ダンジョンに鎧武がいるのは間違ってるだろうか   作:福宮タツヒサ

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第壱話 始まりの息吹

 

——生きるとは、どう言う意味だろう。

本音をさらけ出せる友人や家族と共に過ごすこと、自分の目標を目指してひたすら前へ突き進むこと……人によって“生きる”とは様々な意味がある。誰しも自分の叶えたい夢のために、心に秘めたる希望を持って突っ走ることができる。

では、それが消滅した者はどうなる? 生き甲斐を失くした者に明日などあるのだろうか?

……そう自分自身に問いかけながら、高所から落下し続けている男はゆっくりと瞼を閉じる。今の自分の行為が間違ってるなど関係ない。唯一の心の支えさえ守ることができなかった自分にとって、この世で生きることすら地獄なのだから。

 

 

 

 

 

 

男の意識が浮上し、眼を開く。

 

(あれは実? ……なんか、美味そうだな)

 

幸祐は大木の根元まで寄り、その果実を一つだけ手に取る。蔕がU字型の極彩色を放つ不気味な外観の果実は、見れば見るほど意識が吸い込まれて食欲を刺激される。

しかし、と齧り付く直前で踏みとどまる。この果実を食べて人体に影響はないのか? 自分ではない何かに変貌してしまうのではないのか? と。

だが、関係ないと考えを捨てる。元々自分は死んでここに来た。もしこの実を食べてまた死ぬとしても構わない。

意を決し、果実を食べようとした時……。

 

『貴方は運命を受け入れる?』

 

突然、透き通るような女の声が鳴り響いた。視線の先の木々の隙間から奇妙な服装の少女が現れる。白を強調とした巫女のような姿、腰まで届く金銀の長い髪。自分と同じくらいの身長だろうか? と考えながら幸祐は少女に見惚れてしまう。こちらを見つめるその少女はこの森の管理人、もしくは女神に見えた。

しかし、少女の言っていたことに頭が引っかかってしまう。特に、“運命”という単語に。幸祐は真剣な表情に変えながら目の前で立ち止まった謎の少女に尋ねる。

 

「初対面で悪いんだけど、ここはどこだ? あんたは誰だ? それから、俺は……死んだのか?」

 

『……貴方は運命を選ぼうとしている。ここは分岐点、貴方にとっての。ここで引き返すことも可能』

 

脈絡もなく何を言い出すかと思えば明確にはっきりとしない答え。もっと分かりやすい説明をしてほしいと内心愚痴る。

少女は何を考えてるか読めない表情を浮かべながら幸祐をまっすぐ見つめ、忠告とも取れる発言をする。

 

『だけどこの先に踏み込めば、もう二度と後戻りはできない。世界を己の色に染め上げるまで、貴方は最後まで修羅の道を歩むことになる……それでも貴方は運命を受け入れる?』

 

修羅の運命。

それは人間との殺し合いに巻き込まれるのか、それとも人間同士の精神の小競り合いに身を投じるのか。

生きる希望もなく居場所もない幸祐の答えは……自ずと決まっていた。

 

「——俺は元々死ぬつもりだった。今更俺の命なんて惜しくねぇよ。それに……あそこに戻るのは死んでも御免だからな」

 

自分の命など価値がないと語る幸祐。だが最大の理由は自分を陥れた故郷、弱肉強食の世界に戻りたくなかったからだ。

幸祐の言葉に少女は何も言わず、懐から黒い物体を取り出して幸祐に手渡しする。

それは、少し大きすぎるがベルトのバックルに似ている黒い物体。右側には何かを斬るために付随している小刀のような飾り。中心部には六角形の窪みがあり、何かを嵌め込むために作られたのは明白である。

唐突に渡された幸祐は戸惑うも、腰部まで運んで無理矢理押し付けてみた。

すると黒い物体の左右から黄色のリールが飛び出し、腰を巻きついて完全にベルトになった。その際、バックルの左側に鎧武者の横顔が刻まれる。

 

「なっ! これは——って、こっちも変わった!?」

 

掌にある物体を見ながら幸祐は再度驚きの声を上げる。ベルトを装着した瞬間、先程まで手の中にあった紫色の果実が変貌を遂げたからだ。オレンジ色の丸い形状、中央部分に『L.S-07』と刻まれた錠前になっていた。

幸祐の戸惑いを無視しながら少女は語り出す。

 

『その力は多くの宿敵と闘い勝ち残るための、貴方の力。世界を己の色に染め上がるまで貴方は決して逃げることはできない』

 

「お、おい! どういうこと——おわぁあああああああああああ!?」

 

彼女が掌を翳した瞬間、浮遊感に襲われて、幸祐の意識は強引に切り離される。

結局自分は死ぬことができたのか、この二つの物体は何なのか、多くの疑問を聞けないまま、幸祐の意識は身体と共にその森から消滅した……

世界から拒絶されて『禁断の森』に迷い込み、世界を統べることができる力を手にした男が行き着く場所。

それは——様々な種族の冒険者が集まる迷宮都市オラリオ。

 

 

 

 

▼▽▼

 

 

 

 

迷宮都市オラリオ。

凶悪なモンスター達が棲まう地下迷宮、通称『ダンジョン』の上に築き上げられた、世界有数の巨大都市。

都市、及びダンジョンを管理するギルドを中核に、人間(ヒューマン)はもちろんのこと、エルフやドワーフやパルゥムやアマゾネス……など様々な亜人(デミ・ヒューマン)達が集まり、様々な思想を持った冒険者達が今日もダンジョンへ潜りモンスターと戦う。

そしてその都市の中……血の繋がってない育ての親の祖父の遺言で、ダンジョンでの出会いを求めている少女がいた。

 

「神様! 私やりました! ゴブリンを倒しました!」

 

少女は扉をバンッ、と勢いよく開けて誇らしげに言った。林檎のような紅い瞳に耳にかかる程度の白髪、田舎の兎を連想させる少女。齢十四歳、身体の発育を気にする年頃だが、あと数年もすれば将来は絶世の美女を約束されるだろう。

 

「やぁやぁ、お帰りー、ベル君!」

 

ソファーの上で寝転がりながら仰向けになって読書していたが、白髪紅眼の少女に気づいてバッと立ち上がって歓迎する少女。 艶のある漆黒の髪をツインテールに結んで幼い容姿だが、服の上からでも分かるくらい胸が成熟している。

端から見ればこの二人は仲の良い姉妹にも見える。だが片方の白髪紅眼の少女はこのオラリオに来たばかりの新人冒険者のヒューマン、そしてもう片方の黒髪ツインテールの少女はその【ファミリア】の主神の女神であった。

 

「私、あのゴブリンを倒せたんです! 小さい頃、あのモンスターに殺されかけたことがあって怖がってたんですけど……今日やっと倒せたんです!」

 

ウキウキとして歓喜を隠せない白髪赤眼の少女——ベル・クラネルは頰を上気させて熱く語る。

 

「えーっと……ゴブリンって、ダンジョンで一番弱いって言われるモンスターを?」

 

ポカンとしながら黒髪ツインテールの女神——ヘスティアは質問する。

それに対してベルは顔全体を輝かせながら言い続ける。

 

「はい!」

 

「えと……一匹だけかい?」

 

「へ?」

 

「ゴブリンをたった一匹だけ倒して、ダンジョンから帰ってきたのかい?」

 

最弱のモンスターを一匹倒しただけでわざわざダンジョンから戻ってくるという確認をヘスティアから問われ、ベルは先程まで輝かせていた顔がみるみる羞恥に染め上がる。

 

「すみません、神様。もう一回ダンジョンに潜ってきます……」

 

「わーわー!? すまないベル君! 何も君を責めるつもりで言ったわけじゃないんだ!」

 

ヘスティアの呼びかけにも応じず、耳まで真っ赤になったベルは背を向けて扉を閉めていく。

 

(不味い! これは非常に不味い展開だ!)

 

唯一の眷属であるベルが去っていった扉の方を見つめながらヘスティアは焦りまくっていた。もしこのままテンションが下がった状態のベルがダンジョンから帰って来なかったら……夢見が悪くなるどころか生涯のトラウマになること間違いなし、と。

何とかベルを元気付けてダンジョンへの再突入を阻止しようと、扉の向こう側で落ち込んでいるベルへの慰めの言葉を考えるヘスティア。

 

「そ、そうだベル君! 君が始めてゴブリンを倒したお祝いをしようじゃないか! だから機嫌直して——」

 

 

 

『キャァアアアアアアアアアアッ!?』

 

「ッ!? 何があったんだい、ベル君!?」

 

突如、扉の向こう側から布を引き裂くようなベルの悲鳴が上がった。ヘスティアは扉を乱暴に開いてベルの元へ駆け出す。

自分達【ヘスティア・ファミリア】が本拠地にしている廃教会の門前に無傷なベル。だが、彼女の視線の先に人が倒れていたのを見てヘスティアも眼を疑う。

すぐ駆け寄ってみると、倒れているのは一人の少年だった。どこか怪我しているのかと思ったが目立った外傷もなく安定した呼吸を刻んでいる。気絶しているだけで、ひとまずは無事なことを確認できた。

腰まで届くほどの長い蒼髪、鍛え抜かれた筋肉質の細い身体。こんな女に間違えられそうな綺麗な顔の少年がいたら、そこそこ有名になるはず。少なくともオラリオの住人ではない。

更に、少年の腰部にはバックル型の黒い物体——《戦極ドライバー》が巻かれて、その手元にはミカンを連想させる丸みを帯びたオレンジ色の錠前——《オレンジ・ロックシード》が握られていた。

この少年の手持ちらしき二つのアイテムはオラリオでも少なく、使用できる冒険者は指で数える程度しかいない。

それを見たヘスティアは、倒れている少年を強大な派閥の構成員——冒険者と推測する。

 

(ダンジョン帰りで疲労して力尽きた、とか? でも、どうしてボクらのホームへ? ……)

 

「か、神様! どどどどどうしましょう!?」

 

冷静に考えてるヘスティアの横で、あたふた慌てているベル。今そんなことを考えてる場合じゃないと即座に頭を切り替え、ベルの混乱を治めるためにも彼を看病しなければと行動に移す。

 

「とにかくベッドまで運ぶんだ。ベル君、手伝って!」

 

「は、はい!」

 

「ほら、大丈夫かい君!? しっかりしておくれよ!」

 

協力しながらヘスティアとベルは少年の体をホームへと運び、ベッドの上で寝かせて看病する。

これが、後に【ヘスティア・ファミリア】の副団長となる男——桜庭幸佑との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

下界に舞い降りたばかりでオラリオのルールを知らないヘスティアが、同じくオラリオのことを何も知らないベルと街中で出会い、【ヘスティア・ファミリア】が発足してから三日が経つ。

 

その日その場に、少女達は運命と出会う。

 

また、死に場所を探していた孤独な少年は、生涯守り通すと誓った将来の英雄達と出会う。

 

 

 

この話は、少女達が織り成す【眷属の物語(ファミリア・ミィス)】。

 

 

 

そして、武人達が創り出す【戦極史伝】。

 

 

 

……その行末はまだ誰も知らない。

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