今回は遂に、キーラとの激突となります。
「.....」
キーラとクリームヒルト、両者の視線が交わっている。その隣ではゴウケツの体が徐々に消滅しかかっていた。その様子を僅かに一瞥した後、キーラが口を開けて静寂を切り裂く。
「....先程の発言は空耳ということにしておいてやろう。私を怪人....それも隣で消滅しかかってるような醜い輩と同類にされるのは反吐が出るからな。今後の発言はそれを弁えておけ、良いな?」
「.....」
キーラからの発言を聞き、クリームヒルトは無言で頷いた。それほどキーラは怪人と同等に扱われることを嫌っていることが伝わる。そして、キーラは指を三本立てて再び話を続けた。
「よし、では今から私は3つお前に問いかける。その質問に対する答え以外の発言は許可しない。それを破ったら....命があると思うなよ?」
「.....」
再びキーラの発言にクリームヒルトは頷く。これはクリームヒルトが殺されるのが怖いから従ってるわけではなく、そもそもそんな感情を持ち合わせていない。これは単に、キーラの指示に従わないと話が効率よく進まないと判断したのだ。仮にキーラの発言を拒否して話をすれば間違いなく彼女に無礼者と判断されて戦闘が始まる。それでは意味がないし、無益な戦闘は避けておきたいのだ。
「まず一つ目だが、ここはどこだ?全く心当たりのない場所だ。そして、貴様は明らかに日本人ではないな.....ここは何処の国なのだ?」
「ここは、お前の知ってる国どころか世界ではない。ここは冥界、ヘルヘイムと言えば理解できるか?有り体に言えばあの世だ。」
「なんだと....つまり、ここは死者の国なのか?なるほど、通りで異形な輩が多いと思った。」
「ほう、素直に受け入れるのだな。」
キーラの予想外な反応に、クリームヒルトは感嘆の声を上げる。キーラは業腹そうな顔をしながら話す。
「本当は不愉快な気分だが、あの小娘共にやられた記憶は僅かながら覚えている。あれはまさに死闘ではあった....であれば、どちらかが命を落としてしまうのは、むしろ自然な話であろう....ああ、怒りで腹が煮え立ってで仕方ないがなッ!」
「....なるほど、記憶は僅かながら残ってるのだな。」
金色の瞳を赫怒の炎で揺らしながら、キーラは叫び声を上げる。その影響で辺りがひび割れ、まるで地獄の業火のように炎が発生する。
「....まあ、その事はひとまず置いておこう。二つ目だが、この世界で力を尽きたらどうなる。冥界で死んだらどの様な事態になるのだ?」
「結論を先に言うと、わからない。本当に後悔がなくなった状態のまま逝けば無に到達するかもしれないし、別の世界に飛ばされるかもしれない。とにかく、その先の答えは私の預かりを知らないのだよ。これが私の答えだ。」
「貴様すら知らない要素か....なるほど、ひとまず覚えておこう。重要な情報であるな、私が負けて死ぬことはないだろうが、」
クリームヒルトの返答にキーラの表情が一層険しくなる。この場で死んだらどうなるか不明である以上、無闇な戦闘は避けるべきだろうと判断したのだ。最も、本人は負けることも死ぬこともないと自信に満ちていたが。そして、次が最後の質問である。
「では最後の質問だ.....貴様は、盧生か?」
「.....」
キーラは最後の質問を投げかける。その声は今までよりも声の質が重く、両者の空間に緊張が走る。おそらくこの質問こそが、キーラにとって最重要な内容なのだろう。そしてクリームヒルトがゆっくりと返答する。
「そうだ、私は盧生だ。既に邯鄲の試練を全て終え、アラヤを掌握している。」
「.....フフ、フハハハハ.....アハハハハハッ!!」
クリームヒルトの答えを聞いた瞬間、キーラは爆発するかのように大きな笑い声をあげた。まるでそれは、待ち望んでいたものを見つけたかのような歓喜の声だった。
「ああ、その返答を聞けて良かったよ。よく私の質問をしっかりと答えてくれたな。褒美に....痛みを感じさせる間も無く逝かせてやろうッ!」
「生憎だが、その褒美は拒否させてもらう。」
キーラは犬歯を剥き出し、殺意を漏らしながら剛腕を振るう。常人が食らえば、ザクロのように肉体が裂け、鮮血を辺りへと撒き散らすだろう。しかしクリームヒルトはその一撃を無表情のまま、あっさりと掌で受け止める。キーラはその結果に遺憾の表情を浮かべる。
「おのれ愚図めが、人間風情が私に触れることなんぞ許さんぞッ!」
「落ち着け、このままでは勝負にすらならんぞ。今のお前はとても不安定だ。自分の体をよく見ろ、体が透けているではないか。」
「っ!?」
キーラはハッとした表情で自身の体を見てみる。すると、身体が徐々に半透明となっていた。これはバクザンやゴウケツが敗北した後の状態とよく似ている。
「なっ、これは一体....」
「エネルギーの枯渇だ。確か現世でお前が死ぬ前は、アマカスの眷属だったはずだ。眷属は盧生が健在であれば不死身だが、生憎と現世のアマカスは消えている。お前がさっきまで戦えていたのは、アマカスからの流れ込まれてた夢の残滓が残っていたからこそだ。だが、それ以上無駄にエネルギーを消費すると私の世界で留まることすら難しくなる。」
「なん、だと....ならば、あの怪人共は一体どう説明するつもりだ!?誰かの眷属になってる様子は感じないぞ!」
「あれは私達の認知してる世界とは異なる住人だ。存在としては恐らく、誰かと繋がる必要は恐らく無い。それこそ本人たちが限界と思えるほどのダメージを負わない限り、この世界から消滅することはない。」
クリームヒルトの話を聞くと、キーラは一転して屈辱的な表情へと変化した。彼女の話を聞くまでキーラは自由に行動をできると思い込んでたが、それは間違いだった。そもそもキーラが自身の能力を使えるのは「甘粕正彦」というクリームヒルトとは別の盧生の眷属、端的に言えば部下的な存在だったから能力を支えたのだ。だがこの世界に来てからは最早その関係性がなくなっている。つまり、キーラは別の盧生に繋がらない限り、自由に能力を使うことはできない。更に、そのままだとこの世界で存在することが出来なくなり、無に還るか別世界へと飛ばされるかもしれないのだ。
「グ、ググッ.....おのれ、この世界まで来てそのような屈辱を....」
「どうする。このまま特攻をしてこの世界から消えるか、もしくは私の眷属となって存在を確立させるか?ちなみに私は大いに歓迎するぞ。」
「チッ....わかった。私を貴様の眷属にしろ。業腹だが、知らない世界に飛ばされては迷惑だ。」
そう言ってキーラは殺意を抑え、クリームヒルトの眷属となる決断をした。その返答を聞いて、クリームヒルトは無機質な微笑みを浮かべる。
「眷属の許可を与える、キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジエフよ。歓迎しよう、我が眷属として。」
瞬間、キーラの身体は邯鄲の加護に包まれる。薄れていた肉体が一瞬にして濃度を増し、力が溢れ出てくる実感が湧いた。これで消滅する心配は無くなった。
「ほぉ、流石は盧生だ。繋がった瞬間にこれほどとは.....礼は言わんがな。」
「満足そうならば、何よりだ。」
「ああ、満足だよ。おかげで.....貴様を全力で殺すことができる。」
キーラがそう呟いた瞬間、黄金の瞳が輝きクリームヒルトの頭上から透明で巨大な何かが振り下ろされた。激しい地響きとともに床が陥没する。
「そう来るとはわかっていたが....全く、そう照れ隠しに殴りにかからなくても良いだろうに。」
「フッ、直撃の影響で脳が崩れたか?寝言ならば寝て言えよ阿呆が。」
「....恐らく聞いてはいるのだろうが、私からも言っておくぞ。キーラ、お前では私から盧生の資格は奪えん。獲れんよ、今のお前では。」
「黙れェッ、貴様ら盧生の言葉なぞ信用できん!ならば良いだろう、優越に浸ったその顔ごと捻じ曲げてくれるわァッ!」
激昂と共に咆哮、それはまさに怒りの叫び声だ。その声に背後にいた鋼牙兵も共鳴し、キーラの声に応えた。そして全軍がキーラの元へと集う....いや、引き寄せられた。少女ほどの姿だったキーラが、徐々に異形の姿へと変わっていった。
「急段-顕象
獣の女王、ここに本領を発起する。その姿は軍であり群と言えるだろう。まさに神話の怪物、数にして3000人はあるだろう鋼牙兵とキーラが一つになり、巨大な肉塊の巨人へと変貌したのだ。その全長は約50メートルはあるだろう。
「なるほど、これがキーラの急段か。」
「そうだ、これが
見たな、知ったな?これこそが私の
彼女が発現したこの能力は、いたって単純だ。より「自身を怪物らしく強化する」というものだ。ただし発動のためにはキーラと第2者以上が「キーラは人外である」という共通の認識をしなければならない。ただし、クリームヒルトは当て嵌まらない。何故なら彼女は普遍的な人類愛を有し、見下すような感情をもたないからこそ盧生という超越的な存在になれた。そうである以上キーラを人外として認識することはしないのである。であれば、何故キーラがこの能力を発動したかというと....
「な、なんだありゃ!?」
「あの小娘、とんでもねぇ眼をしてやがるッ!」
「ゲッ、なんだあの赤くてデカイのは!化け物じゃねぇか!」
「劣等共が....我らを卑下することなんぞ許さんぞッ!」
この様に、キーラを見ていた冥界の亡者達の意思によってその条件が達成されていたのだ。故にキーラは、その怪物らしさや暴力を本能に従って無差別振るい続けるのだ。
「お前の相手、私だ。」
「ッ!」
しかし、クリームヒルトがその進撃を阻止する。剣を抜き、亡者達へ向けて放った鉄槌を阻止する。キーラの膂力は先ほどよりも遥かに上回っている。しかしそれでもまだ、クリームヒルトの力が上だ。
「鬱陶しい奴め!そこまで早く殺されたいか、貴様ァッ!」
イラついた表情を浮かべながら、キーラは2、3度と肉塊をクリームヒルトへ向けて振り下ろした。怒りを露わに、本能のままにその暴力を何度も何度も放ち続ける。しかし....
「〜〜〜〜〜ッ!」
「.....いつまで続ける気だ、キーラよ。」
それでもクリームヒルトへ明確なダメージを与えられていない。音波兵器のような咆哮も放つが、それでもクリームヒルトには効果無し。正確にはある程度ダメージを与えられているのだが、それはとても微々たるもの。針で山を崩そうとしているようなものだ。
「何故だ、この差は一体なんだ?何故私の牙が、お前に届かないのだッ!」
「....それは、お前自身がよくわかってるだろう。」
そもそもクリームヒルトとキーラは「邯鄲の夢」という異能を活用して戦っている。そしてこの異能には5つの段階がある。その中でも4つ目の段階である「急段」を、今まさにキーラが使っている。そして、この急段は前述したように使用者と対象者が共通の認識をすることで発動することができ、更に自分だけでなく条件を成立させた対象者の力を利用しているのだ。この概念をクリームヒルト達の世界では「協力強制」と呼ばれている。いわば急段とは「相手と力を合わせた協力技」であり、これを単純な力押しで破るのは非常に難しい。
故にこの場面において、もしクリームヒルトがキーラの急段に同意していれば全く違う光景となっていただろう。自身の力を利用され、キーラの圧倒的な力を前に窮地になっていたと予想される。だがしかし現状はキーラの急段はクリームヒルトの精神的にどうしても成立できず、キーラがクリームヒルトとの差を埋められない原因の一つはここにある。もう一つは.....
(この感じ、アマカスと戦った時と同じ感覚だ。やはり盧生とは....つまるところ我々とは違った夢の密度を持っているのか!)
シンプルにエネルギーの密度が違い過ぎるのだ。盧生と繋がっている眷属には、実は使用できるエネルギーには限界があり、例えるならばレベル99までが限界なのだ。一方で盧生にはそのようカウンターストップのような概念がなく、100や200など桁違いのエネルギーを保持している。故に
「ガアァァァァァッ!!」
「だが、流石に油断できん火力にまで到達してるな。このままでは城の中が破壊されてしまう。」
それでもキーラの攻撃は凄まじく、クリームヒルトも壁面や天井などに移動してキーラの攻撃を回避してた。そう、彼女の攻撃力が増しており、流石のクリームヒルトでも無視できない領域まで到達している。
「ならば、そろそろ決着をつけるべきか。」
「.....来い、捻り潰してくれるわァッ!」
クリームヒルトはキーラと正面から向き合い、剣を構えて突撃した。身に纏うは死の概念、それはまさに死神の名に相応しい光景だった。
一方でキーラも同様に、背後に生やした巨人の腕を展開し、クリームヒルトへと向かってその一撃を振り下ろす。その姿はまさに神話の化け物の様で、常人が見れば気を失いそうな悍ましさを感じさせた。
「グガアァァァァァッ!!
巨大な拳と死の剣戟が激突する。閃光が爆ぜ、空間すらもが歪みそうなエネルギーのぶつかり合いだった。しかし直後、剣の一撃によって巨腕が斬り飛ばされた。加えて死の概念によって細胞までも死滅し、再生すら許されない。その攻撃にキーラは思わず目を見開く。感じた痛みすら忘れるほどに.....
「馬鹿な....ありえん、私の....夢が....」
「まだ、やるのか?」
「っ!舐めるな、この程度で終わるはずが.....」
「____」
その直後、今度は反対側にある巨腕を切り落とされる。続けて、処刑人のように無表情のまま、クリームヒルトは巨人の中心部へと剣戟を放つ。反撃する余裕すら与えられず、一瞬にして。あれほど猛威を撒き散らしていた巨人の姿が崩れていく。その無機質な行動は最早人間というよりも機械的で、その光景にキーラは恐怖を感じた。しかし、キーラのその表情を気にせず、ゆっくりとクリームヒルトはキーラへと近付いて呟いた。
「今一度眠りにつくが良い、キーラよ。もう一度目を覚ましたときに、もう一度語り合おう。」
「....あ、あ、あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝ッ!?」
死神からそう告げられ、とどめに放たれたに死の刺突がキーラに突き刺さる。死の概念がキーラの身を包み、奈落の底へと落とされていくような感覚を覚えた。鋼牙の首領たるキーラ・ゲオルギエヴァ・グルジエフは敗北したのだった。
今回はちょっと地の文での解説が多かったので、今度は可能な限り量を少なくするように心掛けます。