怪人達の冥界事情   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回は怪人だけでなく、戦神館側のキャラが新しく登場します。


第8撃目 帝国万歳

「お、おい!冥界の門が開いたぞ!」

「.....」

 

突如、クリームヒルトは大きく重たい玉座の門を開けた。彼女の目の前には凶悪な怪人や悪人が数多く存在している。どれだけの人数が死からの蘇生を望んでいたのか一目瞭然だろう。

 

「ヒャハハハッ!おいおい冥界の王って女だったのかよ、それに別嬪な奴だぜ!」

「しかも見た感じ人間サイズたぁ、この数で襲われちゃあキツイんじゃないかねェッ!」

「大人しく門の中で引きこもってればいいのよぉ〜ヒャハハハハッ!」

「.....」

 

このように怪人たちがクリームヒルトの行動を笑い飛ばしてた。実際、軽く見渡しても数百は軽く超えるであろうこの数を前に、単身で挑むのは普通ならば無謀と言えるだろう。しかし....

 

「とりあえず、通らせてもらうぞ。」

「っ!」

 

そう言って視線を送って一歩、彼らとの距離を縮めた瞬間、悪人達に緊張が走り笑い声が止まった。更に二歩三歩とどんどん進んでいくと、まるでモーセの海割りのように道を開けていく。自分たちの無意識な行動に、動揺してしまう。正に異様な光景だろう。見た目からして異形で屈曲な怪人や悪人達の間を悠然として歩いているのは、軍靴を鳴らし、外衣を揺らし、漆黒の軍服を身に纏った金髪の若い女性だ。だがこれは、まさに冥界の王にふさわしき光景とも言えるかもしれない。

 

「お、おい....誰か行けよ。」

「いや無理だろ。あの女に視線と声を感じた瞬間、寒気を感じたぜ....」

「くそ、いかにも無防備だというのにッ....」

「ああ....思い出した。この感覚、死ぬ瞬間に感じた感触にめっちゃ似てるんだ。」

 

結局、誰一人としてクリームヒルトに襲いかかることはできなかった。無理もない、彼女は正真正銘の死神、死の普遍性に触れた史上一人の人間だ。生きながらその境地に達した超越者である故に、並のものであれば下手に彼女と会話するだけでも命を落とす危険性があるのだ。よって玉座の門をくぐり彼女との戦闘に挑戦する者など、よほど覚悟しなければ挑むこと自体が困難なのだ。

 

「なるほどなぁ....俺たちが玉座に行けなかったのは、この感覚が苦手だったからか。」

「例えるなら急所、それも具体的には金的をクリティカルに食らうようなもんだからな....そりゃ嫌に決まってる。」

「やめろよその例え.....なんか鳥肌立つんだよ。」

「もうこの時点でってことだよな....たくっ、蘇るのも簡単じゃねぇな。」

「けど、やっぱ蘇りたいよなぁ....」

 

 

 

 

 

 

 

そういいながら、怪人達はクリームヒルトをそのまま見送ってしまい、結局最終的には、誰一人として彼女を襲いかかるものはいなかった。

 

「しかし本当に怪人の数が異常なほど増えてるな....現世で一体何が起こってるのか....ん?」

 

そう言ってしばらく歩いていると、廊下の先に怪人と誰かが言い争っている光景が見えた。クリームヒルトは自身の体を透過させてその光景を観察する。見てみると、猿のような怪人と、銀髪の少女が言い争っていた。

 

「おいおいおい、どういうことだそりゃあよぉ。ここが我らの領地だぁ?死んでまでおかしなこと言ってんじゃねぇぞ、お嬢ちゃんよぉ。大人の言うことには素直に従うもんだぜ?」

「ふっ、いかにも野蛮な猿が言いそうな台詞だ。ならばその言葉、貴様に返してやろう。文明人の言葉には、黙って従っていた方が賢いぞ、劣等めが。」

「んだとぉ、このバクザン様に指図してんじゃねぇ、殺されてェのかガキンチョがッ!」

「知らん、聞いたこともない劣等の名など。この広場は、キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジエフの元、我ら鋼牙の領域となったのだ。劣等な猿がうろつく資格などない!」

(あの少女、見たことあると思ったら過去に邯鄲に触れた人物だったか....)

 

クリームヒルトはキーラの姿を見て思い出した。銀髪の少女の名は本人が名乗ったとおり「キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジエフ」だ。クリームヒルトはキーラという少女について、友人である柊四四八達との対話を通して、彼らと多少関わりのある存在だと知っていた。しかし、いつのまにか自分の創造世界に居た事には気づかなかった。それも、勝手に世界の一部を占領されていたのだ。

 

「チッ、このバクザン様がせっかく穏便に済ませてあげようと思ったのによぉ...もうダメだ。嬲り殺しにしてやるッ!」

「ほう、その言葉は宣戦布告と受け取っても良さそうだな。ならば容赦せん.....行くぞ我が子ら、開戦だァッ!帝国万歳(ウラー・インペーリヤ)!」

 

瞬間、キーラの眼球が金色に輝くと同時に、背後の物陰や床から無数の兵士が現れた。全員が銃を構え、バクザンへと向けて弾丸を放つ。しかし....

 

「ははははは!この程度の鉛玉でこの俺の筋肉が貫けると思ってるのかぁッ!?兵士諸共、皆殺しにしてくれるぜェッ!」

「ふっ、確かに肉体の頑丈さには感心するが、頭はあまり賢くなさそうだな。」

 

確かにキーラの従えてる兵士たちの攻撃は、はっきり言って現実の兵器レベルとほぼ同じと言えるだろう。それではバクザンの肉体には微々たるダメージしか与えていない。このままバクザンは悠々とキーラの領域へと踏み込み、進撃を始めようとした。しかしキーラは臆する事なく叫ぶ。

 

「轢き潰せ、ロムルス・レムス!野蛮な猿を我らの領土に足跡を付けさせるな!」

「なにぃッ!?」

 

突如バクザンの正面から、猛スピードで戦車を引きずって疾走する、巨大な双頭の黒狼が現れた。それはまさに地獄の番犬の如く、猛スピードでバクザンへと突進する。無防備の状態で受けてしまったバクザンは、そのまま押されてしまう。

 

「ぐっ、舐めるなよこのクソガキガァァァッ!!」

「ほう....なるほど、力は確かにあるようだな。」

 

しかし腐ってもバクザンは元武術家だ。そのままロムルスとレムスの突進に引きずられることなく4本の腕を使って頭を掴み、突進を制止させる。

 

「へっ、このバクザン様を舐めるんじゃねぇぞ。」

「なるほど、確かに多少は実力があることは認めよう。故に、私も相手してやる。」

 

キーラがそう呟くと、一瞬でバクザンの懐へと接近し、小柄な身体に似合わない大ぶりな回し蹴りを顔面に向かって放つ。バクザンは咄嗟にガードするが、蹴りの威力を完全に受け流すことができず、大きな炸裂音が鳴り響くと同時に、城の壁際まで動かされてしまう。明らかな劣勢、このままではバクザンはキーラに嬲られ続けるだろう。

 

「......」

「どうした、その程度なのか?大柄な体をしてる割には、口だけではないか。」

「なるほどな、よくわかった。」

「.....なんだと?」

 

すると、バクザンは急に冷静な口調でそう呟き始めた。明らかな変調、キーラは警戒心をより一層強める。しかしバクザンはその様子を見てニイッと口角を上げて不気味に笑い始めた。

 

「怪人らしく暴れるのは辞めだ、ツマラねぇ.....これから俺は俺らしく『弱いものイジメ』を始める。」

「っ!?」

 

それはまさに一瞬の出来事だった。バクザンはまるで縮地のような神速でキーラの横を通り過ぎ、背後の鋼牙の兵士達の方へと接近する。急な出来事に、キーラ対応に遅れてしまった。

 

「はーっはっはっはっはっはっ!闇地獄殺人術・鬼泣き下段蹴り!!!」

 

それは俯瞰的に見れば単なる下段蹴りだが、バクザンのそれはまさに災害のような破壊を引き起こした。キーラ達があらかじめ作っていた基地の壁を壊し、連鎖的に鋼牙の兵士達を蹴り飛ばした。その数、最低でも100人は下らない。

 

「なっ、貴様私の家族に何をしてるかッ!」

「家族だぁ?下らねぇなー、お嬢ちゃんよォ。そんなに大切なら宝箱にでもしまっておけよ。俺は自分よりも弱いやつをいたぶるのが大好きでなぁ、そのために今まで強さを求めていたんだよ。だから、目の前に弱っちぃ奴がいるとよ、ついこうやって潰したくなるんだよぉッ!」

 

バクザンは邪悪ながらもどこか純粋さの感じる笑みを浮かべながら、今度は城の壁面を縦に割りながら手刀を放った。再び兵士が巻き込まれ、徐々に辺り一面がに血塗れになる。拳が顔面を泥団子のように潰され、蹴りが上半身と下半身を分断する。黒狼もバクザンに噛み付いたり、光の砲弾を放った。しかそれでも、バクザンの蛮行は止まらなかった。そんな虐殺の光景が眼前で繰り広げられて、鋼牙の女王が黙っているはずもない。

 

「熊殺し中段蹴り!修羅正拳突き!ははは、はははははははは!!」

「おのれ下衆めが....そこまで私の家族を虐殺するのが好きか?外道に落ちた屑風情が、私の家族をこれ以上陵辱することは許さんぞォォォォォッ!!」

 

そして遂に、鋼牙の首領が本格的に動き始めた。バクザンへと接近し、獣のようなワイルドな攻撃を繰り出す。バクザンもそれに応え、激しい接近戦が開始した。威力も速度も両者ともにやや互角、怪人と少女の近接戦闘は、まるで神話のような異形さを感じさせる。

 

「グォラァァァツ!」

「ガアァァァァッ!」

 

両者の拳や蹴りが体に突き刺さり、徐々に両者の損傷を増やしていく。しかし、ここで異変が起きる。バクザンの傷が増えていく一方で、キーラはほぼ無傷だ。よく見ると、彼女が受けた損傷が自然回復しているのだ。その光景を見て、バクザンは思わず目を見開いて驚愕する。

 

「な、テメェ卑怯だぞクソガキ!」

「卑怯だと?数分前の貴様に聞かせてやりたいものだなぁ.....やはり劣等、所詮はその程度か。」

「黙れ、だったら回復が追いつかないほど痛めつけてやる!地獄送り手刀!」

 

バクザンはそう叫んで、手刀に力を込めて思い切って振り下ろす。キーラとバクザンを中心に地割れが発生し、激しい血の雨が舞い踊る。しかし.....

 

「ああ、やはり猿ではこの程度が限界であったな。もう良い、貴様は存在自体が見苦しい。我が愛しの家族が受けた痛みを味わえ!」

「な、なん....グァァァァァァァッ!」

 

やはりキーラの真っ白な肌に傷ひとつ残ることなく、綺麗に完治していた。そしてキーラの瞳が金色に輝くと、突然バクザンは見えない巨大な何かに押しつぶされた。抵抗しようとするも、圧倒的な質量を前に武力が役に立つはずもなく潰されていく。何がなんだか理解できないまま、バクザンは徐々に力を失っていく。

 

「なんなんだ、これは....わからねぇ、俺の体に一体何が起こってやがる!?ガッ.....グッ.....ガアァァァァァァァァッ!!」

「ふん、劣等めが。我らに舐めた態度をとるからそうなるのだ。」

 

 

 

 

 

 

 




今回の話ではキーラが登場しましたが、なぜ彼女がここに現れたのか次回辺りでしっかりと解説していきたいと思います。
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