怪人達の冥界事情   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回の話で黒幕の正体が明かされます。とはいえ、ある程度予想はついてると思いますが....


第15撃目 怪人王

冥界の門の中から人の姿が現れれ、靴の音を鳴らしながら徐々にこちらへと近付いてくる。声色からして女性なことは確かだったが、一つ明らかに異常なことがあった。それは「声の質が明らかに自分と同じ」であること。

 

「お前は....私なのか?」

「ええ、その通り....私は貴方よ。」

 

そして完全に全身が見えるようになると、やはりそこには自分とほぼ同じ服と顔立ち、そして背丈をした人物が目の前に現れた。唯一違う点は瞳の色が赤色であることだけだ。しかしその表情は、無機質さどころか穏やかさを感じせるほどの自然な微笑みを浮かべていた。無機質な自分とは正反対だ。

 

「まさか私には生き別れの双子が実はいた....などという話ではあるまい?」

「ふふふ....ええ、当然よ。貴方はドイツで一人っ子として現実に誕生した。両親の不倫で産まれた隠し子なんて居たりしないわ。」

「....そこまで丁寧に説明してくれるのならば、お前自身は何者なのか説明してくれるのか?」

「当然、隠す必要はないですもの。」

 

クスクスと微笑みながら答えていくもう一人のクリームヒルト。こうして会話をしていると、まるで自分とは対照的な人間だと感じる。

 

「まず、結論からして私は第3盧生クリームヒルトが人の噂によって形を成した存在。言うなれば、噂と言う概念そのものが肉体を得て動いてると言うイメージね。さながら怪人クリームヒルトとでも言えばいいかしら?」

「そうか.....なるほど、私が黄錦龍を歴史から抹消するために改竄した後、人々の言葉によって紡がれが噂が肉体を得たと言うわけか。」

 

なるほど、ならば納得だとクリームヒルトは頷いた。これで目の前の人物が何者なのかは理解できた。しかし、問題はまだある。それは何が目的でこの場に現れたのか。今だに目的が不明瞭な点だ。

 

「それで、おまえの目的はなんだ?私を殺して冥界を乗っ取るつもりか?」

「いいえ、殺すなんてことはしないわ。そうね....端的に言えば貴女と一つになりたいの、私は。」

「一つになりたい、だと?」

 

一つになる、それはまるで自分達が可能なような言い草だった。とは言え向こうは噂の集合体で、更にクリームヒルト本人をベースにしているのだ。故に結びつきも強いため可能であってもおかしくないかもしれない。

 

「一つになるということは....私の持つ盧生の資格も狙いの一つか。」

「ふふふ、そうなるわね。それも私の目的を果たすために必要なものだもの。」

「目的....そうか、フェニックス男が言ってた世界の滅亡か。」

「その通り、私の願いはこの世全ての存在をこの手で殺したい。そしてそれは、貴女と一つになることで怪人クリームヒルトが現実に誕生することが可能となる。」

「そして盧生の権利を持ってそれを成す気というわけか.....」

 

盧生は夢を現実へと紡ぎ出す存在、それはまさに夢と現実の境を超える力と言えるだろう。この力をもう一人のクリームヒルトが手に入れることで、噂の存在だった自分を現実の存在として確立させる気なのだ。

 

「しかしアラヤから流れる力の供給は、世界の危機に応じて変動する。私の世界ではもはや超常の力を必要としていない。仮に私から資格を奪ったとしても、夢をそれほど使うことはできまい。」

「ええ、貴女の世界であればそうでしょうね。だけど、貴女がこれまで戦ってきた怪人たちの世界では日常的に怪人や犯罪者が暴れまわっている。そういう世界であれば、盧生の力も必要となるでしょう?」

「.....確かにな。」

 

クリームヒルトはこれまで戦ってきた怪人達を思い出す。力の差がそれなりにあったとは言え、そのどれもが平均的な人々達から見れば危険な存在と言っても差し支えない。故にそのような怪人達が暴れまわってる世界であれば、自分の力が必要となるのも確かに想像は難しくない。

 

「しかし、必要だからと言って私がわざわざその世界に行かなければいけない義務も無いだろう。まずはそちらの世界にいる住民達が、その危機に対して対応すべきだ。どうしてもその世界の人々のみで存続が厳しい場合であれば.....」

「自分が動くべきだと判断もするかもしれないと....ええ、貴女ならそう考えると思っていたわ、クリームヒルト。確かに最終的な判断は、盧生本人である貴女に決める権利はあるでしょう。だけどほら、眷属の誰かがその世界へ強い結びつきを得たら、流石の貴女でも無視できないでしょう?」

「....まさか、キーラの事か。」

 

クリームヒルトは、ここで眷属の関係となったキーラの事を思い出す。キーラは人間に対して強い憎悪の感情を抱いており、自分自身を人外の存在だと認めている。同時に怪人達に関しては激しい嫌悪感を示しているが、それは同時に強い関心を示してると言えるだろう。そしてキーラはクリームヒルトから盧生の資格を奪おうときている。そのような彼女であれば、怪人達の力を利用して盧生の資格を奪おうと企むかもしれないだろう。

 

「キーラは人間を憎んでいる、そんな彼女だからこそとても怪人としての素質があると確信したの。そこで、私は貴女に気付かれないように最後の切り札を彼女の元へ派遣したわ。」

「最後の切り札....」

「ええ、貴女も怪人達から聞いたことあるはずよ。怪人ですら恐るあの存在を.....」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で冥界の門では。

 

「....ふん、温いな。数を集めてその程度のことしかできんのか、お前達は?」

「グッ、なんだこいつは....どれだけ攻撃をしても再生される。」

「アンタ達しっかり攻撃をなさい!全然くらってないじゃないの!」

「そう言われても....」

 

門の前ではキーラと怪人達の戦闘が始まっていた。怪人の数もそれなりに多く、1000体以上は集まっている。更にそれぞれ連携して先頭を行なっていた。その中で指示を出しているのは、露出度の高い服装を着ている「弩S」という女性の怪人だ。戦闘力の低い怪人や、人間の犯罪者を鞭による洗脳で強化し、指揮を行なっている。

その他には単独で空中から攻めている「吸血鬼(血統書付き)」と「蟲神」が積極的にキーラに攻撃を放っていた。

 

「弩Sの洗脳によって数は集まっているが大した戦果は出ないようだな.....」

「私の鞭で直接アイツを叩いても洗脳できなかったし...」

「キリサキングが居れば少しは変わ....いや、変わらんか。寧ろ被害が大きくなるだけか。」

 

実際キーラは大したダメージを受けておらず、戦闘力の低いものは重火器によって次第に撃退されていた。加えてキーラ本人の攻撃によって連携も崩れつつある。

 

「チッ、使えん連中だ。ならば私が仕留める。」

「.....」

 

そう言って吸血鬼は無数のコウモリとなってキーラを囲む。キーラも豪腕を振るって迎撃するが、数体程度のコウモリしか撃破することができない。

 

「そのまま血を全て吸い尽くしてやろう!」

 

その宣言と同時に全てのコウモリがキーラの全身を覆い、肌に牙を立てる。血を吸い尽くしてキーラの生気を全て奪うつもりだ。

 

「下らん....邪魔だァッ!」

「ッ!?」

 

しかしキーラはそれを砲弾のような咆哮でコウモリを全て吹き飛ばす。コウモリに噛まれた跡は確かにあるものの、それも全て一瞬で完治している。

 

(バカな、今ので血液を4リットルは吸い尽くした....人間であれば即死だぞ!)

「ふん、吸血鬼らしく陰湿で小賢しい戦闘法だな。そんな小細工が私に通じるとでも思ったか?」

 

キーラは血を奪われても尚も健在。いや、血液すらも再生したのだろう。キーラはかつて生気を奪う拳を有した暗殺者との戦闘の経験がある。その拳を喰らっても倒される事はなかった。故にその手の能力に耐性、或いはそれすらも凌駕する再生能力なのだろう。

 

「....なるほど、ゾンビマン以上の再生能力。私もそのような輩に復讐したいと思っていたところだよ。」

「そうか、では死ね。」

 

キーラがそう言いながら手を挙げると、背後の兵士たちから発砲が放たれる。しかし吸血鬼は多少被弾するものの、ある程度は素手で弾丸をキャッチした。

 

「そしてお返しだ。」

 

そして手にある弾丸を無造作に投げ放つ。しかし吸血鬼の放つそれはまるでショットガンのようで、キーラ側だけでなく怪人達諸共広範囲に弾丸を飛ばす。それに巻き込まれて弩Sと蟲神は激怒する。

 

「ちょっ、吸血鬼!こっちにまで弾が来てるじゃない!」

「攻撃するのは構わんが、少しは周りの迷惑を考えろ!」

「なぜ私がお前達みたいな紛い物風情に配慮せねばならん?下らん文句を言う暇があるのならば、少しは貢献しろ。」

 

しかしその怒りも届かず、吸血鬼は文字通り空中で怪人達を見下ろしながらそう言い放った。その様子を見て、キーラは呆れた表情を浮かべる。

 

「これだから野蛮な連中は目も当てられん....ああそうだ、おいお前達。聞き忘れていたが、オロチという奴を知ってるか?」

「ッ!」

 

キーラの言葉を聞いた瞬間、怪人達の多くが表情を固めた。特に弩Sと蟲神、吸血鬼が特に強く反応していたように感じる。

 

「お前、なぜその名前を....」

「ここに来る怪人連中から時々小耳に挟んだことがあってな。確か奴の能力は敵のスキルをコピーできるのだろう?私はそれを求めているのだよ。故に、私は奴と対面しなければならんのだ。」

「ッ!馬鹿じゃないのアンタ....無理よそんなの。オロチ様を制御できるのは恐らくギョロギョロだけよ。アンタなんかにできるはずがない。そもそも、あのオロチ様を人間達が始末できるとは思えない!」

「....まったくどいつもこいつも無駄だの無理だの否定ばかりだな。」

 

その瞬間、キーラは膨大な殺意を身に纏う。もはやこの怪人達を生かす必要無しと判断し、早急に決着をつける気だろう。

 

「もはや貴様らは用済みだ。少しばかり遊んでたが、私もことを急いでいるのでな。貴様らを始末した後、どうにかして地上へ出る手段を探すとしよう。」

「ッ!オロチ様の元へ向かう気!?そうは行かないわ、アンタは冥界乗っ取り計画のために必」

 

弩Sがキーラを阻止しようとその言葉を発してた瞬間、目の前を巨大なナニカが横切った。あまりに唐突な出来事だったため、キーラはそれが何なのか正しく認識することができなかった。だが、鈍い音が耳に届き、血が跳ねてキーラの視界が真っ赤に染まる。

 

「な、んだ....一体、何が?」

「あ、あぁぁぁぁぁ!!」

「ガッ、ガァァァァ!?」

 

視界を確保するために服の裾で血を拭う。そして視界が回復し、目の前の景色を見据える。そこには血の池が広がっており、所々に怪人の死骸が転がっている。そして少し奥の方には巨大な足が見えた。そして頭上に目を凝らすと、頭にツノが生え、マントを見にまとった巨大な怪人がいた。キーラは先程の殺戮はこの怪人が行ったものだと確信する。よく見ると、角には弩Sが刺さっていた。あまりの痛みに身を揺らしながら、弱々しく声を漏らす。

 

「な、ぜですか....なぜこんな事を、オロチ様....」

(これがオロチだと!?)

 

弩Sの発言でこの怪人がオロチだと理解した。なるほど、確かに怪人達を束ねるほどの威圧感と力を確かに持っているとキーラは感じた。現に不意打ちとはいえあれほどの数の怪人を一瞬でほぼ皆殺しにしている。角に刺さった弩Sは何の抵抗も許されないまま、オロチの口へと運ばれる。

 

「いやあァァァァァァッ!!」

「おのれぇ、オロチィィィィッッ!!」

「ガァァァァァァ!!」

 

巨大な牙が弩Sの体を貫き、噛み砕かれる。そして足元で倒れていた吸血鬼と蟲神は咆哮を上げながらオロチの顔へと突貫する。一方は憎悪をむき出し、もう一人は理性を蒸発させ発狂しながらオロチへと攻撃を仕掛ける。

 

「邪魔だ。」

 

しかしオロチはただそう一言を呟き、無造作に拳を振り下ろす。しかしその拳はとても巨大で、吸血鬼と蟲神の2人を纏めて始末する。最早悲鳴をあげ、再生や反撃すら許されないまま始末された。

 

「....何という圧倒さだ。」

 

その様子を見ていたキーラは思わずそのような感想が口から漏れた。弱者を寄せ付けず一方的に叩き伏せる。強者の理想的な姿と言えるだろう。怪人達から恐れられるのも納得だ。

 

「.....ふふふ、それでこそだよ。探していた存在が水が来てくれたのは僥倖だ。おい、怪人オロチとやら、こっちを見ろ!」

「....誰だ、お前は?」

 

オロチが顔をキーラへ向けて視線を送る。オロチの顔は非常に無機質で、どこか不気味さを感じさせる。人間であれば直接対面したらトラウマものだろう。しかしキーラは臆することなく話を続ける。

 

「私はキーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェフだ!オロチ、私は貴様をずっと待ち望み続けていた。貴様の他者のスキルをコピーする力、私のために役立てるがいい!」

「....私を懐柔させたいのならば、力尽くでやってみるがいい。」

 

オロチはそういいながら体を変形させ、全身から龍が生えた姿へと変貌した。それはまさにオロチの名にふさわしい姿もいるだろう。とにかくキーラとは敵対する判断をしたの明らかだ。

 

「良いだろう、貴様のいう通り力で蹂躙してやる。

___急段-顕彰 鋼牙機甲獣化帝国!」

 

それに応じてキーラも自身の切り札を発動させる。それはオロチにも負けず劣らず巨大な肉の塊。まさに神話の怪物の如き恐ろしさを感じさせる姿だ。

 

「オォォォォォッ!!」

 

そして遂に両者が激突する。その衝撃はこの城全体を揺らすほどで、怪物同士の激突は最早自然災害といっても差し支えないだろう。その攻撃はまるで神話の神々の戦争のようで、人間が止めることはほぼ不可能と感じさせる。最早これは、どちらかが勝利を収めるまで止まることはないだろう。或いは、人を守護する勇者が介入すれば止まる可能性もあるかもしれないが.....


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