SYMPHOGEAR/Demon's Phonic Order   作:222+KKK

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第2節 現状把握(1)

「えっと、取り敢えず……情報共有しましょう!まず私達から!」

「……オレは歌女共は知ってても貴様らは知らんからな、まず事情を話すとするなら確かに貴様らからが筋だろう──信じるかはともかくな」

 

 立香の言葉に、この場唯一の地元世界民ことキャロルが警戒混じりに頷く。キャロルからすれば、自分の知る理論に基づいた"並行世界"の住民たる装者たちより、全く未知の領域からの来訪者である立香達の身の上を知りたいのは当然だった。そしてそれは装者たちも同様であり、まず何よりも『カルデア』と『装者・錬金術師』での情報交換をすることが先決だという空気が出来上がっていた。

 

「えっと……その、信じてもらえるかはわからない……んですが。私たちはその、国連に承認されたある専門機関であるカルデアっていう……」

 

 立香の説明がそこで途絶える。というのも、響以外の装者及びキャロルの視線が明らかに立香たちを訝しんでいたからだ。キャロルに至っては訝しむというより苛立ちに近い目線を向けている。

 

「……すまんが、我々の知る限り国連承認機関カルデアというのは存在しない。それが何らかの裏の機関であるとしても、それが異端技術や錬金術に関わることである限り我々が知らないということはない」

 

 翼の言葉にうっ、と言葉をつまらせる立香。どう説明しようかと頭を悩ませる立香に対し、元々短気の気があり、かつ現在進行形で自分のいる世界が異変に襲われているキャロルの堪忍袋の緒が切れた。

 

「と、いうよりも──知っていることは隠し事無しでキリキリ吐き出せッ!いいか、この歌女共が『ギャラルホルン』でこちらの並行世界に来ている以上、この世界で何か並行世界に纏わる異常が起きていることが明らかだッ!そこで貴様らという全く知らん存在が現れた時点で、本来ならこの事変の犯人扱いしてやりたいところだ……が、あいにく黒幕が別にいることは承知している。そして同時に、貴様らが今回の事変に何らかの関連を持っているということもな。

 ──だから、貴様らについて、一から、全部、このオレに明かせッ!」

「は、はいッ!」

 

 キャロルの見た目に似合わぬ怒り心頭な詰問に、思わず立香も了解してしまう。

 一方、装者たちはキャロルの怒りを見て驚いた。装者たちにとって、キャロルは復讐心と父の残滓を拠り所に戦い、その果てに消滅した──彼女達の敵として現れた少女だ。その戦いで父の遺言と復讐心を見たさんとするために地球を分解しようとまでした彼女が、まるで世界が大事であると言わんばかりの態度を取っている。

 

「──キャロルちゃんすごい怖いけど、でもちょっと良い感じ……かなあ?この世界では一体何があったんだろう……」

「あたしが知るかよ……。ただ、都庁がぶっ壊れてるのを見ればこっちでもワールド・デストラクターを使ったのは確実だろ?角突き合いがあったのはそうだろうけどな」

 

「……なんだ貴様ら、オレに何が言いたい?」

 

 響とクリスが後ろでコソコソ話しているのを目ざとく見つけたキャロルが睨みつける。その眼光は幼いという言葉に片足突っ込んでる見目の少女としては破格のものであり、響とクリスはこれ以上の刺激は危険そうだと私語を謹んだ。

 装者年中組が黙ったところで、立香を睨み直すキャロル。立香はその瞳に嘘は通じないことを直感的に理解し、ちゃんと説明しようと深呼吸をして──。

 

『……うん、ならこの私から説明しよう!この天才たるダ・ヴィンチちゃんがね!』

 

 という、なんとも緊張の感じられない言葉が聞こえてきたので思わずよろめいた。どこから聞こえたのかと探す間もなく、キャロルと立香の間に空間投影ディスプレイが展開され、1人の女性──ダ・ヴィンチちゃんことレオナルド・ダ・ヴィンチが笑顔で手を振っていた。すぐ隣にはメガネを掛けたショートカットの少女──マシュが並んでおり、解説用なのか大量の資料を抱えている。

 キャロルはそのモニターに映し出されていた女の姿に、最初は思わず嘆息し──次いで、呆れたようにため息を吐いた。完全な肉体、黄金比の再現をここまで成立させた肉体というのは珍しく──だからこそ、それが人造のものである事に気づいてもいた。

 

「ダ・ヴィンチちゃん……レオナルド・ダ・ヴィンチか。ふん、性的倒錯者であると聞いてはいたが、よもや己を完全比率の女体に転写するとは、随分と奇特──いや、似たような奴らも居たな……」

『えっ?う、疑わないんですか?英霊召喚システムやサーヴァントに関連する機構はそちらには無かったはずでは……?』

 

 異様な程物分りのいいキャロルに、書類を抱えながらモニタリング作業をしていたマシュが首をかしげる。ダ・ヴィンチもキャロルの対応には疑問を抱いたが、キャロル以外の3人の驚きを隠せていない表情にあまり一般的ではないことがわかり、改めて最初から説明するとしようと1人で勝手に納得した。

 

「きゃ、キャロルちゃん?あの画面に映ってる人がダ・ヴィンチなの!?だって、レオナルド・ダ・ヴィンチって言ったら私だって知ってるんだよ!?教科書と映画で!なのに顔が違うし、"ちゃん"だよ!?かわいいよ!?」

 

 響はキャロルの納得に納得できていないようで、思わずといったふうにいらないことまでまくし立てる。が、優れた錬金術師であるキャロルからすればむしろダ・ヴィンチ本人であったほうが納得が行くというものでもあった。

 

「そも錬金術における完全性を示すのは女性の姿だ。こいつらがどういった組織かは知らんが、あの黄金比に塗れた肉体を作り上げたともなれば、それは高位の術者であるか余程の変態である可能性が高い。話に聞いた万能の天才ならどちらにせよ納得できるというものだ。……そうか、貴様らはパヴァリアの錬金術師と戦っていなかったのか」

「いや、戦ったけど……?え、どゆこと?」

 

 響の反応から、キャロルは彼女等が錬金術師の真実を知る機会を得なかったのかと得心する。キャロルはかつての計画の中でパヴァリア光明結社と呼ばれる錬金術師の秘密結社から技術供与を受けていたこともあり、その中でも幹部級だった錬金術師の秘密についても知り得ていた。

 

「大した話ではない。アダムとサンジェルマンは知らんが、プレラーティとカリオストロは元々うらぶれた中年男だっただけの話だ。元職はそれぞれ錬金術師もどきと詐欺師だったか。まあ、それはいい。それでダ・ヴィンチ、天才だと嘯くからには一から十まできっちり説明があるんだろうな」

『ええ……。カリオストロが活躍(サギ)してる頃は死んでたから知らないけど、プレラーティってそっちでも女になっちゃったんだ。ダ・ヴィンチちゃんも思わずびっくりだよ……』

 

 キャロルの言葉に異世界との奇妙な類似性を発見し驚愕していたダ・ヴィンチ。そんな後天的モナ・リザな会話の後ろでは、響と翼、そしてクリスが思わぬ真実に打ちのめされていた。そして偉人が実は女性でした的な英霊あるある話に慣れていたはずの立香も、後天的女体化系偉人(?)が別世界にも居るという事実を聞いて思わず遠くを見つめてしまうのだった。

 気を取り直して、とダ・ヴィンチが頭を振り、カルデアについての説明を始めた。

 

 

 

『さて、我々カルデアは国連承認機関であることに間違いはない。ただ当然ながら一般的な機関ではなく、本来的な目的としては我々の常識に守られた宇宙に於ける"人類"の繁栄を止めさせないことにある』

 

『人類の繁栄のための航海図……これは私達魔術師の間では"人理"と読んでいるわけだが、我々はそれを継続するための組織──それがカルデア、人理継続機関フィニス・カルデアだ』

 

『現在の主な仕事は、異様な反応を示している歴史を正しく補正するために、かつて我々が戦った敵である"魔神柱"が発生させた異なる時代の領域──亜種特異点に対して介入する"レイシフト"を用いての人理補正作業(ベルトリキャスト)だね』

 

『で、私達が今通信を飛ばしているそちらの世界は、我々の世界と異なる宇宙常識を抱えた"異世界"と呼ぶべき世界であり、システム的には観測の余地が無いはずだった。──にもかかわらず、何故かこちらの機材・機能で観測できてしまった』

 

『我々はこの異常について、何らかの理由で我々の世界の常識がそちらに流出し、結果として観測できるようになってしまったのだと推察した。そして、それは将来的な危険に繋がる可能性がある、ともね』

 

『というわけで、調査担当者でありサーヴァントのマスターである立香ちゃんを派遣したのさ!』

 

『サーヴァントとは英霊……端的に言えば過去の偉人の幽霊が現れたようなものだとでも考えてくれればいい。実際は英霊の座とか本人ではなく影のようなものだとか色々専門的なことはあるけど今回は重要じゃないからね』

 

『マスターはサーヴァントを召喚し、従える人間のことさ──まあ立香ちゃんについては、いろいろ建前的というか、名目上だけって部分もないでもないけれどね。マスターが英霊たちと連携しながら物事を解決するのがいつもの流れで、今回も同じやり方を踏襲しているのさ』

 

 

 

『と、いうわけだけど何かあるかな?』

「……そうか、おおよそ把握は出来た。つまり、今回の異変は法則性の異なる貴様らの世界と我々の世界が何らかの接点……実際に接してるかはわからんが、とにかく接点を持ってしまったことに起因する可能性が高いから専門員が調査に来た、と。なるほど、真実かはともかく筋は通っている」

 

「──いや、訳わかんねーよッ!というか並行世界でもアレだったのについに異世界?おいおいどうなってやがる世界は無限大かッ!!?」

 

 一息で長々と説明されたダ・ヴィンチの言葉をきっちり分解しその内容に納得しているキャロルに納得できず、クリスは盛大にツッコんだ。

 

「落ち着け雪音。確かに彼女らの説明は我々の知るものではないが、今の状況で只の妄言だなどと斬って捨てていいものでもない」

「そうだよクリスちゃん!ほらあの人教科書のモナリザにそっくりだし、きっと本当にレオナルド・ダ・ヴィンチなんだよ!……あれ?モナリザにそっくりってことはモナリザなんじゃ……あれ?あれれ?」

「そこのバカはもう少し勉強しとけッ!」

 

 一通り思いを吐き出したクリスは友人2人に宥めすかされ、どうにか平静を取り戻した。まだ若干息が荒いが、それでも話を聞く体勢に戻る。

 

「……んで、それがあってるとしてだ。結局あたしが気になるのはデモノイズだよ。アレがそこのモナ・リザ……じゃなくて、ダ……ダ・ヴィンチの言うとおりだってんなら、そりゃあんたらの世界のもんなんだろ?なんとかできねーのかよ?」

「えーっと……その前にデモノイズ?って何?さっきの魔神柱もどきとその取り巻きのこと?」

『デモ、がDemonだとすればデモノイズというのはDemonoiseという一種の造語、意味合いとしては魔神の雑音といったところでしょうけど……』

 

 彼女らの疑問にクリスは鼻白む。どうやら彼女達の世界にノイズは存在せず、指揮者デモノイズは彼女等からすれば魔神柱なる存在のもどきであるらしい。

 クリスは練磨のシンフォギア装者ではあるが、流石にノイズそのものが存在しない世界なんて彼女には想像もつかなかった。

 

「あー……ノイズってのは、さっきあたしらが戦ってた変な生き物みたいな形の奴らのことで、だな……」

「──ノイズは認定特異災害の一種、人類のみを狙う自動兵器群の総称だ。存在そのものの位相が常に移り変わることで物理的干渉を無力化するため、基本的には位相の調律が可能なシンフォギアでしか倒せん……例外はまあ、ないでもないが」

 

 クリスの言葉を引き継いだ翼の言葉に、なるほどと立香とモニター向こうのダ・ヴィンチが納得する。例外とはノイズが人間を襲うために位相を合わせてくる瞬間に触れずに迎撃して消滅させる規格外人類の話であり、この場の面々では関係があまりないため翼は存在を仄めかすだけにしておいた。

 

『ふんふん、そこら辺についてはこっちの説明が終わってから聞かせてもらうとして。で、対策については現状不透明なままだね。そもそもさっきの魔神柱の反応もなんというか、こう、中途半端だったからなんとも正体が掴みづらいというか……』

 

「ま、話を聞く限り最初から全部わかるたぁ思っちゃいねーよ。んで?さっきの変なデモノイズ……いやデモノイズ自体ノイズよりだいぶ変っちゃ変だけどよ……がその魔神柱だかってんで、あんたらがそれをどうにかするのが仕事なんだろ?じゃあ、サーヴァントってのはさっきみたいにあたしらを補助できるって考えていいのか?でなけりゃ、デモノイズと戦ったりとかできんのか?」

 

『それはサーヴァントによるかな。何分そちらの主な摂理がこちらと違う以上、モニタリングだけでは正確なことは言えない。そもそも私からよりも、実際に解決した彼から聞いたほうがいいだろう』

 

 クリスの疑問により正確に回答できるサーヴァント、としてダ・ヴィンチはアマデウスに水を向ける。装者たちもさっきの音楽を演奏したサーヴァントとやらに話を聞いたほうがいいと考え視線を向けた。

 

「いやあ、あの扇情的なカラオケスーツ、シンフォギアだっけか?ああいうの着て戦ってるって色んな意味で凄いよねえ。それにどの娘の歌も胸内をさらけ出すような惚れ惚れするほどいい歌を……。あ、僕らの自己紹介?」

「確かに年頃の少女がそういう格好をするのはって思わなくもないですけど、ソレで言えばサーヴァントのほうが色々危ない気がしますけどね。あ、ボクはさっきの戦いでは特に何もしていなかったので、キャスターから自己紹介していいですよ?」

 

 が、そこにいたのは呑気にシンフォギアについての寸評を話していたアマデウス(と子ギル)だった。視線が集まったことで自分たちにに話題を振られたと気付き居住まいを正すが、正直もはや手遅れである。

 装者たちは下世話な話題を喜々として話していたアマデウスをジト目で見るも、当のアマデウスはどこ吹く風とばかりに笑顔で自己紹介を始めた。

 

「さて、ダ・ヴィンチも言ってたけど僕たちはサーヴァント。人に使役される使い魔という形で現出した英霊だ。で、僕はアマデウス、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。キャスター……つまり、魔術師のクラスのサーヴァントだ」

「僕はギルガメッシュ、ウルクの王ギルガメッシュです。クラスはアーチャー、気軽にギルとでも呼んで下さい」

 

「ギルガメッシュ?古代ウルクの王、最古の叙事詩の英雄ギルガメッシュか?にしては随分と年若い気がするがな」

 

 サーヴァントたちの自己紹介に、神話伝承にも精通しているキャロルが疑問を浮かべる。一種不躾な態度のキャロルに対し、当然の疑問とばかりに子ギルは笑って答える。

 余談だが、見目の年若さでキャロルは人のことを言えない事実を棚に上げており、気づいた響が微妙な表情を浮かべていた。

 

「あはは、まあ今のボクは若々しい頃の姿ですから。英雄ギルガメッシュのうち『暴虐を敷く前の姿』とでも解釈してください」

「……ほう、それなら暴虐を敷いていたときの姿もあるのか?サーヴァントとやらは英霊の幽霊のようなものだとダ・ヴィンチは語っていたが、どうやら単純に末期の様で呼び出されるのではないらしいな」

「まあそうですね。サーヴァントは生前の全盛期の姿で呼び出されますが、ボクみたいに全盛期が解釈次第で複数存在する英霊もいるということです」

 

 子ギルの言葉に、キャロルはそういうものかと納得する。そもそも肖像画が残されているダ・ヴィンチが女性の姿な時点で単純な幽霊とは全く考えていなかったということもあり、比較的すんなりと受け入れていた。

 

「……モーツァルト、ですか?先のダ・ヴィンチ……女史の話通りならば、あなたは音楽家のモーツァルト本人ということですか?」

 

 そしてリディアン卒でアーティストである翼は、思わぬ名前が飛び出したことに驚きの表情を浮かべていた。アマデウスのどう見ても史実の人物に見えない服装を見ればさもありなん、神話伝承の詩人と言われたほうがしっくりくるといえるだろう。

 

「え、ええッ!?だって髪の毛くるくるして……してますけど、音楽室の肖像と全然違うくるくる感ですよ!?というか、モーツァルトは英雄なんですか!?まさか戦う音楽家・モーツァルトという知られざる真実ッ!?」

「ああいや、文化的な側面での功績に対する信仰で英霊に昇華することもあるのさ。僕やダ・ヴィンチはそういうタイプの英霊だね」

 

 まあダ・ヴィンチはともかく僕は君らに比べれば限りなく雑魚だよ、と笑って答えるアマデウス。

 

「というか気にするところはそこなんだ。……あ、いや、よく考えたらそりゃ普通ツッコミどころだよ?あ、あれ、私はいつ常識を捨ててしまったんだろう……?」

 

 響のどこかズレた反応に立香は思わず苦笑し、そこに苦笑してしまう自分に人知れず戦慄していた。立香からしても肖像画やらと違う見た目の英霊が多すぎることをかつて気にかけていたこともあったが、そもそも胸像が男なのにきわどい格好の美少女な皇帝がいるという事実に早くに浸ってしまっていたため、最早慣れとばかりにスルーするようになっていたのである。響の驚きは、そんな立香にとって新鮮な光景として目に映っていたことに気づいてしまったのだ。

 

「……そういえば、サーヴァントが偉人の幽霊って……。お、おいおい。本当に昔の人間のゆ、幽霊なんてそんなまさか、なあ?」

 

 そしてクリスは今更ながらに気づいた事実に、おもわず誰にともなくつぶやく。幸いというかその声は小さく、その声色が若干震えていたことに気づけるほどに耳を傾けているものはいなかった。

 

「おや、幽霊が怖いのかい?そういう勝ち気な中の少女らしさっていう意外性も歌を豊かにするスパイスのひとつさ」

「んなッ!?う、うるせえ誰が怖いもんかよッ!?」

 

 訂正、いた。優れた聴覚を惜しげもなく使っているアマデウスにとって、声音の中の感情、それも隠蔽に不慣れな少女のソレを読み取るなんてことは全く造作もなかった。

 

「そ、それよりさっきの戦いであたしらが平静取り戻せたのはあんたが何かやったことでいいのか?」

「ん?ああ、そうだね。とはいっても何も僕が優れた音楽家の英霊だからってだけじゃない。人の心に沁み入る魔の音色……そうだね、今回のこれは暫定的に『魔詠』とでも呼ぼうか。そういった魔術めいたものに少々詳しいのも僕が対処できた理由の一つだね」

 

 顔を赤くしながらあからさまに話を逸らすクリスへ返答するアマデウス。その言葉に嘘を言っている様子はなく、錬金術は元より歌に対してもある程度深い知識を持つキャロルは唸った。

 

「確かにモーツァルトは秘密結社であるフリーメイソンリー(フライマウレライ)……フランスであればフランマソヌリだな、ソレに所属していた以上、何らかの秘術を学んでいたという可能性もあるだろう。こちらの世界においては音楽と錬金術が密接な関わりを見せている以上、音楽がそちらの魔術に連なることも十分に考えられる、が……」

 

「いやいくらなんでもソレだけで納得済まされねーだろッ!っていうか魔神柱は結局なんなのかわかんねーし、あたしらは結局何されてどう治されたんだッ!?」

 

 クリスが堪えきれないように叫ぶ。クリス……というか実働していた装者たちからすればそれこそが重要なのであり、歴史やらなんやらではなく現状を教えて欲しいと感じるのは当然だった。

 

「そうだね。まず何をされたのかといえば……魔詠に感動させられてしまった──いや、感動するように精神を捻じ曲げられてしまったという言い方が適切かな」

「?えっと、よくわかんないんですけど……どう違うんですか?」

 

 アマデウスの言葉の違いが何を示しているのかわからず、響は首を傾げた。 

 

「万人を感動させる音楽はあっても、全人類を等しく感動させる音楽はないということさ。ああ、いや不可能ではないかもしれないが……そんな音楽を作るくらいなら、聞いた相手を無理やり感動させるように精神を作り変える音楽を作ったほうが手っ取り早いだろう?今回のソレはそういうことができる程に歌に特化したヤツの仕業と見るべきだ」

 

 と、そこでアマデウスが言葉を切る。その視線はマスターである立香に向いており、言外に話してもいいのかと語りかけてくる。

 もっとも立香たちからすれば、魔神と縁深い存在らしいノイズと戦う専門家である装者と協力しない選択肢は存在しない。この亜種特異点を修正することと装者との協力はイコールなのだ。

 

 それでも自分の許可を求めたということ──すなわち、マスターとして立てられていることに気づいた立香は、その決断を自身の意志であると示すために首を縦に振った。

 

「──つまり、今回の事件の首魁、かどうかはわからないけど。デモノイズの力の源泉の正体は歌に優れた魔神柱か、あるいは受肉前の魔神──いわゆる『音楽魔』の類だ」

「そして、その正体たりうる魔神であり、かつ僕に縁が深い魔神となると……第一候補は魔神アムドゥシアス、なんだけど。時間神殿で消滅しちゃってるはずのアレがいるってのも考えづらいというか……」

 

「アムドゥシアス、というと"ゲーティア"の序列67位に記されているソロモンの悪魔か……。なるほど、貴様らのいう魔神柱の正体がソロモンの悪魔──否、魔神だとするならば、ノイズ共と親和性が高いのも頷けるが、な」

 

 アマデウスの言葉にキャロルが納得と共に戦慄する。ソロモンの魔神といえばファンタジーなどでよく語られる存在だが、キャロルはもとよりこの世界の事情に対する知識をある程度有する者なら、それが空想でしかないことを知っている。だからこそ、空想が現実に湧き出たかのような奇妙さを生み出していたといえる。

 だが、確かに言われてみればうなずける部分もあった。金管楽器で旋律を奏で、歌で人を感動させるという魔神柱の行為は伝承上の魔神と同一であり、それ故にある程度の信憑性を彼女に与えていた。

 

「つまり、デモノイズは異世界のソロモンの魔神と融合しているノイズということか。ノイズには何某かと融合する特性がないことは確認している。となれば魔神側の特性により融合しているのか、あるいはノイズの概念との親和性の高さが影響しているのか……」

「そのデモノイズが魔神の力であたしらの心根を半端に歪ませたせいで、あたしら本来の歌と適合する聖遺物に対する適合性を失って……」

「──結果として、私達の胸の歌が聞こえなくなった……ってことッ!?」

 

 装者たちも敵がソロモンの魔神であるということにある程度の納得を見せる。そして彼女らの導き出した結論は十分あり得ることであったためキャロルは頷く。

 

「……ノイズのくせにフォニックゲインが生み出せるのも、その魔神が歌を司るという概念を持っているせいだろう。ソロモンの魔神ともなれば、強固な哲学兵装たりうるだけの信仰を与えられてもおかしくはあるまい」

 

 キャロルが話す推測は彼女たちにとって苦い真実・現実を多分に含んでいた。デモノイズが歌でフォニックゲインを作り出し自己を強化することもそうだが、その副産物で装者たる彼女たちが弱体化するともなれば、戦闘は極めて難しいものになってしまう。ソレこそ先の戦いのように、アマデウスの支援を得なくてはならない場面が多くなることだって考えられる。

 

 と、そこで通信のメインモニターが切り替わり、ダ・ヴィンチから変わってマシュが映し出される。モニター内の彼女はおずおずとその手を上げており、次いで疑問を口にした。

 

『……あの。確認させていただきたいのですが、そちらにおける"哲学兵装"、"錬金術"──そして"フォニックゲイン"とは一体どういったものなのでしょうか?』

「あ、それ私も気になってた。歌の力が云々ってよくわかんなくて……。深刻なのはもう見るからに分かるんだけど、具体的にどうヤバイのかを把握したいんだ。ね、今度はそっちの世界のことについて聞かせてもらえないかな?」

 

 通信の向こうから届くマシュの疑問に乗っかるようにした立香の提案に、奏者たちはそれぞれ目をあわせる。

 

「……私は教えていいと思うが。立花、雪音……と、キャロルはどう思う?」

「私もいいと思います!カルデアの人たちはなんだか師匠たちと似てますし、悪い人たちじゃないですよ!」

「おっさんと……似てるか?あー、まあモニターの連中もあの後ろにいるサーヴァントって奴らも怪しいっちゃ怪しいさ。でもあたしらの世界のことを一般常識レベルで知らないってんなら、教えなきゃ話進まねえだろ?」

 

 装者たちからすると、現状でカルデアを完全に信じられるかは微妙なところではある(響のように信じる気満々な人間もいるが)が、それでも話す限りでは信用が置けるものであると彼女たちは理解している。

 この中で一番猜疑心の強いであろうキャロルですら、現状打破のために共闘をすべきであると心中の舵を切った。

 

「……前提だが、そこの装者共の世界と今ココの世界──オレの出身といえる世界だが──は過去のどこかで分岐してはいるが、法則としてはほぼ同一の世界だ。どこが分岐点かは知らんが、歌女共の反応からしてそう古いこともあるまい」

 

「だから、オレがこの世界について話そう。この世界の辿った道と、今この世界を襲う災厄を」

 

 それほど大きくもないキャロルの言葉は、確かな真実と絶望の重みを伝えてくる。立香は思わず、唾をゴクリと飲み込んだ。

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