SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order 作:222+KKK
「────ッ!?」
学校からの帰り道。いつもどおりの日常の最中、少女は唐突に言葉で表せないような違和感に襲われ立ち止まる。今まで感じたことのない、何もかもを急に取り零したかのような奇妙な浮遊感を感じた少女は、思わず足元を見て地面を確認していた。
「……どうしたの、響?またレポートでも忘れたの?」
「あ、ううん!なんでもないよ未来……って、いくら私でもそうそう何度もレポートを忘れたりなんか……するけど今回はしてないよ!」
少女──立花響が急に足を止めたことに驚いたのか、共に歩いていた響の親友である小日向未来も足を止め響の方を振り返る。
自分の急な行動で自身の親友を心配させてしまったことを反省した響は、自身の心に湧き出た不安感を押し隠しながら未来の隣まで駆け寄り笑顔を見せる。
「……ねえ響、本当に大丈夫?顔色が悪いよ?」
が、
親友の言葉にどう答えたものかと悩んだ響は、「あー」とも「うー」ともつかないような声で唸りながら、漠然と言葉を探していく。
「……えっと、ね。なんか今さっきすごい不安な感じがあったんだ。よくわかんないんだけど、こう、夢の中で高いところから落っこちたことで目が覚めた、みたいな。……うん、ごめん。やっぱりよくわかんないや。未来はさっきそういう風にならなかった?」
「え?うん、私は特にそういうことにはならなかったよ?」
未来の言葉に、響はそっかぁ、と息を吐く。
「うーん、でも私に聞いたってことは響は不安を感じる心当たりがないんだよね?……ねえ、これからS.O.N.G.に行くんだよね?他の皆にも聞いてみたらどうかな?」
未だ心の中に澱みがある様子を見せている響を見て、未来はそう提案した。もしかしたらお仕事と関係があるかもしれないし、と最後に付け加えた未来の言葉を聞いた響は、名案とばかりにパッと顔をあげる。
「うん、そうしてみる!きっといろんな経験豊富そうな師匠とかマリアさんなら知ってそうだし!きっと将来の進学先とかそういった不安が無意識のうちに漏れ出したとかそういう原因を究明してくれるはずッ!そうと決まれば、行こう未来!」
「あっ、ちょっと、急に引っ張らないで……もう、響ったら……」
自分のさっきの症状?を思春期の悩みか何かみたいに言いながら、響は未来の手を引きS.O.N.G.の本部へ向けて走り出した。手を引かれた未来は文句を言いながらも、若干空元気気味ではあるが持ち直した親友の様子にホッとした様子をみせて一緒に駆け出す。
「……到着、したけど……」
「……皆、ピリピリしてるというか、不安そう……?」
青春真っ盛り!みたいな感じで走り出した2人が到着した港には、国連直轄下の超常災害対策機動部タスクフォースとして編成された組織であるSquad of Nexus Guardians──通称『S.O.N.G.』の本部である潜水艦が停泊していた。立花響は諸般の事情により、私立リディアン音楽院高等科に属する女子高生でありながら、このS.O.N.G.のエージェントのような立場にあった。
S.O.N.G.には彼女たちが頼りにする大人な人々が居るわけで、そんな彼ら彼女らの豊富な人生経験に頼ろうと考えていた響はしかし、周辺に漂う異様な気配、というか雰囲気に二の足を踏んでいた。
「……ああそうだ、先程の異常な感覚について調査を……?おお、響君に未来君か!丁度良かった、君たちを呼ぼうとしていたところだ!」
「!師匠、なにかあったんですか!?」
そんな中、赤髪の偉丈夫と呼ぶべき男性が周囲のS.O.N.G.職員に指示を出していた。響に『師匠』と呼び表されている彼、響の武術の師であり、S.O.N.G.を束ねる司令である風鳴弦十郎は、S.O.N.G.の職員に指示を出したところで2人に気づき、笑顔で呼びかける。
響は自分たちの到着を「丁度良かった」という彼の言葉に、何か異変のようなものが起きたのかと尋ねる。S.O.N.G.は超常災害──太古、この惑星に存在した超文明の遺産たる"聖遺物"を始めとした種々の特殊な物品・事例による災害より人々を守るために結成された組織である。そのエージェントのような立場にある響が求められたということは、すなわち超常災害の発生を意味しているのでは無いか、と考えていた。
……余談ではあるが、この組織は平時はもっと緩かったりする。仮に普段通りの空気で司令が同じセリフで呼びかけたなら、響は誰かの誕生日のサプライズパーティー企画の相談かな?とか思ったりするだろう。
とは言え、響は今のところはそこまで大事でもなさそうとも考えていた。これがS.O.N.G.が対処すべきとされる認定特異災害であるノイズや、異端技術の使徒たる錬金術師の製造するアルカ・ノイズのような一般戦力では到底太刀打ちできないような存在が出現した場合、到着を待つなんて悠長なことは言わず響の端末へと直接指示が飛んでくる。更に緊急性が高いときにはヘリコプターが飛んできたりすることすらあるのだ。それに比べれば(彼女たちが本部に向かうことは事前に決まっていたとは言え)悠長に到着を待っていた時点でそこまで緊急性は高くないと響は楽観視していした。
「……ああ。何か、といえる事件が明確に発生したとはいえないが──。響君、未来君、こちらに到着する少し──およそ30分程前だが、我々に奇妙な感覚が伝播した。なんと言えばいいか、そう、まるで
「──ッ!?」
──が、そこで問われた言葉に響は思わず息が詰まり、バッと弦十郎に視線を合わせる。その響の様子に、弦十郎はやはりかとばかりにため息をつく。
「──あの、私はそういったことは無かったんですけど……もしかして、S.O.N.G.の人達は全員……?」
未来の言葉に、弦十郎は重々しく頷く。その顔に浮かんだ表情を見れば、このちょっとした、しかし確かな異変が相当な規模で発生していることが少女たちにも理解できた。
「……そうだな、君たちにもはっきりと言おう。我々は現在、聖遺物や錬金術といった関係技術による精神干渉かそれに類する何らかの攻撃を受けたのではないかと考えている。とはいえ、物証が無いから一般人を対象に調査を大々的に行う訳にはいかないからな……取り敢えず関連組織の職員に対して調査をかけているというわけだ」
弦十郎の説明に、なるほどー……?と、響がわかってるのかどうか怪しい相槌を打つ。そんな響を一瞬呆れた目で見た未来だが、すぐに弦十郎に向き直る。
「それで弦十郎さん、その精神干渉って一体どういったものなのかはわかってないんですか?それを受けたらどうなるのか、とか……」
「……そこが不思議といえば不思議なところでな……。有り体に言えば、全く何も起きていない。記憶の混濁のような現象が起きたとか、あるいはなんというか、こう……浮世離れするような感覚があったという報告こそあるが、それらは全て一瞬で治まっており、以降何らかの干渉は確認できていない。結果として何が起きているのかを現在から検証することが出来なくなってしまったがな。S.O.N.G.がピリピリしているのも、精神干渉のせいというよりそれについての詳細が得られていないというところのほうが余程大きいくらいだ」
「な、なぁ~んだ。じゃあ今のところは私も皆も問題はないってことなんですね!それはそれでよかったぁ……」
弦十郎の言をポジティブに捉えた響は、取り敢えずまずいことにはなっていないということを知り安堵の表情を浮かべた。未来も後を引くような症状が出ないってことを知り少しほっとした様子を見せていた。弦十郎はそんな2人(主に響)の良いとこ探しなポジティブ発言に苦笑を浮かべながらも、その発言に影響されたか若干表情が上を向いていた。
「まぁ、とにかくだ。他の装者たちももうそろそろ到着する頃だし、君たちは一旦発令所へ……ッ!?」
話を一段落させた弦十郎が2人に指示を出さんとしたところで、周辺に緊急のアラートが鳴り響いた。そのアラートに弦十郎は俄に表情を厳しくし、響に未来は緊張の面持ちを浮かべた。見れば周囲の職員たちも慌ただしく動き始め、それぞれ所定の配置へと向かっていた。
「このアラート……まさか、ギャラルホルンかッ!すまん、2人も一緒に来てくれッ!」
そう言うが早いが、弦十郎は身を翻して停泊中の本部に一息で飛び乗りハッチを開く。響に未来も一瞬顔を見合わせたが直ぐに行動を始め、S.O.N.G.本部に乗艦した。
「師匠、ギャラルホルンが動いたってことはまた何か並行世界に異変が起きたってことですよね!?もしかして今回起きたことと何か関係があるんじゃ……!?」
本部艦内を走りながら、響は弦十郎に尋ねる。このアラートの原因であるギャラルホルンは異端技術の中でも特に重要な存在である「完全聖遺物」と呼ばれる物品であり、正しく先史文明の技術が詰め込まれたオーパーツである。長年の経年による劣化や風化、破損といった事態を免れ現代に至るまで完全な姿を残したそれは貴重な遺物であり、同時に今の技術では解析しきれていない部分が多々存在する曰く付きでもあった。
「ああ、その可能性は十分にある……っと、到着だな。──やはり、ギャラルホルンのゲートが開いている。だが今までの反応とは結構異なる反応だな……」
艦内をそこそこ最速でなるべく最短で走ってきた彼らは、とある区画の扉を開き足を踏み入れた。そこでは、カラフルかつメカニカルな法螺貝のような形状の聖遺物──ギャラルホルンが奇妙な発光・蠕動を繰り返していた。
ギャラルホルンとは北欧神話における橋の番人たる神ヘイムダルが危難を告げる際に使用される笛である。その名に違わず、この聖遺物は世界が危険にさらされるときに様々な信号を発することで何が発生しているのかを知らせるという性質を持っている。
また北欧神話においてヘイムダルは神の世界と他の世界をつなぐ虹の橋の見張りであり、その所有物であるギャラルホルンも他の世界──すなわち、可能性により分岐する並行世界で発生した危険を知らせ、並行世界へ移動するゲートを管理する聖遺物ではないか、と推測されている。そのゲートが開いているということは並行世界に異常が起きていることの証明であり、放っておけば今いる世界にも悪影響が出る可能性があった。
ギャラルホルンの保管区画で、異常な兆候を示すギャラルホルンを見上げた響は、一呼吸ためた後に口を開いた。
「……いつもとの違いがよくわかりません!」
「響……もうちょっと気を配ろう?ギャラルホルンは何度も利用してるんでしょ?」
わからないことを堂々開き直った響に、未来が呆れた顔で注意する。そんな未来に言い訳をしようと更に口を開こうとした響の言葉は、室内に備え付けられているスピーカーから聞こえた幼気な声によって遮られた。
「……現在のギャラルホルンは従来の反応に比べて蠕動の規則性に乱れが生じ、ゲート自体も若干不安定になっています。今まで取った並行世界の差異とギャラルホルンの反応データを対応・照合した結果からの推測ですけど、現在つながっている並行世界は今ボク達のいる世界から少しずつ乖離しているのではないかと考えられます」
「あ、エルフナインちゃん!世界がー……えっと、どゆこと?」
少女──エルフナインの言葉に、響は首を傾げる。そもそも深く並行世界論に詳しいわけではない響からすれば、専門的知識を基に紡いだエルフナインの言葉はちんぷんかんぷんである。
エルフナインは、とある事情から錬金術師として異端技術に対する知識や技術を持つ。現在はその見識を買われS.O.N.G.では技術者として活躍するほど才ある少女であるが、その頭脳から導き出せた結論を響に過不足無く伝えることは出来なかったようだ。
もっとも当のエルフナインはそれも想定していたようで、慌てず言葉を紡いでいく。
「簡単に言えば、徐々にボク達の世界との類似性を失っているということです。今までの事例では一定の違いこそあれど、その違いに基づいてボク達の世界と同様のアルゴリズムで物事が進んでいきましたが、今回はそうじゃなくて──」
「……なるほどぉ?」
が、その言葉でも理解を得られなかったようで、エルフナインは響に対しどう説明したものかスピーカー越しに頭を悩ませた。やがて考えがまとまったのか、えっと、という言葉とともに更に話を続けていく。
「そうですね、武者ノイズの出てきた世界でのノイズの対応なんかがわかりやすいかと思います。あの世界は装者がいないという顕著な違いこそ存在しましたが、そこで取られていたノイズの対策……装者がいない場合は兵器を用いた飽和戦術によってノイズを倒す、というのはこちらでも同様の手順です。ですが、例えば装者の代わりに強い武術家が刹那の見切りでノイズを倒すのが日常だとか、ノイズを倒すにはグルメバトルしかないとか、そもそもの法則性が乱れている世界はそれだけボク達の世界から離れていると表現できる……それこそ、並行世界というよりはいっそ異世界と言えるかもしれません」
「あ、なるほど!」
人によっては更にこんがらがりそうな説明をしたエルフナインだが、結果として理解を得られたようでホッとする。響は響で納得した後、あるのかなそんな世界、いやでも師匠みたいな人達がいっぱいいる世界もどこかに……ッ!?など1人勝手に戦慄していた。
「えっと、響やS.O.N.G.の皆さんに起きた異常はやっぱりギャラルホルンの繋がった並行世界と関係しているの?」
響の思考が話から逸れていることに気づいた未来は、軌道修正のためにエルフナインに問いかける。並行世界の事象は大なり小なり今の世界にも変化を及ぼす場合があるため、今回もそういった事例なのかを確認したかったのだ。
未来の言葉を聞いて本題を思い出したエルフナインは、こほん、と咳払いをした上で確認されている情報を説明した。
「明確に関連性があるか、といえば『いいえ』です。ですが、現状で一番関わり深そうな事例が今回のギャラルホルンの異常反応であることもまた確かです。ですので響さんと──」
「──我々が調査に向かう、というわけだ」
「精神攻撃だか何だか知らねーが、売られた喧嘩は最高値で買ってやんねーとな!」
エルフナインの言葉を引き継ぐように、2人分の新たな声がその場に響く。安定感のある冷静な声と力強く威勢のよい声が聞こえた方向には、今まさにこの区画に入ってきたであろう2人の少女が不敵な笑みを浮かべていた。
「翼さん、クリスちゃん!それじゃ、今回はこの3人で並行世界の調査に行くってことですか?」
「ああ、そうなるだろう」
喜色を浮かべた響からの問いに、3人の中でも年長である青い長髪の少女──風鳴翼は端的に回答する。
この場に揃った立花響、風鳴翼、そして翼とともに現れた銀髪の少女──雪音クリスの3人(正確には翼の言にある通り、主として動くのは更に3人ないし4人存在するが)はある特殊な力を持っており、ノイズのような特異災害や異端技術による人災に対処できる希少な人材である。
また、その希少な力が無いとギャラルホルンの作り出す並行世界へのゲートを通過することが出来ないため、残りの3人──マリア・カデンツァヴナ・イヴと暁切歌、月読調と、非常時など手が足りない時や聖遺物特性によっては今この場にいる小日向未来とを合わせた7人を半々に分け、(彼女たちの視点で)元の世界と並行世界の解決に戦力を振り分けるのが常であった。並行世界の異変がいつ致命的な状況を生み出すか元の世界からではわからないため、必然として現在到着している3人で調査に向かうということになる。
「……ってか、マリアはともかく残り2人はまだ来てないのか?」
クリスは未だに到着しない2人のことを考え呟く。既に卒業した翼や最年長のマリアとは違い、此処に居るクリス、響、未来とまだ到着していない切歌と調は全員私立リディアン音楽院の生徒である。となれば、住居の違いこそあれ彼女たちの下校時刻は大体似たようなものであるため、切歌と調も本来なら到着してなければおかしいのだが。
「ああ、切歌君と調君はどうやら宿題を片付けるのに手間取っていたらしいな。なあに、ギャラルホルンの異変が確認できた段階で車を回してある。君たちの出発には間に合うだろう」
「……なんつーか、締まんねえなあ……」
弦十郎からの情報にため息を吐いたクリスは、他の2人ともども出発のための準備に向かった。
「さて、全員準備はできたか?」
「ばっちりです師匠ッ!」
弦十郎の言葉に、装備やら食料やらをしっかり持参した響が元気よく返事を返す。並行世界の調査は場合によっては数日かそれ以上に渡ることもあるため事前の準備は非常に重要である。大半が食料なのも現地調達の難しい場合に生命を左右するからであり、決して響が食べたいがために大量に用意したとかそういうわけではない。尚、翼やクリスは現地の状態を観測・記録するための機材を持っている。
「さて、それでは注意事項を……っと」
全員の準備が整っていることを確認したエルフナインは注意事項の説明をしようと口を開くが、廊下から聞こえる足音に言葉を飲み込む。テンポよく響く足音からどうやら走っているらしく、音が大きくなるにつれて荒い息遣いも聞こえてくる。
やがてギャラルホルンの保管区画の扉が開き、小柄な2人の少女が息を切らしながら入ってきた。
「お、遅れました、デースッ!」
「遅れてすみません……」
金髪でバッテンマークがトレードマーク、語尾の怪しい暁切歌と黒髪でツインテール、装者7人で一番小柄な月読調の2人は入室するなり遅刻を謝罪する。もっとも今回の呼び出しは相当に急な話であるため、遅刻することも若干やむなしではある。
「お前らなあ……。宿題くらいちゃっちゃとやれよな」
「私達はクリス先輩ほど頭良くないデスよ……見逃してほしいデスッ!」
もっとも、同じ学校のクリスは地頭の良さからか同条件でも余裕で間に合っていたためか、後輩2人に苦言を呈する。その言葉の横では、響がまるで胸に槍が突き刺さったかのようにゔっと呻いていた。ちなみに響が間に合ったのは最初からS.O.N.G.の本部で待機しながら宿題しようと考えていたためであり、未だ宿題に手を付けていないのである。
取り敢えずメンバーが揃ったことで、エルフナインがコホン、と咳払いをし改めて説明に移る。
「それでは今回の並行世界へは、響さん、翼さん、クリスさんに行ってもらうことになります。向かう先の世界は先に発生した精神干渉の原因である可能性が高いのと、観測記録から今まで以上に世界観の差異が大きいものと思われますので十分に警戒して下さい。現地には二課ではなくS.O.N.G.が存在する可能性が高いと思われますので、相手機関の状況にもよりますがそちらと連携してください」
「む、S.O.N.G.があるのか?今まで以上に違いが大きいという話だったが、S.O.N.G.成立まで同様の歴史を辿っていたのであればむしろ今までより近い世界なのではないか?」
エルフナインの説明を聞いた翼が疑問を呈する。今までも並行世界の現地機関と協力することは多々あった彼女等だが、それは基本的にS.O.N.G.ではなくその前身である組織、発端を第二次大戦にまで遡る特異災害対策機動部二課であった。S.O.N.G.の成立はここ最近の話であるため、S.O.N.G.が存在するということと平行世界間の差異が大きいということは彼女たちの今までの経験と矛盾していた。
「それは僕から答えさせてもらいましょうか」
「緒川さん?」
そんな翼の疑問に答えたのは、今まで説明していたエルフナインではなく唐突に姿をみせた1人の青年だった。青年──緒川慎次の手には今回の件に関する色々な記述がある紙束を持っており、それをペラペラとめくりながら言葉を紡ぐ。
「なぜS.O.N.G.が存在するのかということですが、それは今回の精神干渉を受けたのがS.O.N.G.の人員だけだからです。今回の異常について調査したところ、響さんと近しい間柄でありココに出入りしている未来さんには影響がない一方、イギリスに居るマリアさんやそのボディガードや連絡員といった人員に対しては等しく影響が及んでいました。そこで条件付けについて詳しく精査したところ、S.O.N.G.のデータベースにおいて組織人員として登録されている人間のみが影響を受けていることがわかりました」
「もし二課を対象としているならマリアくんを始めとしたF.I.S.組は被害をまぬがれたはずだし、装者とその身近な人々を狙ったのであれば未来くんも巻き込まれているはずだ。これら全ては、干渉の実行者がS.O.N.G.について知っていたということであり……もし、それが並行世界の住人からの干渉であれば、並行世界にもS.O.N.G.があるということを証明している」
「しかし、小日向は今では装者として正式に登録されているのでは……?」
緒川の言葉を引き継ぐように弦十郎が結論付ける。翼は2人の言葉に新たな疑問を感じ、緒川に確認する。
「はい。その点についてですが……どうやらパヴァリア光明結社との一連の騒動、それが表面化する前までの人員を対象としているようでした」
「仮定になるが、おそらく向こうの世界ではパヴァリア光明結社との争いが無かったということなのだろう。未来くんの適合率はあまり高水準ではない以上、手が足りない状況にならない限りは正式な人員として登録されることはないからな、外されていても不思議ではない」
「なるほど、そういうことでしたか」
2人の言葉に納得するように頷き、響・クリスとともにギャラルホルンの前まで移動し、形成されるゲートを見上げた。
ギャラルホルンは通常時のゲート展開の際の緑色の発光領域を形成していたが、やはり不安定なのか別な色が混じったり、またゲートの形状が時折乱れることもあった。その様子を見ていた未来が、不安そうな顔で響を見やる。響はそんな未来に気づき、あえて明るい笑顔で呼びかける。
「──大丈夫、ぱぱーっとみんなで人助けして、みんなで帰ってくるから……だから、心配しないで?」
「……響……うん、響はいつもどおり頑張って、いつもどおり帰ってきてね!」
「もっちろん!」
未来の思わず出た心配の言葉に満面の笑みで応え、響はギャラルホルンゲートの前に立った。
「やれやれ、相変わらず元気なやつだな……」
「どうした雪音……?よもや例の精神干渉で気力が削がれているとは言わないだろうな?」
「へっ、冗談!」
響の元気さに辟易したような態度を見せるクリスに、翼が冗談交じりに声を掛ける。クリスは心外とばかりに肩をすくませ、獰猛な笑みを浮かべた。そのまま響に続きギャラルホルンゲートに向かったクリス、翼に切歌と調がエールを送る
「先輩方、頑張るデースッ!」
「こっちの守りは任せて、心置きなく異変を解決して下さい」
「ああ、小細工ごと踏み潰してやるさ!」
「油断するなよ──なんて、その様子では言う必要もなさそうだな。──そうだな、マリア共々こちらの世界の守護をよろしく頼む」
「合点デース!」
切歌と調のエールに気合十分とばかりに答えるクリスに、翼も大丈夫そうだと頷き歩を進めた。
「さて、全員準備はできたな!んじゃあ、行って来いッ!」
全員が用意できたことを確認した弦十郎は、安心感を抱かせるような太い笑みを浮かべ3人に号令を下す。
「了解ッ!それじゃ、一番槍いってきますッ!」
「フッ、では次いで二番太刀が行くとしよう」
「そんじゃあたしは槍脇付か?まあいい、行くぜッ!」
3人は威勢よくギャラルホルンゲートへと飛び込んでいく。彼女たちは自分たちの世界を守るため、顔も知らぬ誰かを助ける人助けのためにと、今まさに異変を解決するために異界となった世界へと旅立っていった。