結構人を選ぶことになるかもしれません。
毎度読んでくださる皆様、謝謝。
「あの男は誰?一夏の何?」
再開した親友の問いかけに一夏は答えることが出来ない。京也が出てくることは疑問に思うが、それよりも自分を見つめる「眼」が答えさせてくれない。
それはとても親友に向けるものではなく、瞳の奥で黒く渦巻く底の無い闇が一夏に恐怖を与えた。
「答えられないの?」
「……そんなことは、ない」
鈴音の再びの問いかけに一夏はかろうじて答える。しかし、その声は震えていた。
「あの人は、京也は私を拾ってくれた人、だよ」
鈴音を抱きしめ返し、耳元でささやかれる返答。その答えで鈴音は納得したのかはわからないが、そう、と呟き一夏の腕を解き、離れた。
「今はこれでいいわ……またあとで話しましょう」
そう言って鈴音は教室を出て行った。
まるで嵐でも過ぎ去ったかのような静けさがこの場を支配した。
「鈴には一体何があったんだ?」
その様子を見ていた大川は疑問に思った。原作ではあんな誰かに依存したようなキャラではなく、もっと騒がしいキャラだったはずだ。
自分の計画を昔から邪魔してくれたことや、そもそも貧乳ヒロインということで攻略対象から外していたキャラだったが、セシリアの一件もある。
今回も何か変化があるのだろうか。
「ここは、一先ず様子を見よう。それにいずれはあちらから接触する機会があるはずだ」
それに、もしかしたら何かに利用できるかもしれない。
そう考えて、行動方針を決めた彼は静かに朝の準備を始めるのだった。
「一夏!お昼行きましょう!」
昼休みに再び教室への鈴音の来訪。それにクラス一同は、また朝のようなことが起こるのかと身構えたが、鈴音の様子は朝と打って変わって、明るくて快活そうな雰囲気であった。
「うん、いいよ」
朝のあれは何だったのかと疑問に思いながら、一夏はその提案に了承する。
「じゃあ行こっか。あ、せっかくだし屋上で食べよ?」
「はいはい、わかったよ」
そういって一夏は鈴音と一緒に教室を出て行った。
屋上は、食堂程ではないが何人かの生徒達が思い思いに昼休みを過ごしていた。
食事をとる者や談笑の声、静かに読書する生徒までいた。
何よりかなり広い。さすがIS学園といったところだろう。
「へぇー結構広いじゃない。話には聞いてたけれどここまでとはねー」
「私も初めて来たけどすごいねここ。簡単な運動なら出来そう」
「ま、今日はごはん食べに来たんだけどね。ちょっと場所探しましょうか」
そういって鈴音は少し探索をし、丁度影が出来て涼しそうなところに一夏を呼んだ。
そこに座った鈴音は、教室に来たときから持ち込んでいた荷物を開けると、中から赤い色をしたものが入っているタッパが出てきた。
「はーい一夏、中身は何でしょうか?」
「……もしかしてそれ酢豚?」
「せーかい。まあ昨日ホテルで作ったものだけどね」
「でも鈴の酢豚食べるの久しぶりだから楽しみだよ。あ、おじさん達元気?今どうしてるの?」
それを聞いた鈴音は顔を曇らせた。しかし、すぐにもとに戻る。
「……まあ、あとで教えてあげるわよ。まずは食べましょう?」
すぐに教えてくれないことに一夏は疑問を持ったが、お腹も空いているのでまずは鈴音の酢豚をいただくことにした。
酢豚のあとに飲む熱いお茶は格別においしい。
そう考えながら、一夏は鈴音の持参した水筒のお茶を飲みながら一息つく。鈴音の酢豚は昔よりもおいしく、食堂で白米をもらえばよかったと強く思う出来だった。
「はひぃ~…おいしかったなぁ……」
「ありがと、いい食べっぷりだったじゃない。そこは昔と変わらないわね」
「それって私が食いしん坊に聞こえるよぉ……」
「あんた自覚ないの……一夏」
少し落ち着いた一夏は、鈴音の真剣な声を聞いて、正面に座る鈴音を見る。その顔は朝の一件とは別の暗さだった。
「お父さんたちのことを話すとね、離婚しちゃったんだ」
「え……!?」
鈴音の静かな声に耳を疑う一夏。自分が知るあの夫婦はそんなことするような仲ではなかったはずだ。
「何で……」
「私にもわからない、ある日突然そう言われたの」
そういって鈴音は座ったまま一夏の膝に寝転がり、その身体に朝のように顔を埋める。そこから先は鈴音のその後の話だった。
両親が離婚し、母に引き取られて中国へ帰り、ISの代表候補生になった。その話を一夏は鈴音の頭を撫でながら、ゆっくりと聞いていた。
やがて鈴音の話は終わる。
「ここまでがあたしのあったこと……ねぇ一夏、あたしからもいい?」
「うん?いいよ」
「ありがと。じゃあ聞くわ」
「あの男は、石上京也は一夏の何なの?」
その声は朝と同じく、冷たい声。その言葉に一夏はまたすぐに答えることが出来なかった。
「クラスで聞いたわ……あの男が一夏を鍛えてるってことも。来たときはいつもあんな顔してるってことも。恋人なの?」
「……違う、かな。私はそうなりたいんだけどね」
「っ!……次、拾ってくれたってどういうこと?」
その質問に一夏は答えづらかった。しかし、一夏は答えることにする。何があっても受け入れる覚悟をもって。
一夏は鈴音がいなくなってからのことを話した。鈴音は最後まで何も言わなかった。
「そう……そうだったのね。ごめんね、一夏。守ってあげられなくて、約束を守れなくて」
「いいよ。それに京也に会えたんだk」
「でも、もう大丈夫。今度はあたしがずっといてあげるから」
一夏の声を遮る鈴音の声。その声色はいままで聞いたことが無いもので、一夏を不安にさせるのだった。
そして放課後。晩御飯も終わった自由時間にそれは起きた。
「てことで部屋、変わってくれない?」
一夏の自室前で箒にそう告げる鈴音の姿があった。スーツケースも持参済みである。
「……私としてはものすごく不安なのだが」
箒の声はあまり了承したくない、といったものだった。まあ当然だろう、朝にあんなことやらかしたのを見れば、不安になるのもわからなくはない。
「そう。私ってそんな弱く見えるかしら?」
「いや、身体的なことではない。心の方の問題だ」
箒の心配事はそこだった。この凰鈴音という少女が箒にはとても危うく見えるのだ。
「ふーん。あんた、強いね」
「私は強くないさ。それよりも上がいる」
「でもあたしも譲る気はない。変わってくれない?」
「……一夏はどうなんだ?」
鈴音の折れる気がない様子に、箒は一夏の判断を仰いだ。
「大丈夫だよ、鈴音なら」
「……お前がそういうなら信じよう。だが、もし一夏に何かあれば私はすぐに戻るぞ」
「はいはい」
そういって箒は荷造りの準備を始めた。箒の荷物はあまり少なく、30分程で終わった。
箒が出て行った部屋で、鈴音は荷物を置き、ぐーっと身体を伸ばす。
「さて、邪魔者は消えた、と」
「鈴、どういうつもりなの」
箒がいなくなって清々したという様子の鈴音に一夏は強く問いかける。今の鈴音を拒むのは不味いと感じて部屋に入れることにしたのだ。
「どういうつもりって、言ったでしょ。あたしがずっといてあげるって」
一夏のに鈴音はさも当然のように答える。どこか執着じみた返答。その答えを聞いて一夏は恐怖を感じた。
「だって、そういったけどここまでしなくても」
「一夏」
近づく鈴音。
「な、なに?」
後ずさる一夏。
「あたしは誰にもあんたの傍にいてほしくないの」
広い部屋といえども、所詮部屋。すぐに壁は迫ってくる。
「あんたの傍にはあたしだけがいればいい」
やがて、一夏は背に壁が当たるのを感じた。
「あたしだけがあんたを守れればいい」
逃げ場のない一夏に鈴音の顔が近づく。
「あたしだけを見てよ」
それはだんだんと近づいて行き。
「あたしは一夏が好きなの」
両者の距離は、ゼロになった。
いや、本当に急展開にさせすぎました、反省してます。筆が乗らなかったら大体急展開になると思っていただきたい。
てことでタグ追加します。鈴もどうしてこうなった。
感想、指摘、「急展開どうにかしろや」といった文句があればぜひ感想欄まで。
でも鈴を嫌いにならないであげてください。