SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order   作:222+KKK

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第14節 暴食の狂想曲(1)

『グラウスヴァイン……かあ。ええと、カルデアのデータベースにはないなあ……そちらの世界独自のものかな?』

「そんなノンキしてる場合かよッ!?って、うわっとッ!?」

 

 ツッコミを入れた直後、クリスは慌てて飛び退る。一瞬後、鋼の爪がクリスが居た場所に振り下ろされ、頑丈なはずの床板があまりに容易く貫かれ拉げた。

 

 ダ・ヴィンチのどこかのんびりした様子とは裏腹に、クリスが思わず叫んでしまう程度には戦場は苛烈さを増していた。

 

『取り敢えずS.O.N.G.のシステムから回収したデータを元に解析をするから、それまではどうにか耐えてくれると嬉しいかな』

「ふ、耐えるのはいいけど……別に倒してしまってもいいんだろう?」

「出来もしねえこと言ってんじゃねえよッ!?場所が場所だからこっちの火力は封印されてるようなもんなんだぞッ!?」

「ははは、弓兵仲間の決め台詞をちょっと拝借しただけだとも。まあ心意気の問題だよ、こういうのはさ」

 

 ダビデとダ・ヴィンチが冗談のような会話を繰り広げる様に、こんな状態で大丈夫なのかとクリスは心中で頭を抱える。

 とはいえ、どこかコントみたいな掛け合いをする面々だが、余裕があるからというよりも軽口でも叩いてないとやってられないという面が強いだろう。

 むしろ現状が逼迫しているからこそ、常勝の王たるダビデはあえて飄々とした態度で緊張を適度にほぐそうとしているようにも見れるほどだ。

 

 そう、多少なりともダビデが戦場の空気を弛緩させようとしているように見える程、クリスとダビデは機械の竜──グラウスヴァインを相手に不利を強いられていた。

 

「ハァーハッハッハアッ!おいおいどうしたんだい?よもやかのイチイバルの装者がこの僕に手も足も出ないなんてッ!?まさか、そんなことがあるもんだねえッ!」

「うるっせえッ!眼の前のトカゲ片付けたら次はてめえの番だからなッ!」

 

 そして、竜の上に立つ人影──ウェル博士ことジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスは堪えられないという風に高笑いをしながら2人を見下している。

 その態度に腹が立ったクリスは怒鳴り返してクロスボウを撃ち放つも、ウェルへの射線を塞ぐように広げられた翼が光矢を弾き飛ばす。翼の向こうではそんなものかと煽るようにウェルが薄ら笑いを隠さず向けていた。

 

「んのヤロ……」

「まあまあ、落ち着こうよアビシャグ。手詰まりのときに自棄に走ると碌な事にならないよ」

 

 クリスが頭に血を上らせたところで、ダビデが冷静に諭す。

 

 実際、ダビデの言う通り現状は2人にとっては手詰まりといっていいものである。

 目前の機械竜に対し、彼らの通常兵装では痛打を与えることが難しい。鋼の竜鱗(鱗があるのかは不明だが)は生半可な攻撃を弾き返してしまう。これを打破するには大火力で相手の装甲を貫く必要があるのだが、戦場が海底に建造された深淵の竜宮であるというところがそれを難しくしていた。

 まずダビデの場合、グラウスヴァインの装甲を貫く火力が出せない。宝具である5つの石は対人宝具であり、一個の生命をダウンさせるのに十分なダメージを与えることが可能である。だが、逆に言えばこの宝具の肝は伝承に由来する必中と昏倒の概念であり、威力自体は対軍規模の大火力宝具とは比較にならない。鋼の竜を相手にするには流石に心許なかった。

 であればクリスがどうにかしなくてはならないのだが──。

 

「……確かにな。あんまり大威力だと、相手が躱したときがやばい」

 

 場を薙ぐように放たれた尾の一撃を軽く跳躍して回避し、追撃を警戒しながらのガトリングによる牽制射を放ちながら、クリスが忌々しそうに呟く。

 クリスのギア、イチイバルは遠距離攻撃に優れている。装者がクリスの場合は特に重火器のアームドギアを用いるわけだが、その場合大火力というのは即ちミサイルである。下手に外すと内壁を吹き飛ばし、場合によっては深淵の竜宮がもう一度海の藻屑になる可能性すらある。

 魔都の成立条件がどのようなものかについての情報は彼女たちは持っていないため、深淵の竜宮が崩壊しても魔都が存続する可能性を考えれば下手に壊すわけにもいかなかった。

 

「だから取り敢えずダ・ヴィンチからの報告を──っと、来たかな?」

 

 グラウスヴァインの前肢叩きつけを躱したところで、クリスのヘッドギアに入った通信音を耳聡く聞きつけ、ダビデはホッとするようにそう零す。

 流石のダビデも見通しが立たない現状をどうかと思っていたようである。そしてそれはクリスも同じであり、即座に通信を開いた。

 

「なんかわかったかッ!?」

『うん、まあ判ったというほどでもないけど……』

「それでもいいから教えてくれッ!」

 

 なんでもいいから情報をよこせとばかりに催促するクリス。

 ダ・ヴィンチもそれが判っているのだろう、一呼吸おいて判明した内容を連々と語り始めた。

 

『わかった。戦闘中だろうから聞いてくれるだけでいい。

 S.O.N.G.のデータベース……というより、旧・特異災害対策機動部ニ課の方の情報にあったんだけどね。

 グラウスヴァインは聖遺物、あるいはそれに類する異端技術の産物として保管されていた危険物だ。見た目は見たとおり、機械なドラゴンだね。

 原動力は不明だけど、当時の研究者達はそのエネルギー反応から反応炉に類する動力機関を内蔵していたと見ている。

 ネフィリムの左腕を持つウェル博士が動かせるのもそこに起因するんだろうね。ネフィリムはエネルギー増殖炉だから、非稼働状態のグラウスヴァインを稼働させられるだけのエネルギーを用意できてもおかしくはない』

「……つまりあれか、あのメカドラゴンって元からあんなんなのかッ!?あ、悪い続き頼むッ!」

 

 戦闘の最中であることを踏まえ、努めて冷静に、聞き取りやすいように話すダ・ヴィンチ。

 それを聞いているクリスとダビデは、目前のグラウスヴァインの様子を警戒しつつ先を促す。

 

「さっきからコソコソ内緒話かい?連れないなあ、僕にも教えてくれよッ!」

 

 業を煮やしたウェルがそう叫ぶと同時に、グラウスヴァインの口腔部が輝き──その口から一条の光が放たれる。

 

「って、ビームぅッ!?こんの、リフレクターでッ!」

 

 グラウスヴァインの口から放たれた光線……メーサー砲の一閃を前に、クリスは展開したリフレクターで偏光防御する。

 

「ええい、チョロチョロよく避けるッ!?」

「あっぶないなあ、もう。というかブレスじゃないんだ……と、それで弱点とかそういうの何かあるかい?」

 

 そのリフレクターの影にぎりぎり滑り込むことで紙一重で回避したダビデが、悪態をつくウェルを無視しやや焦ったようにダ・ヴィンチへと問いかける。

 

『うわ、あの規模のメーザーを偏光できるのか、シンフォギアすごいなあ』

 

 クリスのリフレクターは以前も使用されていたが、その時は炎を防ごうとして融解しただけに終わっていた。今回のように正式な使い方をしたときのリフレクターの性能にダ・ヴィンチは素直に感心の声を上げ、そんな場合じゃないと咳払いをする。

 

『ってちがうちがう。ええと、取り敢えず反応炉を攻撃するのは不味い。爆発したら魔都はともかく君たちも纏めて吹き飛んじゃうからね。だからそれ以外の弱点ってことなんだけど……はっきり言えば、伝承がないからわからないね』

「──わかんねえ……って、マジかよッ!?」

 

 ダ・ヴィンチの端的な言葉に、クリスが声を荒げる。

 いきり立つクリスに、ダ・ヴィンチも流石に悪いと思っている風な声音で応じる。

 

『こればっかりは申し訳ない、としか言えない。ええと、風鳴機関?が吹っ飛んだせいでS.O.N.G.側にもまともなデータが残ってないらしくてね……。そっちの世界の本部ならあるいは、って思ってキャロルに問い合わせたけど、何分キャロルの立場が観察処分を受けて政府の管理下に置かれた危険人物だからね、そういった機密情報へのアクセス権限は全くもっていないときた』

「あー、くそ、そういうことかよ。悪い、アンタが悪いわけでもないのに当たっちまった」

 

 ダ・ヴィンチの説明に、流石にどうしようもないかとクリスも流石に落ち着きを取り戻し謝罪する。

 風鳴機関は大戦期からの様々な国防の秘密を蓄積したデータベース。聖遺物やらの情報もそこに大凡が蓄積されていたその場所はしかし、クリス達の世界ではパヴァリア光明結社との戦いで破壊されてしまっていた。

 

『いやいや、必要な情報を纏められなかったのはこっちだ。──で、ここからは僅かな可能性になるけど、どうする?』

「──聞くしかねえだろ?教えろよ、ダ・ヴィンチ……さん」

「そうそう、この状況ではその可能性に賭けないと。必要なタイミングで必要な賭けが出来ないと勝利は遠のくってものさ」

 

 クリスの謝罪を不要と言ったダ・ヴィンチは、声のトーンを落としそう告げる。

 不確実過ぎる故にあまり教えたくないのだろう、そのダ・ヴィンチの声音の変化を聞いて尚、クリスは一も二もなく内容を求める。ダビデもそれに追従するように、ダ・ヴィンチに話すよう促した。

 

『わかった。失敗したらいよいよ打つ手なしだけど……』

 

 ダ・ヴィンチの言葉に、クリスとダビデは僅かに目を見開き……互いに目を合わせ、頷いた。

 

 

 

「全く、ずいぶんと手間を掛けさせてくれるねえ……。どちらにしても僕のグラウスヴァインは君ら如きに負けるわけもないのにさぁッ!」

 

 尾の攻撃も爪の攻撃も躱され、メーサー砲すらも防がれたというのに、ウェルはそれでも肩をすくめて見下す態度を崩さない。

 場所が場所だけに眼の前の敵がグラウスヴァイン自体に勝てない、そのことを理解しているが故の優越的余裕がそこには見て取れた。

 

「ほたえろッ!今からぶちのめしてやるから覚悟しとけッ!」

 

 クリスはそう威勢良く吼えると共に、背中から巨大なミサイルをグラウスヴァインの頭上へと射出した。

 

「何を……って、そういうことかッ!全く、小賢しいだけでおつむが足りないッ!」

 

 ウェルはクリスの狙いが何処にあるかを即座に判断し、左腕のネフィリムを巨大な盾のように展開する。

 その瞬間、クリスが放ったミサイルが炸裂し、クレイモア地雷のように内部から小型の槍型の貫徹弾が雨あられとグラウスヴァインへと降り注いだ。

 

 それぞれの弾丸自体は間違いなく小型であり、火力的には深淵の竜宮を揺るがすほどではない。貫徹力もそこそこでしかなく、グラウスヴァインに対しては精々が足止め程度の役割が果たせればいい、という程度の拙い技。

 しかし、頭上で展開された鉄の雨はまず最初に、グラウスヴァインの上に乗っているウェル博士へと向かっていく。ある程度はグラウスヴァインの翼でウェルへ到達する前に防げる可能性もあるが、到底全弾防ぎ切ることは出来ないだろう。

 

 事実、直上から雨霰と迫る貫徹弾はグラウスヴァインの翼をすり抜け、ウェルの元へと確かに届いた。そして──盾として展開されていたネフィリムを僅かも貫くことなく、全弾が吸収されて消滅した。

 

「ハンッ!こんな程度じゃこの英雄たる僕の玉体に傷一つ付きはしないッ!これで、この僕の──?」

 

 勝ち誇った表情で再度勝利宣言しようとしたであろうウェルは、そこでクリスの口元が不敵に笑っていることに気づいて言葉を切る。

 その眼は全く絶望していないどころか、むしろ今後の先を見据え希望を見出しいてる、そう感じられる強いもの。

 一体何が──と、ウェルが不満そうに、不快そうに表情を歪めたところで、ふと彼女に対し違和感を覚え目を見開いた。

 

(そうだ、爆風で煙があって気づかなかったが……何かが違う。イチイバルの装者、ではない──ッ!)

「見失ったね、だけどそれでいいのさ。足止めが精々……でも、その足止めがあれば竜の背にだって飛び乗れるってものさ」

 

 ウェルが声のする方向を振り向けば、そこには普段の飄々とした笑みに変わり獣のような獰猛な笑みを浮かべたダビデが居た。

 その手には竪琴が携えられており、静かに、だが美しい音色が奏でられている。

 

「普段ならまあ、あの鉄槍の雨をくぐり抜けようとは思わないけどね。でもまあ、これで隙が出来た、というわけだ」

「────ッ!」

 

 その言葉にあわてて体勢を立て直そうとするウェルに、その隙を与えないとばかりにダビデは杖を振りかぶり、ウェルが鉄槍の雨を防ぐために展開していたネフィリムの腕の懐へと一気に潜り込んだ。

 最早間に合わないか──そう思わせるような状況だが、それでもウェルはその眼に一切のあきらめを浮かべていない。

 

「~~~~ッ、この僕が……英雄になったこの僕がッ!こんな簡単に殴られるもんかよッ!グラウスゥ、ヴァイィィインッ!!」

「ッ!?」

 

 瞬間、2人の足場になっていた機械竜グラウスヴァインが大きく身じろぎする。

 この閉塞空間ではそこまで大きな動きも出来ないだろう、そう考えていたクリスとダビデを裏切るようなダイナミックな動きは、その背に乗っていたダビデのバランスを大きく崩させる事になった。

 対してウェルはと言えば、ある程度バランスは崩すものの即座に立て直している。2人の肉体的スペックは大きく差があるが、それでも事前に動きがあるかどうかの覚悟の差は大きかった。

 結果、ダビデの振り下ろした羊飼いの杖はウェルに当たることはなく。足場として大きく動いたグラウスヴァインを痛打しただけに終わった。

 

「……うん。さあてと、仕切り直しかな、これは!」

 

 その結末に悔しそうな素振りを見せず、普段どおりの態度のままダビデはグラウスヴァインから飛び降りクリスの元へと戻る。

 

「ちぃ、ここで済ませられればよかったんだけどな……。一筋縄じゃあいかねえってことかよ」

「ま、そりゃねえ」

「……なんか判ってたような口ぶりだな」

 

 連携で作った隙を十全に活かしきったタイミングも、結局ウェル博士には届かなかった。その事実にふてくされたような心持ちのクリスは、半ば予期できていたとでも言いたげな反応をするダビデに胡乱な眼差しを向けた。

 

「判ってた、というか……。うん、彼は歪んでいても、英雄たりうる精神は間違いなく持っているということさ」

 

 その眼差しを受け取ったダビデは、そう言って首を振る。

 

 ダ・ヴィンチから話を聞いた2人はこの交錯の前に、グラウスヴァインを倒せないならさっさとウェルを撃破する……ということを目標にしていた。

 だが、人類の認識が惑星規模に広がって尚『世界を滅ぼしかけ』ると同時に『世界を救った』程の偉業をなした英霊であり、その身に完全聖遺物や異端技術の結晶を山程取り込んでいるであろうウェルを打倒しきれるかはダビデも半々だと考えていた。

 勿論、肉体面は脆弱とは言わないまでも、装者やサーヴァントに比べれば凡そ貧弱と言えるだろう。武装を考慮しない単純なスペックだけなら、この世界に来ているサーヴァントでウェルが勝てるのは精々アマデウスくらいだろうという共通認識すらある。問題なのは、ウェルの英雄性が肉体的な問題ではなく精神に起因することである。

 有り体に言えば、ウェルという人間が詰みに近い状態でも諦めずに行動できるタイプであり、歪みこそあれど精神的にタフな人間であろうことをダビデは理解していたのだ。清濁併せ呑み、己の美意識と価値観を汚さない限りにおいてどんな手段を使ってでも目的を達しようとする不撓不屈さこそ、ウェルが英雄足り得た理由なのだろうと。

 

 だからこそ、ここで終わらない可能性も十分に理解していた。そして、その先の可能性についても確認していた。

 

「……んで、どうだったよダビデのおっさん」

「うん、いけそうな手応えだったね。どうやら後方組の推察は正しいみたいだ」

 

 ダビデは笑い、杖を握る手の力を強める。

 

「上等。だってんなら、プランBだッ!狙いを違えんじゃねえぞッ!」

「安心してほしい、僕の石は必中だとも。クリスこそ剣はしっかり頼むよ?アレがないとどうにもならないからね」

「ヘッ、誰にモノ言ってんだ……ってダビデ王サマに言うことじゃねえか。──そんなわけで、こんどこそぶっ飛ばすッ!」

 

 今更ながらにそう苦笑し、クリスは己の手に握られたアームドギアを構え、なおも戦意旺盛にウェルを睨む。

 

「……いやあ、理解に苦しむねえ?ほんと、諦めが悪いったらない……ちょっとは僕みたいに有終の美を飾ろうとは思わないのかッ!?」

「思うわけねーだろバァーカッ!現在進行系で黄泉路から這い出てきておいてよく抜かすッ!」

 

───MEGA DEATH PARTY───

 

 その罵声を皮切りに、クリスはミサイルポッドを腰だめに展開し弾幕を張る。

 小型ミサイルはグラウスヴァインを包み込むように展開され、上に乗るウェル諸共纏めて爆破せんとする勢いである。

 対人に向けるには過剰であろうそれも、英霊と機械竜を相手にするとなれば些かどころではなく不足。追加でガトリングによる銃撃をしているものの、あまり意味があるようには見えない。

 

「……ってのはそっちも判ってるだろうに。ほんと、うんざりだね……ッ!もういい、とどめを刺してやれグラウスヴァインッ!」

 

 ウェルの言葉とともに、グラウスヴァインはその口腔に光を溜める。

 それは先程のメーザーとは違う輝き。かつて風鳴機関が、特異災害対策機動部二課がその存在を「反応炉で動く怪物」であると指したエネルギーの奔流。

 原子核同士の反応から放たれるすべての熱と輝きを以て、辺りを焼き払う絶対熱領域。幻想と神秘の世界にあって、竜の息吹に等しいとも称されるその灼熱圏はミサイルを一瞬で蒸発させ、辺りの床材や壁面を融かしながら膨張を続けダビデとクリスへと迫りくる。

 

「嘘だろぉッ!?そこまでするかよッ!?」

「やばい、こりゃ退避しかない──後ろに向かって前進だ!」

 

 それが放出された時点でダビデとクリスは抵抗を諦め、クリスはなりふり構わずミサイルを乱射して後方の壁を破壊、ついでに周囲を瓦礫だらけにして熱放射からの壁としつつ全力で駆ける。

 同じくダビデも大穴の空いた壁を通り、クリスともども退避し──そのまま、ふたりとも灼熱に呑み込まれた。

 

「ぐ、あああああ────ッ!」

「くそ、これは────」

 

 全身を熱に呑まれ、苦しみの声を上げる2人。

 

 

 やがて熱領域が消滅した時、そこには倒れ伏す2人と熱の放射を終えた竜、そしてその背に立つウェルだけとなる。

 深淵の竜宮を沈めないよう加減はしていたようであり、火力の割に影響範囲は狭い。だがそれでもあたりの隔壁は軒並み蒸発し、クリスたちが壁用にと作った瓦礫の山も一塊に融け固まっている。

 その様子に、ふんと鼻で笑い笑みを浮かべるウェル。

 

「漸く終わったか。やぁれやれ、装者ってほんとしぶといのは知ってたけど、サーヴァントってやつも大概……」

 

 と、そこで言葉を切り、不快さを隠そうともしないレベルまで表情を歪める。

 

「……って思ってたんだけどね。まだ立つのかい?」

 

「あったりまえだろッ!まだ立てる、戦えるッ!」

「……そうとも、負けなければ、十分に勝ちの目はあるさ」

 

 ウェルの目線の先で立ち上がる2人。その周囲には細やかな融解片が落ちており、なんとなく事情を察したウェルは忌々しそうに口を開く。

 

「イチイバルのリフレクターだとぅッ!?ずいぶんとまあお役立ちアイテムだなぁッ!」

「それだけじゃねえけどなッ!」

 

 そう不敵に笑うクリスだが、実際のところあまり役には立っていない。2人が即座に撤退したことで、狭い範囲の技として放ったグラウスヴァインの熱放射の影響が抑えめになっていたこと、途中で作った瓦礫の山が盾になったことなどが折り重なったために2人は立ち上がれたのだ。

 

「だがそんな小手先の芸当なんてたかが知れているッ!二度も三度も防げるものじゃあ無いだろうッ!?」

 

 そのウェルの言葉と同時に、再びグラウスヴァインの口内が煌々と輝きだす────ところで、その頭部に瓦礫が連続で叩き込まれ、グラウスヴァインがぐらついた。

 

「『五つの石(ハメシュ・アヴァニム)』──悪いが警告はしないよ。この僕を前に、同じ手が二度も三度も通ると思うかい?」

「宝具──ッ!だがそんなチョロ臭い小石如きで、このグラウスヴァインが揺るがされるはずは──ッ!?」

 

 ダビデの逸話を思いだし、舌打ちをするウェル。それと同時に、己の支配下にあるグラウスヴァインがたかだか対人宝具で目に見えてダメージを受け、熱放射攻撃も中断に追い込まれているという事実に混乱していた。

 だが、そこでふとダビデという英霊の特性を思い変えし、驚愕の表情を浮かべた。

 

「まさか──まさか、巨人殺しかッ!?」

 

 ジャイアント・キリング。小兵が巨兵を打ち倒すという番狂わせこそダビデが戦士として語られる中では特に有名な逸話である。

 故にウェルはそれが己に向けられることを危惧していた。ネフィリムは伝承では暴食の権化たる巨人であり、それを身に宿す自分に対して──あるいは、己の一部たるネフィリムに対して概念による追加ダメージが発生する可能性を危ぶんでいた。

 だが、ソレがグラウスヴァインに向けられるとは思っておらず、ましてやその効力が強く作用したことに驚きを隠せないでいた。

 

「いや、待てッ!グラウスヴァインは見た目ドラゴンだぞッ!?ズングリムックリしてるかもしれないけど、どう間違っても巨人じゃあ無いだろうッ!?」

「だとしても、その動力はネフィリムのソレだろう?それにほら、壊れてたのを修復するためか、あるいは君の意思でコントロールするためかは判らないけど、グラウスヴァインの一部にネフィリムの細胞を使っているだろう?」

「────ッ!」

 

 ダビデの言葉に、図星を突かれたかのように押し黙るウェル。

 そう、グラウスヴァインは危険すぎるからと深淵の竜宮に放置されていたのは事実であるが、ソレとは別に故障箇所──というより破損箇所が多くあるために稼働に達せられないということも理由であった。

 ウェルはソレを取り込み、別に取り込んだ聖遺物やネフィリムの細胞でパッチワークのように修復したものをこうやって前線に出していたのだ。

 

「そこまで行けば、まあ辛うじて巨人だろう……だよね?うん、巨きいから巨人だとも」

「最後は雑だな、おい。……まあ、こっちじゃゴライアスだって機械のドラゴンみたいな見た目してっからな、巨人だ巨人」

 

 クリスは軽口を叩きつつ、己の役割を思い出す。

 

 プランB……などと先程言ったクリスだが、それは詰まる所ダビデの逸話を活かす作戦である。

 最初の作戦はさっさとウェルをダウンさせることでケリをつけるという考えだったが、もしそれが難しそうな時に実施するようにと即興で練った作戦。

 元はと言えば、ダ・ヴィンチの調査結果である。

 先程ダビデが言及したように、グラウスヴァインには処々で巨人たるネフィリムの細胞が使用されている。

 ここに目をつけたダ・ヴィンチが、相手が巨人の属性を持ち合わせているならダビデの逸話が有効だろうという希望的な推測を2人に伝えたのだ。

 

 そこで2人は、もし最初の作戦をしくじった時は相手を殴るでもなんでもやって、巨人としての特性を持っているかをダビデに検分してもらい、巨人であればダビデの逸話に基づく勝利を狙おうと考えたのである。

 

(ダビデのおっさんは何とか相手を昏倒──とまではいかないにせよ、上手いこと頭に岩をぶち当てた。だったら、あたしがやんなきゃいけないことは──)

 

 クリスは即座に、己のアームドギアを身の丈を超える大弓へと変貌させる。それが狙うはグラウスヴァインの頭でも、その背に居るウェルでもない。

 

「いくぜ……ッ!ぶ・ち・ぬ・けぇぇ────ッ!」

 

 

───ARTHEMIS SPIRAL───

 

 

 大弓から放たれた巨大な矢は、筈の部分からエネルギーを噴射し更に加速。一瞬でグラウスヴァインへと迫り──その大きな腕についた巨大な鉤爪を一本、盛大にへし折った。

 

「何だとッ!?」

「ジャックポッドだッ!」

 

 黄金色だった爪の破片が宙を舞い、キラキラと光を反射してきらめく。

 そんな一瞬の幻想的な光景に目もくれず、ダビデは即座に跳躍し、宙へと跳ね上げられた折れた方の鉤爪を掴み、そのまま体勢を変えグラウスヴァインへ向かって落ちていく。

 

「まさか──くそ、起きろグラウスヴァインッ!」

 

 迫るダビデを見て本当の狙いを看破したウェルが、ネフィリムのエネルギーを注ぎ込んで無理にグラウスヴァインを再起動させる。

 無茶な稼働のせいで動作こそ鈍いが、それでも再び動き出したグラウスヴァインがダビデの攻撃をかわそうとした時。一本の矢が脚部に突き刺さり、その巨体を地面に縫い止めた。

 

「何ぃッ!?」

「へっ──あたしだって、ゴライアス殺しだッ!」

 

「はは、流石だねクリス。そして────これで、終わりさッ!」

 

 クリスのしてやったと言わんばかりの笑みに本心から褒めたダビデは、そのまま手に握る爪をグラウスヴァインへと振り下ろす。

 

 

「……こッ、んのぉッ!グラウスヴァインは、高価いんだぞッ──!」

 

 

 混乱しているのか、あるいは本気でそう思っているのか。ウェルの渾身の叫びが虚しく響くが、それも最早意味がない。

 

 ダビデ王はかつての伝承の通り──巨人(グラウスヴァイン)の首を、相手の()で一刀のもとに切り落とした。

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