SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order   作:222+KKK

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第12節 軍神の礼賛歌(3)

「マリアさん、響さんッ!どうか応答してくださいッ!」

 

 平行世界で活動している装者2人を主としてモニタリングしていたエルフナインは、画面の向こう側へと必死に呼びかけを続けていた。

 敵対中の守護天の持つ刃から閃光が放たれた後、光熱による大規模攻撃が発生。その光量は凄まじく、S.O.N.G.の画面が一時的に真っ白に塗りつぶされてしまっていた。現在は回復したものの、その向こう側には陽炎と煙が立ち昇っており、戦っていた少女らを確認できていない状況だった。

 

「──くそッ!一体何が起きたッ!?」

 

 弦十郎は思わずと言ったふうに叫ぶ。

 こうなる直前、膨大なエネルギー反応がヌァザから発生したのを彼らは観測していた。それがベディヴィエールはじめサーヴァント達の宝具反応と酷似していたことから、それが宝具であろうと警告を飛ばし──太陽の如き光によって画面が塗りつぶされてしまった。

 結果として状況の確認に映像記録が使用できなかったため、彼らはソレ以外の媒体でデータを取りまとめることでどういった攻撃が発生したのかを認識しようとしていた。

 

「司令ッ!こちらを……」

「なにかわかったのかッ!?」

 

 弦十郎へと呼びかけたのは、S.O.N.G.発令所における情報処理担当のオペレーターである藤尭。

 かれは弦十郎の言葉にコクリと頷き、モニターに一連の状況を映し出す。

 

「こちらが閃光が放たれた瞬間。そしてこちらが相手が宝具を放った間です。最初の閃光時点でこっちのモニターがダウンしてしまったので音声記録だけになりますが……」

「──閃光から宝具までの間に結構な時間があるな。あの宝具、放つ際にエネルギーの蓄積が必要なのか?あるいは起動までに時間がかかるか……」

「おそらくどちらか、とにかく発射までに一定の時間がかかるようですが、問題はそれを棒立ちで受けているようなんです」

 

 そう言った藤尭の目線は、別ウィンドウに表示された装者たちの位置情報についてであり、閃光があってから宝具が放たれるまで、その座標が移動していないことを示していた。

 そして、そこまでの情報をまとめていて弦十郎が眉をひそめる。

 

「……光が発生してから宝具と推測される攻撃が放たれるまでの時間は、本当にこの時間で正しいんだな?」

「どういうことですか、司令?ええ、機器の計測はあちらの本部の観測機器やカルデアのデータともリンクさせているので、この数値で正しいと思われますが……」

 

 そう藤尭が振り向けば、その目線の先の弦十郎は何かに気づいたのか、考え込むような仕草を見せる。

 

「……成程な。どういう原理かはともかくだが、何が起きたのかは掴めてきたか。──俺たちはイェソドの支援を中心にしていたが、カルデアではネツァクとホドの支援を主としていたな?体感時間にズレが生じた人間がいないか大至急問い合わせろッ!」

 

 やがて弦十郎はポツリと呟き、どういうことかと周囲のスタッフが尋ねる前に大声で指示を出す。

 スタッフたちが即座に意識を切り替えテキパキと行動を起こす様を眺めつつ、エルフナインも何かに気づいたように弦十郎へと目線を合わせた。

 

「……相手の真名開放として告げられた宝具名と思われるものは『クラウソラス・アガートラム』……。つまり、あの光はクラウ・ソラスの……」

「かもしれん。ヌァザの剣である、という伝説があったかと思うが……」

 

 弦十郎はエルフナインに渋い顔でそう答えた。

 敵対している守護天であるヌァザ、彼のサーヴァントとしてのクラスは「セイバー」……すなわち剣のサーヴァントである。

 弦十郎はベディヴィエールの宝具の情報を知っていたこともあり、てっきりアガートラームがセイバーとしての要素であると考えていた(アームドギアが剣型であることもその考えを助長していた)が、それ以外の伝承も持ち合わせているとは思っていなかったのである。

 

「…………」

 

 が、弦十郎の言葉にエルフナインは思案顔でうつむく。

 その様子に不審そうに目線を向けるも、エルフナインは反応せずに考え込んでいる。

 

「エルフナイン君?」

「……あ、いえ。なんでもありません。すいません、ぼーっとしちゃって……」

 

 黙り込んでいたエルフナインは、弦十郎に改めて声をかけられ慌てて謝罪する。今は戦闘中だ、と己の柔らかそうな頬を気付けとばかりにパンパンと両手で叩く。

 

 何かを見逃しているのではないかという直感じみた考えが彼女の脳裏に浮かんでいたが、しかしそれがはっきりとする前に弦十郎に声をかけられたことで霧散してしまっていた。

 

 

 

 

 ──そこは、知らないものが見れば地獄とでも思うだろうか。

 丁寧に整えられていた庭園も、美しい白さを見せていた漆喰塀も、その外側に広がるエリンの蒼い草原も。

 その全ては灼熱により焼き滅ぼされ、今は残火が燃え滓を炭へと変えるパチパチとした音が小さく鳴るばかりであった。

 

 そこであった戦いを知らぬものが居れば、そこに生命は無いものと考えてしまうだろう。

 だが、その炎を振るったもの──輝く鏡面の剣を持つ神はそのようなことを露程も考えていなかった。

 

「どうした?此れで終わりな筈はないだろう。貴様らは私に知恵と勇気を示したのだ。であれば、力が足りぬということはあるまい?」

 

「──無茶苦茶、言ってくれる、わね……ッ!」

 

 神の期待するような言葉に応じるように、凛とした声が辺りに響く。

 そして、その声に触発されたかのように。その身に降り積もった残骸を退かすようにして立ち上がる人影が──3人分。

 

「今、のって────」

「宝具、でしょうか。あの熱量、あるいはあれこそが彼の神の本領でしょうか……」

 

 そう口々にいいながらヨロヨロと立ち上がる。

 響、ベディヴィエール、そしてマリアの3人は、あの破壊の中どうにか生を掴んでいた。

 

 マリアは2人の安否をちらりと確認し、そのまま正面を向く。

 

「ねえ、2人とも──気づいた?」

「……うん。あれって新宿で見た……」

「そのようですね……」

 

 3人の目線は、今までヌァザが座っていた岩──その向こう側にそびえ立つ、巨大な肉塊を思わせる不定形の柱状の存在を見ていた。

 彼女たちが認識する限り、先程までは確かにあの存在──指揮者デモノイズは視界に映っていなかった。にもかかわらず、今ははっきりとソレが見える。

 

「今まで隠してたんでしょうか……?」

「どうかしらね。でも、少なくとも今は姿を見せている。そして、私達の勝利条件は守護天ヌァザの排除じゃなく──」

「指揮者デモノイズの撃破、ですね。ですが──」

 

 そこでベディヴィエールは言葉を切り、岩の前に陣取るヌァザを見る。

 

 ヌァザは、明らかに何かを期待している目で彼女たちを見据えている。

 ワクワクしているとも取れる表情は依代の少女相応のソレであればさぞ似合っていたのだろうが、戦神らしい猛々しい笑みが全て台無しにしている。

 

「──このまま素通り、というわけにもいかないでしょう?」

「……そうね」

 

「こそこそとした話は終わったか?いや、素晴らしいぞ。我が光熱の一撃を如何にして凌いだ?」

 

 マリアとベディヴィエールの話に割って入るように、まさに上機嫌そのものと言える口調で語りかけるヌァザ。

 一種の戦闘狂とも呼べそうなその姿に、思わず辟易とした表情を見せるマリア。だが黙っていてもしょうがないだろうと口を開く。

 

「……別に、大した話ではないわ。アガートラームのギアの力なら、同じギアの力で受け流せる──なんて、分の悪い賭けに出ざるを得なかっただけだもの」

 

 そういって己のアームドギアたる剣を見るマリア。その刃は融けかけており、腕甲は黒く煤けている。そしてそれは後ろに居た響も同様であり、彼女の腕甲も熱を受けたのかところどころ焦げ、一部装甲は融解しかかっているものもある。

 タネとしては非常に単純だが、彼女たちは即興で簡易的なS2CAを運用したのだ。

 

 S2CA──Superb Song Combination Artsと命名されたそれは、立花響とマリア・カデンツァヴナ・イヴの2人が揃って初めて実行できる荒業である。

 繋ぎ束ねる特性を持つ響の無手たるアームドギアと、エネルギーの分配・再配置の特性を持つマリアのアームドギアをそれぞれ絶唱状態で使用することで、一時的に大出力を獲得する技。

 本来は複数人の絶唱のフォニックゲインを束ね調律するのだが、今回はデモノイズの撒き散らしている魔詠のフォニックゲイン……そして、ヌァザの放った宝具の炎熱を転用し、相殺したのである。

 

 勿論、本来はフォニックゲインを束ねる技であり、間違っても単なる炎やらを束ねることが出来るわけではない。ヌァザの宝具として放たれた炎熱の極光が、あくまで依代のセレナが使用するシンフォギア・アガートラームの特性により再配置されたフォニックゲインの変質したモノだったから出来た芸当であり、そうでなければここで敗北していただろう。マリアの言う通り、全く分の悪い賭けでしか無く──それでも、どうにか彼女たちは立ち上がれたのである。

 

(──さて、問題はここからよね……)

 

 そんなギリギリの綱渡りでどうにか現状を維持したマリアだが、彼女の浮かべた未来予想図はお寒いものであった。

 まず、同じ技を何度も受けきれるわけではない。ヌァザの宝具はどうやらフォニックゲインを束ねるだけではないらしく、響やマリアのギア自体に大きな負荷が掛かっていた。ところどころ融解しているのもその証明であろう。

 下手すれば次に同じ技が来ただけでこの状況は瓦解してしまう。

 

 だからといって、ベディヴィエールの宝具で迎撃というのは──マリアがそう考えながら銀腕の騎士を見やれば、彼はあくまで冷静な表情を崩さず、小さく横に首を振った。先程の宝具には抗しきれないという意思表示だろう。

 この状況であってもその沈着冷静さを失うことなく油断なくヌァザを見ている彼は、当然響とマリアのギアの状態にも気づいていた。

 

(おそらく次に攻撃が来れば、彼は相手の炎を少しでも相殺するために宝具を使用せざるを得ない。そして、そこで終わり。霊基の崩壊に至るかは未知数だけど、少なくともそれ以上の戦闘行為は不可能になってしまう……ッ)

 

 それはあくまでマリアの推測でしか無かったが、しかし遠からずだろうという確信もあった。先程相殺に宝具を使わなかったのは、次に必要になるかもしれないからという彼の戦闘感が導いたのだろうとマリアははっきり理解していた。

 

「──せめて、もう少し隙があれば……なんて、無い物を強請るにしても限度があるというものか……」

 

 ここですべきは、何をおいても宝具を撃たせないことに尽きる。だが先程の攻撃の際、ヌァザは閃光が放たれると同時に炎熱の準備を終えていた。

 そこに隙は存在せず、彼女たちの間に横たわる物理的な距離を踏破するだけで隙が潰れてしまうだろう。

 

 と、そこで響がポツリと、まさに思ったことがそのまま溢れたかのように呟いた。

 

「……それにしても、アガートラームってあんな一瞬で攻撃できましたっけ?マリアさんはもっとこう、エネルギー・チャージッ!みたいな感じでやってたというか……」

「それは……」

 

 響が首をかしげる様子に、マリアが言葉に詰まる。

 先程の攻撃をギアの能力で防げた時点で、相手の攻撃はフォニックゲインに由来──つまり、シンフォギア・アガートラームの効果によるものであることは疑いようもない。だが、同じギアを持つマリアが同速で同規模の攻撃を行使できるのか、ということになると話が変わる。

 

(確かに、私ではあの規模の攻撃は難しいけど……それは相手がヌァザ本人であるとか、依代のセレナの適合率が高いということで説明自体はつく)

 

 マリアは今の攻撃をひとつひとつ分析していく。大規模な熱線、剣を抜いたときの閃光、瞬時に終えたエネルギーの収束……その中で、マリアは1つの違和感に気づいた。

 

(でも、収束速度は別だわ。アレだけの出力、かなり広域からエネルギーを集めなきゃいけない以上、どうしたって収束し切るまでには時間を要するはず……)

 

 マリアの場合、大規模な攻撃を放つ際には発射前にエネルギー収束のための時間を必要としている。というより、もともと大出力を持つ聖遺物自体を歌で増幅させるシンフォギアであっても、大規模攻撃に際しては発動に必要なエネルギーを蓄積するための動作が必要なのだ。

 それがネフィリムやデュランダルのような完全聖遺物……それもエネルギー関係の能力に優れた物品であるなら即座の大規模攻撃も可能だろう。だが、相手のヌァザが使用する聖遺物はあくまでシンフォギアに使用される欠片のみ。大技の発動に際しては大量のフォニックゲインを何処からか調達・蓄積する必要がある。装者はソレを往々にして歌で補うが、今のヌァザの場合はその歌すら必要としていなかったようにマリア達は感じていた。

 

「とにかく、このまま睨み合っていても仕方ありません。相手が何をしたのか、なるべく眼を離さないように戦わなくては……?」

『──いえ、むしろそれは不味いですッ!』

 

 ベディヴィエールが当座の戦闘方針を2人に告げかけた時、響達のギアに焦ったような声で通信が入った。

 

「エルフナインちゃん?なにかわかったの?」

 

 その慌てようを宥めるように、しかし期待の籠もった声で響が問い返す。

 なにせ彼女はS.O.N.G.本部で最も神話伝承・異端技術の扱いに秀でている技術者である。緊急の通信で注意を促してくる時点で期待を抱いてしまうのも無理らしからぬことだろう。

 

 そして、そんな響の期待に応えるような答えが通信先から返ってくる。

 

『はい。先程の状況をこちらでモニタリングしていたところ、守護天ヌァザが剣を抜いた際に発生した"閃光"を目視した方の体感時間にズレが生じていました。時間にして短くて1~2秒、長くて10秒程度ですが、その間の情報を記憶できていなかったんです』

「────ッ!それはつまり、あの光を見ると記憶が飛ぶってことッ!?」

「そんな映画みたいなことが……」

 

 エルフナインからの説明に、マリアと響がそれぞれの反応を返す。響の指す映画と今回の事象は微妙に違うが。

 

『先程守護天が真名開放として宣言した連語の中に"クラウ・ソラス"という単語がありました。これはケルトの伝説に登場する宝剣を指す単語ですが、特に光に関係する逸話が数多語られているんです』

 

 ケルトの伝承に登場するクラウ・ソラスは、諸説ある中で光の剣とも呼ばれている。

 一度抜けば閃光が世界を3周する、井戸を照らす光源として使う、窓のない部屋で僅かに覗いた刃が輝き、辺りをまるで太陽が出たかのように照らし出した、などの伝説がある。

 

『そしてその中に、閃光を放ち敵を眩惑するという話もあると言われています。先程の閃光はおそらくその逸話を元にした攻撃でしょう』

「成程、それで見るなって言ったんだ……」

『そうなんです。無茶を言っているとは思いますが……それでも、剣の閃光を眼にしてしまうと先程のように動きを止められてしまう可能性があります』

 

 エルフナインの言葉にそれぞれ納得の表情を見せる3人。

 

「光を見ずに、彼の神と戦う……。いえ、刀身が光る瞬間さえ見なければいいのでしょうが、どちらにせよかなりの難題ですね。……ええ、やってみせましょう、騎士の名にかけて、我が王に誓って」

「師匠が言ってましたッ!達人は相手の足だけを見てその動きを読めるってッ!不肖立花響、今こそ達人の頂に──ッ!」

 

「──そうね、やってやりましょう。ソレでこそ、あの神様が望む"力"を見せたってことになるでしょう?」

 

 マリアはそう言って、先程からこちらの行動を待っていた神へと向き直った。

 そんな彼女に倣うように、響とベディヴィエールも体勢を整える。

 

『……こちらでも至急対策を考えますが、その間だけ、どうにか──お願いします』

 

 エルフナインはそう告げ、通信を切る。それを待っていたかは不明だが、ヌァザが静かに口を開いた。

 

「ほう、いよいよ正面からぶつかる気概を見せるか。先の技巧、我が陽熱を受け流したことに加え、我が刃の秘密を知ったと見える」

「……やっぱり、判るみたいね」

「わからいでか。我が刃を構えるための腕に視線を合わせていればな。そうやって片腕を前面に出した戦闘姿勢も、成程光の放たれる瞬間に影を作るためだろう」

 

 ヌァザはそう言ってニヤリと笑い、対象的にマリア達は苦い表情を浮かべる。

 一応簡易的な対策として、それぞれ瞬間的に光を防げるよう……正確には、相手が剣を抜くような動作をする瞬間に目隠しが出来るように普段と若干体勢を変えていた。それでも響やマリアは元来の姿勢とそうそう変わらない体勢だから気づかれないかも……という淡い期待を抱いていたがするだけ無駄だったようである。

 

「そう。だったら話は早いわ。例え策に気づかれていようとも構わない。私達は──貴方に勝つッ!」

 

 その言葉と同時に、3人はきっちり散開して突撃する。

 

「ほう、また離散するか──良い判断だな」

「いつまでも、上から目線でッ!」

 

 マリアが先手必勝と最早技を隠す気すらなく大上段から刃を振るい、同時に複数展開した短剣から光線を浴びせかける。ヌァザはその攻撃に対し同量の短剣を展開し、光線の盾とした上でマリアの斬撃を己自身の銀腕、医神の構築した神秘で受け止め弾き返す。

 響が間髪入れずに間を詰め、刃を抜かれる前にと崩拳を叩き込む。一種の対城兵器とも呼べるであろうその拳は、ヌァザがもう片手に握っていたアームドギアの剣身により芯を逸らされ空を切った。

 

「そこ──ッ!?」

 

 ヌァザが両手を使ったことで表出した隙を、ベディヴィエールがその手に握るロングソードで突いた。がら空きの胴へと放たれた英霊の膂力が一点に籠もった一撃が放たれ──音の暴力とも呼べる爆音と共に業火を受け、大きく吹っ飛ばされた。

 

───焼却式 イェソド───

 

「ベディヴィエール卿ッ!?く──ッ!」

 

 炎は弾かれ往なされていたマリアと響にも届き、2人はすんでのところで跳躍し回避するがそれでも余波を受け、結果としてヌァザから距離を大きく引き離された。

 

「ぐ……ッ、今のは……そうか……」

「デモノイズ……ッ!」

 

 ふらつくベディヴィエールと、彼に肩を貸していた響が口々に呟く。

 そう、戦場にいるのはヌァザだけではない。先程までは盾扱いされていた楽団デモノイズや隠されていた指揮者デモノイズは、その身から生やす吹弾機関からけたたましい合奏を鳴り響かせている。先の炎は、デモノイズが魔詠を束ねて放つ焼却式の一撃だった。

 

 3人の様子を見ていたヌァザは、ふむ、と一つ頷いた。

 

「連携はいい。戦闘における着眼点もいい」

 

 先程まで固まっていたのは、周囲のヌァザ配下による圧力に対抗するためだった。だが、今相手は宝具を抜き力を見せろと言った以上、周囲を巻き込むような宝具と軍勢を併用することはないだろうと考えての陣形だった。

 以前より戦闘で配下の巻き添えを作る戦い方をせず、デモノイズを盾にさせるなどむしろ配下を労る戦運びをしていたことからの推測だったが、ヌァザが高評価を下しているところを見るに、作戦の方向自体はそう誤っていたものではない。

 だが、結果は結果。作戦がどうあれ、彼女たちは自分たちが神に力を示せたとは思えなかった。

 そして、そう考えていたのは3人だけではなかったようである。

 

「──だが駄目だな、力が足りん。やはり、人の子にルーに並ぶ器量を求めることが間違いであったか。神槍の担い手、銀腕の担い手──紛いとはいえ、聖剣を抱える者。期待していたが──ここで、終わりだな」

「────ッ!何を終わりなど、私は、私達はまだ戦えるッ!」

 

 一方的に下された宣告は、まさに神の詔とでも言うべきか。下された側を全く慮っていないとばかりのその言葉に、黙ってられないとばかりにマリアは反駁する。

 だがその気炎を全く気に留めず、ヌァザは体勢を立て直すことでいっぱいいっぱいだった3人を尻目に徐ろに刃を抜いた。シンフォギア・アガートラームのアームドギアと似て非なるその刃は深い神秘を湛え、まさに神の剣と呼ぶに相応しいモノ。刃には光が揺らめいており、キラキラとした刀身は波立つ水面を思わせる。

 

「戦えるからどうだというのか。ここで押しきれぬようでは──いや。……想定に届かなかったとはいえ、せめてもの慈悲だ。眠るように死ぬがいい──その方が、今後の世界の有様を見ずに済むだろう」

「そんな、勝手な……ッ!どうして、そうやって決めつけちゃうんですかッ!」

 

 神の目線から憐れみと慈愛を以てそう告げられ、響は思わず声を荒げる。その言葉には全く価値観を通わせようとしない神に対する怒りより、心情を伝えてくれない相手への辛さが多く滲み出ている。

 だが、その言葉にも神はただ悲嘆と諦念が入り混じった目線を向けるだけであった。

 

 刀身に輝く光が尚も強まる。3人は光が放たれる前に止めようと駆け出そうとするが、その身は満身創痍であり到底間に合いそうにない。

 

「──静かに、眠るがいい」

「待っ────!」

 

 輝きが解き放たれる。全てを惑わす光が辺りを包み込まんとする。

 それに呑まれては、最早彼女たちは戦えない。そのまま無慈悲に刈り取られるだけである──そう理解していても、現実は変えられない。光が放たれるのを止められぬままに、彼女たちの全てが終わらんとし──。

 

『マリアさんッ!その手の、刃を──ッ!』

「────ッ!」

 

 ──最後に耳に届いた叫びに、マリアは反射的に己の刃を抜いた。

 

 

 

 

 

「──?何も起きない……?」

 

 その光が収まった時、マリアは自分の身に何も起きていないことに気づいて驚きを零す。

 先程のヌァザの言葉が正しければ、自分たちはあの光に包まれて記憶を飛ばされそのまま死ぬものであると考えていただけに、マリアは拍子抜けしたかのようにあたりを見回す。

 

「む……どうやら無事のようですね」

「ピカーってなったから、てっきり目が覚めたら宝具が飛んでくるかなって思ってたんですけど……」

「…………どういうこと?一体……」

 

 隣にいた響とベディヴィエールも無事なようであり、マリアはますます混乱する。

 そこでふと、己の手に握られたアガートラームのアームドギアを見た。先程エルフナインの言葉が耳に届くと同時に反射的に掲げたが、それがこの場を助けたのだろうかと首をかしげる。

 

「……ッ、そうだ、ヌァザッ!あの守護天は──」

 

「──そうか、そうだな。その刃は光の剣に等しいもの。であれば、そういうことも可能ということか。私がアガートラームをクラウ・ソラスとして扱ったのだ、同じ源流の刃が同じ概念を持って当然か」

 

 光を放った張本人がどうなったのかを確認しようとマリアが顔を向けると同時に、そんな言葉が静かに響く。

 言葉の主の手にある剣は先程までの輝かしさを失い、普通の神剣としての様相に戻っていた。

 

 マリアはヌァザの言葉で何が起きたのか朧気ながらも理解し、己のアームドギアを強く握りしめた。

 

 光を弾き、光で照らす剣クラウ・ソラスをヌァザはアガートラームの聖剣形態と同位させて宝具として運用した。それは他ならぬ真なる銀腕の所有者たる神が「アガートラーム=クラウ・ソラス」としてこの場に概念を提示したのだ。

 伝承の中では鏡のように邪視を反射するとの逸話を持つクラウ・ソラスは、光を鏡のように発した相手へと反射する概念を持つ。それと同じ概念を持つと神が示した為に、マリアのアガートラームも一時の間、クラウ・ソラスと同じ哲学を持つ刃として機能したのだ。

 

(そういうことだったのね……ありがとう、エルフナイン)

 

 この可能性を導き出したであろうエルフナインに、マリアは深い感謝の念を抱く。この短時間の間におよそあらゆるデータベースをひっくり返しただろう彼女の頑張りは、今戦場に立つ3人にチャンスをくれたのだ。

 

「さあ、どうするヌァザッ!貴方の宣告を超え、私達は未だここにいるッ!先刻に言ったとおり──私達はまだ戦えるッ!」

 

 キッと決然とした表情を浮かべ、マリアは今一度ヌァザに己の思いの丈をぶつけた。響もベディヴィエールも同じ意志のようであり、目線を僅かにも逸らさずにヌァザを見つめた。

 その様子に、ヌァザは先程までの諦念の目線を消し、改めて戦意あふれる戦神としての形相をその可愛らしい顔に浮かべた。

 

「ふ、成程。これは私の落ち度だな。──戦いの意思は残っているのか、人の子よ?」

「何を……当然ッ!僅かにでも可能性がある限り──いいえ、可能性がないなら作ってでもッ!」

 

 神の言葉に、マリアはそれこそが己の決意であると言わんばかりにそう宣言する。

 

「私の宣告を、慈悲を。未だ勝手だと思っているか?」

「~~はいッ!もっとちゃんと話してほしいですッ!話し合いたいですッ!私は──貴方と話して、もっとわかりあいたいですッ!」

 

 神の確認に、響はそれこそが己の望みであると示さんばかりにその手に感情を込める。

 

「その誓いを、貴様は履行せんと願うか?」

「──ええ。守護の誓約は、私が騎士である限り破られることはありません」

 

 神の問いに、ベディヴィエールはそれこそが己の誇りであるとして剣を立てる。

 

 

「──ならば、これこそが最後の、最期の機会と思え。私の全霊、私の炎、私の太陽。そして私の歌のすべてを込めよう」

 

 ヌァザはその神剣を高く掲げ、声高らかに、喉が枯れんばかりに歌う。

 太陽の光がその刃に収束し、魔詠がその歌に束ねられていく。

 

 それは先程の灼熱の再現と言わんばかりに輝き、神の剣としての真の姿を曝け出していた。

 

「……セレナ・カデンツァヴナ・イヴは其処の騎士とも、女戦士とも違う──真に我が銀腕の担い手たる器だった。だからこそ、疑似サーヴァントたる私の依代として選ばれた」

 

 ヌァザの独白と共に剣は更に熱量を増し、太陽と見紛うばかりの光を放つ。

 最早直視もままならないであろうその輝きを前に、3人は屈することなく顔を上げ続ける。

 

「だからこそ──この宝具は歌と銀腕、そして──我が剣の位相を揃えることで成立させられる。他ならぬセレナ・カデンツァヴナ・イヴの才覚に依って成立する、この私だけの光の剣」

 

 魔詠によるフォニックゲインと、太陽光の収束による熱エネルギー。それを握る銀の腕は赤熱化している程であり、しかしその熱量は完全にコントロールされ、神に対峙する不遜なる者へと牙を剥く。

 

 

「さあ、人の子よ、光明たらんとするならばここに力を示せ──『焼滅せよ、銀色の腕(クラウソラス・アガートラム)』ッ!」

 

 

 宝具の真名。今この場にのみ成立する奇跡の光剣が輝きを放つ。

 それは先程の一撃をも容易に凌ぐ大火力であり──だが、今や彼女たちはそれに臆することはなかった。

 

 

「──Gatrandis──babel──」

 

「──ziggurat──edenal──」

 

 

 歌が響く。どの言語にも属さない言の葉にて紡がれる歌。神秘の残り香とも感じられる、生命を燃やす歌が。

 それこそは絶唱。シンフォギア装者たちが命を懸けて歌う、彼女たちの切り札──シンフォギアの特性を最大限に活かした、聖遺物のエネルギーの最大増幅による必殺の歌。

 

「いきますマリアさんッ!とっておきの最終手段ッ!」

「ええ、やってやりましょう──スパーブソングッ!」

「コンビネーション・アーツ……セット、ハーモニクスッ!」

 

 響の掛け声とともに、マリアと響は周囲のデモノイズにより奏で続けられる魔詠、そのフォニックゲインを束ね上げ、虹色の光を纏う。

 神の刃が輝きを増すというなら、彼女たちの歌も虹を纏う。相手の全力に応じるための、自分たちの本来の、2人しか居なくとも全力のS2CA。相手の聖剣同様に自分たちの歌と魔詠を束ねた輝きを──マリアは、己のアームドギアに全力で注ぎ込んだ。

 

「ぐ、う────ッ!」

『シンフォギアにかかる負荷が、いえそれ以上にマリアさんにかかる負荷が大きすぎますッ!マリアさん、それ以上は──』

 

 エルフナインの心からの静止にも、マリアはニヤリと笑うことで答えた。まるで何も心配はいらないのだと、そう言わんとしているかのように。

 

「自棄になったかッ!だが、貴様ではそれに耐えられまい──何より、その様では私の刃に合わせられまいッ!」

 

 ヌァザが剣を振り下ろす。ヌァザの言う通り、2人分の絶唱と魔詠のエネルギー、その全てを制御するために全神経を集中するマリアはその剣を止めることは出来やしない。

 だが、そんな彼女たちを守るのだと誓う騎士は確かにそこにいた。先程、神たるヌァザに対しても引かず、己の誓いを守ると宣言した騎士が。

 

「──だからこそ、私が止めてみせましょう。騎士の誓いを反故にするなど、円卓の名折れというものです」

 

 ヌァザが振り下ろした剣を、ベディヴィエールの銀腕が受け止める。

 

 嘗て花の魔術師が作り上げた、星の聖剣を基に構築した銀の腕。神造兵装たる真の銀腕とは異なる、ベディヴィエールにとってのみの銀の腕。

 今はその聖剣はない。彼が英霊の座に祀り上げられる際にはその聖剣は失われており、代替として主との絆を示す仮想聖剣がその霊基に登録された。

 

 そして今、その仮想たる聖剣はヌァザの光の剣を僅かなりとも押し止めていた。

 

「なんとッ!?本身ならいざ知らず、貴様のその脆弱な剣では我が光を秒も止められぬだろうに──」

「ええ、そうかも知れませんね。ですが──」

 

「──私も居ますッ!だから大丈夫ッ!平気、へっちゃらですッ!」

 

 その言葉は、ベディヴィエールの影から聞こえる。

 先程マリアとのS2CAを終えたばかりで疲労困憊だろうに、それでも響はベディヴィエールを支えるように立っていた。

 

 響のギアは、神の槍たるガングニール。必中にして必勝の魔槍は、あるいはケルトの光神に通じるものがある。

 そんなガングニールを響が纏うことで発現する特性は「束ねる」というもの。あるときは平行世界の可能性を束ねてぶち抜き、またあるときはともに歌う人々のフォニックゲインを束ねる。数多あるモノを一つに束ねること、それこそが立花響の力。

 

 そして今、彼女は己の身体に残された僅かな力とベディヴィエールの聖剣の力、そして何よりこの場にいる3人の「絆」を束ねあげ、ベディヴィエールを全力でサポートしていた。

 彼女たちは互いの考えを揃え、束ね、絆のユニゾンを成立させていた。その思いの相乗によって発揮された力を束ね上げた結果、銀腕の仮想聖剣をほんの一瞬だけ本来の聖剣に遜色ない力を与えていた。

 

「この一瞬、この刹那の全てで──その剣、遅らせてみせる!今一度輝け、銀の流星──」

 

 ほんの僅かな鍔迫り合い。ほんの少しの猶予。ベディヴィエールはそこに、己の円卓の騎士としての矜持を掲げた。

 

「────『一閃せよ、銀色の腕(デッドエンド・アガートラム)』!」

 

 ベディヴィエールは己に受けた力の全てを込め、自身の銀腕を振り抜く。黄金の輝きが空間を切り裂き、鍔迫り合っていた光の剣を上に跳ね上げた。

 ヌァザは己の剣を受け止められ、あまつさえ盛大に弾き上げられたことで目を見開いた。力を失ったベディヴィエールはその様子をみて笑みを浮かべ、響共々その場に倒れ込む。

 

「ふたりとも……ッ!~~、有難うッ!」

 

 マリアは響達が倒れ込む姿を見て、それほどまでに力を振り絞ってくれたことに感謝する。

 そして、同時にここで己が成し遂げなければ全てが無駄になってしまうのだと直感した。

 

「まさか──否、だとしてもこれを止めれねば終わりだッ!」

 

 一瞬だけ茫然自失したヌァザは即座に意識を切り替え、今一度跳ね上げられた刃を振り下ろす。

 今度こそ防ぐものは居ない。だからこそ、それが止められなければ全てが無駄になるだろう。

 

 そして。

 光の剣が最後まで立っていたマリアに直撃する──。

 

「────」

 

 その瞬間、光が弾ける。銀の刃、銀の流星。マリア・カデンツァヴナ・イヴの腕部ユニットから伸びた、この場の何よりも光り輝く銀色の剣が、この場に限る哲学のとおりに光を弾き、反し、それ以上に煌めく。

 ──そして、それは相手が光の剣であろうとも変わらない。

 

 ヌァザはその貴い光に思わず動きを止める。それは刹那の間だけであっただろう──しかし、この場の歌と光を束ねたマリアにとってはその一瞬で十分だった。

 ほんの一刹那の後にヌァザが正気に戻った時、マリアはヌァザのはるか後方──ヌァザに歌、魔詠によるフォニックゲインを供給していた指揮者デモノイズの更に向こうで刃を静かに降ろした。

 

 

「……言ったでしょう?可能性がないなら作る、って。──これが、私達の"光明"よ」

 

「────見事」

 

 

───DESPAIR†BREAK───

 

 

 アガートラームに──否、その刃と同一であると定められたクラウ・ソラスに、光を跳ね返せないはずがない。

 一瞬の銀の光が閃くと共にヌァザの光の剣が散り、指揮者デモノイズが細切れに切り裂かれ、まるで昇天のように輝きの中に消え去った。

 

 その様子を視界に収めたイェソドの守護天たるヌァザは、小さな微笑みと共にその場に崩れ落ちた。

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