ラムザは十三階層まで来た。ダンジョンの奥に進むにつれてモンスターが強くなっていく。しかし、それでも自分の敵ではない。迫り来る魔物は圧倒的な力の前には為す術もなかった。それでも魔物はラムザの前に立ち塞がる。現在ラムザの前にいるのはヘルハウンドの群れであった。
ヘルハウンド―――――放火魔の異名を持つ犬型のモンスター。口から火炎を放射するのが特徴のモンスターだ。
そのヘルハウンドがラムザに襲い掛かる。
一匹のヘルハウンドがラムザ目掛けて火炎を放射した。
ラムザは両腕をクロスさせて防御体制に入った。勢いよく火炎がラムザに直撃した。
静寂が訪れる。
瞬間。
ラムザは火炎を放射し終えたヘルハウンド目掛け勢いよく剣を振るった。
一撃。
一撃でヘルハウンドを倒した。それを合わせたかのように、残っていたヘルハウンドの群れがラムザに襲い掛かる。
ラムザは迫り来るヘルハウンドの群れの攻撃を紙一重に避けながら、リズムを取るかのように一匹ずつ撃退してき、全てのヘルハウンドを倒した。
辺りに魔石が転がる。ラムザは落ちている魔石を拾う。手持ちの袋にはドロップアイテムや魔石でいっぱいだ。
「今日はここで切り上げるか」
ラムザはそう呟く。ヘスティアには夕方には戻ると言っといたのだ。時間的にここが潮時だ。そして思ったことが一つ。このダンジョンは想定以上に深い。元いた世界にもダンジョンはあったのだが、それでも地下十階までだった。
ところがこのダンジョンはまだまだ先がある。それこそ一日では攻略など出来はしない。何日も潜る必要がある。この階層まで来ても元の世界に帰る手掛かりが見つからない。もっと深く探索しなくては。だが、今日はここまでだ。一旦出直して色々準備してから再挑戦したほうがいいだろう。そして、ラムザは引き返していった。
夕暮れ時、ベルとアルマはダンジョンの入り口の少し離れた場所で待機していた。夕方にはラムザがダンジョンから帰ってくる。だから二人は行き交う冒険者をよそに、ラムザが来るのを待っていたのだ。
「アルマさん。ラムザさんってそろそろ来ますか?」
「約束の時間だからそろそろだと思うけど…」
「でも、そのラムザさんって、凄い人なんですよね!」
「本人は凄いなんて思ってもないと思うんだけどね」
アルマはそう言ってベルに微笑んだ。そんな会話をしていると、ダンジョンからラムザが出てくる。
「アルマ。こんなところで何しているんだ?」
「兄さん!」
「君は…?」
ラムザはベルを見てそう言った。
「は、始めまして、僕はベル。ベル・クラネルと言います! 今日からヘスティア・ファミリアの一員としてお世話になります!」
「ラムザ・ベオルブだ。そうか、ファミリアの一員になったんだね。これからよろしく」
「はい!」
「ところで、兄さん。どうだった?」
「十三階層まで潜ったんだが、手掛かりはなかった。次はもっと深く潜らないといけないな」
「そう…」
「? あの、何の話ですか?」
ベルは話の意図が読めずにラムザに聞く。
「なに、ちょっとした探し物さ。ところでベル。ファミリアに入ったってことは、君も冒険者に?」
「そうです! さっきもアルマさんと一緒にダンジョン探索していました!」
「アルマと一緒に…? アルマ。まさか冒険者になったんじゃないだろうな?」
「誰もならないなんて言ってないじゃない」
「おまえは…。いいか、昨日も言ったけど、ダンジョンは危険なところなんだ。興味本位だとしたら、それこそ命を落としかねないんだぞ!」
「無茶はしないから大丈夫よ。ね、ベル」
「え!? は、はい。大丈夫ですよ、ラムザさん!」
ベルは自分に話しをふられてドキッとしたが、その後こう言う。
「アルマさんはしっかりしていますよ。危険なこともしないですし、それに今日は一階層探索だけでしたから。それに、もしものことがあっても僕がアルマさんを守ります! どんなことがあっても!」
「ベル…」
「……わかった。そこまで言うからには信用しよう。だがくれぐれも無茶はするなよ」
「…! はい!」
その後、三人は冒険者ギルドに行き、魔石やドロップアイテムを換金した。
ベルとアルマの金額は合わせて五千ヴァリス。ラムザは四万ヴァリス。合計で四万五千ヴァリスだ。
「ずいぶんな金額になりましたね!」
「うん、これならヘスティア様も喜ばれるだろう」
三人はヘスティアが待つ廃教会に向かう。そこでアルマはあることを言う。
「今日の夕食はどうするの?」
そこで三人の歩みは止まる。
「そうだな…もう夜だし、どこか外食でも出来るところがあれば―――――!?」
瞬間、ラムザは後ろを振り向く。何かを感じ取ったのだ。そう。これは視られている。殺気などはないが、物を値踏みするような感覚が――――。
「?」
「兄さん。どうしたの?」
ラムザの行動を不思議に思ったベルとアルマはラムザを見る。
すると。
「あの……」
後方から声が聞こえる。声をかけてきたのはメイド服を着た少女がいた。
ラムザは警戒を少し強める。
先ほどの視線は彼女なのだろうか?
「あの…どうかしましたか?」
少女がラムザに言う。
「いや…なんでもない」
ラムザはさっきのは気のせいだと思うことにした。このような少女に先ほど感じた視線を放つわけがない。さっきまでダンジョンにいたから敏感になっていただけだと、そう結論させた。
「そうですか…。あの、外食なさるんですよね? もしよかったら『豊饒の女主人』なんてどうですか? 私そこで働いているんです」
「なるほど、勧誘か。調度良い。後でそこにお邪魔させてもらってもいいかな?」
「わかりました! えっと、地図を渡しておきますね! それで貴方のお名前は?」
「ラムザ・ベオルブだ」
「僕はベルと言います! ベル・クラネル!」
「アルマです」
「わかりました! 私はシル。シル・フローヴァです。それでは!!」
そう言ってシルは去っていった。
「今日は皆で外食だー!」
ヘスティアはウキウキしながら三人をつれて街を歩いてた。それもその筈。久々に豪華な食事にありつけるのだ。これが喜ばずにはいられない。
「嬉しそうですね。ヘスティア様」
アルマがヘスティアにそう言う。
「フフン。これが喜ばずにはいられるかい! 久々に美味しい食べ物が食べられるんだ! こんな眷属達を持てて、僕は幸せものだよ!」
「よかったですね! 神様!」
ベルがはしゃいでいるヘスティアに言った。
「これも君達のおかげだよ! こんなにいっぱいお金を稼いでくれて、僕はもう感動ものだよ!」
ひもじい思いよさらば。ゆくゆくはバイトもしなくてすむ。まあ、ラムザとアルマがいなくなってしまっては、どうなるかわからないのだが。それでもヘスティアはこの幸せな気持ちを噛み締めた。
街のメインストリートには夜だというのに、様々な種族が行き交う。
ホビットとノームが路上で歌を歌っているのを見かけたり、獣の耳と尾を生やした獣人の女性が大胆な衣装で客引きをしたり、大衆の真ん中で、ギターの引き語りをしている人もいた。
「賑やかね」
「そうだな…」
本当に賑やかだ。
その賑やかな世界を四人は歩く。
ヘスティアは楽しそうにラムザ達との会話をし、ベルはそんなヘスティアに振り回される。そんな二人を見てアルマは微笑む。そしてラムザは渡された地図を眺めながら店を探す。
「地図によるとここか」
ラムザは地図に書かれている店につく。石造りで出来た二階建てのこの店は、周りにある店の中でも一番大きかった。
「さあ、今日はご馳走にありつこうじゃないか!」
そう言ってヘスティアは店の中へと入っていった。そしてラムザ達も後に続いた。