ダンジョンに鎧武がいるのは間違ってるだろうか 作:福宮タツヒサ
森林から移動した幸祐達は、目の前で繰り出される災害に驚きを隠せなかった。
魔石灯の光で彩られた夜の街が蹂躙されている。街の至るところに食人花のモンスターに蔓延り、建築物を破壊し続ける。中央の広場で多くの冒険者が小隊を組みモンスターの襲撃に対応しているが、苦戦を強いられた様子だ。
『ギィオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
災害に気を取られ呆然とする幸祐の真横から突如、一体の食人花のモンスターが飛びかかる。
金色の突風が幸祐の横を通り抜けたと思うと、モンスターは真っ二つにされた。アイズが抜刀した
しかし、今度は
「レフィーヤ、その人を連れて先に広場へ!」
「アイズさん!?」
食人花のモンスターの軍勢に飛び出し、斬撃の嵐を浴びせるアイズ。少女の手で次々と倒される一方、幸祐は呆気に取られ、もう一方レフィーヤはアイズに頼りっきりである自分の不甲斐なさを痛感していた。
だが杖を固く握り締め、
「……行きましょう」
「えッ? だけど……!」
「ここにいても、私達はアイズさんの足手まといになるだけです! それよりも、この宝玉を早く団長達の元へ届けることが——!?」
その先を言い切る前、レフィーヤは真っ青な顔をして口を閉ざした。蛇に睨まれた蛙のように、その場から動けなくなる。
同じく幸祐も、ゾクリッ……!! と、背筋に悪寒が駆け巡った。
背後を振り返ると、先程まで誰もいなかったはずなのに男が佇んでいる。全身が分厚い黒の鎧に包まれ、ボロ布に包まれて顔の半分しか見えない怪しげな男が、ずっとこちらを見つめている。
殺意が込められた様子が見られず、
「と、止まってください!!」
レフィーヤがそう叫んでも、男は警告を無視しながら近付く。
男の全身から漂わせる雰囲気に警戒し、身構えた瞬間……視界から男の姿が消えた。
「——ぐふッ!?」
懐を通り抜け、瞬きすら許されない速度で動きを捉えられず、幸祐は拳を腹部にめり込まれる。
幸祐は地面に両膝をつくと腹部から内臓に伝わる痛みに悶え苦しんだ。
「がぁッ……! あぐぁ、あッ!?」
男は無言のまま幸祐の首を掴むと、軽々と彼の身体を頭上へ持ち上げる。
尋常じゃない握力、モンスターの比じゃない。金属の籠手に首を圧迫され、男の手の中で必死にもがくも、貼りついたみたいに全く離れない。幸祐が抵抗する度に男は五本の指により力を込めるため、息苦しくなる一方だ。
「こ、この!」
レフィーヤが杖の矛先を向けて刺突しにかかる。
詠唱魔法を放てば男の至近距離にいる幸祐も巻き添いになるため、そのことを考慮した行動だが、男は一瞥もくれず左手を振るった。
「へ? きゃあッ!!」
手元の杖を弾かれ、信じられない怪力で後方の水晶に叩きつけられるレフィーヤ。水晶に亀裂が生じ、打ちつけられた背中に走る痛みに苦しむ。
「ッご、は———!!?」
ミシッ——と、幸祐の喉から軋む音が鳴り響く。
咄嗟に男の顔を見るが、その表情は死んでいた。路端の虫けらを捻り潰すような、何の躊躇いもなく目の前の障害物を排除することを選ぶ……
「——【
死を覚悟した時、金色の突風が男と幸祐の間に飛び込んだ。
咄嗟に幸祐の首を離し回避する男だが、斬撃を纏った風は男の全身を覆い、黒鎧を吹き飛ばしながら後方の水晶柱へ叩きつける。
その突風は暴風を纏った刺突、その剣の持ち主は金髪金眼の少女だ。
「アイズさん!」
痛みから回復したレフィーヤが杖を携えながら駆け寄り、咳き込み首の痛みに苦しんでいる幸祐を守るように陣取って男に警戒する。
砕けた水晶柱の破片を払い落とし、蔓延する砂埃から襲撃者が姿を見せる。
「お、んな……!?」
ボロ布が剥がれ、顔面皮膚の下から現れたのは筋肉繊維でも血肉でも白骨でもない……瑞々しい白い肌。鎧が破壊され、内からインナーに包まれた豊満な胸と、しなやかな四肢が露わになる。
被害者の顔から剥ぎ取った皮膚が引き裂かれ、血のように赤い髪の女が見えた。
「この風……そうか、お前が『アリア』か」
「ッ———!?」
女がいった『アリア』という言葉にアイズは目を見開く。それを横目で幸祐とレフィーヤは訝しむ。
『——ァアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
突然、絶叫が辺りに響き渡る。
間違いなくあの宝玉——不気味な雌の胎児だ。
胎児は自力で緑の膜を突き破ると、自分の体長の何倍以上もある飛距離でアイズの顔に向かった。
「ッ、伏せろ!!」
首絞めによる咳き込みから脱した幸祐が駆け寄り、アイズを地面に押し倒した。
アイズの顔に迫った胎児は大きく逸れ、水晶の向こうに消えていく。
『ッ———オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
向こう側から絶叫が響いたかと思えば、ズルリと水晶の奥から人型の輪郭を保ったモンスターが現れた。
アイズやレフィーヤは、そのモンスターに見覚えがあり、驚きを隠せずにいる。
「ええい、全て台無しだ……!」
計画が狂ったといわんばかりに赤髪の女は盛大な舌打ちをする。
一方、胎児に寄生されたモンスターは、他の食人花を追いかけ回しながら捕食し始める。
その際、両眼や鼻がなく、中枢部位と思われる雌の顔と視線が合う幸祐。その顔はまるで怒っているかのように見えた。
「がッ————!!?」
腕に衝撃が伝わったかと思えば、体がふっ飛ばされるのを自覚する幸祐。
邪魔されたことに腹を立てたような仕草で、幸祐は食人花のモンスターが生み出した蔓の鞭を真横から受けた。
咄嗟に手を伸ばしたが、こちらへ手を伸ばそうとアイズ達の手を掴むことができず、彼女達から離れた地点へ飛ばされてしまう。
△
場所は離れて、
「これで!!」
弓と矢を構えたミューリー。数体いるうち最も巨大な食人花のモンスターに矛先を向け、躊躇なく弦を引き離す。
先端に爆発性の魔石が付着した矢が突き刺さり、モンスターの表皮を爆破させた。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?』
肌に纏わり付く爆炎にモンスターは絶叫を上げ、その場で蛇のようにうねくりかえる。
「今です、フォルトさん!」
ミューリーの掛け声に合わせ、【
「ハァアアアッ!!」
《カモン! バナナ・オーレ!》
『アァアアアアアァアアァアアアアアッ!!?』
《バナスピアー》から流れた波動が地中に溜まり、エネルギー状の巨大バナナ槍と化す。
地面から生えた無数の巨大バナナに貫かれ、そこら一帯の食人花のモンスターは断末魔を上げながら爆散した。
一息ついたところで、フォルトは女の正体に迫り出す。
(あまりにも出来過ぎている……あの女、
街の方には五十体もの食人花のモンスターが暴れまわっている。だが、これ程の数が見張りの目を掻い潜り、接近の予兆さえ感じさせず進入できるのか。そもそも
これらの情報から、襲撃犯はモンスターの統率力に長けていると推測する。
「ッ!? フォルトさんッ、あれをッ!!」
声を上げたミューリーが街の方を指差す。
何体もの食人花のモンスターが寄生されながら繋がり、膨れ上がった人型の部位が羽化するように体皮を破った。女体のような人型を保った上半身と、食人花のモンスターが集合し蛸の触手のように形成された下半身の……超大型級モンスターの全貌が現れる。
その超大型モンスターを、二人は見覚えがあった。
以前【ロキ・ファミリア】の『遠征』で五十階層に遭遇したモンスターと酷似したものだ。
「……固まって手間が省けた。纏めて消し去るわよ」
「は、はい!」
驚愕するミューリーとは反対に冷静なフォルトは、
▷
「———ぶわッ、ぷ!?」
モンスターの放った一撃に飛ばされ、幸祐は地面を転げ回りながら落下の衝撃を吸収されていき、七、八回でようやく止まった。
本来、あの強力な一撃で腕が折られているはずだったが、防いだ腕は当たった箇所が赤く腫れ上がっているだけだ。
「イテテ……あ、これ、エイナさんが贈ってくれた」
その腕をよく見ると、担当アドバイザーのエイナが渡してくれた革籠手が巻かれていた。エイナが見繕ってくれた革籠手にはクッションのような素材が埋め込まれており、腕に当たった衝撃を和らげてくれたようだ。
「……やっぱり貰って良かったよ、エイナさん」
心の中で感謝の言葉を述べつつ、立ち上がって周囲を見渡す。
そこは人目がつかないような暗い場所だったが、そこらに飛び散った炎の海で明るくなっている。既に何匹か食人花のモンスターで埋め尽くされ、正に地獄絵図だ。
「あ………いた」
視界の端に、あの少女——リリがいた。
その周囲には見覚えのあるロックシードが散らばっている。
やはり彼女が盗んだようだ。薄々分かってはいたことだが、やはりショックを隠せない。
すると一体の食人花がリリの前に立ちはだかり、リリの体を潰そうと蔓を生成し始める。
——見捨てちまえ。
……また、声が聞こえた。
おぞましい胎児の『音』と違い、心の隙を突き、耳を不愉快にさせる『声』だ。
以前、自分を憎悪に誘いこませたものだ。
——自分すら救えないくせに、お前にできるとでも?
——それに、アイツはまた裏切るに決まっている。
——アイツはただの犯罪者だ、見捨てろ。
走り出そうとした足を止められ、悪意に囁かれ、幻覚を見た。
醜悪な笑みを浮かべた
それを観るにつれて幸祐に潜む怒りが沸々と湧き上がり、『声』も昂まっていく。
——見捨てろ、見捨てろッ、見捨てろッ!!
——見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨てろ見捨て——!!!
「——うるせぇ!! そいつの中身を知ろうともしないで、見ているだけの
勝手に憎しみに囚われかける
頬から痛みが走るが、それこそ自分への見せしめだ。
見せられていた幻影が消え去り、幸祐は正気を取り戻す。
少女がしたことが許される行為でないとしても、それで見捨てて良い理由にならない。
何より、立場や人種など、身勝手な偏見で人を見捨てるなど、幸祐が最もしたくない行為だ。
「桜庭幸祐……今のお前にとって大事なことは、『何ができる』かじゃない……『何をしたい』かだろッ!?」
『出しゃばり』『お人好し』といわれようが、そんなの無視してしまえ。そう自分にいい聞かせ、腰に巻かれた石の刀を持ち直し、戦火の中を駆け出す。
もう、あの騒がしい『声』は聞こえなかった。
▼
飛び交う戦火、モンスターが巻き起こした炎の海。
超大型モンスターから逃れ、触手とならずに済んだ食人花のモンスター達が、取り囲むようにリリを包囲している。
前にも、似たような状況を味わった。前と違う点は、もう二度目はないことだ。
役立たず、盗みを働くサポーターなど、誰も助けないに決まっている。
あの蒼髪の少年も、もう来てくれないだろう。
窮地から救ってくれた恩人を……他でもないリリが裏切ったのだ。誰が好んで恩知らずの薄情者に手を差し伸べるだろうか。
仕方のないことだ。命の恩人である少年を裏切ったからこそ、命を以て裁かれる。
「でも、悔しいなぁ……」
それでも、仕方ないと割り切っても……悔しかった。
リリは冒険者が嫌いだ。
分け前など一銭もくれない、言い掛かりをつけて痛めつける、そんな自分のことしか考えない奴等を憎んだ。自分を弄んだ冒険者が痛手を負う姿は圧巻で、盗まれて意気消沈する姿はとても爽快感があった。ざまぁ見ろと思ってしまった。
そんな汚い自分が、そんな醜く歪んだ自身が何より嫌いだった。
挙げ句の果てに、恩を仇で返した結果がこれだ。
後悔していないといえば嘘になる。
それ以上に………寂しかった。
今更だが、あの背中が……あの暖かさが……
今はとても恋しい………
「………あ……そっか…そうなんだ……リリはただ、寂しかったんだ」
誰でも良いから、誰かの役に立ちたかった。
自分を必要としてくれる誰かの傍にいたかった、それだけだった。
でも、そんな苦悩も味わらなくて済む。ようやく、この嫌な人生を終えられる。
「コースケ様……私は…………」
遺言のように最後に口から出たのは、暖かさをくれて窮地から救ってくれた、あの綺麗な少年の名前。
『オオオオオオオオオオオオオオ!!』
リリの体が肉片の塊に変容される瞬間、
「———オラァッ!!」
「ひゃっ!?」
突然、掻っ攫われるように抱き締められ、小さな悲鳴を上げながらリリの体は横へ飛ばされる。リリの体に落ちるはずだったモンスターの一撃は、先程までいた地点に亀裂を刻んだ。
「痛てて……大丈夫か?」
「なッ……コ、コースケ様!?」
見覚えのある蒼髪の少年が抱き締め、地面にゆっくり下ろしてくれる。
またしても、彼が助けてくれた。
彼はまだリリが泥棒だと気づいていないのだろうか?
「お前……これに懲りたら、もう人から盗みを働くのは止めとけよ?」
否、彼は知っていた。
大事な荷物を盗まれたと理解していながら、それでも
彼女を恩知らずと知っておりながら……
「……どうして、ですかッ?」
「ん?」
「リリは貴方を——命の恩人を騙したんですよ? 貴方のものを盗んだ挙句、もしもの時は貴方を利用して、リリの罪を全部擦り付けようとしたんですよッ? なのに……どうして
リリの必死な言葉に、幸祐は何も言わなかった。
一気にカァッ、とリリの顔が熱くなる。
羞恥心や怒りが入り混じった、自分でも制御できない感情が爆発してしまう。
「ねぇ……答えてくださいよ! それとも馬鹿なんですか!? 貴方はどこぞの無責任な英雄気取りですか! 女性なら誰でも助けるっていうんですか!? リリが一体いつ貴方に『助けて』なんて言ったんですかぁッ!!」
「俺と初めて会った時だ」
「え……?」
リリの激昂に、幸祐は迷うことなく応えた。
「お前が言っただろ? 『助けて』って」
初めて話してくれた返答に、リリの栗色の瞳が目端まで見開かれる。
確かに似たような言葉を口にしたのは記憶にある。だが、それは幸祐を天使だと勘違いしたからであって、今の状況とは関係ない。
だが、もし本当に、その一言だけで今の今まで構ってくれたのなら……どうしてなのか理解できない。
一銭の価値もない『役立たず』を助けたところで、何の利益もないはずなのに。
この男も『冒険者』のはずなのに。
「育った環境が最悪で、周りが害悪だらけの大人ばかりだから居場所を奪われ、生きていることすら非難されてきた。だから生きるためには、自分も『悪役』を演じるしかなかった……だろ?」
次々とリリの核心を突く幸祐の言葉は、まるで嘘を見通す神のようだった。
「ど、どうしてッ……そんなことが分かると……!?」
「俺も、ずっと独りぼっちだったからだ。だから多少は分かるよ、お前の気持ち」
リリは再び言葉を失い、同時にリリの中で確信を得た。
——この
孤独に苛まれ、いつも心細くて、誰かに必要とされたかった。『サポーター』だろうが『冒険者』だろうが関係ない、寂しいという感情が人一倍激しい同種だ。
それでも、この男は堕ちなかった。人の汚い悪意に晒され、人に憎悪を抱きつつも、
「英雄気取り、って言ったな? だけど俺はお前の英雄になれない。あるハーフエルフが俺のことをガキと罵ったぐらいだ。英雄みたいな行為、俺にはできないって分かっている」
いつの間にか、リリは言葉を発することを忘れた。
今まで色んな冒険者を見てきたが、目の前にいる少年はどの部類にも属さない異色。
物語に登場する『
でも、リリは彼を『ガキ』とも呼べない。
——キィン。
幸祐の握っていた石の刀に『変化』が訪れた。
内部から起こる振動により、表面上の石が崩れ始め、隙間から眩しい光が漏れ出す。
新たな生命が誕生するような光を発しながら、それは石の殻を廃破ろうと足掻いているように見える。
リリが驚きながら石の刀を見つめる中、幸祐は地面に散らばっているロックシードを拾い上げた。
『オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
《戦極ドライバー》を腰に装着し直し、《オレンジ・ロックシード》を構える少年に、束になった食人花達は大きな口を開けて威嚇する。
《ロック・オン!》
幸祐が先に、ベルトに手をかけた。
「変身!」
《ソイヤ! オレンジアームズ! 花道・オンステージ!》
異空間から現れた球体が幸祐の頭に覆い被さり、オレンジの鎧が展開され、【戦武将ライダー】の姿に『変身』を遂げる。
——パキィイイイイイイイイイイッ!!
と、同時に……石の刀が砕け散り、漆黒の刀身が姿を現わした。
(ッ……あれは、一体!?)
信じられない様子のリリが見たものは、漆黒に染まった刀身。黄色の鍔部分が銃身になっており、持ち手を掴むと人差し指で引き金が引けるように設置されている。
銃と一体化した片刃の銃剣——後で《無双セイバー》と名付けた——を、幸祐はマジマジと見つめる。
すると鍔部分にはベルトと同じ形状の窪みを見つける。
ここにロックシードを嵌め込めるのだと予測し、地面に散らばっている《パイン・ロックシード》を拾い上げた。
《パイン!》
「だけど、俺はただのガキじゃない。融通の効かない、我が儘な『悪ガキ』だ」
《ロック・オン! 壱・十・百!》
「我が儘な俺は、俺がやりたいことをやる。何も考えずにお前を助けるのも……俺がやりたいって思ったからだ」
音声を上げながら黒い刀身が、橙色と白銀の光に包まれていく。
それはただの光ではない、純粋な力。
しかもただの力にあらず。
『ッ——ギィオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
すぐさま危険と察知したのか、食人花は猶予など与えずに殺しにかかった。
「コースケ様! 逃げてぇ!!」
リリが必死な様子で叫ぶも、幸祐は逃げようとしない。
《パイン・チャージ!》
「要するに、俺がお前に言いたいことは、ただ一つだ………ゴチャゴチャ余計なことを考えず、黙って助けられろォ! この
全身全霊、力を込めて《無双セイバー》を振り下ろした。
『ッッッ———————————————————!?』
十数メートルの高さに及ぶ、黄色を帯びた斬撃。
黒い刀身から放たれ、波紋となって地表を砕きながら突き進んだそれは、束になった食人花を切り裂く。
モンスターは花の口から断末魔を上げる間もなく、大木のような巨体を丸ごと蒸発されて大気中に消え去る。
「す、凄い………」
目の前で幸祐が起こした現象にリリは呆然としてしまう。
唐突に嵐が発生したのを見せられたような感覚だ。
これが『冒険者』、もとい【
「………あ、あれ?」
不意に違和感を覚えた。
彼女が持つ《スキル》の効果で軽く感じたものが、こんなにも重かったのだろうかと、持ち上げることができなかった。
リリは自身の体に異常があることを悟った。まるで【ステイタス】そのものが消え去ったような、
これも、あの少年が引き起こした奇跡なのだろうか。
「コースケ様、貴方は一体……」
誰にも聞こえないような声で呟いたリリ。
だが、彼の正体など、もうどうでも良かった。
▲
下界を見渡せる『神の鏡』という神の力。
今日一日限りという契約で、ダンジョンの一部を、後からくる
全ては、
「ウフフ…ほらね? やっぱり
——こんなにも、あの子の魂が輝き、燃えているもの。
神々が、下界の子供達に興味を持つ理由。
子供達にしかないもの———『
ステイタスを刻み、恩恵を施す……それだけで、子供達は化ける。
良くも悪くも、様々な者へ『変身』する。
ある者は魂が輝きを増し、ある者は魂が燻る。そして稀に白く純粋な
幸祐の
しかし
その一瞬だけ、フレイヤに見せてくれた
「ほら、もっと頑張ってちょうだい♪」
——もっと、もっともっと……
この一時だけでも良いから、
△
数分後、リヴィラの街にいる冒険者の活躍で食人花のモンスターが一掃され、街からモンスターの音叉が消えた。
幸祐は金属同士がぶつかり合う音が鳴り止まない西端の荒れ地へ視線を向ける。
「あれは……」
幸祐が見たものは、信じられない速度でアイズと赤髪の女が剣を交わしている光景。
変身したことで初めて幸祐は二人の動きを捉えることができるが、赤髪の女に段々と押されている。明らかにアイズの方が劣勢だ。
動揺しているのか、本来の力を発揮できていないように見える。
———コォォォォ……!!!
あの姿を見ると、幸祐の胸が熱くなった。
胸のポケットを弄り、熱源を手に取る。
それはロックシードだが、見覚えのないもの。幸祐の持っているロックシードよりやや大きく、絵柄は果物ではなく桜の花弁。『L.V.-01』と文字が刻まれているものだ。
スイッチを押すと、そのロックシードは掌から飛び出し『変形』し始める。
空中で制止すると、人より大きいサイズになりながら音を立て、車輪、ハンドル、スタンドなどが形成されていく。
空中で変形を終えたそれはガシャーンッ!! と盛大に着地する。
「これ………バイク?」
桜の花弁を模した
その搭乗機は、幸祐の『心』を代弁しているかのようだった。
——
「ま、待ってください! あの……」
幸祐がオートバイクにまたがる直前、リリが慌てて引き止める。
赤髪の女は明らかに危険人物だと、リリが持つ長年の勘が疼いていた。
【ロキ・ファミリア】幹部の一人でもある【
二度も自分を救ってくれた恩人を、リリは死なせたくなかった。
いつものように心を殺し、以前のように『
だけど今更、彼に何を言えば良いのか分からず、口を閉ざしたままでいると……
「心配すんなって。用が終わったら迎えに行くから……その時、ちゃんと話つけような?」
頭に手を置き、子供をあやすような手つきでリリを撫でる幸祐。
リリの頬がカァッ、と熱くなった。
先程のものとは違う。怒っているのか恥ずかしいのか分からず、自分でも制御できそうにない。だけど、とても心地良い感情に支配される。
——この
ならば、せめてもの意地を張ろう。
撫でてくれる手を振り払い、リリは顔を真っ赤にしながら幸祐を見上げる。
「絶対に……戻って来てくださいッ。リリだけ帰るなんて、まっぴらごめんですからッ!」
「……了解だ」
仮面越しで笑ってしまい、幸祐は何が何でも生還しなくてはならないと心に誓った。
搭乗機を動かし、
△
——何故だ……?
——何故、
——その女は