ダンジョンに鎧武がいるのは間違ってるだろうか   作:福宮タツヒサ

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第弐拾伍話 白兎と剣姫の会遇

十八階層での騒動から数日経った。

たった二週間近くで昇格(ランクアップ)を果たした副団長(コースケ)。その事実に感化された団長(ベル)はいつも以上に精を出し、今日も【ヘスティア・ファミリア】を率いてダンジョンに赴く。

 

「ふッッ!」

 

次々と向かってくるモンスターの群れに対し、成長速度が常人以上のベルは立ち向かう。

兎以上の脚力を引き出し、モンスターを牽制させると研ぎ澄まされた黒刀のナイフで胴体を切り裂く。

本来ダンジョン探索するには、より下層へ進出するにつれて経験や武装や技量などの冒険者の素質が必須となるが、今のベルは自信に満ちていた。

つい先日、彼女だけの秘策(まほう)がある。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

ベルの掌から緋色に輝く稲妻城の炎がモンスターの体を貫く。炎の雷が着弾したと同時に、視界を埋め尽くす眩い爆光が炸裂する。後に残ったのは黒焦げになって崩れた残骸と魔石のみ。

《女神のナイフ》の他に、ベルだけが持つ牙——世界でも数少ない【速攻魔法】。誰よりも速い、ベルだけの唯一無二の切り札。

 

「ベル様! 魔法を必要以上に連射すれば、また精神疲弊(マインドゼロ)を起こしますよ! コースケさん、危険ですから前に出過ぎないように!」

 

「うん、リリ!」

 

「分かった!」

 

背後から呼びかける的確な指示に従い、ベル達は散らばる。

主神(ヘスティア)から神の恩恵(ファルナ)を貰い【ステイタス】を背中に刻まれ、新たに【ヘスティア・ファミリア】の一員となったリリ。

この中で最もダンジョンについての知識が豊富な点と、サポーターとしての知識と経験も活かし、今ではメンバーを支える重要な人物の人柱になっている。ある意味、幸祐の見立ては正しかったといえよう。

ベルの勢いは止まらない。

もっと早く! もっと強く!

——あの人(コースケ)と同じ境地に……!!

 

『ロォオオオオオオオオオオオオ!!』

 

「えッッ?」

 

岩陰、ちょうどベルから見て死角になっていた地点から大きな甲羅の塊が飛び出した。

頭から全身にかけて鱗のような硬い外皮に包まれたアルマジロに似た形状のモンスター、『ハード・アーマード』。

不測の事態だった。ベルが予期せぬタイミングにアルマジロ型のモンスターは頑丈な球体に丸まり、隊員(パーティーメンバー)団長(かしら)であるベルに突進してきた。

 

『——ロォオオッ!?』

 

寸前、蒼天の風が横切りハード・アーマードを数M(メドル)先へ飛ばした。ボールのように蹴り飛ばされた甲羅の球体は何回かバウンドしながら、宙で顔や(あし)、丈夫な爪を剥き出して地面に擦過する。

 

「大丈夫か? ベル」

 

「コースケ……!」

 

速すぎて目で追うことすらできなかった。単に【戦武将(アーマード)ライダー】だけの能力だけでない。

これこそ昇格(ランクアップ)した証なのだと痛感させられる。

幸祐は「下がっていろ」と一言で制止させる。彼が見据える先には体勢を整え球状になり、再び突進にしかかるハード・アーマード。

 

「ったく、しつこいアルマジロだ」

 

《ロック・オン!》

 

(いち)(じゅう)(ひゃく)(せん)(まん)!!》

 

すかさず《オレンジ・ロックシード》をベルトから外し薙刀状の《無双セイバー》に装填する。オレンジ刃が轟々と輝き出すと同時に駆け出した。

 

《オレンジ・チャージ!》

 

『ロォオアアアアアアアアアア!!?』

 

(キラーアント)より強固な甲羅ごと斬り落とす光眩しい一閃。絶叫を上げながらハード・アーマードは爆発四散し、焼け焦げた地面と、周囲に散らばった魔石を残すのみ。

 

「ベル、お前が団長として頑張りたいのは理解できる、新しい魔法を使いたいっていうのも分からなくはない……でもな、それで怪我すれば元も子もないだろう? たとえ慣れた場所でも見えないところまで気配ることも忘れないように」

 

「ッ………う、うん」

 

叱られた仔犬……否、叱られた仔兎のように頭を垂れてシュンとなるベル。

 

「油断しすぎです、ベル様。魔法はあくまで切り札、そう安易と使う必要はありません。それに魔法に頼りっきりでは戦闘に支障をきたしますよ」

 

「は、はい……」

 

続けてリリにまで厳しく指摘され、すっかり落ち込んでしまうベル。もし兎人(ヒュームバニー)だったら今頃ウサミミが垂れ下がっているだろう。

 

「ハード・アーマードが出たってことは、いつの間にか十一階層にまで来ていたみたいだな」

 

「これについてはリリの落ち度です。申し訳ありません、コースケさん、ベル様。リリが二人を安全に導いてはならないといのに……」

 

リリが続けようとした言葉を幸祐が手で遮る。リリ一人の所為でないと主張するように。

 

「誰にだって失敗はある。皆で反省を分かち合いながら成長していけば良い……ホラ、二人共! 顔を上げて反省会はお終りだ。今日はこれぐらいにして切り上げるぞ」

 

手を叩いて退場するよう提案する。

その言葉に二人は頷き、これまでに狩ってきたモンスターの魔石を採取し終えダンジョンから退場した。

 

 

 

 

 

 

北西のメインストリートを歩く幸祐とベル。リリはこの後、今までお世話になった地精霊(ノーム)の爺さん店主へ手伝いがあるらしく、ダンジョンから出たと同時に別れた。

ギルド本部ロビーに到着するなりエイナと偶然会う。【ファミリア】の近況を報告するのと、団長としてアドバイザーとの話し合いがあるからと、幸祐には一旦ロビーで待つようにお願いして、ベルとエイナは待合室に移動する。

 

「報告は以上ね、お疲れ様ベルちゃん……って、どうしたの? 何だか落ち込んでいるみたいだけど。私で良かったら、話くらい聞くけど」

 

道中、いつもは見ていて元気を分けて貰えるような元気な様子を見せるベルだったが、今日は萎れた花のようだった。

聞いた話から察するに、ダンジョン探索に支障をきたしたのは自分のせいだと、落ち込んでいると推測するエイナ。悩みや愚痴を聞くのも担当アドバイザーの務めだと、ベルの悩みを聞くことにした。

おずおずとしながら、白髪の少女は「わ、笑わないでくださいね」と懇願し、ゆっくりと口を開く。

 

「……エイナさん。私って、皆から妹みたいに思われていますか?」

 

「ぇ……?」

 

あまりにも予想外な問いかけにエイナの口から上ずった声色が飛び出た。唐突に鳴り響いた可愛らしい声色に周囲の同僚や冒険者が激しく反応したのはいうまでもない。

 

「えっと……どうしてそう思ったのかな?」

 

気を取り直し、声色を元通りにしたエイナは不安そうな仕草を隠せないベルと面と向き合う。

 

「私、今日のダンジョン探索で調子に乗っちゃって、皆の足を引っ張ってしまったんです。私が団長だから、しっかりしなくちゃいけないのに……二人共、私のことを妹みたいに扱うんですよ! 仮にも団長なのに、私! 特にコースケなんて酷いんですよ!? この間なんて」

 

そこからベルの少し長い話が始まった。

ことの発端はリリが【ヘスティア・ファミリア】に加盟できた、すぐ数日後のこと。

女神(ヘスティア)小人(リリ)の間で、種族の隔たりを超えた聖戦が起こったのだ。

その名も———『コースケ(さん)の隣の席は譲らない』聖戦。

種族も違えば性格も体格も違う二人は犬猿の仲といえるほど悪く、特に幸祐を巡って口喧嘩が毎度のように起こる。

その度、幸祐やベルも二人を止めるが、また再発し、宥めてもまたまた喧嘩し……の繰り返し。

腕を絡めて自慢の双丘に押し付けてくるヘスティアと、幼子の外見ながらも女の魅力を引き出して腕に絡んでくるリリ、二人に毎度のこと挟まれる幸祐は面倒になり……失言を唱えてしまった。

 

『いい加減に喧嘩は止めろ! 子供かお前らは!? 言っておくが、俺はここにいる女性陣は全員、妹分としか見ていないからな!』

 

この発言に喧嘩を繰り広げた二人の少女だけでなくベルも多大なショックを受けてしまう。

言葉の綾はやがて女としての自信喪失へと繋がり、今に至るというわけだ。今日のダンジョン探索も、幸祐に『女』として見られたいから張り切っていたというのに……

 

(神様みたいに胸も大きくないし、リリみたいに可愛らしくもないし、エイナさんみたいに大人な女性でもないよぉ……)

 

ベルの趣味や思考は一般の女性——例えばエイナみたいな美人など——が考えるものとは少し異なっている。

華麗な女性の大半が泥臭さや力仕事が苦手というが、田舎で義爺と二人暮らしを送ったベルにとって畑作などは得意分野だ。しかも山育ちなのでサバイバル経験も幸祐より豊富。

普段の日課も、強くなるための鍛錬やダンジョン探索と、年頃の少女がする行いとはかけ離れている。

趣味といえるものは、強いて唱えるなら………店先で展示されている強そうな武器や装備の展示品(サンプル)を眺めること。

 

「う、うぅ〜! 女として魅力がない自分が恨めしいッ! どうせ私なんてダンジョン探索に張り切っているだけのパッとしない田舎娘! コースケに妹としか見られていない地味な娘なんだ〜!!」

 

「えぇッ!? ベルちゃんは自分のことをそんな風に評価していたの!? だ、大丈夫だから泣かないで! ね?」

 

机に顔を伏せて自虐しまくるベルに、エイナは自分も妹扱いしていたと焦りながら、励ましの言葉を絶やさず掛ける。

幸祐に悪気がなかったのは知っているが、もう少し言葉を選んでほしかったと溜息を吐きそうになった。

そして、エイナは知っている。

ベルの耳に入ってないことだが、田舎出身で純朴そうな兎少女ほど大都会(オラリオ)では魅力に映ることを。

明るくまっすぐで、謙虚の上に素直な性格で、少し少年っぽいところもあるのがたまにキズだが、そこがまた愛らしい『路地裏の隠れアイドル』と知らずに称されているベル。一部の神々(ヲタク)共に揶揄され密かなファンがいること。

担当アドバイザー兼しっかり者のお姉さんは、知っている。

 

「そ、そんなことないから! ね? ベルちゃんにはベルちゃんしかない可愛さがあるよ! 絶対! 間違いなく! 自信を持っていえるから!!」

 

「ふぇ……エ、エイナさぁ〜ん、ありがとう大好きぃ!!」

 

子供のように抱き着いてきたベルを受け止め、エイナは苦笑しながら優しくベルの頭を撫で始める。

 

(むしろ、問題はコースケ君の方だと思けどねぇ……)

 

何とかベルを落ち着かせることに成功したエイナは、要因である幸祐が一番の難関だと考えた。

普通の男性から見ても、ベルは魅力的なのだ。街角でナンパされてデートに誘われても不思議じゃない。

しかし、そうならないのは彼女の中に意中の相手がいることを皆に知られているからだ。時折見せるベルの(ウブ)な反応を見れば一目瞭然だというのに、幸祐はベルのことを妹分としか認識していない所以なのか、ベルの好意に全く気づいていない。

 

「それにホラ、頑張り続けるベルちゃんの姿を見せ続ければ、コースケ君も見方を変えてくるかもしれないし、その、ね?」

 

「……エイナさん」

 

「だから頑張ろ? お姉さんに任せて、一緒に鈍感コースケ君をメロメロにさせちゃお?」

 

「ッ……はい! ありがとうございます! 頑張ります!」

 

同じ女性観点から知人として相談に乗ってくれると気づき、あっという間に満面の笑みがベルの顔に咲き誇った。

この笑顔に当てられただけで、エイナは胸をキュンキュンときめかせる。この笑顔に誰もがノックアウトするというのに、引っかからない幸祐が特殊なのだ、そう違いない、とエイナは自分に言い聞かせながら一緒に部屋を出ていく。

 

 

 

 

 

 

エイナ個人はベルの恋を応援している。二人が恋人同士になったのを機に『ダンジョンで冒険はしない』と誓いを立たせる算段も……画策してないことはない。ただ、同じ女として初恋の成熟を成し遂げたいというのは本音だ。

ここは一肌脱ぎ、幸祐にガツンと言ってやろうと思った。

………が、幸祐の元へ戻った矢先に、

 

「あ、あれ? 私の見間違いかな? あれってコースケ君と……ヴァ、ヴァレンシュタイン氏ッ!?」

 

金髪の長髪に澄み切った金色の瞳の少女——アイズ・ヴァレンシュタイン。【ロキ・ファミリア】幹部の一人にして、第一級冒険者。

迷宮都市でも屈指な実力者であり、ベル達にとって雲の上の存在。ギルド職員のエイナだって会話することすら滅多にない。

そんな人物が……先程まで話題の的になっていた少年(コースケ)に頭を撫でられている。

慣れた手付きで金髪の頭部を撫でられている少女は、小動物のように目蓋を閉じて気持ち良さそうだ。撫でている本人も満更ではなさそうに、癒される表情に変わっていく。

 

「う、嘘ッ……コースケ君、いつの間にアイズ・ヴァレンシュタイン氏と、あんな仲に……!」

 

周囲の冒険者が信じられないものを見る形相を浮かべる中、エイナも硬直状態から抜け出せずにいた。

ハッと気づき、エイナはこの驚きの光景を共に見ていたベルの様子をうかがう。

 

「やっぱり私なんて、女としての魅力ないんだ……ぐすん」

 

飼い主を取られた仔兎のように、紅瞳がウルウル潤い、今にも決壊しそうだった。

その光景を目にした途端、エイナの内に潜むスイッチ音が鳴り響いた……

 

「コースケく〜〜〜ん? ちょ〜〜〜っと、二人っきりでお話しがあるんだけど良いかなぁ? 良いよねぇ?」

 

実に良い笑顔で、周囲の視線など我関せず幸祐に迫る。

尚、その“良い笑顔”は幸祐を顔面蒼白にさせただけでなく、アイズを含むその場にいた冒険者達(ベルを除く)を震撼させたという。

 

 

 

 

 

 

エイナがベルを引き連れて戻ってくる、ほんの数分前。

正午を過ぎ、多くの冒険者がダンジョンへ赴く時間帯もあって、数えられる程度のギルド職員が白大理石のロビー内にチラホラいるだけだ。

様々な事件に遭遇したためか、ロビーの隅に設置された椅子に鎮座していた幸祐は、最近は余計に大切に思えてきた平穏と暇を体感している。

 

「——コースケ……」

 

と、早速、幸祐の暇を潰してくれる少女の声が耳を打つ。

振り向いた先には、人形のように金色の瞳がキョトンとしながら、こちらを見つめていた。

 

「……よっ、アイズ」

 

「うん……」

 

ある少年に会いに行くため行動し偶然会えることができ、無表情ながら嬉しそうにアイズは歩み寄る。

さもご近所さんに軽く挨拶するかのように、片手を上げて幸祐は会釈する。

 

「……あの、あれから怪我は?」

 

心配そうな声色をかけられ、幸祐は頷きながら答える。

 

「ああ、お前の副団長さん達が治療してくれたお陰で、この通り完治したよ。言い忘れたけど、俺とリリを助けてくれて、ありがとな」

 

事件当時は事情聴取も受けてバタバタしていたことに関与し、言えず仕舞いだった感謝の念を伝える。

それを対面で聞かされたアイズは、ボフッと顔を真っ赤になりながら……幸祐に頭を差し出す。

 

「ん……」

 

「…………ん?」

 

途端に、会話が途絶えた。

頭の天辺を見せてくるアイズの意図を、幸祐は理解していない。

するとアイズは待ちきれないように、小さな声を唇から漏らす。

 

「………頭、撫でてくれる?」

 

ウルウルとした瞳で見つめてくるアイズの姿を目の当たりに、幸祐はドキッと心臓が爆発しそうになる。純心な少女を泣かせたとあれば、今後世間からの批判が殺到しかねないと。

 

「まぁ、別に良いけど……」

 

慣れた手付きで頭を撫でると、満足そうにアイズの顔は頬が綻びそうになる。

日頃からベルの頭を撫でている成果もあり、最近は野良猫の頭を撫でただけで甘えさせる特技が身に付いてきた幸祐。ますます『女』以上の家庭的な磨きがかかっていることを、本人は自覚していない。

 

「………♪」

 

仔兎のように頷くベルと異なり、滅多に吠えない忠犬のように可愛がられるのを喜ぶ少女の姿は、また違った可愛さが滲み出ている。事実、幸祐だけでなく遠目で眺めていた何人かのギルド職人でさえ癒しさを感じ和んでいる。

 

「——コースケく〜〜〜ん?」

 

「へッ?」

 

和んでいると、鬼のようなオーラを滲み出しながら良い笑顔をしてくるエイナが到着した。その後方には何故か、若干涙目のベルがこちらを見ている。

瘴気を曝け出すエイナに鬼教官(リヴェリア)を思い出したアイズは笑みを脱しブルブル震え出す。

すぐさま撫でる手を戻し平常を装う幸祐だが、もう遅い。

 

「ちょ〜〜〜っと、二人っきりでお話しがあるんだけど良いかなぁ? 良いよねぇ?」

 

「……ハ、ハイ」

 

ある一室に連行された幸祐は、人前で無闇に同年代の少女の頭を撫でないこと、歳下の娘を泣かせるような発言をしないこと、これらについて常識云々を教え込むという地獄の説教を鬼教官(エイナ)に叩き込まれることとなる……()()()なのに()とは。

 

 

 

 

 

 

それから数分後……

 

「それで、貴女にも謝りたくて……ごめんなさい……私達のせいで、いっぱい迷惑を……貴女の団員にも迷惑が……」

 

「い、いえ違いますッ! ミノタウロスに追われたのは私達が迂闊に下層に潜ったのが原因で! それにコースケを、私達の団員を治療してくれたのは【ロキ・ファミリア】の方ですし! だから、その……い、色々ありがとうございますッ!!」

 

謝罪と感謝の攻防を繰り広げるアイズとベル。

会話の内容から分かる通り、アイズはこれまで掛けてきた失態を、ベル達【ヘスティア・ファミリア】に謝罪するため、唯一顔見知りの幸祐を探していた。

 

「……それから、貴女の団員に助けられた……だからお礼がしたくて……」

 

「お、お礼!? ヴァレンシュタインさんが、私達に!? で、でも恐れ多いというか、えーと……」

 

アイズの唐突な発言に、ベルはあたふたしながら謙遜か卑下の言葉を並べまくる。

幸祐もベル程ではないが、急にそんなことを言われ困っていた。お詫びのつもりなのだろうが、無茶な要求を出すわけにはいかない。かといって断り善意を無下にするわけにも行かない。

どうしようか悩んでいると、幸祐はある提案をした。

 

「じゃあさ、ベルに戦い方を教えるのは、どうだ?」

 

「……………ふぁッ!?」

 

その提案に一番着いて行けなかったのは、名を呼ばれたベル自身だった。

幸祐は話を進め、アイズに予定があるか確認を取り始める。

 

「まぁ、アイズが嫌ならそれでも良いけど……できそうか?」

 

「え、えっと……私は大丈夫、だと思うよ? 【ファミリア】の皆に、バレなければ」

 

一瞬アイズも戸惑っていたが、頭を切り替えイエスと答える。

彼女にとって、これは絶好の機会でもあった。

幸祐の成長の秘訣、高みへの可能性。そして何よりも……彼の傍にいるだけで安らぎを感じる、その真意を。

 

「ちょ、ちょーっと待って!! どういうこと、コースケ!? ど、どーして私が、ヴァレンシュタインさんのご教授を!?」

 

「だって以前、言っていただろ? 『いつかヴァレンシュタインさんのような、凛々しくてカッコいい女の英雄になるんだ』って。ちょうど良いじゃねぇか」

 

「た、確かにそうだけど! それとこれとは話が違う……って、それを本人の前で言わないでよ!?」

 

「良かったなぁ、ベル。憧れの人から指導してくれるなんて、羨ましがるだろうな!」

 

「お願いだから少し黙ってくれる、コースケ!?」

 

呑気そうに話す幸祐に、ベルは初めて口を塞ぎたい衝動に駆られた。割とマジで。

こんなズルい方法で知り合ったばかりの有名人に教わるなんて図々しい。そもそも【ファミリア】間の問題もあるというのに、第一級冒険者に教授してもらうなんて烏滸がましい上に無礼極まりない。

 

「あの、やっぱり私じゃ、嫌……?」

 

ことあるごとにウブな反応を見せるベルの姿に、アイズは嫌われているのでは? と思い込み、無表情ながら悲しそうに問う。

 

「えッ!? いや、ヴァレンシュタインさんが嫌というわけではなくてですね!? その……私に、そんな資格はないというか、あの……」

 

相手を不快にさせたと焦ったベルは、すぐさま否定する。

第一級冒険者の師事を受けるなど、ランクアップすらしていない自分には不釣り合いだと。

 

「……君は、強くなりたそうに見える」

 

「ッ……!」

 

「その気持ち、わかるから……教えたいと思った」

 

ベルに向けられた言葉は、アイズの善意であり本心。

丁寧に磨かれた防具や武器を見る度、少女の“強くなりたい”という眩しいくらい真っ直ぐな想いが伝わってくる。幼き日の自分を思い出したアイズは、個人的に手助けになりたいと、思った。

 

「あ、あの……ヴァレンシュタインさん……」

 

やがて、迷いを断ち切るようにベルも真っ直ぐな瞳で頭を下げる。

 

「ご教授を、よ、よろしくお願いします!」

 

「……うん、よろしく」

 

“強くなりたい”志を備え、アイズは少女(ベル)を師事することになった。

 

 

 

 

 

 

「あ……コースケも一緒にいてくれる?」

 

「ッ!?」

 

「俺? 別に良いけど?」

 

「ッッッ!!?」

 

……教官ご指名により少年(コースケ)も参加決定。

口説き文句にも受け取れるお誘いをした天然娘(アイズ)に、ベルは立て続けに驚愕してしまった。

 

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