ダンジョンに鎧武がいるのは間違ってるだろうか   作:福宮タツヒサ

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第弐拾参話 少女の戸惑い

◆

 

 

 

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頭上を飛び交う矢の嵐。

叫びと共に血と肉が飛び散り、幾億もの生命が散らされる。

そこは戦場——乱世の舞台。己が命を賭け、武人達が生き抜く合戦の地。

大きな軍隊が二つ、対立していた。

軍を指揮し、先陣を切って飛び出した『武人』が二人。

 

 

 

『掛かれぇえええええええええええええええッ!!』

 

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

一人は、紺の武者。

黒色の馬に跨り、黒刀と橙剣を携えて突撃する。

 

 

 

『迎え撃てぇええええええええええええええッ!!』

 

『ヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

対するは、赤の騎士。

薔薇色の搭乗機を操縦し、黄の長槍(ランス)を構えて追撃する。

 

 

 

———天下を掴むは、果たして……………

 

 

 

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「う、うん………ん?」

 

意識を回復させながらゆっくりと眼を見開く。

初見のはずなのに見覚えのあるような、殺伐とした残夢から戻り始め、次第に視界が冴えていく。

おぼろげな目で最初に目にしたのは、顔を覗かせて凝視し続ける金色の瞳。

 

「あ、起きた……」

 

頭上の少女——アイズ・ヴァレンシュタインの顔面を捉えた。

と同時に、幸祐は後頭部に違和感を覚える。

この特有の柔らかい感触……もしや、と感じた。

幼少期に味わった覚えがある。母親にせがんで何度もしてもらったもの。その名も……

 

「———膝枕!?」

 

「あ………」

 

一気に脳が覚醒し、慌ててアイズの膝から飛び上がる幸祐。

先程まで幸祐の髪に触れていたアイズは名残惜しそうな表情を浮かべながら、こっそりと手を引っ込める。

 

「……ご、ごめんなさい。辛そうだったから……嫌…だった……?」

 

「いや、別に嫌じゃないけど……」

 

とても心臓に悪い、と呟きかけた口を閉ざす。

『嫌じゃない』という発言がこの場合は正しい回答だったのか、無表情を保ったままアイズの周囲が明るくなった気がする。

 

「……って、ここは?」

 

ようやく、そこがダンジョン十八階層でないことに気づく。

摩天楼施設(バベル)の治療室。ベッドの上で膝枕をされていたらしい。服装もボロボロなシャツから新品のインナーに変わっていた。

 

「なぁ、あれからどうなった?」

 

状況が呑み込めず問いかけた幸祐に、アイズは事情を説明し始める。

あの騒動後、一度アイズ達は地上へ帰還した。その際、必死で幸祐を助けてと泣き叫んでいた小人族(リリ)も、気絶していた幸祐と一緒に地上まで運んでくれた【ロキ・ファミリア】達。

本来なら【ファミリア】に直接送るべきだが、幸祐の住居がどこか分からず、ここまで運んで治療を施したそうだ。

リリも別室で治療を受けて体調も良好だと聞き、幸祐は安堵の息を漏らす。

 

「……ありがとう」

 

「ん?」

 

「君には二回も助けてもらったのに、まだお礼をいえなかった……それとモンスターの件。関係ない君に迷惑をかけて……ごめんなさい」

 

感謝の念を込め、申し訳なさそうな顔をする。ミノタウロスや食人花モンスターのことらしい。

急に頭を下げられ、幸祐は少し戸惑いながら制止する。

 

「お、おい、頭を上げろよ。俺は好き勝手にやっただけだ、感謝される覚えはないって」

 

「で、でも……」

 

それでも納得できないアイズに「それよりも」と幸祐は遮る。

 

「怪我は? あの女に受けた傷はもう治ったのか?」

 

「え? ……う、うん。リヴェリアの治療を受けたから」

 

「そっか、なら良かった」

 

アイズが平気だと聞き、まるで自分のことのように幸祐は喜ぶ。地上に着く前に応急処置をしなければ、出血多量で死ぬかもしれなかったというのに。

同年代の異性にそんな扱いされたアイズは新鮮に思い、心が暖かくなるのを感じる。

 

「むしろ礼をいうのは俺の方だ、ヴァレンシュタインさん。俺だけじゃなく連れの子も地上へ送ってくれたんだから」

 

幸祐とリリだけでは地上へ生還するのは困難だったに違いない、感謝するのも迷惑をかけた謝罪をするのも自分の方だと幸祐は述べる。

しかし『ヴァレンシュタインさん』と呼んだ瞬間、気のせいか、アイズの顔がムッとなった。どこか不機嫌そう。

 

「……アイズで良いよ。『さん』も、いらない」

 

「え? でも、いきなりは——」

「アイズ」

 

「いや、でも知り合って間も——」

「アイズ」

 

「……その、だからな——」

「アイズ」

 

「………あの——」

「アイズ」

 

「………アイズさ——」

「アイズ、『さん』はいらない」

 

 

 

「……ア、アイズ」

 

「……♪」

 

問答無用。第一級冒険者の有無をいわさない貫禄で圧をかけてくるアイズ。

呼び捨てにした途端、無表情ながらも嬉しそうな仕草をし出した。充満していた圧も消え去っている。

 

「ねー、アイズ! そろそろ起きたー!?」

 

ドンッ! と扉を乱暴に開けながら、部屋中に活発な声を轟かせてアマゾネスの少女が飛び出す。

 

「あー! 武者くん起きたんだ、良かったー!!」

 

幸祐と視線が合った瞬間、少女は太陽のような笑みを浮かべながら飛びついて抱き着く。

 

「お、おい! ちょっと待て! お前は誰? ってか、いきなり何だ!?」

 

「私ティオナって言うのー。キミでしょ、あの花みたいなモンスター倒してくれた武者くんは? ありがとうねー!」

 

よくよく見ると怪物祭(モンスターフィリア)の時、街中で食人花のモンスター襲撃の時に見合わせたアマゾネス姉妹、その片割れだった。

だが、何故いきなり抱き着かれたのか分からず、控えめな少女の胸部にドギマギし軽くパニック状態になる。

 

「ねーねー、キミの名前は? 教えて教えてー!」

 

「ッ……こ、幸祐だ、桜庭幸祐。つーか抱き着くな! 胸が当たってんだよ!」

 

「え〜、私の胸を意識するの? ……ふふふー」

 

「な、何だ? その不敵な笑みは……って、抱き寄せる力を込めるな、早よ離れろ! おい、マジで止めろぉ!?」

 

不敵な笑みを浮かべて抱きつく力を緩めない。尚、ティオナに抱きつかれる際、アイズは頬が膨れ上がり、また機嫌が悪くなってしまう。

男の団員が目撃すれば歯軋りするほど羨ましい光景だが、混乱する幸祐にはとんだとばっちりだ。

 

「——ちょっと、お邪魔しても良いかな?」

 

またしても治療室に誰かが入室する。小人族の男性とハイエルフの女性、【ロキ・ファミリア】の団長(フィン)と副団長(リヴェリア)だ。

二人は柔和な笑みを浮かべながら幸祐と対面する。

 

「こんな形だが、改めて感謝するよ。サクラバ・コースケ君」

 

「私からも言わせてくれ、私達の仲間を助けてくれて感謝している」

 

フィンに礼を言われたかと思えば、続けてリヴェリアにも頭を下げられる。

感謝を述べられたのは何年振りだというのに、都市内で一位二位を争う有名人達に感謝の言葉を述べられるのは人生初だった。頭を下げられることに慣れていない幸祐は、二人に頭を上げてほしいと頼み込むが、尚も「楽にしてくれ」と嗜められる。

 

「話は変わるが、君はどこの【ファミリア】なんだい? 一応、確認をしておきたくてね」

 

フィンに警戒している様子はない。しかし団員の恩人と言えど、身元不明の男を信用するほど寛大ではないのだろう。団体の長として正しい判断だと幸祐は思った。

 

「一応【ヘスティア・ファミリア】の副団長をやってますけど……」

 

あ……そういえば神ロキとヘスティアは犬猿の仲だと、ヘスティア本人から聞いたのを今更ながら思い出す。

 

「その名、いつもロキが愚痴を溢していた女神の……ああ、すまないな。私達の主神(バカ)のことは気にしないでくれ。恩人の【ファミリア】と敵対するようなことはしない」

 

すかさずリヴェリアが敵対意思はないことを伝える。

主神同士が仲悪いと【ファミリア】同士の戦争が勃発する場合もあるが、その心配はなかったようだ……今、自分達の主神を『バカ』呼ばわりしたことに団員の誰も指摘しないのだろうか? と余計なことは口に出せない幸祐。

その後、本格的な質疑応答が始まった。内容は街を襲った食人花のモンスターと、幸祐が撃退した赤髪の女について。

最も、幸祐は何の情報もなく質疑自体はすぐ終わり、リヴィラの街で起こった騒動は口外しないように、と釘を刺されるだけだった。

また、リヴェリアからは神(・)の(・)恩(・)恵(・)が(・)な(・)い(・)少(・)女(・)をダンジョンに連れていくのは感心できない、と注意される。

 

「この礼は、いつか必ず返すよ。フォルトにも君に手を出さないよう僕から言っておこう。君や君の【ファミリア】に何かあれば僕らが駆けつける、そう思ってほしい」

 

最後に「もちろん無償(タダ)さ」と付け加えるフィン。

つまり、非常時には自分達がバックアップしてくれるという、【ロキ・ファミリア】全体の意思表示ということなのだろう。

巧妙な手口で丸め込められているが、嫌な気分にならない。

大手企業(ファミリア)への好印象が少し上がったが、あまり信用しすぎると引き込まれそうになる。目の前にいる団長(フィン)は所謂“良い人”なのだろうが、油断ならない手腕を有するのも確かだ。

ある程度の治療も既に終えたのを確認した幸祐は、アイズとティオナに連れられてその部屋から退出していく。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても何を考えている、フィン? 以前、勧誘したいと言っていたお前が、こうもあっさり彼を返すとは」

 

「気が変わったのさ。直接話してみて分かったけど、彼は簡単に改宗(コンヴァージョン)するような性格じゃない……それに、彼の思う強さは、僕らのものとは異質だろう」

 

「………まるで、あの娘(フォルト)を見ているようだ」

 

治療室から去った後、そんな会話があったのを幸祐達は知らなかった。

 

 

 

△

 

 

 

退出後、リリを迎えに行った幸祐達。レフィーヤがリリに着いてくれたようで、二人と合流してバベルの入り口まで移動する。

その際、上機嫌なティオナに腕を抱きつかれながら、趣味や好きな食べ物、好みの女のタイプとか、あれこれ質問攻めを受けていた。ワザとか無意識なのか、幸祐の腕がティオナの胸に当たってしまう。

ずっと隣でアイズやリリに不機嫌そうに睨まれ、レフィーヤから「汚らわしい汚らわしい汚らわしい……」とゴミを見るような視線を受けるが、加減を知らないティオナに振り回されながら連れ回される幸祐はそれどころではない。

道中で擦れ違った男の冒険者には羨ましそうに睨まれたりした……まぁ、大半は女同士が仲良くしていると間違えられたが。

そうこうしている間に入り口に辿り着く。

長旅を終えた気がする幸祐。リリを連れてバベルを出ようとする直前で、アイズに呼び止められた。

 

「……コースケは、私達の【ファミリア】に来ないの?」

 

「ん? ああ、悪いな。俺は今の【ファミリア】を抜けるつもりはない」

 

アイズは、フィンは幸祐を勧誘するつもりだと思っていた。もし勧誘されても、幸祐は断るつもりでいたが。

 

「ううん。無理を言ってごめんなさい……」

 

捨てられた子犬のようにシュンと顔が項垂れるアイズ。その姿に幸祐を含んだ周囲の者は保護欲を駆り立てられる。

そのまま去ってしまうと、どうにも気が晴れなかった幸祐は手を伸ばした。

 

「また、ジャガ丸くんを作っておくから、楽しみにしてな」

 

また会おうと、約束する。

妹分(ベル)を思い出し、アイズの頭に手を置いて撫でた。ベルを喜ばせる癖でついやってしまった行為だ。

幸祐は「あ、ゴメン」と呟き、しまったと内心で焦り出すが……

 

「…………もっと、やって」

 

「え?」

 

一瞬アイズは不意を突かれた顔をするが、幸祐の手をガッと掴むと、もっとしてほしいと言わんばかりに自身の頭に押し付ける。

マーキングするように幸祐の手を離そうとしない。

 

「こ、こうか?」

 

「………♪」

 

戸惑いながらも優しく撫でると、アイズは目を閉じて満足そうになる。

 

「うわぁ、アイズがあんな表情するなんて初めて見たかも。でも良いなぁ〜」

 

「あ、あの【剣姫(けんき)】様をッ……!?」

 

「ッ!! …………」

 

第一級冒険者が仔犬と同じ扱いを受けている光景に周囲がザワつき出した。

ティオナもアイズのあんな顔を見たことないらしく羨ましがる。一方、リリは目を見開き驚愕を隠せずにいた。レフィーヤに至っては驚きのあまり石化状態だ。

 

『お、おいッ! あれ【剣姫(けんき)】だろ!?』

 

『マジかよ! あいつを調教できるなんて、あの蒼髪美女、一体何者だ!?』

 

『あの美女、【ロキ・ファミリア】が恐くないのかよッ? 命知らずにも程があるぜ』

 

『お、俺の嫁がNTRれたぁああああああああああ!!? ……だが、この百合な光景も悪くない!』

 

『ゆ、百合ゆりぃいいい!! ……ふぅ、眼福だぜ』

 

『これは、【ロキ・ファミリア】への下剋上か!?』

 

『ヒャッハー! 迷宮都市(オラリオ)が荒れるぜぇ!』

 

場所を選ぶべきだったと、幸祐は後悔し始める。

大通りで人がたくさん通る時間帯で、こんな目立つ行為をすればこうなると予想できるのに。しかも悪ふざけ大好きな神様まで集まり、あらぬ誤解が生じている。後、女と勘違いされて非常に腹ただしい。

 

「な……な・に・を・しているんですか貴方はーーーーー!!?」

 

烈火の如く石化から脱し、二人の間に入って感情を爆発した妖精が現れる。

本人にその意図はないだろうが、タイミングを伺っていた幸祐にはレフィーヤが救世主に見えた。

大通りで大声を出して恥ずかしかったのか、エルフ特有の両耳が真っ赤になっている。次第に落ち着きを取り戻し、コホンと咳を打つ。

 

「貴方、サクラバ・コースケと言いましたか? その、あの時のお礼をまだ伝えていませんでした……あの、ありがとうございます」

 

「ああ、そのことか。気にするなよ。それより怪我がなくて何より——」

 

「で・す・が、それとこれは話が別です! 私言いましたよね!? 貴方、アイズさんに馴れ馴れし過ぎるんじゃないですか!?」

 

食い気味で声を張り上げる妖精の姿に幸祐は引いてしまう。

 

「お、おう……ってか、駄目なのか?」

 

「何開き直ってるんですか!? アイズさんは第一級冒険者にして【ロキ・ファミリア】の幹部なんです! 他の【ファミリア】である貴方が気軽に話しかけて良い人じゃないんですよ! それ以前に、人前で無闇に女性の頭を撫でるなんて非常識にも程があります!!」

 

「うっ……ごもっともだな」

 

「アイズさんや私達を助けてくれたことには感謝していますが、今度からもう少し節度を考えて行動してください!」

 

痛いところを突かれて言葉を失う。幸祐の世界で言うなら、知り合いだからといって人気アイドルに馴れ馴れしく接し過ぎ、と注意されたという感覚だ。

ガミガミ怒る妖精(レフィーヤ)の姿を見て、本当にアイズは愛されていると気づいた。

元の世界で孤独だった幸祐には縁がなかった……

しかし、今の自分を『家族』と呼んでくれる人がいる。

その事実を思い出し、一刻も早く帰らねばならないという使命感に駆られた。

 

 

 

△

 

 

 

(……君は、一体どこから来たの……?)

 

……自分でもおかしいと、自身の変化に戸惑っていた。

ティオナに抱きつかれた少年(コースケ)を見て、どうして怒っていたのか。

少年に頭を撫でられた時、制御できないような感情に支配され……どうしてあんな恥ずかしいことを強請(ねだ)っていたのか。

 

「じゃあ、色々ありがとな」

 

少年のことを何も知らないのに、彼から目が離せなかった。

 

「またねー、コースケー! 小人族(パルゥム)ちゃんも元気でねー!」

 

「貴方なんかにアイズさんを渡しませんからね!」

 

全てを失い、モンスターを憎み、力を求めるようになった。その頃から【剣姫】と呼ばれ、姫様のように丁重に扱われ、モンスターと戦う姿から【戦姫】と恐れられた。幹部という立場から、同じ【ファミリア】団員との距離感に寂しさを覚えた。

だからだろうか、気軽に接してくれて嬉しかったのは? 普通の女の子のように撫でられて気持ち良かったのは?

大好きだった父親(えいゆう)と重なって見えたのは……?

 

「うん、ばいばい……」

 

笑みを浮かべて片手を上げる幸祐に、微笑み返すアイズ。

 

——どうして、君といると心が安らぐの?

 

——君の近くにいると顔が熱くなる。

 

——君のことを考えると胸が暖かくなる。

 

——この気持ちが何なのか………君は知っている?

 

燻っていた黒炎(おんねん)が、かき消された。

少年の“光”が消してくれた。

強さの秘訣だけでなく、他にも色々教わりたい。

 

(コースケ、コースケ……コースケ……)

 

心の中で何度も名前を呟く。

再会を約束してくれた。その時が待ち遠しく思える。

次に会った時、母親(アリア)が読ませてくれた英雄譚の中で最も好きだった英雄(ヒーロー)のことを話してみようと考えた。

 

 

 

(……似ている。私の一番大好きな、英雄に)

 

 

 

その昔、神々が降臨する前の暗黒時代。

数多のモンスターに住処を奪われ、蹂躙され、人々は日々モンスターの猛威から逃れ、その脅威に怯えていた。

だが、闇を打ち消す光——『英雄』が降臨した。

家族のため、盟友のため、人々のため……様々な情景(けつい)を胸に抱き、モンスターの群勢に立ち向かった孤高の戦士達。

人々は彼等を『光の戦士』『希望の蛮勇』『万物の豪傑』と、様々な尊敬を込め、ある一つの渾名(めいしょう)に統一させて崇めた。

 

その名を————

 

 

 

「………カメン…ライダー……」

 

 

 

△

 

 

 

バベルを出て尚、リリは幸祐の隣で俯いたまま歩き続ける。

リリの【ステイタス】が消失していたのだ。

女冒険者にも確認してもらったが、その形跡すら残っておらず、【ソーマ・ファミリア】である証が主神(ソーマ)の許可なしで消失していた。

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

「……分かりません。リリは、もう行く宛がありませんから」

 

同情を誘っているわけじゃない。ありのままの事実を話しただけだ。

ノームが保管する宝物庫の鍵——【ファミリア】脱退に必要なリリの全財産——を失くしてしまった。命あっての物種というが、今のリリにとって代償はあまりにも大きい。

何よりリリはもう【ソーマ・ファミリア】の団員ではない。団員の証となる神の恩恵(ファルナ)が消失したのだから。

無一文で役立たずのサポーターで、【ファミリア】との関係性を示す証拠が消えたのに、あんな私利私欲にまみれた【ファミリア】の誰が受け入れてくれようか? 戻ったところで脱退金の借金を無理強いされた挙句、ゴミのように捨てられるのが目に見えている。

戻るなんて冗談じゃない。あの吐き気がする男神との繋がりを断ち切ってくれた幸祐には、むしろ感謝してもしきれない。

とはいえ、オラリオでも前代未聞であろう境遇を受けてしまい、これからどうすれば良いのか分からないでいた。

 

「取り敢えず……今晩はうちに泊まっていくか?」

 

少年の唐突な提案に、リリ表情を強張らせてしまう。

いくら何でも優遇され過ぎだと断ろうとした瞬間、リリの腹からキュ〜、と小さな虫の音が鳴った。

思えば昨日から何も食べていなかったと、耳まで真っ赤になる。

 

「………………お世話になります」

 

正に赤っ恥をかき、顔を背けるリリだった。

 

 

 

△

 

 

 

「遅い……いくら何でも遅過ぎるよ……」

 

前日から幸祐は帰っていない。

ホームで留守番しているヘスティアは心配を隠せずにいる。ベルに至っては「あの時、私が無理矢理にでも引き止めていればッ……!」と昨日の行動に後悔し、両方の紅眼から涙をポロポロ流す。このままでは彼女の体調にも異常をきたす恐れがある。

もう待っていられない! と、ヘスティアはベルを連れてギルドに頼み捜索届けを出してもらおうと外出の準備を進めた。

……その時だ。

 

「——おーい、今帰ったぞ」

 

玄関前から、幸祐の声が聞こえた。

 

「え…………コースケ?」

 

「コースケ君だ! ベル君、コースケ君が来たんだよ!」

 

嬉々としたヘスティアは、未だに呆けるベルの腕を引っ張り、玄関まで幸祐を迎えにいく。

扉を開けた先には、服装が変わって腰元に見たことない漆黒の大太刀を携えていた彼がいた。

幸祐の姿を目にした途端、ベルの瞳にも輝きが戻った。

待ち侘びた副団長が帰ってきた。そのことにヘスティアは嬉しさを隠せずにいる。

 

「コースケッ! ………え? 隣の女の子(ひと)、誰?」

 

「へ?」

 

喜びから一転したベルの指摘に、ヘスティアは呆けたような声を上げる。

ベルの視線の先には、幸祐の背中に隠れながら、こちらを見て緊張している小人族(パルゥム)の少女の姿があった。

幸祐が「ああ、この娘はダンジョンで会った……」と説明し始めるが、ヘスティア達の耳に入ってこなかった。

 

「…………コ〜スケく〜ん」

 

ヘスティア達に盛大な勘違いが生まれた。

ヘスティアの脳裏に『大人の夜遊び』という単語が浮かび上がり、ベルの瞳が再び潤い出す。

 

「ボクらはこんなにも心配したというのに……キ・ミ・というやつは、その娘とイチャイチャしていたのかなぁ〜?」

 

「は?」

 

「コースケ君のォ——浮気者ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

昼前からホーム中に、女神(ヘスティア)の大絶叫が響き渡った。

それからず〜っと、ベルを泣かせたことも含めガミガミと説教が始まってしまう。

 

「な、何ゆえ……?」

 

苦労して帰れたのに、こんなオチはないだろう? と溜息を吐く幸祐。

誤解が解けた後、リリを一晩泊めることに溜息を吐かれながらも、事情を話すと了承してくれた。

……【ステイタス】更新の際、いつの間にかLv.2に昇格していたことに、ヘスティアの絶叫が鳴り響いたのはいうまでもない。




ドタバタして執筆が遅れたから、誤字脱字があるか心配……ドキドキ

幸祐が見た夢の内容は、仮面ライダー鎧武のOPにあった合戦の光景をイメージしました。

感想にもありましたが、本作に登場する仮面ライダーは鎧武系だけです。過去に登場したという戦武将ライダーも、色違いや兜などの装飾が異なったという設定のライダーです。

次回もお楽しみ。
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