今回もまた、クリームヒルトの玉座の元に怪人が訪れてきているが....明らかに前よりも数が多くなっていた。明らかに異常だ、何か原因があると確信した。少し手こずったが、ムカデの怪人を倒した。
「今回、この数は異常だな....流石に少し腹が減ってきた。」
「ふ、ふふふ....まさかあの世にもヒーロー的な存在がいるとはなぁ。」
ふと、ボロボロになったムカデの怪人から声が聞こえた。クリームヒルトは、まだ意識があるのなら少し情報を得ようと考えた。
「おい、少し聞きたいことがあるが.....」
「.....俺から何か聞こうとしてるな?だが無駄だ、お前倒されるさ....先輩にな。」
「っ!」
瞬間、地面から巨大なムカデの怪人、ムカデ先輩が現れた。それはボロボロのムカデの怪人よりも一回り大きく、まるで巨大な機関車のようだった。しかも、それだけではない。
「後輩ィ....仇は取ってやるよォ....」
「さぁさぁ、私たち相手に勝てるかなぁ?」
「悪臭を感じると思ったら....」
ムカデの怪人の隣には、ラフレシアの頭を持った植物の怪人、ラフレシドンもいた。しかし、クリームヒルトはその臭いに臆することなく、怪人達へと剣を向けた。
「ほぉ、私の臭いに耐えるのだねぇ。」
「だが、それも長く持たねぇだろ!」
ムカデ先輩が猛スピードでクリームヒルトに突進した。それに対してクリームヒルトはムカデ先輩の触覚を掴んで突進を止める。
「なにぃ!?」
「....お前達に聞きたい、この急な怪人の増加には何か理由があるのか?」
「ぐっ、お前なんかに言う理由はない!」
「こっちのヒーローも、レベル鬼相手に粘るねぇ。」
「レベル鬼?なんの指標だそれは....」
クリームヒルトの問いかけに2体の怪人は答えない。同時に放たれる蔓と触覚の攻撃を、次々といなしていく。が、その時だった。
「.....っ」
「ようやく効いてきたかぁ。」
クリームヒルトの身体が少しずつ鉛を背負っているかのような怠さが襲いかかってきた。ラフレシドンから放たれる臭いは悪臭だけでなく、催眠香も放たれてたのだ。
「ふふふ、金属バッドには気合なんてよくわからない理屈で耐えられたが....」
「この女はそんなもの持ち合わせてる様子はないよなぁ....」
ムカデ先輩とラフレシドンは不敵な笑みを浮かべながらそう言った。そして無防備な状態のクリームヒルトに向けて攻撃を放つ。
「
「私の蔓で縛りあげてくれよぅ!」
2体の同時攻撃が放たれ、クリームヒルトの肉体を貫こうとする。だが....
「....っ!」
「なっ....」
「なにぃ!?」
ただ剣を1、2回振るっただけで蔓と触覚を斬り飛ばした。そう、彼女は一度も眠ってなどいなかった、ただ意識を集中させて催眠効果に抗っていただけなのだ。
「なぜだ、奴は熟睡してるはずなのに....」
「生憎と、催眠系の能力には心得があってね、幾らか耐性があるのだよ。要は、免疫力があるってところか。」
彼女の脳裏には、かつて敵対した白い容姿に陶酔した表情をしている男を浮かび上がる。あの男の奥義を体験していれば、このくらいの催眠香は耐えられると自覚していた。
それに驚愕しているムカデ先輩とラフレシドンの隙をつき、一瞬にし剣を振るう。強固な表皮と植物の肉体を回復させることなく一刀両断した。
「む、しまった。ついうっかり倒してしまったな....これでは原因を探ることができない。」
と、2体の怪人を倒した後に本来の目的を思い出した。さてどうしたものか、と考えていた時にふと、カサッという音が背後から聞こえた。
「ほう、冥界の王がまさか女性とはねぇ....」
背後を振り返ると、ゴキブリの姿をした怪人『覚醒ゴキブリ』が立っていた。さらに格好だけでなく、僅かでも体を動かすだけでゴキブリ固有の不快な音も発生する。
「.....」
「大抵の人間、特に女性であれば私の姿を見れば悲鳴を上げて逃亡するのだがねぇ....その様子すらないな君は。」
「お前も、現世へ戻るためにここに来たのか?」
「ああ、その通り。だが復讐したい相手がいるとかそんな重苦しい理由ではない。単に、自由に生きたいだけさ。」
「自由に?」
「そう、自由にさ。気ままに人間驚かし、ヒーローを倒し、そして怪人として欲望を発散する。自由とはそういうものだと思うね。しかし適度に自由を謳歌するために怪人協会に配属したのだが、ヒーローから逃げただけでオロチに食い殺されたのさ。」
「....怪人協会......オロチだと?」
覚醒ゴキブリが放ったセリフから、気になる言葉がいくつか出てきた。怪人協会、その言葉からして怪人が住み着く、怪人の魔窟だということが容易にイメージできる。
「その怪人協会とやらが、最近怪人の数が増えている原因なのか?」
「おっと、気になるようだね。だが教えないよ、どうせ君は私にやられるのだからねぇ。」
「そうもいかんよ、未来の人の世がどうなってるのか気になるのでな。」
「ふっ、人の世なんぞ死んだ後に傍観でもすれば良いだろうに....まあいい、君には死んでもらおう!」
そう言って覚醒ゴキブリは一瞬にして間合いを詰め、6本の腕から無数のラッシュを放つ。クリームヒルトは両腕を固めてラッシュを防御する。
「そらそら、冥界の王様はこの程度か!?」
「っ!」
「遅い!剣であろうとも私に攻撃を当てることは不可能だッ!」
クリームヒルトは剣を抜いて下方から振り上げるも、覚醒ゴキブリはそれ以上の速度で回避。更にカウンターの要領で拳の一撃を頬へと叩き込まれる。
「そらそら、そんなものか!?」
「っ!」
何度も殴られるも、構わずクリームヒルトは無心に剣を振るい続ける。衝撃波で辺りが破壊されるものの、覚醒ゴキブリには1発も当たらない。ゴキブリ独特の移動方法で巧みに攻撃を回避している。覚醒ゴキブリは余裕な笑みを浮かべている。
「大きな攻撃で高い火力だが、所詮それまでだな。当たらなければ意味はあるまい。」
「....なるほど、素早いな。愚直に攻撃していては意味がないのは事実だな。」
「ならばどうする?言っておくが、たとえ光速で戦闘をしようが私には当たらない。当たる前に殺意を読み取って、体が勝手に動いて既に回避してるからだ。」
「そのようだな....」
覚醒ゴキブリの進言を、クリームヒルトは事実として肯定した。もし覚醒ゴキブリの体力が無限であれば、このまま何度攻撃しても1発も当たらないだろう。このままではクリームヒルトが不利と言えるだろう。しかし一方で、覚醒ゴキブリ本人は有利だとは考えてなかった。
(確かにこの女の攻撃は当たらないだろうが....逆に言えば、当たれば終わりだ。見ていてわかる、あの攻撃は私が耐えられるものではない....加えて、何なんだあの女の頑丈さは?)
「.....」
(まるでダイヤモンドのように固く、ゴムのように衝撃に強く、柔軟だ。鬼サイボーグの装甲すら砕いた私のパンチを食らっておきながらまるで無傷だ。ならば仕方あるまい....)
瞬間、覚醒ゴキブリは玉座全体を猛スピードで動き回り、まるで影分身のような残像を生み出す。一方で、クリームヒルトはただ覚醒ゴキブリの動きを見てるだけだった。
「知ってるかね、実は通常のゴキブリは噛む力が人間どもの5倍近くの力があるのだよ。ムカデのような毒はないが、単純に噛まれては実に痛い。そして、私の噛む力は私自身知らないほど、強力だ。」
「....なるほど、確かに噛みちぎられては私の体に激痛が走るかもな。」
「ふふ、その余裕の表情も今のうちだ。激痛のあまりに身を悶えるがいいッ!」
鋭利な犬歯を光らせ、覚醒ゴキブリは背後から口を開いてクリームヒルトへと迫る。そして背後から、頸動脈を噛み砕こうとした時だった。
(ん?今何か腹から感触が....)
「確かにお前の回避能力は大したものだが、こうも攻撃途中で密着していては避けられまい?」
(なん、だと!?私の身体が、消えッ.....)
ふと覚醒ゴキブリは自分の体を見てみると、腹部にクリームヒルトの指先が触れられていることに気付いた。そこから何か不思議なエネルギーが放たれ、肉体が消滅し始めてるのだ。
「なんだこれは、一体.....貴様、何をしたァッ?」
「なに、私の能力の一つだよ。もっとも、基礎的なものだが汎用性があってな。生命力の高いお前には効果的だと思ったのだよ。」
「やめ、やめろ!そんな、そんな馬鹿なァァァァァ!!」
「
そうクリームヒルトが一言放つと、覚醒ゴキブリは抵抗する暇もなく一瞬にして消滅した。肉体のかけら一つ、この場には残っていない。
「そうか、人の世界でついに怪人協会という組織が出来上がったのだな.....今後は忙しくなりそうだ。ある程度、仲間を集める必要があるかもしれぬな。」
覚醒ゴキブリとの戦闘で、ようやく怪人達の出所がつかめた。しかし、それでもやはり人数が足りなかった。1人では限界がある、そのため何人か協力者が必要だとクリームヒルトは判断した。
「....ひとまず、状況をもう少し見て判断するか。」