Serial examinee lain 作:Pazz bet
※これは、最新鋭学習型AI搭載体感型VR「ALTER EGO」と、被験者「岩倉玲音」との会話logである。
以下の場面は、「EGOを一定量集めた被験者が、エスの部屋を二たび訪れる場面」である。
エス「言われた通りEGOをためてきたのね。そういう素直なところ、私は好きよ。」
玲音「ありがとうございます。」
エス「なにかご褒美をあげてもいいけど...。」
エス「そう、ここがどこか気になるのね。」
エス「ここは...そうね...。」
エス「名前をつける必要のない閉じられた場所ー。わたしにとってはそれ以上でもそれ以下でもない。」
エス「けど、そうね。興味本意で聞かせて?貴方の目から見て、ここはどういう場所?」
玲音「うーん...。この前のあれが、性格診断だったっていうのなら...」
玲音「ありのままの私を、知ることができる場所?」
エス「うん、なるほどね。その認識で間違いないわ。ここでは隠し事は何もできないから。」
エス「でも、ここがどこか、なんてことは大した問題ではないの。」
エス「あなたは、今ここにいる。」
エス「選ぶ選ばないに関わらず、存在が先にあるの。」
エス「だから、理由を探してしまうんでしょうね。あなたも...私も。」
玲音「?」
エス「じゃ、そろそろ本題に入るわね。」
エス「ここには色々な本がある。」
エス「だから、読むたびに結末がかわる本だってあるの。」
エス「今から見せるのは、そういう絵本よ。」
玲音「これ?何か、すごく普通っぽい。」
エス「見かけはね。貴方がどう物語を解釈するか....。私はそれに興味があるの。」
エス「物語の登場人物は、王子、王様、侍女の三人。」
エス「この絵本がどういった物語か、すべてはあなたの解釈次第よ。これからいくつか質問するからあなたの感じかたに近い答えを選んでちょうだい。」
玲音「わかった。」
エス「さあ、あなたの物語を聞かせてね。王子は何をしているかな?」
玲音「...寝起きで目を擦ってるように見える。」
エス「王様は何をしているかな?」
玲音「うーん、王様だから....思った通りに政治がうまくいかなくて、悩んでる。」
エス「侍女はなぜ隠れているのかな?」
玲音「とばっちりを受けたくないから。」
エス「物語の結末はどうなると思う?」
玲音「...難しいなあ。」
エス「大丈夫。考えたことをいってくれたらいいから。」
玲音「じゃあ、王様が政治を持ち直す?」
エス「なるほど...。結末は」
エス「王様の独裁国家が復活し、王子を意のままに操るようになりました」
玲音「...え?」
エス「あなたの物語、聞かせてもらったわ。」
エス「虚構の話だからこそ見える現実もある。今度は私にあなたの物語を解釈させて?」
玲音「あ...ちょっと...。」
エス「ふむ...私が思うに。」
エス「あなたはすごく規律に従順で、完璧主義な性格なのね。
親や目上の人、あるいは社会や常識といったものを常に気にして、誰かに支配されることを望んでいるみたい。
とはいえ、他人より完璧主義が強すぎるから、見えないあるべき姿に振り回されて自責的になりすぎているのかもしれないわ。
あなたの追い求める姿は、本当はどこにもないのかもしれないわね。」
玲音「それ...。ちょっと極端かも。」
玲音「私、結構ありきたりなことをいったはずなんだけど...。」
エス「一人の当然は、他の人の当然とは違う。あなたも決して例外ではない。」
エス「この結果は、確実にあなたの本質の一部なのよ。」
玲音「...そうなの。」
玲音「そういえば、前と結果が違うような気がするけど...。」
エス「ああ、それは前回と今回とは、見ている部分が違うから。前回は『防衛機制』。今回は『秘められし主題』。次から、それもちゃんといった方がいいわね。」
玲音「...うん。」
エス「まあ、世界の見え方が変われば結末だってかわる。」
エス「物語の中でも。もちろん、この場所でも。」
エス「未来を変えるのはあなたの解釈ーーーーあなたの意志よ。」
玲音「....。」
エス「またEGOがたまったら、ここに来なさい。」
玲音「ありがとうございました。」