そして簪ファンの皆様ごめんなさい。
お風呂への謎の乱入者が現れてから数分後。
京也はその乱入者の対処をせざるを得なくなってしまい、私も熱が少し上がってきたので身体の方はあまり洗えないまま出ることになった。
そして現在リビングにて。そこには私と京也と謎の乱入者Xがいるのだった。
京也は椅子を指さし、
「おし、そこ座れ。乾かすぞ」
と言った。
ちなみに今の私の恰好は大きめのシャツに引っ張り出されたのであろう冬物っぽいコートを袖を通さずに羽織っている状態だ。京也の部屋に女物の服なんて当然無かった。というわけで身体を冷まさないようにこの格好である。
乱入者さんは羨ましそうに見てたけど。
椅子に座った私に京也はすぐにドライヤーをかける。
風は強いし手つきは荒っぽかった。思わず髪の心配をしてしまう、そういえばまともにヘアケアしてないからきっと傷みまくっているだろう。
「あーあーダメなんだー。女の子の髪をそんな荒っぽく扱っちゃダメですよー。私がやってあげますよー」
乱入者の女の子がすぐにダメ出しする。でも私はこの手つきは嫌いじゃない。やっぱりお父さんみたいだ、ちょっと痛いけど気持ちいい。
「……なんでちょっと気持ちよさそうにしてるんですかその子?なんでリラックスできるんです?」
「犬にはこれくらいの扱いが丁度いいってことだろ」
「あー!今度は犬扱いした!だから女の子には優しくっていつも言ってるでしょうが!」
「うるせぇぞ
「誰が鈍じゃごらぁ!私は刀奈だ!あーもう!気持ちよさそうでも傷むものは傷むんですだから私がやります!だから……」
「いい加減私のこの
……色々と流してたけれどそろそろ目の前の光景を直視しよう。
乱入してきた女の子だが、現在バスタオルを纏っただけの上に、布団を巻かれそこを縄で固定するという簀巻状態に、額に「反省中」と書かれた紙を張り付けられて転がされているのだ。先ほど行われた対処がこれなのだろう。あとで知ったが手首も固定されていたらしい。
あの後シャワー直撃を食らわせた京也はこの人の首根っこを掴んでどこかへ行ってしまい、今私が着ている服を持ってきた。ついでに着せてもらった。
そしてリビングに来てみればこの惨状で転がされていたのだった。
「誰が解くか。んなことしたらお前真っ先に襲ってくるだろうが」
「ぐっ……でも、この状況じゃしませんよ。その子風邪引いてるでしょう?だったらこんなところよりうちの屋敷の方が環境はいいと思いますが?」
「……私はここがいい」
頭の上でわしゃわしゃ動く手の感触を感じながら私は呟く。
「あらずいぶんと懐かれていること。じゃあ本人の希望ですし疲れてるのもありそうですし、ここで看病ですか。てことで虚ちゃんとか呼びたいんでそろそろ
「いや、もう呼んである……そろそろいいか」
「あっ……」
そう言って京也はドライヤーを終えて頭から手をはなす。ちょっと寂しくなった。
「まあ応援がくるまであと5分くらいだろ。ちょっと怠いだろうが、自由にしてろ」
京也が床に座った。なので私はその背中に引っ付くことにした。結局ここが気に入ってしまったらしい。暖かくて、眠くなってくる。
「私がまだ1度もさせてくれない背中付きをさらっとするだと……っ!京さん、その子に気を許しすぎじゃありません?」
「んなこたぁねぇよ」
「いやありますって。ところでいつ解除されるんですかこれ」
「あいつらが来たらな」
といったところでインターホンがなる。京也の言う応援が来たのだろうか。
「あいつらやっと来たかちょっと待ってろ」
そう言って玄関に行くために京也は私を下ろした……簀巻の上に。
「ぐぇ」
と蛙が潰れたような女の子が出しちゃいけないような声が下から聞こえた。
「あの……大丈夫ですか?」
「あーうん、割と慣れてるから、平気平気。むしろ貴女の体調はどうなの?」
心配したら逆に心配されてしまった。……そういえばまだ名前を聞いていない。
「私は更識刀奈。刀奈でいいわ。京さんの……上司の娘ってところかしら」
顔で言いたい事が伝わってしまったのだろうか。でもおかげで名前を教えてもらった。私も自分の名前を告げると刀奈さんは僅かに固まり、すぐに笑みを浮かべた。
「じゃあ一夏ちゃんね……京さんに変なことされてないわよね?」
「何もされてませんよ?というかそんなことするような人にあまり見えないというか……」
「そう、よかった……やっぱ枯れてるんじゃないのかしらあの人」
「誰が枯れてるの?」
突然降ってきた高い声の言葉に刀奈さんが打ち上げられた魚のようにびくっと跳ねる。私の身体もちょっと持ち上がった。
声の主を探して頭を上げるとそこには。
完全に顔も出ていない「
「……え?」
「本音ちゃん!?」
刀奈さんはこの着ぐるみさんと知り合いらしい。ただ、ここまで驚くのには何かあるのだろうか。
「おら一夏、応援が来たぞ」
そう言って玄関から京也が戻ってきた。……この着ぐるみが応援なのか。
「京さん!呼んだのって虚ちゃんじゃなかったんですか!?この子で大丈夫なんですか!?」
刀奈さんがものすごく焦っている。もしかしてこの着ぐるみさんドジっ子とかそういう類の存在なのだろうか。
「まーた仕事放棄してきやがったな鈍刀。虚が軽く悲鳴上げてたぞ。仕方ねーからこいつを呼んだ。だが俺もこいつだけじゃ不安なのは確かだ。だからこいつも呼んだ」
そう言った京也の後ろから人影が出てくる。歳は同じくらいだろうか、その人は刀奈さんと同じ青い髪色で、顔立ちもどこか似ていた。違う点があるとしたら眼鏡をかけているかいないかだろう。
そしてその人からひと言。
「無様だね、お姉ちゃん。何度も簀巻にされて、しかも何度もそれを実の妹に見られて恥ずかしくないの?」
「ぐはっ……簪……ちゃん……」
下にいる刀奈さんが死んだ。
着ぐるみさんが私を持ち上げて寝室へと運ぶ。京也は何故かカメラを回して録画の体制をとっていた。
「あの……いいんですか、あれ?」
「うん~いいのいいの~あれはおじょーさまが悪いから~」
寝室の扉を閉めて、私をベッドに寝かせた着ぐるみさんは一緒に背負っていたらしい完全に同じ色のリュックから一着の着ぐるみパジャマを取り出した。
「本当は仕事があったんだけど~それを「飽きたー!」って言ってお姉ちゃんに丸投げして~きょーさんのところに行ったからね~」
着ぐるみさんが私にパジャマを着せながらゆったりとした雰囲気で言う。というか今、丸投げ宣言を聞いた気がするのだが。
着ぐるみさんは続ける
「それを見つけて申し訳なくなったかんちゃんが~お姉ちゃんの反対を押し切って~仕事を手伝って~そしてきょーさんからの連絡を受けてプッツンして本音ちゃんと来たのでした~」
……それで今扉の向こうで惨劇が広げられているらしい。
『ねえお姉ちゃん?私この前も言ったよね?仕事投げだしたら虚さんに迷惑かかるからやめてねって。それなのにまた投げ出すなんてお姉ちゃんの脳みそはどうなっているの?空っぽなの?』
『ちょ…まっ…ごふっ…お姉ちゃんにも色々っ…あってっ』
『それってほぼ裸の状態で簀巻にされて転がされてバカな張り紙張られて今は妹に上から足蹴にされてること?何?お姉ちゃんってやっぱりマゾなの?ドMなの?』
『それは違う!ていうかマゾじゃないわよ!』
『ふーん……でもお姉ちゃん、顔赤いよ?』
『へっ!?いや…これは…そう!風邪!一夏ちゃんの風邪がうつって』
『それに何か嬉しそうだよ。マ・ゾ・お・ね・え・ちゃ・んっ!』
『んんっ!?そ、そこ蹴らないでぇ……!?』
『ほーらまた赤くなった』
『嫌ぁ…きょうさんも助けてぇ…』
『買い物行ってくるわ。簪、あとは好きにしろ』
『そ…んな…』
『いってらっしゃーい。てことでお姉ちゃん、いっしょにタノしもう?そうそう実は今日は今までの全部録画してるんだ~お家帰ったら一緒に鑑賞会開こうね……じゃあ始めようか。絶望したお姉ちゃんの顔……』
ここまで聞こえたところで着ぐるみさん・・・本音さんに目と耳を塞がれた。これ以上はあかん展開が繰り広げられているらしい。
視界が暗くなり、眠気が襲ってきたので眠ることにした。
その後、目を覚ましたら誰もいなかったので、リビングに行くと、
横になってビクンビクンしている刀奈さん、
その上でご満悦顔の簪さん、
その横でしゃがんで簀巻をつつく本音さん、
そして、厨房に立って鍋を回す京也がいた。
うん、これはひどい。
書いてるうちに浮かんじまった、反省もしてないし後悔もしていない。
感想があれば是非、感想欄へ。私が喜びます。