本当に助かってます!
引き続きお楽しみください。
「怪物祭ですか?」
ベルはそう言うと朝食のパンをかじる。
「うん。なんでも今日あるみたいだ」
そうラムザが言う。
怪物祭。オラリオで年に一回開かれるガネーシャ・ファミリア主催の祭りである。闘技場を一日中占領し、ダンジョンから引っ張ってきたモンスターを調教して見世物にする。要するにサーカスみたいなものだ。
その怪物祭が今日行われる。
「ねえ兄さん、ベル。その祭り見てみましょうよ」
アルマが二人に向けて言う。
「そうだな、年に一度の祭りだ。見て回るか」
そうして三人は朝食を済ませ街へと向かって行った。
一方、ヘスティアはヘファイストスに頭を下げ続けていた。理由はベル専用の武器を作ってもらうためである。
当初、ヘスティアの願いをばっさり切り捨てたヘファイストスであったが、ヘスティアが付きまといずっと頭を下げ続けてきたのだ。
ヘファイストス・ファミリアが作る武器は同業者達の間でも最高品質だ。そしてその相場は一流の冒険者やファミリアであろうとおいそれと手を出せない域にある。
ヘスティアは一流冒険者のラムザを眷属にしても、品を買えるだけの大金はまだ所持していない。だからこうして頭を下げ続けていた。
「……ヘスティア、教えてちょうだい。どうしてあんたがそうまでするのか」
痺れを切らしたヘファイストスが頭を下げ続けるヘスティアに言う。
「……ベル君の力になりたいんだ!」
「貴方には第一級冒険者のラムザ・ベオルブがいるじゃない。そうまでしてベルという子の肩を持つのはなぜ?」
「ベル君は真っ直ぐで素直でとてもいい子だ。でもそれと同じくらい繊細な子なんだ。ベル君は自分が弱いことを理解しているから、強くなるために危険な行動もする。だから欲しい! あの子の道を切り開ける武器が!」
ヘファイストスは黙って聞く。
「…それに、ラムザ君とアルマ君には『目的』があるんだ。その『目的』を達成するには、すごく厳しい道のりだ。でもそれは僕が割り込むことが出来ない。ラムザ君達の意思を尊重してあげたいから! そしてその『目的』が達成することが出来たら、ラムザ君達は僕のファミリアから去ってしまう…。そうなればベル君一人だけになってしまうんだ…」
「…………」
「僕は助けられてばっかりだ! ひたすら養ってもらっているだけだ! 僕は主神なのに…神らしいことは何一つだってしてやれない…! だから――――」
ヘスティアは搾り出すように次にこんなことを言った。
「―――何もしてやれないのは、嫌なんだよ…」
「…わかったわ。作ってあげる」
「ヘファイストス!」
「そうじゃなきゃ、あんた梃子でも動かないでしょ」
「ありがとう! ヘファイストス!!」
ヘファイストスは今のヘスティアになら手を貸すのも良いのではないかと思った。
以前のヘスティアはぐーたらして部屋に引きこもり、ろくに働こうともしなかったが、今では眷属のために頭を下げる。微笑ましくなったものだ。
「でも、言っておくけどちゃんと代価は払うのよ。何十何百年かかっても、絶対にツケは返済しなさい」
「わかっているさ! 僕だってやるときはやるんだ!」
「楽しみに待っているわ――――それで、あんたの子が使う獲物は?」
「……ナイフだけど?」
するとヘファイストスは鎚を取り、鍛冶作業を行うための工房へと入って行った。
ラムザ達は街のメインストリートに来ていた。朝だというのに大勢の人々で賑わっていた。これも怪物祭の影響だろう。
ラムザ達は闘技場に向かおうとしていると。
「おーい、待つニャそこの白髪頭ー!」
『豊饒の女主人』の店先で、ネコ耳と細い尻尾を生やしたキャットピープルの少女――――アーニャが声をかけてきた。
「おはよう、アーニャ。どうしたんだい?」
ラムザはアーニャに声をかける。ラムザはアーニャのことは知っていた。顔見知りではないが、声をかける仲であったのだ。
「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて悪かったニャ」
「…えっと、それで何か僕に?」
ベルがアーニャに聞く。
「ちょっと面倒ニャこと頼みたいニャ。はい、コレ」
そう言ってアーニャは『がま口財布』をベルに手渡した。
「白髪頭達はシルのマブダチニャ。だからコレをあのおっちょこちょいに渡して欲しいニャ」
「渡してって………」
「アーニャ。それでは説明不足です。クラネルさんも困っています」
今度はエルフの店員――――リュー・リオンが現れた。そしてリューが説明を付け足す。なんでも休暇のシルが怪物祭を見に行ったこと。
その際に財布を忘れていったこと。リュー達は仕事で忙しく直接渡しに行けないので、偶々通りかかったベル達に、シルの財布を渡してもらいたいことを話した。
「わかりました。そういうことだったら、シルさんの財布を預からせていただきます!」
そう言ってベルはサイフを受け取った。そしてラムザ達は怪物祭が行われている場所へと向かった。
闘技場の周りには数え切れない程の人や出店が並んでいた。香ばしい匂いや何かを焼く音が聞こえてくる。
出店で食べ物を買う人、楽しそうに闘技場に足を運ぶ親子連れ、食べ歩きをしている若いカップルなど、祭り一色に染まっていた。
そんな祭の中、大通りに面する喫茶店の二階に、『美の神』フレイヤは外の景色を眺めながら椅子に座っていた。
「よぉー、待たせたか?」
ロキが手を上げ気軽に声をかけてきた。彼女の後ろにはアイズ・ヴァレンシュタインも控えている。
「いえ、少し前に来たばかり」
フレイヤの言葉を聞きながら、ロキは椅子に座った。
「ところで、その子紹介してくれるかしら?」
「なんや、紹介がいるんか」
「一応、彼女と私は初対面よ」
「うちのアイズや。アイズ、挨拶だけはしときぃ」
「……初めまして」
フレイヤは小さな声で剣姫と呟き彼女を見つめる。
「可愛いわね……。ロキがこの子に惚れ込む理由、よくわかった。どうしてここに【剣姫】を連れて来たのか聞いても?」
「ぬふふ…! そらお前、せっかくのフィリア祭や、その後きっちりアイズたんとラブラブデートを堪能するんじゃあ!」
笑みを浮かべ吼えるロキ。
「…ま、それに『遠征』も終わってやっと帰って来たと思ってほおっておくと、まーたすぐダンジョンに潜ろうとするからなぁ…」
そう言ってロキはテーブルに頬杖をついた。
「……それじゃあ、こんなところに呼び出した理由をそろそろ教えてくれない?」
「ちょい久々に駄弁ろうと思ってなぁ」
「嘘ばっかり」
するとロキのふざけた態度から一転、不敵な笑みを浮かべる。
「率直に聞く。何やらかす気や」
「何を言っているのかしら、ロキ?」
「とぼけんな、あほぅ」
ロキはふうっとため息をつく。そして確信した口調で言った。
「何か企んでいるのはわかってんねん。あのラムザ・ベオルブってやつやろ?」
アイズがその名を聞いた瞬間、ピクリと反応をしたが、すぐに鳴りを潜めた。
「………フフ」
フレイヤは微笑した。
「ええ、彼は凄く良いわ…。誰よりも溢れんばかりに力強くとても輝いていて、それでいて凄く綺麗な色をしている…!」
フレイヤは少々興奮ぎみに言ったが、すぐになりを潜め、そして次にこう言った。
「…でも、気になったのはもう一人いるの」
「もう一人?」
「…今はまだとても頼りない。少しのことで傷付いてしまい、簡単に泣いてしまう…そんな子…でも――――綺麗だった。透き通っていた。あの子は私が今まで見たことのない色をしていたわ」
そしてフレイヤは外の景色を眺める。そして何かを見つけたのだろう、蠱惑的な笑みを浮かべた。
「ごめんなさい、急用ができたわ」
「はぁ?」
「また今後会いましょう」
そう言ってフレイヤは席を立ち、部屋を後にした。
「凄い人ですね。ラムザさん…」
「うん。まさかここまで規模が大きいとは思わなかった」
「本当にすごい…」
時刻は昼過ぎ、闘技場に向かう人々の込み合いの中にラムザ達はいた。目当てのシルはまだ見つかっていない。というか、この人込みの中で見つけるのは困難というのが正しかった。
ラムザ達が込み合う人々の中を進んでいくと―――――。
「あれ……!? おーい! ラムザくーん! アルマくーん! ベルくーん!」
前方からぴょんぴょんジャンプしながら手を振るヘスティアを発見した。
「ヘスティア様! どうしてここに?」
ラムザ達はヘスティアに声をかける。
「へへッ! ちょうどよかった! 皆に会いたかったんだ! 特にベル君! これを君に渡そうと思ってね!!」
そう言ってヘスティアは袋からナイフを取り出した。
「これは
「僕専用の武器!?」
驚きながらもベルはナイフを受け取る。
「で、でも良いんですか? 僕なんかが専用の武器を貰っちゃっても…」
「ベル。よかったじゃないか。専用の武器を貰えるなんて滅多にないぞ」
「そうよ。ベル。ここは喜んでも良いところよ」
ラムザとアルマがそう言った。
「…ラムザさん、アルマさん! わかりました!」
ベルは満面の笑みを浮かべる。
「神様! ありがとうございます!!」
ベルはヘスティアにお辞儀した。
「喜んでくれて僕も嬉しいよ! ところで皆。これから怪物祭に行くのかい?」
「はい、でもその前にお使いを頼まれているので…」
ベルがちょっと申し訳なさそうにそう言う。
「そうなのかい? 皆で楽しく祭りを見たかったんだけどな」
「だったら、そのお使い僕が引き受けよう」
ラムザがそう言った。
「ラムザさん。良いんですか?」
「うん。皆は祭りを楽しんでくれ」
「そうかい! じゃあアルマ君! ベル君! 祭りを楽しもうじゃないか!」
「またね、兄さん」
「ああ」
そうしてラムザはベルからサイフを受け取ると、ヘスティア達と別れて行った。
摩天楼施設――――ダンジョンの入り口には疎らな冒険者達で往来をしていた。
今日は怪物祭なのでいつもより人が少ない。
そんなダンジョンの出入り口に一人の男が出てきた。
全身を銅色の鎧に覆われたその男は外の景色を見渡す。
とても大きい街だ。
そして男は街のメインストリートへと来る。
とても賑やかだ。人々が明るく、楽しく、歩いている姿を眺める。
来てみてわかる。ここは戦争などないところなんだと。
「フン。平和なところだ。ここで争いが起こったら、さぞかし楽しいことになるンだろうな…!」
男はそう呟き、街のメインストリートを歩いていった。
邪悪な笑みを浮かべながら。