今回はいよいよクリームヒルト同士との対決です。
「始まったようね。」
激しい衝突音とともに城全体が揺れ、それを感じ取った怪人クリームヒルトはクスッと笑いながらそう呟いた。
「お前は、こちらとあちらの世界を強く結びつかせるためにキーラと怪人たちを利用したのか。」
「ええ、その通り。そしてキーラとオロチ、どちらが勝とうと構わない。最終的にどちらかが物理的に相手を喰らえばこれで別世界同士の結びが強くなる最大のきっかけとなる。それを起点にできるのよ。」
怪人クリームヒルトは悦に満ちた表情で語る。それを聞き終えたクリームヒルトは、無表情で腰の剣を抜き始める。
「少し気が早いのではないか?私を倒さねば現実世界への進出は不可能であろう。そして、逆説的にお前は私に倒されれば今までの計画も全て無意味となる。」
「確かにそうかもしれないけど、酷いのね。あなたは今から生まれようとする赤子を殺そうとしているようなものよ?」
「いいや違うな、あくまでお前は人の噂の集合体に過ぎない。噂の一つや二つ消えようとも、人の世に何の支障も起きないだろう。」
「....なるほど、仕方ないわね。」
話を終え、怪人クリームヒルトは諦めた表情を浮かべながら、同様に腰の剣を抜く。そして互いに一歩二歩と歩みを進めてゆっくりと近づいていく。そして、両者の間合いに入った瞬間、銀の閃光が交差した。
「ッ!」
「____っ」
無呼吸で放たれる無数の剣戟が空間を震撼させ、剣戟から放たれる剣風が大海嘯の様に空間を揺らし、周囲にある床や壁面を液状化させながら粉砕する。この場にもし別の誰かがいれば、原型を止めることなく死に至るだろう。死神同士の激突は周りに死を撒き散らしなが行われている。
しかし実際に戦闘を行ってる者同士、どちらにもほぼクリーンヒットは無く、今だに無傷の状態のまま戦いを続けている。同一人物同士の戦いであるが故に、攻め方をよく理解しているからだろう。
「どうした、この程度か?」
「ぐっ.....」
しかし無傷のまま行われていた戦闘が徐々に崩れ始める。先程の攻防によるものか、怪人クリームヒルトの頬にかすり傷が出来た。完成した盧生であるクリームヒルトと、人の噂で形を成している怪人クリームヒルトは、当然ながらスペックに差はある。完成された盧生であるクリームヒルトはレベルと資質のどちらも限界を突破することが可能だが、怪人クリームヒルトは眷属と同様にレベルと資質には上限が設けられている。
故にスペックの数値的に怪人クリームヒルトが不利であり、直接的なぶつかり合いであればクリームヒルトは多少被弾しても大した損傷にならない。一方で怪人クリームヒルトは一発でも被弾すれば致命傷である。一瞬でも油断や慢心をしたら、決定的な一撃を喰らって、この戦闘は終焉を迎えるだろう。
「ッ!」
「これで終わりだ。」
防御や回避に回った怪人クリームヒルトの体勢が崩れ、剣が手から離れた。その隙をついてクリームヒルトは剣を頭上にあげてそのまま振り下ろそうとする。この剣が直撃すれば、怪人クリームヒルトは再起不能となりこの異変に決着がつく。
「....貴女がね。」
しかし剣を振り下ろす刹那、目の前に銀色に輝く筒が見えた。よく見ると、怪人クリームヒルトの手には剣の代わりに拳銃が握られていたのだ。指で引き金を引き、銃の口から轟音と共に弾丸が回転しながら迫ってくる。
「ッ!」
爆音と共に放たれる弾丸が迫る。クリームヒルトは咄嗟に悟った、この弾丸に被弾したらまずいと。故に大きく上体反らしを行い、額に迫った弾丸を回避する。そしてそのままバク転をして退避した。
そして後方へ直進した弾丸は、柱や壁を破壊しながら虚空の彼方へと消えていった。
(射撃能力はともかく、威力が拳銃のそれではない。)
頬を触れると少しばかり血が手に付着した。弾丸が僅かに頬を掠っていたのだ。不意打ちとはいえ防御の夢に長けたクリームヒルトに傷を負わせている以上、殺傷能力が高いことが伺える。故にクリームヒルトはある結論へと至った。
「あら、盧生様が随分と大げさに回避するのねぇ。」
「.....」
「フフ、接近戦での戦闘であれば私が貴女に勝てる可能性は1%にも満たないでしょう。けど、こんな風に間合いの大きい戦闘なら私にも可能性はあるでしょ?」
クスクスと微笑みながら怪人クリームヒルトはそう言い放つ。彼女の手を見てみると、ひび割れて半壊している拳銃が握られている。
(なるほど、弾丸の威力に銃身が耐えきれないわけか。接近戦での純粋なぶつかり合いでは私に勝てないと判断し、遠距離で尚且つ限界を凌駕した夢の出力で勝負することにしたわけだな。)
純粋なぶつかり合いで勝てないのであれば、逆手を取ったり騙し討ち等で相手を貶めるのも一つの手段と言えるだろう。しかし怪人クリームヒルトは自身のスペックを前面に出すのではなく、自身の限界を上回るエネルギーを出すことを選んだのだ。しかし.....
「ほら次のこれは....避けられるかしらッ!?」
怪人クリームヒルトは手に握ってた拳銃を捨て、今度は両手に弓矢を形成する。矢を携え、弓の弦を限界まで引く。そして爆音と共に放たれた矢がクリームヒルトへと迫る。
「ぬぅッ!」
クリームヒルトは迫り来る矢を剣で弾き飛ばす。直撃こそ避けられたものの、あまりの矢の威力に重さすら感じた。更に、矢と剣が衝突した瞬間、まさに文字通り“死”を感じた。自分の身や武器に纏っているのかも死の概念よりも数段落ちているものの、それに近い感覚を覚えた。故に、怪人クリームヒルトの放つ全ての攻撃が、どれも一撃必殺に匹敵すると言えるだろう。
「伊達に私の噂を具現化した存在ではないと言うわけか....」
「そういうこと、これで貴女とフェアに戦えることができるわ。」
怪人クリームヒルトは矢を放ったと同時にボロボロになった弓を投げ捨て、今度は大きな機関銃を創形で作り上げる。そして筒先をクリームヒルトへと向ける。
「.....それで私を蜂の巣にするつもりか。」
「ええ、貴女を相手に手段を選ぶ余裕なんてないもの.....さようなら。」
そう言い放つと同時に、機関銃から死の弾丸が広範囲に発射される。当然ながらこれを真正面から受ければ、いくら盧生たるクリームヒルトでも致命傷となり最悪死に至るだろう。これならば攻略は不可能だろうと、怪人クリームヒルトは勝利を確信したかのように笑みを浮かべた。
「あまり舐めて欲しくないものだな。」
しかしクリームヒルトは至って冷淡な表情でそう返す。剣をしっかりと握りしめ、まるで居合斬りのように全力で横薙ぎに振り切った。放たれた剣戟の暴風によって弾丸が全て飛ばされてしまった。
あまりに荒唐無稽な光景で、怪人クリームヒルトの目が点となる。
「なッ.....」
「機関銃を撃ってる時に移動はできまい、故に隙だらけだ。」
クリームヒルトは剣を機関銃に向けて投げ放つ。半壊してしまってるものの、完全に攻撃できる手段を無くすため敢えて投げ飛ばした。剣が直撃すると同時に機関銃は爆発して完全に消滅する。
「ぐうッ!?」
「これで終わりだ。」
爆発した好きにクリームヒルトは一気に接近し、剣を取り刃を怪人クリームヒルトの喉元へと突きつける。思わず怪人クリームヒルトは後退りをし、背後の壁に手を付けてしまう。最早勝負は決まったも同然だと言えるだろう。
「お前が能力の資質を爆発的にあげることで私にも通じる夢を獲得したのは褒めてやる。しかし、それでも自壊する以上非常にリスクが高すぎる。」
「たとえリスクが高くても、そこに可能性があるのならば手を伸ばすべきだと私は思うけどね....」
「その結果がコレだ、火力の高さに自分自身が付いてきてない。その隙を突かれれば状況を覆される。」
実際、遠距離の攻撃にクリームヒルトは決して対応できなかったわけではない。一方で怪人クリームヒルトはたとえ遠距離の攻撃でも、その威力の高さや戦い方に自分自身が付いてこれていなかった。その結果クリームヒルトに冷静に対応されて今に至るのだ。
「最早お前に勝てる見込みはない、諦めろ。」
「そう、もう私は諦めるしかないのね....」
怪人クリームヒルトの体が徐々に透け始めてきた。元より人間の噂によって形付けられた存在である以上、役目を終えればただの噂の概念に還るのが道理なのだらう。
「だけど....不思議と無念さはないわ。本物の貴女と戦えただけでも満足なのかもしれないわね。元より、私自身が殺し合いをすることが大好きって設定されてるのもあるんだろうけど。」
「私も良い経験にはなった。自分自身との戦いとは、こういうものなのだと貴重な体験を得ることとなったからな。」
「ふふ、貴女らしいわね....」
すると、怪人クリームヒルトは顔を上げて目を合わせる。そして、笑みを浮かべてポツリと呟く。
「じゃあ最後に、もう一つ貴重な体験でもしておく?」
「.....なに?」
不可解なことを呟く彼女に、思わずクリームヒルトは空返事をしてしまう。そして次の瞬間、怪人クリームヒルトの頭上に膨大な密度の夢が集まっていたのだ。
「お前、何を....」
「....貴女は創法の適性が高いからね、それを逆に利用させてもらうわ。本来ならばこれは未来兵器で、私達の時代における科学力では再現不可能。けど、夢とは不可能を可能にするものよね....だからこそ、私の渾身の夢と貴女の夢を利用し、この一撃で貴女を道連れにしてあげるわ。」
怪人クリームヒルトの頭上にある壁面の一部が、徐々にカメラのレンズのような形を作り上げてくる。加えてレンズの大きさも半径は約10m程はあるだろう。彼女の言うように大正時代では見たこともないような兵器だが、すぐにクリームヒルトは何の兵器なのか理解した。
「そうか、レーザー砲か。」
「ご名答、アラヤでも通して情報を得たのかしら?まあ、どっちにせよ関係ないけどね。」
レーザー砲、それは文字通り光線を放つ兵器に他ならない。そのレンズから放たれる光線は速度はまさに兵器の中でも最速と言っても過言ではないだろう。威力も桁違いで当然ながら人間ならば直撃すれば死ぬのは確実だ。
「本来ならば射撃の下手な私には扱える代物じゃないけど、これほどの距離と最後の力を振り絞れば、一発くらいは放てるわ。」
「....そこまでして、私を殺したいのか。」
「ええ、もはや勝ち負けはどうでも良いけど、せめて貴女を殺したいと言う欲求だけは果たしたいわ。」
クリームヒルトの問い掛けに、怪人クリームヒルトは微笑みを浮かべながら返答する。そして彼女が注ぎこめる最大の夢が収束し、レンズに光が収縮されていく。
「さようなら」
巨大なレンズから放たれる規格外に太い光線が、文字通り光の速さでクリームヒルトの胸元へと迫ってくる。最速で迫る光をクリームヒルトはまるで針に糸を通すように剣先にレーザーを直撃させる。
「うっ、ぐうぅぅッ!」
瞬間、光が激しく点滅する。それは直視すれば間違いなく数秒で失明するほど大規模な発光現象が目の前で発生している。それでもクリームヒルトは剣でレーザーをはじき返そうと渾身の夢を注ぎ込む。常人から見れば無茶なんてレベルではない。剣で光線を弾き返すなぞ出鱈目にもほどがあるだろう。
「このような光線が放たれれば、おそらく城が崩壊する....」
しかし、だからといって諦めるわけにもいかないのだ。通常のレーザーであれば飛行機を破壊するレベルであるが、これほど巨大なレーザーであればどれほどの被害が出るのかクリームヒルトですら予想がつかない。最悪、城の奥にいるキーラまで巻き込んでしまうかもしれないと考えている。故に、今この場でどうにかしてこのレーザーを防がなければならない。
しかし鏡の反射や、光をも飲み込む闇を展開するなんて器用な真似はできない。故にここでは力技、クリームヒルトは死の概念で光をどうにかして消滅させることにした。
「もとより、私に他の選択肢を選ぶ余裕なんてありはしない.....」
だからこの瞬間、他のことは一切考えることはやめた。ただひたすらにイメージする。想いの力を剣先へと集中させる。光を死滅させる、それも光子単位で全てを跡形もなく消え去ることを脳裏に浮かびあげる。
その時、ふと怪人となった自分自身を思い浮かべた。彼女は言った、私を殺したいのだと。最後の切り札にこれほどの兵器を創り出したのは大したものだ。しかし、それでも負けるわけにはいかない....何故なら
「そうだ、私自身誓ったのだ.....誰一人として手にかけないと。それは、私自身も含まれている、当然のことだろう。」
そう言い放ち、極限まで夢で強化した剣を振り下ろし光線を両断した。その剣戟は光子レベルまで干渉し、光線に余波を発生させることなく消滅させることに成功した。ただし、その代償としてクリームヒルトの全身に負荷がかかり所々に血が流れているが、何とか生きている。
「ぐぅッ.....我ながら無茶をしたものだな。」
クリームヒルト自身、本来ならばこの様な行為は不可能だと理解していた。剣で光線を弾き返せるなんて無茶もいいところだと。しかしこの場における戦闘で終段を使えるわけもないので、どうにかして自分自身の力で攻略するしかなかったのだ。その結果、自分では力業で対処するしかないと判断したのだ。
「なぁ、私よ。この結果は....不満足か?」
「.....」
そう言いながらクリームヒルトは血塗れな体を動かして、もう一人の自分に問いかけた。確かに望み通りクリームヒルトは殺すことができなかったので、本人の意思的には不満足な結果であることは自然なことと言えるだろう。しかし.....
「.....」
怪人クリームヒルトの返答は、言葉を出すことなく純粋な微笑みを浮かべながら消滅していった。当然ながら悪意や皮肉、そして嘲笑などではなく、自然な笑みだった。そう、それはまるで望んでいたものを見届けることができたかのように....
「そうか.....わたし自身の誓いが確かなものだと証明するために戦っていたのか。」
彼女の笑みを見て、クリームヒルトはそう感じてしまった。確かに人間は口約束をするものだが、それが確かなものかは口にした時点では決まるものではない。それを確かめるにはやはり結果が必要になるだろう。
故にその思いの絶対値を測るために、クリームヒルトは自分自身との戦いを行われたのかもしれないと、考えたのだ。
「....この戦いは、忘れずに絶対に覚えておこう。」
クリームヒルトはもう一人の自分、怪人クリームヒルトの姿を思い浮かべながら、そう固く誓ったのであった。