・この作品はスパイク・チュンソフト社の作品「ダンガンロンパ」シリーズの、オリジナルキャラクターを使った二次創作です。
モノクマ以外の登場人物は(おそらく)登場しません。
・「ダンガンロンパ」シリーズのネタバレと作者の自己解釈(ゲーム・アニメ共に)が含まれる場合があります。
・17歳以上を対象とした人を選ぶ描写、残虐描写が含まれています。
・文章、トリック、ストーリー共に素人のものです。大目に見てやってください。
以上のことをご理解できる方のみ、お読みください。
では、どうぞ。
…眠れずに、ベッドで横になっているうちに、時針は7時を指した。
過去の失われた記憶と背中の傷がきになるが、それでもお腹は空く。
ベッドから立ち上がり、いつもの服に着替え、レストランへ向かうことにした。
◆
ジャズが流れるレストラン。4つのテーブルにはクリームを添えたフレンチトーストとレモンの輪切りの入った紅茶が14人分並んでいる。
わたしは未隅くんと雨崎さんの隣に座ることにした。
「なんてことだ、野菜がないじゃないか!このままではビタミンが不足して病気になるぞ!」
「ビタミンCなら紅茶の中のレモンがあるからいいんじゃないの?確かに野菜不足は気になるけどさ」
未隅くんは栄養の偏りに文句を言って、その横では雨崎さんが器用にフレンチトーストをクリームにつけて食べている。
いつも一緒にいる二人だけど、馴れ初めが気になる。ということで…ちょっと質問することにしてみた。
「そういえば…雨崎さんと未隅くん、どうして付き合い始めたのかな?」
「い、いきなりどうしたんだ…?」
「別にいいでしょ、鈴原ちゃんになら。話しても減るもんじゃないし」
雨崎さんがフォークとナイフを置き、未隅くんに告げる。
「じゃあ、僕が話せる範囲で言うよ、絶対に誰にも話さないでくれるかな?」
「わかった。誰にも言わないよ」
未隅くんは一息つき、話を始めた。
「あれは僕がとある事情で塞翁ヶ馬学園の前の高校に転校してきた時だった。
僕はラグビー部に入部したんだけど、新入部員だったから雑用を手伝わされてたんだ。ドリンクを作ったり、ボールを運ぶ用意をしたりね。
仕方ないと受け入れる反面、自分が情けなかったよ。ボールに触りたいだけなのになんでこんなことばかりってね。
ある日、先輩から部室を掃除しろと言われてね。用具を取りに行こうと校内を歩いててね。
箒とチリトリを教室のロッカーから取り出して、さあ部室に向かおうとしてた所…廊下で女の子に出会ったんだ。
女の子はチアリーディング部の子でね、練習が休みだったらしくちょうど帰ろうとしてた。
『どうして箒を持ってるの?』と言われたから部室を掃除しようと思ってたんだと答えたら、手伝うよと言われて…最初は別にいいよと断ったけれど『二人でやった方が早く終わる、余った時間で練習すればいい』と返してきた。
部室の掃除はすぐに終わった。感謝の気持ちを伝えて、僕は女の子に別れを告げた。
数日後、一人でボールを磨いていた時。前と同じ女の子がやってきて、雑用を手伝ってくれた。
磨き終わった後『SNSのアカウントフォローしていい?』って言われて、僕はフィーチャーフォンしか持っていなかったからメールアドレスを教えた。
最初はたまにメールを交換し合ったり、雑用を一緒にやるだけだった。でも、僕は女の子のことがだんだん気になってきたんだ。
それから4ヶ月後のある日。『あたしと付き合いませんか?』と言うメールが来た。
正直嬉しくて涙が出てきたよ。久々に流す涙だった。
返信はもちろんOKって返したね。こうして、僕と女の子は付き合うことになった。その女の子が、今、隣にいる梨々さ」
「ミーくん、話長い…そこまで話さなくていいのに…まさかこんなことまで話すとは思わなかったよー!まああたしも悪いんだけどさぁ!」
「す、すまない!話すぎたね」
雨崎さんが赤くなった顔を覆っている。いつもの大胆な様子からは想像もつかない。
「鈴原ちゃん!あたしとミー君まだ手を繋ぐまでしかやってないんだよ!あたしがキスしようとしたらミー君早いって怒るんだよー!」
ヒートアップしたのか、怒りだす雨崎さん。
…いつか、キスもできたらいいね。
隣のテーブルでは、湖林くんがナイフのみでフレンチトーストを優雅に食べていた。その隣の席には、灰寺くんと、梅田くん、そして二階堂さんが座っている。
「灰寺。まさか森蘭丸の記憶もないとはな。信長に仕えた小姓でもあり、忠誠心が高く気の利いた美少年でもあったのじゃが…」
…森蘭丸?織田信長に仕えたって言う、あの…?
「僕は織田信長はともかく、森蘭丸は知らへん。社会の成績は2くらいだったし…」
「じゃあ、武田信玄や石田三成は誰だか知ってるんか?」
「名前だけなら聞いたことあるけど…確か物凄くイケメンなことしか知らへんなあ」
湖林くんは驚きのあまり目を丸くする。
「マリア・テレジアやフリードリヒ2世とかは…知っているのか?」
「そういや、戦国時代の人だけじゃなくてヨーロッパの昔の人って…みんなビーム放っとったんよね?ゲームで知ってる」
隣で紅茶を飲んでいた梅田くんが噴き出す。
「い、いきなり世界史になってるぞー!?」
「安心しな。数学の証明問題なんてのは社会人になったら多分ほとんど使わねえからな!」
レモンをかじりながら得意げに言う二階堂さん。
いや、知っておいた方がいいんじゃないか…?わたしも苦手だけど…
こうして、平和な朝食の時間は過ぎていく。
わたし自身とわたしたちが、監禁されていると忘れそうなくらいに…
◆
朝食を終えた後、第一エリアの洋館へと向かった。
洋館の中は、惨劇が起こったとは思えないほど綺麗に整えられていた。
一瞬、イヴァンくんとバニラさんのことが脳裏に浮かぶ。
もうあんな悲惨な事件は起こしたくない。そのためには、希望を捨てないようにしよう。
わたしは手と手を合わせ、二人の冥福を祈った。
◆
【自由行動】
丸いテーブルと鼈甲のシャンデリアの似合う喫茶店・アザミ。
梅田くんは椅子に座りがながら、『後光殺人事件』と表紙に書かれた本を読んでいる。
「おっ、鈴原じゃん。これが気になってるのかー?小栗虫太郎って推理小説家の書いた短編なんだよなー」
この事態に推理小説を読めるんだな…そんな梅田くんと一緒に過ごせるかな?
梅田くんのオススメの小説を読みながら過ごした。梅田くんと仲良くなったようだ…。
男の子だからロボットが好きかなと思い、『超合金イラナイロボ』をプレゼントした。
「こう言うの好みなんだよなー!部屋に飾ろうかなー、ありがとうなー!」
結構嬉しいみたいだ。良かった!
「うーん…」
梅田くんは、あたりを懸命に見回している。何かを探しているようだ…。
「梅田くん、ちょっといいかな。何か探しているのかな?」
「そうなんだよなー。『スプリンターマン』って特撮番組のノベライズなんだけどさー。どこにも見当たらないんだよなー。
このエリアに落としたはずなんだけどなー」
「えーと、『スプリンターマン』って何なんだ?」
「『スプリンターマン』知らないのか?まあ35年前のやつだから仕方ないか。
どんな敵でも30秒で倒してしまう正義のヒーローでさ、スタイリッシュな演出が魅力なんだけど世に出るのが早過ぎたのか当時は受けなかったんだよなー」
…時代を先取りし過ぎたってやつか…
「でも最近再評価されてきてさー、ノベライズが出たんだよなー。お土産屋にあったから折角読もうと思ってたんだけどなー」
「そうか…ところで、表紙の特徴とか知らない?」
「青と赤と白のトリコロールが特徴のヒーローだなー。そいつがピンク髪のヒロインを抱っこしてるんだよなー」
トリコロールなヒーロー…まるで某ロボアニメみたいだ…
「わかった、一緒に探そう。ここに来るまでの道を思い出せばきっと見つかるはずだよ」
と言うことで、二人でエリア内を探すことにした。
梅田くんが来た道を辿って、様々な場所を隅々まで見て…
ようやく、わたしがベンチの近くに落ちていた『スプリンターマン』の本を見つけた。
「やったぜー!まさかこんな所に置いてるなんて…うわっ!?」
…梅田くんは、何もないところで派手に転び…倒れてしまった。
「いたたたた…」
うつ伏せ状態の梅田くんを起こそうとする。
「大丈夫か?すごく痛そうだけど…絆創膏貸そうか?」
「いや、大丈夫だなー。意外なことにけがはないみたいだし。10mの崖から落ちたこともあるしなー」
「10m!?命に別状はなかったのか!?」
「その時は足の骨折で済んだけど入院したなー。と言うか10mはプールの高い飛び込み台の高さだからなー
それにしても…『スプリンターマン』に傷とか汚れとかなくて良かったなー」
…梅田くんは本を手に取り、大いに喜んでいる。彼は不幸体質みたいだけど、とてもポジティブだ。
わたしも見習いたいと思った。
こうして元の場所に戻り、梅田くんと一緒に本を読み漁った。
この時間で、梅田くんのことがわかった気がする…。
『本をよく無くしたり、何もないところで転んだりする不幸体質。それでも憧れの特撮ヒーローのように懸命に生きるポジティブな性格をしている。』
梅田くんと別れ、次の目的地へ向かうことにした。
◆
【自由行動2】
様々なアーケードゲームが置いてあるゲームセンター。
メダルゲーム機の前に座っているのは…湖林くんだ。
「チッ…折角景品が取れそうなんじゃがな…おい鈴原、攻略法は知っているか?」
攻略法は知らないけど、一緒に過ごしてもいいかな?
湖林くんのメダルゲームを手伝った。
湖林くんとの仲が深まったみたいだ。謀反はしないようにしよう…
折角なので『塞翁ヶ馬学園のバングル』をプレゼントすることにした。
「ほう。中々の逸品じゃ。貴様、オレの家臣にならんか?いや、冗談じゃ。本気にしなくてもいい」
良かった、結構嬉しいらしい。
湖林くんは、鋭いオーラを放ちながら佇んでいる。
話しかけても怒られないかな…?
「…そういやさ…前世の記憶はどれくらい持ってるんだ?」
湖林くんはこっちの方向を向き、こう告げた。
「教えてやろう。幼少期は信長の記憶を持っていなかった。じゃが、徐々に記憶を取り戻していった、それだけじゃ。
あと、オレは信長の生まれ変わりなどではない。本物の信長じゃ…!」
わたしを睨みつけてくる湖林くん。少しビビってしまいそうだ…
「す、すみません…」
でも人が死ぬ前にタイムスリップして、赤ちゃんに戻るとかありえるのかなぁ…?
「…信長が本能寺の変で寺に火を付けて、自殺したのは有名だよね…その時はどうだったんだ?」
「裏切られたことへの怒りと悔しさで一杯じゃったのう。実はその時のショックが由来なのか、小学生の頃不良にタバコを押し付けられたのかは知らんが…オレは火を恐れているらしい」
今、辛い過去をさらっと話さなかったか…?火を恐れている『らしい』と言ったけど、自分の弱さを認めたがらないとか?
「ところで、湖林くんってさ、『超高校級の歴史学者』だったよね…初めて会った時に歴史人物の遺産を見つけたって言ってたけど、何を見つけたんだ?」
「貴様にしては中々面白い質問じゃのう。オレが見つけたのは…あやつの遺産じゃ。先ほど貴様が言った、本能寺の変にも関連する人物…」
「…明智光秀だよね?」
「正解じゃ!とある古文書を読み解き、光秀の遺産が眠っている場所を見事に見つけたのじゃよ。使っていた茶器、詠みあげた連歌…光秀はかなりの文化人じゃった。発見された時は、同じ歴史学者たちに高く評価されたのう」
「光秀、結構多趣味なんだね」この様子を見るに結構嬉しかったみたいだ…
「それに加え光秀は優秀な武将でだった。今や実在していないと言われている長篠の戦いの三段撃ちを提案したのは…光秀と言われておる。それと、側室を持たぬ一途な人間じゃったのう」
そうなんだ…光秀、裏切りのイメージが強いからなあ…
「湖林くんは…光秀に裏切られたこと、気にしてないのか?」
「光秀の裏切りは今でも許すことは出来ぬ。じゃが、裏切ったからと言ってそいつの全てを否定する気はない。
全てを否定するということは、その人間を信じてきた今までの自分を否定することでもあるからのう」
裏切られても否定しないなんて、情には厚い方なのかな…
「ところで、光秀が裏切った理由…湖林くんにはわかるかな?」
そういや、謎だったよな…
「今のところはオレにもわからんのう」
…わからないんだ。やっぱり…
「じゃが、その歴史の真実を解き明かすのがオレの役目じゃからのう。ここから出て、必ず謎を解き明かしてみせてやろう」
光秀を嫌っていないんだな…少しだけ、湖林くんの印象が変わった気がする…
『短気で俺様、だが情には厚い自称・織田信長本人。明智光秀の遺産を見つけたりした功績ある歴史学者でもある。』
湖林くんと別れ、部屋に戻ることにした。
◆
この日の夕食は肉じゃが定食だった。普通なら副菜のはずの肉じゃががメインとなっており、小さなシャケの焼き魚は脇役のようにお皿の上に置かれている。
相変わらずがっつく灰寺くん、本を横に置いて食べる紅葉さん、優雅にジャガイモを口に入れる蒲生くん…
檀くんは誘われたのか、雨崎さんや未隅くんの隣の席で食べている。尤も、黙々と食べている様子だが。
わたしはというと、二階堂さんと灰寺くんと一緒の席で食べていた。空いている席にも肉じゃが定食は置かれている。
料理の味付けは薄い方だ。こうやって健康に気遣っているのも、わたしたちにコロシアイをさせるためなのかな…と勘ぐってしまう。
そういえば、空席に座っているはずの藍葉さんの姿がない。一体何をしているのかな?
「二階堂さん、藍葉さんはどこにいるんだ?」
「んー。キッチンにこもってるらしいな。カラフラに頼んで借りてるんだってさ。入ろうとしたら追い出されたよ。
『超高校級の科学者』だし、何か実験でもしてるのかな。アンパンとかクリスタルとかは流石になさそうだけど」
「お、アンパンを作ってるんか?美味そうやなぁ!」灰寺くんは目を輝かせる。
「いや、アンパンはアンパンでも毒以上に危険なやつだよ。一度やったら廃人になって…」
「え、ダメなんか!?昼ごはんにたくさん食べるんやけど!これじゃあ僕廃人になっちゃうなぁ!」
何気ない話をしていく中、静かに時間が進んでいく。
わたしが焼き魚を食べている途中、ガスマスクを付けた藍葉さんがキッチンのドアから出てきた。相変わらずカバンは膨れ上がっている。
「藍葉嬢、お疲れ様です。何を作られたのですか?」蒲生くんが何を作ったか聞く。
「ごめんねぇ。いつか、教えるから…」
藍葉さんはガスマスクを外すとカバンに仕舞い、食事の置かれた空席に座った。
あのカバンには一体どれくらい入るんだろうか…?
全員が食べ終わり、食器を片付けようとした時…。
その放送は、平穏の終わりを告げた。
「えー、園内放送。園内放送です!ところで肉じゃがにグリーンピースは不要だよね。ここは豪華にブロッコリーにしろって。
せっかくビーフシチューがルーツなんだから薄い肉じゃなくて厚い肉入れるべきだよね。
ま、オマエラの食べている肉じゃがはグリーンピース入りの薄い肉を使ったものなんですけどね!」
…モノクマの声だった。
一体、何を言いたいんだ…?
「という訳で、今から二つ目の動機を発表しようと思います!オマエラ、死にたくないないのなら第1エリアのステージに集合してください!」
動機?また、殺人を引き起こしたモノが発表されるのか…?
「モノクマ、死にたくないのならステージに行けって言ってたよね…だから、行くしかないよ。みんなが生きるためには…」
絹川くんが立ち上がり、皆に言う。
わたしたちは、とりあえずステージへ向かうことにした。
◆
ステージの演台には相変わらず大きな液晶テレビと、大きなダンボールが置かれていた。
モノクマも、相変わらず演台の右端で退屈そうに座っている。
「また動機か?いい加減にしてくれる?」
檀くんが挑発的な目線を向ける。しかし、モノクマは聞く耳を持たないのかリモコンを持ちながら…
「みんな集まったみたいだね!じゃ、面倒だからさっさと始めようか!じゃなかった、ちゃちゃっと終わらせようか!」
モノクマがリモコンのボタンを押すと、液晶テレビに『カラ☆フラTV』のロゴが出現し…
「平和ボケしてるあいつにも闘争ボケしてるあの子にも大人気!嘲りと空虚の動機テレビジョン・カラ☆フラTVが始まるのだ♪」
ロゴが画面から消え、法廷風のセットと美少女姿のカラフラが映し出される。
…彼女はこの前のような制服姿ではなく、ベージュ色のスーツとミニスカート、そしてメガネを付けて、陳述台の上に座っていた。
「アナタラー、ろんぱんわー!いつも今度も美少女スタイル!ただしゆるキャラには除外!
天気予報は雨が降る!女教師スタイル・カラフラなのだー!」
…なぜ、今回は女教師風なのだろうか?
「陳述台に座る法廷映画なんて見たことないわね。検事が頭打ち付けたり鞭を振り回したりする世界観でない限り流石にマナー違反よ」
黒木さんも流石に引いているようである。
「女教師といえば生徒とのアブナイ関係なのだ!放課後の保健室でドキドキの課外授業!根掘り葉掘り教えまくりでチョークもカチカチなのだ♪」
「流石に下ネタが過ぎるなー…と言うか、日本語間違ってるなー…」
「あら、梅田くんツッコミが激しいのだ〜!こうなったらウサミミ付ければ良かったのだ。
いや、最近流行りのイヌミミが良かったかな?まあお花だからそんなの関係ねえ!なのだ!
と言う訳で、今日も楽しく動機発表と行くのだ」
カラフラは一回転し…懐から一冊の薄いB6サイズの本を取り出した。表紙をよく見ると、40年前ほどの少女漫画風のカラフラの絵が描かれてある。
表紙の上には『漫画でわかる真実』…し、真実?
「今回の動機は…ジャジャーン!アナタラの知りたい真実を漫画で大発表!
初恋の相手の秘密から父親の愛人まで書かれた神漫画なのだ!
と言う訳でモノクマ、どんどん配っちゃってー!」
「しょうがないなぁ…面倒だからオマエラに投げるね!」
モノクマはダンボールからビニールで梱包された薄い漫画本を取り出し、ばら撒いて行く。
わたしは本を拾う。表紙はカラフラが持っているものと同じだった。
早速ビニールを破ろうとすると…
「あ、鈴原さんもだけどアナタラ、必ず部屋で読むのだ。バレたらつまんないしね!」
思わず手が止まる。カラフラは漫画本を懐に仕舞い直し、腕を組む。
「自分の秘密が知りたいって言うのなら交換相手を探すか3日後を待つのだ。ま、3日経ったら全部真実をインターネットに公開しちゃうのだけどね!」
「それまでにコロシアイを起こせばネットには公開されないから安心してね!ぶひゃひゃひゃ!」
モノクマは下品に笑いながら、残りの漫画本をばら撒く。
そんな残酷な動機に抗議したのは…一ノ瀬さんだった。
「い、嫌ですわ!コロシアイだなんて…か弱い私には向いていませんわ…!こんなコロシアイとやらは…いつまで続くのですの!?」
画面の中のカラフラは、一ノ瀬さんの悲痛な叫びを聞いたのか、一回転しまた懐から本を出す。
今度は辞書のような厚さの本だった。
カラフラは本を広る。そこには、残酷な事実が書いてあった。
『新校則:コロシアイ遠足は、生徒が二人になるまで続けられます。』
「あ、新しい校則…?」
「あたしたち、結局コロシアイを続けなきゃだめなの!?」
「その通りだよ!じゃあ早速追加しておくからみんな電子生徒手帳を見てね!」
ポケットから、電子生徒手帳を取り出すと…新しい校則が書いてあった。
⑫コロシアイ遠足は、生徒が二人になるまで続けられます。
⑬なお、校則は追加されることがあります。
「オマエラさあ…出たい出たいって言うけれどリスクは考慮してないんだね。昨日もこの世界はすっかり変わったって言ったじゃん!もし外の世界に出た瞬間に反乱組織から狙われて殺される…ってなったらどうするのさ!
いいか!何かをやりたいとかそう言うのには責任がつきものなんだぞ!」
「ってことでこれからも頑張って欲しいのだ。ばいろんぱー!」
「…いやー、どうして理事長ごときがあんなに目立つんだろうね!うぷぷ…」
カラフラはスクリーンから消え、モノクマはどこかへと去っていった。
わたしたちは、絶望と共にステージ広場に取り残された。
「畜生…またあんなことしなきゃならねえのかよ…」
二階堂さんが視線を下に向けながら呟く。わたしも気持ちは同じだ。
「大丈夫。今のところ、二つ目の事件は起きてないよ。だから、これからも事件は起きないんじゃないかな」
「けどよ、ネットに真実が流出するのを恐れた奴が人を殺す可能性もあるんだぞー?その真実ってやつが大変なものだとしたらどうするんだー?」
冷静な絹川くんに梅田くんが語りかける。
「人が死ぬのは、何よりも悲しいと思う」
絹川くんは、寂しげな声で囁いた。
◆
部屋に戻る。ビニールを破き、6ページしかないであろう漫画本を取り出す。
少女漫画風のカラフラは星のように瞳を輝かせながら、沢山のバラに囲まれている。
わたしは覚悟を決め表紙を捲る。1ページ目には、可愛らしい文字でこう書かれてあった。
『漫画でわかる一ノ瀬秋穂の真実』
…ページをまた捲る。
『一ノ瀬旅館は今年で300年を迎える高級温泉宿。
初代オーナーである一ノ瀬銀杏によって建立され、豪勢な食事とサービスによってその歴史を紡いできました』
『著名な武士や文豪、総理大臣も宿泊し、そのおもてなしは好評だったと言われています』
『戦時中には空襲により建物が全焼しましたが、様々な人々の支援もあって不死鳥のごとく蘇ったとされています』
『誰をも癒す一ノ瀬旅館…これからも皆さんにおもてなしを届けていくでしょう』
『そんな一ノ瀬旅館のランチの新メニューは…有名スイーツ店監修のモンブランなのです!』
…ページの最後には、四角いコマに書かれた文章とリアルで美味しそうなモンブランのイラストが描かれていた。
思わず、ページを閉じる。
なんでモンブランなんだろう。本当にこんなものでコロシアイが起きるのか?
でも、もしかしたら…別の本の真実はとんでもないことが書かれているとか?