ダンジョンに鎧武がいるのは間違ってるだろうか 作:福宮タツヒサ
あれから幸祐とリリは歩き続け、十数分後ようやく到着した。
十八階層に存在する唯一の街『リヴィラの街』、またの名を『
入り口を潜り抜けた途端、街の雰囲気がおかしいことに気づく。
「やけに騒々しいな……何があったんだろうな?」
「…………」
話題を振りまく幸祐だが、リリは我関せずといった感じで無視し、一人で門を潜っていく。
その様子に幸祐は溜息を吐いてしまう。
さっきまで何も言わなかった自分にも非があるのは分かっているが、非常時なのだからお互いのため協力したかった。しかし追及する気力もなく、リリの後を追うように幸祐も門を潜る。
街中に入った瞬間、突然「全員、広場に集まりやがれぇ! 従わねぇ奴は
今日は実に災厄な日だと、自分の運勢のなさを呪う幸祐とリリ。
近くにいた冒険者に理由を尋ねると、Lv.4の冒険者が殺害されたと聞き、驚愕を隠せなかった。
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街の中心地でありながら最も広い水晶広場。中央に白と青の二つの水晶柱が寄り添い、その傍に血塗れの
封鎖された街中、何事かと冒険者一同が集まっている。その中には幸祐達の姿もあった。
容疑者は女性、被害者であるLv.4の第二級冒険者が何も抵抗できずに殺された。今のところ確かな情報はこれだけだ。
第一級冒険者に匹敵する殺人鬼が街のどこかに潜伏している。この事実に皆は恐怖と不安を顔に抱え、場はかつてない緊迫に包まれていた…………はずだったが。
「……ようし、女共ぉ!! 体の隅々まで調べてやるから服を脱げぇえええええ!!」
『うぉおおおおおおおおおおおおおお!!』
『ふざけんなーッ、死ねーーー!!』
『フィン〜、私の体を調べて♡』
『コラ! 抜け駆けは許さないわよー!』
『あの、ずっと憧れていました! フィン様♡』
『——団長に群がってんじゃねえぞ、アバズレ共ぉおおおおおおおおお!!!』
幸祐の目が点になった。何を見せられているのだろう?
この街の支配者らしき男の唱えた私欲に塗れた要求に男の冒険者が歓声を上げ、女性冒険者から飛び交う圧倒的ブーイングの嵐。合法ショタである金髪
密閉されたダンジョンの街中で人が殺されたというのに、緊張感の欠片もない空気に変わった。これが冒険者のノリというのなら、幸祐には理解できそうにない。
この場にいるリリも似たような表情をし、女性冒険者の群れに攫われた
ふとその時、リリが傍にいないことに気づく。
周囲のどこにもリリの姿は見当たらない。予期せぬ間に、リリはその場から姿を消していた……幸祐の
「……あいつ、どこへ?」
キョロキョロ探すと、ドンッと誰かとぶつかってしまう。
その拍子で幸祐の
「おっと、すいませ——」
「ッ! ご、ごめんッ、私、急いでるからッ……!」
ぶつかった相手、小麦肌の
様子がおかしかったが、殺人鬼が潜んでいることに怯えているのだと思い、それ以上のことを考えなかった。
その後もリリを探し続けるが、結局、見つけることはできなかった……
△
広場から少し離れたところ。
辺りをキョロキョロしながら怯えている様子に、泥棒の勘が疼いた。金目のものになるものがある、と。
「冒険者さん冒険者さん……」
「ひッ! だ、誰ッ……!?」
先程の
女であるとはいえ、Lv.1のサポーターが容疑者と疑われるはずもなく、リヴィラの街から颯爽と消え去ることができたリリは、全身から溢れ出す怯えを隠せない
「実は私、【
「ッ……き、気付いていたのッ?」
「このまま貴女がそれを持ったままだと犯人疑惑が起こり、犯人に狙われるはずです。そこで提案ですが……この
「…………ば、場所を変えよう」
犬人の少女は報酬が貰えないという点に渋ったが、金なんかで命は買えないと理解し、リリの提案を呑んだ。
この少女は、今起こっている事件の重要参考人になるだろう。リリがやろうとしていることは【ロキ・ファミリア】の妨害ともいえる行為である。
それを自覚しながらも、リリは思い留まらなかった。
(もしこれが駄目になっても、まだ“こっち”がありますから……)
視線を忍ばせながら、握り締めている
リリ自身、オラリオの有名人と関わることなどありはしない。
しかし、今まで騙し取った冒険者達から数々の情報を耳にしていた。
何億ヴァリスは下らない値がつく《戦極ドライバー》だが、既に装着されたものは所有者しか使用できず、途端に一ヴァリスにもならないゴミと化してしまう。しかし、このロックシードなら幾らかの価値になるに違いない!
リリの長年の勘がうずいていた。どういう経緯で少年が手に入れたのか知らないが、世に出回るロックシードでも最高級、間違いなく希少価値が高い。
眼前でビクビクしている犬人の少女から報酬を貰う算段だが、万が一駄目な時に備え、逃げる際にロックシードを盗んでおいた。
その手の店にこのロックシードを持っていけば、結構な額の大金が手に入るに違いない。
そうすれば、あの【ファミリア】から脱退することも夢ではない!
……しかし、それは自分を救ってくれた少年に恩を仇で返すことになる。
(……どうせ、あの人だって、リリより自分を優先するでしょう。だって……『冒険者』なんですから)
押し寄せてくる罪悪感を押し殺し、早く忘れようと踏ん切り付いた。
あの綺麗な容姿の少年も、隙を見せればリリを裏切り、リリを虐げた金の亡者と同じように醜悪な顔を浮かべるだろう。
そうはいくものか。
裏切られる前に、棄てられる前に……こっちが見限ってやる。
あの世間知らずな男を利用し、骨の髄まで現実というものを教えてやる。
△
あの後、男である幸祐も身体検査を受ける羽目になった。
女を探し当てるのに“男”である幸祐も検査された理由が、容姿が他の女冒険者よりも断然女らしいから、だそうだ。尚、この発言をした男冒険者は周囲の女冒険者にボコボコにされた。
検査終了後、色んなことが起こり、頭を整理したかった幸祐は、街から少し離れたところまで歩いている。
『……貴方なんかに、リリの何を知っているんですか?』
仏頂面なリリの姿が、何度も幸祐の頭を過ぎった。
お礼をいわれたくて助けたわけではないが、アイテムを盗まれたことがショックじゃないといえば嘘になる。
(俺って、本当に弱かったんだな……)
何よりもショックを受けたのは、アイテム不在の自分の不甲斐なさ。守られていたのは自分自身、アイテムが自分を守ってくれたんだと自覚した今、とても情けなかった。
森の中でも照らされる
「……あの、少し良いですか?」
背後から声をかけられ、振り向くと、そこにいた
(やっぱり、あの人だ……)
一人でミノタウロスを倒し、単独で食人花を圧倒した紺色の武者。会いたがっていた
そんなアイズの心情を知らず、うろ覚えな印象で思い出す幸祐。
「その節は、どうも」
「……どうも」
素っ気ない挨拶を交わす男女。お互い美人顔だというのに、何とも味気ないものだった。
正直、幸祐は【ロキ・ファミリア】、ひいては大手
大手企業というのは多くの人を雇うにも人選の必要があり、能力が高い者を選ぶことが多い。うちの
大手の
その良い印象がない【ファミリア】の金髪少女が、ずっと見つめていた。
「……あの、まだ何か用か? 身体検査もLvの確認も終えただろ?」
「え、えっと、そうじゃなくて……心配、だったから」
強くなれる秘訣を聞きたかったが、口下手なアイズは何から話せば良いのか分からず、本音と違うことが口から出てしまう。
そんなアイズの心情を知らない幸祐は、内心で律儀な奴と呟き、ポケットに入れてあったものを取り出した。
「ッ!! ———そ、それは……!?」
「ん?」
臭い消しの袋から取り出されたものを目にした途端、盛大に反応しながら幸祐の手元を凝視し続けているアイズ。子供みたいに、瞳に爛々とした光が宿る。
幸祐の手元にあるそれは——昨夜、おやつ用に持参してきた『ジャガ丸くんカレー風味』。店では売られてない幸祐オリジナルの手作り。
「……ジャガ丸くん……ジャガ丸くん……ジャガ丸くん……」
無意識に同じ単語を呟くアイズの口端には、薄っすらと唾液が溢れかけていた。
アイズ・ヴァレンシュタインは物欲がない少女と思われがちだが、オラリオの誰よりもジャガ丸くん好きな娘である。世界中からジャガ丸くんが消滅してしまえば、死んだ方がマシだと思えてしまう。それくらい熱愛が凄まじく、ジャガ丸くんファンの第一号と呼ばれても過言ではない。
そんなアイズの眼前に出された、物珍しいジャガ丸くんは、これ以上ない興味の的だった。
ちょっと恐ろしい少女の姿に、背中に汗が伝ったのを幸祐は感じた。
「……もしかして、欲しいのか?」
「ッ………!? ちッ、違うよッ……?」
幸祐の問いに、我に帰ったアイズは誤魔化すように首を横にブンブン振り、本音を押し殺して否定する。
だが、盛大に慌てる仕草からモロバレだった。口端の唾液が決壊しそうになっているのが何よりの証拠。
しっかりしているようで、どこか抜けている、可愛らしい仕草。
嘘が苦手な
「……やるよ。食欲もないし」
殺人事件が起きたこともあって、幸祐は食欲も失われている。というか、こんな美少女に間近でジ〜ッ、と見つめられる状態で、食欲が湧くはずがない。
アイズの元へ無造作にジャガ丸くんを放り投げる。
「ッ……ジャガ丸くん!」
放物線を描くフリスビーをキャッチする飼犬の如く、素早くジャガ丸くんを掴んで大事そうに抱え込み、パクッと一口。
彼女の周囲に花が咲いた。無表情のままだが、煌びやかな表情になったように見える。
はぐはぐはぐ ! と、栗鼠のように懸命に咀嚼し始めると、あっという間にジャガ丸くんを完食した。
さっきまで無表情を保ち続けていた少女とは思えない食べっぷりで、幸祐は「おぉ〜」と関心を覚えた。
微かに満足そうな顔になったアイズは、幸祐の前に歩む。
「……ごちそうさまでした」
精錬された動作で、三つ折りお辞儀をするアイズ。
——この娘、間違いなく
この世界の常識から少し外れている
性格が良い娘なのかは知らないが、自分のところの
(この人、良い人……すごく良い人)
一方、アイズの中で『ジャガ丸くんをくれる人=良い人』という構図が成立した。要するに、かなり高感度が上がった。
単純だと、傍から見た者なら誰しも口を揃えるだろう。