時は少し遡る。
「……え?」
ゴーレムがレーザー砲をピットへ向けたところで一夏の口から疑問の声がこぼれる。
そして、発射される砲撃。それは当然の如くピットの内部へ飛来する。
(あ、これ死ぬ――)
砲撃が着弾したとき一夏が思ったことは単純に「死」ということだった。
その身に衝撃が襲い掛かる。ピット内という半密封されたような箱の中で爆風が巻き起こり、一夏はそれを身近に受けてしまった。
「きゃああああああああ!!!!」
吹き飛ばされる一夏。彼女の小さな身体が壁と激突しミンチより酷い有様となる姿を彼女の脳裏に恐怖のイメージとして与える。
すぐに、何かに叩きつけられる衝撃が彼女の身体を襲う。しかし、それは彼女が想像したよりもはるかに小さいものであった。
「ああああぁぁぁぁ……あ、あれ?生きてる?何で?」
文字通り、身が引き裂かれる程の衝撃が襲ったにも関わらずどこかを強く打っただとか切ったという傷は感じられない。彼女の頭が今度は恐怖ではなく疑問で埋められる。
とりあえず困ったら辺りを見渡せ。京也に教えられたことを思い出し見渡す。
辺りは瓦礫だらけであり、ピットであった面影など微塵も感じられず、辺り一面を砂ぼこりが宙を舞っていた。
そして自分の目線がいつもより上がっていることに気づく。それが少しづつ上昇していることにも。
「やっぱこれ幽体離脱とか……いやいやいや!ないないない!」
一瞬、更識一夏死亡説を考えるが即座に否定する。
そもそも衝撃が入ったり、身体が無事であることを理解している時点で幽体離脱も何も無いのだが。
そうこうしているうちにゴツッという音が辺りに鈍く響く。音源は自身の上側であったので一夏は見上げる。そこには見慣れた大型シールドがピット跡の天井にぶつかっている光景が広がっていた。
そして、ようやく気付く。自分はISを纏っているということに。
「あれ……?私呼び出していないよね?何でISに?」
自分があの衝撃の中で無意識に呼び出したのだろうか?新たな疑問が生まれた。
「そうだっ!ハイパーセンサー!」
疑問は晴れないが、ISを纏っているということはハイパーセンサーで状況がある程度わかるかもしれない。そう考えた一夏はハイパーセンサーに意識を集中させる。
その結果、ドタバタと複数人の人間が慌ただしく駆ける足音、瓦礫越しに聞こえる怒号と悲鳴。
そしてIS同士による戦闘音。
はっとなり崩壊直前の記憶を思い出す。黒いISが乱入し、襲撃を仕掛けてきたことが最後に見えた光景だ。となると戦っているのは……
「鈴!!」
この状況で、この戦闘音を響かせている可能性が高いのは中国代表候補生であり、自分の幼馴染である鈴だろうと考えつく。急いで手助けに入るためにアリーナへの入口を塞ぐ瓦礫へ向き合う。
直後、強い衝撃がアリーナを揺らす。
それまで響いていた戦闘音もピタリと止んでいた。
もしかして鈴はあの黒いISを倒したのだろうか。そんな結末を一夏は期待する。しかし、その期待はさらに強くなった悲鳴と共にかき消される。
「まさか……!急がなきゃ!」
衝撃と絶望のような悲鳴。そこから導き出される結論。
鈴がやられた。信じたくはないことだがそれしか一夏には考えられなかった。
一夏は一心不乱に瓦礫をどけたり、こぶしで砕く。
ピット内部はブレードを振るうには狭く、瓦礫を切れるかどうかが不明だ。それを彼女が理解していたかはわからないが一夏はその手で道を掘り進める。
やがて、どれだけ時間が経ったかもわからないほどに集中していた彼女の耳に突如、警告音が知らされる。
「ッ!」
前方からのエネルギー反応。それに対し彼女はとっさに大型シールドを構える。
「ッ!ああああああああ!」
外部からのレーザー攻撃はすぐにやってきた。いままで受けたことも無い攻撃に一夏は叫び、耐える。
レーザー攻撃はすぐに終わる。すぐに一夏は状況を確認する。
シールドは融解して半分ほどのサイズになっていたが、まだ使える。スラスターに問題も無い。
そして、目の前の瓦礫は先ほどの攻撃で全て消し飛び、土煙が目の前を覆っていた。
行くならば今だ。
「いっけええええええええほっ!」
アリーナがどうなっているのかはわからないし、怖い。だがその恐怖心を叫びで誤魔化し、突入した。
「げほっ!ぅえほっ!なにこれ!?なにこの塵埃!?」
ただし、叫びすぎてむせた。
そして、場面は現在へと戻る
「………………え?」
彼女は最初、その光景を受け入れることができなかった。
襲撃してきた黒いISがぼろぼろだとか、大川のISが明らかに様子がおかしいだとか、そんなことはどうでもいい。
姉をかばい、砲撃を受ける京也。
その鍛え上げられた肉体は受け身も取れず壁へ叩きつけられ、地へ落ちる。
ドサッという音と僅かに聞こえたグチャ、という水音のような音。
「うそ………いや……」
赤い。紅い。あかい。アカイ。京也が赤く染まっていく。
「いや、だ、よ」
大きな右腕が無い。左足も見当たラナい。
早く、はやくタスケないと。
誰のせい?ダレのせい?だreのsえい?
京也はお姉ちゃンをかばった。お姉ちゃんは私を見ていた……
ワ タ シ ?
そうだ、わたしがでてきちゃったから、京也は、
京也は、京也は、京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は京也は
呆然とする彼女のすぐ横を砲撃が通る。
彼女は攻撃の方向へとギギギと錆びついた機械のように感情の無い顔を向ける。
そこには、装甲が赤く染まり、狂ったように砲撃をまき散らし暴走する大川のISがあった。
ア イ ツ か
ア ン ナ モ ノ が あ る か ら
壊さなきゃ
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「――!」
姉が何か言っているような気がしたが、それは彼女の耳へ届かない。
一夏はスラスターを全開にし、ストライクフリーダムへ接近する。
頭には武装を狙って無力化するだとか、死角を狙うだとかいう考えは微塵もない。
大川を
しかし、その攻撃は1機のドラグーンによって阻まれる。
人間ではなく
「うがああああ!」
殺せない、死なない、一夏は一心不乱にドラグーンへブレードを振り下ろす。
程なくしてドラグーンは破壊される。しかし、その頃にはストライクフリーダムの現在全ての武装が自身へ砲門を向け終えていた。
「――――あ」
なにかを破壊し、すこしの冷静さが戻った彼女がそれを認識した頃には、ドラグーン3機とレールガン2門の砲撃が全てはなたれ、直撃し絶対防御が発動しながら吹き飛ばされ一夏の意識が揺さぶられる。
「がっ……あ、ぐっ」
地を転がり、意識が朦朧とする中で一夏はハイパーセンサーで京也がいる方向を探り、そちらを見やる。
京也は千冬がどうにかして今出来る限りの応急手当を受けていた。タフな京也のことだ、きっと生き延びることだろう。
そして、自分はというとSEは1割も残っておらず、スラスターもエラーを起こし、武装であるブレードも根本から消失している。
さらに悪いことに、先ほどの攻撃で一夏を排除対象にしたのか、ストライクフリーダムの砲門全てがこちらを向いていた。
このままだと次の砲撃でSEが無くなり更識一夏という存在は消し飛ぶことだろう。
「ああ……まだ一緒にいたかったなぁ……何もできてないじゃん」
そして砲撃は無情にもはなたれる。
一夏は消し飛ぶ最期まで京也の姿を目に焼き付けようと薄っすらと目を開けていた。
その頃、IS学園上空でも変化が起こっていた。
「束様!」
「何クーちゃん!いまそれどころじゃないからβの降下準備急いで!早く!てかもうやってる!?あーもう何でゴーレム壊されるかなぁー!?」
「あの、それが……先ほどβが一人でに起動・降下していきました……」
「あ、え?…………わかった、あとはあの子にまかせるしかない」
「頼んだよ……白騎士、いや、白式」
ちゃんと書けてますかね……?
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