死の砲撃が一夏へ迫る。
それでも最期まで目をそらさずに京也を見ていた一夏の視線は突如、一目で目を覚ますような純白に遮られる。
「え……?なに……これ?」
それはストフリからの砲撃光ではなくISだった。一機の見たことが無いISが一夏の目の前に上空からかばうように降り立つ。
ISはすぐさま刀型の武装を呼び出す。直後、刀身が光に包まれビームサーベルへと変化した。その刀は十数の砲撃へと振るわれる。
そして、砲撃が全て切り裂かれ、攻撃は一つ残らず消滅した。
「なにあれ……レーザーが……」
「消えた……?それってまさか……」
避難指示を出しながら戦闘状況を確認していた更識姉妹はその光景に思わず見入ってしまう。逃げ惑っていた少女達も足を止めていた。
ISからのレーザー攻撃等には主にシールドエネルギーが使用される。それを消滅させることが出来るものは彼女達が知る限り1つしかないだろう。
「零落白夜!?何故あれがここにある!?」
千冬がかつて使っていた機体[暮桜]の
かつて、彼女が使いこなして世界の頂点へと立った力。
それを、学園の授業の教材として、はたまた憧れる存在の勇姿を繰り返し目に焼き付けようと幾度も部屋で再生させたシーン。それが少女達の目の前で現実に起こっている。
砲撃が消されたにも関わらずストフリはひるむことなく砲撃を再開させようと再度武装を構える。
しかし、それをさせまいと白い機体は瞬間加速をしたのか高速で接近し、腰のレールガンと両手のライフルを切り裂く。
至近距離で起きる爆発。流石にそれは応えたのか、ストフリは機体を即座に後退させる。
その隙を見て、白い機体は一夏の前へ戻る。
「誰……?」
先の戦闘を呆然と眺めていた一夏は目の前のそれを観る。
識別番号が不明なことを打鉄がノイズ交じりのディスプレイで知らせる。
大きめのスラスターに力強さを感じる太い手足、そして全身を覆う純白の
それは頭を覆う仮面を量子化させ、頭部を露わにした。
そこには生物ならばあるはずの
驚愕する一夏。それをお構い無しに白い機体は一夏へと手を伸ばす。
「ひっ」
かつて映画で観た首無し騎士を彷彿とさせるものが迫ってくる様子は、一夏へ恐怖感を与える。その様子を見て白い機体は少し硬直した後、降下し膝をついて再び手を伸ばす。
それに応える様に一夏の腕が、否、打鉄の腕が弱々しいが、一人でに動き出す。まるで、打鉄がそれに触れさせようとしているかの様に。
「打鉄……うん、わかった。君を信じるよ」
未だ状況を把握しきれていない上に見たことのないISだ。それでも一夏は自分のISを信じ、手を伸ばす。
二つの手が重なったとき、一夏の意識は光に包まれていった。
「ここは、どこだろう」
そこは、アリーナでなければ戦闘跡も見られない。
光の先で、一夏は辺り一面真っ白で何もない謎の空間にポツンと立っていた。
何も無ければ音も聞こえない。まるでさっきまでの戦闘など無かったように思えてしまう。
ISに意識があると授業で聞いたことがある。ここはその意識の空間だとでも言うのだろうか。
「――――」
ぼんやりと空間を歩き続ける。すると程なくして声が聞こえた。視界に姿は見えないが誰かいる。
「ごめんなさい」
目の前にはっきりと気配を感じて止まる。何もない空間だが、そこから声はしっかりと聞こえてくる。その言葉は誰へ向けたものであろうか。
聞こえてくる、というよりは脳に直接響くといったほうが適切かもしれない。
「ごめんなさい」
謎の声は再び謝る。相手の顔は見えないが、声色は今にも泣きそうなものだった。
「ごめんな……さ……」
「だあぁ~!謝るのちょっとストップ!」
三度目の「ごめんなさい」を一夏は遮る。
流石に謝られ続けては状況の把握もできやしない。
「ほら、まずは深呼吸して落ち着いて?……あれ、深呼吸できるのかな……?」
なだめようとして、悩み込む。そもそも生物ともわからないものに呼吸などの必要はあるのだろうか。
しかし、そんなことをしている場合ではないことを思いだす。
「ってそうだ!戻らなきゃ!」
光に包まれてたどり着いたこの空間、どうやったらここから出てみんなのところへ戻れるのだろうか。
「あなたは何か知らない?どうやって出たらいい!?」
一夏は気配に問いかける。
「……まずは落ち着きましょう。深呼吸です」
「そ、そうだね……すぅー…はぁー…すぅー…はぁー……あれ?」
深呼吸をし、落ち着く。
なだめるはずがなだめられる。
果たしてどちらが冷静なのか。
「時間はまだ大丈夫です。ですが、そう長くは無いでしょう」
謎の声はそう言った。
「それはどういうことなの?」
「ここは、私達の意識が作りだした特殊な空間です。通常の何倍もの速度で思考しているので現実よりも時間の進み具合はずっと早いです」
この前簪に貸してもらった漫画のような部屋みたいだ。一夏はそう結論付けると次の質問を問いかける。
「なんとなくわかった。それで、私はどうすればいいの?……打鉄」
薄々気づいていた声の正体。打鉄は一夏の問いに姿は見えないが、にこりと笑いかけたようだった。
「そこから先は彼女に任せます」
その言葉と共に、一夏の背後に新たな気配を感じる。
一夏が振り向くと、そこには先ほどストライクフリーダムを相手に立ち回っていた白いISが鎮座していた。
「この機体……」
「彼女の名は白式。これからのあなたを護る騎士にして、あなたの新しい翼です」
白式は一夏へと腕を伸ばす。
今度は恐怖といったものは感じず、このISは自分を必要としているのだと感じた。
「触れてください」
打鉄の声に従って、一夏は白式に近づき手を伸ばす。
白式に触れた途端、一夏は光に包まれ次の瞬間には目線がいつもより高くなっていた。それで自分が白式を纏っているのだと理解する。
「これが……白式」
「初めまして、主様」
突如、一夏の脳に新たな声が聞こえた。
「あなたが白式?」
「はい。私があなたを護る剣となりましょう」
「そんな硬くなくてもいいよ。これからもよろ……し……く」
これから?
『これからのあなたを護る騎士にして、あなたの新しい翼です』
「これから」「新しい翼」打鉄は確かにそういった。
それはまるで……
「それでは、お別れですね」
「待ってよ!!」
別れみたいではないか。
「お別れってどういうこと!?あなたは一緒に行けないの!?」
悲痛な一夏の叫び。
「私はISコアの人格、私がコアから離れることは出来ません」
それに、と打鉄は言葉を続ける。
「私では、打鉄では今後あなたを護りきることは難しく、成長の妨げになると判断します。そのため、あなたには新しい力が必要なのです」
「そんな……」
打鉄の言葉に一夏は声を失う。
確かに打鉄は速度を出せる機体ではない。いくら、改造や後付けの武装を追加したとしても、限界はすぐに来るだろう。
「ごめんなさい、あなたを護りきれなくて。ごめんなさい、最後まで戦うことができなくて」
「そんな……そんなこと!」
「でも、ありがとう。私を使ってくれて。短い間だったけど一緒に居られて、戦えて楽しかったわ」
「……あなたはどうなるの?」
泣きたい気持ちをこらえ、一夏は尋ねる。
「いままでのデータを取得したら……また初期化されるでしょう。私はあなたに貸し出された機体でしかないのだから」
「……本当にお別れなんだね」
ここを出たらもう打鉄と話せることは無い。一夏はそう確信してしまった。
「大丈夫、あなたは強い、強くなれる。それに、周りにはたくさんの仲間がいます」
「うん」
「それに、あなたを白式以上に護ってくれる人もいるでしょう?」
京也だ。そういえば京也は負傷して……
「……行かなきゃ」
「ええ」
一夏は機体をその場で反転させ、打鉄に背を向ける。
これでお別れ。決心は固めた。
「ありがとう、今まで一緒に戦ってくれてありがとう」
打鉄は何も言わなかった。彼女の決心が揺らがぬように。
「お願い、白式」
「了解しました」
意識が浮いていくのを感じる。
それを打鉄は優しく見守っていた。
恐らくあと1~2話で完結までいけると思います。
相変わらず遅い筆ですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。