異端者が英雄になるのは間違っているだろうか?   作:もち米

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6話 強さ

 ラムザとアルマがオラリオに来て二週間たった。ラムザは念入りな準備をしてダンジョンに入る日々。数日かけて探索しては、オラリオに戻る日々を繰り返していた。そして、その二週間の間で色々なこともあった。冒険者ギルドのロビーの掲示板に、ラムザのLvの報が張り出されていたのだ。

 当時の喧騒は凄まじいものであった。無名のヘスティア・ファミリアに異例のLv9が出現したのだ。

 冒険者のほとんどがこの報に唖然とし、神々でさえも驚きを隠せないでいた。

 神の中にはヘスティアに直接会い、真相を聞く者が後を絶たなかった。その度ヘスティアは「ラムザ君を見つけたのは、偶々ラムザ君が僕の家にいたからさ。だからこれは運命だ! そう、運命が僕達を引き合わせてくれたのさ!」と何やら情緒的な言葉を発しては、神々を困惑させたのだ。そしてラムザの現状も変わった。数々の冒険者や神に注目の的になっていたのだ。

 街へ行けば、神々から熱烈な勧誘を受けたり、冒険者からはやっかみを買うこともあった。だが、ラムザはそんなことは構いはしない。元の世界。イヴァリースでは異端者としてレッテルを貼られていたラムザは、皮肉にもこれくらいの喧騒などは慣れていたのだ。

 それにラムザを受け入れてくれる神や人もいた。一人は神のミアハ。道具屋を営んでいる神だ。彼にもファミリアがあるのだが、ヘスティア・ファミリアに負けず劣らず脆弱だ。だがラムザはそんなミアハの道具屋によく訪れていたのが幸いだったのか。ラムザのLvのことは気にも留めることなく、迎えてくれた。もっとも、今後ともこの道具屋をご贔屓にと言われたが。

 『豊饒の女主人』のメンバーも変わらず接してくれる。それは客だからということもあるのだろうが、それでも早朝に会ったときは挨拶されたりと、付き合いは悪くなかった。

 

 

 一方アルマとベルは同じヘスティア・ファミリアに所属しているが、それほど注目をされることはなかった。お互いLv1だからだろう。どこにでもいる駆け出し冒険者として見られるだけであった。だから、アルマとベルは共に人の目を気にすることなく、ダンジョン探索をすることができた。そしてアルマとベルは、今のところ無茶なことはせずに、主にダンジョンの上層を探索していた。冒険者は冒険をしてはいけない。エイナ・チュールの言葉を守り、迂闊な行動を控えていた。

 そんなことがある中、依然元の世界に戻る手掛かりは見つからない。しかし焦りは禁物。この広大なダンジョンは何が起こるのか、わからないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなある日の早朝。街の市壁の上に、ラムザとベルが木の棒を持って対峙していた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 互いに見詰め合う二人。夜と朝の境界が曖昧になっていく空。次の瞬間。

 ベルが動き出す。

 

 

「やああああああああ!」

 

 叫び声を上げ、持っている木の棒をラムザ目掛け振り下ろす。

 すると、ラムザは持っている木の棒で防ぐ。そして足払いをかけてベルを転倒させた。

 

「うわッ!!」

 

「ベル。ムキになって突っ込みすぎだ。だから隙が生じる。戦闘では常に冷静になるんだ」

 

「わ、わかりました…!」

 

「次、もう一回!」

 

「は、はい!」

 

 再び、ベルとラムザは対峙した。

 

「……ふッ!!」

 

 ベルがラムザ目掛けて木の棒を薙ぎ払う。ラムザは難なく木の棒で受け止める。

 

「クッ…!」

 

 今度は上から木の棒を振り下ろす。しかし、それも受け止める。

 

「…………!!」

 

 ベルは一旦後ろに下がり、息を整える。そして行動を起こそうとしたとき――――。

 

「……!」

 

 ベルは咄嗟に身構えた。ラムザから殺気を感じたからだ。

 

(来る…! どんな攻撃が来ても対応しないと――――!!)

 

「…………」

 

 ラムザは黙りながら、木の棒を構える。そして、瞬時に行動を起こす。

 

「ガハッ……!?」

 

 ベルのわき腹に木の棒が叩き込まれる。一瞬何が起きたのかわからなかった。気がついたらラムザが自分の横にいて、攻撃していたのだ。

 

「うッ……」

 

 ベルはその場でうずくまる。

 

「今のは、良い判断だ。今度は攻撃を見極め、反撃に転ずること。立てるか? ベル」

 

 そう言ってラムザは手を差し伸べる。

 

「はい…」

 

 そう言ってベルは手を掴み、立ち上がった。 

 

 

 

 

 

 事の成り行きは昨日の夜。ベルとアルマのステイタス更新し終えた際、ベルがラムザに向かって特訓してくれませんか? と言ってきたのだ。ラムザにとって断る理由などないので、勿論承諾する。

 

「ウンウン。感心するねぇ。こうやって子供は強くなっていくんだ!」

 

 ヘスティアが腕を組みながらそう言った。

 

「兄さん。人に教えることなんてしたことないんじゃない? 大丈夫なの?」

 

 アルマがラムザに言う。

 

「とりあえず、士官アカデミーで習ったことを教えようと思う」

 

「士官って…、ラムザさん。騎士だったのですか!?」

 

 ベルが驚きの表情を見せる。

 

「元・士官候補生だけどね」

 

 ラムザはそう言った。

 

「意外だねぇ…。ラムザ君もアルマ君も、もしかして良いところの家出身なのかい? 食事のときも上品に食べていたし―――――」

 

 ヘスティアが興味本位で聞く。

 

「家のことは良いではないですか。それよりベル。明日早朝に特訓でもしよう」

 

 ラムザは家のことを聞かれたくないのだろう。はぐらかす。そう。ベオルブ家は滅んだのだ。忌まわしき兄弟同士の殺し合い。 

 もう家は関係ない。大切なのはどう生きるかなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「はあッ……はあッ……」

 

 朝日が昇り、鳥のさえずりが聞こえる。そんな中。息切れしながら、ベルは倒れこんでいた。そんなベルをよそにラムザはこう言う。

 

「ベル。今日はここまでにしよう」

 

「わかり…ました…」

 

 ベルは身体を起こす。しかし何か参っている様子だ。現にこんな弱音を吐いた。

 

「ラムザさん…僕、強くなれるんでしょうか…」

 

「ベル…」

 

「わかってた。わかってましたけど…いくらLvが違いすぎるとはいえ、ここまで手も足もでないとなると――――」

 

 足手まといになるのではないか。

 ベルは心の中でそう思った。

 オラリオで唯一のLv9のラムザ。

 そしてLv1とはいえ、強大な魔法を扱えるアルマ。

 自分だけがなにもない。このヘスティア・ファミリアの中で自分だけがなにもないのだ。剣の扱いも大したことがない。特別な魔法も扱えるわけもない。そんなもどかしい気持ちで、ベルはいっぱいだった。

 

「ベル。誰も最初から強いわけじゃない。それ相応の努力をして強くなっていくんだ」

 

「努力…ですか」

 

「そうだ。ベルはいったい何の為に強くなりたいんだ?」

 

「僕は…」

 

 ベルはうつむく。自分だけ何も特別じゃないということについて、口に出せなかった。

 

「…………」

 

「…まあ、今はまだ答えを出さなくてもいい。でも、これだけは覚えていてくれ」

 

「……?」

 

「もっとも大事なのは自分のためではなく、他人のために戦う。これが僕の考える強さの要因のひとつだと思う。そして、これが本当の”正義”なんだ」

 

「自分のためではなく、他人のために……」

 

「そうだ。代償なんていらない。自分の信じる道を歩んで行けばいい。それが人としてもっとも正しい生き方なんだ」

 

「ラムザさん…」

 

「さ、もう帰ろう」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝のオラリオは静かだ。喧騒も人ごみもない大通りはやけに広く感じられる。

 

「ラムザさん。今日もダンジョンに行くんですか?」

 

 ベルがラムザに聞く。

 

「いや、今日は休みにしようと思う。昨日、ダンジョンから帰ってきたばかりだからね。色々準備をしておきたいんだ。ベルはダンジョンに行くのかい?」

 

「はい。アルマさんと一緒に行きます。今日も上層を中心になると思いますが」

 

「そうか。くれぐれも無茶はするなよ」

 

「わかりました」

 

 二人がメインストリートを歩いていると。

 

「ラムザさん」

 

 店の前でテーブルを頑張って運んでいたシルがラムザ達を発見して声をかけた。

 

「やあ、シル。今日も頑張っているね」

 

「こんな朝早くから、もしかしてダンジョンに行くんですか?」

 

「今日はベルの特訓をしていたんだ。今はその帰り」

 

 シルは「そうなんですか」と言いベルを見つめた。その時、目を見開き驚いた表情をしたが、それも一瞬。元の表情に戻り、ベルに微笑みかける。シルに見つめられたベルは、恥ずかしかったのか、頬を少し赤らませる。

 そして―――――。

 

 ぐうぅぅぅぅ~。

 

 するとベルのお腹がなった。

 

「あ……」

 

 ベルは恥ずかしさからか、ちょっとうつむく。

 

「お腹すいているんですか? ちょっと待っていてください」

 

 シルが店の中に入っていく。そして、暫くするとサンドイッチを持って戻ってきた。

 

「よろしかったら、もらっていただけませんか?」

 

「え? でも…」

 

「ベル。人の好意は素直に受け取るべきだ」

 

「わかりました。それじゃあいただきます」

 

 ベルはシルからサンドイッチを貰った。

 

「じゃあ、僕らはもう行くよ」

 

「はい」

 

 そう言ってシルとわかれた。

 

 

 

 

 ラムザとベルは廃教会へと帰って来た。教会の中に入り、地下へと伸びる階段を降り、ドアを開ける。

 部屋にはヘスティアとアルマがいた。

 ヘスティアはベッドで眠っている。アルマは起きていた。

 

「おかえり」

 

 アルマは二人に向かって言った。ラムザとベルは返事をして部屋に入る。

 それから寝ているヘスティアを起こし、朝食を済ませる。

 

「それじゃあ僕はこれからバイトに行ってくるよ!」

 

 ヘスティアはそう言って部屋から出て行った。

 それから暫くしてベルとアルマはダンジョンに行く準備をする。そして準備を済ませた二人は廃教会を出る。

 街を歩いてるとき、ベルの頭の中は今朝の特訓でラムザが言っていた、何故強くなりたいのかを考えていた。冒険者とはいえ、今の自分は特別凄いものではない。そんな普通の人間には、ラムザが言っていたように、強くなるための努力をしなければならないだろう。そんなことを考えているとダンジョンに到着した。

 

「今日も探索がんばりましょう」

 

 アルマの言葉を聞き、ベルは気持ちを切り替える。

 

「はい!」

 

 そしてベルとアルマはダンジョンの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベルとアルマはダンジョンの五階層に来ていた。そこには、コボルトの群れと、壁に張り付き今にも飛びかかろうとしているモンスター、『ダンジョン・リザード』がいた。

 ダンジョン・リザード――――ゴブリンやコボルトと同じ低級モンスターの一匹だ。そのダンジョン・リザードがベル目掛けて急降下してくる。

 

「……ッ!!」

 

 ベルは間一髪で避け、地面に降り立ったダンジョン・リザード目掛け駆ける。

 

「はああああぁぁぁ!」

 

 装備しているナイフを逆手に、大きく踏み込んでジャンプして、ダンジョン・リザードの首筋目掛けナイフを振るう。

 首筋を深く切られたダンジョン・リザードは絶命し灰になって消える。

 

「………ッ!」

 

 次にコボルトの群れに狙いを定める。しかし、それは杞憂に終わる。アルマが魔法、アルテマでコボルトの群れを一掃したからだ。

 事が終わったことを確認したベルは、ナイフを鞘に入れる。

 

「アルマさん。流石です!」

 

「ベルもね!」

 

 アルマはベルに向かってそう言う。五階層までのモンスターは、最早二人の敵ではなかった。

 

「ベル。そろそろ街に帰らない?」

 

「はい。わかりました」

 

 二人は帰ろうと引き返す。すると―――――。

 ゴブリンの群れが待ち構えていた。

 

「休ませてくれる暇はないか…!」

 

 ベルはナイフを手に持つ。

 

「油断しないでね。ベル」

 

 アルマは魔道士の杖を持ち、身構えた。

 ベルはゴブリンの群れへと駆ける。まず、向かいにいるゴブリン目掛けナイフを振るい、一撃でゴブリンを倒した。

 近くにいたゴブリンがベル目掛け、攻撃をする。

 ベルはそれを避けて、向かってきたゴブリンにナイフで薙ぎ払い、再びゴブリンを倒す。

 ゴブリンの群れは、様子見をしているのだろうか。動きを止める。

 

(僕は…)

 

 そんな最中、ふとベルはラムザと特訓していた時のことを思い出す。

 

(僕は……!!)

 

 自分のためにではなく、他人のために戦う。それが本当の”正義”。

 

(強くなりたい!!)

 

 ベルは駆け出し、残りのゴブリンを蹴散らしていった。

 

 

 ベルは思った。ラムザのようになりたい。

 自分のためにではなく、他人のために戦うのが本当の正義。

 自分の信じる道を歩んで行けばいい。

 その正義の心を自分も持ちたいと、ベルは強く願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てのゴブリンを倒し終えたベルはナイフを鞘にしまう。そして一息。その表情はとても晴れやかであった。

 

「ベル。すごいじゃない。一人でゴブリンの群れを倒したわ。私の出る幕はなかったわね」

 

「そんなことないですよ。アルマさんが後ろにいるだけで、心強いですから」

 

 二人はそう言って笑う。だが次の瞬間、けたたましい咆哮が聞こえた。二人は咆哮が聞こえた方面を見る。するとそこにはミノタウロスがいた。

 

 

 

 

 

 

   




士官学校で騎士というのも、可笑しな話ですが、ここはファンタジーだから、ということで了承してください
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