拾われ少女   作:月蛇神社

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ここまで来るとは思わなかったです。謝謝!




2

 現在、私はあの人の背中でゆっくりと流れる住宅街を傘の隙間からぼんやりと眺めていた。

 

 公園でのあの後、突然眠気と身体に気怠さが襲ってきて、私は倒れてしまった。多分風邪を引いたのだろう。

 

 そんな私をあの人は何も言わずに背負って歩き出した。雨が一切当たらないよう傘を私に多く被さるようにして、ただでさえ濡れている自分の身体がもっと濡れるのにも関わらず。

 

 それがとても申し訳なく感じて私は傘を動かそうとするけれど、傘は全く動かない。

 

「……じっとしてろ」

 

 無言で動いていた世界に聞こえた声。あの人はどうしても私を濡らさないつもりらしい。

 

「でも……それじゃああなたが寒いよ……」

「うるせぇ、いいからじっとしてろ、余計な体力使うんじゃねぇ風邪雑巾」

 

 そう言われて何も出来なくなってしまった。この人、口は悪いけど心配してくれているらしい。いつからだろう、こういった気遣うような言葉をもらったのは。

 

 だめだ、涙が出そうだ。たったこれだけのことで涙が出そうなほどに私は想像以上にボロボロだったらしい。それでもあの人の背中を濡らしたくないから必死で我慢するように震える。

 

「だから動くなって……なんだ、泣きてぇのか」

 

 バレちゃった。でも、それを隠したくて出来る限り首を横に振る。だけどそれだけで確信されたらしい。

 

「……一夏、泣きてぇ時にゃ我慢しねぇで泣け。ただ、風邪が長引いても自己責任だからな」

 

 泣けと言われた。その言葉が、今まで泣くまいとしていた私の堤防を突き崩していった。

 

 私は泣いた。あの人の背中に顔をうずめて、首に回す腕に力が入ってしまって、今まで、我慢していたもの、全てを流し、吐き出すかのように、泣いていた。

 

 あの人はまた何も言わなくなった。ただ、黙って私を背負う腕の力を強くした。まるでお父さんのように。

 

 私は、目的地に着くまでいつまでも泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ」

「……ぶぇ?」

 

 私が背負われていった先は、よくある灰色の壁のマンションだった。そんなところの2階へ階段を上り、奥から2番目の扉の鍵を開けて中へ入る。傘は閉じづらかったのか開いたままで、玄関に置かれた。部屋の中はあまりものが無く、最低限の家具が置いてある「殺風景」と表すのに最も適しているような部屋だった。強いて上げる個性と言えば本棚にびっしりと詰まった本の量だろうか。

 

「熱は……測るまでもないな、まずは風呂か。洗ってくるから少し待ってろ」

 

 そう言って毛布を探し、私を下ろそうとするあの人に回す腕に力を込める。降りたくない、まだこうしていたい。久しぶりの人の温もりを離したくない。

 

「……おい、離せ。そうじゃねぇと何も出来ねぇだろうが」

「……ん」

「じゃあどうすんだ。風邪悪化するぞ」

「……入れて」

 

 言ってから我ながら驚く。よくこんな短時間でここまで懐いたものだ。それに、これでは痴女のようどころかただの痴女じゃないか……でも今はいいや。

 

「……応援呼ぶから少し待ってろ」

「……嫌だ。シャワーでいいから、入れて、今」

 

 あの人のため息が聞こえる。きっと困った顔をしているに違いない。もっと身体を押し付けたら困るかな、胸薄いけど。そう思ってもっと身体を押し付けるともっと大きなため息が聞こえた。

 

「……言ってる意味わかってんだろうな痴女雑巾」

 

 その問いかけに黙っておでこを背中に押し付け縦に頷く。肩が下がる感覚が腕から伝わってきた。あと少しだろうか。

 

「それに、私はボロ雑巾なんでしょ?だったらどうされても何も言わないよ?」

 

 と言って後押し。

 

「はぁ……後からぐだぐだ言うんじゃねぇぞ」

 

 そう言ってあの人は私を背負ったまま洗面所へと向かった。

 

「あと、俺を誘惑したかったらその貧相な身体でかくしてから出直してこい」

 

 その言葉には流石に腕に出来る限り力を込めた。効果は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャーッという音と共に、椅子に座った裸の私に頭からお湯がかけられる。冷え切った身体には刺激が強く、かなり熱かったがそれがとても心地よく、目をつむってその感覚を受け入れる。風呂は心の洗濯だ、とは誰の言葉だっただろうか。忘れてしまったが、姉が受け売りだがな、と一緒に入ったときに笑いながら言っていたのを思い出す。それはシャワーでも通じるのだと私は確信する。かけてくれる人は服のすそをまくっているから犬みたいな気分に感じられなくもない。

 温まって体力が回復してきたのだろうか、今更なことを思い出す。

 

「……名前」

「あん?」

「名前。私聞いてないよ」

 

 私はこの人の名前を聞いていなかった。表札は傘に遮られて見えなかったし、そもそも聞こうとしなかった私も私だが。

 

「何で言わなかったの?」

 

 と頭をいじってもらいながら聞くと、

 

「聞かれなかったからな」

 

 と返ってきた。

 

「じゃあ教えてよ、じゃないと私は何て呼べばいいのかわからないわ?」

「石上 京也」

 

 そう言ってあの人⋯⋯京也さんは手を止め、曇った鏡に指で名前を書く。よかった、結構簡単そうな字だ。

 

「……うん、覚えた。それじゃあ京也さん」

 

 そう言って気になったことを聞いてみる。

 

「自分がゴミだっていうのは?」

 

 それを聞いた瞬間、京也さんの顔が暗くなった。やはり訳ありなのだろうか。

 

「……ごめんなさい。言いたくなかったr「人を死なせた、俺が原因で、2度」

 

 私の声に被せるように出た言葉、それの衝撃は大きく、私は何も言えなかった。京也さんの顔は苦しそうな表情をしていた。

 

「それと、京也でいい。さん、はいらない」

 

 そして私の頭にシャワーをかけて泡を落としていった。

 

 そのときだった。

 

 

「京さあぁん!私を洗う?私に洗われる?それともあ・ら・いっ・kぶはぁ!?熱い!?」

 

 突如、浴場の扉が開けられ、バスタオルを巻いた青髪の女の子が乱入してきた瞬間、京也はその人物に持っていたシャワーノズルを向けるのだった。

 

 

 

 ……私が言うのもあれだが、この痴女さん誰?




 ISがいつ出てくるかわからない&原作突入がいつかわからない作品がこれです。
感想などがあるともらえると喜びます。
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