SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order   作:222+KKK

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第12節 軍神の礼賛歌(2)

「ま、マリアさんッ!側面、兵士さんたちが来ますッ!」

「ええ、見えているッ!」

 

 青銅の巨兵の刃を拳で迎撃していた響が慌てたように叫ぶ。もはや半分パニックが入ったかのようなその声に、マリアは即座に対応して銀の短剣を雨のように降らせた。

 牽制とはいえシンフォギアのアームドギア。生半な雑兵程度なら容易に撃滅できる攻撃はしかし、隊列を組んだケルト兵──その最前列の者たちが振るう刃によって迎撃される。

 

 彼女にとっては現実味に欠けすぎたその光景に、思わずマリアは歯噛みした。

 己の磨いた技、ノイズを倒し、正義を成すため──何より、大切なものを守るためにと手にした力。それがああも容易く払われるのでは全く割に合わないのではないかとすら思ってしまう。

 

「ったく、ここまで強化するッ!?」

「それだけ、彼の軍神の権能が強力ということでしょうか。──あるいは、依代たる少女の力が図抜けているのか」

 

 吐き捨てるように紡がれたマリアの言葉を受け、ベディヴィエールが現状について考察する。その目線は先程より遠ざかった──否、追いやられて引き離されてしまった魔都の中枢へと向けられている。

 

 目線の先には、全力を振り絞って戦う3人の姿をまるで喜劇にでも思っているかのように笑顔を浮かべ、岩の上に腰を掛け歌う少女の姿。

 楽しそうな雰囲気で歌う少女の、その鈴を転がすような澄んだ声が奏でる旋律は率直に言って勇猛・勇壮のそれであり、全く似合っていないはずなのに妙にしっくり来るような不思議な歌声が鬨の声のように戦場に響き渡っている。それこそが魔都の守護天、軍神たるヌァザが本領の発露なのだろう……絵面との落差は天井知らずであるが。

 

 更に悪いことに、軍神としての指揮能力故か辺りのデモノイズすら意のままに従え己の旋律に重ね合わせている。デモノイズのフォニックゲインを己の歌に合わせた形へと変生させ、それをアガートラームのギアの力で周辺の手駒たちに配分する。魔詠を収束させ術式に転用していた魔神と似て非なるその戦略は、3人を徐々に押し返す形として結実していた。

 そしてデモノイズの扱いはそれだけではなく……。

 

「駆けよ、流星──『一閃せよ、銀色の腕(デッドエンド・アガートラム)』!」

 

 宝具の真の名を告げる宣誓とともに、銀の腕から軍勢すら切り裂く聖剣の刃が放たれる。

 ベディヴィエールの宝具の真名開放、その刃を向けられたケルト兵たちは──事もあろうに、そこらへんにいたデモノイズを引っ掴んで聖剣の光へと投擲した。

 聖剣が直撃したデモノイズはその瞬間にヌァザの指示を受け、その身を顧みず魔詠を全力で奏で上げ、閃光の刃を僅かなり相殺する。結果として狙われたケルト兵は僅かなかすり傷にとどまってしまい、それも即座に修復される。

 

「──盾ッ!?」

 

 ケルト兵の流れるような(一方的な)連携にマリアが驚きの声を上げる。

 

「嘘ぉッ!?なんでノイズ掴めるのッ!?」

 

 その一連の流れをみた響はあんまりにも非常識な迎撃法に思わず叫ぶ。彼女の知るノイズはそんな簡単に──投げたりは出来るが、それもギアがあってこそ。どう見ても生身なケルト兵たちが──と、そこで響はベディヴィエールが言っていたことを思い出す。

 

「あ、あの人達ってそういえば……」

『はい。彼らは人の形をとっているだけの魔力構造体。魔術によって編まれた使い魔であり、彼らの構成体は本質的には魔力なんです。だから、人間と接触することで炭素転移を行うノイズの機能とは干渉することがないと考えられます』

「成る程ね、こんなところで強く実感させられるとは思っていなかった、わッ!」

 

 そういって、マリアはケルト兵を全力で蹴飛ばす。常人が受ければ重体は免れないその一撃を受けたケルト兵は、放物線を描き地面に落下し大きなクレーターを作ったが、その様子を見てもマリアは眉を動かすこともない。

 彼女たちの常識として、ノイズに触れた人は死ぬ。余りにも当たり前のその常識から乖離したケルト兵たちを改めて視認することで、マリアはソレが人間ではない……どころか生命ですら無いことを漸く実感したと言えるだろう。

 

「……要するに、見た目が生身なノイズって思って戦えばいいのかしらね。──余り、気持ちいいものではないけれど」

 

 そう呟くマリアの表情を見れば、余り、どころではないことは如実に読み取れる。だが、強化されたケルト兵たちは前にもましてその頑強さを示しており、そんな甘いことを言える状況ではないとも思えている。

 そもそも殺すつもりではないにせよ全力で生身の人間相手(嘗て戦った錬金術師など)に殴る蹴るをすることはままあるのが彼女たちでもある。ケルト兵もそういう意味では拳を向けるに不都合がなくなっただけとも言えるだろう。

 色々と考えるマリアの前で、蹴り飛ばされたケルト兵はフラフラとだが立ち上がり、愚直に刃を構え直してさえいる。そのケルト兵を前に、マリアは覚悟を決めてその手の刃を構え──そこで、響がマリアの前へと立った。

 

「…………?」

 

 訝しげなマリアの表情に僅かに目を合わせ、次いで正面のケルト兵の姿を見る。

 やがて決心がついたのか、響は自分の頬を両手でぱちんと叩く。ギアでやっているからか結構な衝撃が発生しており、到底ぱちんと表現できる音ではなかったが。

 そして、一気にケルト兵の懐へと潜り込み──綺麗な、しかしきっちり加減されたアッパーカットで意識を刈り取った。

 

「──マリアさん。私は、たとえ相手が魔力でできていようともノックアウトさせるようにがんばりますッ!」

 

 自分でぶっ叩いたせいでヒリヒリする頬の痛みに涙をわずかに浮かべながら、それでも不敵な笑みと共に宣言する響。その言葉はこの現状に即していないといえばそうかもしれない。だが、それでも響は人の形をする彼らを消滅させるつもりで戦うつもりはサラサラ無かった。

 気合を入れ直し、自分に盛大に縛りを課す響に、マリアが僅かに目を見開き、次いで優しげに細める。

 

「……そう。いえ、そうね、それがいいわ」

 

 そもそも、魔都に入った時点でケルト兵が魔力体である旨は告げられていたわけである。そして、彼女たちはケルト兵が魔力体であると知って尚、相手を昏倒させる方針を固めていた(実感がなかったといえばそうだが)。

 それをたかが相手が強くなったから、魔力体である実感が生まれたからと方針を変えるほど彼女たちの信念は安かっただろうか?いいや、そんなことはないとマリアは己に向かって叫ぶ。

 

「……そうよ、この程度で方針を変えてちゃ、光が云々なんて言えない、言えるものかッ!」

 

 構えた刃はそのままに、乗せかけた殺意を霞と消しさる。響と同様に不敵な笑みを表情に浮かべ高らかに己の意志を宣言し、マリアはその隣へと立った。

 

「それでこそ。であれば、私も誓約を守り抜いてみせましょう。なに、彼我の力量差が想定より大きかったことなんて円卓時代にはよくありましたとも。その程度で誓いを翻すほど無様な騎士であるつもりはありませんよ」

 

 響きを挟んでマリアの反対側に剣を構えたベディヴィエールが立ち、3人は視線を揃え遠く在る魔都の守護天をはっきりと見た。

 

 遠く離されながらも己に強く目線を向ける3人を前に、ヌァザも一層笑みを深めた。そうでなくては、そうこなくてはという感情がその貌から見て取れる。

 そんなヌァザの笑みに比例するように苛烈に、より隙のない連携を見せるケルト兵たちを前に3人は怯まず前へと踏み込んだ。

 

 

「■■■■────ッ!!!!!」

 

 ソレはまさに暴力の波濤。否、洗練された連携は波濤などとは呼べはしない、それは途切れることなき殺意の激流だった。

 己にヒシヒシと向けられる熟練の戦士の殺意、弓兵の射抜くような目線、おどろおどろしい呪文と共に向けられる魔術師の邪念を前に、響はそれでもと往なし、流し、極限の集中力で僅かずつ前進を始める。

 

 勿論、敵はケルト兵だけではない。

 

 空から来たる飛竜(ワイバーン)はマリアが綺麗に翼膜をピンポイントで撃ち抜いていく。先程までの飛竜とは存在から一線を画しているのか、その翼膜は落ちる前には修復され、即座に姿勢を戻し再び襲い来る。

 が、バランスを崩した僅かな隙があれば、今のマリアにとってはそれで十分。飛竜が彼女に頭部を向けた瞬間、その体に連節刃が絡まり、強制的に地面に叩き落とされた。

 

 そんなワイバーンを踏み潰すように迫るのは、青銅の巨人。ロードス島の伝承を思い返させるようなそれは、戦神ヌァザに仕えし精霊種たる守護妖精(スプリガン)。通常のソレと比べより強固に、より重く、より巨大になったその体から繰り出された巨剣の一撃は、神秘としてより上位の金属である銀の義手により迎撃される。

 僅かに蹈鞴を踏むベディヴィエールは、巨剣の勢いに押される前にと己の聖剣を振り抜いた。絆を束ねた輝きの残光が大気に溶け切る頃には、両断されたスプリガンがどどうと轟音を立てて左右に倒れた。

 

 先程までとは動きが一線を画す。それは3人が3人、自分たちで認識していることであった。

 それは、それぞれが言葉として己の思いを正直に示し、互いに深い理解と共に戦うようになったからか。S.O.N.G.の人々が言うところの「絆のユニゾン」に親しい現象がそこには発生していた。

 本来その対象足りえないベディヴィエールにも同様の奇跡が発揮されているのは、あるいは想いを束ねる銀腕の聖剣が関わっているかもしれない……そんなことを彼は考えていた。

 

「そういえばマリアさん。さっき言ってた光明が~~ってどういうことなんです?」

 

 互いに連携し、進む中で。ふと響が疑問に感じていたことを口に出した。

 マリアはそういえば、と響に顔を向ける。

 

「ああ、ヌァザの伝承の話よ。さっき、あのヌァザは巨人の虜囚になった過去を認めていたでしょう?伝説でヌァザがその虜囚状態を脱するきっかけになったのは、巨人たちに勝てるほどの強さを持つ光の神ルーを見出したからなのよ。文字通り光明を見たということね」

 

 ケルト兵に投げつけられたデモノイズを両断しながらマリアは口にする。

 

(光明──そう、ヌァザはルーを見て、その才気ならばこそ巨人フォモールに勝てると信じ神々の指導者としての立場を譲った)

 

 それは先程エルフナインから伝えられたこと。神話に曰く──ケルト神話における主神の交代は、当代の主神ヌァザ自身が次代の神へと禅定することで完了したという。

 当時(と言っていいのかはマリアにはわからないが)、ヌァザ率いるダーナ神族が巨人フォモールに隷属させられており、ヌァザ自身ではその状況をどうにも出来ないからこそ耐え忍んでいた。勝機が見えるまで、神々の王という立場でありながら。

 その時の心情をマリアが知っているわけではないが、それでも先程のマリアの挑発を前に尚も態度を変えようとしなかったことから推測はできる。

 

「それってつまり……」

「ええ。ヌァザはおそらく待っている。それがこの状況を打破できるスキルを持つ者なのか、魔神を打倒できる力を持つ者なのかはわからないけど……少なくとも、今の私達はそうではないってこと」

 

 マリアはそう言って、妹の顔で今もニヤニヤと笑いながら歌っている神の方へと目線を向ける。

 

 今にして思えば、最初に遭遇した時からあえて決戦以外の選択肢を奪うような言動をしていたことも、戦いの中でこちらの力を見極めんとしたことであるとすれば十分に筋は通る。

 

「──しかし、だとすれば我々は今試されているということですね」

 

 目前に迫るワイバーンの前肢を切り落としながら難しい表情を浮かべたベディヴィエールの言葉に、マリアは同意を示すようにこくりと頷く。

 そう、少なくともあの神は今戦っている3人に見切りをつけてはいない。ニヤリと笑いながら波状攻撃を仕掛けてくる……言い換えれば、総力による殲滅戦を仕掛けてこないことからもそれが事実であると示していた。戦力として貸与されているであろうでもノイズだって、今はヌァザの歌によるエネルギー分配用の貯蔵庫兼ケルト兵の盾扱いである。器用にこちらの攻撃を相殺させたりするあたり指示は出来るはずなのにその程度の扱いにとどめているということも、まだまだ余力があることを証明している。

 未だ本気を見れてはいない、というだけでマリアは辟易すると同時に言いようもない反骨心のようなものがメラメラと燃え上がった。

 横を見れば響もベディヴィエールも同様のようであり、なんとしてもあの神に認めてもらうのだという気概が一挙手一投足から溢れている。

 

「だったら、まずはそこから行きましょうッ!あの……ヌァザさんに、私達の思いをとっぷり見せつけてみせますッ!」

「……その言い方はどうなのかしら……」

 

 なんか締まらない響の言葉に、やれやれとため息を吐くマリア。だがその目線は力にあふれており、響の言う通り自分たちの在り方をたっぷり示してやろうとマリアは更に前へと踏み込んだ。

 

 

「……とは、言ったものの……」

 

 どんどんと進撃速度を増していく3人は、高みの見物を決めているヌァザのもとへと徐々に近づいている。間もなく先程までの戦闘領域に到達せんとした辺りでマリアがポツリと呟く。

 

 結局、ヌァザにどうやって力を、価値を、在り方を示して見せればいいのだろうとマリアは悩んでいた。

 これが普通の戦いであり、相手と己の信念や価値観が違うというのであれば自分のソレを示せばいい。だが、そもそもヌァザは一体こちらの何処に光明を求めているのかがマリアにはわかっていなかった。

 

 現在、絆のユニゾンは成立し3人の力は増している。ヌァザの配下による息をつかせぬ猛攻を前に進むことが出来ていることからもそれは明らかである。

 

(それをヌァザは笑ってみている……ということは、意にそぐわないということではないのだろうけど……)

 

 少なくとも個々人の力のみを判断基準にしているわけではないらしいが、それでもヌァザがマリア達のどこを評価しているのかまでは未だ不明であった。

 

 そして更に、というべきか。不安要素は他にもあった。

 

(……確かに力は相乗しているけど、それでも尚、私達はヌァザに比べて弱い。それに……)

 

 先程までの戦いで、ヌァザと直接刃を交えた回数は数えるほどだが、その時点で戦力の差は浮き彫りになっている。

 確かに絆のユニゾンが働いている現在の状態であれば、成程先程よりは善戦できるだろう。だが、それでも勝ちを拾えるかといえばマリアにはそうは思えなかった。というのも、マリアは先程までの戦いで気づいたことがあった。

 

(……ヌァザは宝具を欠片ほどもも見せていない。セレナの体を依代にした疑似サーヴァントって言っていたけど、それでも話に聞く宝具は持っているはず。でも、さっきから使っているのはあくまでシンフォギアだけ……)

 

 戦神たるヌァザは戦いに関する逸話が豊富である。その伝説が具現化したものであろう宝具はやはり、それ相応の武装が出てくるだろう。にもかかわらず、3人は今まで戦った中でヌァザが宝具らしき武具を使用しているところを見ていない。精々がシンフォギアとしてのアガートラームの下にある銀腕を使用した程度だが、それだって迎撃のために使っただけで固有の能力等が使われたようには見えなかった。

 これが戦神としての力だとするのなら、最早苦笑するほかにはない。そんな内心が表に出たのか、マリアはやや疲れがにじみ出たような声を漏らす。

 

「儘ならないわね……」

「マリアさん?」

「なんでもないわ、どうやって攻める?」

 

 響に心配そうに声をかけられ、マリアはさっとなんでもないかのように表情を取り繕った。

 そんなマリアを見て様子がおかしいかもと響は首を傾げるが、しかしそれはそれとして攻めるための策が無いことは事実であったためむむむと頭をひねる。

 

「──思いつきませんッ!ベディヴィエールさんはなにか無いですかッ!?」

「そう、ですね……」

 

 僅かに悩んだ後に堂々とそう宣言した響に苦笑しながら、ベディヴィエールも頭を悩ませる。

 実のところベディヴィエールもずっと考えていたのだが、それでもあまり思いつかなかったのである。そもそも相手がずっと座り込んで動かないなんてハンディキャップを自らに課しているにも関わらず、尚も勝てなかった。よしんば今の状態のヌァザに全力を出して勝てたところで、その後に待つのはデモノイズとも連携を取り自分から立って行動するであろうヌァザである。疲弊した身で勝てる相手ではない。

 

「……とはいえ、他に道はないのも事実ですか。座っている相手に勝てていない我々が、先を心配して、も────?」

「ベディヴィエール卿?」

 

 不自然に台詞と、ついでに足を止めたベディヴィエールに、マリアがどうしたのかと顔を向ける。

 まさか、いや……と小さな声でつぶやいていたベディヴィエールは、顔を上げマリアと面を合わせた。

 

「……マリアさん。もしかしたら、ですが……、少し確認していただきたいことがあります」

「……聞かせてもらえるかしら?」

 

 ベディヴィエールの表情は、まさにか細い光明を見出したと如実に示している。先程まで考え込んでいたマリアも、その表情を見て詳しく聞こうと決めた。

 

 

 

「…………?動きが変わったか?」

 

 ヌァザの目に映る魔都への来寇者たちの行動が、明確に変化した。

 3人の歌と絆による精神を揃えた連携は、純粋な精神性、仲間意識をまざまざと示していた。それは彼女たちが同じ歌を常に耳にしていることを差っ引いても尚の事称賛されることであったが、その時点では行動自体は戦闘当初のそれと同じ──すなわち、守護天たるヌァザに対する突撃であった。

 だが、先程サーヴァントであろう騎士が足を止め、次いでそれぞれ何かを話し合ったと思ったらその行動は変わったのだ。

 騎士の英霊が遊撃を、槍なる拳の使い手が前衛を。そして──ヌァザ自身の不具の象徴とも呼べる銀の欠片を抱く少女は、その腕に銀の刃を備え、意識を集中し始める。それと同時に、徐々にその銀腕が光を放ち始める。

 

「ほ、う。アレもアームドギアと言うやつか。あんな義腕を元に、よくもまあ……。いや、あるいは腐っても神の腕ということだろうか」

 

 彼の知る銀の腕、アガートラムは、あくまで十全な神の力を発揮することが出来るだけの義手である。ソレ以上の機能もないし、逆に欠落した機能もない。医神の粋を込めて作られたそれは、義手であるということ以外に一切の不出来はなかった。

 ──余談ではあるが、彼の知る銀腕は義手以上、腕以上の機能はないということでもある。そんな腕が、異世界とはいえ短剣・長剣・連節剣などなどへと変化するのは彼の理解を若干超えていた。

 

 閑話休題。動きを止めた銀の少女へと向かわせたケルト兵や飛竜、スプリガンたちは軒並み迎撃されている。特にもケルト兵は昏倒させるという彼ら自身の縛りゆえにか、槍の少女の手によって遠く遠くへと吹っ飛ばされていく。

 

 動きを変え、その場に留まり続ける彼女ら3人をヌァザは眺めつつ、一体どういう手筋で来るのか──などと考え、ふとその銀腕に違和感を覚えた。

 

 連節剣として扱っていたアームドギアは地面に楔のように打ち込まれ、刃を括る腕を抑え込むようにも思わせる。否、足を止めた銀の腕の継承者が構える銀の刃の腕甲は、いよいよヌァザの見たことのない形状へと変化していた。控えめに言って刃ですら無いそれは、ヌァザの時代にはなかったもの──依代の記憶に言うところのレーザー砲に近い形へと姿を変え、放熱板ともエネルギーの貯蓄板とも呼べるようなそれがハリネズミのように腕甲後部から飛び出ている。

 

 まさか、とヌァザが思ったその瞬間、3人の力が銀の刃へと一気に収束される。その腕にはいつの間にか主神の槍に聖剣モドキが重ねられており、その全てを束ねて今にも破裂しそうな輝きを放った。

 

 当然、ヌァザの配下たちも黙って見ているわけではないが、彼女たちの攻撃における最大の障害であろうケルト兵たちはその全員が遠く弾き飛ばされている。

 

「受けて、みろッ!」

 

 それでも飛竜やスプリガンが攻撃を妨害をしようとしたところで──輝きが、爆ぜた。

 

 

───HORIZON†CANNON───

 

 

 閃雷が奔る。熱線が輝く。青銅の巨人は容易く融解し、飛竜は翼を吹き飛ばされ高温による乱気流で墜落していく。

 彼らの妨害なんてあって無きが如しとばかりに放たれた3人分の絆が乗った光芒を前に、ヌァザは思わず立ち上がり──熱線の前へと身を投げた。

 

 

 

 

「……どう、かしら?」

「見えました。確かに彼の神は──あの『岩』を庇いました」

 

 ベディヴィエールの報告に、マリアはほう、と息を吐いた。その中には全員での連携が成功したことと、その狙いが的中していたことに対する安堵が多分に含まれていた。

 

 3人分のエネルギー、絆のユニゾンにより増幅したフォニックゲイン及び絆の聖剣の出力向上分の魔力を響が束ね、エネルギーに指向性をもたせられるマリアが射出するという即席の作戦は、彼女たちの狙い通りの結果を生み出していた。

 ……実際は連携技というよりマリアの出力向上でしか無かったのだが、ともあれ絶唱に届かんとするその光輝は、過たずヌァザの座る『岩』へと届かんとし、ヌァザはそれを止めようとせんばかりに己の身を盾としたのだ。

 

 熱線により膨張した空気が生み出した上昇気流により、もうもうと土埃が舞い上がる。その様子を見ながら、マリアは先の話を思い返す。

 

 

『──マリアさん。貴女は以前ここに来たことがあるということでしたが……彼の神が座るあの岩、あれは以前からここに?』

『岩?ああ、要石かしら。あれは確かに以前から──いえ、ちょっとまって』

 

 確認してほしいことがある、そうベディヴィエールに頼まれたマリアは続いて告げられた言葉に僅かに体を硬直させた。

 その顔はヌァザの方へと向けられ、その目はヌァザの座す大岩を穴が空くほどに凝視している。

 

『──おかしいわ。キャロルがシャトーをワールドデストラクターとして使っている以上、レイラインは開放されている。であれば、風鳴邸の要石は砕かれてなければならない筈……ッ!まさか、あれは要石じゃなく……ッ!?』

『どういうことですか、マリアさん?』

 

 響がマリアの慌てように首を傾げる。

 よく判っていない様子の響に、マリアは簡潔に説明するために口を開く。

 

『……例え要石がなくとも、あそこがレイラインの要所であることには違いないわ。そこに新しく岩が置かれたって言うことは、それはつまりレイラインを利用するために……ッ!』

『ええ、おそらく彼の神が置いたものでしょう。詳細はさておき、あれはこの神代を形造るための宝具と見て間違いないかと』

 

 ベディヴィエールはその宝具に見当がついているようであったが、時間はないということだろうかここでその詳細について話すつもりは無いらしい。

 マリアは気になりはしたが、しかし気にしてもしょうがないとその考えを思考の端に追いやった。

 

『そう、つまり私達は──』

『──あの岩を狙うってことですねッ!……でも、どうやって?』

『それについてですが……生半可な攻撃ではこの軍勢を超えて撃ち抜けはしないでしょう。どうにか隙をついて合間を縫うしか……』

 

 ベディヴィエールがそこで手詰まりとばかりに悩ましげな表情を浮かべる。自分で言ってて、隙をついて前進が非現実的であることを理解しているようであった。

 

『でも、強引に突破してたら途中でヌァザに気づかれて吹っ飛ばされて、良くて最初からよね……』

 

 悪くてそこで見限られて殺されるというところだろうが、言霊もあるかもしれないとそこは言わないマリア。

 と、響がまたも閃いたとばかりに表情を輝かせた。

 

 

『だったら──遠くからぶっ飛ばしましょうッ!みんなの力で、真っ直ぐにッ!』

 

 

 そんな響の作戦に乗って、真っ直ぐに最速でぶち抜いた戦場を見るマリア。

 地面は赤熱化し、石像は崩壊し、ワイバーンは死屍累々の有様である。余り見ていていいものでもないが、やがて魔力に還元されたのか消滅していく。

 

「……これで終わり、かしら」

「そうであればいいですが……しかし、それは流石に楽観が過ぎるかもしれません。ですがある程度のダメージくらいは──ッ!?」

 

 ベディヴィエールが撃ち抜いた先を険しい表情で見ていたその時、先程の輝きを遥かに上回る煌きが土煙を吹き飛ばす。

 その光の前に、マリア達は視界を瞬間失ってしまう。

 

「──ッ、一体何が……ッ!」

『…………さん、皆さん、気をつけてくださいッ!膨大なエネルギー……魔力反応ッ!これは──宝具ですッ!』

 

 思わず瞠目するマリア達の耳に、エルフナインの叫ぶような警告が飛ぶ。

 

 

「……いいぞ、まさにソレでこそだ。機転を示した。信念を示した。であれば──あとは単純だ」

 

 そう呟くのは、幼さが残るも凛々しい声。

 朗々と、それこそが神の意思であると言わんばかりに言葉が紡がれる。その身体は僅かに汚れ、傷が残るも……全く健在であると言わんばかりに、戦神が剣を掲げる。

 その刃にはいつ準備が終わったかもわからぬほどに、膨大な熱量が湛えられている。

 

 

「────このヌァザに武勇を……貴き輝きを示せッ!『焼滅せよ、銀色の腕(クラウソラス・アガートラム)』ッ!」

 

 

 その熱量は太陽の如く。

 

 戦神の咆哮とともに放たれた神剣の炎は、呆然と立ち尽くしてしまっていた3人を一気に飲み込んだ。

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