ダンジョンに鎧武がいるのは間違ってるだろうか   作:福宮タツヒサ

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第拾捌話 リヴィラの事件

それは突如、降りかかった不測の事態。

 

『——ヘルハウンドだぁああああああああ!!!』

 

『中層』にしか現れない魔犬の怪物(ヘルハウンド)の大量発生。

暗闇に光る不気味な赤眼をギラつかせて、獲物を逃さない眼光と姿勢。その口から灼熱の息吹を放つ姿は、正に地獄に巣食う魔犬そのもの。

その魔犬モンスターに追われ、中層まで逃げ続けた小人族(パルゥム)の少女——リリルカ・アーデは、膨れて身長の倍以上もある大荷物を背負って走り続けていた。

 

『お前……囮になれよ! ()()()()()!!』

 

『え……?』

 

彼女にとってこの一言が、人生最大最悪な闘争劇の幕開けになった。

契約している冒険者に背中を蹴られ、モンスター達の眼前に突き落とされた。

押し付けられた、『餌役(デコイ)』を。

リリルカ——リリは死に物狂いで走った。

 

(もう……最ッ悪です!)

 

これほど致命的な人選ミスをした自分を呪ったことはない。こんなことになるくらいなら、早く見限って次の宿主を探せば良かった。だが、後悔しても遅い。

もう既に何時間も走り続けた。身体にたくさんの擦り傷を付けられ、走り過ぎて血反吐を吐きながらも、必死にヘルハウンドから逃れ続けた。

 

「ハァ……ハァッ……後ッ……もう少しでッ……!!」

 

縦穴を移動し始め、数時間経つ。

数え間違いさえしていなければ、今いるのは十六階層。ここを乗り越えればリリは、安全階層(セーフティポイント)である十八階層に辿り着ける。

そこで準備を整え、地上へ生還できる機会を伺えば——

 

『グルァアアアアアア!!』

 

「きゃあッ!?」

 

しかし、悪運もそこまでだった。

後方のヘルハウンドが炎の息吹を吐いた。

直撃はしなかったが、その炎で足元の岩場が破裂してしまい、リリの軽い体は吹き飛ばされる。その余波で肩掛け紐が千切れてしまい、荷物は中身をぶち撒けてしまった。

勢いよく顔を地面に打ってしまい、リリの額から血が流れる。

 

『ガルルゥッ……!』

 

『グォオオオ……!!』

 

「あ……そ、そんな………」

 

額から目蓋に流れ落ちる血を拭って視界を広げるリリ。

その眼前には、大量の魔犬がいた。少女を逃がさないように、周囲にヘルハウンドの群れが蔓延っていた。

自分の『死』と真正面から対面してしまった。

——もう、受け入れるしかない。

慄き、泣き叫ぶ気力すら湧かない。絶望することもない。

少しでも楽な姿勢のまま死ねるように、魔犬達の眼前で横になった。

 

「冒険者なんて………大っ嫌いです……」

 

この世に、神も仏もあったものじゃない。実際に神様はいるが、ロクでもない神様(やつ)ばかりだ。

そして『英雄』なんて存在するわけない。

どんなに泣き叫んでも、何回も虐げられても……少女(リリ)の前に、一度も現れなかった。

 

(せめて来世は、もっとマシな暮らしがしたいです……)

 

最後の願いを込め、死を受け入れる………その時だ。

 

 

 

『……ブ、ブモォオオオオオオオオオ!!?』

 

『——ゴァッ!?』

 

『ギャンッ!?』

 

自分に迫る死神の足跡をかき消すように、側方から別のモンスターの悲鳴が鳴り響いた。

と同時に、ヘルハウンド達の頭上で図体の大きい怪物——ミノタウロスが落下してきた。

牛頭の巨体に押し潰されるヘルハウンド。また、その巨体が引き起こした振動で、ヘルハウンド周辺のみに大量の落石が起こった。巨大な岩石の下敷きになった魔犬の大半は圧死し、残りは骨折や震盪を貰って動けなくなる。

目の前で何が起こったのか、リリは理解できずにいた。

 

「——おい! 大丈夫か!?」

 

ミノタウロスが落下してきた方から、誰かがリリルカの元に駆け寄る。

 

「あ………」

 

リリは一瞬、眼を疑った。

そこにいたのは、憎い『冒険者』でも、嫌いな『神様』でもない——『蒼髪の天使』だ。

石の棍棒を携えて、天から迎えに来てくれた美形の天使。

リリは死ぬ間際の走馬灯か、もしくはリリ自身の願望から生まれた幻覚と思い込む。

こんな都合が良いことが起こるなんて、あるわけない。

『神』ではなく『天使』がこの窮地から救ってくれるなんて、そんな幻想は信じない。

 

(迎えが、来た……そっか、ようやく楽になれるのです…ね………)

 

……でも、幻でも嬉しかった。

『冒険者』や『神酒(ソーマ)』に弄ばれ、人生を滅茶苦茶にされた最低最悪な人生だったが、最期にようやく夢を見ることができた。

ほんの少しだけ、生きて良かったと思えた。

 

「……お…い…しっかり………!」

 

顔を覗き込みながら何か声を上げていたが、意識が朦朧として何も聞き取れない。

天使に泣きすがり、リリは弱々しい声を絞り上げる。

 

「……リリを……助、けてッ…………」

 

早くこの地獄(げんじつ)から解放されたい……

それから『天使』に身を任せて目蓋を閉じると、ずっと誰かにおぶわれている気がした。

 

(……暖かい………この暖かさは……天使様なの?)

 

何故か分からないが、とても心地良かった。

誰かの暖かい背中を肌で感じ取り、かつてない安らぎを得られた。

実の両親は、人を狂わせる酒——神酒(ソーマ)に溺れていた。実の娘を資金を集める駒遣い程度にしか思ってない、屑の人種だった。挙げ句の果てには酒のためにモンスターに挑み、無残に死んだ。

孤独の少女(リリ)は、神酒(ソーマ)欲しさに金を奪い合う屑集団——【ソーマ・ファミリア】内で孤立した。

自分を拾ってくれた花屋の老夫婦ですら、自分の【ファミリア】が引き起こした事件で見切りを付け、腫れ物のように切り捨てた。

少女は思い知らされた……この世界に、自分の『味方』なんていない。『奪う』か『奪われる』だけの人種しかいないのだと。

だがもし、もしも……育ての親が——自分の近くにいた人が良識ある人種だったら、こんな風に守ってくれたのかもしれない……とリリは思った。

しかし、どうせ死ぬんだ。もう関係ない。

………でも、やっぱり嬉しかった。

 

 

 

——あ、そうか……自分(リリ)が欲しかったものは………

 

 

 

 

 

 

「……ここ、は?」

 

目を覚ますと、そこは生い茂った森林。上には明るい空ではなく明るい水晶(クリスタル)

小耳程度に挟んだが、そこは第十八階層の安全階層だと分かる。

 

「目が覚めたか?」

 

目覚め立てのリリは声をかけられる。

最初に目にしたのは、透き通るように美しい芸術的な蒼色の長髪。呼びかけた声とは似合わない美女の顔立ち。しかし正真正銘、男だ。手入れが行き届いた髪質を眺めると、リリは自分が女であることの自信を喪失しそうになる。

あの髪色でようやく気づいた。

そこにいたのは紛れもない、死に行く自分を拾い上げた蒼髪の天使——否、自分を助けた冒険者だった。

 

「あ、あの冒険者様…リリ達はその……助かったんですか?」

 

「ああ、今のところな……それより、お前に聞きたいことがある」

 

やっぱり、ただで助けてくれるなんて美味い話あるわけない、と表情を暗くさせるリリ。

命を救ってやったんだから見返りを渡せ、と横暴な要求をしてくるのだろう。

何しろ、この男も『冒険者』なのだから……

 

「……ここって何階層だ?」

 

少年の呟きに、リリは絶句しそうになる。予想の斜め上を行く問いだった。

 

「……ぼ、冒険者様? もしかして……ここがどこか、ご存知ないのですか?」

 

「………知らない。初めて来た……そもそも何でダンジョンの中に森があるんだ?」

 

迷わず即答した少年——桜庭幸祐。ここが安全階層(セーフティポイント)であることすら知らずに来た。媚を売ることが得意なリリも、流石に唖然としてしまう。

その後、幸祐が【戦武将(アーマード)ライダー】であることに更に驚愕するのはいうまでもない。

命を救ってくれたお礼、というわけではないが、リリは幸祐にダンジョンに関することを教授した。教授といっても、エイナみたいな徹底した内容ではなく、簡単に要約したもの。

まずダンジョンにはキラーアント、別名『初心者殺し』と呼ばれる蟻のモンスターがいる。

中層に赴くにしても『階層主(ゴライアス)』——大広間に出現する『迷宮の孤王(モンスターレックス)』——に遭遇するリスクが高い。

しかし、幸祐はその段階をすっ飛ばして十八階層に来た。その階層が安全階層(セーフティポイント)である『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』だということも知らずにだ。

命の危機に瀕していたというのに、幸祐は「まぁ…ラッキーだったな」の一言で済ませる。

こんな無知で非常識な冒険者に、自分(リリ)は助けられたのか……?

呆れを通り越し、リリは溜息を吐くのを押し殺す。

 

「そ、それにしても冒険者様! と〜ってもお強いんですね? リリは感動しました!」

 

それでも、希少価値な【戦武将(アーマード)ライダー】であることには変わりない。見たところダンジョンの知識が乏しい新米に違いない。ここで株を上げておけば、後々結構な利益を得られると踏む。

今更な気がするが、本音を必死に押し殺し、ひたすら媚を売る。

 

「リリの命を救ってくれて、冒険者様にどう感謝の意を述べれば良いのか! まさか冒険者様が【戦武将ライダー】だったなんて、聡明な方でもあるんですね? きっと貴方様ほどの偉大な方は、この都市にはもう存在しない——」

 

「おい……こんな時まで良い子面するのは止めとけ。辛いだろ?」

 

ニコニコ愛想笑いを浮かべるリリを見て、幸祐はお見通しだといわんばかりに指摘する。

図星を突かれたリリは一瞬だけ笑みが引きつってしまう。

 

「え? ……な、何のことでしょうッ? リリは本心からコースケ様を」

 

「分かるんだよ、口に出さずとも目を見ればな……取り敢えず、その『様』を止めてくれないか?」

 

リリの本心を見透かすようにいう幸祐。

利用され続けた幸祐は、いつしか善人な人間と性根が腐った人との区別が付ける術を身に付けた。神みたいに嘘を見分けることなどできないが、その人間の人柄を大まかに測ることはできる。

つまり……リリと似たような眼力を備えているのだ。

そのことを理解したリリ。どんなに褒めちぎっても無駄だと分かり、愛想笑いも無駄だと消す。

 

「……貴方なんかに、リリの何を知っているんですか? コースケ()

 

プイッと幸祐から顔を逸らした。すっかり拗ねたように幸祐から距離を置き始める。

 

——お前に何が分かる?

——のうのうと暮らし、『生きる苦しみ』も知らないお前が?

——お前も『冒険者』のくせに、知ったか振りするな。

 

栗色の視線の奥に、『冒険者』に対する侮蔑と嫌悪が多く含まれていた。幸祐を見下し、心底軽蔑し、どう使い捨てにしようか企む者の眼。瞳の奥にあるリリの本心を、幸祐は見逃さなかった。

二人は『街』を目指して歩くが、その道中で会話など一切なかった……

 

 

 

 

 

 

同時期、街——『リヴィラの街』に到着したフィン達【ロキ・ファミリア】一行。

 

「あー、この街に来るのも久々のような気がするなー」

 

木の柱に旗が張られた門を潜り、ダンジョンの宿場街を見渡すティオナ。

その門に書かれている“334”という数字。過去に三百三十三回も壊滅したことをリヴェリアから教わり、呆然とするレフィーヤ。

 

「あれ? あれって……やっぱりだ! おーい!」

 

宿屋に向かう途中、知り合いを見かけたティオナは、元気いっぱいに手を振る。

 

「ティオナさん?」

 

「ミューリーがいるということは、フォルトもここにいるみたいだね?」

 

「あ、団長。それに他の皆さんも」

 

フィン達と対面したのは、アイズ達より一頭身小さな体格、長い黒髪に黒毛の狼耳や尻尾が生えた狼人(ウェアウルフ)の少女。右眼が緑で左眼が紫という、左右異なったオッドアイが特徴的だ。

本名『ミューリー・コナー』。【ロキ・ファミリア】所属、第二級冒険者兼サポーターであり、【ファミリア】内で最年少。たまにティオナ達から可愛がられている。

最も、ミューリーはフォルトに尊敬の念を抱いているようで、常にフォルトの傍にいることが多い。それ故、他の団員と接点があまりなく、彼女を知らない団員の方が多い。

あの晩、『豊穣の女主人』で起こった日のことだが、ミューリーはいなかった。

ダンジョンからホームに着いた途端、地面に倒れて熟睡したため、起こすのは悪いと判断したロキと【ファミリア】メンバーによってベッドで寝かされた。なので同胞である先輩(ベート・ローガ)尊敬する人(フォルト)が起こした騒ぎには一切関与していない。因みに、ティオナ達からその話を聞かされた時は、然程嫌悪感を抱かなかったが、デリカシーがないと呟いたとか。

 

「ミューリーは何故ここに……いや、尋ねるまでもないか」

 

「はい、フォルトさんと潜ったんです。本当はこの街で休息を取るはずだったんですけど……」

 

リヴェリアの言葉に肯定しながら、どこか暗い表情になる狼少女。

街の様子がおかしかった。人の気配が少な過ぎる。雑踏とざわめきが絶えないはずが、今はどんよりとした静寂な空気が充満している。

皆の代表としてフィンが尋ねる。

 

「街の様子がいつもと違うようだけど、何か知っているかい?」

 

「私達も来たばかりで知ったんですが……殺人があったんです」

 

心配そうに告げるその姿に、ティオナ達は言葉を詰まらせ、フィンやリヴェリアはこの不穏な理由を察知した。

 

 

 

 

 

 

現場には床一面に張り巡らされた大量の血。血の海に肉片や脳漿、蛆虫が浮き出て、見る者に吐き気を催す。その中心に頭部を失った男の遺体が放置されていた。

その光景を、フォルトは顔の筋肉を全く動かさず観察する。

 

「ったく、【フレイヤ・ファミリア】といい、強ぇ奴は何でもできると偉そうな面しやがってよ」

 

「邪魔、退いて」

 

「ア、ハイ。スンマセン……」

 

偉そうな口調で話しかけてきた男——ボールスを鋭い眼光で一瞥して退かせると、そのまま遺体の方へ直行するフォルト。

近くまで寄ると、遺体の男のうなじを掴み上げた。

 

『ッ!?』

 

()()()()()()を物ように乱暴に扱う。血や穢れを嫌う種族であるエルフの血が混ざってるはずなのに、手が血肉に濡れても動じない。それ以前に、躊躇なく死者を冒瀆する行為に、ボールスを含めてその場で現場検証を行なった者は身震いする。

自分へ集中された視線を無視し、間近で遺体を観察し続ける。

首から上の頭部は踏み潰されたか、もしくは引き千切られたかのように、グロいオブジェに豹変していた。喉笛に手を触れると、骨格が歪になっているのが分かった。

 

(死因は、首を折られたこと。その後に頭を潰したってところか……)

 

そう思考を探らせていると、遺体の近くに色が違う液を発見する。

フォルトは地面に薄ら溢れた液体をボロ布で拭い取り、ゆっくりと鼻先に持っていく。血に混じって赤黒く変色しているが、微かな刺激臭が鼻腔を通る。

記憶が正しければ、この臭いに該当するものは——

 

「やぁ、フォルト。お邪魔するよ」

 

その場に、またしても乱入者が参上する。【ロキ・ファミリア】の団長であり、フォルトから見れば上司に当たる小人族(パルゥム)の男性、フィン・ディムナ。

唐突に現れても驚かないフォルトはそのまま観察を続け、少しは驚いて欲しかったとボヤきながら合流する。

 

「フォルト、死因は解るかな?」

 

「首の骨ごと骨折されたことによる呼吸困難、その後頭部の皮膚を引き剥がされたってところ……この様子から、抵抗も虚しかったみたいね」

 

ふむ、と顎に手を当てるフィン。

 

「他に気づいたことは?」

 

「…………それだけ。後は()()の荷物や【ステイタス】を観れば大体の見当がつく」

 

そう答えながら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そのまま何食わぬ顔でフィンに近づき、耳元で二人にしか聞こえない音量で提案を申した。被害者はLv.4、そいつの首を握り潰したのならば、犯人は少なくてもLv.5以上の手練れ。広場に集めて検証するべきだ、と。

その提案にフィンは賢明だと、首を縦に振った。

 

「私の知る情報はここまで、謎解きはそっちでやって」

 

「了解。ああ、それから———フォルト」

 

立ち去ろうとするフォルトを、団長(フィン)はただ、名前を呼んで静止させる。

フォルトは足を止めたが、背中を向けたまま。

名前を呼ばれただけなのに、呼ばれた本人はおろか、その場にいた誰もが呼吸すら許されない威圧に当てられる。

 

「君が僕のいうことを聞かないのは理解している。僕の考えに賛同してくれないこともね。だけど……」

 

笑みのようで、瞳の奥が笑みを浮かんでないフィン。

隠した布を指摘されるのでは? しかし、フォルトは狼狽る様子を見せなかった。

 

「君やミューリーは僕等の『家族』だ、敢えて言わせてもらうよ……単独で危険なことをしないように」

 

「……………『家族』、ね」

 

答えにならない返答をしながら、今度こそ退出していくフォルト。その姿にフィンは溜息を隠せなかった。一応注意をしたが、彼女が聞き入れてくれるかどうか。あの様子からすれば、また聞き入れてくれないだろう。

 

「はぁ……せめて、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

全く、ウチの【ファミリア】は問題児が多い、とボヤいてしまった。

 

 

 

 

 

 

一方、外で忠犬のように待機していたミューリーは、同じく外で待っていたティオナ達と会話を続けていた。

この場にいる【ロキ・ファミリア】は、現場検証しているフォルトとフィンを除き、ミューリーとティオナ、ティオネ、それにアイズとレフィーヤ。リヴェリアは他の宿屋で聴き込みしながら情報を集めている。

しかし主人(フォルト)の傍にいないことが寂しいのか、お預けを食らった忠犬のように狼耳がうなだれていた。いつもフリフリ振る尻尾も、地面に下がったまま動かない。

ふとティオナはミューリーのある部分を目にし、恐る恐る尋ねてみた。

 

「そういえばミューリー……また、大きくなった?」

 

ミューリー、齢十四にして破壊的な巨乳の持ち主。その幼い容姿にそぐわない大きさ、実にどこかの紐女神と匹敵する。

歳下の少女に圧倒的な貧富の差を見せつけられ、ティオナの天真爛漫な瞳が暗く染まりかける。

 

「え? そうですね……でも大きくなりすぎて、最近肩凝りが酷いんですよ。戦闘にも支障をきたしてしまいますし」

 

困ったように両手で胸を持ち上げる。

ティオナの眼前で、たゆんたゆん、と揺れまくった。

少女の無自覚な行為は、持たざる者へのボルテージを爆発させる引き金に変わった。

 

「わ、わ………私への当て付けかぁーーー!?」

 

ガチで涙目になりながら胸に不意打ちをかけるティオナ。ミューリーは「ひゃぁあ!?」と可愛らしい悲鳴を上げる。それを双子の姉が宥めようと「落ち着きなさい、あんたがペチャパイなのはミューリーのせいじゃないわよ」と、よりボルテージを上げる失言をしてしまう。

揉まれる度に可愛らしい奇声を上げる姿に、付近で聞き耳を立てていた男冒険者達は腰が引いた……と一悶着が起こった。

お陰で、緊張していた場にいくらか安らぎが戻った。

全員の説得の甲斐があって、ティオナも落ち着き、検証が行われている現場へ視線を向ける。

 

「それにしても遅いねー、フォルトは何してんだろ?」

 

「どうせ、また団長の命令を無視しているだけでしょ?」

 

「ア、アハハハ、フォルトさんはそういう人ですから……」

 

フォルトの行動にフォローの言葉が思い浮かばず、ミューリーは笑って誤魔化す。いつか自分にまで非が及んでしまうのでは? と割と心配しながら。

すると、ティオナは気を伺う様子でいってくる。

 

「でもさー、無理してフォルトに着いて行かなくても良いんだよ? 何だったら、あたし達と一緒に行こうよー。フォルトには言っておくからさー」

 

ティオナだけでなくティオネも、その後方にいるアイズやレフィーヤもミューリーを歓迎する表情だ。

フォルトを知るメンバーでも、彼女を好く者は数少ない。

同胞のレフィーヤは尊敬というより畏怖の対象として見ることが多い。

団長(フィン)LOVEな乙女ティオネは、団長のいうことを基本聞かないフォルトが生理的に無理。

アイズは口下手な上にフォルトと性格が合わないためか、良好な仲とは呼べない。

ティオナは偏見なく接しているが、本人が心を開いてくれないため仲を深められない。

ここにいないが、ベートとは特に仲が悪い。といっても、ベートが突っかかるだけでフォルトは受け流すことが多い。獣人とエルフの種族間によるものか、それとも二人の本質が同じ『同族嫌悪』からなっているのか。

一方、フィン、リヴェリア、ガレスは、フォルトに邪険にされても放っておくことはなかった。だが他の団員と違い、どこか後ろめたい雰囲気で接している。当然そんな顔をされれば心を開いてくれるはずもない。

皆といることを嫌うフォルトに着いてくるミューリーを目撃し、無理矢理連れて行かされているのではないのかと他の団員は心配していた。

 

「はい、ありがとうございます。皆さんのお気持ちは嬉しいですが……結構です。私がフォルトさんに頼み込んだんです」

 

……しかし、そんな事実は一切ない。それはこの狼少女が証言する。

 

「これは、私が望んだことなんです。私がフォルトさんに憧れて、フォルトさんの役に立ちたいって思ったから。あの人に救われてから、ずっと……」

 

笑みを浮かべながら述べるその言葉は、心からの本心であった。

この命を、あの人の役に立ちたいと思い続ける。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ずっと……

獣人とエルフ、その隔たりを越えるような信頼感と尊敬が少女の中にある。同じ狼人族(ウェアウルフ)でも、リヴェリアとベートの間柄とはえらい違いだった。

 

「ミューリー、行くわよ」

 

いつの間にか、宿の奥からフォルトが戻ってきた。

どんなことがあってもミューリーは当然のようにフォルトに着いていくと知っているので、フォルトとミューリーに余計な会話は不要だ。

 

「あ、はい! それじゃあ皆さん、ご武運を」

 

最後に頭を下げて、ミューリーの方へまっすぐに駆け出す。

その光景をティオナ達は心配そうに見ながらも、微笑ましい気持ちで見送った。

 

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