裂できるわけではないので、何処かの魔都にマスターが行ったらその時点で他の魔都のサーヴァントは余計に弱体化しますけどね」
「あ、そっか。今の場所から3方向だもんね、魔都。どっかに近づいた分だけほかの魔都から離れちゃうんだ」
子ギルの更なる追撃に、なるほどーなどと響がのんきな反応をする。
現状が各魔都からの距離が比較的一定である以上、必要以上の弱体化を避けるにはこの近辺(各魔都からの実平面距離が等しくなる地点は別にあるが、拠点化を碌にしていない座標での待機は危険すぎるということで論外である)での待機こそが最も有用であるというのは一定の理がある。勿論完全に正しいわけではないが、どの魔都でもしくじれない以上なるべく戦力を均衡配置させるのは必要なことでもあった。
「んー、じゃあ私はキャロルちゃんとアマデウスと一緒に待機……なんだけど。そう言えばこっちのS.O.N.G.の本部?だっけ、そこを拠点にするんだっけか」
なんかダビデが運び込んでたよね、という立香の言葉に、今更かとキャロルが溜息を吐く。
「ああそうだ。少々調整したい物品があってな……。まあ安心しろ、雑兵程度のデモノイズならオレのアルカ・ノイズでどうにでもなるし、指揮者デモノイズが相手でも魔都の中心部に配置されている奴らに比べれば十分だ」
「それに、いい感じの音響設備があって待機に向くのは其処しか無いらしいからね。僕の歌を全員に常時配信するにしても、なるべく音質は維持しないとね」
キャロルとアマデウスの言葉に、そういうものかと立香は納得する。
と、そこで本部の話題が出たことでついでに話そうと思ったのか。そうだそうだ、とダ・ヴィンチが口を開く。
『各組に配ったキャロル謹製のテレポートジェムの転送先もそのS.O.N.G.本部になってるから、一応憶えておいてね……まあ転移先を変えられるのはキャロルくらいだろうから本当に憶えておくだけだけど』
「うん?ギャラルホルンゲートでは無いのでしょうか?確かそのように聞いていましたが」
疑問に思ったベディヴィエールがダヴィンチに確認する。
仕事が終わればギャラルホルンゲートの護衛に加わるものかと思っていたのか、疑問の表情を浮かべている。
『最初はその方が手間がなくていいかと思ってたんだけどねー。ただほら、まずキャロルの元に戻ってくれば、キャロルがギャラルホルンゲートまでのテレポートジェムを作ってくれれば事足りるわけだし』
「……まあ、作っておく予定ではあったがな」
作る前提で語られるのもどうかと思う、そう言外に語るキャロルは若干面倒臭そう……というか、しんどそうな表情を浮かべている。
テレポートジェムは空間に干渉する錬金術の産物であり、そこそこ高度な技術が用いられている。数を作るのにはあまり向いていないのかな、と立香は同情の目線を向ける。
「それ以外にも各魔都への転送用も一応用意してある。オレの所に戻すのは、オレが中継点足り得るからとだけ考えておけ」
「成程。おかげで疑問が晴れました。ありがとうございますダ・ヴィンチさん。そしてキャロルさんも」
ベディヴィエールが律儀に謝意を述べ、キャロルが若干面食らったような表情を浮かべる。次いで胡乱げな視線をベディに向け、最終的にはやれやれと肩をすくめた。
「……この程度に感謝などいらん」
そういいつつ、自身の表情を帽子の大きな鍔で隠す。帽子の裏側の表情は見えないまでも、照れているのかと思った響がニコニコと声に出さずに笑う。
「……何が言いたい」
「ううん、なんでもないよ!」
「……チッ」
ふい、とそっぽを向くキャロルに皆からの生暖かい視線が注がれる。
やがて居心地が悪くなったのか、キャロルが憮然とした表情で口を開いた。
「……さっさと行くぞ」
「はーい。……それじゃ、みんな頑張って、命を大事に!」
「おっと、僕もいかないとだね。それじゃ歌女ちゃんたち、いい感じの歌を期待してるぜ?」
立香とアマデウスがキャロルの後ろについていきつつ、明るげに、しかし真摯な言葉を投げかけた。そしてその言葉を最後に、キャロル及びアマデウス共々テレポートジェムの光に消えた。
立香らが拠点とするS.O.N.G.の本部へと転移するのを見送ったところで、切歌がポツリと言葉を零す。
「……あんまり話せてないけど、優しそうな人だったデス」
「普段はもうちょっとテンション高めですけど、まあ彼女は一般的な人間ですからね。年下には優しくするのは当然だと思いますよ?」
まあ一般人にしては適応力と胆力が並ならぬ様にまで成長していますが、と最後に付け加えて立香を評する子ギル。
「ソレはまあ、ね。言っちゃあれだけどマスターはその一般的な感性こそを求められている面はあるし」
『そうなんですか?』
ダビデの言葉にエルフナインが首を傾げる。少なくとも今まで接してきた英霊たちは一般的感性とかけ離れている……とまでは言わないにしろ、やはり常人のそれとは違うというのが彼女の所感だ。
だからこそマスターにも一種非凡性が求められているのでは、とエルフナインは考えていただけにダビデの言葉に驚きを見せていた。
エルフナインの疑問に、当然というようにダビデは笑顔で答える。
「本来なら、サーヴァントを使役するためには魔術師としての能力は重要だよ?そういう意味ではマスターに非常性が求められるけど、カルデアのマスターは別なのさ」
『カルデアのサーヴァントはカルデア自体の電力を魔力の代替とすることで召喚コストを賄っているからねー。マスターに求められるのは戦術・戦略眼と人格となるわけだ』
「でも、戦術や戦略に長けた英霊なんて山程いるからね。そうなればホラ、英霊と親しく交流できるなら戦略眼とかは要らないから……最終的に一番重要なのは人格ってことになるだろう?」
ダビデとダ・ヴィンチの説明に装者やエルフナインは成程、と納得する。
が、そこでエルフナインはソレだけでは説明できない点があることに気付いた。
『……ですが、それは一般的な感性が必要とされるということとは微妙に異なるのでは……?』
「まあね。ただ英霊っていうのは文字通り過去の英雄が基盤として構築されるものだからね。ほら、英雄は基本的にお人好しだから『頑張って生きている何処にでもいる一般人』の味方をしたくなるものだろう?反英霊とかの例外はまた別だけどね」
「はー……」
ダビデの語りに、聞いていた装者たちは感嘆の息を吐く。
立香は英雄に好かれる質である、というダビデの言は成程と頷かされるだけのものである。
「まあ、ボクなんかは面白がって着いてきてるところはありますけどね」
「……話の余韻がブチ壊れたデス……」
「ははは、まあまあ。英霊だって千差万別ですよ」
ダビデの含蓄ありそうな語りを盛大になかったコトにする子ギルの発言に切歌が苦言を呈すも、当の子ギルは笑って流す。
当たり前だが英霊には英霊の事情があり、立香に召喚される理由も様々である。ダビデの話にも出ていた反英霊などはある意味その極地であり、単純に立香が好き程度ならまだしも事あるごとに爆弾を送りつけるような歪んだ好意(のようなもの)を見せるものまで正に多種多様としか呼べない有様である。
と、そこで子ギルの言葉にふと響が疑問を抱く。
「……ってことは、立香ちゃんと敵対する英霊とかも居たってことなの?次の魔都とかもそういう英霊がいるってこと?」
ダビデの言を聞く限り立香が英霊好きのする性格であるらしい。であれば、英霊たちと戦うようなことはないのだろうかと響は思っていた。
しかし子ギルの言う英霊が千差万別という言葉や実際に魔都で擬似サーヴァントとは言え英霊(実際は神霊らしいが響にはあまり差がわかっていない)と敵対している現状を鑑みれば、英霊と戦う場面も当然あったのだろうかという考えに至ったのだ。
子ギルは笑みを崩さぬままにその質問にうなずいた。
「それはもう。ボクも何度かマスターと敵対した記録が残ってますし、ブリュンヒルデはマスターの記憶を術で混乱させたりしてましたし」
「ええッ!?」
子ギルの唐突な暴露に驚く響。思わず翼の隣へと目を向ければ、恥ずかしそうに俯くブリュンヒルデの姿。
「急にそんなことを……困ります……。ですが、ええ。あれもマスターの靭さを確かめるためのことでした。結果として彼女が期待通り──いえ、期待以上の輝きを持っていることを知れたので、あれはあれで良かったのだと思います」
「ええぇ……?」
開き直りにしか聞こえないようなブリュンヒルデの言葉。しかし彼女の本当に嬉しそうに語る姿見た響は、ブリュンヒルデがそれを至極当然のように、確信を持って語っていることがありありと理解できた。
今まで物静かで穏やかで強い大人の女性みたいに思っていたために印象の落差が激しい。
『ブリュンヒルデさんは相変わらずですね……』
という苦笑交じりのマシュの言葉に追従するように、うんうんこれでこそ……だとか、本当に変わんないっすね……とかそんなガヤがカルデアのマイクから漏れ聞こえてくる。
響にとってはショックの大きい彼女の姿もカルデアの関係者からすれば慣れたもののようであり、むしろこの姿のほうがカルデアでよく見られているみたいな言い分まであった。
「……その、なんだ。どういうことだ?」
つつ、とブリュンヒルデから心持ち距離を置き、ダビデに話を聞いてみる翼。
今まさに自分と組むということになったブリュンヒルデの秘話が詳らかにされたことで、組む相手に対する若干の警戒心が芽生えていた。
「マスターの事かい?それともサーヴァントの事?」
「……サーヴァントの事だ」
翼の訝しげな視線に、ダビデが肩をすくめる。
「まあ、英霊の価値観が現代人のそれと一緒ってことはないのさ。時代、文化、立場が違うわけだしね。まして神代の英雄は視野からして異なることがね……」
「それは、まあそうだろうが……」
納得は出来るが、それはそれとして不安を感じる翼。
翼は現代人、ブリュンヒルデは古代の戦乙女。考え方が違うのは当然であるが、うまく合わせていけるだろうかという不安が彼女の声からは滲み出ていた。
「それに僕だってある意味そうさ。ハッキリ言うけどね、僕が立香ちゃん以外に召喚されていて、立香ちゃんが僕が立てた目的の障害に立っていたなら……好ましく思いこそすれど殺そうとすると思うよ?そうなった僕はこの僕とは違うから明確には断言できないけどね」
「……!!」
ダビデの唐突な言葉に、サーヴァント以外の全員がダビデに鋭い目を向ける。
特に隣から来るキッツイ視線を意にも介さず、ダビデは連々と語り続ける。
「僕のパーソナルは合理主義、信仰、利益、王という所に比重が置かれているからね。召喚者によって優先順位が変わる事はあっても、基本的に根本を変えることは出来ない。冷徹な王としての側面が僕にあり、人を合理に則り切り捨てることが出来る人間なのも事実。立香ちゃんが英霊に好かれやすいからと言って、それを好ましく思う英雄が彼女を絶対に殺さないということはないんだ」
ダビデの言葉に、場の空気が重苦しいものとなる。
普通に話せるからこその一種の勘違いであろう。英霊たちは英霊たちのロジックで動いているが、それが現代の基準で真っ当であるとは限らないということを聞いていた者達は改めて理解させられた。
と、そこまで語ったところでダビデは真剣そうな表情を一転させ、爽やかな笑みを皆に向ける。
「ま、真面目ぶって語っちゃいたけど要するに英霊って現代基準で倫理観がゆるい連中が多いってことだよ。ほら、ケルトや北欧の戦士みたいに好ましいという感情と殺意を同じ相手に向けて矛盾しない精神性を育む文化もあるわけだし」
『迷惑には違いないけどね。ただ、ブリュンヒルデは戦乙女、勇猛果敢たる戦士を現世より見出しヴァルハラへと歓待する存在だ。であれば、立香ちゃんに与えた一連のアレコレも彼女にとっては正当な行為でしかないと言えなくもないでもないんだよね』
『ふむ……いや、あなた方の在り方はよくわかった。であれば、まず何より意思の疎通、そして価値観の共有……少なくともともに戦う英霊の価値観に理解を示すことこそ重要ということか』
ダビデ、そしてダ・ヴィンチの言葉に弦十郎が得心がいったという表情でふむふむと頷く。
未だ彼らを確りと理解できたわけではないし、ダビデの言うような好ましいという想いを抱えたまま遠慮呵責なく戦えるというのは弦十郎たち現代の人間からすれば慮外の精神である。
だが、だからと遠ざけ理解を諦めるつもりは毛頭ない。価値観の共有こそ不完全だが、それでも互いに意思を疎通できる。それだけでもS.O.N.G.に所属する人々はともに手を取り合えると信じていた。
不安を感じていた翼も彼らの言を聞き、ならばこそと意を決する。
「では私も道すがら、彼女と連携できるよういろいろ話してみようと思います。やり方はどうあれ、彼女は藤丸を尊び行動できるというなら、それだけでも十分に信頼に値する」
『それが良い。ブリュンヒルデはああ見えて英雄の介添としてのスキルを高ランクで取得しているからね。むしろ連携って意味なら他のサーヴァントよりイージーだと思うよ』
「ふふ……。私が英雄かどうかはともかく、それは心強い」
ダ・ヴィンチの言葉に小さく笑い、翼はブリュンヒルデの元へと戻る。見ればブリュンヒルデは元の場所で丁寧に待機しており、戻ってきた翼にも薄く笑顔で迎えてくれている。戦乙女としてのものかはともかく、これも気遣いなのだろうと思い至り翼にも小さく笑顔が浮かぶ。
色々ととんでもないことをしているということを伝聞し驚いたものの、それでも彼女はともに戦う相手を尊重して行動している。そう翼は理解し、安堵とともにブリュンヒルデに話しかけた。
翼がブリュンヒルデと口数少なに、だが丁寧に言葉を交わす姿にほっこりしていた響は、なにか忘れている気がして首を傾げ……思い出したかのように叫んだ。
「……あ、そうだ!それで聞きたかったことなんですけど!えっと、私達が向かう魔都なんですけどッ!」
「テンション高いですね」
話がダビデから微妙に逸れ始め、いつの間にかブリュンヒルデの話になっていたことに気付いた響の叫びに、子ギルが耳を半分覆いながら笑顔で突っ込む。
「えっと……サーヴァントってアムドゥシアスに絶対に従うものなのかなって。魔都にいるサーヴァントが良い人ならなるべくなら戦わないほうがいいって思って……」
「ああ、敵対が云々ってそういう疑問から来てたのか。確かにサーヴァントって結構我が強そうだけど……どうなんだ?」
響が急に声を荒げたことに驚いていたクリスも、その行動の理由を聞き納得する。
と、そこで翼と話していたブリュンヒルデが2人の会話を聞いていたのか口を挟む。
「ええ、そうですね。……私の姉妹、戦乙女。ツバサと共に赴く魔都にいるであろう彼女。戦乙女であれば、まず従う可能性が高い。私は感情を得たために人に堕されていますが、本来の戦乙女は神に従う自動人形のようなもの。召喚された、という時点で大体は召喚者に従うものなのです」
「そっかぁ……。竜宮の魔都はウェル博士だから置いておいて、そうするとヌァザ……さん?だっけ、その人はどうなんでしょうか?」
ブリュンヒルデの断言にがっかりしつつ、ある意味本題である自分たちの向かう魔都の相手について尋ねる響。
今回の作戦においてカルデア・S.O.N.G.が一番注力する風鳴邸の魔都だが、逆に言えばその魔都を手際よく攻略できればそれだけ他の魔都への支援に向かえる可能性が高まる。
根本的に争いより和解を求める性質である響が魔都攻略の手際まで踏まえた上で先の発言をしたかどうか、と問われればまず無いだろう。だが相手が対話に応じた場合のメリットを考えれば、風鳴邸の魔都の主の対話性を考慮する価値は十分にある。
『私は会ったことが流石にないから相手の性格は理解できないけど、伝承に語られるとおりなら悪神ではないし神らしい奔放さも薄いね。フェニアンサイクルで語られる彼は少々あれだが、神話サイクルでは勝利と奮戦の果てにバロールの召喚した邪竜に殺されたとされている。王としての信念や価値観も持っているあたり、ある意味神としては珍しいタイプって言えなくもないかな』
ダ・ヴィンチがヌァザの神話から読み取れる情報を少しずつまとめていく。
実際の性格と神話上の内容は乖離が見られる場合があるので正確な情報とは言えないが、それでも対話できるかどうかの指標として考えれば十分に評価に値する話だった。
そしてその情報を一番に喜んだのは当然響だった。
「そんな神様だったら、まずなんでこんなことに加担するのかを話し合いたいですッ!」
『神様って時点であまりおすすめはしないけどね。まあ実際の神様会話は響ちゃんのトークスキルに期待するとしてもだ、風鳴邸の守護天がアムドゥシアスに従う理由が判明すれば今後の対応について検討が容易になる。ぜひともいい感じに頑張ってくれたまえ響ちゃん』
「はいッ!一直線に伝えますッ!」
ダ・ヴィンチの微妙に気の抜けたなんとも言えない激励に対し、全力の意思表明。ダ・ヴィンチは響という少女の人間性がわかる一幕に苦笑を漏らしつつ、先程までの話を──正確には、そこに出ていた神に思いを馳せる。
(にしても、ヌァザか。……神話におけるヌァザは、戦神というだけあって機を見るに敏という表現が当てはまる神であり、逆に機が来なければ来るまで耐えしのげる神でもある。あるいはそう、魔神に従うことも何らかの機を伺っている可能性もあるということかな?)
ダ・ヴィンチはその優れた脳髄に思考を走らせる。
先程までの戦いの結果。相手から得られた情報。カルデア、そしてS.O.N.G.が導いた情報。それら全てを彼女は苦もなく脳に刻み、己の思考のパーツとしていく。
そして、その結果として1つの事柄に気付いた。
(……少なくとも、能動的に従っている可能性は無いな。恐らく概念的なモノによって無理やり従わされているとすれば、それは──)
ダ・ヴィンチの脳裏に浮かぶのは、戦神ヌァザの武勲と凋落。アガートラムの根本に関わる戦神の逸話。
(──あの後彼女らから聞いたDr.ウェルという男の顛末。そして彼と魔神の去り際の会話。であれば──ヌァザが待っているのはやはり、彼女たちということか。やれやれ、戦いを避けられるほど知的な神様であればいいけど)
ダ・ヴィンチは目の間で意気込む響の意志の強い目を見やる。
"主神の槍"の欠片という聖遺物を纏う彼女は、その全身からエネルギーが放出されているように錯覚するほどにやる気に満ちており、今もえいえいおーと自分自身に気合を入れている。
ダ・ヴィンチはその様子を見て、一言だけ声をかけようと考えた。
『……ねえ響ちゃん。対話で済めばいいけど、済まなかった時はどうするつもりだい?』
「対話ですまなかった時、ですか?そんなの──」
ダ・ヴィンチの問に少々驚いた響は、しかしすぐに調子を戻しニコリと笑顔を見せる。
「──私の想いを伝えますッ!最速で最短で、そして勿論一直線にッ!伝わるまで、諦めませんッ!」
その笑顔に、ダ・ヴィンチは僅かに目を見開き、次いで僅かに表情を和らげる。
『……そうか』
『どうしたんですか、ダ・ヴィンチちゃん?』
何か納得したかのような、あるいは安心したかのようなダ・ヴィンチの様子に、不思議に思ったマシュが尋ねる。
『いいや、ただ──どちらにせよ上手くいきそうだって思っただけさ』
マシュの問にそれだけを答えたダ・ヴィンチは、スッキリしたと言わんばかりに椅子に深く腰掛けた。