SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order   作:222+KKK

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第1節 歌と魔術の邂逅(2)

 

「────ぉ、おおっと。ここが今回の特異点……。現代日本にしか見えないけど、でもこれは……」

 

 レイシフトが完了した立香が目を開けた時、そこに広がるのは現代日本の要素の色濃い世界だった。以前訪れた亜種特異点Iと同様、コンビニエンスストアやチェーンの飲食店(店名などは彼女の知るものではなかったが)のような、彼女にとっても見覚えのある世界。……ただし、それが廃墟と化していなければ、だが。

 一部は炎上しているのか黒煙が立ち上っている場所も残っている。まるでかつてレイシフトした特異点Fのような光景に立香が呆然と立ち尽くしていると、そこにカルデアからの通信が入り、立香の正面にモニターが展開される。

 

『あー、聞こえるかい立香ちゃん?──うん、どうやら今回もちゃんとレイシフトできたようだね。そっちの世界の情勢がちゃんとしているのかはともかく』

 

「ダ・ヴィンチちゃん。その、この世界の状況って……」

 

『ああ、こちらでもモニターで観測しているけどかなり異常な状態だとも。その時代の東京がそこまで崩壊するなんてことは本来はまずありえない。……それと、西暦2000年台というのは原子力兵器をはじめとした大量破壊兵器が世界中に存在している時代だから、もし首都圏が崩壊するような事態であってもそれで特異点化するかは微妙だねぇ。とりあえず、今から君の観測を通じて周囲の世界法則を把握していこう。ある程度法則が把握できればこちらからサポートサーヴァントをレイシフトさせることができるから、それまで少々待っていてくれ』

 

 ダ・ヴィンチから立香へ現状・推察及び今後の方針を告げた後、カルデアからの通信モニターが消える。見知ったような風景、自分の国の首都がここまで崩壊しているという事実に衝撃を受けていた立香だが、驚いていても仕方ないとばかりにやにわに周囲の状況把握を始めた。

 

「……よし、とりあえず周りを見よう。えーっと、あれがコンビニで、向こう──うわ、結構遠いけどスカイツリーかなあ?微妙に形違う上に折れてる……って、スカイツリーがあんなにちゃんと見えるってことは、ここもしかしなくても新宿じゃないじゃん!えっと、そしてあそこにあるのが緑色の光で、あっちの丘のアレは折れた……塔、かなあ。なんかどれも折れてるような──」

 

 周囲の状況を1つづつ確認していき、自分の知ってるもの、知らないものを見比べ、とりあえずここが新宿ではないことを把握する立香。スカイツリー的なものが普通に見える辺り、東京ではあるようだが新宿じゃないなー、などと考えていた辺りで。

 

「……えっ!?ちょ、緑色の光って何!?私今何スルーしてるの!?」

 

 立香はあからさまに異常なものがあった事に気づいて、慌ててそちらに向き直る。立香の視線の先にはなんとも言い難い、人の背丈よりやや大きいくらいの緑色の光の渦のようなものが、地面より僅かに離れた空中に発生していた。 一周回ってゲームの魔法か何かにしか見えないそれは、魔術やら何やらに関わってはや1年余りの立香でも流石に見たことのない異常なものだった。

 

『先輩、一体どうしました?こちらの召喚準備は完了……っ!?え、ええと先輩?その、なんか光っているそれは何でしょうか……?』

 

「あっ、マシュ!ちょっと説明に困るんだけど、よくわかんない光の渦があって……。これって何?そっちでは何かわからない?」

 

 再度開いたカルデアからの通信に、思わずといった風に確認を取る立香。モニター前のマシュ以外にも、その背後のダ・ヴィンチを始めとしたオペレーター陣もモニター開いてすぐに映ったそれに面食らったらしく、えぇ……とか、何アレ魔力反応ないよ……?とかなんか全体的に宜しくない反応をしているらしいことが僅かに漏れ聞こえる。

 

『ええと、だ。とりあえずそれはなんか怪しいけど今は置いておいて。ちょっと様子を見れる程度の距離まで離れておいて、そこでサーヴァントをレイシフトさせよう』

 

「あ、はい。……とりあえず、ここらへんかな?ダ・ヴィンチちゃん、サーヴァントのレイシフトお願いしまーす」

 

 なんか変なのから結構距離を取り、何かが起きれば瓦礫等を盾にできるような場所でサーヴァントのレイシフトを依頼する立香。極力平静を保とうとはしているものの、謎の光が気になるのかチラチラとそちらを見ている。と、現界のための楔であるマスターの側に霊子が収束し、やがて2つの姿を形作った。

 

「──サーヴァント、キャスター。というわけで、宣言通り僕がきたわけだ。だけどマスター、もう1人には驚くと思うよ?」

 

「えー、前フリは良くないですよキャスター。……サーヴァント、アーチャー。今回はマスターのサポートに就きますので、がんばってくださいね、マスター?」

 

 1人は先程言葉をかわしたキャスターのサーヴァント、アマデウス。そしてもう1人のサーヴァント……神話の英雄とはとても見えない、金髪紅眼の小柄な少年の姿の英霊がマスターである立香の側に召喚された。

 

「アマデウスは良いとして……あれ、ギルくんも同時に召喚されたの?」

 

 立香は彼女がギルくんと呼ぶサーヴァント──子ギルが召喚されたことに意外さを感じていた。今回は全く別世界の、それも(崩壊しているとはいえ)文明的には近未来としか思えないようなこの特異点と、数えて4千年以上前の王であり英雄たる子ギル──ギルガメッシュとの関わりが彼女には思いつかなかったのである。

 子ギル自身もどうやら縁についてあまり理解しているわけではないらしく、苦笑を浮かべている。

 

「ええ、そうですね。マスターの困惑もわかりますけど、ボクもちょっと把握できてないといいますか、把握しようとするとあまり良くなさそうといいますか。ああ、そうだ。大人のボク達が来てないのは、単純に来るつもりが無かったからですので召喚ミスとかじゃないですよ」

「え、ええー……」

 

 成長後の自分が堂々とサボったことを笑いながらのたまう小さなサーヴァントに、思わず立香も苦笑いをうかべる。サーヴァントは英霊の一側面が強調された姿で召喚されるということが多く、側面の違いは例えばクラスの違いや、子ギルのように年齢などに現れてくる。同じ英霊ギルガメッシュでも、カルデアには子ギル以外にも「暴君たる英雄王」の側面を持つアーチャーのギルガメッシュや、「不死を探す旅路よりから帰還した賢君」の側面を持つキャスターのギルガメッシュが存在している。そして、子ギルの場合は「若くして完全な理想の君主」である英雄ギルガメッシュの側面であり、他のギルガメッシュに比べて謙虚で素直、空気が読めるといった特徴がある。一般庶民気質の立香からすれば一番付き合いやすい側面であるといえる。

 

「ま、まあギルくんがいてくれてよかったよ。アマデウス1人だとほら、何かあった時に色々と物理的に危ないしー……」

 

「おいおい、ひどいことを言うねマスター。いつも言ってるじゃないか──僕の音楽は君の『戦闘以外の全ての』人生を彩ると!」

「堂々と不戦宣言!?いつものことだけど!」

 

 何だかんださっきまでひとりぼっちで心細かったのか、アマデウスとテンション上げてコントを繰り広げる立香。そんな面白い様相を呈するマスターにあははと笑う子ギル。

 

「えー、よし!それじゃ探索したいところ……なんだけど……」

 

 立香が改めて仕切り直そうとするが、そこで先程の謎の光のことを思い出す。立香が恐る恐る先程の光があった場所に目を向けると、そこには相変わらず光が渦巻いている。召喚された2人に目配せし恐る恐る近づいていく立香をモニタリングしているカルデアのオペレーター陣も固唾を呑んで見守っている。アマデウスは耳を澄ませ異変を瞬時に察知できるように体制を整え、子ギルはマスターを引き戻せるようにと考え自身の宝具である「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」を展開できるよう魔力を高める。子ギルはそこでふと違和感を感じるが、マスターがいよいよ光に接触できそうな距離まで近づいたためにそちらを注視する。

 

「……っ、えいっ!……あれ、素通り……」

 

 側まで近寄った辺りで、手近に落ちていた小さい瓦礫を投げつける。立香の投げたそれは光を素通りし、そのまま地面に転がった。

 

「ふむ。ではこうしてみよう──『fortissimo(非常に強く)』!」

 

 アマデウスの詠唱とともに、その手に持つ指揮棒から不可視の波紋が広がる。指向性を持ち放たれた音は言霊に載せた魔力を纏い、神秘を伴う破壊の奔流としてきっかり音速で光の渦へと到達する。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトがキャスターとして召喚される理由である音楽魔術、神域の才から生み出される魔の響きはしかし、立香の投げた瓦礫同様に渦をすり抜け背後の地面を抉るにとどめた。

 

「……あの、ダ・ヴィンチちゃん。これって……」

 

『うん、ある程度は解析したけど、これは全く我々の知らない技術だね!空間に一定の干渉が確認できるから、どうやら一種の転移門に近いものだとは思う。でもこれは詳しくはしっかり見てみないことにはわからないなあ。ただ、その転移門に干渉──つまり、その転移門から転移するだけの条件をさっきの瓦礫やアマデウスの音楽魔術は満たしていなかったんだろう。ああ、だからって立香ちゃんは触っちゃダメだよ?』

 

「触んないよ!?」

 

 あからさまに怪しい光を前に、まるで注意しなきゃ触ると思っているかのような言い様に憤慨する立香。その膨れ面をみてカラカラ笑ったダ・ヴィンチは、とりあえずほかの場所や気になるものがないか確認してほしいと告げる。

 

『というのも、魔神柱のような、でも微妙に違う微弱な反応源が特異点中に存在しているんだ。何か異常なことが確認できれば、そうすれば、その特異点が荒廃している原因だって見つかるかもしれないからね』

『けど用心もしてくれ。微弱とはいえ、特異点中から魔神柱の反応だなんてまるでかの神殿のようだからね。世界法則が大きく違うこともあって、何があっても何が起きてもおかしくないんだ、気をつけて、かつどんな些細なことでもいいから調査して欲しい』

 

「──と、あの天才ダ・ヴィンチちゃんが言ってたから探してみるのですが。2人共、なにかあったー?」

 

 ダ・ヴィンチの言葉を受け、立香が周囲を探索することしばし。徐々に捜索エリアの中心を光の渦から遠ざけながら、立香は別な場所を探索していたサーヴァント2人に声をかける。

 

「ああ、見つけたよ。マスター、こっちだ。──これは少々どころじゃなく異常だぞ」

 

 マスターに顔を向けずその言葉に耳だけを貸し、自身の探索していた広場を凝視するアマデウス。その態度に立香は何かがあったということを察し、表情を引き締めアマデウスの元へと向かう。

 

「──こっち?……って、これは……炭?」

 

 果たしてアマデウスのもとへ到着した立香が見たものは──広場一面をに広がり、周囲を黒く染める炭素の砂塵だった。まるで炭の海とでも形容すべき光景に、立香は何とも言えずに困惑する。

 

『……構成材質、確認したよ。驚いたことになんと純正の炭素100%だ。流石に純正の炭粉が自然発生するなんてことはないし、これは十分に調査すべき内容だね。』

 

「何かが燃えたにしては周囲に焦げ跡がない。かといって、どこからか運ばれてきたにしては風に流された様子もない。まるで唐突に炭が生み出されたみたいだろう?これがこの世界の法則なのか、それとも人為的に何者かがやったのか、どちらにしても調べて見る価値はあるんじゃないかな?」

 

 カルデアの調査結果を聞いた立香は、アマデウスの提案の言葉に一も二もなく頷く。さっきの調査不能な光の渦は置いておいて、この特異点の理解に繋がりそうな初めての手掛かりであり、調査する価値は十分にあるものである。とりあえず、と立香が炭に近づこうとしたところで、側に来ていた子ギルが難しい顔をしていたことで足を止める。

 

「……ギルくん?」

 

「マスター、この炭はあちらの方に続いているみたいです。これらは材質自体はただの炭ですし、まずこの炭の発生源を調査しに行ったほうが良いと思いますよ?」

 

 子ギルの指摘に一理あると考えた立香は、足を止める。

 

「む、それは確かに。うーん、アマデウスもそれでいい?」

 

「……ふむ、いいんじゃないか?僕は自慢じゃないが音楽以外のことにはそこまで詳しいわけでもないからね。そこのちびっ子王様の方が世界について知る道筋に詳しいだろうとも」

 

 最初に別案を提案したアマデウスに、子ギルの案を優先することについて問題ないかを確認する立香。アマデウスは最初はニコニコ笑う子ギルをじっと見ていたが、やがてマスターへ笑顔を向けて応じる。彼の出した炭の調査案を蹴った立香としては、アマデウスが子ギルの意見に肯定的でほっとしていた。

 

『それじゃあ、炭の発生源を先に調査するんだね立香ちゃん。炭はどうやら都庁の方につづいているようだけど、その炭の発生原因は不明だから気をつけ給えよ。唐突に出現した炭をかぶってシンデレラにならないようにねー』

『先輩、周囲は火災等であまり良い環境とはいえませんので、体調に気をつけてくださいね』

 

「うん、ありがとう2人とも!──よし、行こう!アマデウス、ギルくん!目指すは、えーっと……ゴー・都庁!」

 

 ダ・ヴィンチとマシュの言葉を最後に通信が閉じる。立香は気合を入れ直すと、サーヴァント達に呼びかけた後に炭が続いている方向──都庁方面へと歩を進める。人理修復で磨き上げた健脚の賜物かずんずん歩いて行く立香に、アマデウスと子ギルもついていくように歩きだす。

 

「……で、どういうつもりだい?もしかしてあの炭、なにかまずいものなのかな?」

 

「ああ、わかっちゃいました?」

 

 歩調を僅かに緩め、立香から若干後方に距離を取り子ギルへと話しかけるアマデウス。マスターに届かぬ小声での問いかけに、子ギルも同じく小声で答える。あっけらかんとしたその答えに、アマデウスは当然だとばかりに呆れた顔を見せる。

 

「そりゃあね。あの声音を聞いて気づかない鈍感さんなんてマスターくらいなもんだろうさ──それで答えは?」

 

「ボクの声音で判定できるなんて貴方みたいな音楽家くらいですけど……うん、そうですね。どこぞの探偵でもないですが、確証を得られていないので一旦は保留で。ですが、あまり良い物ではないでしょうね──例えば、ここに聖者の類のサーヴァントが居れば確実にわかったのでは、とは思いますけれどね」

 

「──それは答えを言っているようなものじゃないか?ああ、いや。とりあえずマスターにはまだ内緒にするってことでいいんだね?よし、そういうことにしておこう」

 

 子ギルの口から語られなかった炭に関わる推測、それがマスターの精神衛生上良くないことを理解したアマデウスは言葉にまとめずにスルーすることに決めた。ちゃんとわかったその時には伝えるべきだろうが、不確定な情報を伝えてマスターを不安にさせる必要はないという子ギルの判断にアマデウスも賛同した形となった。

 

「……?どうかしたの2人とも?」

 

「いやいや、何でもないとも」「いえいえ、何でもないですよ」

 

「?」

 

 2人の会話内容を聞いてなかった立香は何らかの同意に至ったらしいサーヴァントたちに話しかけるが、2人から似たような言葉で濁されてしまい疑問符を浮かべる。が、まあいいかとばかりに表情を変えた。

 

「おっと、それで2人とも、ここに来るまでに何か見つけたりとかした?」

 

 ちなみに私は見つけられてないです!と自信満々に発言する立香にアマデウスと子ギルは苦笑する。しかし何だかんだド素人から始まり人理焼却を防ぐに至っただけのことはあり、マスターたる立香の観察力はかなりのものである。そんな彼女に見つけられないとなると、今の今までに本当に何もなかったか、彼女では持ち得ない視点を必要とするかの二択である。先程の炭の問題における子ギルは後者であり、そしてこの時のアマデウスもまた後者であった。

 

「──ん?これは……ビンゴ、かな?」

 

 アマデウスのその言葉に、立香と子ギルは足を止め耳を澄ます。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは優れた音楽家であり、当然のことながらその音楽を聞き分けるだけの優れた聴覚も併せ持つ。それは音階を聞き分ける絶対音感であり、感情を読み取る程の音程の分析力であり──そしてまた、純粋に遠く小さな音すら聞き取る聴力においても超一流ということである。

 

「何が聞こえたの?──あ、もしかして」

「ああ、マスターの想像しているとおりだろう。それもこの旋律には聴き覚えがある──マスター、君が夢の中で聞いたっていう旋律とそっくりだ」

「よし、そっちに行こう!」

 

 マスターや子ギルからすれば(周囲の燃焼音を除けば)静寂としか言えない状況だが、それでも音楽家の耳にはしっかりと聞くべき音が聞こえていたということであるらしい。勿論アマデウスの能力に疑うところを持たない無い立香は、アマデウスの言葉に躊躇なく行き先を決める。子ギルも異論を持たず、マスターともどもアマデウスが指し示す歌の方角へと歩を進める。

 

 歩くこと数分。立香の耳にもアマデウスの言う歌(立香の記憶が正しければ、アマデウスの言う『乙女の心の歌』であった)がぼんやり聞こえてくるようになったところで、アマデウスが足を止める。 

 

「……お、そろそろ私にも聞こえてきたかな──って、どうしたのアマデウス?」

 

 足を止めたアマデウスに、若干先行していた立香も立ち止まり振り返る。アマデウスは難しい──というより、懸念をその表情に浮かべている。

 

「──マスター、戦闘音だ。ところどころ荒れた息で歌っているところを聴くと、どうやらこの歌声の主である少女は戦っているみたいだね……歌いながら」

「歌いながら!?……じゃなくて、それじゃあ急がないと!」

「ああ、急ごうか。どうにもちょっと醜悪な歌も聞こえてくるようだ。ああやだやだ。魔境の美の一線の向こう側の音色だよ、これは。──だから用心するんだマスター。この歌も、マスターの夢で聞こえていた歌だ」

 

 アマデウスの言葉に、立香も表情を険しくする。先程から聞こえていた歌声以外の歌、となればそれは(本人曰く)『アマデウスの作曲するような歌』ということになる。それが魔境の旋律ということは、まさかアマデウスが反転(オルタナティブ化)したサーヴァントでも出てくるんだろうかと立香が多少戦慄する。

 

「……でも、アマデウスのオルタってあんまり強そうじゃないよね」

「どうしてそんな話になったんですかマスター?それより行くなら早く行ったほうが良いと思いますよ?」

 

 立香がふと自分の空想上で生み出したサーヴァントに身も蓋も無い評価を下した辺りで、子ギルから催促が掛かる。立香はその言葉に我に返り、先程までの徒歩ではなく駆け足で現場と思しき方向へと向かう。

 

 

 

 やがて現場に近づいてきたところで、カルデアのマシュから通信が入る。

 

『先輩、気をつけて下さい。向かっている先からは従来のエネミー反応とは異なる未確認の高エネルギー反応が確認されています!サーヴァント反応ではありませんが、それに匹敵する熱量です!』

「わかった!ありがとうマシュ!」

 

 周囲の情報を収集していたマシュの言葉に短く謝意を返し、立香・子ギル・アマデウスの3人は戦闘の現場へと急ぐ。やがてどちらの歌もよく通るほどに近づいたところで、立香は戦場の状況を確認できるよう、周囲の崩れたビルの瓦礫を登っていく。やがて瓦礫の山の頂上に到達したところで、瓦礫の影から頭だけを出して様子を見た。

 

「……ここからなら見えそうかな?マシュ、そっちでも見えてる?」

『はい、大丈夫です先輩。こちらのモニターでも確認できています。ですが、これは──』

 

 立香の座標を介してカルデアのモニターに映し出された戦場の光景。それを見たマシュが思わずといった感じで口籠る。

 

「──うん。私の方でも見えた。戦ってる相手は見えないけど、とりあえず最初の歌を歌ってる方は──女の子、だね。私と同年代くらいかな?……本当にサーヴァントじゃないんだよね?動きとか近接戦型のサーヴァントみたいなんだけど……」

 

 立香はマシュの口籠るのもわかると言わんばかりに、眼前の非現実的な光景を見やる。

 

 そこにいたのは、歌を歌う少女たちだった。黄色、青、赤を貴重としたボディラインが顕になる戦闘武装を装備した彼女たちは、戦闘スタイルの違いこそあれど、立香達の道中の推測通り「歌いながら」戦っていた。

 

「うーん、良い声が良い旋律に乗っている。やっぱり歌っていうのはこうでなくちゃいけないよね」

「ですが、どうやらその動きも精彩を欠いていますね。やはり原因は──アレでしょうね」

 

 その光景を前に、アマデウスの音楽家としての言葉と子ギルの戦闘者としての言葉が続く。子ギルが目線で指した『アレ』に立香も目を向ければ、そこには少女たちと戦っていた敵達の姿があった。

 不可解な蛍光色に光る、全体的に生物を半端に模した姿。金管楽器のような発音器官からはアマデウスの述べた「魔境を越えた歌」が流れ、その肉体には立香たちにとってすごく見覚えのある生々しい眼球のような器官が付随している。

 小型なもので人間サイズ、大型なもので大体十数メートルほどになる大小形状様々なそれらのエネミーの背後には、彼女たちが人理修復の過程で幾度となく退治してきた魔の姿が屹立していた。

 

「変な生き物?と、魔神、柱──っぽいけど、なんか色が蛍光色だし、他の奴らと同じ楽器みたいなのが付いてるヤツ、かな?今回の騒動と関わりはありそうだし、どうにか加勢したいんだけど……」

 

 と、立香はそこで言葉を切る。彼女が単純に困っているのは、今味方として連れているサーヴァントのどちらもが、あまり高速度の戦闘についていけるサーヴァントではないということである。アマデウスはもとより、子ギルは未成熟な子供の肉体で現界しているため、本来の英霊としての姿に比べて著しく戦闘力が低い状態にある。

 

「……あ、でもギルくんは『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』は使えるんだよね!ようし、あの人達に呼びかけて援護ってことで……」

「うん、そうしましょう……あれ?」

 

 マスターの言葉に当然とばかりに背後に宝具たる宝物庫の門を展開し──何も出てこない。思わず使用者の子ギルは首をかしげ振り返るが、それでも結果は変わらない。

 

「あ、あの……ギルくん?」

「うーん、ちょっと待って下さいね。確かにこちらに歩いている時点で何か違和感はありましたが、これは──」

 

 子ギルの様子に不安を覚えた立香の声を軽く流し、子ギルはついには宝物庫に頭を突っ込む。そしてすぐに頭を引っこ抜く。

 

「……ええと、どうやらレイシフトによる『召喚』を経過した関係で、この特異点に元来存在した『宝物庫』と僕の宝具が接続されてしまってますね」

「えっ」

「で、今回『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を使用するにあたってはこちらの宝物庫を参照してしまうわけなんですが」

「……うん」

「こちらの宝物庫、なんか今見た限りだとほぼ全ての財宝が焼け落ちちゃってました」

「…………マジですか」

 

 てへ、とばかりに小さく可愛く笑う子ギルの告げる真実に立香は呆然と呟く。

 正直なところ、子ギルはこの状況にあっては貴重な直接戦闘戦力である。立香は別段アマデウスと扱いを異にすることは無かったが、それでも戦闘において矢面に立ってくれるサーヴァントが居るかいないかというのは戦闘における自由度を大きく左右するもの。

 アマデウスが戦闘事態不得手である現状、子ギルにその立場についてもらうことを想定していた立香は思わぬ伏兵にガクリと肩を落とす。

 

『って、一体どういうことですか!?今までどんな時代にレイシフトしても、ギルくんを始めとしてギルガメッシュさん達の宝具は使えていたはずです!』

「本来はこんなことはありえないんですけど……。おそらくですが、この世界が異世界か、並行世界としてもボクが誕生する遥か以前に分岐しているだろうということと、それに付随して『英霊の座』という機構が存在しないからではないかと。『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』はあくまで過去・現代・未来に存在する人間の造り得た財宝の原型をしまい込む宝物庫、それに接続する宝具ですから。歴史の幹そのものが異なるこの世界では宝物庫の成り立ちも違いますし、宜なるかなというところですね」

 

 マシュに自身の推測を話す子ギル。この世界にそもそも蔵がないか、もしくは召喚サークル宜しくボクらの世界に繋ぎうる場所があれば別なんでしょうけど、と最後に締めくくる。

 立香はその子ギルの言葉に思わず嘆息するが、嘆いていても始まらないと首を振る。

 

「……よし、開き直ろう!できないことを何時までも言っててもしょうがないし、どっちにしろあの人達を援護しないとダメだしね!」

「はははごもっとも。それでこそだとも」

「ええ、全くですね」

 

 マスターの意気込みあふれるやけくそ気味な言葉に、笑顔で戦闘準備を始めるアマデウス。子ギルは立香の側で何かあれば守れるように体勢を整える。

 

「何、あまり気張らなくても良いはずさ。彼女達は強そうだからね、こちらがちょこちょこ手助けをすればそれで十分だろう。

 ──さて、それでは楽しみ給え少女たち──異界とのコラボレーションコンサート、今より開演としようじゃないか!」

 

 優雅に指揮棒を構えたアマデウスの言葉とともに、特異点解決のためのカルデアの戦いの火蓋が切って落とされた。

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