引き続きがんばっていきますので、よろしくお願いします。
『豊饒の女主人』での出来事はベルにショックを与えるには充分だった。弱い自分が悔しい。何も言い返せない自分が悔しい。その悔しさでいっぱいになったベルはダンジョンへと駆けて行く。
「…………ッ!」
ベルは奥歯をかみ締める。強くならなければ、強くならないとアイズ・ヴァレンシュタインの隣に立つ資格すらない。弱い滑稽な自分が情けない。そう思っていると――――――。
「ベル!!」
背後からアルマの声が聞こえた。彼女は酒場から逃げていくベルの後を追ってきたのだ。
ベルはアルマの声を聴くとその場で立ち止まる。
摩天楼施設――――ダンジョンの入り口には夜も遅いのか人はいなかった。
「どこに行こうとしているの? そこはダンジョンよ」
アルマはそう言う。
「……アルマさん…。僕…強くなりたいです…」
ベルは全身は震わせながら言った。
「悔しいんです…! 何も言い返せない自分が…。あの人の言っていることが正しいと思ってしまう惨めな自分が…」
「ベル…。そんなことないわ」
アルマはベルにそう言った。そして次にこう言う。
「貴方は自分が思っているほど弱くないわ。それに勇気もある。じゃないとミノタウロスに立ち向かうことはしない。そうでしょ?」
「アルマさん…」
「他の冒険者が見たら軟弱に見えるかも知れないけど、私から見たら、あの時のベルはとても勇敢だったわ」
アルマはダンジョンでミノタウロスと遭遇していた時のことを話す。自分の魔法の詠唱のために、時間を稼ぐと言って、ミノタウロスに向かって行ったベルのことを話しているのだ。
「だから自分を責めるようなことはしないで」
アルマはやさしく言った。
「わかりました…」
それに納得したか定かではないが、ベルは返事をする。
「さあ、家に帰りましょう」
「はい」
そうして二人は廃教会へと帰っていった。
廃教会にはバイトの飲み会から帰って来たヘスティアと、酒場から帰って来たラムザが待っていた。
「ベル…大丈夫かい?」
ラムザはベルに言う。
「すいません…! 急に逃げ出したりして!」
ベルは頭を下げてラムザに謝った。
「いや、気にしなくいいよ。あの状況じゃ、しょうがないさ」
ラムザが言う。そして、事の一部始終をラムザから聞いていたヘスティアはぷりぷりと怒りながらこう言った。
「しかし酷いもんだね! 僕の眷属をバカにしてくれちゃってさ! ベル君、自分を棚に上げて悪口を言う奴の言葉なんて聞かなくていいさ!」
「神様……」
ベルは微かな笑みを浮かべる。自分を心配してくれる人達がこんなにもいる。それがベルには嬉しかった。
早朝。
市壁の上でラムザとベルは訓練をしていた。二人は木の棒を持って模擬戦を行う。
ベルは果敢にラムザに迫り攻撃をする。
ラムザはその攻撃を軽くいなす。だがそれでもお構いなしにベルは攻め続ける。
今のベルには気迫があった。その気迫を感じながらもラムザは全ての攻撃を弾いた。
「ベル。今日は随分と意気込みが凄かったね」
訓練が終わり、息切れしながら地面に座っているベルに向けてラムザは言った。
「ラムザさん。僕、強くなりたいんです」
「そうか」
ベルの言ったことにラムザはそう呟いた。どんな理由があってベルはそう言ったのか定かではないが、とにかく強くなること自体良い事だ。
「しかし、ベル。強くなることは良いことだが、焦りは禁物だ。もしかして昨日の酒場での出来事を気にしているのか?」
「…はい」
そう、訓練していてわかったことだが、ベルは気がせっていたのだ。
「それならなおさらだ。無茶をしてケガをしましたじゃ元も子もない。特にダンジョンではそれが死に繋がることもある」
ラムザのその言葉を聞いたベルは落ち込みうつむく。
「―――――それに、言いたい人には言わせておければいい。今できることを最善に考えておけばいいんだ。例えみじめだろうが何だろうがね」
ベルは顔を上げてラムザを見る。次にラムザはこんなことを言った。
「最後まで立ってた者が一番さ。何がなんでも生きていくのが良いに決まっている。そして、どんなことがあっても最後は無事に帰ってくること。それが冒険者にとって一番じゃないかと僕は思う」
「……! ラムザさん…わかりました!」
ベルは、心の隅に残っていた影が取り払われたのを感じた。今できること、無茶なく、必死に生きる。方針が定まった。
「さあ、行こう」
「はい!」
そうしてラムザとベルはヘスティアとアルマが待つ廃教会へと向かって行った。
「…そんなことがあったのかい? ベル君がただ一人でダンジョンに潜ろうとしていたとは…」
ヘスティアはアルマから昨日のベルが酒場から一人出て行き、ダンジョンに潜ろうとしている時のことを話していた。
「はい。そこは何とか私が止めたからよかったのですが」
「そうかい…」
ヘスティアはあることを考える。冒険者にとって大事なもの。それは武器だ。以前ラムザに見せてもらった騎士剣――――カオスブレイドは見事としか言い様がない業物だった。
ヘスティアはこの剣をどこで手に入れたのかとラムザに聞いたら、ラムザはとあるダンジョンで埋もれているのを偶然見つけたと言った。
そんな業物がダンジョンで埋もれているのも可笑しな話だが、ラムザが嘘を言っていないことがわかったので、ヘスティアはその話を信じた。
そしてアルマは主に魔法を主体にして戦うので、武器はそこまで必要性がない。だが問題はベルだ。
今のところベルの武器は支給されたナイフ一本だけ。それだけでは心持たない。そう考えたヘスティアはある決断をする。
(…よし、決めた!)
ベルの為に行動を起こそう。幸い今日ガネーシャ主催の神の宴がある。そこには神友のヘファイストスも来るはずだ。
「アルマ君。僕は何日か部屋を留守にするよ。構わないかな?」
「構いませんが、どちらに行かれるのですか?」
「なに、友人の開くパーティーがあるからね。久しぶりにみんなの顔を見たくなったんだ」
「そうなのですか。だったら遠慮なく行ってきてください。兄さん達には言っておきますので」
ヘスティアは頷き、クローゼットにしまってあるドレスを手にとり、そして着替える。
「それじゃあ行ってくるよ!」
そう言ってヘスティアは部屋を後にした。
暫くしたらラムザとベルが帰って来た。
「ヘスティア様は?」
ラムザは部屋にヘスティアがいない事をアルマに聞く。
「今日パーティーがあるんですって。何日か帰ってこないと言っていたわ」
「…そうか。今日が宴だったか」
ラムザはヘスティアとの買い物のことを思い出しながら言った。
「ねえベル。今日はダンジョンに行くの?」
アルマがベルに聞く。
「えっと、はい。でも無茶はしません!」
「そう、ならいいわ」
アルマはベルの晴れやかで吹っ切れている表情を見て安心した。
「ダンジョンに行くのか。じゃあ今回は僕もお供にさせてもらおうかな」
「ラムザさんも来るんですか!?」
「僕が来る事に不服かい?」
「いえ、そんなことないです! よろしくお願いします!!」
そうして三人は準備を済ませ、ダンジョンへと向かった。
夜。ガネーシャ・ファミリアの本拠『アイアム・ガネーシャ』で神の宴が始まる。
「本日はよく集まってくれたみなの者! 俺がガネーシャである! 今回の宴もこれほどの同郷者に出席して頂きガネーシャ超感激! 愛しているぞお前達! さて積もる話はあるが、今年も例年通り三日後にはフィリア祭を開催するにあたり――――――」
ガネーシャの宴の挨拶を行っていたが、神々のほとんどがガネーシャの挨拶を聞き流し、各々談笑していた。
会場は立食パーティーの形式が取られていた。食卓には様々な料理が置かれている。
そんな中ヘスティアは食べ物を食べず、神友のヘファイストスを探す。
「あれ、ロリ巨乳来てんじゃん」
「ドレスを着ているぞ。第一級冒険者が入るだけで、こんなにも変わるものなのか」
「でもあいつ商店街でバイトしているぞ。露店で客に頭撫でられていた」
「何がなんだか訳がわからないな…」
ヘスティアを見かけた神々がそのような呟きをする。そんなヘスティアはちょっかいを出さない限り無視を決め込む。そうこうしていると――――――。
「似合っているわよ。そのドレス」
燃えるような紅い髪に真紅のドレス―――――ヘファイストスが話しかけてきたのだ。
「ヘファイストス!」
「久しぶりヘスティア。元気そうで何よりよ」
「いやあ良かった、やっぱり来たんだね。ここに来て正解だったよ」
「何よ、言っておくけどお金はもう一ヴァリスも貸さないからね」
「失礼な! 僕はもうそんなことしないよ! 頼りになる眷属達がいるからね!!」
「ラムザ・ベオルブね。いったいどこで知り合ったの?」
仕事に真面目で広大な都市の中を飛び回っているヘスティアもラムザのことは知っていた。
「それはもう運命ってやつさ!」
ヘスティアは胸を張って言う。その言葉を偉く気に入っているのだろう。
「ふふ……相変わらず仲が良いのね?」
「フ、フレイヤ?」
ヘスティアとヘファイストスの前に現れたのはフレイヤ・ファミリアの主神。『美の神』といわれるフレイヤであった。容姿の優れた神達の中でも郡を抜いており、その美を持って様々な種族を魅了するそんな神だ。
「僕、君のことが苦手なんだよね」
「私は貴方のそういうところ好きよ」
そう言ってフレイヤは微笑む。
「おーい! ファーイたーん、フレイヤー、ドチビー!!」
「ゲッ…、ロキッ!?」
ヘスティアは心底嫌そうな表情をした。ロキとは仲が悪いのだ。
「何しに来たんだよ、君は……!」
「それはこっちのセリフや。何いっちょまえにドレスなんか着おって――――『今宵は宴じゃー!』と言って、なりふり構わず飯を食うのがドチビやろ? そんで自前のタッパーで飯を詰め込むのも追加でな! それがなんやねん、上品にしよって、はぁ、マジで空気読めてへんよ、このドチビ」
「な、なんだとぉー!! 僕がそんなことをするとでも思っているのか! 君は!!」
ヘスティアが怒る。だがラムザに指摘されなければ、ロキの言っていた行為をやろうとしていたのは言うまでもない。
「それよりも――――ドチビ。うちが聞きたいのはあのラムザ・ベオルブのことや。どこで見つけてきたんや!!」
「何でも運命的な出会いをしたそうよ」
ヘファイストスがそう言う。
「そういうことやない。前代未聞のLv9のことや! 普通に考えたらそんなんおかしいで! どういうことや!」
ロキがまくし立てる。正直ロキには話したくないのだが、ここではぐらかしても後が面倒そうだと思ったヘスティアは正直にこんなことを言う。
「ラムザ君を眷属にして神の恩恵を刻んだら素のステイタスがLv9だったんだ」
「それ本当なの?」
ヘファイストスが驚きながら言う。
「うん。これは僕の推測なんだけど…。もしかしたらラムザ君は神の恩恵も無しにステイタスを更新できるのかもしれない」
「まさか…うちらの恩恵もなしに、そんなことができる子供がおるんか?」
「うん。そうじゃないと納得できないよ」
ラムザは異世界の人間だ。もしかしたらその異世界の人間だからという影響があるのかも知れない、そして悪魔ルカヴィとの激闘を繰り広げ、そこまでの強さを身につけたということも。それはアルマも同じだ。とヘスティアは考えたが、それは口には出さなかった。もしバレたら騒ぎになってしまうからだ。
「…まぁええわ。嘘ついている様子でもないし、今日のところはこの辺にしておいてやるわ」
その後、四人で雑談をしていたが、すぐにヘスティアとロキとの滑稽な取っ組み合いが始まる。それを見ていた他の神々は見物だと賭け事をしたりと変な盛り上がりを見せる。
そして取っ組み合いが終わったら、ロキは捨て台詞を叫びながらヘスティア達と別れていった。
「そうだ! ヘファイストス。折り入って頼みがあるんだ!」
不意にヘスティアがそう言う。
「頼み?」
「ベル君に…僕のファミリアの子に武器を作って欲しいんだ!」
「オーダーメイト? でも貴方そんなお金持っているの?」
「そこを何とか!!」
そう言ってヘスティアは頭を下げる。そうこうしていると――――。
「ヘファイストス、ヘスティア。私もそろそろ失礼するわ」
今度はフレイヤがそう言う。
「えっもう?」
「ええ、確かめたいことがあったのだけど……それも済んだし…それじゃあ」
そう言ってフレイヤはその場から離れていった。
彼女の言った確かめたい事とはなんだったのか。
それは誰にもわからないことであった。
そしてヘスティアはいつまでもヘファイストスに頭を下げ続けた。