怪人達の冥界事情   作:ヘル・レーベンシュタイン

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お久しぶりです、少し更新ペースが遅くなって申し訳ございませんでした。
今回はこの小説で特にやりたかったことの一つです。多くの人々に殺人鬼と呼ばれた者同士の戦いをどうかお楽しみください。


第12撃目 稀代の殺人鬼

「ムカデ長老の消滅を確認、よくもここまで城を荒らされたものだ。」

 

ムカデ長老が完全にこの場から消滅するのを確認した後に、クリームヒルトは辺りを見渡した。周囲には瓦礫とムカデ長老の肉片が飛び散っているが、次第に元に戻っていくだろうと考える。

 

「しかし、あれほどの巨体の怪人をよく現世で倒せるものがいたものだ。あれは、人間では対処できる者も限られるだろうに....」

 

実際、クリームヒルトが知る中でもムカデ長老を対処できる人物はかなり限られると予測していた。しかしそんなムカデ長老でも死んで冥界に来たということは、余程強い存在がヒーローとして活動しているのだろうと考える。

 

「それも、サイタマという人物の活動によるものなのだろうか?だとしたら....」

「へぇ、これは凄いねぇ。あのムカデ長老がやられてるや。」

 

その時、背後から全身に包帯が巻かれ、両腕には手の代わりに日本刀のような刃物が付いている謎の怪人が現れた。クリームヒルトは振り返りながら問いかけた。

 

「お前はあのムカデの怪人とは知り合いなのか?」

「ま、一応そうだね。詳しくは教えてあげないけど。」

「簡単には組織のことは教えてくれんか....ところで、貴様は誰だ?」

「一応人間達から『キリサキング』なんて呼ばれてるよ。」

「キリサキング....か。随分と血の匂いが濃い者が来たものだ。」

 

クリームヒルトは、キリサキングと名乗る怪人から非常に血の匂いが濃いと感じた。怪人から悪人など様々な人物と出会った経験があるクリームヒルトだが、キリサキングはその中でもトップクラスの人殺しだと確信した。すると、今度はキリサキングから言葉を投げかけられる。

 

「今度はこっちから質問投げるけど、貴女がこの地獄の様な世界のボスなのかな?風の噂で、この世界の王様を殺せば蘇ることができるって聞いたんだけど。」

「一応そうだが?」

「へぇ、地獄の王様が女性だとは思わなかったよ。まあいいか、女性の皮膚は柔らかくて切り心地悪くないしね。」

 

などと物騒なことを笑いながらキリサキングはクリームヒルトを見て目ていた。まるで何かを見定めているかの様に。そして、それはキリサキングにとっても興味深いテーマだった。

 

「それに、ふふ.....貴女から臭うんだよねぇ。同属の匂いってやつ?」

「具体的には、どんな匂いだ?生憎と私自身、そんな特別な匂いを持ってるとは思わないんだが....」

「そんな物理的な匂いじゃないよ、要は雰囲気って奴さ。単刀直入にいうと、貴女も殺しが得意な人種だろ?私にはわかるんだよねぇ。案外、私にしかわからないのかな?」

「.....」

 

キリサキングの問いかけに、クリームヒルトは口を閉じた。それを肯定の意味と捉え、キリサキングは包帯の巻かれた口の端を上げて微笑んだ。事実、クリームヒルトは自身の世界において、多くの人々から稀代の殺人鬼と呼ばれていた。もっとも、実際は悪人と呼ばれるような悪虐な殺戮をしたわけではないが.....

 

「ま、どっちにしろ関係なく殺すけどね。」

「それは死から蘇るためにか?」

「それはそれでお得なんだろうけどさ、あまり興味ないね。私にとって大事なのは、冥界の主を斬り殺したらどんな気分になれるか気になるだけ。私の目的はただそれだけ。」

「ほう、これまで来た者とは違うな。」

 

キリサキングにとって最大の快楽とは、ただひたすら斬り殺す事のみだった。そこに現世や冥界などという拘りは一切なかった。単純に己の欲を満たしたいだけである。

 

「というわけで、おとなしく死んでね。」

 

そう言いながらキリサキングは正面から腕に結び付けている刃をクリームヒルトの首元へと無造作に放った。それはまさに首狩りの一振りで、常人であれば簡単に首と頭部が両断されるだろう。

 

「....それはお断りだ。」

「ッ!?」

 

しかし当然ながらクリームヒルトは決して常人ではない。邯鄲の夢を制覇し、阿頼耶識を掌握した超越者だ。彼女はキリサキングかは放たれた首刈りの一撃を、剣や腕でガードする事なくそのまま首でその一撃を止めた。キリサキングの一撃は決して軽いわけでなく、人間どころか人を超えた怪人すら斬り殺すことができる威力だ。しかしクリームヒルトにとっては、今まで対決してきた怪人達と比較するとやや軽い方だ。故にわざわざ防御するまでもなかったのだ。

 

「刃を向けられた以上、反撃される覚悟もあると解釈する。私の拳を受けてみろ。」

「お前えッ.....!?」

 

クリームヒルトは首元へ放たれた刃を握り潰し、そのまま驚愕の表情を浮かべるキリサキングの左顔面へと拳を突き刺した。拳がクリーンヒットすると、数メートル先の壁面へと吹き飛ぶ。

 

「....殴った感触が人のそれではなかったな。それにこの髪の毛は...毛髪で形成されてた怪人か?刃物と髪の毛、散髪と関わりがありそうだな。」

 

殴った拳を見てみると、手の甲に何本かの毛髪が出てきた。そしてキリサキングの体に付着している包帯からも髪の毛が飛び出ている。もしかしたら、散髪と関わりのある何者かが、怪人化したのだとクリームヒルトは考察した。

 

「ふ、ふふふ....凄いなぁ。全く歯が立たない.....人間でもこんなに強い人がいるもんだねぇ。」

 

壁面に叩きつけられたキリサキングは、ゆらりと揺れながら立ち上がった。よく見ると、左目を塞いでた包帯が解けていた。そして解放された片目は空洞だった、まるで誰かに奪い取られたかのように眼球が存在しなかった。しかし、そこから密度の高い殺意が漏れている。

 

「うふふふ、同じ殺人鬼と噂された存在でもこんなに差があるんだなぁ....良いなぁ、羨ましい。ピガピカ輝いていて、真っ直ぐと未来に進んでいて、あぁ......殺したいほど嫉妬しちゃうなぁぁぁぁッ!!」

 

キリサキングが咆哮した瞬間、その体に異変が起きた。まず額には第3の目が突如現れ、更に阿修羅のように同じ刃物がついた4本の腕が生えてきた。そして全ての刃が鮮血に染まったかのように赤色となっている。そう、キリサキングは怪人として更に覚醒したのだ。

 

「....ここに来る怪人は、よく覚醒するな。死後の開き直りから成せる技とでも言うべきか。」

「ふふふ、そりゃそうだよ。ここには鬱陶しいヒーロー達もいないしねぇ....好き勝手暴れても良いですよって、言われたようなものだよ。強いて言うなら貴女という存在が抑制になってるんでしょうけど、それも今日まで。」

「ほう、それはつまりお前が私を殺すとでも?」

「その通り、精々殺されないように逃げなさいよっと!」

 

6本の殺意を纏った刃がクリームヒルトへと迫る。クリームヒルトは直撃を避けるために剣でそれぞれ弾き飛ばすも、そのうちの一本を防ぎ損ね、血濡れの刃が腹部を掠った。掠った部分から血が溢れた。

 

「ッ!」

「お、今度はしっかり通ったね。うんうん、やっぱ肉を斬る感触は快感だなぁ....」

「これは.....私の楯法を貫通したのか。この刃、何かしらの概念が纏っているな。これは、生物特攻か。」

「へぇ、そうなんだ。まあ私は斬り殺した相手の血を浴びれば大満足だからねぇ、私にうってつけの能力じゃん。」

 

本来であれば単純な攻撃であれば幾ら怪人でもクリームヒルトの防御力を突破することは困難である。それこそ、この場に核ミサイルでも持ってこない限り不可能だ。当然ながら、本来のキリサキングから放たれ攻撃はそれほどの威力は無い。加えて、覚醒して確かに威力自体も上がっているが、それでもそれほどの威力に迫っているとは考えられないだろう。

しかし覚醒したキリサキングの両手についてる刃は、血肉のある生物であればあらゆる防御を貫通して切断することが可能な能力なのだ。そこに血があり、肉質があれば人間は当然、獣や怪人すらも簡単に両断できる。故に生物特攻の能力と言えるだろう。

 

「いやぁ私って生まれた時から、血肉を斬り裂く時の感触が本当に楽しくてさぁ。凄くワクワクするし、全力で斬り殺した後のすっきり感とか、凄く快感なんだよねぇ。」

「とにかく生あるものを斬り殺すことに快感を覚えていたわけか。」

「そういうこと、だから貴女も私を楽しませて.....よねッ!」

 

再びキリサキングの6本の腕が命を摘み取ろうと振るわれる。流石に直撃するわけにもいかないので、クリームヒルトは剣を振るってキリサキングの剣戟を何度も弾く。生物特攻の刃故に、無生物である金属を切断することはできない。

 

「へぇ、やるねぇ。流石に2度も変わらないか。まるで私の攻撃を先読みしてるかのようだ。」

「さすがに学習はするとも、その刃は私にとっても脅威だからな。」

 

事実、今のキリサキングを対処できる人物は、クリームヒルトの知ってる人物でも、同格の盧生を除けば5人にも満たないだろうと考えている。だからこそ、この怪人はこの場で倒すべきだと確信した。

 

「へぇ、つまり貴女自身が死ぬって感じるほど斬れば本当に死ぬってことだよねぇ?」

「.....そうかもしれんな。」

「だったら、殺し続ければ私の勝ちだ!断末魔すら上がらないほどにねぇッ!!」

 

キリサキングはそう叫びながら接近し、生物殺しの刃を振り下ろす。そこに技術も何もなく、ただ本能のまま振るっているだけだ。クリームヒルトはその攻撃を避け続けるが、6本の刃が徐々に退路を狭める。

 

「ほらほら、いつまで避けられるかなぁ?」

「....やむを得んな。」

「ッ!?」

 

瞬間、一本の刃がクリームヒルトの首に迫った瞬間、迅雷の速度で放たれたクリームヒルトの剣戟がキリサキングの刃を粉砕しされた。即ち武器破壊に他ならない。全ての刃が粉砕されれば、キリサキングの戦闘続行は不可能だろう。その光景を見てキリサキングは震えているが.....

 

「生物特攻であれば、無生物たる鋼の刃で全て粉砕するのみ。」

「.....フフフ、アハハハハハ!面白い、面白いねぇ貴女!フフフフ、私、貴女のような人間大好きだよォ!」

 

しかしキリサキングはその光景を目の当たりにして咆哮の様な笑い声をあげた。そして再び攻撃を開始する。より苛烈さと残虐さを増しながら。それと同時にキリサキングはクリームヒルトへと語り掛ける。

 

「今の一撃を喰らってわかったよ、貴女がなぜこれほどの強さがあるのか。死の概念....とでも言えばいいのかな?それをその剣に纏わせながら戦闘してるんだねぇ。」

「何故それがわかった?」

「見なよこれ、根の部分が液状化しつつ崩れている。つまり、鉄としての死を迎えていると。私は生物にしか死の概念はないと思い込んでいたけど、これを見て確信した。貴女はあらゆる存在に死をもたらす死神なのだと。」

 

キリサキングは先程粉砕された部分を見せながらそう語った。同じ殺人鬼と呼ばれた者同士で感じるものがあったのか、キリサキングはクリームヒルトの本質を感じ取ったのだ。それを聞いたクリームヒルトは表情を変えないまま言葉を返す。

 

「そこまで私は大層な存在ではないが、否定はしないでおこう。それで、それに気付いたお前は何がしたい?」

「決まってるでしょ、私がその力を手に入れて全てを殺す。その力さえあれば、もっと効率よく人間もヒーローも怪人も何もかも、全てを思いのまま殺すことができる。」

「....仮に本当に全ての存在を殺したらどうする?」

「その時はその時に考えるよ。あ、でも最終的には自分を自分で殺すのもロマンチックかなぁ?フフフフ.....」

「なるほど、破綻した考え方だな。」

「それはお互い様でしょ、どんな奴だって矛盾して破綻してる要素なんであるだろうし。怪人に成ろうとしてる癖に人間守ってたり、人間の癖に怪人ごっこしてエクスタシー感じてる奴とかさぁ。」

「なるほど....確かに、一理あるな。だが、だからといってお前の行う殺戮を見過ごす気はない。」

「そう、だったら私を全力で止めてみなよッ!」

 

鮮血に染まった凶刃と静謐の剣が交差する。両者の剣戟が血飛沫をあげ、刃の破片を宙を舞う。しかしその戦闘が続くにつれてキリサキングの武器が徐々に減り、クリームヒルトの外傷が増えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして....

 

「....ハァ....ハァ....これは、私の負けかなぁ。」

 

数分後、キリサキングの持つ全ての刃が粉砕された。一方でクリームヒルトにはある程度目立つ傷はあるものの、それでも膝を付かず威風堂々とした佇まいでキリサキングの姿を見つめていた。

結局のところ、勝負の決め手となったのはお互いのフィジカルの差と言えるだろう。クリームヒルトは攻撃力だけでなく耐久性も高く、ある程度キリサキングの攻撃を受けても耐えることはできる。

しかしキリサキングはあまり耐久性に優れていない。今回の戦闘では気力である程度ごまかしてはいたものの、最後の最後まで粘ることができず、このような結果になった。この様に俯瞰的に見てもキリサキングの敗北といえるだろう。

 

「ほら、早くとどめを刺しなよ。ここで死んだら、どこか別の世界に飛ばされるか、無になって本当に死ぬんでしょ?だったら早く殺して頂戴よ。」

「....その必要はない。」

 

しかしキリサキングの主張とは反対に、クリームヒルトは剣を鞘に収めた。その姿を見てキリサキングは激昂する。

 

「はぁ?貴女、それはおかしいでしょ。冥界の王を名乗るんなら、ちゃんと仕事は最後までやり通しなさいよ!」

「何を言ってる、私はやるべきことをやった。何故なら、お前は私と戦闘してもう悔いはないのだろう?その殺戮欲求を惜しみなく発揮し、全力でやり遂げたのだからな。」

「....はぁ〜、そこまでお見通しだったとはね。あーあ、結局貴女は私の想い通りに動かせなかったなぁ。」

 

キリサキングは自身の内情を看過されたと悟ると、膝をついて大の字になって倒れた。全身にはダメージが積み重なってボロボロになり、刃を全て粉砕されたその姿はまさに満身創痍といえるだろう。しかし、その表情はどこか満足そうだった。

それを見届けてこの場を抜けようとしたクリームヒルトに、キリサキングは言葉を放つ。

 

「ねぇ、最後に教えて欲しいんだけど、貴女と私って結局何が違ってたのだろう?」

「....それは、同じ殺人鬼と呼ばれた者としての問いか?」

「うん、それだけがどうしても気になってね。貴女の考えを教えて欲しい。」

「そうか.....簡単な答えだよ。それは「心」の有無だ。お前にはあって、私には無かった。ただそれだけだ。」

「.......フフ、アハハ....ハハハハハハッ!」

 

キリサキングはクリームヒルトの答えを聞いて、思わず大笑いを挙げた。それはあまりにも予想外で、そして愉快で馬鹿らしい答えで、笑わずにはいられなかった。

確かに両者は同じ殺人鬼でありながらも、対照的と言えるだろう。キリサキングは己の快楽を満たすために人間殺戮を繰り返し、その結果子供達の耳にも届くほどの怪人となった。しかし殺戮を犯して快楽に至れる程度の心もあったのも事実だろう。

一方でクリームヒルトは確かに過去に殺人をしたのも事実だが、そこには阿鼻叫喚を愛しているわけでもなく、そもそも心が無い。故にあくまでも人類全体のバランスを保つために、機械のように不平等を体現していた人間を殺していたのだった。そこに快楽に至るような心なんて持ち合わせていない。だからこそクリームヒルトは愛のなんたるかを答えを得るために邯鄲の夢に挑戦し、盧生の座を獲得したのだった。こうして比較すると、確かに心の有無によって両者の運命が動いていたともいえるのかもしれない。しかしその真実にキリサキングは笑わずにはいられなかった。

___ああ、全くもって度し難い、それは本当は「私が言うべき答え」の筈なのに。

 

「アハハハハッ!心が有る私が怪人という化け物になって、ヒーローのように怪人や悪人と戦ってる貴女には心が無いだって?馬鹿馬鹿しいにも程がある!」

「....そこまで度し難い答えだったか?」

「そりゃあねぇ、アハハハハッ!おかしすぎて、もう未練もクソも無くなったよ....ああ、本当に、貴女に出会えてよかったよ。また会いたいぐらいにね.....」

 

 

そう言いながら稀代の快楽殺人鬼、キリサキングは邪悪な笑みを浮かべながらこの場から消滅していった。皮肉にも心のあるキリサキングが闇の住民(怪人)となり、心無いクリームヒルトは盧生という光り輝く人の代表者(ヒーロー)として君臨している。無論これはあくまでも偶然の産物、誰かが皮肉を込めて狙った因果では無い。しかしお互い何か感じる部分はあったのも事実なのだろう。

 

「....先へ行くとしよう。」

 

そう呟き、クリームヒルトは別世界の殺人鬼の最期を見届け、踵を返して更なる最深部へと進んでいった。もしかしたら私もあの様な姿になってたかもしれないという考え方を思いつつも、それを表に出すことなくその考えを封印する。あくまで可能性、本当にそうなることはなかったのだから。




ちょっとした補足ですが、このストーリーではキリサキングをあくまで元人間から変貌した怪人として一貫して扱っています。自分の中におけるイメージでは、美容師をしていた女性がある日、髪だけでなく人を斬り殺す快楽を覚えて、殺し続けた暁に怪人キリサキングとなったイメージです。
村田版ワンパンマンを見ると、髪を切りすぎたハサミが突然変異した可能性もあるかもしれませんが、今回はその可能性は伏せておくことにしました。


余談ですが、今回のストーリーで覚醒したキリサキングは怪人名をつけるなら「血染めのキリサキング」と自分の中では名付けています。災害レベルは竜で、相性がいいヒーローはジェノスや駆動騎士のような機械の体を持つヒーローや、近づく必要のないタツマキちゃんくらいです、サイタマは言うまでもありませんね。
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