異端者が英雄になるのは間違っているだろうか?   作:もち米

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8話 酒場での出来事

 ベルとアルマはダンジョンに行くため、街に来ていた。人で込み合っているメインストリートを歩いていると、二人は仕事の準備をしているシルに声をかけられた。

 

「こんにちは。ベルさん。アルマさん」

 

「シルさん!」

 

「こんにちは」

 

 二人は立ち止まりシルに挨拶する。そんな二人にシルは微笑んだ。

 

「お二人は今日もダンジョンに行くんですか?」

 

「はい」

 

「じゃあこれ、よろしかったら差し上げます」

 

 シルは持っていた大きめなバスケットをベルに渡した。そこには食べ物が入っていた。ベルは渡されたバスケットを見て、申しわけなさそうにこう言う。

 

「…これは?」

 

「シェフの作った賄い料理です。味は折り紙つきですよ」

 

「よろしいのですか?」

 

 アルマがシルに聞く。するとシルは「お代は、夜うちのお店に来てくれたら」と言った。なるほど、誘い入れというところか。

 

「シルさん。抜け目がないですね―――――――。わかりました。今日の夜、お店に出向きます」

 

 アルマがそう言う。

 

「ありがとうございます」

 

 そうしてベルとアルマはシルと分かれた。シルは見えなくなるまで、ベルを見続け、何を思ったのか微笑をしていた。

 

 

 

 

 

 ラムザはヘスティアと共に街に来ていた。二人が街に来た理由は、近日ガネーシャ主催の神の宴が行われるので、その準備をしておこうと街に来ていたのだ。もっとも、準備といってもドレスを買うことが目的なのだが。

 

「いやあ、ごめんねラムザ君! 僕のためにドレスを買ってくれるなんて!!」

 

 ウキウキと嬉しそうにヘスティアは言う。

 

「構いません。宴に出るからには、場にふさわしい服を着るのが常識かと思ったので…」

 

 事の発端はこうだ。ヘスティアが、ガネーシャ主催の神の宴と書かれた催しの招待状を見て、悩んでいたところを見たラムザが、話かけたことから始まった。話を聞いてみると、どうやらヘスティアは、この宴に参加しようとしているようだ。それは良いのだが、気になることがある。そう、ちゃんとした正装はあるのかと。試しにラムザは「服はどうするのですか?」とヘスティアに聞いてみた。するとヘスティアは「このまま行くよ! 勿論、料理もタッパに詰めて持って帰るから、期待してくれたまえ!!」と堂々と言ったのだ。

 このままヘスティアを行かせれば、確実に他の神々の笑い者になる。それだけは何としても避けたかったラムザは、ヘスティアの料理タッパ詰めを何とか説得して、思いとどませ、服もきちんとしたものを買いに行こうと言ったのだ。するとヘスティアは「…ラ、ラムザ君…! 僕の為に……!! 僕、凄く嬉しいよ!!」と満面の笑顔で言った。そして二人は街に向かったのだ。そして今に至る。

 ラムザとヘスティアは高級服飾店に入る。店員を呼びヘスティアに似合うドレスを見繕う。選んでくれたのは白を基準にしたプロムドレスであった。ヘスティアは隅にある試着室に入り、ドレスを着る。そしてカーテンを開けてラムザに見せる。その姿はとても可愛らしかった。

 

「どうだい、ラムザ君?」

 

「可愛らしくて、とてもお似合いですよ。ヘスティア様」

 

 ラムザはヘスティアを褒める。それに機嫌がよくなったのか、ヘスティアは今着ているドレスを購入することを決めたようだ。

 元の服に着替え試着室からでたヘスティアはそのままドレスを購入する。値段はそこそこしたが、これぐらいの出費はしても良い買い物だった。そして二人は店から出た。

 ヘスティアは購入したドレスが入った紙袋を両手で握り締め、ニコニコと笑みを浮かべる。そうしていると―――――。

 

「おお、ヘスティアにラムザではないか!」

 

 前方からミアハが紙袋をもってラムザとヘスティアに声をかけてきた。

 

「やあ、ミアハ!」

 

「こんにちは、ミアハ様。買い物帰りですか?」

 

 ラムザがミアハに聞く。

 

「うむ。夕餉のための買出しだ。私自らな。ヘスティア達も買い物帰りか?」

 

「そうさ! 近いうちにガネーシャ主催の宴があるだろう! そのためのドレスを買ってきたばっかりさ!」

 

「そうなのか。よかったではないか。ヘスティア」

 

「うん!」

 

 ミアハの言葉にヘスティアは嬉しそうに返事をした。

 

「ミアハ様も宴に参加なさるのですか?」

 

 ラムザがミアハに聞く。

 

「私は参加をしない。極貧のファミリアを率いる身としては暇がなくてな」

 

「そうなのですか」

 

「うむ―――――。おお、そうだ。ラムザ、ここで会ったのも何かの縁だ。これを渡しておこう」

 

 そう言ってミアハは紙袋から二本のポーションを取り出してラムザに渡した。

 

「よろしいのですか?」

 

「お得意様には胡麻をすっておいて損はあるまい? 君のおかげでこちらも随分と助かっておるのだ」

 

「ありがとうございます。ミアハ様」

 

 ラムザは礼を言った。

 

「それではな。ヘスティア、ラムザ。今後とも我がファミリアのご贔屓を頼むぞ?」

 

 そう言ってミアハは去っていった。

 時間を見ると昼だったので、二人は街にあるパスタ店に入り昼食をとる。ラムザはシンプルなトマトパスタを、ヘスティアはカルボナーラを注文し、雑談しながら食べる。そして料理を食べ終えたら、二人はメインストリートに出る。道中、香水店で香水を物色したり、洋服店で洋服を見たり、小腹がすいたから軽い軽食をとったりと、実にまったりとした時間を過ごした。そして二人は廃教会に帰る。部屋に戻ったヘスティアはソファーの上に寝転がり、本を読む。そしてラムザは武器の手入れをした。そんなこんなしていると、日が傾き夜になろうとする。その時間帯にベルとアルマが帰って来た。

 ダンジョンから帰って来たのを確認したヘスティアが、ベルとアルマのステイタスを更新する。そして更新し終えたら今日はバイトの打ち上げがあると言って、ヘスティアは部屋から出て行った。

 

「兄さん。これから『豊饒の女主人』の店に行くんだけど、来る?」

 

 暫くしてアルマがラムザにそう言う。

 

「…そうだな。行くか」

 

 ラムザはそう言った。

 

 三人は夜の街へと繰り出す。夜だというのに相変わらず街のメインストリートは人々で溢れ返っていた。そんな人々の喧騒を聞きながらラムザ達は『豊饒の女主人』の店に着き、そして中へと入っていった。

 

「いらっしゃい。ベルさん。アルマさん。ラムザさんも来てくれたんですね!」

 

 シルがラムザ達に気がつき、話しかける。その時、店の中にいた複数の冒険者がラムザの存在を知って、チラチラと視線を向けたり、顔色かえてひそめだす。しかしラムザは特に気にしなかった。

 

「お呼ばれしましたから」

 

 アルマはそう言って微笑した。そしてシルも釣られたように微笑む。

 

「こちらの席にどうぞ!」

 

 そう言ってシルは空いている席へと案内する。席についた三人はメニューを広げ、何を注文するか考える。そして暫くして注文が決まったのか、店員を呼んでそれぞれ料理名を言って注文した。それから暫く雑談していると。突然十数人規模の団体が酒場に入店してきた。一団は種族は統一されていない冒険者で全員が生半可じゃない実力を漂わせていた。それはロキ・ファミリアの一団であった。

 

「…………!?」

 

 不意にベルが身体を震わせる。なぜならその一団にアイズ・ヴァレンシュタインがいたからだ。

 

「ベル?」

 

 アルマが挙動不審なベルに不思議に感じる。だが、アイズがあの一団にいたことが解ると、ため息をはき、なにやら少々面白くなさそうな表情をしながら、テーブルに頬杖をついた。

 ラムザもロキ・ファミリアの存在に気がつくと、あれが第一級冒険者かと視線を送る。だがすぐに視線を戻し、コップに注がれている水を一口飲んだ。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」

 

 立ち上がったロキが音頭を取り、一斉にジョッキがぶつけられ、団員達は盛り上がる。

 そして暫く時間がすぎる。室内でも、テラスでも一層高まる声。あっという間に消えていく酒と料理にウエイトレス達の動きにも磨きがかかる。そんな客の間からも笑い声が絶えない中、愉快とも言える一言が店中に聞こえた。

 

「そうだ、アイズ! お前あの話を聞かせてやれよ!」

 

「あの話……?」

 

 ロキ・ファミリア所属のベート・ローガが酒に酔った勢いで、大声でこう言ってきたのだ。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス! 最後の一匹、お前が五階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

 瞬間、ベルの身体が強張らせる。

 

「ミノタウロスって、十七階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出して行った?」

 

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ! こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」

 

 耳を貸すロキ達に当時の状況を詳しく説明するベートは、次にこう言う。

 

「それでよ、いたんだよ。いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえガキが!」

 

 ベルは黙ってその言葉を聞く。

 

「抱腹もんだったぜ。可哀想なくらい震え上がって、顔をひきつらせてやんの!」

 

「ふむぅ? それで、その冒険者どうしたん? 助かったん?」

 

「アイズが間一髪ってところでミノを倒しちまったよ。なっ?」

 

 ベルの身体がカタカタと震える。

 

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトになってまったんだよ! くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ…!」

 

 ベルの様子を見ていたアルマが心配そうにベルに向かって「ベル……気にしちゃダメよ?」とやさしく言った。

 

「アイズ、あれ狙ったんだよな? そうだよな? 頼むからそう言ってくれ……!」

 

「……そんなこと、ないです」

 

 聞き耳を立てている他の客達の忍び笑いが、周りから聞こえる。ラムザはそんな声を聞きながらも黙ってロキ・ファミリアの集団を見つめる。

 

「それにだぜ? そのトマト野郎、叫びながら仲間を置いてどっか行っちまって……ぶくくっ! うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

 

「……くっ」

 

「アハハハハハッ! そりゃ傑作やぁ! 冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!!」

 

「ふ、ふふっ……ご、ごめんなさい、アイズっ流石に我慢できない……!」

 

 どっと周囲が笑いの声に包まれる。

 

「しかしまぁ、久々にあんな情けねえヤツを目にしちまって、胸糞悪くなったな。ああいうヤツがいるから、俺達の品位がさがるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ。アイズはどう思うよ? 自分の前で震え上がるだけの情けねえ野郎を。あれが俺達と同じ冒険者と名乗っているんだぜ?」

 

「……あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」

 

「ハッ! いい子ちゃんぶって、そんな筈はねえよなぁ? お前はあのガキに守るだの抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

「…………」

 

「そうだよなあ! 自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。他ならないお前がそれを認めねえ。雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

「…………ッ!!」

 

 瞬間、ベルは駆け出し、店の外へと飛び出す。

 

「ベル!?」

 

 アルマは心配そうに駆けて行ったベルを見つめる。

 

「……アルマ。ベルが心配だ。後を追っておいてくれ。僕は話をつけてくる」

 

「兄さん…わかったわ」

  

 そう言ってアルマはベルの後を追いかけていった。

 ラムザはロキ・ファミリアの方面へと向かう。

 

「…なんだあ、テメエ?」

 

 ベートがラムザを睨みつける。

 

「いくら酒に酔っているとはいえ、言いすぎだ。第一級冒険者の集まりで有名なロキ・ファミリアが聞いて呆れるぞ」

 

「ああ!?」

 

「貴様はさっき情けない冒険者がいるから自分達の品位がさがると言ったな? 僕に言わせてみれば、人を馬鹿にして笑いを誘うのも冒険者として―――――いや、人として品位がない。そうじゃないか」

 

「テメェ…、喧嘩売っているのか!?」

 

 ベートが席を立ち、ラムザを睨みつける。

 

「公の場だ。争いはしたくない。しかし、先程馬鹿にしていた冒険者は僕の仲間だ。酒の肴で人を馬鹿にしたことを恥と知れ!」

 

「おもしれぇ…! テメエはあのトマト野郎の仲間か…!」

 

「ベート! その辺にしときぃ!!」

 

 ロキがベートを止める。

 

「ああ!? 何故止める! コイツは俺達を馬鹿にしているんだぞ!!」

 

「…ベート達は遠征で知らんと思うけど、こいつはラムザ・ベオルブと言ってな。ドチビのところの眷属で、最近現れたLv9の冒険者や」

 

「なッ…Lv9!? 冗談だろ!?」

 

 ロキ・ファミリアの集団が目を丸くする。ベートは少々うろたえた。

 

「ごめんなぁ。ウチのもんがイチャもんつけて、ウチも争いごとはしたくない。だからここで手を引こうやないか」

 

「……そうだぞ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない」

 

 ロキ・ファミリアのエルフ、リヴェリアがそう言う。そしてベートは舌打ちをして席にどかっと座った。事が終えたことを確認したラムザは会計を済ませて店から出た。

 ある一人の少女の視線を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

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