死神の黙示録   作:夜ノとばり

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ひと月ぶりのストーリーもの。作者読者ともに、楽しめるといいですね……。


#1.親子の確執

 どうも、私は死神です。

 

 人を死に追いやる神。人間に死をもたらす、人外の存在。

 死神。私はそう呼ばれています。そう呼ばれるくらいですので、当然私の仕事は誰かを殺すこと。息の根を止めることです。なんだか物騒な物言いですが。

 しかし、いかに死神といっても、誰彼構わずに殺しまくるわけではありません。当たり前でしょう。私は猟奇的殺人者などではないのですから。

 それが必要な者にのみ、しかるべき時に死という終着点を与える。それが、それだけが、私に課せられた任務なのです。

 ですからくれぐれも、私が死神だからといって、無差別に憎らしく思うことの無いように。一応このように念を押しておきます。

 いや、心配はご無用ですね。生きとし生ける人間は皆いずれ死にます。それは、この世において創造当初から定められていた、唯一の、そして厳然たるルールなのです。

 私は決してそれを早めるようなことは致しませんし、遅らせることも致しません。

 ある時が来れば生まれ、またある時が来れば死ぬ。運命のように人間を取り巻くその法則を、私はただ、遂行するのみ。

 

 

 

 

 私はとある大都市の繁華街を進んでいます。

 歩いているのではありません。進んでいます。空中を。

 数メートル前方、私から見ると下方を、不良高校生みたいな人達が六人、一(かたまり)になって歩いています。

 道行く人々にことごとくガンを飛ばしています。(がら)が悪いですね。

 五人は金髪、あとの一人は髪を紫に染め上げており、明らかに不良です。しかしメンバー全員がギターやらベースやらを背負っているので、ビジュアル系バンドのライブの帰りのように見えなくもないですね。

 そういった雰囲気を、素行の悪さが台無しにしている、といった状態です。

 どうやらリーダーと思われる、エレキギターを担ぐこの紫髪の青年が、今回の私のターゲットです。

 ……おっと。この子を殺すわけではありませんよ。

 今日亡くなる予定なのは――予定といってもほぼ百パーセント決定事項ですが――今井(いまい)忠義(ただよし)さん。グループの先頭を切って通行人を威嚇(いかく)する、この紫髪の少年の父親に当たります。

 

 

 

 一人であろうと、人間の死は、周りの人間のその後の人生に多大な影響を及ぼします。

 ドラゴンボールでは、クリリンの死がきっかけとなって、悟空が覚醒しますよね。それと同じです。

 特に、自分と近しい人物が亡くなったとなれば、それは残された彼もしくは彼女にとって、人生の分岐点ともなり得ます。

 想像してみてください。自分の近親者、親友、恋人が、あまりにも突然、死んでしまったとしたら。

 その(すさ)まじい悔恨たるや、考えただけでぞっとします。

 なぜ、思いを伝えられなかったのか。

 なぜ、日頃の感謝を、伝えられなかったのか。

 なぜ、たった一言が、言えなかったのか。

 ずっと今日まで言いにくさを理由に保留にしてきたことを、あなたは後悔するはずです。

 そこには、歯を食いしばって乗り越えていく人がいるでしょう。耐え切れずに涙を流す人がいるでしょう。泣き叫ぶ人だっているでしょう。

 そうやって悲しみに暮れて、その、揺れ動いた跡の残る心の中から、人は何かを学んでいくのです。

 

 今日、そのような運命に直面するのが、あの、自分以外の人間など恐るるに足らないといった表情を浮かべる、紫髪の少年なのです。

 

 

 

 今井(いまい)(まさる)さん。いい名前ですね。

 彼は高校を卒業後、アルバイトをしながら、おふざけのようなバンド活動に(いそし)しんでいました。

 おふざけ、というのはあくまでも、父である忠義さんの主観です。偏見です。

 彼は作詞作曲などもしていたようですから、何も知らない忠義さんが、一概にそれがいい加減なものであると断定することは不可能です。いくら親子、上司、国王であっても、本来それは何事にも通用するはずなのですが……。

 偏見にまみれてこその人間、ということです。忠義さんは息子の言うことに耳を貸しません。それどころか、勉強もせず親に養ってもらっているお前のような奴は、人間の(くず)だと言って捨てました。

 親子関係、断絶の瞬間です。それきり、勝君は、忠義さんと口も利かなくなりました。家に帰ってくる時間も遅くなっていきました。こうなってしまうと、親としても手出しのしようがありません。

 親子の絆という最後の伝達手段を失った(またはそう思い込んだ)、忠義さんの胸中はお察しします。

 忠義さんとしては、息子には大学に入ってもらい、学問に励んでもらい、後々は自分の会社を継がせたかった。

 それだけなのです。

 勝君の方でもそれは同じでしょう。

 ただ、自由に音楽がやりたかった。楽しみたかった。そして将来は、歌手になりたかった。

 勝君は、おぼろげながらも自分の意思を持ってエレキギターをかき鳴らしていたようです。忠義さんは、単純に知りませんでした。

 忠義さんにとって、息子にここまで強く歯向かわれたのは初めてのこと。

 どこで育て方を間違えたのか、と忠義さんは考えました。そっちかい、とずっこける私です。

 やがて、反抗期などという単純な言葉で済ますことはできないと、忠義さんはやっと、気づき始めたのです。

 

 

 画期的な、息子を理解するための第一歩かと、思われました。

 が、そこには、全てを終結させる魔の手が着々と、忍び寄っていたのです。

 小説的にはよくある展開と思われがちですが、その事実に直面した本人たちの苦悩はそれこそ計り知れません。

 膵臓癌(すいぞうがん)でした。忠義さんは緊急入院を余儀なくされましたが、もう手遅れなほどに病状は進行していました。

 医者から告げられた余命は半年。

 これにはさすがの勝君も衝撃を受けたようで、その日から数日間、自分の部屋へ引きこもっていました。

 しかし出てきたものならこの有様。

 バンド仲間とつるんでは繁華街を練り歩き、路上ライブをあちこちで開催するという、それまでの放蕩(ほうとう)生活(忠義さん視点)に戻っていました。完全に原始時代への回帰を見せています。

 直近の一か月は、家に帰ることことさえ少なくなっていました。家に帰っても忠義さんはいないのですけれどね。

 しかも勝君のこの行動、特に何か特別な意味はないのです。引きこもって何日も悶々と考えていた反動ではないかと推測されます。

 ここは、忠義さんにとっては辛いところと言えそうです。

 いくら心境に変化を生じても、行動が変わらなければ意味がない。そんな忠義さんの心情を知ってか知らずか、前と変わらず忠義さん的に全く未開拓の領域へ足を踏み入れていく息子。

 裏切られた、と忠義さんは思いました。

 妻である康江さんの前であれほど激しい怒りを見せたのは、長い結婚生活の中でも初めてだったようです。

 人間心理とは恐ろしいもので、特に昔の人間ほど、仁義や世間体を気にする傾向が強いです。必然的に、それを裏切られた時の怒りもまた、尋常ではありません。

 悔しさのあまり血涙を流し、二度とあんなやつとは会うものか、と意固地の姿勢を固めました。

 

 

 

 

 断罪の時が迫っています。

 何だか無情な話のようですが、こればかりはどうにもならないというのが現状です。

 ルールは破れません。人間に永遠はないのです。

 何よりまず、これ以上は、忠義さんの肉体が持たないのです。

 

 

 人間の肉体は、()ち果てるように作られています。

 もう少し適切な言い方をしましょうか。

 この世に生を受けたその瞬間から、人間は死に向かって歩き始めるのです。

 酸素を吸って二酸化炭素を吐けば、人間は朽ちていきます。避けられないのです。

 そしてそれは決して神による嫌がらせなどではありません。

 目的は、生きるべくして生まれ、死ぬべくして死んでいく、人という魂の成長を促すことにあります。

 要するに、青春漫画です。

 出会い、衝突し、歯を食いしばり、励まし合い、別れる頃には、一回り大きくなった自分がいる。

 煩雑(はんざつ)な人生の中でそういう経験をするべく(野球限定ではありませんけど)、我々は生まれてきました。

 何度も生まれ変わり、多種多様な人生を歩んできました。

 ある時は、貴族の家に生まれた女王様。

 またある時は、平穏を求めてさまよう冒険家。

 さらにまたある時は、罪もなく路上に暮らすホームレス。

 などなど。

 こうやって考えてみると、少しは気持ちが楽になりませんか。

 戦争孤児だって、虐待死させられたって、それで終わりの人生ではないのです。

 また、次がある。

 最近よく耳に入る、虐待死させた親などは、現世はどうにか乗り切ったとしても、次の人生で何らかの罰を受けるのです。

 訳も分からずに(前世の記憶を持っている人はほとんどいませんので)、苦しい人生を生きていくのです。

 神による救いなんて、あるわけがありません。もちろん信じるか信じないかはあなた次第なのですけれど。

 全ては自業自得です。有りもしない罪をかぶることなんて、ないのです。

 

 

 そろそろ勝君のスマートフォンに、忠義さんの容体悪化を伝える電話がかかるはずです。

 つい先程、忠義さんの入院する病院へ探りを入れてきましたので。本文には書きませんでしたが。

 

 

 それまでの間、少しだけ自己紹介をさせてください。

 

 今現在、私は死神です。

 しかしその前は人間でした。

 文字通り、何度となく転生を繰り返してきました。

 罪を犯しては償い、傷つけては傷つけられ、終わらせてはまた始まるという過程を幾度となく歩み、失敗しては悔やみ、やり直し、希望絶望の入り混じる人生を経て、いつしかここへやってきました。

 もうあまり覚えていないことも多いですが、人間界で学んだことは全て、私の胸に、そして魂に刻み込まれています。

 不幸で壮絶で、平凡で幸せな日々だったと、今になって思います。

 あの頃は、自分なりに必死に人生を送っていました。

 反抗したり、ひねくれたり、ぐれたり。攻撃して、反撃を食らって切れては、罪を犯しました。

 そして犯した罪の分だけ自分に罰を与え、悩み、苦しみました。

 自分で自分に罰を与えるのですから、世話はありません。神罰などと言いますがあれは思い込みです。自分でも気づかないうちに自分自身が、心理学的に言えば深層意識が、自分のしたことに応じて自身を痛めつけるのです。

 そのうち、誰かに教えられ、拒絶してはその師を憎み、それでも、いつしか心を開き、大切なことを学んでいきました。ここは後ででおいおい話していくとしましょう。

 そうした学びを先日やっと終えた私は、死神としてしばらくこの世を見て回ることに決めました。

 これまで自分の生きてきた世界を、今度は傍観者の立場で過ごしてみたいと思ったのです。

 楽しそうではありませんか。

 自分が生きていた頃を見つめなおすのです。

 経験則でものを言いますが、人間とは愚かで懸命で賢明で素晴らしいものです。少しずつですが着実に成長していく姿は、何物にも表現しがたい充実感があります。

 私は今この世を生きている人間たち、具体的に言うならあなたたちが大好きです。

 何の告白か、とお思いでしょうが、これはまさに私の本音なのです。これで世界中で誰からも愛されていない人なんていませんよね。

 

 

 言い忘れていましたが、私は、普通の人間には見ることができません。

 私が実体が無い、魂だけの存在だからです。

 この世界で魂と肉体を持つのは人間だけ。私は先日人間をやめましたので肉体はありません。

 ここでいう魂とは、人間の持つ心と体、その心の側だと思っていただければ良いと思います。

 動物は実体を持つ代わりに魂がありません。私の生きてきた()()は、元より人間のための世界なのです。地球も、宇宙も。

 主役は人間。そうそこのあなたです。

 にもかかわらず人間の営みは、この地球を着々と汚染し続けています。……いやあ、なんとも言えませんね、今のところは。そのうち解決してくれる人が現れるのでしょう。

 ……と、いうことで。知らないうちに話が横道にそれていました。修正します。

 私には実体がありません。形が無いのです。……しかしそれでは読者の皆さんが想像に困りますよね。

 ということで、私のことはどのような姿で想像していただいても結構です。

 というのもあれなので、これより私のことは「穏やかな清楚系の女性」だと思ってください。

 着ている服は、そうですね……。……黒い着物ということにしましょう。そのほうが死神らしくもありますし。趣味かと聞かれれば否定はしませんが、前世では男女ともにバッチリ経験済みなので、この服装にあまり深い意味はないのです。

 

 ピリリ……!

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 勝君のスマートフォンが鳴りました。なんとデフォルト音です。

 間違いありません(無根拠)、病院からの電話です。

 気だるくスマートフォンを取り出し、不機嫌な声で電話に出る勝君。

 受話器の向こうで焦る女性の声に、(すさ)んだ目を見開く彼。

 最後まで話を聞かずに電話を切り、地面を蹴って走り出しました。

「どうしたんだよ」

「……急用が入った!」

 そう言い残して彼は人ごみの中に消えていきました。取り残された仲間はぽかんとして、彼のいなくなった方向を見つめます。彼らの上空にいる私には両方がよく見えていますが。

「くそっ……マジかよ……!」

 悪態をつきながら、可能な限りの全力疾走。背中に背負ったギターを確かめながら。

 さあ、ここからがクライマックス(不謹慎)です。

 追いかけましょう。

 彼の成長(予定)を、見届けに行きましょう。




人間なんて矛盾ばかりですよね。
合理的に考えれば有り得ない行動を無意識にどんどんやってのけてしまう。
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