ダンジョンに鎧武がいるのは間違ってるだろうか   作:福宮タツヒサ

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第弐拾話 緑色の宝玉

杖を構えながら、森の奥を進むエルフの少女がいた。

団長(フィン)に直接、広場に集合に来てほしいと、アイズへの伝言を頼まれたレフィーヤである。

目撃者から、アイズは森へ行ったという情報を頼りに向かった。

 

(この声、アイズさん……?)

 

その道中、Lv.3の聴覚によって聞こえた。

今現在、誰かがアイズと話をしている。しかも、やけに楽しそう。

——まさか、アイズさんに男が!?

金髪少女が見ず知らずの男といちゃつく姿を妄想し、危機迫ったレフィーヤは声が聞こえる方へ急いだ。

無造作に咲き乱れている草木をかき分けながら進んだ先は湖。十八階層で水浴び場として利用される、冒険者の間では重宝視されるところだ。

湖のすぐ近くには何と……!

 

 

 

「——行くぞ? ほれ」

 

「ッ——、ぱくッ……!」

 

蒼髪の美人(見知らぬ男)食べ物(ジャガ丸くん)を投げ、それを訓練犬のように口でキャッチし、必死に咀嚼する先輩(アイズ)の姿があった……

 

 

 

「……………………」

 

あまりの衝撃な光景を目にし、ピシィイイイッ!! と、レフィーヤの全身が石化した。

【ロキ・ファミリア】の団員ですら、アイズと戯れるのは禁句に等しい。現に、石化状態から抜け出せずにいるレフィーヤも、彼女と親しくなるのに、どれほどの年月が掛かったことか。況してや他の【ファミリア】の人と親しくなるなんて言語道断、図々しいにも程がある。

その憧れの先輩が………見ず知らずの男と二人きりで、挙げ句の果てに、犬のように遊ばれている。

脳の処理が追いつけず、目の前の現実を理解したのは数分後であった。

 

「な・な・なッ…………何をしているんですか貴方はぁああああああああああッ!?」

 

冷静になった頭を再び爆発させながら、アイズと戯れている(コースケ)の元へ突撃する。

 

 

 

 

 

 

「……では、荷物をこちらに」

 

「う、うん……」

 

十八階層の『昼』が終わり、『夜』を迎えた頃。

誰も立ち寄らなさそうな人気のない場所、荷物を持って怯えている犬人(シアンスロープ)の少女とリリが集まっていた。

褐色肌の犬人(シアンスロープ)——ルルネ・ルーイ、【ヘルメス・ファミリア】所属の第三級冒険者が恐る恐る荷物を渡そうと、小鞄(ポーチ)の中を弄る。

ここまでは順調だったが……リリにとって最大の誤算が起きた。

 

「あ、あれ……?」

 

一瞬ルルネは呆気に取られた顔をするが、やがてその表情は焦りに変わり、小鞄の中を地面に撒き散らして探し出す。

小さな魔石、空になった小瓶、何かの破片……一銭の価値もないガラクタのみが散らばり、その様子にリリは状況が呑み込めずにいた。

 

「ない……やっぱりない! どうしてッ!? ……って、こ、これッ……よく見たら私のバックじゃない!」

 

「なッ!?」

 

「だ、誰かのと入れ替わったんだっ! どうしよう!? このままじゃあソイツが!」

 

仮にこの場を他の冒険者に見つけられたとしても、あらかじめ考えた言葉で何とか切り抜けられる……と思っていたが、ルルネ本人が運び屋としてあるまじき失態を犯した。あるいは、自分の荷物を区別できなくなるほど疲労困憊していたのかもしれない。

確率が非常に低い事象が目の前で繰り広げられていることに、リリは苦渋の色を浮かべた。

 

「ちょっ、どこへ行くんだよ!?」

 

背後から呼び止めようとするルルネの声を振り払い、リリはその場から離脱した。

もう挽回は無理だ。これ以上、下手に動けば事件を仕切ってる【ロキ・ファミリア】の団員にバレてしまいかねない。荷物を地上まで持っていくのは不可能だろう。

もう荷物のことは諦めるしかない、歯を食い縛りながら苦渋の選択をする。

 

(ですが、これだけでも……!)

 

走りながらポケットに手を突っ込み、中に仕舞った二つのロックシードを強く握り締める。誰にも盗られないように……と主張するかのように。

リリにとって、それは最後の全財産。

あの【ファミリア】から抜け出すための、唯一の希望。

命を賭して守らなくては———

 

 

 

『——アアアアアアアアアアアアア!!』

 

「え……?」

 

突如、怪物の音叉と共に爆風がリリを襲った。

リリの足元が地表ごと爆破され、小人族(パルゥム)の小さな身体は投げ出される。

 

 

 

 

 

 

刻は変わって、数十分前に遡る。

 

「つまり……アイズさんとは偶然ここで出会い、もっとジャガ丸くんが欲しくなったアイズさんにあげていただけ、ということですか?」

 

レフィーヤの前で正座をさせられる幸祐。アイズが仲裁に入ろうとするが、背後から鬼のようなオーラを放出させているレフィーヤに怯え、二人の間で狼狽る。

実はレフィーヤとは初対面ではないのだが、幸祐は自分の素性を名乗ってない上、【戦武将(アーマード)ライダー】の姿で顔が見えなかったので、食人花から救ってくれた【戦武将(アーマード)ライダー】が幸祐であることを、彼女(レフィーヤ)は知らない。

……仮に知ってたとしても、アイズの件となれば話は別になる。

 

「アイズさんとは赤の他人なのに、偶然ジャガ丸くんで餌付けする関係になったと……なるほど納得しました。それなら何の問題もありませんね………なんて、いうと思ったんですかぁあああああああああ!?」

 

一部始終、説明したが納得しなかった。

というか勢いが凄まじい。

 

他所(よそ)の【ファミリア】なのにアイズさんをッ、よりにもよってアイズさんの好物で釣ってッ、挙げ句の果てにアイズさんを子犬のように弄ぶなんてッ! そんな羨まし……じゃなくて、そんな下劣なことをするなんて最低です! 綺麗な見た目に反して、女の敵です!! この変態ヒューマンッ!!」

 

——今、羨ましいって、いいかけたよな?

と口を挟みたい幸祐だったが、指摘すれば更に面倒になりそうな予感がしたので、取り敢えずアイズ達に「ごめんなさい」と謝罪した。

落ち着かせようとアイズが動き出し、後輩(レフィーヤ)の肩に手を置いて落ち着かせる。

 

「……レフィーヤ、この人は良い人、だよ……私にジャガ丸くんをくれた」

 

「アイズさんも! ジャガ丸くんで簡単に騙されちゃ駄目です! このヒューマンだって、アイズさんを狙っている輩に違いありません!!」

 

「うぅ……」

 

レフィーヤの言い分に、いくつか修正したい部分はあったが、『食べ物(ジャガ丸くん)で人を判断するな』という部分は幸祐も同意だ。

後輩(レフィーヤ)の剣幕を受けて縮こまるアイズの姿を見て、ますます妹分(ベル)と似ていると納得してしまう幸祐。食べ物で簡単に信用するところまで。

 

「それよりもアイズさん! さきほど団長とリヴェリア様がアイズさんを呼んでいましたよ? 早く戻りましょう」

 

「……うん、わかった」

 

「そこの貴方も、ここにいては危険ですから私達と一緒に来てください。あ、ただし! 私は貴方のことをまだ信用していませんからね! アイズさんに半径二十M(メドル)は近づかないように!」

 

一言どころか二言余計なことをいうが、一方的に嫌ってる人にも声をかけるところから、根は良い娘なのだろう。

色んな妖精(エルフ)もいるのだと黄昏ていると、今度はアイズが声をかけてくる。

 

「……私達と、広場へ戻ろう? 一人でいると、危ないから」

 

アイズの言葉に幸祐は頷く。元々、街から離れたのは静かな場所に行き、処理しきれない頭を冷やしたかったのだが、逆に騒々しくなってしまった。

とはいえ、この場に留まる必要もなくなり、荷物を纏めようと小鞄を拾い上げたところで気づく。

 

「……ん?」

 

持っていた小鞄に違和感があった。幸祐は気になり、小鞄の中を弄り始める。

すると、中から口紐をキツく結ばれた袋が露わになる。

 

「……それ、何?」

 

視線を袋に寄せてアイズが尋ねてくる。猫のように幸祐を警戒し続けるレフィーヤが間に入りながら。

 

「これは? ……あ、よく見たら、これ俺のじゃねぇや」

 

そこで、ようやく自分の荷物でないことに気づく。

あの時、ぶつかった小麦肌の犬人(シアンスロープ)の女を思い出した。

地面に落とした拍子で荷物が混ざってしまい、似たデザインの小鞄を見分けられず、間違えて幸祐の荷物を持っていかれたようだ。

レフィーヤとアイズも袋に視線を集め、二人の視線を浴びながら袋口を開け始めた。

袋から取り出すと………信じられないものが出てきた

 

「な、何ですかッ、それッ……!?」

 

「……さ、さぁ? 俺の所有物でないことは確かだけど」

 

それは幸祐の両手にすっぽり収まる緑色の宝玉。薄い透明の膜に包まれた球体の内部は液体で満たされ、不気味な胎児が見えた。

 

「……この感じ」

 

アイズも気になって、顔を宝玉へ近付ける。忽ち幸祐同様、胎児の方へ視線が釘付けになってしまった。

幸祐だけでなくアイズも何かを感じ取った様子だ。

布越しでも、その宝玉から伝わる鼓動音が聞こえる。ドロップアイテム、もしくは新種のモンスターに見えるが……間違いなく生命体だ。

小さくコンパクトに丸まった体とは不釣り合いな大きな眼球が動き、ギョロッ、と視線が交差する。

 

『ッ————!?』

 

胎児と見つめ合った瞬間、幸祐とアイズは妙な感覚に取り憑かれる。

宝玉にいる胎児の呼吸に呼応するかのように心臓音が高まり、胎児と見つめ合うたびに身体中の臓器が活発化し始める。まるで幸祐の体が胎児に侵食されてしまうような、そんな錯覚に囚われそうになる。

甘美な蜜を蓄えている毒華に引き寄せられる蝶々のように、意識が胎児に引き寄せられ……

次の瞬間———

 

 

 

 

———オマ…エ………ダレ………ダ………?

 

 

 

 

「ッ————!!?」

 

宝玉から響く『声』が、幸祐の耳を打つ。

『声』というより、ノイズが入り混じった不快な音に近い。大量の蛆虫が鼓膜に直接まとわりつき、皮膚と筋肉の間にねじ込まれたような不快感を味わう。

耳を傾けるだけで吐き気を催され、危険と無意識に感じて地面に落としてしまう。

 

「ッ………!」

 

「アイズさん!?」

 

一方、アイズはもっと酷い様態だった。発作を起こした顔を両手で覆い隠し、膝から力が抜けたようにフラついている。

それをいち早く察知したレフィーヤが彼女の背を支え、地面に落ちた緑色の宝玉から距離を置かせる。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

「……う、うん」

 

何の傷も負ってないはずなのに、アイズは弱々しい声を上げる。その隣で背中をさすっているレフィーヤも、先輩のそんな姿を初めて目にしたのか動揺するばかりだ。

自分も狼狽するのを幸祐はひたすら隠し、なるべく宝玉内の胎児を見ないように袋にしまい込んで小鞄に入れ直す。

 

「これ、どうする……?」

 

布が緩んで中を晒さないように注意を払いながら、改めて不気味な物体を見やり、その対処法を模索する。

 

「……私達の団長に預けるべきです」

 

幸祐の問いに答えたのは、弱っているアイズに代わって決断するレフィーヤだ。幸いなことにレフィーヤはこの中で唯一、宝玉による悪影響を受けてない。

その提案に幸祐は同意する。この状況下で異論などない、というより、これ以上この宝玉に関わりたくないというのが大まかな理由だ。

改めてリヴィラの街へ戻ろうと踵を返した——その時だ。

 

『——アアアアアアアアアアアアア!!』

 

街の方から崩壊音と悲鳴、そして聞き覚えのある怪物の音叉が耳に入ったのは。

 

「ッ! あれは!?」

 

森の中を駆け抜け、手すりが設置されている見晴らしの良い場所に到達する。

そこで見たのは街から天上へ舞い上がる灰色の煙、そして無数の食人花の怪物——モンスターの襲来だった。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

幸祐達の背後に、全身フードを被った男がいた。

その男が凝視しているのは、幸祐の腰元にある小鞄——宝玉に包まれた胎児だ。

 

「———アンタが宿屋の男を殺した犯人ね」

 

「ッ………」

 

背後から凛とした声が聞こえた。振り返ると、そこにいたのは軽装の金髪赤眼のハーフエルフと、紫と緑のオッドアイが目立つ狼人(ウェアウルフ)の少女。

 

「次からは現場に手掛かりを徹底的に残さないでおくか、毒妖蛆(ポイズンウェルミス)の臭いを消すことね」

 

その言葉に、男は瞬時に理解した。目の前の少女達は、自分が変装のために使用した毒妖蛆(ポイズンウェルミス)の体液の臭いを辿って突き止めたのだと。

頭を綺麗に引き剥がされた現場を目にし、誰もが正気の沙汰じゃないと慄いた。相当苛立っていたのか、それとも収集家(コレクター)による犯行か。

その大衆の中、犯人は八つ当たりでも収集(コレクト)でもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と推測したフォルト。

同時に、表皮の腐敗を抑える毒妖蛆(ポイズンウェルミス)の体液の存在を思い出す。現場にも、それらしき異臭を放つ液体がこびり付いていた。

その微かな毒の臭いを、嗅覚能力に最も優れた狼人(ウェアウルフ)であるミューリーに嗅がせることによって追跡し、人気のない場所に来るだろうと予測し、待ち伏せした……という経緯があって現在に至る。

 

「黙ってるだけ? 力尽くで吐かせても一向に構わないわよ?」

 

「フォルトさん! あの人が犯人と、まだ決まったわけじゃ……」

 

腰に手をかけ戦闘体勢に入るフォルトに、ミューリーは早とちりし過ぎだと宥める。

狼人(ウェアウルフ)の少女だけなら切り抜けられると思ったが、どうやらハーフエルフの少女には見破られている。無視を決め込んでも無駄だと理解したのか、苛立ちを抑えながら暴露する。

 

「……頭が冴える連中だ」

 

「ッ! 女性の声!?」

 

「ビンゴね……」

 

いくら包帯や鎧で誤魔化しても、流石に声までは変えられない。

ミューリーは全身フードの人物を警戒し、フォルトは冷静に分析する。

犯人は眼前にいる、被害者(ハシャーナ)から顔の皮膚を拝借した女だと。

すると男——否、女は指を鳴らした。

 

『——オオオオオオオオ!!』

 

『ッ!?』

 

突然、背後から現れた食人花のモンスター。

 

「——-暴れろ」

 

たった一言、その命令に従いモンスターは狂ったように暴れ出す。二人はその猛攻に巻き込まれ、女から距離を置かれてしまう。

二人の注目をモンスターに引きつけている間に、女は駆け抜けて宝玉の方へ向かう。

 

「ッ——待て!」

 

見向きもされず逃げられることに激昂するフォルトの声を振り払い、女は幸祐達の元へ駆け抜けた。

 

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