SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order   作:222+KKK

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第17節 偽冠魔詠宮殿プセウドモナルキア(7)

「キャロルちゃんッ!あれ、一体何が起きたの?それにサーヴァントって……なんか持ってるし……?」

 

 響が立香のもとに現れたキャロルの姿を見て喜色を浮かべ、しかしその装いが先程と異なっている事に気づいて首を傾げる。

 キャロルは先程までと異なり、巨大な琴のようなものを傍らに携えていた。何処かで見たような、と響が首を傾げたところでカルデアから通信が入る。

 

『いやあ、まさか自分の体を情報体に錬成して立香ちゃんのパスを通してカルデアに自分を刻み込むなんてねえ。ただまあ、霊基は不安定にせよ英霊としてきっちり成立する辺り、歴史も逸話も十分だったみたいだね。それで、それはキャロルの宝具なのかな?』

「だろうな。オレの宝具は──まあ、こいつということか。霊基登録の際には持っていなかったが……」

 

 彼女の持つ竪琴は、嘗て彼女が使っていたダウルダヴラのファウストローブ、その待機状態の姿。

 目前に対峙している魔神ソロモンの持つファウストローブ技術、その原型とも呼べる武装である。

 

「……まあ良い。それに問答の余裕はないからな」

 

 そうつぶやいて、キャロルはギリと魔神を睨む。それはあるいは、魔神がキャロルに向ける憎悪に伍するとも、ともすれば上回るのではないかと言えるほどのもの。

 

「さて、と。──よくもオレの想い出を歪めてくれたなッ!」

 

 そう言うや否やキャロルは手に持つ竪琴をかき鳴らし、それに呼応するように強力な錬金術による面砲撃を魔神に叩き込んだ。

 炎が、風が、水が、岩塊が押し寄せるその波濤は魔神を瞬く間に呑み込み──魔神の攻勢魔術によって尽く相殺される。

 

「……ち、やはり通らんか」

 

 そうなることは想定できていたのだろう、キャロルの顔に焦りはない。逆に言えば、通らないと判っていながらも攻撃せざるにはいられなかった程の憎悪が今の彼女には渦巻いていた。

 

「感情任せの攻撃が通るとでも思っていたか?無駄なことをする」

 

 世界に、人間に、そして何より魔神に対する復讐の感情──アヴェンジャーとして召喚されるほどの憎悪は、しかし直接戦闘に寄与するわけではない。

 憎悪のままにぶつけたキャロルの攻撃は、カルデアのサーヴァントとして、マスターから、ひいてはカルデアから供給される魔力を無為に消費するに終わっていた。

 

「それに、何かと思えばこの程度とはな。ファウストローブを纏わないのか?尤も、シャトーのない貴様に敗北する要因など何処にもないが」

 

 エクスドライブ状態の装者と英霊達の波状攻撃も、魔神に対して無意味であったことは既に実証されている。

 その上、サーヴァントとしてのキャロルの攻撃も今の魔神からすれば何ら痛痒を覚えるものではなかった。

 仮にキャロルがダウルダヴラのファウストローブを纏えばスペックの向上は著しいだろうが、それを含んでも魔神は敗因などないと断じていた。

 

「吐かせ。そもそもオレが貴様に勝てないことくらい判りきっている。だが、消滅しかけのオレが貴様に一矢報いようとするならこうするほかあるまいよ」

「それが、サーヴァントになる、か?」

 

 一矢報いる、という言葉に魔神は僅かに眉を顰める。

 

(……何か、策があるということか?奴らの話を聞くに、想い出を最後まで残すことを作戦としている節があった。であれば、本来の目的がある筈だが……)

 

 キャロルが己をサーヴァントと錬成したことは、当初の彼女らの狙いではない。魔神は通信先から漏れ聞こえたダ・ヴィンチの焦りの声からそう判断していた。

 

(想い出、リソースとして最上位であるそれを肉体すら先に消費してまで後生大事に抱えていたということは、それを費やさなくては立ち行かない術理を保険に持っていたということ。であれば……)

 

「考え込む暇などッ!」

「与えるものか!」

 

 魔神が僅かに動きを止めた瞬間を目敏く認め、ベディヴィエールとマリアが切り込む。

 その後ろには響が姿勢を低く突撃姿勢を取っており、魔神に対する二の矢としての構えを見せる。

 

「…………」

 

 当然、マリアとベディヴィエールの攻撃は防壁に弾かれる。そのまま追撃の魔術──が展開される瞬間に、先程同様にクリスの範囲狙撃が攻勢魔術を襲い、その尽くが潰された。

 

「どぉおおお、りゃあああああッ!」

 

 相殺した魔弾の爆発による煙を抜け、響の拳が防壁に突き刺さる。その瞬間、魔神はニヤリと笑う。

 その笑みに響が手を誤ったことに気付いた瞬間、防壁の術式が一気に書き換えられ、平面一体が大きな音を立てて爆発した。

 

「ぐッ───!?」

「反応装甲だとッ!?立花ッ!」

 

 魔神が何をやったのかを理解した翼が、爆発に吹き飛ばされた響のサポートへと向かう。

 

「同じ手が通じるものか。貫かれる前に迎撃すればいい、単純な話だ」

「──いいえ、同じ手ではない」

「ッ!?」

 

 防御を貫く響を迎撃したことで気を緩めた魔神の隙を付き、隠形のルーンを解いたブリュンヒルデがゼロ距離で槍を叩き込んだ。

 魔神は彼女が考える勇士ではなく、その効果はまともに発揮されていない。だがそれでも並の武具と比較すればかなりの巨重となり、魔神の矮躯に突き刺さる。

 

「──ふん、主から離れたか」

「ええ、今はキャロルが同胞としてマスターの下にいますから」

 

 ギリ、と音を立てて魔神の体表に魔銀の穂先が食い込む。

 薄皮一枚を貫けるか、という程度の威力。だが、彼女にとって威力はそこまで重要ではなかった。

 

「……即座に反応術式に書き換えたのは見事ですが、その直後なら防壁は張れない、でしょう?」

「それがどうした。別に防壁を張らずとも貴様らごときに害されることなどない」

「ですが、ええ。──攻撃が当たれば手を止められることは、判りましたから」

 

 それで十分だ、とブリュンヒルデは告げる。

 疵を与えることすらできていない現状を維持しようとするカルデアやS.O.N.G.の対応に、魔神は一層表情を顰める。

 

(やはりだ、やはり何か狙いがある。何処だ、魔都に残した守護天共か?……いや、奴らにこの状況をひっくり返す力はない。不完全だろうとなんだろうと、この結界が稼働している限り私にダメージは与えられない)

 

 考えていく間にも、魔神の手を止めさせまいと装者やサーヴァントが手を変え品を変え攻撃していく。

 そのどれもが魔神に対する痛打足り得ない。だが、キャロルの復活以降、何処かに狙いがあるかのように連携し足止めをしてくる敵を相手に、流石に直接攻撃を受けるのを放置するわけにも行かなかった。

 

(……足止めに終止するような行動の理由……。何かを待っているのかのように奴らは動いている──であれば、やむを得まい)

 

 直接的な打撃・攻撃などは今の魔神にとってどうということはない。生きた魔術としての特性がある以上、絡め手は尚の事気にする必要はない。

 それでも、何かの狙いがある。相手の狙いが未知である以上、ソレが己に刺さる可能性がゼロではないかも知れないと魔神は考えてしまう。

 

 だから、それは魔神にとってある種の決断だった。

 

「喰らえ──忌々しい魔神がッ!」

 

 キャロルが錬金術を発動し、四大属性を束ねた光芒を放つ。

 魔神が防壁を展開するタイミングを顕にするためにとはなった一撃。その後ろには防壁を貫くためにと響が待機しており、響が反応術式を受けたときに備えてイガリマを構えた切歌が更に後方で待機している。

 

 そしてその光が魔神のもとへと達し──防壁を一切展開せず、ただそのまま直撃した。

 

「──えッ!?っと、ととッ!?よ、よく判んないけど──ッ!」

 

 まさか防ぐことすらせずに棒立ちで食らうと思っていなかった響は体勢を崩し、慌てて光の羽でバランスを取り取り敢えず突撃する。

 そしてその勢いのままに突撃し──突き出した拳が、まともに頬を貫いた。

 

「うぇえええッ!?な、なんでッ!?」

 

 響の拳は見事なまでに芯を捉え、概念的にはともかく実質量は少女相当の魔神が大きく宙を舞う。

 そのまま大地に叩きつけられた魔神は、肉体に損壊は殆ど無いにも関わらず起き上がろうとすらしない。全く無抵抗で2人の連撃を受けた形だ。

 

「デデースッ!?こ、これはアタシはイガリマ振っていいもんデスかッ!?」

 

 このまま宝具を叩きつけていいものか、切歌は逡巡する。

 イガリマの能力は絶大であり、それこそ魔神の防壁を一撃で切り拓くことだって不可能ではない(大振りで隙も大きいため、響のようにタイミングを図って攻撃、という訳にはいかないが)。だからこそ、ここで宝具を使ったら真っ二つになるのではないか、という不安が彼女の脳裏で鎌首をもたげた。

 エルフナインの姿は彼女にとっても見知ったもの。更に言えば魔神が乗っ取ってるだけでその肉体は当人のものである。この世界のエルフナインが既に死んでいるとは言え、ソレを真っ二つに切り裂くという行為を躊躇うのは当然だった。

 

『ためらっちゃ駄目ですッ!魔神の頑強性を考えればイガリマの概念攻撃でも切断できませんから、せめて行動を封じて──ッ!』

「──ッ!了解デスッ!」

 

 が、そんな葛藤を見抜いたエルフナインの進言に躊躇はいらんとばかりに巨剣イガリマを振り下ろす。

 既に防壁はなく、その肉体に地平線が刻まれんとしたその刹那──魔神の姿がぶれ、消失した。空振ったイガリマは大地に盛大に突き刺さり、アスファルトやビルの残骸を纏めて叩き割るだけに終わった。

 

「!?消えたデースッ!?」

「今のは……残影!?認識をずらして──」

 

 何処に行ったのかと立香が辺りをキョロキョロと見回せば、程なくその視界に魔神が映った。

 どうやらそれほど遠くに移動していたわけではないらしく、地面に半分以上刺さったイガリマの上空に浮遊している。

 しかしその挙動も何処か不審というか、何処か遠くを見ているようにぼんやりと浮いている。みればキャロルの錬金術、響の拳は回避していなかったらしく、若干の土埃が付着している。

 

「……察するに、イガリマやシュルシャガナだけに発動する条件をつけ、身を躱す術でも使ったようだな。だが──」

「ええ。奴は何かを探っているわ。……さっき本部から来た指示と関係があるのでしょうけど……」

 

 そういって、マリアは魔神を見つめる。視線の先の魔神は、先程までは曲がりなりにも敵対行動をしていたというのに、今では別なことに執心しているのか全くそういった素振りを取らない。

 一応危険度の高いイガリマ等には警戒しているらしいが、それもやはり今までに比べおざなりに過ぎるものであり、いっそ薄気味悪さすら感じさせた。

 

 当然、マリアや翼だけではない。戦っていた全員が何のつもりだろうかと警戒していた。だが、そんな彼女らの目の前で魔神が起こした行動が、否応なしに事態を急変させた。

 

「──見つけたぞッ!そこかッ!」

 

 カッと目を見開いた魔神は魔方陣を多重に展開し、その勢いのままにS.O.N.G.本部の潜水艦へと極光を放った。

 

「ッ、ちぃッ!やはり探っていたかッ!」

 

 キャロルは魔神の放った攻撃を防ぐべく、キャロルは咄嗟に四属性を束ねた防御術式を展開する。

 即席とは言え十分な防御力を持っているはずのその防壁は、魔神が攻撃にも防御にも使用しないことで蓄積されていた魔力の奔流には到底抗し切れず砕け散る。

 だが、そのほんの僅かな時間。コンマ数秒程度キャロルが稼いだ時間の間に、本部から一つの影が飛び出してきた。

 その影は魔術か何かによる不自然な軌道を描き、装者やサーヴァントたちや魔神の居る場所を通り過ぎ、後方で待機していた立香のもとへと一足飛びに着地した。

 

「あっぶないなあ!陣地狙いとか卑怯もいいとこじゃないか本当。──いやあ、助かった助かった、君が居てくれてよかったよ……ぐえっ」

 

 その影から声が聞こえる。話の内容からするに二人であったらしいその影は片方がもう片方を抱えている形であったらしく、抱えられていた側が落とされて呻き声を上げた。

 土埃に目を細めていた立香は、潰されたカエルのようなその声に聞き覚えがあった。

 

「アマデウス!大丈夫だったんだ……ってあれ?」

 

 アマデウスは先程まで本部で演奏を延々と続けていた。戦闘型のサーヴァントや装者であればともかく、魔神が何らかを察知してから攻撃に移るまでの間に、演奏用に使用していたブリッジから脱出できるとは思えなかった。

 であれば、(キャロルが時間を稼いだこともあるだろうが)ほかに何らかの要因で脱出できたのだろう。アマデウスが誰かに向けて話していることからも明らかだ。

 つまり、その影のうちの一つ。魔神が探していた何かであろうその人影がアマデウスの命の恩人だったのだろう、と立香は当たりをつけていた。

 だが同時に、ここで立香には一つの疑問が浮かんでいた。

 

(……本部に人なんて残ってたっけ?)

 

 最初にこの世界に来た時、S.O.N.G.本部にいた人間は軒並み消失していたため搭乗員はいなかった。

 魔都攻略時には立香とアマデウス、キャロルが本部に居た。

 偽王国に来てからは立香は戦場に、キャロルとアマデウスはフロンティアに居たので、本部を一時空にしていた。

 その後フロンティアはウェルとともに消滅し、キャロルは戦場に向かい、アマデウスは本部に戻った。

 

 ……つまり、本部には1人しか残っていなかったということであり。

 

「────どなた?」

 

 立香はアマデウスを抱えていた、そして今落とした人影へと目線を向ける。

 着地の際の土埃が晴れ、朧気なその姿がはっきりと顕になる。

 

 立ち姿は長身の女性のソレであった。

 くるくると縦にカールした長髪。大部分は後ろにまとめているが、横髪の一部は顔の横に下げている。

 瞳や唇、驚いたことに髪の毛の裏側も緑色に染まっている。色合いこそ独特だが、その造作は美しいと呼べるだろう。

 ロングスカートを履いたその姿はまさに大人の女性、と呼ぶに相応しいだろう──その両手に剣を持ち、顔や身体は各部を包帯でグルグルに縛られているということさえなければ。

 

 だが、そんな異様な外見よりも立香には気になるところがあった。

 キリ、キリという駆動音がする。カランコロンと小気味良い旋律が動くたびに鳴り響く。

 腕が、足が。布地に隠れたソレは間違いなく球体関節であり──有り体に言って、ソレは人形だった。

 

『あれは……自動人形(オートスコアラー)の……ファラ?いや、あの雰囲気は……』

「あたしがぶっ壊した……あー、レイアの、妹?だったか。アイツに似てねえか?」

「ではファラの妹、ということか?──キャロル、何か心あたりがあると見えるが、どうなんだ」

 

 エルフナインとクリスの話を統合し、翼が確認ということでキャロルに問えば、キャロルは知っているとばかりにフン、と嘆息した。

 

「あながち間違いではない、ボディはな。だが、あれは──」

 

 

「ははは、いやあ……こうなるとはね!なにかに使えると思って回収したけど、まさか僕が入ることになるとは思わなかったよ!」

 

 

 キャロルが何かを告げようとする前に、自動人形は快活に笑う。ファラでは有り得ないと言えるほどの爽やかな笑いに、嘗て戦った翼は思わず瞠目する。

 一方その喋り口を聞いて、その口調の人物を知っていたクリスは思わず絶句した。

 

「まさか……おい嘘だろぉッ!?いくらなんでも趣味悪すぎだろッ!?」

「ええー。いやあ、僕もそう思うけどねえ。当初の作戦だと剣のスートの属性を付加して霊基違いの僕を召喚するための触媒、って話だったんだけどなあ……」

 

 その声は間違いなく女のソレであり、その女性らしい造作と併せて、驚くほどに口調が似合っていない。

 そして当然ながら。この場の誰よりも"彼"と付き合いの長い少女はまさかと口をあんぐりと開けた。

 

「……ダビデぇ!?なんで、何がどうして!?」

 

 マスターの驚くその言葉を肯定するように、量産型ファラ……それを器として呼び出されていたダビデはニッコリと笑った。

 

 

「──属性の照応か。愚かな王とは知っていたが、ついに祝福すら捨て去ったか?」

 

 そんなダビデの有様に、魔神は嘲笑と呆れを混ぜて詰る。

 

「魔神にまでそう言われるのは心外だなあ。そもそも本来は負けたふりして別霊基で召喚され直すっていうのが目的だったんだけどねぇ」

「すまんな。だがその状態でも目的は遂行できるだろう?」

 

 一時の怒りと憎悪で本来の想定とは違う選択肢を選んだというキャロルだが、しかし当人は反省している素振りを見せない。

 それほどまでに魔神に対する怒りが強かったのかは不明だが、少なくともキャロルは現状でも問題ないと考えているようであった。

 

「……ねえ、今のダビデってどんな状態なの?というか、なんでダビデを再召喚しようと思ったの?」

 

 今更ながらに不思議に思った立香が呟く。

 

「もとは僕の作戦さ。魔槍の力を生かして、魔神に干渉せずに魔神を打倒できる規模に落とすためのね」

 

 動くたびに鈴の音のようなきれいな音が鳴ることを面白がりながら、ダビデはつらつらと語る。

 

「ファラ・スユーフはキャロルの作った自動人形で、属性としては剣の小アルカナ──トランプで言うならスペードだね、それを持っている。だから上手くそれを利用できないかってことでこの量産躯体を確保していたんだ」

「とは言え、元がレイアとのコンベンションで負けたから放置していた残骸だからな。修繕には若干手間だったが……まあ、本部にいる間は実質暇だったというのもあってな」

「いやあ、直してもらえててよかったよ。直ってなかったら僕の復帰は無かったかもだ」

 

 ははは、とダビデは軽く笑う。その手には、元来よりファラに持たせていた剣──哲学兵装・ソードブレイカーが握られていた。

 

「さて、当初はあくまで触媒としてしか考えてなかったんだよね。キャロル自身が小アルカナに合わせた人形運用していたこともあって、この属性強度は折り紙付きだ。だから、僕ならこれを触媒に別クラス──セイバーで召喚されうる、って考えたんだけど……」

「オレがやり方を変えた。オレ自身が魔神に吠え面をかかせてやりたかったからな」

 

 臆面もなく言い放つキャロル。そのために女型の人形に自分の意識を移されたとなれば、流石にダビデも苦笑していた。

 

「確かに再召喚、というか召喚陣利用した召喚で出てきたのはキャロルだもんね。……ってことは、今のダビデって……?」

 

 恐る恐る立香がキャロルに尋ねる。

 

「……その様子だと理解しているようだな。そう、今のダビデは厳密にはサーヴァントではない──人格インストール等をしていないファラ妹の肉体に、情報化されたオレがカルデアでコピーしてきたダビデの人格・属性情報を貼り付けた代物だ」

「つまりダビデコピーって感じかなあ。まあ、そもそも僕は英霊としての自分が本来のダビデ王のコピーって考えてるからね。謂わばコピーのコピーさ」

 

 ははは、と笑うダビデ。

 自分のことだろうに、あんまりにも適当かつ軽い態度に立香は言葉を失う。

 

「それで、僕がセイバーで召喚されようって思った理由は──っとぉッ!?」

 

 更に話を続けようとしたところで、爆炎が辺りを飲み込むように放たれる。

 ダビデは慌てて、その手にある剣を握り──錬金術による防風で炎を巻き上げ、逸してみせた。

 

「おいおい、邪魔をするなんてらしくないじゃないか……なんて、ね。今の魔神の態度が答えというわけさ」

「って言われてもよぉ……ッ、まさか──」

 

 ダビデの言葉で何かを理解したのか、クリスは辺りを──この世界を見渡す。

 魔神が今の状況で警戒し、剰え積極的に排除しようとする理由。そんなもの、1つしかなかった。

 

「──壊せるのか、この結界をッ!?」

 

 クリスの言葉に、そうと気付いていなかった面々が目の色を変える。

 

「そうとも、だからこそこうや、って目の敵にしているというわけでね!っとぉ、いやあこの体強くて便利だね、ホント」

 

 尚も継続して放たれる魔神の攻撃を、またも錬金術で躱し、その剣で切り裂く。

 キャロルがコピーしたものを人形に貼り付けたもの、という今のダビデは先程より霊格自体はだいぶ落ちている。だが宿っている素体──単体で装者すら凌駕する自動人形の性能はそれを補って余りあるほどだった。

 

「──貴様の狙いがわかれば、自ずとそうなろう」

 

 魔神がそう言って睨めつけるのも、やはりダビデの握る剣。

 ダビデの剣になにかあるのか……そう考えた面々のもとに通信が届く。

 

『……ダビデ王の剣は、とある伝承があります。多分ですが、それを利用するということかと』

「マシュ?呪いって?」

『ダビデ王の剣は一部の伝承の中で、奇妙な垂れ布がついた剣として登場します。円卓伝説に登場する騎士ベイリンと漁夫王ペラムとの戦いで登場したこの剣は、その戦いで抜かれようとしたときに周囲に不毛の呪いを与えたと言われています』

 

 立香の疑問の声に答えるように、マシュは簡潔に内容を説明する。

 

『これには諸説あって、聖槍が原因だとも言われていますが……。ともあれその不毛の呪いは円卓の騎士ギャラハッドが癒やすまで戻らぬままだったといいます。その後、垂れ布の剣は騎士ギャラハッドの手に渡るとされていますが……』

「……つまり、その不毛の呪いを再現する、ということか」

 

 翼が得心がいったと言うように頷く。

 

「……とは言っても、いくらギャラハッド卿ではない者だからってダビデ王の剣をダビデ王が抜いたとして、呪いが発動するものかしら?」

『ええと、そこまでは……』

「そこはまあ、確かにね。少なくとも生前僕が使ってたときは単なる剣だった。ただ──勝利の可能性として"ガングニール"が見出した光明だ。狙う価値はあるってものさ」

 

 ダビデが感情を読ませないような微笑みを浮かべそう嘯く。

 その言葉に何かを察したように、キャロルが口端を僅かに吊り上げた。

 

「そうだな──確かに、狙う価値がある。それを理解しているから──貴様もダビデだけを狙うのだろうッ!?」

 

 キャロルは言葉と同時に巨大な岩石の障壁を展開し、魔神の魔術により放たれた土石流を防ぐ。

 

「ダビデ、というよりファラの身体は風の属性しか使えんからな。急に攻撃属性を変更することによる不意討ちを狙ったんだろうが……そこまで恐ろしいか?」

「……恐ろしいかどうかではあるまい。認めてやるが、現状で私に危機を及ぼす可能性があるのはその剣だけ。高々剣の呪い程度ではこの世界は壊れんだろうが──念には念を、ということだ」

 

 そういいつつ苛烈な攻撃を繰り返す魔神。最早装者や他のサーヴァントたちに目もくれないその様子は、ダビデの、そしてキャロルの言葉が真実であると明白にしている。

 とは言え、ダビデに防がれているとは言え、魔神の表情には未だ余裕があった。

 

「そして、であればこそ攻めるのは容易というものだ。如何にその人形が高性能だろうと、貴様さえ押し留めていればいいのだからな」

 

 それは、先程までのように魔神が真意を察することを妨害するための足止めとは逆の立場に置かれたということ。

 魔神はダビデの切り札の発動を妨害するために、延々ダビデに構ってさえいれば良いということでもあった。

 

 そして、だからこそ装者の、英霊達のやるべきことは決まったと言える。

 

『──よし、幾つか想定外もあったが……ここが正念場だぞ、お前たちッ!』

『そうとも、こここそが決戦の山場だ!ダビデの狙いを──"嘆きの一撃"の発動を止められないこと、それこそが勝利の鍵だからね!』

 

 弦十郎とダ・ヴィンチから指示と激励が飛ぶ。

 

「──了解ッ!行きますッ!」

 

 響の──いや、小異なれど他の面々のそれが混じった、少女たちの鬨の声。

 

 この世界を守る戦い、その節点となるだろう大一番。

 世界を、皆を守るためにと戦いに飛び込んだ少女たちは、今度も守りたいものを守るためにと気合十分に戦場へと舞い戻った。

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