「....下らん、結局は茶番であったか。」
「そうは言ってもな、眷属になった以上こうなることは承知の上のことだろう。」
キーラはブスッと不機嫌な顔をしていた。前回クリームヒルトに完全敗北をしたものの、眷属は盧生が生きている限り不死身だ。つまり、クリームヒルトが本当に死なない限り真実の死に到達することはないのだ。故に蘇生されるのは必然的な流れと言えるだろう。しかし、やはりキーラ本人からしたら憎悪の対象でおる盧生に蘇生されることは不本意であるため、どうしても気分的に不愉快になるのだ。
「....まあ、知らん世界に飛ばされなかっただけ良しとしてやる。それで、私を奴隷にでもするつもりか?」
「そのような目的などないが....そうだな。では一つ頼まれて欲しいことがある。」
「....なんだ、それは?」
「私の代理で玉座の担当をしてくれ。正確には、門の前で相手をして欲しい。」
「....は?」
キーラはクリームヒルトの言葉を聞いて、思わず目が点となる。しかし構わずクリームヒルトは話を続ける。
「私はまだ辺りを調査しなければならん。しかし私の玉座に来る者の数が最近多くなり、中には強力な者までいる。そのような連中が集まると何が起こるかわからん。よってキーラ、私の代わりに相手をしてくれ。」
「....つまりなんだ。私は貴様の代わりに連中の相手をしろと言うのか?」
「そう言うことだ、ちなみに私の意思でなければ玉座の扉が開くことはないことも、しっかりと伝えてくれ。あとはお前の好きにして構わんよ。」
「....まあ良いだろう、敗者に口無しだ。一応貴様の指示に従うとしよう。」
不本意そうな表情であるものの、キーラはおとなしくクリームヒルトの依頼に従うことにした。それを聞いてクリームヒルトは微笑みを浮かべる。
「助かる。ではあとはよろしく頼むよ、キーラ。」
「....阿呆め、貴様の思い通りになるとでも思っているのか。」
クリームヒルトはそう言って、そのまま先の道へと歩いて行った。その様子を背後から見て、僅かに微笑みをあげてると知らずに。
キーラと別れ、しばらく歩き続けた後。
「おかしい、誰も見かけない。」
ここまで怪人どころか人間と顔を合わせることが無かった。しかし周りの壁や床には何箇所か破壊されたような痕跡が見られる。であれば、誰かがこの場所で戦闘していたと考えられる。
「怪人の一人でもいると思うのだがな....」
「ッ.....ハァハァ....」
「む、アレは.....」
その時、目の前に怪人らしき人物を見かけた。しかし明らかに様子がおかしかった。複数損傷したような傷が見られ、走って逃げてきたのか息切れをしている。何かあったのか聞こうと近寄ろうとした瞬間だった。
「ヒッ!?」
「....この地響きと、生命反応は。」
突如、大きな揺れが発生した。徐々に揺れは大きくなり、城全体が揺れていることを感じたその瞬間、目の前から桁違いに巨大なムカデが出現した。以前玉座で戦った個体よりもはるかに大きく。間違いなく数千mはあるだろう。
「ヒィイイッ!ムカデ長老だぁぁッ!?」
「これは、前とは別個体....それもこれほど巨大とはな。」
背後からこちらを見ていた怪人からの声が聞こえた。どうやらあの巨大なムカデは「ムカデ長老」という名前らしい。なるほど、長老と呼ばれるほど長生きし、その結果あの巨大を得たのか。
「そこのお前、それ以上暴れまわれることを止めよ。私はこの城の主だ。それ以上暴れまわるというのならば私は剣を抜かざるを得ない。」
「....お前が主だと?ならば蘇らせろ....でなければ、殺すまでだ。」
ムカデ長老はその巨大な頭をクリームヒルトへ向けて、殺意を込めた目線を放つ。しかしそれでも尚、構わずクリームヒルトは自身の意思を曲げない。
「それは同意できない、何故ならばお前はここに来た以上一度は死んでるのだからな。一度死んだのならば、現世へ戻ることは許可できん。」
「ならば、用はない....殺すだけだ。」
「ヒッ!?ギャアアアアッ!」
ムカデ長老はそう言って猛スピードで突進を始めた。城の壁面や途中にいた怪人たちを轢き殺しながら突き進む。
「ならば仕方ない....加減はせんぞ。」
そしてクリームヒルトは剣を抜き、正面から迫るムカデ長老に向かって横薙ぎに剣戟を放つ。激しい金属音が鳴り響き、空間に衝撃波が炸裂する。
「グウゥッ!」
「....なるほど、その巨大に合った頑丈さだな。」
ムカデ長老の装甲は非常に頑丈で、ミサイルやサイボーグの砲撃が直撃しても粉砕されることはなかった。その装甲を、クリームヒルトの一撃が直撃した。その直後、顔面の装甲....いや、ムカデ長老の全身の装甲に亀裂が走った。
「なッ!?」
「だが先も言ったように、お前を倒すのに加減は必要ないと判断する。よって、そのまま崩れるが良い。」
そしてそのままムカデ長老の肉体が粉砕され、そのまま崩れ落ちていく.....が、これで終わるはずもなかった。
「......」
あくまで破壊されたのは装甲の部位だけであって、その下には新しいボディがすでに出来上がっていた。しかも更に先ほどよりも肉体の大きさが増している。
「....なるほど、その生命力は侮れないな。」
「___っ!」
ムカデ長老は言葉としてできない叫び声をあげ、再びクリームヒルトへと突進をする。それに対してクリームヒルトは、もう一度剣で迎撃する。
「先程よりも硬い....」
「同じ手は、通じん!」
しかし同じ結果が出るわけもなかった。今度は装甲に亀裂が入ることもなく無傷だった。明らかにさっきよりも強度が増している。よってムカデ長老に明確なダメージ話を与えられていない。その光景を見てムカデ長老は不敵な笑みを浮かべつつ、鋭利に尖った顎門をクリームヒルトへ向けて放つが、クリームヒルトはバク宙してその攻撃を回避する。
「擦り潰れろッ!」
しかしムカデ長老は逃さない、その巨大から想像できない精密な動きをする。なんと、90℃急カーブをして再びクリームヒルトの正面へと再び迫る。当然クリームヒルトは空中にいる以上、簡単に回避はできない。
「.....やむを得まい。」
下方から迫るムカデ長老に対し、クリームヒルトは楯法をその身に纏う。楯法とは邯鄲の夢において、防御と回復を司る能力である。瞬間、肉体が金剛石のように硬くなり、ムカデ長老の突進を受けてもほぼ損傷は無かった。
「グッ、こいつッ.....」
突進を無傷で防いだクリームヒルトに対し、今度はムカデ長老は二本の触覚で鞭のように攻撃する。それに対し、地面に着地したクリームヒルトは、触覚の攻撃を剣で弾きつつ防ぐ。
「ゴオォォォォッ!!」
しかし、一瞬の隙をついてムカデ長老の触覚がクリームヒルトの片腕を束縛する。そして巨大な顎門の刃が、クリームヒルトの腹部へ突き刺さる。
「.....ふふ、やるではないか。」
「ッ!?」
しかし、流れ出る血を気にすることなくクリームヒルトは笑みを浮かべた。そして剣を振り下ろして突き刺さっている顎門を斬り裂いた。斬り裂かれた箇所からまるで血のように謎の液体が滴り落ちる。
「このくらいの損傷であれば、問題はないな。」
「....馬鹿め。」
しかしムカデ長老は不敵な笑みを浮かべていた。その瞬間、クリームヒルトの周りにある城の壁面から、ムカデ長老の体が壁面を粉砕しながら全方位から現れた。そしてそのままクリームヒルトの全身を包み込む。それはまるで、龍がトグロを巻いてるような姿だった。
「圧殺してやるッ!」
それはまさに、龍の如き巨体を最大限に生かした殺害方法だった。全方位から圧倒的な質量で圧し潰すというシンプルな方法ながらも、これを対処できる人物はかなり限られるだろう。
「....なるほど、その巨大な身体を生かした技は確かに強力だ。」
「ッ!?」
しかし、圧殺したはずなのに女の声が聞こえた。同時に巻き付いていたムカデ長老の体が、まるでバターのように斬り刻まれ、中から無事生還したクリームヒルトの姿が現れる。
「馬鹿な、その剣は効かない筈なのに.....」
「そう難しい話ではない、単にお前への対処方法を変えただけだ。」
クリームヒルトは邯鄲の夢に
「ごがぁあああああああっ!」
「これで終わりだ.....さらばだ。」
最後の足掻きにとムカデ長老は巨大な口を開けながら突進してきた。クリームヒルトは、それを避けることなく正面から解法を纏った剣を正面から全力の刺突を放つ。刺突を受けたムカデ長老は全身が粉砕され、再生することなく消滅していった。