「…………」
ベルは人目もはばからず、力つきたように建物の壁に寄りかかりながら、目の前を流れていく人の往来をぼんやり眺めていた。
物心ついた時から祖父が読み聞かせてくれた英雄譚が大好きだった。怪物を倒し、人々を救い、囚われのお姫様を助け出す、そんな英雄になりたいと夢を抱いていた。
―――男ならハーレム目指さなきゃな!――――
今は亡き祖父が言っていた言葉。英雄達の物語の中で最大の醍醐味は可愛い女の子との出会いなのだと。男の浪漫とは何たるかを教えてもらった。
そんな一念に後押しされるように、ダンジョンのあるこの地へとやって来たのだ。
しかし現実は厳しかった。どのファミリアにも門前払い。そして本日十六度目のファミリア門前払いを受けとうとうへたり込んだのだ。
「…………」
気分を落としながらよろよろと立ち上がったベルは、賑やかな通りから逃げるように、暗闇に包まれる裏通りへと入ろうとする。
すると――――。
「――――おーい! そこの君ぃ。路地裏は危ないから、行かない方がいいぜ?」
「え………?」
ベルは一瞬なんのことだかわからなかった。自分に声をかけてきたのだろうか? 声が聞こえてきた方面を見る。そこには小柄な少女とリボンをつけた長い髪の少女がいた。
それはヘスティアとアルマであった。
「ありがとう……えっと君達は? 迷子なのかな?」
「…何を言っているんだい、君は?」
「何かあったの? 逃げるように去ろうとしていたけど…」
アルマがベルに聞く。
「…実は、冒険者になりたくてオラリオに来たんだけど、どこのファミリアも門前払いを受けて―――――」
ベルはうつむきながらそう言った。そんなベルを見たヘスティアとアルマは目を丸くしながら互いを見つめる。そして―――――。
「君ファミリアを探していたのかい? もしよかったら僕のファミリアに入るかい?」
その言葉を聞いたベルは驚き目を見開く。
「い、いいんですか!? 入ります! 入らせてください! むしろ僕みたいな奴が入っても大丈夫なんですか!?」
「大丈夫よ」
そう言ってアルマは微笑んだ。
「僕の名前はヘスティアさ! そしてこちらが眷属のアルマ君!」
「よろしく」
「そして今はいないけど、もう一人眷属がいるんだ! それで、君の名前は? なんて言うんだい?」
「ベル………ベル・クラネルです」
これがベルとヘスティア達の出会いであった。
「…………」
ラムザは都市の中心地、圧倒的な存在感となって迫ってくる摩天楼施設―――バベルを眺めていた。
ダンジョンの蓋をするかのように築かれた塔。ダンジョンの監視と管理の役割を持つが、その一方様々な公共施設や商業施設がある。魔物が外にでることはない。どうやらそれはウラノスという神が祈禱して押さえ込んでいるようだ。
「…いくか」
バベルを見終えたラムザはダンジョンへと入る。元の世界に帰る手掛かりを見つけるための第一歩を踏み込んだ。
ダンジョンを探索していると突如ラムザの前にモンスターが現れた。
コボルト
咆哮を上げながらラムザに襲い掛かる。
ラムザは鞘から剣――――騎士剣、カオスブレイドを手に取り、コボルトに向かって振るう。
一閃。
瞬間、瞬く間にコボルトの身体は真っ二つになり消え果る。そしてそこには小さく輝く紫の魔石が転がっていた。
魔石。モンスター生命力の核。だが同時にこれを集めて換金すればこの世界の通貨――――ヴァリスがもらえるという。
ラムザは魔石を拾う。塵も積もれば山となる。日頃の行いが癖になっているラムザは、どんな小さな魔石でもお金になるのなら拾ってしまうのだった。
そしてラムザは探索を続けるのであった。
「ここが僕達の住んでいるところさ!」
ヘスティアがベルに向かってそう言った。どう見ても廃教会のそれは、ベルに衝撃を受けるには十分だった。
「ず、随分と――――」
そこでベルは言葉を止める。せっかく入れてもらったファミリアのホームの悪口を言うには申し訳ないと思ったからだ。しかし、それはもう遅い。
その言葉を聞いたヘスティアは申し訳なさそうに――――。
「まあ、住めば都ってことさ……」
「そ、そうですよね! 神様!」
そんなヘスティアに向かってベルが言う。
「さて、ベル君。さっそくだけど君に『神の恩恵』を刻もうと思う」
「『神の恩恵』…ですか?」
きょとんとするベル。
「それをしないとファミリアの一員になれないのよ」
アルマがベルにそう言った。
「そうなんですか! やります、やらせてください!」
「じゃあ上着を脱いでベッドにうつ伏せて!」
ベルはヘスティアの言われたとおり、上半身裸になり、ベッドにうつ伏せになる。その上にヘスティアが乗り、『神の恩恵』を刻み込む。
すると背中にステイタスが浮かび上がった。
ベル・クラネル
Lv1
力 :I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
《スキル》
「…何もありませんね」
ヘスティアから貰った紙を見ながらベルは呟く。
「こんなもんさ! これから頑張っていこうぜ!」
ヘスティアはそう言ってベルを励ました。そう。これが普通なのだ。イレギュラーなのはラムザなのだ。
「じゃあ神様! これでダンジョンに行くことが出来るようになるんですよね! 僕さっそく行っていいですか?」
「ダンジョンに行くの? 私も行っていい?」
「えっ? アルマさんも!?」
「ええ、どんなところか気になるから」
「ぜ、全然いいですよ! こちらこそ宜しくお願いします!!」
ベルはそう言った。
まさかこんなところで女の子と一緒に行動を共にすることになるとは。おじいちゃん。出会いというのは本当にあるのかも知れない。とベルは思った。
「じゃあ二人とも、夕方までには帰ってきてくれよ。それと、くれぐれも無茶をしないようにね!」
「わかりました!」
ベルとアルマは冒険者ギルドへと来た。そして、受付をした際、受付嬢のエイナ・チュールがヘスティア・ファミリアと知ったとき、驚愕な表情をしたが、二人のLvを見た瞬間、安堵した表情をしたのを忘れられなかった。
二人はエイナから冒険者のレクチャーを受ける。モンスターのこと、魔石のこと、冒険者は冒険をしてはいけないこと、駆け出しの冒険者が命を落としやすいこと。 一通りレクチャーを受けた二人は満を持してダンジョンへと入っていった。
「ベル。そんな緊張しなくても大丈夫よ」
「は、はい……」
アルマは緊張しているベルにそう言う。そんなベルはアルマの言葉を聞いて深呼吸する。すると少しばかり緊張が抜けてきたのを感じた。
「思ったより暗くないのね」
「そ、そうですね」
二人がいるのは一階層。奥まで進んでいくとそこには一匹のゴブリンがいた。
「…! アルマさん、さがって!!」
ベルは支給されたナイフを手に持つ。
「待って、ベル!」
「…?」
「マバリア!」
アルマが魔法を唱える。するとベルの身体から淡い光に包まれる。
マバリア―――――対象にリレイズ、リジェネ、プロテス、シェル、ヘイストの効果を持つ魔法だ。
「これは…!」
「これで少しはマシになると思うわ」
「アルマさん…! ありがとう!!」
ベルは駆ける。
(…?)
自身のスピードが速くなっていることに気がついた。
(いつもより、速く走れる…! これなら!!)
先手必勝。ベルは速さを生かしゴブリン目掛けてナイフを振るった。
ゴブリンは胸に深い切り傷を負う。だが、ゴブリンは構わずベル目掛けて勢いよく、力任せに無骨な腕を振るう。
その腕に当たり、ベルは一歩引いた。
(あれ…?)
瞬間、ベルにある違和感があった。
(全然痛くない! これもアルマさんの魔法のおかげか!!)
こうなればもう怖いものはない。ベルは勢いよくナイフをゴブリンの首目掛けて切りつけた。
ゴブリンは絶命し、霧のように消える。地面には小さな魔石が転がっていた。
「やりましたよ! アルマさん!!」
「おめでとう、ベル!」
ベルは喜び、アルマは褒める。
モンスターを始めて倒したのだ。
初めての戦闘でここまでやってのけたのだ。しかも女の子の前で。
ベルは嬉しさに満ち溢れていた。
そんな最中、突然壁に亀裂がはしる。
「ん…?」
するとその亀裂から五体のゴブリンが出てきた。
「う、うわ!? こんなにたくさん!?」
「ベル! さがって!!」
ベルはアルマの言うとおりゴブリンと一定の距離を保つ。それでもナイフを構え、いつでも迎撃できる態勢を整えた。
だが――――。
「虚栄の闇を払い、真実なる姿現せ あるがままに! アルテマ!」
アルマが魔法を唱えたのだ。
瞬間。
ゴブリン達がいた中心目掛けて大爆発が起こる。そして、一瞬のうちにゴブリン達を倒したのだ。
ベルは一瞬なにが起きたのかわからず目を白黒させた。
「い、いまの…アルマさんが…?」
「ケガはない? ベル?」
アルマがベルにそう言う。
「あ、はい…」
ベルはきょとんとしながらもそう言った。同時になんだか情けなさも出てうつむく。
「どうしたの?」
そんなベルを見てアルマが言う。
「はい…なんだが一匹倒してはしゃいでいたのが、なんだか恥ずかしくて…」
「そんなことないわ。ベル」
「…?」
「千里の道も一歩から、て言うじゃない。それに魔物を倒したベルの姿、カッコよかったわよ」
「アルマさん…!!」
アルマの励ましを貰ったベルはやる気に満ち溢れる。やはりダンジョンに出会いがあるのは本当なんじゃないかとベルは思った。
「とにかく、今日は一階層中心に探索しましょう」
「わかりました!!」
ベルとアルマのダンジョン探索は続く。