ダンジョンに鎧武がいるのは間違ってるだろうか   作:福宮タツヒサ

19 / 25
第拾玖話 お人好し

あれから幸祐とリリは歩き続け、十数分後ようやく到着した。

十八階層に存在する唯一の街『リヴィラの街』、またの名を『ならず者達の街(ローグ・タウン)』。荒くれ者が造ったような荒々しい門は、この街の象徴に見える。

入り口を潜り抜けた途端、街の雰囲気がおかしいことに気づく。

 

「やけに騒々しいな……何があったんだろうな?」

 

「…………」

 

話題を振りまく幸祐だが、リリは我関せずといった感じで無視し、一人で門を潜っていく。

その様子に幸祐は溜息を吐いてしまう。

さっきまで何も言わなかった自分にも非があるのは分かっているが、非常時なのだからお互いのため協力したかった。しかし追及する気力もなく、リリの後を追うように幸祐も門を潜る。

街中に入った瞬間、突然「全員、広場に集まりやがれぇ! 従わねぇ奴は要注意人物一覧(ブラックリスト)に載せるからなぁ!」と、支配人らしき男に怒鳴られる。

今日は実に災厄な日だと、自分の運勢のなさを呪う幸祐とリリ。

近くにいた冒険者に理由を尋ねると、Lv.4の冒険者が殺害されたと聞き、驚愕を隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

街の中心地でありながら最も広い水晶広場。中央に白と青の二つの水晶柱が寄り添い、その傍に血塗れの全身型鎧(フルプレート)や武器等の装備品……殺された被害者の私物が並んである。

封鎖された街中、何事かと冒険者一同が集まっている。その中には幸祐達の姿もあった。

容疑者は女性、被害者であるLv.4の第二級冒険者が何も抵抗できずに殺された。今のところ確かな情報はこれだけだ。

第一級冒険者に匹敵する殺人鬼が街のどこかに潜伏している。この事実に皆は恐怖と不安を顔に抱え、場はかつてない緊迫に包まれていた…………はずだったが。

 

「……ようし、女共ぉ!! 体の隅々まで調べてやるから服を脱げぇえええええ!!」

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

『ふざけんなーッ、死ねーーー!!』

 

『フィン〜、私の体を調べて♡』

 

『コラ! 抜け駆けは許さないわよー!』

 

『あの、ずっと憧れていました! フィン様♡』

 

『——団長に群がってんじゃねえぞ、アバズレ共ぉおおおおおおおおお!!!』

 

幸祐の目が点になった。何を見せられているのだろう?

この街の支配者らしき男の唱えた私欲に塗れた要求に男の冒険者が歓声を上げ、女性冒険者から飛び交う圧倒的ブーイングの嵐。合法ショタである金髪小人族(パルゥム)の眼前に並んで色目を使う女性集団に、暴走したアマゾネスが立ち塞がる……混沌(カオス)と化した現場。唯一しっかりしているのは、ハイエルフの女性がいる【ファミリア】であった(一人の長髪アマゾネスを除く)。

密閉されたダンジョンの街中で人が殺されたというのに、緊張感の欠片もない空気に変わった。これが冒険者のノリというのなら、幸祐には理解できそうにない。

この場にいるリリも似たような表情をし、女性冒険者の群れに攫われた小人族(パルゥム)の英雄に同情の視線を送るに違いない。

ふとその時、リリが傍にいないことに気づく。

周囲のどこにもリリの姿は見当たらない。予期せぬ間に、リリはその場から姿を消していた……幸祐の()()()()()()()()錠前(ロックシード)()()()()

 

「……あいつ、どこへ?」

 

キョロキョロ探すと、ドンッと誰かとぶつかってしまう。

その拍子で幸祐の小鞄(ポーチ)と、ぶつかった相手の小鞄が混ざってしまった。

 

「おっと、すいませ——」

 

「ッ! ご、ごめんッ、私、急いでるからッ……!」

 

ぶつかった相手、小麦肌の犬人(シアンスロープ)の女は怯えた様子で、地面に落ちた小鞄を抱えると、そそくさと幸祐から離れて行った。

様子がおかしかったが、殺人鬼が潜んでいることに怯えているのだと思い、それ以上のことを考えなかった。

その後もリリを探し続けるが、結局、見つけることはできなかった……

 

 

 

 

 

 

広場から少し離れたところ。

辺りをキョロキョロしながら怯えている様子に、泥棒の勘が疼いた。金目のものになるものがある、と。

 

「冒険者さん冒険者さん……」

 

「ひッ! だ、誰ッ……!?」

 

先程の犬人(シアンスロープ)の女は、文字通り仔犬のように震える。しかし同族の、自分より体格が小さいリリを目にして、安堵したような顔を浮かべた。

女であるとはいえ、Lv.1のサポーターが容疑者と疑われるはずもなく、リヴィラの街から颯爽と消え去ることができたリリは、全身から溢れ出す怯えを隠せない犬人(シアンスロープ)に、営業スマイルを浮かべたまま近づく。

 

「実は私、【戦武将(アーマード)ライダー】の護衛人の方と共にここまで来ましてね。ただのサポーターなので容疑者から外されていますのでご安心を……話は変わりますが、貴女は犯人に狙われているのでは?」

 

「ッ……き、気付いていたのッ?」

 

「このまま貴女がそれを持ったままだと犯人疑惑が起こり、犯人に狙われるはずです。そこで提案ですが……この(リリ)にその荷物をお預かりしませんか? 街を出るまで、あるいはダンジョンを出るまで。もちろん、冒険者様が貰うはずの報酬を頂けるのでしたら、ですけど?」

 

「…………ば、場所を変えよう」

 

犬人の少女は報酬が貰えないという点に渋ったが、金なんかで命は買えないと理解し、リリの提案を呑んだ。

この少女は、今起こっている事件の重要参考人になるだろう。リリがやろうとしていることは【ロキ・ファミリア】の妨害ともいえる行為である。

それを自覚しながらも、リリは思い留まらなかった。

 

(もしこれが駄目になっても、まだ“こっち”がありますから……)

 

視線を忍ばせながら、握り締めている甘橙(オレンジ)鳳梨(パイン)のロックシードを、こっそりポケットに仕舞い込む。

少年(コースケ)が【戦武将(アーマード)ライダー】であったことは予想外のことだったが、好機と考えた。

リリ自身、オラリオの有名人と関わることなどありはしない。迷宮都市(オラリオ)でさえ重視されている【戦武将(アーマード)ライダー】など、お目にかかれたことすらない。

しかし、今まで騙し取った冒険者達から数々の情報を耳にしていた。

何億ヴァリスは下らない値がつく《戦極ドライバー》だが、既に装着されたものは所有者しか使用できず、途端に一ヴァリスにもならないゴミと化してしまう。しかし、このロックシードなら幾らかの価値になるに違いない!

リリの長年の勘がうずいていた。どういう経緯で少年が手に入れたのか知らないが、世に出回るロックシードでも最高級、間違いなく希少価値が高い。

眼前でビクビクしている犬人の少女から報酬を貰う算段だが、万が一駄目な時に備え、逃げる際にロックシードを盗んでおいた。

その手の店にこのロックシードを持っていけば、結構な額の大金が手に入るに違いない。

そうすれば、あの【ファミリア】から脱退することも夢ではない!

……しかし、それは自分を救ってくれた少年に恩を仇で返すことになる。

 

(……どうせ、あの人だって、リリより自分を優先するでしょう。だって……『冒険者』なんですから)

 

押し寄せてくる罪悪感を押し殺し、早く忘れようと踏ん切り付いた。

あの綺麗な容姿の少年も、隙を見せればリリを裏切り、リリを虐げた金の亡者と同じように醜悪な顔を浮かべるだろう。

そうはいくものか。

裏切られる前に、棄てられる前に……こっちが見限ってやる。

あの世間知らずな男を利用し、骨の髄まで現実というものを教えてやる。

 

 

 

 

 

 

あの後、男である幸祐も身体検査を受ける羽目になった。

女を探し当てるのに“男”である幸祐も検査された理由が、容姿が他の女冒険者よりも断然女らしいから、だそうだ。尚、この発言をした男冒険者は周囲の女冒険者にボコボコにされた。

検査終了後、色んなことが起こり、頭を整理したかった幸祐は、街から少し離れたところまで歩いている。

 

『……貴方なんかに、リリの何を知っているんですか?』

 

仏頂面なリリの姿が、何度も幸祐の頭を過ぎった。

お礼をいわれたくて助けたわけではないが、アイテムを盗まれたことがショックじゃないといえば嘘になる。

 

(俺って、本当に弱かったんだな……)

 

何よりもショックを受けたのは、アイテム不在の自分の不甲斐なさ。守られていたのは自分自身、アイテムが自分を守ってくれたんだと自覚した今、とても情けなかった。

森の中でも照らされる水晶(クリスタル)の光が眩しく感じ、今の自分には不釣り合いだと自虐し始めた。

 

「……あの、少し良いですか?」

 

背後から声をかけられ、振り向くと、そこにいた金髪金眼の少女(アイズ・ヴァレンシュタイン)視線が合う。

 

(やっぱり、あの人だ……)

 

一人でミノタウロスを倒し、単独で食人花を圧倒した紺色の武者。会いたがっていた少年(コースケ)が、目の前に現れた。

そんなアイズの心情を知らず、うろ覚えな印象で思い出す幸祐。

 

「その節は、どうも」

 

「……どうも」

 

素っ気ない挨拶を交わす男女。お互い美人顔だというのに、何とも味気ないものだった。

正直、幸祐は【ロキ・ファミリア】、ひいては大手企業(ファミリア)に良い印象を持っていない。

大手企業というのは多くの人を雇うにも人選の必要があり、能力が高い者を選ぶことが多い。うちの団長(ベル)も以前、オラリオに来たばかりの当初、門番に門前払いで追い返されたと、まともに相手してくれなかったというのを耳にした。

大手の企業(ファミリア)が皆、悪い奴とは限らないのは理解しているが、苦手であることには変わりない。

その良い印象がない【ファミリア】の金髪少女が、ずっと見つめていた。

 

「……あの、まだ何か用か? 身体検査もLvの確認も終えただろ?」

 

「え、えっと、そうじゃなくて……心配、だったから」

 

強くなれる秘訣を聞きたかったが、口下手なアイズは何から話せば良いのか分からず、本音と違うことが口から出てしまう。

そんなアイズの心情を知らない幸祐は、内心で律儀な奴と呟き、ポケットに入れてあったものを取り出した。

 

「ッ!! ———そ、それは……!?」

 

「ん?」

 

臭い消しの袋から取り出されたものを目にした途端、盛大に反応しながら幸祐の手元を凝視し続けているアイズ。子供みたいに、瞳に爛々とした光が宿る。

幸祐の手元にあるそれは——昨夜、おやつ用に持参してきた『ジャガ丸くんカレー風味』。店では売られてない幸祐オリジナルの手作り。

 

「……ジャガ丸くん……ジャガ丸くん……ジャガ丸くん……」

 

無意識に同じ単語を呟くアイズの口端には、薄っすらと唾液が溢れかけていた。

アイズ・ヴァレンシュタインは物欲がない少女と思われがちだが、オラリオの誰よりもジャガ丸くん好きな娘である。世界中からジャガ丸くんが消滅してしまえば、死んだ方がマシだと思えてしまう。それくらい熱愛が凄まじく、ジャガ丸くんファンの第一号と呼ばれても過言ではない。

そんなアイズの眼前に出された、物珍しいジャガ丸くんは、これ以上ない興味の的だった。

ちょっと恐ろしい少女の姿に、背中に汗が伝ったのを幸祐は感じた。

 

「……もしかして、欲しいのか?」

 

「ッ………!? ちッ、違うよッ……?」

 

幸祐の問いに、我に帰ったアイズは誤魔化すように首を横にブンブン振り、本音を押し殺して否定する。

だが、盛大に慌てる仕草からモロバレだった。口端の唾液が決壊しそうになっているのが何よりの証拠。

しっかりしているようで、どこか抜けている、可愛らしい仕草。

嘘が苦手な少女(アイズ)の姿に、幸祐は少女(ベル)の姿を思い浮かべた。

 

「……やるよ。食欲もないし」

 

殺人事件が起きたこともあって、幸祐は食欲も失われている。というか、こんな美少女に間近でジ〜ッ、と見つめられる状態で、食欲が湧くはずがない。

アイズの元へ無造作にジャガ丸くんを放り投げる。

 

「ッ……ジャガ丸くん!」

 

放物線を描くフリスビーをキャッチする飼犬の如く、素早くジャガ丸くんを掴んで大事そうに抱え込み、パクッと一口。

彼女の周囲に花が咲いた。無表情のままだが、煌びやかな表情になったように見える。

はぐはぐはぐ ! と、栗鼠のように懸命に咀嚼し始めると、あっという間にジャガ丸くんを完食した。

さっきまで無表情を保ち続けていた少女とは思えない食べっぷりで、幸祐は「おぉ〜」と関心を覚えた。

微かに満足そうな顔になったアイズは、幸祐の前に歩む。

 

「……ごちそうさまでした」

 

精錬された動作で、三つ折りお辞儀をするアイズ。

——この娘、間違いなく天然(マイペース)だ。

この世界の常識から少し外れている自分(コースケ)を棚に上げ、幸祐の脳裏に『ジャガ丸くん好きの天然娘』という印象が確定された。

性格が良い娘なのかは知らないが、自分のところの白兎娘(ベル・クラネル)に似た、人に騙されやすい純粋な少女だと分かった。

 

(この人、良い人……すごく良い人)

 

一方、アイズの中で『ジャガ丸くんをくれる人=良い人』という構図が成立した。要するに、かなり高感度が上がった。

単純だと、傍から見た者なら誰しも口を揃えるだろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。