怪人達の冥界事情   作:ヘル・レーベンシュタイン

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お久しぶりです。
今回はいつもと変わって戦闘シーンはほぼありません。
どうぞお楽しみください。


第6撃目 偽りの王

ここはクリームヒルトの玉座、の前にある巨大な門の近くである。

その周りには怪人や犯罪者などが多数存在し、この門を通るか否かで常日頃から当人同士で喧嘩や討論を繰り返している。

大抵は自分が優先だの、通ろうとした者を侮辱したことをきっかけに喧嘩が勃発したりしている光景が日常茶飯事だ。

しかし、仮に通った者がいたとしても、確実にこの門の前に戻ってくる。そして、何も言わずこの門のエリアから何処かへ立ち去る者ばかりだ。

そんな光景がほぼ日常的に繰り広げられる門のエリアだが、今回は珍しくほとんど誰もいなかった。いるのはギャング風の風貌をした怪人が2人だけだった。

 

「兄貴、珍しく誰も見かけませんねぇ。よーし、せっかくだから俺もチャレンジを....」

「バーカやめとけ。いままでどんな怪人が門をくぐっても出されたのを見ただろうが。それもかなり強いレベルの怪人だ。そんな奴が失敗したんだ、俺たちみたいに鉛玉で戦闘してるレベルの怪人じゃ、何年かけても無理だろうよ。」

 

子分のような怪人が門を潜ろうとすると、兄貴と呼ばれた怪人がそれを制止させた。いままでトップクラスに強い怪人が悉く失敗したた光景を見たのだ。だから実感した、この門を潜って無事現世へ戻れるのは、それこそ神のような存在しかあり得ないのだと。

 

「確か現世のヒーロー協会は怪人の強さをレベルで表してたっけなぁ....それも前の宇宙人がおそらく鬼クラスの怪人を複数相手に一方的にボコってたのを見ると、竜....いや、それ以上かもな。」

「竜以上!?確かそれってほぼトップの強さじゃ....そんな奴でも無理なら、誰も現世に戻れないってことじゃないですかい!」

「そうだ、だからやめとけっていったんだ。ま、あくまで現状はって話だがな.....ん?」

「た、大変だーっ!」

 

兄貴怪人が煙草に火をつけようとした時、誰かが大声をあげてこっちへ走って来ている。来たのは同じ怪人だった、しかし全身から冷汗を出している。相当慌てている様子だ。

 

「なんだテメェ、一体どうしたってんだ?」

「大変だ....キングが」

「....キング!あの人類最強のヒーローか!」

「そうだキングが....キングがこの門を潜って現世へ蘇ろうとしているんだ!」

「な、なんだってーッ!?」

 

 

 

 

 

玉座から少し離れた廊下の方へ移動すると、そこには無数の怪人や犯罪者が集まっていた。そして視線の先には、一人で門へと向かって歩いてきている男の方へと集まっている。

 

(ドッドッドッドッドッ.....)

 

空間を圧迫するほどの鼓動であるキングエンジン、顔に残っている傷跡、そして常人とは一線を超えた顔つきの男。。そう、彼こそ人類最強の肩書きを持つS級ヒーロー7位『キング』である。

 

(間違いねぇ、キングだ!しかもキングエンジン全開だし完全にやる気だ。相変わらず戦闘への対応と行動力が早い....)

「し、しかしなぜ人類最強のキングが死んで冥界なんかに....」

「馬鹿、わざとかもしれねぇぞ....もしかしたら、冥界の王を地上に持ち帰るとか....」

 

などと勝手な思い込みをする怪人たち。実際、キングを通す雰囲気はなく、絶対に門をくぐらせないという意思が明らかだった。ちなみに先ほどの兄貴と子分怪人もこの流れに便乗していた。

 

(うわぁ....めっちゃ怪人が集まってるよぉ。めっちゃ怖いんですけど....てかここどこ?なんで俺ここにいるの?もう家に帰りたい....)

 

一方でキングは内心いつも通り怯えていた。しかしその怯えるの心の分だけキングエンジンの音が強くなり、より怪人達の警戒意識を煽ってしまう。

 

「おいおい、キングエンジンがまた強くなったぞ!」

「クソ、引く気もなさそうだしここで戦闘するしかねぇか....」

「なんとしてもキングが生き返るのを避けなければ....」

(やべぇ、来る。俺の全力謝罪がどこまで通じるのか.....)

 

怪人達が今かと戦闘し始めようとする。それを察してキングもこの場をしのぐために謝罪をしようとした。その時だった。

 

「ちょっと待った!」

「っ!?」

(え、何?)

 

急に怪人達の中から、如何にも営業マンのようなメガネをつけた怪人が現れた。その怪人が怪人とキングの間に入ってくる。

 

「キング殿、貴方は冥界の王に話があるのですよね?」

「う、うん....そうだけど?」

「ホホホホ....よろしい。さぁさ、皆さん道を開けてください。キング殿を行かせてあげてください。」

「なぁ!?」

「あ、いいんだ....ありがとう。」

 

怪人達は驚愕の顔をする。しかしキングは営業マン風の怪人の言葉に便乗してそのまま進もうとする。不満顔の怪人もいたが、キングから放たれる威圧感に飲まれて道を開けて、ついにはキングを最奥の玉座まで行かせてしまった。

 

「....テメェコラどういうつもりだ!」

「キングが生き返ってしまうじゃねぇか!ぶっ殺してやる!」

「ホホホ....皆さんが不満なのは承知ですが、これもキングと冥界の王を打倒するための策ですよ。」

「....何?」

 

怪人達の不満が爆発するが、それでも営業マン風の怪人は冷静に返答する。曰く、これも作戦のうちなのだと。

 

「私もここに来て長いのですが、冥界の王はどんな人物であろうとも戦闘に勝利しなければ現世へ生き返ることは不可能。実際のところ現状、全員戻されてしまってますからねぇ。であれば、キングであろうとも例外なく戦闘は避けられないでしょう。」

「.....あ、もしかして!」

「ホホホホ、察しの通り.....ならばキングと冥界の王同士で戦闘して相打ちにさせればいいのですよ。どちらの力も計り知れないものですが、力の持つもの同士ぶつかれば必ず片方は死にますよ。あとは消耗したもう一人を狙って倒せばいいだけの事。即ち漁夫の利作戦です!」

「な、なるほど考えたもんだなぁ!」

 

と、営業マン風の怪人の言葉を聞いて怪人達は歓喜の声を上げた。ただし、兄貴怪人だけは険しい顔をした。暫くして、彼はこの場から立ち去る。その姿を子分怪人が追いかける。

 

「あ、兄貴どこ行くんですかい!俺たちも漁夫の利作戦に乗りましょうよぉ!」

「馬鹿、あんな話に乗るんじゃねぇ。あいつらは重要なところを見落としてんだよ....」

「重要なところ?」

「.....キングの目的は実際のところやからねぇが、もし冥界の王と交渉して、怪人が現世に蘇ることを阻止することに加担したら、不利になるのは俺たち怪人側じゃねぇかよ。」

「あっ!?」

「....ま、怪人ってのは自分の欲に素直な連中が多いから、こういうリスクを考えられねぇかもしれねぇがな。」

「あ、兄貴は今後はどうするつもりなんですかい?」

「そうだな....もう蘇ることは難しそうだしよ、少しは楽しめそうなところ、探してみるかねぇ....」

 

そう言いながらこの2人の怪人は冥界から立ち去り、どこへ行ったのかは本人のみぞ知る.....

 

 

 

 

 

 

 

 

一方でキングは.....

 

「ほう、お前が今回の挑戦者か。見た所人間のようだな。」

(女の人だ.....冥界の王って聞いたから、閻魔大王のように髭もじゃもじゃな男の人かと思ってた.....しかもただの人間って速攻でバレてるし。)

 

キングは冥界の門を開けて中に入った。そして玉座にいるクリームヒルトと対峙している。キングは緊張感が増して鼓動の音が大きくなる。

 

(ドッドッドッドッドドッドッドッドッ!!)

「....随分心臓の音が大きいな。生まれつきか、それ?これではまともに会話ができまい。」

「え?あ、はい....どうしてもこれ、なかなか治らなくて。」

 

キングエンジンの鼓動を気にすることなく、クリームヒルトはキングに接近して胸元を凝視する。というよりも、心がないから怪人達のように勝手な思い込みをしていないだけである。これにはキングも予想外で、つい素直に受け答えをしてしまう。

 

「なるほど、つまり極端な緊張状態でそのように鼓動が大きくなってるわけか。ではまずは座って落ち着いてくれ。話はそれからだ。」

「うわっ、急に椅子と机が!?あ、でも....あの世だからこんな事あってもおかしくないか.....」

 

キングは急な出来事に戸惑いつつも、しぶしぶと椅子に座って呼吸を落ち着かせた。徐々にキングエンジンも鼓動音が小さくなっていく。

 

「少しは落ち着いたようだな。」

「は、はい....ありがとうございます。」

(な、なんだ....思ったよりも良い人だな。)

 

キングは内心安心した。クリームヒルトは反対側の椅子へ座ってキングと向き合いそして問いかけた。

 

「それで、どのような用があってここに来たのだ?一般の人間は滅多にここに来ないのだがな....全くというわけでもないが。」

「それが....俺も気がついたらここにいて、何の説明もないし....取り敢えずここの支配人みたいな人に聞いて説明してもらおうと思って....」

「なるほど....まず結論からしてここは冥界、すなわち死者の魂が集まる場所だ。」

「え、じゃあ俺死んでるの!?けど、何が原因で死んだのか全く....」

「ほう、では少し....」

「ううっ.....」

 

すると、クリームヒルトはキングを凝視する。あまりにじっと見られてキングは少し緊張して冷や汗を出してしまう。しかし数秒たったらクリームヒルトは顔を上げて答えた。

 

「なるほど、理解した。お前はまだ死んでいない。偶然強い衝撃を受けて魂がここまで飛ばされただけだ。」

「え、じゃあ俺死んでないってこと?けど強い衝撃って.....あっ」

 

ふとキングは思い出した。ここに来る前に数名で鍋を囲んで食事会をしていたことに。しかし周りの人物は自分以外ほぼ全員が上位クラスのヒーローであるため、肉の取り合いで強い衝撃波が放たれて吹き飛ばされたのだ。

 

「あー.....そうか、あれが原因か。」

「心当たりがあったようだな。故に、あと数分ほどしたら元の世界へ引き戻されるだろう。それまではここにいるといい。」

「ありがとうございます....あ、でもサイタマ氏心配してるだろうなぁ....早く目覚めないと悪いや。」

「.....ほう、サイタマ....お前もその名前を知ってるのか?」

 

ふと、キングが呟いたサイタマという人物名に、クリームヒルトは反応する。まただ、またその名前が出てきた。

 

「あ、うん。最近ヒーローとして知り合って....」

「どんな人物なのか教えて欲しい。私も気になっていてな。」

(....冥界の王様がサイタマ氏の事を探してる?何が目的なんだろう、とは言っても悪いことをする様子はなさそうだし....念のために、個人情報をバラさない程度には話しとくか。)

 

キングはそう考えながら、少し緊張しつつもサイタマの事を話し始めた。

 

「あー....どんな人物かぁ。パッと見た感じだとちょっと無気力な人って感じだけど.....とても強いよ、うん。俺が今まで出会った人の中でも誰よりも。」

「容姿は普通だが強いと....ふむ。」

「あとちょっと不器用って感じだなぁ。格ゲーやるときもワンパターンで、あまり難しいテクニックとかできないかも。」

「不器用....細かい作業はできず、パワーに特化している感じか。」

「うんうん、そんな感じかなぁ....俺の知ってる限りだと、」

 

と、キングは自分が知ってるサイタマの事をクリームヒルトへと話した。彼女中で、徐々にサイタマの人物像が固まりつつある。

 

「ところでなんでサイタマ氏のことを?もしかして、サイタマ氏はすでに死人とか....」

「それは分からん、しかしここに来ない以上おそらく死人ではあるまい。ただ、過去に非常に強力な怪人がここに来てな、その怪人からサイタマという名前が出てきたのだよ。」

「ああ、そうか....怪人側でも一部からは覚えられてるんだ。」

「故に少しずつ情報集めをしようと思ってな、そしたらまさか知人とここで出会えるとは思わなかったよ。」

「そ、それはどうも....だけど、サイタマ氏が死ぬのはなかなかイメージできないなぁ....ははは」

 

と、キングが苦笑をしていると、次第に体が透けてきた。キングの魂が元々いた肉体へと戻ろうとしているのだ。

 

「あ、これって時間が....あ、そうだ。ここでの記憶ってどうなるんだろう」

「全て忘れる、夢幻の泡沫のようにな。夢で見た出来事は滅多に記憶に残ることはあるまい?そういうことだ。」

「あ、じゃあせめて....貴女の名前を教えて欲しい。俺に何ができるかわからないけど、すごく親切にしてもらったし、もう一度出会った時にお礼をしたい。」

「.....別に礼を言われることをした記憶はないが、まあいいだろう。」

 

クリームヒルトは少し微笑み、帽子を脱いで今にも消えそうなキングに名乗りを上げた。

 

「クリームヒルト・レーベンシュタインだ、お礼とやらは現世に来た時に案内してもらえれば助かる。」

「ありがとう.....俺は、ヒーローネームで悪いけど、キングて呼ばれている。それにヒーローっていっても本当はただのオタクだけど....うん、案内くらいなら大丈夫だよ。」

 

そう僅かに微笑みながら、キングは玉座から消えていった。キングを見送って、クリームヒルトもつられて少し微笑んだ。まるで楽しみがまた一つ増えたかのように。

 

「キングか....臆病者らしからぬ肩書きだが、それもまた興味深い....む?」

「さて、そろそろ決着がついた頃でしょう.,...て、あれぇ!?」

「おい、あの女が冥界の王か?全然傷を負ってねぇじゃねぇか!?」

 

ふと、扉の方を見ると無数の怪人たちが現れてきた。しかしクリームヒルトが無傷の状態でいることに驚いている。

 

「なんだお前達、もしかして私がさっき来た男と戦って傷を負うことに期待していたのか?生憎だが、特に戦闘することなくあの男は帰っていったぞ。」

「ば、バカな.....キングが戦なかっただと!?」

「クソ、こうなったらこの数で押し切るしかねぇッ!」

「.....」

 

結果、怪人達は特にクリームヒルトに傷を負わせることなく全員倒されて元の場所へと戻されてしまった。戻された怪人達は2度と門を潜ることはできず、現世へ蘇ることができず何処かへ彷徨い続ける事となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方キングは....

 

「おい、いつまで寝てんだよ。もう朝だぞ、おい!」

「んむっ.....あれ?なんで俺はここにいるんだっけ?」

「肉の奪い合いで気絶してたんだよ....死んだかと思った。」

(あ、そうか....それで気を失ってたんだった。てことはずっとサイタマ氏の部屋で寝てたんだ....悪いことをしたなぁ。というか、なんかすごい体験をしたような気がするけど....なんだっけ?思い出せない....)

 

サイタマの呼び声でキングは目を覚ました。冥界での記憶は一切残っておらず、思い出そうにもまるで霧を掴む様な感触で、全く確信を持てない状態だ。

 

「他のみんなは?」

「飯食った後すぐに追い出した、ジェノスは修理。」

「そ....,そう.....俺だけ泊まっちゃってすまなかったね、サイタマ氏。」

「まぁいいよ、お前も帰るならついでにゴミ捨て場に持っていってくれ。ここから遠いんだよ、一般居住区の所だから。今日ペットボトルの日だからヨロシク。」

「うん、わかった。持っていくね。」

 

そう言ってキングはサイタマから頼まれたゴミ袋を両手に持って、サイタマの自宅から出ていった。

 

「ふう.....すごくよく寝た。どんな夢か覚えてないけど....」

(けど、そこまで悪い夢じゃなかったような....まぁいいか。)

 

こうしてキングの一日が、再び始まったのだった。




今回のお話、いかがでしたでしょうか。
少し時間を飛ばして、キングと邂逅した話をしてみました。
次回どのような話をするか未定ですが、どうにか更新できるように励もうと思います。

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