怪人達の冥界事情   作:ヘル・レーベンシュタイン

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いよいよ物語も終盤となってきました。ここまで続けることができたのも、いつも閲覧してくださっている方のおかげです。
最後まで読んでくださる方が満足できるストーリーを書けるよう頑張っていきたいと思います。


第14撃目 不死鳥の如く

人は噂をする生き物だ。定義の難しいものを考察し、どのような世界、どのような人がいるのなど考え、結論を出して多くの人と語り合ったりする。

例えば殺人鬼には悪霊が取り憑いていて、それが原因で暴走した。その悪霊を退治したら善良な人間に戻った。悪の親玉はカリスマに溢れていて、理想的な世界を創造しようとしているなど....考えるだけでワクワクしそうなことを考えてしまう人も多いかもしれない。事実の有無はともかく、そうした考えが幅を活かして数多くの創作物を生み出している。

 

「ほう、つまり君はそのような目的があるのだね。」

『ええ、私はそれを望んでいる....私の理想を実現するためにね。』

 

例えば、世界でも有名な殺人鬼がいたとしよう。その殺人鬼は人の阿鼻叫喚を何よりも愛しており、世が痛みと苦しみに満ちたディストピアを実現しようとしている邪悪な人物.....と、噂されていた。実際、殺人鬼と聞いたらそのような悪人をイメージする人も多いだろう。しかし事実は異なり、決して悪人と言えるような人物ではなかったと証明された。その現実を前には、前述した噂は結局の所噂に過ぎず無力な仮説だったと言えるだろう。

しかし.....

 

「ふっ、その理想とやらには興味無いが、お前の狙っている獲物には興味ある。ここは、俺が出るとしよう。」

「ええ、どうぞお好きなように。」

 

 

 

 

 

「着いた....城の扉だ。」

 

クリームヒルトは城の廊下を歩き続けていた。多くの怪人を退治ながら歩き続け、ようやく城の門へと到着した。扉からは異次元につながっており、様々な世界と繋がっている。

 

「盧生の意思がある限り、どの世界と繋がろうともおかしくは無い。しかし、怪人の数が急に多くなったのは異常だ。」

 

クリームヒルトの知ってる人物や、知らない人物が来てもおかしくは無いだろう。しかし、怪人が訪れる頻度が上がったのは異常だ。その原因として考えられるのは....

 

「私が無意識に接続を強めたか.....誰かが意図的にコントロールして怪人をおびき寄せたのか?」

「その通り。」

 

クリームヒルトがそう考えていると、ふと上空から声が聞こえた。そこには鳥の着ぐるみを纏った人物がいた。その人物はゆっくりとクリームヒルトの前へと降りてきた。クリームヒルトの緑色の瞳を見つめながら、口を開く。

 

「確認だが、お前がこの冥界の王ということで良いのだな?」

「その通りだが、お前は何者だ?」

「私はフェニックス男、鳥の着ぐるみが脱げなくて気が付いたら怪人になったのだよ。まあその話は良い、俺様はお前がある人物に狙われていることを話しに来たのだよ。」

「....ある人物だと?」

「ああ、お前ととても関わりが強い人物だとも。」

 

フェニックス男の話を聞いて、クリームヒルトは今まで出会ってきた人物の顔を思い出す。邯鄲へと誘った緋衣征志郎、友に世界の危機を防ぐために同盟を組んだ柊四四八、そして自分の次に盧生として覚醒した黄錦龍など様々な人物を連想する。しかし、どれも可能性が低いと感じた。何故なら、どの人物も怪人を相手に伝言をするとは考え辛い。それこそ直接会いに来る人物が多い。では、一体誰が.....

 

「関わりが深いとすれば、私にも関係するはなしなのだろうな?一体なんの話だというのだ?」

「ああ、それこそ世界滅亡の話と繋がるとも。それこそ冥界ではなく、現実の世界にも影響を及ぼすとも。」

「....なんだと、そいつは世界を滅ぼす気なのか?」

 

世界滅亡の危機であれば、確かに無視できる話では無い。人の代表者たる盧生が全力で動くには十分な理由だ。しかし、何故世界を滅ぼそうとしているのか、まだその原因が掴めない。もっと詳しい話をフェニックス男から聞こうとしたが、静止の手を出している。

 

「おっと、これ以上俺様の口からは話せない。ここから先は有料でなぁ....」

「ほう、どれほどの財を積めば話してくれるのだ?」

「そうだな、お前の魂に強く結ばれている『盧生の資格』とやらを要求しようか。それはどれほどの財をも凌駕する価値があるからな。」

「....お前も結局、盧生の資格を求めるのだな。」

 

盧生の資格を要求するフェニックス男に、クリームヒルトは少し呆れた表情を浮かべる。結局は今まで現れた人物と同じ目的だと確信した。それに対してフェニックス男は高笑いを挙げる。

 

「ははははは、当然だ!人の代表者たる盧生.....か、実に良い響きでは無いか。世界の主役となる俺様にふさわしい称号では無いか。新世界の主役(トップスター)となるためには、欠かせないものだ。」

「....お前、先ほど話した人物の計画に加担しているな。」

「その通りだ、全人類が消滅した暁には新たな人類をこの星に住まわせる。それはこの不死鳥の生命エネルギーを活用すれば、造作でも無いのだからなぁ!」

 

フェニックス男は背中の翼を広げながら、そう高らかに宣言する。確かにフェニックス男には膨大なエネルギーが蓄積されており、相応の説得力を感じた。

 

「良いだろう、盧生の資格を欲するのならば奪うが良い。ただし、全力で抵抗させてもらう。」

「ふっ、それで良い。お前を倒し、ついでにこの冥界を乗っ取るとしよう。そしてこの冥界を新王目覚めの場として活用させてもらう!」

 

クリームヒルトとフェニックス男の決闘が今始まった。クリームヒルトは剣を抜き、フェニックス男は「金剛イーグルモード」という、まるで金色の鷲の様な姿に変化して剣戟を防ぐ。黄金の爪が剣を掴む、その硬度はまさに金剛石の様だ。

 

「なるほど、姿が変化するのか」

「一流のスーツアクターたるもの、モードの種類は多様に揃えるものさ。まだまだこんなものではないぞ!」

 

そう叫びながらフェニックスは手に炎を纏い、飛翔しながら猛スピードで爪による連続攻撃を放つ。その動きはまさに宙を舞う燕の如く。クリームヒルトは防御の夢で攻撃を防ぐ。

 

「そらそらどうした!冥界の王がこの程度ではあるまい!」

「地上では不利だな、仕方ない。」

 

地上にいたままでは不利だと判断したクリームヒルトは、自身の重力を解法で無効化し空中浮遊をする。そしてフェニックス男の後を追う。

 

「ほう、空中戦をするつもりか。しかし近付かせはしない!」

 

フェニックス男は背中の羽を広げ、大きく羽ばたいた。その瞬間まるで太陽のフレアの様に、自身の周囲に高温の炎を発生させた。その炎熱は城の壁面を一瞬にして融解させるほどだ。

 

「吹き飛ばす。」

 

しかしクリームヒルトは迫る炎に手を伸ばし、解法の崩を叩き込む。その結果一瞬にして炎熱の壁は消滅したが....

 

「そう来ると分かってたぞ!フェニックス・エクスプロージョン・クチバシ攻撃ッ!!」

 

炎熱の壁の向こうには既に攻撃態勢に入ってたフェニックス男が居た。その姿はまさに不死鳥の如く炎を纏い、鋭利なクチバシがあらゆる障壁を貫通せんと突撃する。

 

「.....っ!」

 

クリームヒルトは態勢を立て直すことができず、そのまま無防備の状態で攻撃を受けてしまう。フェニックス男のクチバシが、クリームヒルトの腹に深く突き刺る。

 

「どうだ、不死鳥のクチバシは鋭利だろう?」

「ッ!....なるほど、フェニックスと名乗るだけある。一筋縄ではいかない様だ。」

 

クリームヒルトは咄嗟に防御の夢を発動していたが、それすらも貫通して深く腹部に突き刺さった。その痛みを堪えつつ、クリームヒルトは腹に刺さったクチバシを掴んだ。

 

「な、何をする気だ!?」

「間合いを詰めればこちらの物だ、消えるが良い。」

「ぐっ、オォォォォォォォッ!!」

 

そう告げてクリームヒルトは掴んだ手から解法を流し込む。消滅の波動がフェニックス男の体を駆け抜け、徐々に肉体が消失し始める。フェニックス男は消滅しながら苦悶の声をあげる。しかし....

 

「.....フッ」

「なんだ....ッ!」

 

瞬間、フェニックス男の体から眩い光が発生した。更に膨大な生命エネルギーが発生し、次第に体が修復していくことが分かる。

 

「ふふ、例を言うぞ死神....冥界でも私は死から復活できることがこれで証明された。」

「....不死鳥の蘇りか。」

「そうだ、不死鳥は死に沈む事はない。何度でも死から蘇るのだ!」

 

不死鳥はなおも健在、消滅したはずの身体は完全に修復し、初めて対面した時以上の生命エネルギーをその身に纏っていた。

 

「ならば、何度でも倒すまで。」

「ふっ、試してみると良い。フェニックス・ホーミング羽攻撃!」

 

フェニックス男の背後にある羽から、炎を纏った無数の羽を放つ。クリームヒルトは羽の軌道から回避をすると、なんと羽根が追尾して被弾した。

 

「ッ!追尾することも可能なのか....」

「そらっ!まだまだ出せるぞッ!!」

「ならば、弾き落とせばいい。」

 

再び放たれる羽弾、それをクリームヒルトは接近しながら剣で弾き通す。多少は当たるものの、そこまで大きな損傷ではないので構わず前進する。しかしフェニックス男はそれに察しつつも、距離を取る様子がない。

 

「ある程度の攻撃でも蘇生するのならば、死の概念で即死させるのみだ。」

「ふふふ、良いだろう面白い。死神風情が不死の象徴たる不死鳥を死の淵に沈めることができるのか、試してみるが良いッ!」

 

クリームヒルトの無機質な瞳がフェニックス男を捉える。手には死の概念を纏った剣がある。その剣先が不死鳥に向かって、まるでギロチンのように頭上から一気に振り下ろした。

 

「オォォォォォォォッ!!ガアァァァァァァッ!!!」

「....奴の生命エネルギーと死の概念が反発し合っているようだな。」

 

フェニックス男の体で膨大なエネルギー同士が衝突し合う。その影響で体内で閃光が弾け、想像を絶する痛みがフェニックス男の体内を駆け巡っているだろう。しかしその痛みを、気力一つだけで耐え抜いている。

 

「なんの、これしきィィィィッッ!!これしきの痛みッ....死の概念ごと、吸収してやるゥゥゥゥッ!!」

「.....ほう、大したものだな。」

 

それはまさに不死鳥の如き輝きを放った執念のようだった。徐々に体内で暴走している閃光が収縮されつつある。その光景を前に、クリームヒルトはかつての友人で、死病と戦い続けていた緋衣征志郎を連想した。そして....

 

「 ....ぃた.....耐え抜いた....俺は耐え抜いた、ぞ、死神。」

 

結果、フェニックス男は死の一撃を耐え抜いた。身体は半分が不死鳥と悪魔の様な風貌に変化しているが、それでもまだ死んではいない。その姿にクリームヒルトは感嘆の声をあげる。

 

「ああ、大したものだよ。前に進化しながら私の一撃を耐え抜こうとした怪人もいた。しかしそいつは限界を迎えて自壊したが、お前は気力だけで耐え抜くとはな。」

「フッ、涼しい顔をしているが実際はショックなのだろう?自慢の死の一撃を耐えられたのだからなぁ。大人しく傍観せず、さっさと追撃してトドメを刺せば良かったものの。」

「....確かにその指摘は正しいかもしれないな。」

「良いだろう、まずはその自信に満ちたアホヅラな顔を八つ裂きにして歪ますとしよう。そして、その体か盧生の資格とやらを吸収する。もはや俺様に死の概念が通じない以上、お前は何も出来ない、まな板の鯉と同じだ。」

 

そう宣言しながらフェニックス男は鋭利に尖った爪をクリームヒルトへと向ける。確かにこのまま戦闘が続けばクリームヒルトは奥の手である終段を使わない限り不利な状況と言えるだろう。寧ろ、下手に終段を使えば更なる蘇生を誘導し、手のつけられない怪人を生み出すかもしれない。最悪、フェニックス男本人的にも本望な展開かもしれない。しかしクリームヒルトはその様な真似はしない、何故なら.....

 

「確かにお前の意志力には敬意を表するが、スーツには限界が来ているぞ。」

「っ!何ィッ!?」

 

よく見ると、着ぐるみの端からボロボロと崩壊が始まっていた。

そう、クリームヒルトの狙いはフェニックス男の纏う着ぐるみの破壊だった。フェニックス男の意思がある限り蘇生するのならば、力の源であるスーツの崩壊を優先したのだ。手段は違えど、これは現実でフェニックス男を討伐したヒーローも狙った方法である。

 

「ば、馬鹿な....死を凌駕した俺様が、ああ....着ぐるみの力が抜けて....」

「どれほどの意思を出しても、力の源である着ぐるみがなくなれば連鎖的にお前も無力になるだろう......故にここまでだ。」

「そ、んな....こんな終わりが、俺がその力で、新たな王に、なるはずが....」

 

フェニックス男はゆっくりとクリームヒルトに手を伸ばしてエネルギーを奪おうとする。しかし届く直前で崩れてしまった。こうしてフェニックス男は着ぐるみと共に冥界から消えていった。

 

「.....理性的で中々に曲者な怪人だったな。」

 

フェニックス男の最後を見届け、クリームヒルトはそう呟いな。そして城の門へと視線を移したその時だった。

 

『止まりなさい、クリームヒルト。貴方の役目もここまでよ。』

「.....誰だ、お前は。用があるのならば、私の前に出てこい。」

 

不意に、女性の声が脳内に響き渡った。この声はクリームヒルトにとても馴染みのある声だが、同時に警戒心を奮い立たせる声だった。そして声の主は、門を通ってクリームヒルトの前に現れた。

 

 


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